禁酒法時代とコロナ時代を二重映しにして 〜 シエラ・フェレル
(4 min read)
Sierra Ferrell / Long Time Coming
https://open.spotify.com/album/5ZI0k3IynnC5C9QKMmY7cB?si=0INHFsJ8R2SsuVkg07SBYA&dl_branch=1
萩原健太さんのブログで知りました。
https://kenta45rpm.com/2021/08/30/long-time-coming-sierra-ferrell/
ウェスト・ヴァージニア生まれ、アメリカ国内をひろく放浪しているらしい(いまはナッシュヴィルに定着しているんだっけ?)シンガー・ソングライター、シエラ・フェレルのデビュー・アルバム『ロング・タイム・カミング』(2021)がなかなかいいです。
このアルバム発売にこぎつけるまでの経緯みたいなことは上の健太さんのブログ記事にくわしいので、ぜひご一読ください。公式サイトもあります。カンタンに言うと、インディー活動していたところをアメリカーナ系YouTubeチャンネルで紹介されてバズったということみたいです。
ということで、アルバムの音楽性としてもやっぱりアメリカーナというかカントリーやブルーグラスなどを基調とするルーツ系。
ですけれど、そう一筋縄ではいかないところがシエラの持ち味。タンゴその他ラテン・アメリカ音楽のリズムがあったり、ジプシー・スウィングっぽさが聴けたり、バルカンっぽい東欧、あるいは中東音楽っぽさもまぶされているのがぼく好み。
なんでもシエラは、ブルーグラスも、カントリーも、ブルーズも、ジャズも、ジプシー・スウィングも、タンゴも、さらにはテクノも、ゴス・メタルも、なんでもかんでも大好きという嗜好の持ち主だそうで、そんなところがアルバムにもそこはかとなく反映されています。
無国籍で豊かなルーツ系の素養を持つごた混ぜシエラの音楽性は、1曲目「ザ・シー」から鮮明。カントリーがルーツになっているだろうという曲想ですけれど、ジャジーでもあって、ジャンゴ・ラインハルトら1930年代のフランス・ホット・クラブ五重奏団的な雰囲気も濃厚にあります。
どこのどんな音楽要素がどれだけの割合で混合しているみたいなことを察知させないのがシエラらしいところですかね。1曲目「ザ・シー」だって、上に書いたものだけでなく、ちょっぴり東欧的、一滴のラテン・ミュージックっぽさだって感じますもん。
2曲目以後、全体的にはやはりカントリー・ベースのアメリカーナ系の音楽が展開されているなとは思いますが、数曲ある三拍子ナンバー(どうもお得意みたい)はヨーロッパ大陸ふうでもあるし、かつての古き良き時代のアメリカン・ポップスを想起させたりもします。ジミー・ロジャーズを想わせる典型的なカントリー・ナンバーだっていくつもありますけどね。
7曲目「ファー・アウェイ・アクロス・ザ・シー」は、ブラス楽器をフィーチャーしつつバルカン音楽っぽさを存分にふりまいていて、ちょっとあれです、デビューしたころのベイルート(ザック・コンドン)の『グラーグ・オーケスター』みたいですよ。
8曲目「ワイド・ヤ・ドゥ・イット」はちょっとタンゴっぽいけどそうでもないような意味不明ラテン・ミュージックのリズムに、色香ただようヴァイオリンとアコーディオンがからんでいるっていう。
シエラの音楽はレトロな眼差しと同時にコンテンポラリーな肌触りもきっちりあるのがおもしろいところですね。禁酒法時代と新型コロナ・ウイルス禍の時代とがぐにゃっとワープしながら二重映しになったような、そんな音楽で、若いころ旅芸人一座に出会い刺激されて自分も放浪の音楽生活を送っていただけあるっていう雰囲気がサウンドにも反映されているのが唯一無二です。
(written 2021.9.17)
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