大貫妙子の「新しいシャツ」は原田知世という表現者を得た
(4 min read)
新しいシャツ
https://open.spotify.com/playlist/0McQKHXxufqAAUk2nxGLHt?si=900298d5348b474b
『恋愛小説3 〜 You & Me』(2020)収録の原田知世カヴァーで知った「新しいシャツ」。とてもいい、沁みてくる曲ですよ。1980年に大貫妙子が書いたもので、妙子自身なんども歌っているみたいです。
といってもぼくはただの知世ファンなだけで、大貫妙子についてはいままで名前だけ知っていたものの活動にあまり関心を寄せず、その曲や歌をあまり聴いてきませんでした。きらいとかどうとかではなく、なんとなく時間が経っただけ。
ところが知世『恋愛小説3』5曲目の「新しいシャツ」に、最初はそうでもなかったのが、近ごろなんだかとってもしんみり感じ入るようになってきたんです。だれだか知らないけど(CD買ってないから)伴奏ピアニストもみごと。ピアノ独奏だけで知世が歌っています。
そしてなんといっても曲がいいです。二人の別れの風景を描いたものなんですけど、淡々とおだやかでいる主人公の心情をつづるメロディがこりゃまた絶妙に美しくて、涙が出そう。「(あなたの心が)いまはとてもよくわかる」部分、特に「とてもよく」とクロマティックに動く旋律にふるえてしまうんです。
ソングライターとしての妙子の才に感心するゆえんですが、このことにいままで長年、そう50年近い音楽リスナー歴でまったく、気づいていませんでした。知世ヴァージョンがあまりにすばらしく響くので、Spotifyアプリでクレジットを見て、それではじめて妙子の曲だと知ったくらいですから。
さがしてみたら妙子自身が歌う「新しいシャツ」は三つあるようです。1980年の『ROMANTIQUE』収録のものがオリジナル。当時現役バンドだったYMOの三人とその人脈がサポートしたアルバムで、この「新しいシャツ」は個人的にイマイチ。
その後二種類あるのはいずれもアクースティック・ヴァージョン。妙子は1987年からずっとアクースティック・ライヴを続けているようで、近年の活動の軸になっているみたい。ピアノとストリング・カルテットだけで自身の書いた曲を静かに歌うというシリーズ。
妙子アクースティック・ヴァージョンの「新しいシャツ」二つは、スタジオ録音の『pure acoustic』(一般発売は1996)のものとライヴ収録による『Pure Acoustic 2018』(2018)のもの。いずれも上述のとおりの伴奏で歌ったものです。
それが実にいいんですね。シンプルで静かな伴奏が、別れのときにおだやかにたたずんでいるという心象をうまく描写できています。ピアノ一台だけの伴奏という知世ヴァージョンをプロデュースした伊藤ゴローも、それらを参照したに違いありません。
個人的な好みで言えば、妙子の声のトーンと細かなフレイジングに装飾のない96年『pure acoustic』ヴァージョンは、よりすばらしいと感じます。フレーズ末尾で変化や抑揚をつけずストレートに歌うのがこの歌の内容にはとても似合っているような気がしますから。
実はまさにこの意味においてこそ、原田知世ヴァージョンこそ至高のもの。声質そのものが素直でナイーヴで、ふだんからどうという工夫や装飾もせず淡々と歌う知世のスタイルは、「新しいシャツ」という曲にフィットしているし、静かに弾かれる一台のピアノだけという伴奏も絶好の背景です。
大貫妙子の「新しいシャツ」は2020年になって原田知世という最高の表現者を得たのだろうと思います。と言えるほど知世『恋愛小説3 〜 You & Me』収録ヴァージョンはあまりにもすばらしく、切なく、美しい。
(written 2022.1.12)
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