現代的ビート感で甦ったパーカー・クラシックス 〜 SWRビッグ・バンド
(5 min read)
The SWR Big Band / Bird Lives
https://open.spotify.com/album/3OQ9cYWP2yK3zaTUNXzD2f?si=LboRypUzS2uPeLjXy1nK4w
lessthanpandaさんのブログで知りました。
https://musica-terra.com/2021/11/13/swr-big-band-bird-lives/
シャープな高速4ビートに現代ジャズの可能性があると教えてくれたのは『ナイト・パッセージ』(1980)以後のウェザー・リポートというかジョー・ザヴィヌルでした。2021年になってそのことがまた一個結実したような作品が出ましたよ。
ドイツの名門、SWRビッグ・バンドの新作『Bird Lives』(2021)のこと。これはアルバム題どおりバードことチャーリー・パーカーへのトリビュートで、昨2020年のパーカー生誕100周年にあわせて企画されたものみたいです。
それでパーカーの自作&愛奏曲を集めて、現代的に再解釈し演奏したもの。ゲスト・ソロイストとしてスウェーデンのサックス奏者、マグヌス・リングレンが迎えられ、またアレンジをジョン・ビーズリーが担当しています。ビーズリーはマイルズ・デイヴィス・バンド在籍歴(1989)があるため、ぼくなんかには忘れられない鍵盤奏者。
1曲目の「チェロキー」と「ココ」のメドレーというか合体から快速調で飛ばすフィーリング。これですよ、これ、この4ビートの感覚が2021年においてコンテンポラリーだなと思うんですよね。同じ高速4ビートでも、ビ・バップの1940年代ものとはシャープさが違っていることに気づくはず。
それで、念のため、前にも一度くわしく書いたことをくりかえさなくてはなりません。「チェロキー」を下敷きにした「ココ」もそうですが、1940年代のビ・バップ・オリジナルに古いスタンダード曲のコード進行だけ借りてきて別なメロディを乗せるものが多かったのは、当時二度のレコーディング・ストライキがあったせいです。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2016/02/v--146c.html
一度目は1942年8月~44年11月、二度目は48年1月~12月、いずれも著作権料の値上げなどの理由でAFM(アメリカ音楽家連合会)が起したストライキで、このためその期間、ミュージシャンたちはAFMが管理している楽曲を使うことができませんでした。
コード進行だけなら著作権がないため、ジャズ・ミュージシャンならだれでも知っているスタンダード・ナンバーをセッションで演奏したい際、そのメロディはレコーディングできないのでコード進行だけそのまま使って、その上にアド・リブで別なメロディを乗せ、それをテーマにして、それを「新曲」としてあらたに版権登録したんです。もちろん、新しい時代には新しいメロディを、という音楽的な要請もあったでしょうけど。
今回のSWRビッグ・バンドの『Bird Lives』に収録されている曲でいえば、1「ココ」だけでなく、たとえば6曲目「ドナ・リー」(はマイルズ作だけど、版権登録をパーカーでやったのは会社のミス)も「インディアナ」のチェインジにもとづいているものですね。ビ・バップ・ナンバーには多いんです。レコーディング・ストライキのせい。
アルバムには現代的な高速4ビート解釈だけでなく、ちょっとメカニカルっていうかコンピューターを使った打ち込みっぽいデジタル・フィールなビート感を聴かせるものがけっこうあります(2、3、5、6)。もちろんSWRビッグ・バンドは人力生演奏ですが、でもたとえば6「ドナ・リー」なんかはこれ、冒頭からたぶんビート・ボックスを使ってありますよね。『暴動』でスライ・ストーンが使ったようなやつ。
だから「ドナ・リー」にかんしてだけはマシン・ビートだとも言えるんですが、パッとすぐに人力演奏ドラムスも入ってきて、合体します。この手のマシン+人力生ドラムスを並行共演させるというのも、ウェザー・リポートが『ドミノ・セオリー』(1984)や『スポーティン・ライフ』(85)で、オマー・ハキムを使って、最初に示した方法論です。
そこからだいぶ時間が経ちましたが、ヒップ・ホップなビート感覚も(打ち込みではなく)演奏で表現できるドラマーなどが出現するようになり、ジャズの4ビート・フィールが刷新されたようなイメージがあります。主に21世紀に入って以後あたりからかな。
そんな現代ビート感を、SWRビッグ・バンドも今回の『Bird Lives』でかなりはっきり示していて、そのおかげでパーカー・クラシックスがいまの時代のリスナーに違和感なく受け入れてもらえそうな感じに生まれ変わっているんじゃないかというのが、今作を聴いてのぼくの正直な感想です。
(written 2021.11.27)
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