新作ブルーズ三題(2)〜 SRVみたいなスー・フォーリー
(5 min read)
Sue Foley / Pinky’s Blues
https://open.spotify.com/album/7g9Y9WfxLZuswzgCy4Pwpq?si=SP8cXypMS2yvMcsFI0HkIg
萩原健太さんのブログで知りました。
https://kenta45rpm.com/2021/10/27/pinkys-blues-sue-foley/
“ピンキー”ことピンク・ペイズリーのテレキャスターがトレードマークのブルーズ・ミュージシャン、スー・フォーリー。カナダ出身ですが、早い時期に米テキサス州オースティンに拠点を移し活動していた(現在は加ヴァンクーヴァーに戻っている)みたいです。
そのデビューは1992年と、もう30年近くも前のことだったんですが、目立たない時期や沈黙があり、ひさびさのソロ・リーダー作『ジ・アイス・クイーン』が2018年に出て、これがメンフィスのブルーズ・ミュージック・アワーズでココ・テイラー賞を、カナダのトロント・メイプル・ブルーズ・アワーズでも最優秀ギター・プレイヤー賞をもらったのが本格復活でした。
その勢いのまま今年リリースした新作が『ピンキーズ・ブルーズ』(2021)というわけ。コロナ禍によるロックダウンが明けたころ、仲間と集まってたった三日で完成させたアルバムだそうですよ。しかも編成はスー自身のギター&ヴォーカルに、ベース、ドラムスというシンプルなブルーズ・トリオ(+二曲だけオルガンと、一曲だけリズム・ギター)。
まるでクリームかジミ・ヘンドリクスかといった趣きですが、実際アルバムの音楽もまんまそんな感じのストレート・ブルーズ。スティーヴィー・レイ・ヴォーンを想わせる香りも強くただよいます。
レイ・ヴォーンを強く想起させるというのは当然で、ずっとテキサスで活動していたのだって意識してのことでしょうし、また今作ではドラムスがクリス・レイトン(SRV&ダブル・トラブル)で、さらに一曲だけとはいえリズム・ギター担当はジミー・ヴォーン(SRVの兄)なんですからね。
アルバム1曲目のタイトル・チューンはギター・インスト。ここですでにエリック・クラプトン〜ジミヘン〜レイ・ヴォーン直系とも言えるスーのブルーズ・ギター愛が炸裂しています。ジミヘンの「レッド・ハウス」みたいでもあり、マイク・ブルームフィールドの「アルバーツ・シャッフル」(『スーパー・セッション』)のようでもあり。
ブルーズ・ギター・インストといえば、ラストの「オーキー・ドーキー・ストンプ」(ゲイトマウス・ブラウン)もそうですね。シャッフル・ビートに乗って、ここでも決めてみせるスー。決して技巧を見せつける感じではなく、曲と演奏全体のノリを大切にしているなというのが伝わってきて、実にいいですね。
これらにサンドイッチされるかたちでスーのヴォーカル&ギター・ナンバーが並んでいますが、このひとの声は、なんというか、やっている音楽にはやや似合わないようなキュートでかわいいロリ系のアイドル・ヴォイスなんで、そこは好みが分かれるところでしょうね。自身がオブリやソロで弾いているギター・サウンドとのギャップを楽しんでいます、ぼくは。
それらヴォーカル&ギター・ナンバーの数々も、1960年代後半〜70年代に花開いたギター系ブルーズ・ロックそのまんまで、聴いているとまるでタイム・スリップしたような感覚におそわれます。つまり、どこにも2021年的あたらしさとか、時代への訴求力なんかないんですけど、世のリスナーのなかにはブルーズ好きがまだまだ多いし、それにタイムレスですよね、こういった音楽って。
レイ・ヴォーン的なテキサス・ギター・ブルーズで埋め尽くされているなあと思いきや、9曲目の「シンク・イット・オーヴァー」(ジミー・ドンリー)だけは三連のルイジアナ・スワンプふう。ここではオルガンも入り、歌詞もふくめなんだか切ないフィーリングを表現するポップ・サウンドが、これまたなかなかいいです。
(written 2021.11.12)
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