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2021/08/04

没後半世紀目に考える、サッチモとジャズ・エンターテイメント

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(7 min read)

 

Louis Armstrong / Hello, Dolly!

https://open.spotify.com/album/213k6pbTGOHxlMpz5lb7zC?si=IN9Nq9NdRwGATyCHo4mH7w&dl_branch=1

 

以前、サッチモことルイ・アームストロングの1970年作『ルイ・アームストロング・アンド・ヒズ・フレンズ』をとりあげて、ほめたことがあります。五年前ですか。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2016/06/post-f933.html

 

アメリカ公民権運動のアンセム「ウィ・シャル・オーヴァーカム」やジョン・レノンの「ギヴ・ピース・ア・チャンス」なども歌っている、1970年という時代に即応したポップ・アルバムで、ぼくは大好きなんですよね。サッチモ事実上の生前ラスト・アルバムです。

 

しかしながらこのへんの、特に第二次世界大戦後ポップ・アイコン化して以後のサッチモの音楽は、いわゆるジャズ・ファンにはほとんど聴かれていないというのが現実。それどころか、かなり毛嫌いされている、あるいは見向きすらされていないんじゃないですか。

 

この事実にぼくは大いなる不満があります。ジャズのジャズたるゆえんというか、ジャズとはなにか?芸術音楽なのか?大衆芸能か?みたいな部分で、大勢のジャズ・ファンとは意見が違うんですよね。

 

いままでもくりかえしてきたことですけどもう一度言明すると、ぼくはジャズを芸術音楽だと思ったことは一度もありません。ロックやリズム&ブルーズやポップスや、歌謡曲や演歌やアイドル・ポップスと同じ大衆娯楽芸能だと信じて疑っていないわけなんです。もちろん芸術だと思うかたに異を唱えたいわけじゃありません。各人が自由にとらえればいいと思います。

 

しかし、ことサッチモみたいな人物というか音楽家をトータルで理解するためには、この、ジャズは芸能か?芸術か?みたいな視座から一度完全に脱却しないといけないわけなんです。そのような二分法を超えたところにこの20世紀アメリカ音楽最大のイコンは立っているんですから。

 

油井正一さんの著書で読んだところによれば、かつてジャズ評論家の粟村政昭さんは、戦後の大衆芸人みたいなサッチモをボロカスにけなしたことがあるそうです。粟村さんは決してアンチ・サッチモなんかじゃなくて、そのジャズ・ミュージシャンとしての偉大さをとても高く評価しているひとでしたけど、大衆向けにポップ化したサッチモのことは受けいられなかったのでしょう。

 

ぼくに言わせれば、この粟村さんのような態度こそ、サッチモのことをまったく理解していないものなんじゃないかと思うんです。みなさんが高く評価する1920年代後半のオーケー録音、ホット・ファイヴとかホット・セヴンとかの全録音をちゃんとトータルで聴いているの?といぶかしんでしまうんですよね。

 

だってね、たとえば1925〜27年のサッチモのオーケー録音のなかには、秀作だけのセレクションにしたとしても楽しいポップ・ヴォーカル・ナンバーがいくつもあるじゃないですか。「ビッグ・ファット・マ・アンド・スキニー・パ」「ビッグ・バター・アンド・エッグ・マン」「SOL・ブルーズ」「ホッター・ザン・ザット」などなど。

 

それらと、たとえば「ワイルド・マン・ブルーズ」「ポテト・ヘッド・ブルーズ」「ウェアリー・ブルーズ」などのインストルメンタルなジャズ・ナンバーのあいだには、なんらの差もないんですよ。サッチモ本人は区別せず同じように演唱していたんです。当時のジャズはアメリカン・ポップ・ミュージックの王道ど真ん中を歩んでいたんですからね。

 

サッチモによるジャズ・アートの最高峰と衆目の一致する「ウェスト・エンド・ブルーズ」を録音した1928年にだって、「ア・マンデイ・デイト」「セイント・ジェイムズ・インファーマリー」「タイト・ライク・ディス」みたいなおもしろおかしく愉快で猥雑なポップ・ナンバーがありますよ。

 

第二次大戦後のサッチモは、このポップ方面を強化しただけのことであって、それはすなわちジャズといえど時代に則し時流を読んで、最新のポップ・ミュージックとしてひとびとを楽しませるエンターテイメント性を決して失ってはならないとの強い信念があったからです。

 

1920年代には20年代の、60年には60年代の、その時代の聴衆に受けるヒット・ナンバーを送り出したかった、この一心でずっとやってきたのがサッチモで、その姿勢は1923年にキング・オリヴァーのバンドに参加してデビューして以後71年に亡くなるまで微塵も揺るがなかったのです。

 

つまり結局ずっと同じことを生涯やり続けたのがサッチモで、その根本には音楽家の使命は大衆を楽しませるということ、これのみだ、ただひたすらこれだけをやり続けようとの強いポリシーがあったのです。だから、ジャズだポップスだ、アートだ芸能だなどの区別をし、一方だけを評価しないなんていうのは、サッチモという音楽家の本質を見誤っているんですよね。

 

あえて言えば、ジャズもエンターテイメント。この一点を徹底的に追求したサッチモのばあい、そのエンターテイメント性が突き抜けて、その結果ある種の芸術的表現性に到達しているばあいもあった、と表現するのが実情に則しているのではないかとぼくは思います。

 

きょう一番上でリンクした1964年のアルバム『ハロー・ドリー!』の1曲目に収録されている曲「ハロー・ドリー!」(サッチモは「ダリー」と歌っている)は、サッチモの生涯最大のヒット曲。

 

ビートルズのアメリカ上陸の嵐が吹き荒れていた時代、「抱きしめたい」(I Want To Hold Your Hand)や「シー・ラヴズ・ユー」がチャートを席巻し世間を熱狂させていたあの時代に、サッチモのこの「ハロー・ドリー!」は堂々それを奪ってみせ、ビルボード・ホット100の一位を獲得したんですよ。

 

アメリカ歌手のチャート一位最年長記録なんですよね。なんともすばらしいことじゃないですか。これぞジャズ、これぞエンターテイメントです。

 

(written 2021.8.3)

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