« きょうはずっとストーンズばかり聴いている | トップページ | パトリシア・ブレナン『Maquishti』の再生回数が少なすぎる »

2021/08/27

熱心なマイルズ・ファンというのは、どこにでもいるもんだ

2014011400020_1

(5 min read)

 

Miles Davis - Complete Thursday Miles At Fillmore

https://www.youtube.com/watch?v=mPYjK7XVNUE&lc=Ugx0PkjGJBIR058SXMt4AaABAg.9Mc8gWCtPGZ9Mcp_jx2kiu

 

YouTubeにたくさんあげているマイルズ・デイヴィス関係のブートレグ音源。公式発売されていないものはこうやってみなさんとシェアするしかないのですが、たくさんコメントがついてにぎわっていて、うれしいかぎりです。

 

音楽の内容については、どんな感想を持とうと、どう感じようと、各人それぞれなのでどうとも思いません。音源にまつわる個人的な思い出話みたいなものを語ってくださるのも楽しく読んでいます。

 

しかし客観的事実関係にかんして、「これはこうだ!」と断定してあって、しかもそれが事実誤認なんじゃないかと思えるときは、やっぱり訂正しておいたほうがいいのかなと思うこともあるんですよね。

 

そういったことが以前からたまにあるんですが、こないだもですね、上でリンクした「コンプリート・サーズデイ・マイルズ・アット・フィルモア」にそんなコメントがつきました。これの10:00〜12:00は「ファラオズ・ダンス」であると断言する(英語の)かたが出現したのです。

 

いやいや、そんなことはないでしょうと。そこは1曲目「ディレクションズ」の終盤部で、バンドも例のリフというかベース・ヴァンプを反復しているし、それに乗ってボスもトランペットで「ディレクションズ」のテーマ・メロディを吹いているパートじゃないですか。

 

とコメントを返したら、いやいや、わたしは「ファラオズ・ダンス」が大好きで大好きで、もう何千回もくりかえし聴いている、だから一聴で速攻わかりましたよとおっしゃるんです。で、念のためと思い、『ビッチズ・ブルー』1曲目の「ファラオズ・ダンス」をじっくりと聴きなおしてみました。ぼくもこの曲、ファンですけどね。

 

そうしたら、やっぱり案の定みつかりませんよ。いったいどこが、「コンプリート・サーズデイ・マイルズ・アット・フィルモア」の10:00〜12:00のどこらへんが、「ファラオズ・ダンス」だというのでしょう?

 

そのかたは、時間があるときにどこがどうそうなのか、一度聴きかえして具体的に指摘してあげるっていうんで、じゃあお願いします、ぼくはわからなかったから、とコメントを返してから、もうずっとまったく音沙汰なし。そんなに忙しいかたなのでしょうか。やっぱり間違っていたと気がついてケツまくったのでは?という可能性もありますよね。

 

「コンプリート・サーズデイ・マイルズ・アット・フィルモア」の音源は上でリンクしておきましたので、この話に興味がおありのみなさんはちょっと覗いてみてください。1970年7月の水曜日から土曜日、四日連続でフィルモア・イーストにマイルズ・バンドが出演した際の木曜日分ノー・カット・フル音源です。

 

念のため、「ファラオズ・ダンス」はこちら↓
https://www.youtube.com/watch?v=05leipH58jM

 

そして、「コンプリート・サーズデイ・マイルズ・アット・フィルモア」の1曲目になっている曲「ディレクションズ」(ジョー・ザヴィヌル作)のマイルズによるオリジナル・スタジオ録音↓
https://www.youtube.com/watch?v=GOGX6XF6bpg

 

なお、「ディレクションズ」には明快なテーマ演奏が冒頭にありますが、「ファラオズ・ダンス」にはそれがありません。冒頭からずっとインプロヴィゼイションで曲が進行し、そのなかに各人のソロもちりばめられています。唯一、16:38〜から演奏終了にかけて、マイルズが(ノリを変えながら)八回反復する同一メロディというかモチーフがあるのですが、それが「テーマ」だといえばそうかもしれません。

 

でもそれだって、「コンプリート・サーズデイ・マイルズ・アット・フィルモア」には一瞬たりとも、一片も、出てこないのです。

 

(written 2021.5.6)

« きょうはずっとストーンズばかり聴いている | トップページ | パトリシア・ブレナン『Maquishti』の再生回数が少なすぎる »

マイルズ・デイヴィス」カテゴリの記事

コメント

非常に面白い考察の記事なので、私も考察してみました。
そのyoutubeでの外人さんの指摘は、私もそんな聴き方をしたことがなかったので、面白いとばかりに早速検証してみました。結果、「ん~ん。その人の言うことも、ありかも?」
以下私の考察結果を概略で。。。

1.アルバム「Biches Brew」中、「ファラオズ・ダンス」を除く他の全曲が、当時とその後数年のライヴでほぼ定番で演奏される。では、「ファラオズ・ダンス」はどこに?

2.マイルズは、特に電化してからのライヴ楽曲に「曲単位」の区別を意識していなかったようで、曲タイトルを「Call It Anything(どうとでも呼んでくれ)」という姿勢だった。

3.ザビヌル作曲の曲「ディレクションズ」はマイルズのスタジオ・ヴァージョンが2テイク知られるが、どちらも、テーマ部分以外は、ライヴで演奏されると換骨奪胎されているので、曲の雰囲気がスタジオとライヴではまるで別曲のようになっている。

推理
楽曲「ファラオズ・ダンス」は、一大転機アルバムの一曲目に持ってくるほどなので、「重要曲」であることをマイルズは認識していた筈。しかし戸嶋様も常々ご指摘のように、マイルズはアルバムとライヴでアプローチを分けていた。「Biches」当時のライブで、このマイルズのコンセプトにより、「ファラオズ・ダンス」はその楽曲の構成上「居場所」がない。一方、「ディレクションズ」はライヴの「オープニング」にもってこいの曲。

結論
マイルズは、当時のオープニング曲を、「ディレクションズ」プラス「ファラオズ・ダンス」たる「ハイブリッド曲(Call It Anything)」にしたのでは?
実際、テーマと基本リズム?以外は、ライヴ版「ディレクションズ」も、都度別曲になっているし(だからこそ、テーマ部分を削除して「Live-Evil」で別曲として使用されることも可能だった)、一方「そもそも「ファラオズ・ダンス」は、明確なテーマがない。が、そのマイナー?でダーク?な雰囲気は、捨てがたい。

当時のライヴで定番のオープニング楽曲「ディレクションズ」は、「ディレクションズ」の「ノリ」と「テーマ」、プラス、「ファラオズ・ダンス」のアヴァンギャルドな雰囲気、この「ハイブリッド」であると。
その観点から聴くと、件の外人さんの主張が、理解できたような気がするのです。

まあ、御大も言っていたように、「Call It Anuything」!
様々な考察ができるのも、マイルズの醍醐味かと。
長文、失礼しました!

その英語のコメントは、雰囲気とかじゃなくて、マイルズが吹いている音のかたち、フレイジングのことを言っていました。

論点がずれていました、失礼しました。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« きょうはずっとストーンズばかり聴いている | トップページ | パトリシア・ブレナン『Maquishti』の再生回数が少なすぎる »

フォト
2023年11月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ