人生の辛苦と充実 〜 坂本冬美『LOVE SONGS III』
(2 min read)
坂本冬美 / 愛してる…LOVE SONGS III
https://open.spotify.com/album/6sl028rYpUdpP4KFte7ysu?si=ElrZhuYVRWS8stl0GMouPQ
きのう書いた坂本冬美2009〜15年の『Love Songs』シリーズ全六作。そのうち三作目の『愛してる…LOVE SONGS III』がかなりすぐれていて感動したにもかかわらずプレイリストに入れなかったのは、これだけ例外的に傾向が異なるアルバムだからです。
というのもこのシリーズはすべて古い歌謡曲スタンダードのカヴァーで構成されているのに対し、この三作目だけは全曲オリジナルなんですよね。どの曲も冬美のこのときのレコーディングのために新たに書き下ろされたもの。
そういうわけで『Love Songs』シリーズのなかでは異様なありようを示しているこの三作目、内容の傑出具合も異様です。カヴァー/オリジナルの別を言わなければ、シリーズ中最高傑作に違いありません。
曲そのものがどれもすばらしいですが、特にタンゴふうのアコーディオンまで入ったラテンな4曲目「愛に乾杯」、切々とした感情を実にたまらないフィーリングでつづる5「遠い波音」、6「いとしいひと」、このあたりなんかはもう泣そうになっちゃうくらい。「遠い波音」なんか、この歌詞いったいだれが書いたの?と思うほど切ないけど、村山由佳なんですね。
いずれもこのアルバムのために用意されたオリジナル・ソングですから、有名曲のカヴァーばかりっていうこのシリーズを通して聴いていたとき、最初あれっ?と感じたのも納得です。と同時に、この哀切感が濃厚にただようオーケストレイションとヴォーカルはタダモノじゃないぞと震えもしました。
そう、どの曲も当然初耳で、しかもたいへんすばらしいのでビックリしたんですよね。このアルバムでの冬美しか歌っていないので、世間的な知名度はゼロですが、すばらしいので、ぜひ一度耳を通してほしいと思います。
終盤10曲目「人時(ひととき)」と11「そしてまた会いましょう」には、この悲恋感に満ち満ちた作品をみごとに転換し締めくくるポジティヴ・フィーリングがあって、人生の辛苦と充実をみつめかみしめてきた人間にしか書けず歌えない強い説得力を放っています。
(written 2021.11.22)
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