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2022/01/02

音楽におけるオーガニック

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(9 min read)

 

以前ホットディスクさんに、音楽で「オーガニック」という表現をしているひとはなにを言っているのか意味がさっぱりわからないのである、と言われたことがありましたねえ。でもぼくはかなり頻用します。

 

もとは農業用語で、化学肥料や農薬とかを使わず有機農法で育てる手法や産品、化学添加物を加えない食品などを指すもの。オーガニック・コットン100%みたいな言いかたをしますよね。

 

音楽の世界では、最初たぶんソウル・ミュージックでのタームとして、それも日本限定で、使われはじめたんじゃないかと思います。オーガニック・ソウルという表現が、約20年以上前からあったはずです。

 

それはニュー・クラシック・ソウル(死語?)にとって代わる用語として、ディアンジェロ、ジル・スコット、エリカ・バドゥ、アンジー・ストーン、レディシらが活躍しはじめた1990年代末ごろに考案されたもの。だからつまり、なんのことはない英語圏で言う「ネオ・ソウル」のことを日本独自でオーガニック・ソウルと呼んでいただけの話です。

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同じころ、ハワイのサーファー、ジャック・ジョンスンのやるアクースティックなヒーリング・ミュージックもオーガニックと呼ばれることが増えて、だから21世紀に入る前後あたりに複数の音楽ジャンルで「オーガニック」のブームというか用語の頻用が起きるようになりました。

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もとが農業用語ですからね、だから音楽でオーガニックと言われても、という意見は理解できないわけでもないのですが、なかなかどうして重宝するタームではあるのです。

 

なにぶん皮膚感覚的な用法で、わからないかたをロジカルに説得できるようなものじゃありませんし、定義もありません。ですが、農業のオーガニックとまったく無関係というわけでもなかったような気がします。

 

オーガニック、すなわち有機栽培やノー添加物の食品が重視されるようになったのは、地球環境問題への関心が深まった1990年代後半ごろからだったと記憶していますが、連動するようにスローライフやロハスといった自然に優しいライフ・スタイルが取り沙汰されるようになって、音楽界でも傾向が変化しはじめたのです。

 

1980年代後半〜90年代いっぱいに流行した音楽といえば、打ち込み、サンプリング、プログラミングを駆使しふんだんなデジタル処理をほどこしたコンピューター・サウンドが中心でした。ナチュラル・ライフが重視されるようになったことで、そんな人工的で機械的な音楽から脱却し、自然派の音楽をつくりだそうという流れが出てきました。

 

あるいは、主にロック界を中心に1990年代初頭からMTVアンプラグド・ブームがあって、10年以上大流行したというのも、オーガニック・サウンドの先駆けというか遠因だったのかもしれません。フル・エレキ・サウンドで大活躍していたロッカーたちがアクースティックなライヴをやってアルバムを出すようになっていたのは、ロックの原点回帰でもあったんですが、音楽界全体への波及効果も大きかったような気がします。

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21世紀音楽におけるそんな流れをひとくくりにして「オーガニック」と呼んでいるわけです。端的に言えば:

 

・コンピューター・プログラミングではなく人力の「演奏」行為の重視
・生(アクースティック)楽器を中心的に使うこと
・デジタルな音加工を極力排すること

 

この三点が典型的な特徴です。

 

けばけばしいエレキ・ギターや分厚いデジタル・シンセサイザーのサウンドが敬遠されがちになり、アクースティックなギターやピアノ、オルガン、さらにはベースなんかでもアップライト型のコントラバスのサウンドがエレベより「いまふう」に響いてカッコいい(個人的によくわかる)っていうんで、いまふたたび使われるようになっています。

 

ジャック・ジョンスンは

 

「生楽器を使ったシンプルなサウンドにする」
「多重録音は極力しない」
「エフェクターや電子楽器はできるかぎり使わない」

 

といったことにこだわり音楽をつくることを宣言していました。この理念こそがオーガニック・ミュージックの概念だったと言えます。

 

サーフ・ミュージック、ソウルなどブラック・ミュージック、ジャズ、J-POP、ワールド・ミュージックなど、音楽のジャンルを問わず、こんな傾向が21世紀以後は拡大して、現在まで続いているというのは間違いないことでしょう。

 

ヒップ・ホップ通過後の現代ジャズでも、Us3やグールーなど1990年代は打ち込みでつくりだしていた新感覚ビートを、21世紀以後は人力生演奏で表現できるドラマーがどんどん出てくるようになり、オール・アクースティックな楽器演奏とラップを混ぜたりする新世代ジャズが誕生してすっかりシーンの主流になっていますよね。

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電気・電子楽器を使わずデジタル処理も多重録音もほどこさないアクースティックな生演奏行為の重視と言われれば、な〜んだ、そんなもん、もともと音楽なんてむかしはぜんぶそうだったじゃないか!と指摘されるでしょう。そう、そうです、そんな過去への回帰というか、きのう書いたレトロ・ポップ・ムーヴメントとも軌を一にするようにオーガニック・サウンドも流行しているという面があります。

 

農産品だって、化学肥料や化学添加物が発明されるようになる前までのずっと長いあいだ、人類は天然の原料や手法だけで栽培していたわけですから、近代前の何万何千年という歴史で農業はず〜っと(非効率だったけど)オーガニックでした。音楽も同じです。

 

もちろん、21世紀になっての音楽の新しい流れをオーガニックと呼ぶものの、むかしそのままの音楽をそう言わないのは、デジタル・サウンドやコンピューター活用をいったん経験して通過したからこその新感覚がそこにあるから、ということです。

 

人力演奏にこだわると、複数の演奏ミュージシャンを起用してスタジオなりで拘束しないといけないわけですから、多くのパートをワン・マン打ち込みで済ませることのできるばあいよりコストがかさむというのは事実。

 

それに、デジタル排除といっても最低限のコンピューター処理はどんなオーガニック・ミュージックだってやっていますし、(ヴィンテージ・アナログにこだわっているケースを除き)スタジオ機材だって現在はオール・デジタルで、生演奏だってストレージに電子ファイルで記録されていきます。磁気テープを使うというエンジニアはもうほぼいないでしょう。

 

新時代のオーガニック・ミュージックも、パソコンやスマートフォンなどのデジタル・ディバイス経由でみんなに拡散されたり、インターネットを介したダウンロードやストリーミングで聴かれたりするわけですからね。

 

裏返せば、21世紀以後はそういう時代で、冷蔵庫や炊飯器など日用家電品だってぜんぶICチップが入っていて、デジタル・ネイティヴ世代(20代以下)が活躍するようになっているからこそ、アナログ感やヴィンテージ・サウンド、アクースティック楽器、人力生演奏などに新鮮な魅力を見いだす傾向が生まれてきたのだとみることもできます。

 

一方でEDMとか現代R&Bとかアマピアノみたいにコンピュターをフル活用したエレクトロ・ミュージックだって、もちろん隆盛ですけどね。

 

(written 2021.12.19)

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