ぼくにとってはこれが最高の「ハウ・ロング・ブルーズ」 〜 ダン・ピケット
(4 min read)
Dan Pickett / Baby How Long
https://www.youtube.com/watch?v=TYLyQFeUWDg
知るひとぞ知るといった存在の米カントリー・ブルーズ・ミュージシャン、ダン・ピケット。第二次大戦後の1949年にフィラデルフィアのゴッサム・レーベルに録音した十数曲がすべてで、それ以外どんな人物だったのかもまったく謎。
ダン・ピケットについては、以前も一度書きましたね。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/post-f412.html
フィラデルフィアの会社に録音したといっても長旅の結果であったに違いなく、残された音源を聴けばあきらかに南部のギター弾き語りカントリー・ブルーズ・ミュージシャンであったとわかります。ミシシッピ・デルタ・ブルーズの影響も濃いです。
ダン・ピケットが残した録音のうちぼくがこよなく愛するのが、どんなアルバムでも1曲目に来る「ベイビー・ハウ・ロング」。曲題だけでもわかりますが、かのリロイ・カー最大の代表曲「ハウ・ロング・ブルーズ」のカヴァーです。この曲のことがそもそも大好きですが、ダン・ピケットのヴァージョンはといえば、こ〜りゃもう至高のものとしかぼくには思えないわけです。
これが収録されたPヴァイン盤『ロンサム・スライド・ギター・ブルース』CD発売が1991年。90年代に山ほど出た古いブルーズ音源リイシューものの一環で、ぼくはこれを店頭で見かけるまでダン・ピケットなんて名前すら聞いたことありませんでした。
でも雰囲気のあるジャケットとアルバム題に惹かれたんですよね。それでなんとなくの直感みたいなものでレジへ持っていったと思います。自宅へ帰って聴いてみて、1曲目の「ベイビー・ハウ・ロング」に強い衝撃を受けました。こんなに魅力的な曲があるのか?こんなに沁みるブルーズ・ギター&シンガーがいるのか?と。
間違いありませんが、このとき1991年が、リロイ・カーのこの有名曲を知った最初でした。ひょっとしたらリロイ・カーの名前すらも知らなかったし、だからこの曲に星数ほどのカヴァー・ヴァージョンがあることなんてつゆ知らず。でもそれらを知ったいまでも、このダン・ピケットの「ベイビー・ハウ・ロング」こそ、ぼくにとっては最高のヴァージョンだと思えてなりません。
つまり、シティ・ブルーズの代表的名曲であるリロイ・カーの「ハウ・ロング・ブルーズ」に、南部カントリー・ブルーズとして出会ったのだということです、ぼくは最初。
ザクザクとギターで刻むビート感はまさしく南部カントリー・ブルーズのもので、それがあまりにもチャーミング。歌うがごときスライド・プレイもいいですよね。ダンはときおり歌のフレーズ末尾を一部歌い切らず、そのまますっとスライド・ギターに置き換えているパートもあります。
また、この塩辛いヴォーカルがいいんですよね。歌い出しの「ナウ、ベイビー・ハウ・ロング/ア〜、ツッ、ハウ・ロング」のパート、ここだけでもう降参です。特に2節目の音程を独自に装飾してマイナー調に歌うところ、胸をグッとつかまれてしまいます。
むずかしいことはなにもやっていない、ギター・ビートとスライドでの繊細な歌い、そしてこのヴォーカルと、たったそれだけでこれだけの小宇宙を創造してしまうあたりといい、素材は超有名ブルーズ・スタンダードだけどダン・ピケットにしかできないオリジナルみたいに仕上げているところといい、ぼくにとってこれ以上のカントリー・ブルーズはありません。
(written 2021.8.20)
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