ルーマーの新作ライヴ・アルバムがとてもいい
(5 min read)
Rumer / Live from Lafayette
https://open.spotify.com/album/09vVEtZkovVtpaINULggur?si=-vWI7yx9TKqqq7W_RgkI8A&dl_branch=1
お気に入り、ルーマーが新作を出しました。『ライヴ・フロム・ラファイエット』(2021)。タイトルどおりキャリア初となるライヴ・アルバムで、ロンドンのヴェニュー、ラファイエットで昨年10月16日に行われたコンサートを収録したもの。
コロナ禍でちょうどロンドンが二回目のロックダウンに入っていた最中に行われたストリーミング・コンサートだったので、現場に観客は入れていなかったと思いますし、事実そういうサウンドですね。でも配信で大勢が視聴したんだそう。
伴奏は、ルーマー自身の曲中での紹介によれば、ピアノ、ギター、ギター&マンドリン&ドブロ&ヴァイオリン、ベース、ドラムスという編成。このうちバンド・リーダーにしてピアノを弾くのが私生活でもパートナーのロブ・シラクバリです。
このライヴが行われた昨2020年というと、スタジオ録音による最新作『ナッシュヴィル・ティアーズ』が八月に出ていますので、そこからの曲が多く歌われています。+ルーマー自身の過去のレパートリーからもとりまぜて、しっとりとつづるルーマーのやさしい歌声が沁みますね。
ルーマーの美点はなんといってもアダルトなおだやかさ、そしてナチュラルでイノセントなトーンが声にあること。自分で書いた曲や他作の名曲を、そんなソフト・ヴォイスでどこまでもやわらかく歌うそのトーンに、ぼくは降参しているのです。使いたくないことばですけど “アダルト・オリエンティッド” という表現がいま最も似合う現役歌手、それがルーマーで、だからこそ最高のお気に入りになっているんですよね。
そんなところ、このライヴ・アルバムでも本領発揮されていて、観客がいるいないにおそらく関係なく、決して強く激しく盛り上がったり興奮したりしない、この静かでしなやかなヴォーカル表現をつらぬくことができるルーマーの資質は、疑いえない立派なものです。
『ナッシュヴィル・ティアーズ』でとりあげていたヒュー・プレストウッドの曲が多いですし、そもそもカントリーとかアメリカーナの文脈で語られることも多い歌手なんですが、個人的にはポップでもあるなと思うのと、若干のソウルフルなフィーリングもたたえていて、それが歌に独自の色彩感をもたらしているのも美点ですね。
このライヴ・アルバムでも、前半はヒューの曲を中心にカントリー・バラードっぽいものをオーガニックな伴奏に乗せてしっとりと歌っていて、たとえば5曲目「ブリスルコーン・パイン」なんかでの発音の美しさには息を呑むほど。毎コーラス終わりで「ブリスルコーン・パイン」と歌うときのこの切なさ、絶妙なトーンというか声遣いにはためいきが出ます。
アルバム後半に来て、かつての自作レパートリーである7「アリーサ」や、また近作ですけどやはり自曲の9「プレイ・ユア・ギター」などで聴かせる、しっかりしたブラック・ミュージック・フィーリング、色彩感はみごと。リズムへのノリのよさも抜群だし(「プレイ・ユア・ギター」終わりでは思わず声が出ている)、ルーマーの才能をしっかり見せつけていますよね。ギャラン・ホジスンの弾くエレキ・ギター・ソロも輝いています。
ヒットするきっかけになったファースト・シングル「スロー」も披露していたり、また2012年の『ボーイズ・ドント・クライ』で歌っていたホール&オーツ作のソウル・ナンバー「サラ・スマイル」も再演。ここではメンバー紹介ソングみたいな感じですが。
しっかりした声でありながら、どんなときでもどんな曲でも、決してソフトなおだやかさを失わなず、エモーションを抑制しているルーマー。デビューして11年ほどなのですが、もはや間違いないポジションを歌の世界に確立しつつあるということを、キャリア俯瞰的な選曲で挑んだこのライヴ・アルバムでも証明しました。
(written 2021.9.19)
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