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とぼくは呼んでくくる二曲、「アイル・ビー・ゼア」(ジャクスン5)と「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」(キャロル・キング)。初演のレコード発売時期も近接していて、前者が1970年8月、後者が71年2月。
説明の必要もぜんぜんなく歌詞内容も曲想も酷似していると思うんですよね。まさに「困っているなら呼んでね、会いに行くから、友がいるよ」という同じ心境をつづったもの。「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」の歌詞には “I’ll Be There” というフレーズまで出てくるんですからね。
もっとも、ジャクスン5の「アイル・ビー・ゼア」のほうはひたすら感謝と献身の愛をささげる内容で、困っているなら、落ち込んでいるんなら…みたいな色は一瞬を除き表に出ていませんけど。
キャロル・キングが「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」を書いたのはアルバム『タペストリー』のレコーディング・セッションを行なっていた71年1月だそうですから、前年夏発売だったジャクスン5の「アイル・ビー・ゼア」を聴いていなかったなんてことはありえません。No.1ヒットだったんですし。
でも、これはパクリとかモノマネとかいうもんじゃなかったでしょう。偶然の類似でもなく、意識しての一種のオマージュみたいなものかなあと感じると同時に、あの1970年付近という時代の空気を両者とも呼吸していたんだという共振性を立派に証明しているだろうと考えています。
あきらかに「アイル・ビー・ゼア」をふまえて、暗い夜だったなら、呼んでね、行くから、みたいなソックリ・ソング「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」をキャロルが書き歌った背景には、拡大するヴェトナム戦争など不安と激動の時代であったからという理由も一つにはあったように思えます。
そのうえで、ジャクスン5の「アイル・ビー・ゼア」から、ややニュアンスのついた部分(もし新しい恋人がそうじゃなかったら…)をとりだし拡大して、行くから呼んでねの理由として大きく前段においたんじゃないかというのがぼくの推測です。
結果、どこまでも個人的な、二人だけのストーリーだった「アイル・ビー・ゼア」から発展させて、キャロルは(基本的にはプライヴェイトなラヴ・ソングでありながら)ひろくみんなの連帯を呼びかけているとも受けとれるような共感性、社会性まで帯びたような歌に仕立てあげたんじゃないでしょうか。
並べて続けて聴き比べてみると、なんだかほんとうにそっくりに思えてくるこの二曲ですが、決定的なカヴァーを生んだという点でも共通しています。「アイル・ビー・ゼア」がマライア・キャリーのMTVアンプラグド・ライヴのヴァージョン(1992)、「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」がダニー・ハサウェイのエレピ弾き語りによるライヴ・ヴァージョン(1972)。
ぼくの耳には両曲ともそれらカヴァーのほうがオリジナルよりいいぞ、すくなくとも個人的にはずっと好きだと思えるので、ちょっと興味深いですね。マライアの声質や歌いまわしとか、ダニーのちょっとジャジーなフェンダー・ローズでのコード・ワークとか、そういうのも大きく左右しての判断です。
ぼくだけでなくあるいはひょっとして世間一般で、「アイル・ビー・ゼア」はむしろマライア・ヴァージョンで、「ユーヴ・ガット・ゼア」はダニー・ヴァージョンで、それぞれいまではよく聴かれ継がれているんじゃないかという気すらします。前者なんか曲のWikipediaでジャクスン5の項より字数がずっと多いんですから。
マライアのこのあまりにもチャーミングで透き通った天上の声は(この曲を歌うときだけ)ある意味マイケルを意識し、そしてそれを超えているとまでいえるほどの無私の愛を表現できているぞという気がぼくにはします。ピアノ・イントロに導かれての歌い出し “You and I must make a pact” なんか、ゾクゾクするほど美しい。天使が降臨してきています。
また、ダニー・ヴァージョンの「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」は、キャロル(やジェイムズ・テイラーら)ヴァージョンで色濃かった内省感から大きく踏み出し、みんなでの広域連帯を強く呼びかける内容に変貌しているのは特筆すべきポイント。観客の大合唱あればこそですが、社会性を獲得しているのはあの激動の時代の表現であったからで、だからこそ21世紀まで訴求力が持続しているのだといえます。
あまり話題になりませんが「アイル・ビー・ゼア」のメイン・シンガーだったマイケル・ジャクスンは、実はソロ転向後に「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」をカヴァーしています(『ガット・トゥ・ビー・ゼア』1972)。ぼくはこのマイケル・ヴァージョンの「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」が大好き。

跳ねるファンキーなエレベ・ラインも楽しくて(だれが弾いているの?ぼくの耳にはジェイムズ・ジェイマースンのスタイルに聴こえるけど?)、キャロル・ヴァージョンにもダニー・ヴァージョンにもなかったアップ・ビートを効かせポップ&キュートにこれを歌うマイケルは、個人的なラヴ・ソングという面と社会的共感性という両面をうまく共存させているように聴こえます。
(written 2022.1.8)
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