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2021/10/29

骨太でファンキーなビートルズ集 〜 マリリン・マックー&ビリー・デイヴィス Jr.

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(6 min read)

 

Marilyn McCoo & Billy Davis Jr. / Blackbird: Lennon-McCartney Icons
https://open.spotify.com/album/3yWA8N5YKVQqhQQTPpQiLl?si=JElurxQuQYeaKDs_2xX83A

 

先日観た映画『サマー・オブ・ソウル』に登場していたマリリン・マックーとビリー・デイヴィス Jr.のベテラン歌手夫妻。現在の姿を見たのははじめてだったように思いますが、1969年ハーレム・カルチュラル・フェスティヴァルでのフィフス・ディメンションの演唱シーンで、メンバーだったこの夫妻のインタビューがモンタージュされていたのでした。

 

そんなマリリン・マックーとビリー・デイヴィス Jr夫妻が、今年新作アルバムをリリースしました。『ブラックバード:レノン・マッカートニー・アイコンズ』(2021)というカヴァー集。二人ともだいぶ高齢のはずですが、アルバムを聴くかぎり声に衰えがなく元気そうで、うれしくなりました。

 

『ブラックバード』は、レノン・マッカートニーと副題があるのでビートルズ・ソングブックなんだなと思いきや、たしかに大部分そうだけど、解散後のジョンとポールのソロ・ナンバーも一曲づつ歌われています。

 

そしてこの『ブラックバード』、出色のできばえなんですよね。ビートルズ・カヴァー集なんて、それこそ星の数ほどあるわけですが、ぼくがいままでに聴いてきた範囲のなかではこれがNo.1と言えるだけのすばらしい充実度、傑作だと確信します。

 

特にブラック・ミュージック・ファン、ファンキーなものが好物だという向きにはまたとないオススメ品。マリリンとビリーが在籍したフィフス・ディメンションといえば、1960年代末当時、黒人グループながら白人音楽をやっているという評判だったわけですが、今回のこの『ブラックバード』ではファンキーなアプローチが目立ちます。

 

特にいちばん心を打たれたのが8曲目の「ヘルプ!」。ビリーが一人で歌っていますが、もう最高のゴスペル・バラードに仕上がっているんですよね。こういった歌詞を持ちながらビートルズのオリジナルは急速テンポで飛ばす調子だったわけですが、バラードにアレンジするというのは、この曲にとってわかりやすい解釈ではあります。

 

黒人歌手による「ヘルプ!」へのこういったアプローチで思い出すのは、ティナ・ターナー1984年の復帰作『プライヴェイト・ダンサー』に収録されていたヴァージョン。今回のビリーのはそれを踏まえているのかもしれませんが、特筆すべき大きな違いがあります。

 

それは、ティナ・ヴァージョンの「ヘルプ!」が歌詞そのままの痛切感に満ちた内容だった(のは当時のティナが置かれていた状況を反映していたのかも)のに対し、今回のビリー・ヴァージョンは、ゴスペルらしく、救済を求めて叫びつつ、同時にみんなと連帯しながら、支え合いながら、前向きに強く人生を生きていこうというポジティヴさ、肯定感、強い決意のようなものがはっきりサウンドとヴォーカルに聴きとれること。

 

それゆえにこのビリー・ヴァージョンの「ヘルプ!」は、いまの時代にこそ必要なアンセムのようになっていると思うんですよね。昨年初夏来のBLM運動をも視野に入れながら、人種間の分断が取り沙汰される現代にいま一度共感と連帯を求めて立ち上がろうというパワーを、ここに感じることができます。

 

そういった社会的意味合いと同時に、ほんとうにプライヴェイトな感触もあって、マリリンとビリーというこの老夫婦間に流れる愛を再確認するようなフィーリングもたしかにあります。ことばをひとことひとこと丁寧につづりながら、年老いた二人の熟愛を歌い込んでいるような、そういう歌にもなっているんです。

 

そう考えれば、このアルバム『ブラックバード』全体が、この二人の愛のソングブックにもなっているのでした。そのような視点から慎重にどんな曲を選ぶか考え抜かれているし、マリリンとビリーがヴォーカルを分け合いながら、あたかもスタジオでたがいに見つめ合いながら歌い込んでいったかのような様子すら浮かぶようです。ラスト10曲目の「アンド・アイ・ラヴ・ハー」なんて、もう、ねえ。

 

年老い終末期に来て、あらためて肯定的に人生と人間と社会を見つめなおし、前向きに生きていこうというこの二人の強さみたいなものが、リズムやサウンドのファンキーさ、ブラックネスにも通じているような、そんな感じがします。

 

アルバム全体を貫くタイトでシャープな骨太ファンク・ビート、ソウルフルなブラック・サウンド、パワフルなヴォーカルを聴いていると、これがあのフィフス・ディメンションの二人の音楽なのか?!とちょっとビックリしますが、たしかにここにあるのは良質のブラック・アメリカン・ミュージックです。

 

(written 2021.10.28)

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