ロンドン発、ジャズ+ヒップ・ホップのあの時代と、グールーの『ジャズマタズ』
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Guru / Jazzmatazz, Volume 1
https://open.spotify.com/album/64J8girYqmK86ebqBayrjQ?si=yW7uMA4XTl2bfGCB0NCX_A
1990年代のあのころ、あまりワケわかっていなかったけど、ただただカッコいいと感じてどんどんCD買って聴いていたグールー(故人)の『ジャズマタズ』シリーズ。一枚目は1993年に出たものですが、たまに聴くと、時代を感じはするものの、いまでもカッコいいよねえ。
当時はちょうどメインストリームなジャズ演奏+ラップ&ヒップ・ホップを融合する試みが開始されたばかり。個人的にはUs3を先に知って夢中になっていた記憶がありますが、いま調べてみたらUs3の一作目『ハンド・オン・ザ・トーチ』は1993年11月16日のリリース。グールーの『ジャズマタズ Vol.1』は同年5月18日に出ています。
それでもUs3のほうはシングルとして「カンタループ(フリップ・ファンタジア)」を1992年の暮れに出していて、翌93年冒頭にかけて日本でもFMラジオとかでまるで堤防が決壊したみたいにどんどん流れていたんで、こっちのほうが先だったという個人的印象には裏付けがあります。
Us3は英国のユニットでしたが、マサチューセッツ生まれの米国人グールーの『ジャズマタズ Vol.1』もある意味ロンドン発っていうか、いったんそこを経由して入ってきたような印象があったのは勘違いでしょうか。あのころ、1990年代、ジャズなマターはアメリカよりどっちかというとロンドンやヨーロッパのほうが人気だったし活発だったような。
1980年代からのいはゆるアシッド・ジャズの流行もロンドン発信だったような記憶があるんですが、そのへんからヒップ・ホップ・ジャズまで、ぼくのなかでは一連の流れとして当時認識されていましたし、実際音楽性としても連続していたはずです。
大学院博士課程を中退し就職したので(1988年春)自分でお金をかせぐようになって、音楽をまずまず思うように買うことができるようになったということと、ピッタリそのころレコードに代わってCDの時代が到来したということも、あの時代の(個人的)重要ファクターとしてありました。ソウル II ソウルとかあそこらへんからの流れとしてひとくくりで楽しんでいました。
この手の音楽は、正対してキマジメにじっと集中して聴き込むというよりは、どっちかというと(当時このことばを知らなかったけど)ラウンジ系というか、なにかしながらそのバックグラウンドで流れていればいいムードっていう、そういうものです。
だから、2010年代末ごろから現在までの流行であるロー・ファイ(・ヒップ・ホップ)なんかとその意味でもつながりますね。リラクシング・ミュージックでくつろぎ系、格好のBGMになって、だからジャズはジャズでもハード・バップとかフリーとかみたいに(自室やジャズ喫茶などで)じっくり向き合って真剣勝負で聴くというものじゃありません。
ヒップ・ホップなビート感にそういったリラクシングなチル効果があると思いますし、そもそもメインストリーム・ジャズだって1940年代のビ・バップ革命でシリアス鑑賞芸術になっちまう前までは同様だったんですからね。
だからそんなジャズとヒップ・ホップ・ビートをフュージョンしてラップを乗せれば極上のラウンジ・ミュージックができあがるという寸法で、実際、クラブなんかで流して踊りながら楽しむ文化があのころから主流になって、そのための音楽をつくろうっていう狙いがUs3やグールーらにあったと思います。
ヒットしたグールーの『ジャズマタズ』シリーズは、1993年の一作目以後2000年の三作目まで立て続けにリリースされ、ちょっとおいて2007年の四作目で終わっています。なぜか1と4しかサブスクにはないけれど、当時のぼくはすべてCD買いました。Us3も同じくらいの寿命でした。
それでも当時のみんなの試み、意図、目指した音楽的方向性は、やや趣向が変わったとはいえ、現在2010年代以後の新世代ジャズ・ミュージシャンたちにも引き継がれています。打ち込みでやっていたのを生演奏でというやりかたに置き換わったのですが、チリングなビート・フィールみたいなことは同じだと思います。
(written 2021.11.28)
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