宝石の声 〜 キャサリン・プリディ
(3 min read)
Katherine Priddy / The Eternal Rocks Beneath
https://open.spotify.com/album/0HHABaGdHHS7aVI6NV4nG5?si=03gIcVXERfi7Wa3UTlwEGw
Astralさんの紹介で知りました。
https://astral-clave.blog.ss-blog.jp/2021-11-16
イングランドはバーミンガム出身のトラッド・フォーク歌手、キャサリン・プリディ。そのデビュー・アルバム『ジ・エターナル・ロックス・ビニース』(2021)は、今年六月にリリースされていたようです。
これがほんとうにすばらしい作品なんですよね。トラッド・フォークといってもスタイルがということであって、曲はどれもキャサリンのオリジナル。みずからギターを弾いて歌っているみたいですが、ポップ・フィールドのいわゆるシンガー・ソングライター系とはかなり違う感触があります。
曲だってもちろんいいんですが、ぼくがいちばん気に入ったのはなんといってもキャサリンのこの声質と発声です。澄み渡っていて清廉なんですよね。そうかといって、やはりUKトラッドっぽいやや陰なくぐもったフィーリングもあるっていう、この声がステキ。
キャサリンの公式サイト(重たい!)で紹介されているところによれば、リチャード・トンプスンは「今年聴いたなかでのベスト」と評しているそうで、このフィールドの音楽をふだんそんなにどんどんは聴かないぼくだって、『ジ・エターナル・ロックス・ビニース』がとてもスペシャルな一作だということはわかります。
バック・バンドはプロデューサーが用意したものらしく、シンプルな少人数編成のアクースティックなもの。若干のエレクトロニックな操作はあるようですが、あくまで目立たず、歌手のヴォーカルをきわだたせることに徹しているのが、この世界ではあたりまえとはいえ、好感触ですね。伴奏なしで歌だけでも自立しそうな、そんな存在感のある声で、湖水のように透明なのが気持ちいい。
淡々としているようで、しかしときおりドラマティックにもりあがったりもして、それが曲によってはほんとうにたまらない感情をかきたててくれるんですよね。5曲目「ユリディス」なんかがその一例で、とても静かでおだやかにふわっとただよっているのに、後半から強く声を張っていて、そうかと思うとエンディングではふたたび落ち着きます。
そのへんの緩急自在なヴォーカル・パフォーマンスもすでにしっかり身につけていて、ヴァラエティ豊かな自作の曲はUKトラッド・フォークの伝統マナーにしっかり沿っていながらも、現代感覚を兼ね備えています。それになんども言うようだけど、この歌手は生まれ持ったこの声ですよ、声のトーンだけで聴き手を惹きつけるチャームを持っているなと思います。
公式サイト以外にほぼテキスト情報がなく、そこにもくわしいバイオとか載せられていないのでどんな人物かわかりませんが、スコットランドとイングランドという違いはあれど、この世界では2018年のアイオナ・ファイフ以来の宝石じゃないでしょうか。
(written 2021.11.23)
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