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2022年5月

2022/05/31

まるでライヴ会場のように低音がしっかり響くこの部屋で

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(5 min read)

 

CDプレイヤー、アンプ、スピーカーと要するにオーディオ装置一式をぜんぶ新しくしたのは2017年晩夏のこと。それ以後2022年現在まで同じものを使っていますが、あのとき総とっかえしたのには理由がありました。

 

2017年夏〜秋時期のぼくのブログをおぼえていらっしゃるかたもおいでかと思いますが、あのころ急性中耳炎で右耳が聴こえにくくなっていました。鼓膜に穴があいたのが耳鼻科医も不思議がるほどなかなか治らず精神的にしんどかったんですが、ある晩、それにしても音楽の聴こえかたがおかしいぞと感じたんです。

 

中耳炎のせいではないようにビリビリ音割れして聴き苦しく、こりゃ装置がどこかおかしいに違いないと疑って、Macにヘッドフォンを直につなげて聴けばだいじょうぶだからソースであるiTunesファイルやパソコンは正常だと(そのころはまだサブスクやっていない)。

 

じゃあアンプかスピーカーだなとなって、スピーカーはそんなこわれやすいものじゃないのでアンプかなぁとまず疑い、アンプを調べ、っていうか面倒だったし古くもなっていたので、思い切ってワン・グレード上の新品を買ったんです。

 

それで聴いてみてもやっぱり出てくる音はおかしいまま。ようやくスピーカーの故障だとわかり、長年愛用してきたJBLだったから残念だったんですけど、同じJBL(はサウンド傾向が気に入っている)で新しいものを買ったんですよね。

 

そのとき、直前に新品を買ったDENONのアンプはスピーカー出力端子が2セットあったので、左右二台づつ計四台で鳴らせるだろうとなって、スピーカーもそういう買いかたで計四台をポチりました。

 

それで音の異常はなおりました。

 

ついでだ、えいっ、とCDプレイヤー(もDENON製)も思い切ってひとつ上の新品にして、それで結局ぜんぶが新しくなったんです。あのころお金あったよなぁ。一年半後くらいからサブスク中心の音楽生活になりましたので、CDプレイヤーだけは出番が減っていくようになりましたけど。

 

痛感しているのは、1990年代あたりであれば同じだけの音を実現するのに二倍、三倍の価格とサイズがかかっていたよねえということです。オーディオ装置も科学技術製品ですからね、時代が進むとともにどんどん発展しているんです。その結果、安価な小ぶりサイズでしっかりしたサウンドを鳴らせるようになっていますよね。

 

特に低音部。JBL(やBoseなど)はもちろんそれを強調しがちなメーカーで、ふだんたくさん聴く音楽の種類からして、そんな傾向も気に入って愛用しているんですが、これは住環境にもおおいに左右されることです。

 

2021年夏に現在の居所に引っ越して以後も大洲時代のそれと同じ装置を使っているにもかかわらず、同じ音源を聴いてもボトムスがよりしっかりズンズン鳴るようになったのは間違いありませんから。部屋のつくりと設置に影響されるんでしょうね。

 

弦ベースやベース・ドラムがちょっと鳴りすぎじゃないか、集合住宅なのにご近所さんの騒音迷惑になっていないかと心配するほど。中高音域はともかく、ズンズン響く低音域は床や壁を伝っていきますから。朝9時すぎ〜夜23時前ごろまではけっこう音量上げていますし。

 

思い出しましたが、2020年7月まで住んでいた大洲市(松山の南方)のマンションでは、別件で訪れた大家さんに一度「戸嶋さんは音楽がお好きなんですね」とやんわり遠回しに(うるさいんだ、みんな迷惑しているぞと)注意されたこともありました。それで音量が下がったかというと下がらなかったんですけども。

 

とにかく音楽が鳴っていないと不安になって落ち着きを失い、最終的には身体の不調をきたすという中毒者ですから、ある程度やむをえないであろう、みなさんうるさくてごめんなさい、でも鳴らしますっ!という気分ですかね。さいわい同居人がいないので、自室のなかでは気遣いなく存分に音量上げて聴きまくれるっていうのはラッキーな音楽人生でした。

 

(written 2022.2.11)

2022/05/30

趣味よく上品なブラジリアン・ジャズ・ハーモニー 〜 エドゥ・サンジラルジ

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Edu Sangirardi / Um
https://open.spotify.com/album/278T99dsaxiUd5LR1I99jO?si=ys_2bfjDRVKQ1tshs_pn5A

 

あっ、これはアンナ・セットンの一作目(2018)で弾いていたひとだったのかぁ。ブラジルはサン・パウロのジャズ・ピアニスト、エドゥ・サンジラルジの初リーダー・アルバム『Um』(2022)がきれいでなめらかでおだやかで、すばらしいです。こういうのぼくは大好きなんですよ。

 

本作にはアンナ・セットンからの流れもあります。8曲目「Toada」はアンナのファーストに収録されていた共作ナンバー。もちろんここではインスト演奏されているわけですけど、ふんわりやわらかいホーン・アンサンブルがただようなか静かにピアノがメロディをつづるさまは、まるで初夏の陽光のもとさわやかで心地いい風にあたりながら緑の公園をゆっくりお散歩しているような気分です。

 

そもそもアルバム全体がそんなムードにつつまれた快適で居心地いい音楽。個人的に特にいいなと感じる趣味のよさと上品さは4〜6曲目あたりの流れです。ジャズ・サンバを基調としたなめらかでスムースなサウンドと軽いビート感、そこにボサ・ノーヴァ・テイストのあるスネア・リム・ショットもおりまぜながら、夢見心地のソフトなフィーリングを表現するさまにはため息が出ますね。

 

特に、たぶんエドゥ本人が書いているであろう(プロデューサーのスワミ・ジュニオールかも)管弦アンサンブルのリッチでやわらかい、たゆたうような響きは特筆すべきもの。美しいバラードである5曲目で聴けるデューク・エリントンかギル・エヴァンズかっていう、そっとおだやかに雲が動いていくようなホーン・サウンドの重なりと動きは、しかしそれでもブラジル人音楽家だというのがわかるハーモニー個性を発揮していて、骨まで溶けていくような気分です。

 

前半まず静かなピアノ独奏で出て、あぁきれいだと聴き惚れているとその後ストリングス&木管アンサンブルが入りふくらみをみせる6曲目の流れも絶品。アコーディオンのトニーニョ・フェラグッチが参加している9曲目はややユーモラスで、ちょっぴりショーロふうな味つけもありますね。

 

(written 2022.5.29)

2022/05/29

とってもうれしい『ショッピング』サブスク入り 〜 井上陽水奥田民生

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井上陽水奥田民生 / ショッピング
https://open.spotify.com/album/2pY4LrYkT9BOfBQtlfcJX1?si=WFSHGIAZQzqibLlj3vWWMQ

 

これ、いつからサブスクに?つい数日前のお散歩ミュージックにとチョイスし、CDからインポート済みの(Apple)Musicアプリで聴こうと立ち上げて、あれっでもなんかちょっと、ジャケットが全曲で表示されるようになっているし、っていうんでSpotifyでも検索したら見つかりました。

 

そう、井上陽水奥田民生の『ショッピング』(1997)は稀代の傑作ですよ。どこでも見たことない意見ですが、ぼくはそう思っています。こういう音楽にここまでひどく共感するっていうのは要するに1960〜70sのクラシック・ロック的なもの(へのオマージュなんだけどこれは)が好きだからというだけの趣味ですけど。

 

それがサブスク(ぼくはたいていSpotify)で手軽にいつでもどこででもワン・クリック or タップで聴けるようになったというのがあまりにもうれしくて、音楽的なことはいままで二度書いてきたし、再言の必要がないわかりきった内容ですが、いまさらのように新鮮な楽しみを味わっています。

 

聴きながら涙と涎をたらすほど好きでたまらないというものが本作にはいくつかあります。アルバム全体が好きだけど、なかでもことさら大好きっていうものが。リリース当時からぼくにとってのNo.1は、ボートラっぽくラストに収録されている「アジアの純真」。もちろんPUFFYが初演のあれ。

 

陽水民生は「アジアの純真」のソングライター・コンビなんで、本人たちヴァージョンがどんだけカッコいいか、まざまざとみせつけたような格好ですね。強力なドラムスとエレキ・ギターを軸に、重心を低くしてタメの効いたノリを聴かせるバンドもヴォーカルも最高。そうそう、このアルバムは全曲人力生演奏なんです。いまでいえばオーガニック。

 

とにかく本人たちヴァージョンのこの「アジアの純真」のことをどんだけ愛しているか、ことばを尽くしても尽くしきれないと思うほど。これを聴きながらだったら死んでもいい。ふざけた無意味な歌詞ときわめて音楽的なメロとサウンドもいい。

 

そのほか民生の独壇場である5「意外な言葉」は60s的にクラシカルなギター・トリオのサウンドで(いちおうフェンダー・ローズも入っている)、特にエレキ・ギターがあまりにもカッコよくてシビレちゃう。やはり民生が歌うレッド・ツェッペリンふうの7「2500」も。

 

作詞でも参加の小泉今日子に提供した9「月ひとしずく」はジョージ・ハリスンの「マイ・スウィート・ロード」を意識したもので、これももおだやかでまろやかで心が落ち着きます。アクースティック・ギターのカッティングを多重してあるサウンドゆえ、このところ愛好度がどん増しな一曲ですね。

 

一曲一曲、終わって次の曲がはじまるまでのあいだの無音部分がしっかりとられているのもレトロ仕様というか、これ1997年の作品ですからね。クラブ系などの音楽CDで曲間のポーズをおかずどんどん連続で流れてくるのが定着していた時期です。

 

だから『ショッピング』を聴くと一瞬、あれっ、再生不良?と感じちゃうくらいなんですが、そのへんもサブスクでそのまま再現されています。いまや2010年代以後これだけレトロな眼差しが大流行しポジティヴにとらえられるようになって、若いミュージシャンたちがどんどんやっていますから、陽水民生の本作みたいなのに(サブスクで聴けるようになったので)もう一度日が当たってもいいと思います。

 

(written 2022.5.28)

2022/05/28

コスモポリタンなアフロ・ラテン・ポップ新世代 〜 フアニータ・エウカ

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Juanita Euka / Mabanzo
https://open.spotify.com/album/27YMkY29ejf68IpDywP91w?si=sAehw273QJ-o0K9h6mXZeA

 

Astralさんに教えてもらいました。
https://astral-clave.blog.ss-blog.jp/2022-04-03

 

フアニータ・エウカはコンゴの新人歌手。育ちはブエノス・アイレスで、14歳からロンドンに住んでいるというコスモポリタン。デビュー・アルバム『Mabanzo』(2022)はそんなキャリアが存分に発揮された新世代アフロ・ラテン・ポップといえます。

 

これまでロンドンのアフロビート・バンドで歌っていたそうで、このアルバムでも基調になっているのはアフロビートですが、暑苦しさみたいなものがなく、ある種すずやかで軽やかなジャジーさや洗練を感じさせるあたりは完璧にぼく好みの音楽家。と同時にそれは2020年代性でもありますね。

 

さらにセリア・クルースがアイドルで、しかもブラジル育ちだけあるというラテン・ミュージック要素も随所に色濃くて、なかには都会的でおしゃれなボサ・ノーヴァを鮮明に感じさせる曲もあったりするのがおもしろいところ。

 

アルバムでいちばんのぼく的お気に入りは5曲目「Nalingi Mobali Te」。キューバン・ミュージック・ルーツなルンバ・コンゴレーズを現代にアップデートしたような感じとAstralさんは言っていますし、くわえてアンゴラのセンバのようでもありますね。ややアーシーに泥くさく、このトラックに乗せてパウロ・フローレスが歌っても違和感ないかもっていうくらい。

 

フアニータはこういったコスモポリタンな音楽混淆を意識的にがんばってやっているというんじゃなく、きわめて自然体に自分のなかにあるものからナチュラル&スムースに表出できているよなあとよくわかるのが、新世代到来を体現しているところです。

 

(written 2022.5.22)

2022/05/27

岩佐美咲のギター・ソロを飛ばしたら…

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岩佐美咲 / オリジナルズ
https://open.spotify.com/playlist/3OxWmOFVeufNKmqHV3BTdV?si=5ecb475734934c74

 

ウワサによれば、なんでもサブスク使いの若い音楽リスナーは、曲中のギター・ソロを聴かずスキップしちゃう、もうそういうのは人気ないんだそうで、しばらく前Twitterのぼくのタイムラインでは話題になっていました。

 

そのときはほとんどすべて「えっ、それじゃあちょっと...」という熟年ファンや届け手の音楽家サイドが違和感や開き直りを表明していたわけです。(クラシック・ロック由来の)ぎんぎんエレキ・ギター・ソロがとどろきまくるような音楽なんか、もはや時代遅れである、のかどうかはまた別な機会に考えたいと思います。ぼくは好き。

 

実はある時期以後の演歌もぎゅいんぎゅいんの(つまりファズなど歪み系&サステインなどエフェクターを効かせた)エレキ・ギターと相性がいいわけで、御多分に洩れず岩佐美咲のばあいもそれがいえます。だからその〜、新世代演歌歌手ではあるんですが、古式ゆかしきというか、演歌の従来ステレオタイプに沿ったサウンド・メイクがされているんですね。美咲の編曲はすべて野中”まさ”雄一。

 

そもそも歌のあいだに(ギターにかぎらず)「聴かせる」楽器ソロがはさまっているっていうような曲のつくり、アレンジ手法がもう古いので敬遠されるようになったという世界的ニュー・スタンダードがあるかもしれませんが、それはそれ、美咲のシングル表題曲全10個から飾ったエレキ・ギター・ソロが聴けるものを抜き出してリストアップしてみました↓

 

「無人駅」前奏、間奏
「鞆の浦慕情」間奏がまるでジョー・ウォルシュ(「ホテル・カリフォルニア」)
「初酒」(アクギだけど)
「ごめんね東京」間奏(ごく短い)
「佐渡の鬼太鼓」(ほんのちょっとだけ)
「恋の終わり三軒茶屋」(ギターじゃなくサム・テイラーふうのむせぶテナー・サックス)
「右手と左手のブルース」(アクギ)

 

あんがい少ないというか、ぼんやりした印象としてはもっとたくさんあると思っていました。じっくり検証しなおすと上記のとおりなんですね。このうち、ロック・ギター界隈で多用され一種のイコンのようになった(のは過去の話かもですが)ファズ&サステインの効いたエレキ・ギター・ソロがあるものというと、「無人駅」「鞆の浦慕情」の二つのみ。

 

う〜ん、たったそれだけか。ぼくの抱いていたのは根拠のない先入見だったんですか。裏返せば「無人駅」「鞆の浦慕情」のパワーは強く、ファンのあいだでも大きな影響を持ってきたということかもしれません。前者はデビュー曲、後者は最大のヒット曲ですから。

 

「無人駅」ではイントロ出だしのうずまきのようなストリング・アンサンブル(は歌謡界に多い)に続きいきなりぎゅわ〜んとギターが鳴りますから、短いものだけど聴き手へのインパクトが大きいです。間奏のソロは、まずマンドリンふうの弾きかたをするアクギに続き、前奏同様のエレキ・ギター。

 

これがデビュー・シングルで、いままでの全岩佐美咲活動中最も回数多く歌われているものなわけですから、美咲=エレキ・ギター、というイメージが焼きついてもある意味ムリはありません。

 

そんなイメージがもっと強烈なのが「鞆の浦慕情」。これの間奏におけるエレキ・ギター・ソロはですね、はっきりいってだれが弾いているのかとても知りたいぞ!と思うほど本格的。スタジオ・セッション・ギターリストがちょろっとお仕事的にやっつけたというような感じではありません。

 

たとえれば(実は演歌界に多い)イーグルズの曲「ホテル・カリフォルニア」(1976)で弾きまくるジョー・ウォルシュのようじゃないですか。美咲のオリジナル楽曲を聴いていてぼくがいちばん好きな時間の一つ。スキップしたら魅力半減ですよ。

 

一部識者がときおり指摘してきたような、エレキ・ツイン・リードが炸裂する「ホテル・カリフォルニア」が日本の演歌アレンジにおよぼした影響とその痕跡については、ぼくも一度じっくり考えてみたいとかねてより考えていますが、岩佐美咲という新世代歌手でもこの法則があてはまるのかもしれませんよね。

 

(written 2022.5.26)

2022/05/26

カタルーニャと中東を結ぶえにし 〜 カローラ・オルティス

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(2 min read)

 

Carola Ortiz / Pecata Beata
https://open.spotify.com/album/5jaVX7jaDgcARYb0pewkSd?si=ORLujudAR5-pb63TsxKp6A

 

やはりディスクユニオンに入荷したカタルーニャのレーベル、ミクロスコピのカタログから。きょうはシンガー&コンポーザー&クラリネット奏者、カローラ・オルティスの2021年作『Pecata Beata』。

 

カタルーニャ出身の音楽家なんですが、聴いて感じるのは汎地中海的というか、北アフリカ〜中東方面を俯瞰するアラブ・テイスト。色濃い哀感、孤独感なんか、完全にそうじゃないですか。なんだったら使われているメロディの音列やヴォーカルの節まわしだってそう。

 

さわやかモーニングみたいなジャケット・デザインの印象からは想像もつかないわけですが、考えてみればイベリア半島とそのへんは歴史的に深いえにしがあるわけで、音楽的な類縁が表現されるのは当然といえます。

 

さらに本作ではフランスのシャンソンっぽい退廃とメランコリーが聴かれる曲もあったりして、なんだか全体的には世紀末っぽいムードというか、なんでしょうね、この暗さ。というかこういったメロディが好きなソングライターなんでしょう、べつに本人のキャリアになにもないみたい、スアド・マシっぽい色を強く感じますけど。

 

ただひたすらアラブな旋律体系に惹かれているだけかもしれません。それで本作収録曲、メロディはカローラの自作ですが、歌詞はカタルーニャの女性詩人たち(モンセラット・アベージョ、メルセ・ロドレーダ、ビクトール・カターラ、アナ・グアルなど)の詩を使っています。

 

ですから一種のコンセプト・アルバムでもあるわけです。クラリネット類を吹くときはかなりジャジーな長尺ソロを展開しているし、そもそも曲の持つリズムやハーモニーだって民族音楽的でありながらチェインバー・ミュージックっぽいジャズ・テイストを発揮しています。

 

そうかと思うと、たまにビートが旋回するパートではややバルカン的ともいえるパターンを使っているし、しかし祝祭感などはぜんぜんなく、暗くうつむいて憂鬱そうにたたずんでいるような、そんな音楽ですかね。個人的になにか強く惹きつけられるものがありました。

 

(written 2022.5.24)

2022/05/25

ジョアン・ゲラ(ドラマー)ってだれ?〜 アルバ・カレタ・クインテット

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Alba Careta / Alades
https://open.spotify.com/album/3UF7AH9JPo73c9PmqEuw1R?si=lPXdAfv2SoKtf24xTTJHPA

 

カタルーニャのレーベル、ミクロスコピ(Microscopi)のカタログをディスクユニオンが扱うようになったということで、五月十日すぎだったかに一挙13作品が同時入荷していました。
https://diskunion.net/latin/ct/news/article/1/106076

 

ぼくみたいな情弱人間も知ることとなり、さがしたら13作ぜんぶサブスクにあったので、こちらも一挙にぜんぶ網でさらうように漁り聴き。特に印象に残ったものだけちょこっとメモしておきます。

 

きょうの話題は1995年バルセロナ生まれのジャズ・トランペッター、アルバ・カレタの2020年作『Alades』。リズム・セクション+2ホーンズという典型的なジャズ・クインテット編成で、パーソネルは以下のとおり。

 

tenor sax / Egor Doubay
piano / Adrián Moncada
bass / Jort Terrwjin
drums / João Guerra

 

こういうの、なぜディスクユニオンのサイトは掲載しないんでしょうか(CD買えってことか)。なぜなら聴いているとサックスやピアノ、そしてなによりドラマーのあざやかな演奏ぶりに耳を持っていかれるからです。これだれ?ってなりますから。

 

ジョアン・ゲラというこのジャズ・ドラマーについては、調べてもあまりくわしい情報が出てこず。どうもアムステルダムのミュージシャンらしく、本人のInstagramで顔だけ見れば20代っぽい感じ。2017年からアルバのレギュラー・メンバーで、完璧なる新世代スタイルの持ち主。とにかく圧倒的なドラミング・チャームに惚れちゃいました。

 

速めのビートが効いたアップ〜ミドル・ナンバーではジョアンの細かな手数の多さと複雑なポリリズム表現力がきわだっていて、1曲目、2曲目とジョアンのドラミングばかり聴いてしまいます。ピアニストもすばらしい。ベーシストはまずまず堅実でリズム・キープに徹しているでしょう。

 

3曲目「Oceans」なんか、もう超絶的といいたいくらいなリズム・セクションのコンテンポラリーで迫力満点な躍動感によだれ。こ〜りゃカッコいい。中盤、無伴奏でアルバがテンポ・ルバートなトランペット・ソロを披露する場面では、それもみごとと思えます。ビートの効いたアンサンブルが再度入ってくるとやはり悶絶するようなビート感。ジョアン、すごいぞ。ピアノ(アドリアン・モンカーダ)もいい。

 

このへんまでのリズム・セクションの動きを聴いて、もうこのアルバムは傑作だと信じてしまいますが、収録曲はいずれもアルバの自作です。コンポジション&アレンジメント/ソロの時間比がバランスよく練り込まれていて、そこも現代ジャズならではですね。

 

トランペットだけでなくヴォーカルを披露する曲もあったりして、器楽演奏にかんしてはすべてがパッショネイトだけど乾いていて硬質な肌ざわりなのに、歌のほうは情感豊か。そっちは余技っぽいですが、ギャップ萌え。あくまでも中心はインストルメンタル部分で、二年前の作品にもかかわらず今年のベスト・テンに選びたいほど、好き。特にジョアン・ゲラ(ドラマー)。

 

ブラジル〜アルゼンチン方面の現代ジャズ好きにも推薦できそうですよ。

 

(written 2022.5.23)

2022/05/24

エチオピア・ポップス新世代 〜 ニーナ・ギルマ

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Nina Girma / Majete
https://open.spotify.com/album/3nsD5QqCtd6WGqyE75TX2r?si=p4pSvXndR2-8aG34HlHp-w

 

エチオピアの(ほぼ)新人、 ニーナ・ギルマのデビュー・アルバム『Majete』(2022)は、ローカルなエチオ・ポップらしさを残しながらも、基本的にはインターナショナルなコンテンポラリーR&Bになっていると言っていいでしょうね。

 

いはゆるアフロビーツ(フェラ・クティらのアフロビートとは別なもの)がベースにあるんですが、それにアメリカ産というか全世界的な流れになったネオ・ソウル以後のモダンなブラック・ミュージックやヒップ・ホップを溶け込ませたトラック・メイク。メロディ・ラインや使用楽器にエチオピア・カラーもそこそこあるっていうのがアイデンティティを主張しています。

 

ヴォーカル・トーンのデジタル加工がここでも多用されていて、どうも個人的にはナマ声が好きなもんですからそこだけはイマイチなんですけども、とてもいいなと感じるのはそれでもキュートでチャーミングな声質と歌いまわし。ラップ以後的歌もの特性みたいな部分もあります。

 

そしてやはり本作のプロデューサー、カムズ・カッサの手がけたサウンドがなんといってもサイコーです。ダンスホール・レゲエなどを基調としたアフロビーツでありながら、伝統性と現代性をみごとに融合させた手腕は特筆すべきもの。カムズあってこそ、ニーナ初のフル・アルバムが成功作になりました。

 

(written 2022.5.1)

2022/05/23

いつだって音楽なんかもひとり聴き(川柳)

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Spotifyがないと、もはや生きていけない人間になっちまいましたが、このサブスク・サービスはときたまビックリするほどイヤなことをしてくれます。というのはちょっと前から宣伝されていたSpotify Duoのこと。

 

こういうプランができたというのをただ言っているだけだったから関係ないやと無視していたんですが、こないだなんかわざわざぼく宛のメールでお知らせしてくださりなさりやがったんですからね。日をおいて二通も。アホちゃうのんか。

 

いっしょに暮らす二人向けのプレミアム・プラン(プレミアムとはなんでもできる無制限のやつ、ぼくもこれ)というわけで、月額が¥980のままだから、バラバラに登録するより二倍お得というアピールなんですが、そんなもんねえ、こっちはず〜〜〜っとひとりだっちゅ〜ねん。だれかれかまわずこんなメールばらまかないでよ〜Spotify。

 

コミュ障でいつもひとりぼっちの人間をどうしてこんなふうにいじめるのか、神経をわざと逆なでしてくださっておられるんじゃないかと思うほど不快だったSpotify Duoプランお知らせの販促メール(二通)。二人住まいかどうかSpotify側は確認できないことだからしょうがないとは思いつつ、しかしこのデュオ・プランには重大な誤謬がふくまれているようにも感じます。

 

それは、音楽(映画でも絵画でも文学でも)ってものは基本「ひとり」でやる行為で、たとえだれかといっしょに暮らしていても孤独な営みなのだという根本が理解されていないかもと思えたこと。ふだんから熱心に音楽を聴いているリスナーには説明無用なことですね。

 

イベントやコンサートなどの会場で大勢のお客さんといっしょに一個の音楽を聴いているときだって、たしかにみんなで同じものを聴いてはいるものの、ひとりひとりがそれぞれバラバラでステージに正対しているわけなんですから。恋愛や性行為みたいな共同作業じゃありません。つまり、ライヴ音楽の観客は常に集団オナニー。

 

ここは音楽愛好において決定的な重大事項、本質です。そういえばずいぶん前、ぼくが大学生だった1980年前後あたりに大流行したソニーのウォークマンも、いまのSpotifyのデュオ・プランみたいに、一個の機械にヘッドフォン差し込み端子が二個付いているカップル用のモデルを宣伝していたこともありました。

 

なんかそんな映像というかテレビCMだったかもしれないんですが、当時見たようなかすかな記憶があたまの隅に残っています。仲のいいカップルが、一個のウォークマンで同じ一個のカセットテープ音楽を仲よく同時に聴ければ…、う〜ん、たしかに楽しいデートになるのかもしれませんけど。

 

この種の発想は、だからずっと前からあるにはあって、Spotifyが最近急にデュオ・プランを言い出したのだってべつに目新しい商売じゃないんでしょうけどね。どんなに仲のいい同居カップルだって、なにをどう聴きたいか?の好みはバラバラで、人間それぞれ志向性が千差万別だっていう、音楽聴きの根っこの原点を犯そうとするものではあります。

 

(written 2022.5.20)

2022/05/22

マイルズ流ジャズ・ファンク完成へのアプローチ1965〜68

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Miles Davis 1965 - 68
https://open.spotify.com/playlist/0IIQR2HvQVurNbeQWfqGWM?si=d3c219700fb846d8

 

さあ、これを書くのはですね、ちょっと前のInstagram投稿で「生涯の探求テーマである」みたいなことを言ってしまったがため大仰なことになってやりにくいですが、気にしていたらいつまで経っても書けないので、軽い気分でちょこっとメモしておきます。

 

1963年にレギュラー・メンバーとなっていたハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムズにくわえ、64年にウェイン・ショーターをむかえニュー・クインテットになって『E.S.P.』(65)を発表して以後のマイルズ・デイヴィスが、徐々に8ビートと電気楽器をとりいれての(ジャズにおける)ニュー・トレンドに移行したというのはまぎれもない事実。

 

そのプロセスは(かつての油井正一さんの見解とは異なりますが)実験の段階をとびこえて一気に完成品として世界に提示された(『ビッチズ・ブルー』70)というわけじゃなく、マイルズなりの試行錯誤や準備段階があったんだという、これは当時リリースされていた公式アルバムだけたどってもわかることです。

 

1965年というとアメリカ、イギリスといわず世界中をすでにビートルズが席巻していた時期。若いころからあたらしい音楽、未知の音楽をふだんからどんどん聴いていた向学心旺盛なマイルズで、晩年には東京ドームで「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」を演奏したことだってあるんですから、60年代のビッグ・バン当時からロックを聴いていたことは “絶対に” 疑えません。

 

なんとか自分の音楽にそれをとりいれて活かしたいとも考えていたでしょうが、公式録音となると慎重さや保守性もかなりあったミュージシャンなので、なんの躊躇も衒いもなくそれを示すということは(当時)しませんでした。ロックというよりカリブ〜アフリカ方向を経由するような変型8ビートといったかたちでまずは姿を現しはじめたんです。

 

もちろんリズム&ブルーズやロックの8ビートだって、源流をたぐればアメリカン・ポピュラー・ミュージックの歴史におけるカリビアン・アフロ回帰なんですけども、マイルズはまずとりあえずメインストリームなアクースティック4ビート・ジャズとラテンな8ビートを(ちょっとゆがめて)かけあわせるという地点から出発しました。

 

その端緒が初作の『E.S.P.』からすでに出ているようにみえますが、本格的にはその次『マイルズ・スマイルズ』(67)以後、ポリリズミックなビート活用が鮮明に聴かれるようになりました。プレイリストに選んでおきましたが「オービッツ」「マスクァレロ」「ライオット」でも、特にトニーとロンの重層的なインタープレイで、4/8ビートが混淆されています。

 

たとえばロンが4/4拍子のウォーキング・ベースで刻んでいるあいだも、トニーは特にシンバルとスネア(なかでもリム・ショット)で8ビートを表現していたり、ばあいによってはトニーひとりで、ハイ・ハットを一小節に四つベタ踏みしつつスネアではカリビアンな8ビート・リム・ショットを同時に奏でている時間もあります。

 

こうした(ジャズ・ロックへの準備段階としての)アフロ・カリビアン・ジャズがもっと色濃く鮮明に表現されているのが、1981年の未発表集二枚組『ディレクションズ』で日の目を見た二曲「ウォーター・オン・ザ・ポンド」「ファン」。これらにはエレキ・ギターリストも参加していています(67年録音の前者はジョー・ベック、68年の後者はバッキー・ピザレリ)。

 

それだけでなくハービーにもエレキ・ピアノやエレキ・ハープシコードを弾かせ、テーマ演奏部でロンの弾くベース・ラインにギターと電気鍵盤をユニゾン・シンクロナイズさせることによってグルーヴを産み出そうとする試みが聴かれます。曲想もカリブ〜アフリカ的ですし、傑作『キリマンジャロの娘』(69)を先取りしたものだといえるはず。

 

このへんまでくると、『ネフェルティティ』(68)までは可能だった従来的なメインストリーム・ジャズの枠をポリリズム方向に拡張するという態度では理解がおよばないといった地点にまでマイルズの音楽は到達していて、間違いなく他ジャンルとの接合でニュー・ミュージックにチャレンジしていることがあきらかになっているでしょう。

 

その結果、ジャズ的なインプロ・スリルというより明快でグルーヴ・オリエンティッドな音楽を志向するようになり、出てきたのが「スタッフ」(『マイルズ・イン・ザ・スカイ』68)です。プレイリストではその前に同アルバムから「カントリー・サン」をおきましたが、これがなかなか興味深い一曲。

 

「カントリー・サン」にはテーマがなくソロだけでできていて、しかも4/4ビートのパート/テンポ・ルバートなバラード・バート/ファンキーな8ビートのジャズ・ロック・パートの三つが直列し、ソロをとる三人がこれら三つを順に演奏するといった具合。であるがゆえにロックな8ビートの生理的快感がきわだっていますが、曲全体では過渡期的といえるものです。

 

それら三つの要素、『E.S.P.』〜『ネフェルティティ』あたりまでは多層的にレイヤーされていたもの。ジャズ耳にはそちらのほうがおもしろいでしょうけど、マイルズとしては分割し、ファンキー・グルーヴをとりだして鮮明に打ち出す方向へと進んだんです。

 

こうしたマイルズのニュー・ディレクション in ミュージックは、チック・コリア&デイヴ・ホランドにメンバー・チェンジしての初録音「マドモワゼル・メイブリー」「フルロン・ブルン」(『キリマンジャロの娘』)でようやく完成品となり、新時代のジャズ・ロック、ジャズ・ファンクがはっきりしたわかりやすいかたちで表現されるようになりました。

 

ギル・エヴァンズの助力を得てジミ・ヘンドリクスの「ウィンド・クライズ・メアリー」(67)のコード進行を使いながらも、ロック・バラードというよりリズム&ブルーズ/ソウル由来のディープなノリとタメを持つ「マドモワゼル・メイブリー」もすばらしい。

 

そしてなによりジェイムズ・ブラウン「コールド・スウェット」(67)におけるドラミングをトニーが参照している爆発的な「フルロン・ブルン」のグルーヴ・フィールは、完璧なるマイルズ流ジャズ・ファンクの完成品といえるもの。69年夏録音の『ビッチズ・ブルー』への道標はここにくっきりと示されています。

 

(written 2022.5.21)

2022/05/21

これもジャズから連続的に産み出されたものなのだ 〜 クーティ・ウィリアムズの40年代エンタメ・ジャンプ

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(4 min read)

 

Cootie Williams Selection
https://open.spotify.com/playlist/0avUTA6AmcGi3LpT6agNr3?si=af12bfde9da54ebf

 

きのう書いた『ホット・リップス・ペイジ・セレクション』と同時期に作成したSpotifyプレイリストがきょう話題にしたい『クーティ・ウィリアムズ・セレクション』。上でリンクしておきましたが、CDだとやはりこれも仏クラシックスの(廃盤)で、サブスクだと同じく「Complete Jazz Series」で、年代順に聴けます。

 

クーティの「Complete Jazz Series」は1941年1月録音からはじまっていますね。デューク・エリントン楽団で名をあげたこのジャズ・トランペッターは、40年にそこを辞めベニー・グッドマン楽団に移籍しています。

 

しかし一年で脱退し自分のバンドを結成して活動するようになってからは、王道ジャズというよりブラック・エンタメ系にハミ出したブルーズ由来の猥雑ジャズをキャピトルやマーキュリーなどに録音しはじめたのが、ですから41年のことです。

 

仏クラシックスのCDもサブスクの「Complete Jazz Series」も、1949年9月録音で終了していますが、Wikipediaによれば50年代のクーティの活動はどうもよくわからないらしく、人気が凋落し、そもそもバンドの規模も少人数編成にしていたそうで、なにがあったんでしょうね。

 

1962年にデューク・エリントン楽団に復帰して以後は、同楽団で王道ジャズ路線を死ぬまで続けたクーティですが(85年没)往時の輝きはもはやなく。ぼくみたいなリスナーには自身のバンドでの40年代ジャンプ系録音がいまでも最高に楽しくて忘れられませんわ。

 

すくなくともその40年代音源だけはサブスクでも漏らさずぜんぶたっぷり聴けるんで文句なしです。30年代にはデュークのところで輝かしいキャリアを誇ったクーティが、その後自分のバンドでこうしたエンタメ系へと移行したのはなぜだったんでしょう。なんにせよ彼我の区分を厳密にせよというのはどだいムリな話。

 

正直に言って、ジャズ/リズム&ブルーズ/ロックの区別をしたがるそれぞれファンのことがぼくはさっぱり理解できないです。好みはひとそれぞれあるからやむをえないにしても、もしどれかを否定する方向に走ると自分の足下もあやうくなるっていう事実を認識してほしいものです。

 

クーティみたいな音楽家のキャリアをじっくり聴くと、ますますこの感を強くしますね。自身のバンドでの1940年代音源では、ジャズを土台におきつつ大きく芸能方面に踏み出してジャンプ〜リズム&ブルーズをやっていたことは、聴けばだれでもわかるはずのこと。

 

なかには1949年の「レット・エム・ロール」「スライディン・アンド・グライディン」「マーセナリー・パパ」みたいな、こりゃもう(初期型)ロックンロールだろう、すくなくともその先駆けには違いないと断言できるものだってあるんですから。それらだってジャズから連続的に産み出されたものですよ。

 

ブラック・エンタメ系にハミ出した1940年代クーティ自己名義音源に(かつてのデュークのところでの「コンチェルト・フォー・クーティ」みたいな)ジャジーなスリルとか快感はないかもしれませんが、曲のノリと猥雑感がこの上なく楽しくてですね、これもまた別の種類の音楽美なんです。

 

(written 2022.4.12)

2022/05/20

音楽でやるセクシャル・ハラスメント 〜 ホット・リップス・ペイジ

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(6 min read)

 

Hot Lips Page Selection
https://open.spotify.com/playlist/5pEtYEsBFSSeIfFk1HZeZ9?si=af0f32584bfa4872

 

ホット・リップス・ペイジについては以前書いたことがあります。その記事タイトルも「猥褻ジャズ・トランペッター」。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2017/01/post-e4bf.html

 

かなりえげつないサウンドの持ち主で、トランペットをスケベな感じでいやらしくグロウルさせたらリップス・ペイジ以上のジャズ・ミュージシャンはいなかっただろうといえるほどの、いはば音楽でセクハラをやっているみたいなもん。

 

カウント・ベイシー楽団にも在籍経験があるリップス・ペイジ、自身のバンド名義録音は、御多分に洩れず権利を持つアメリカ合衆国の会社が公式リイシューなどするわけないので、CDではぼくも仏クラシックスの年代順全集で楽しんでいました。しかし『1938 - 1940』と『1940 - 1944』の二枚しか持っていなかったんです。

 

サブスクだと、仏クラシックスがCDリイシューしていた古い時代のジャズ音源は「Complete Jazz Series」というものでやはりクロノロジカルに聴けるようになっています。以前Astralさんも言っていましたが、どういう関係なんでしょうねえ。

 

ともあれこれでCD時代は買い逃し入手困難になり地団駄ふんでハンカチをかみちぎるしかなかったものも、問題なくぜんぶ聴けるっていうわけで、ありがたやありがたや。サブスクに “ソールド・アウト” なんてないので。ときどき消えるけれども〜。

 

最高にスケベな「Gee Baby, Ain’t I Good To You」で終わる1944年録音分までしかCDでは持っていなかったんですから、それ以後のものは今回はじめて聴いたことになります。Spotifyには1953年のものまで年代順にありました(リップス・ペイジは54年没)。トータルで個人的におもしろいなと感じるものを選び出しプレイリストにしておいたのがいちばん上のリンクです。

 

トランペットにプランジャー・ミュートをつけて吹き、わうわうぐわぐわ〜っていう感じのジャングルなサウンドにしてねちっこく攻めるのがリップス・ペイジの持ち味。この手の音色はデューク・エリントン楽団のブラス・セクションも得意としましたが、欧州公演では客席から思わず笑い声があがったというエピソードすらあったくらい。

 

紳士淑女だったら顔を紅潮させながら眉をひそめ、「このようなもの、公衆の面前ではまかりなりません」などと、あるいは日本のPTAだって怒りだしそうな、そういった音楽をやったジャズ界の代表格がリップス・ペイジですよ。

 

ジャズ界といっても、そもそもこういった芸能エンタメ系の猥雑ジャズはある時期以後ファンもクリティックやジャーナリズムも完全に相手にしなくなったというのが事実。いや、はじめから「わき道」だったかもしれませんが、ジャズ王道からハミ出し忘れ去られていたこういう音楽を発掘・再評価したのはブルーズ/ロック系のリスナーや批評家。日本では中村とうようさん。

 

21世紀的な価値観からしたら消滅やむなしかもしれない一種のセクハラ音楽かも?とすら思えるリップス・ペイジの録音ですが、いまでも聴けば楽しいと思えるのはやっぱりぼくもオヤジだから?現代的意味とか新しさみたいなものなんてもちろんちっともありません。ただおもしろいから聴くだけなんで、ブルーズ系の猥雑エンタメ・ジャズでいっときの快楽を味わうっていう、それだけ。

 

リップス・ペイジの音源は、最初ただスケベな感じでグロウルしていただけのジャズだったのが、1940年代なかば以後は(時代にあわせるように)ジャンプ・ミュージックのフィーリングをみせるようになったいたのも興味深いところです。たとえば1947年の「セイント・ジェイムズ・インファーマリー」。

 

この曲はサッチモ(ルイ・アームストロング)やキャブ・キャロウェイもやったエンタメ・ジャズの定番ナンバーですが、ここでのリップス・ペイジ・ヴァージョンでは跳ねる8ビートふうのジャンピーなリズム感に注目してほしいと思います。プランジャー・ミュートを使わずオープン・ホーンで吹いていますが、使ったら似合ったかもしれませんよね。ジャンプ・ミュージックで破天荒なテナー・ブロウが流行ったように。

 

1950年代録音になれば、そういったフィーリングはいっそう強化されていて、これはもうほぼリズム&ブルーズでしょう。ダイナ・ワシントンふうの女声ヴォーカリストも参加するようになって、リップス・ペイジと掛けあいで歌うのも楽しい。52年の「アイ・ボンゴ・ユー」みたいなラテン・ナンバーも最高。

 

プレイリストの最後には「セイント・ジェイムズ・インファーマリー」の1953年再演を入れておきました。ライヴ録音っぽいですね。ここではプランジャー・ミュートでのグロウルをいやらしく使い、47年ヴァージョンと比較してもより猥雑さが増しているのがナイス。

 

(written 2022.4.11)

2022/05/19

世界のポピュラー音楽が、濃厚な表現を避け、近年こうしたあっさり淡白系へ傾いているというのは言を俟たないところ 〜 マルシア

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(2 min read)

 

Márcia / Vai e Vem
https://open.spotify.com/album/21cZZsiiS2oQspfOQoUUja?si=Y8dvBPZLQfmJhhwO3GFNkQ

 

マルシアという名前は日本でネット検索するにはちょっとやっかいで、ブラジル人やポルトガル人のMarciaで調べても、カタカナのマルシアでも、猪俣公章門下だった例の演歌歌手マルシアの情報ばかり大量に並んでしまい、ちょっとね。そもそもありふれた名前ではあります。

 

きょう話題にするのは1982年リスボン生まれポルトガル人歌手のマルシア。その最新2018年作『Vai e Vem』がなかなかいいと(ぼくは)思うんですよね。基本自然体、フォーキーで、リキまず飾らず、さり気ないおしゃべりのようにも、ひとりごとのようにも歌うスタイルがですね、ぼく好みです。

 

個人的に好きなアントニオ・ザンブージョによく似ていて、マルシアも声を張らず伸ばさず、下向いてぼそっとつぶやくようなささやき系ヴォーカルなんですね。そして、このアルバムには実際ザンブージョが一曲ゲスト参加しています。

 

ザンブージョだけでなく、サムエル・ウリアが一曲、サルヴァドール・ソブラルも一曲づつゲスト参加していて、だから同じポルトガルで近年人気の若手新感覚派男性歌手を招いてのマルシア自身もそうである新世代的あっさりヴォーカルを聴かせた、ちょっとフィーリンっぽいようなボサ・ノーヴァっぽいような、そんなファド・ミュージックだと言えましょう。

 

こんなのはどこもファドじゃないよ、気持ち悪いだけ、っていうのはザンブージョあたりにもずいぶん向けられてきた悪口だと思うんですが、このマルシアもまったく同系統の新感覚派ファド新世代なんですね。世界のポピュラー音楽が、濃厚な表現を避けるようになり、近年こうしたあっさり淡白系へ傾いていることは言を俟たないところでしょう。

 

聴き手によって好みはさまざまなので、他人がどう言おうと関係ありません。ぼくはこういう音楽が好きなので聴くだけ。

 

(written 2022.3.21)

2022/05/18

R.I.P. to the iPod (2001-2022)

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(3 min read)

 

唯一の現行機種iPod touchも製造をやめ在庫限りで販売を終了するというAppleの公式発表が先週ありましたね。大手マスコミなども報じたのでみなさんご存知でしょう。

 

これで2001年にはじまったiPodシリーズの歴史に約20年でピリオドが打たれることになりました。しかしこれといったショックも感慨も聞かれなかったのは、もはやとうに事実上役目を終えていた工業製品だとみんなわかっていたからでしょう。

 

AppleにとってiPodはiPhone(2007〜)開発への礎となり、そして皮肉なことにそれに取って代わられることになったわけです。音楽を持ち運ぶ作法も、CDからパソコン経由でインポートして or ダウンロード…というんじゃなく、スマホでストリーミング・サービスにアクセスしてどこででも聴けるというのがあたりまえになりましたから。

 

以前くわしく書きましたように、音楽を携帯する行為は1979年の初代ウォークマンで誕生したものでしたが、ウォークマンが樹立した思想を発展的に継承し、デジタル時代に普及させたのがiPodでしたね。個人的にはそのあいだにポータブルMDプレイヤーの時代がありましたが、iPodも2005年(だったはず)に買って便利に使いはじめました。

 

CDから音楽ファイルを入れるのにパソコンを必要とするものなので、だからそもそもパソコンなんて触ったこともないよというZ世代にはこの点でもiPodは時代遅れになっていたんじゃないでしょうか。そうそう、いまや20代以下はパソコン使えないので、企業などの新人研修ではそこから教えるそうですよ。

 

iPodがはじめたことじゃなかったにせよ、音楽を持ち運んで外出時に気楽に聴けるといういまのぼくらの日常的ライフ・スタイル、21世紀的にはやはりAppleが普及させたものかもしれません。上でウォークマンの名前を出しましたが、いまもストリーミング型携帯プレイヤーとして現役のWalkmanブランドだって、iPodの思想を取り入れなかったらもう終わっていたかもしれませんし。

 

iPod(とiTunes)は音楽産業のありかたをも抜本的に変化させ、レコード会社やミュージシャンたちにも大きな影響を与えたという点も見逃せない歴史の転回でした。音楽受容のありようが変化したので届け手側だって変わらざるをえませんでしたし、音楽がそれ以前とは同じじゃなくなりました。

 

最後の現行機種iPod touchなんて、iPhoneをベースにしたモデルですからね。iPodのほうが母なのに、子であるiPhoneに支えられないといまや生きていけないといったことになったわけで、それもとうとう寿命が尽きることとなりました。

 

(written 2022.5.17)

2022/05/17

いちばんダメだったあのころのぼくを、モー娘。の「LOVEマシーン」とやぐっちゃんが救っていた

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モーニング娘。/ LOVEマシーン
https://www.youtube.com/watch?v=6A7j6eryPV4

 

こないだ、いやちょっと前か、わさみんこと岩佐美咲がなにかのコンサートでモーニング娘。のメガ・ヒット曲「LOVEマシーン」(1999)をカヴァーするということがありました。わさみんによく似合いそうですよね。

 

モー娘。の「LOVEマシーン」シングルは99年の9月に発売されています。しかし買いませんでした。そもそもモー娘。は一枚もCDを買ったことがありません。テレビの歌謡芸能番組で、もれなくぜんぶ聴けましたから。いま聴こうと思ってもサブスクにモー娘。が一曲もないのはなぜだか知りませんが。

 

「LOVEマシーン」。あるとき突然テレビから流れてきたノリいいディスコ調のダンス・ポップに思わず前のめりになったんです。すぐにモー娘。の新曲だと知り。このグループのことは、テレビ東京で毎週日曜夜に放送されていた『ASAYAN』っていうオーディション番組で前から知っていました。

 

1999年の9月のぼくは人生でいちばんのドン底で、ちょうど直前にパートナーが家を出ていったという時期。あれでなにもかもダメになり、私生活だけでなく仕事にも行けなくなって、どうにもならずその後退職するまで、約10年間は地獄みたいなもんでした、ぼくのほうも。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2021/10/post-be8c33.html

 

モー娘。の「LOVEマシーン」はちょうどそんな時期のヒット・チューン。それがテレビ歌謡芸能界を席巻していたんです。日が落ちても照明つける気にならない暗い自室のなかでヒザを抱えてめそめそ泣きながら途方に暮れていたようなあのころのぼくにとっては、ほぼ唯一の救いだったんです。

 

曲も歌詞もノリがいいし、明るくて、バナナ・ラマの「ヴィーナス」っていう洋楽ナンバーが元ネタなんですけど、作者のつんくならではのオリジナルとしてちゃんと成立していると、いま聴きかえしても思います。つんくが書いた最大の名曲でしょうねえ(私見)。

 

そして1990年代末〜21世紀はじめごろのモー娘。にはやぐっちゃん(矢口真里)がいたんです。これが大きかった。当時まだ10代でしたが、もうかわいくてセクシーで、ぼくの好みどんぴしゃのストライク・ゾーンどまんなかなんですよね。こんなにも大好きなやぐっちゃんがいるモー娘。が「LOVEマシーン」みたいなはじけるダンス・ポップを歌うっていうのが、それをテレビの歌謡番組で観聴きするっていうのが、ほんとうに楽しみでした。

 

下のYouTubeリンクはそんなテレビ歌番組出演の際の「LOVEマシーン」。伴奏はカラオケですが歌はリップ・シンクじゃないです。2001年。そう、ちょうどそのころです、世間にとってもモー娘。にとってもぼくにとっても、この曲がいちばん大きな意味を持っていたのは。
https://www.youtube.com/watch?v=xbZzBe0tgto

 

これは作者のつんく♂自身によるヴァージョン。ご存知のとおり、つんく♂は喉頭がんで2014年の秋に手術し声を失っているので、その前です。現在でも続くモー娘。やその派生ユニット、あるいは桑田佳祐などそのほかYouTubeにいくつも上がっている「LOVEマシーン」のどれを聴いてもカッコいいと思えるので、曲そのものがいまでも大好きでたまらないっていうことなんでしょう。
https://www.youtube.com/watch?v=pvugt96zoXQ

 

あのころのぼくにとってはやぐっちゃんあってこそのモー娘。であり「LOVEマシーン」であったので、2005年の某一件で(報道発表もなく、卒業公演すらやってもらえず、まるでささっと夜逃げするように)モー娘。を脱退して以後は、興味がやぐっちゃん個人の芸能活動へと移っていくようになりました。

 

モー娘。OGで最も成功しているタレントと言われていたくらいだったのに、一度結婚しての自身の自宅不倫行為(2013年)で大バッシングを浴び、それはたぶんいまでも続いていると思うんですけど、やぐっちゃんがかわいくて笑顔がチャーミングでセクシーだっていうのはいまでもぜんぜん変わりません。それに、色恋沙汰でいろいろあるっていうのは、実はぼくにとってプラス・ポイント。清純派なんてクソくらえ。

 

やぐっちゃんは二度目の結婚でこどもが二人できて、いまやすっかり落ち着いたような感じです。ソーシャル・メディア系はInstagramだけを公式にやっていて、それで日常や仕事のことに身近に接することができるようになったのはありがたいかぎり。本人にいいねしたりされたりコメントでやりとりしたりなど、「LOVEマシーン」がヒットしていたあの20世紀末ごろのぼくからは考えられないことです。

 

(written 2022.3.20)

2022/05/16

ブルージーでまろやかなマロヤ・ジャズ 〜 メディ・ジェルヴィル

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(2 min read)

 

Meddy Gerville / Mon Maloya
https://open.spotify.com/album/5vRYlaMj80AKlSkSlwpLL7?si=rKkkVKavRKCwtuK6weRD9Q

 

2017年の『Tropical Rain』が傑作で(一部で)注目を浴びたレユニオンのジャズ・ピアニスト、メディ・ジェルヴィルですが、その後新作『Mon Maloya』(2020)が出ていることに気づきました。これ、どうしてだれもとりあげないんでしょうか。ぼくが見つけたあと、書いたのはAstralさんだけじゃないですか?
https://astral-clave.blog.ss-blog.jp/2022-02-17

 

あ、さがしたら一年以上前にMúsica Terraでピック・アップされていました。
https://musica-terra.com/2021/02/19/meddy-gerville-mon-maloya/

 

多彩で派手なゲスト参加が特徴だった『トロピカル・レイン』に比べると、今作はたしかにやや地味です。基本ピアノ・トリオ編成での演奏ばかりというにひとしいし、どの曲も演奏は落ち着いたフィーリングのもの。

 

メディのピアノをじっくり聴かせる内容で、しかもなかなか目立つのはブルージーなタッチです。ブルーズ・リックの多用というかペンタトニック・スケールにもとづいたフレイジングを多発していて、ぼく好み。

 

なかにははっきり「ブルーズ」と銘打った曲(5)もあったりして、これはもちろんそうですが、それ以外の曲でもフレイジングのはしばしにブルーズっぽさが聴きとれます。前からハード・バップ・ピアニストっぽいスタイルのメディではありますが、今作ではブルーズをことさら意識したかも?という運指。

 

アクースティック・ピアノ以外の鍵盤楽器をあまり使っておらず、生楽器演奏のテクスチャーにこだわったサウンド・メイクになっているのもいいし(ベースもコントラバス多用)、例の複合三連のマロヤ・ビートはしっかり健在、カヤンブの音も随所で聴こえます。ジャケットではやはり前作同様それを手にしていますね。

 

(written 2022.3.22)

2022/05/15

東欧音楽と中東音楽との接点をさぐる 〜 ハルヴァ

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(2 min read)

 

Halva / Dinner in Sofia
https://open.spotify.com/album/4JohdQskTqBdETuKCXzRyR?si=b9urwzk4QpOwu7KTH53NSQ

 

ハルヴァというのはヴァイオリン奏者ニコラ・コトニーを中心とするベルギーのグループらしいんですが、五人組でインストルメンタル音楽をやっています。グループ名はイスラム圏のお菓子からとったものですね。

 

ヴァイオリン、クラリネット、アコーディオン&ピアノ、チェロ、打楽器という基本編成で東欧音楽と中東音楽との接点をさぐるといった音楽性で、アルバム『ディナー・イン・ソフィア』は2021年のもの。東欧と中東は地理的に近接しているし、音楽的にも通じるものがあることは、以前からさまざまな作品で証明されていたことではあります。

 

ハルヴァの『ディナー・イン・ソフィア』、東欧から中東にかけての諸都市名が多くの曲でタイトルに織り込まれています。それはたぶんきっかけみたいなものにすぎず、べつに都市の風景が音楽的なモチーフとして描写されているわけじゃありませんが、雰囲気はわかります。

 

クレズマーなどのイディッシュ・ミュージックと東欧音楽と中東音楽を混ぜこぜにし(中東風味はやや薄いけど)、それらのサウンドを積極的に取り入れているのがわかりますが、しかし中心になっているのはあくまで東欧的というか、ややバルカン的なサウンドスケープ。

 

トルコのハルクやルーマニアの羊飼いの音楽、レバノンのベリーダンス音楽、さらにクラシック調の小曲などもこのアルバムでは演奏されていて、それらを東欧〜バルカン的な音楽要素と有機的に結合させて、独自の世界観を構築しています。

 

ラスト11曲目には表示のない隠しトラックが仕込まれていて、いったん演奏が終わって数分してからSPレコードを再生するようなパチパチという露骨にレトロなロー・ファイ処理をほどこした別な曲が出てきます。

 

(written 2022.3.15)

2022/05/14

ストーンズ・ファンにとっての悦楽 〜 エル・モカンボ 77

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(4 min read)

 

The Rolling Stones / Live at The El Mocambo
https://open.spotify.com/album/444RtK8RqcIODjfyaWTuhi?si=p6R0-HRNTQiKdcv9YJL_-A

 

本日リリースのこれがなんであるか、説明などまったく不要。ジャケットはなんだかちゃちゃっとテキトーにやった手抜き仕事みたいに見え、フィジカルなんかほしくない感じですが、中身は言わずと知れた極上品。

 

1977年リアルタイム発売の『ラヴ・ユー・ライヴ』に収録されていたエル・モカンボ音源(C面)は「マニッシュ・ボーイ」「クラッキン・アップ」「リトル・レッド・ルースター」「アラウンド・アンド・アラウンド」の四曲。

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実際ストーンズ・サイドとしてはこのトロントにおける二日間の小規模クラブ・ライヴを back to the early 60’s 的に全曲ブルーズ、リズム&ブルーズのカヴァーのみでやりたいという目論見があったらしいので、当時のリリースはこの意図に沿ったものだったんでしょう。

 

それにむかしから『ラヴ・ユー・ライヴ』ではC面エル・モカンボ・サイドがいちばん好きだというファンがストーンズ界には多くて、バンドの原点回帰的な初々しいレパートリーと演奏、そしてなによりオーディエンスたった400人の小規模シークレット・ギグというインティミットな空気感がレコードで聴く音響(がどろどろのブルーズ現場的でよかった)にも反映されていてのことだったでしょう。

 

だからエル・モカンボのフル・コンサートがとうとう日の目を見るぞというニュースに接したとき、なにも知らない情弱無知なぼくなんか、あっ、じゃあストーンズのやるライヴでrawなブルーズ・スタンダードがいっぱい聴けるんだね、やったぁ〜っ!と飛び上がったもんです。

 

現実には直前にキースがドラッグ不法所持で逮捕されバタバタしてリハーサルができず、ちょっと目標変更して進行中のツアーでふだんからかなりやりなれているストーンズ・クラシックス的なオリジナルと当時の新曲などがかなりたくさん演奏されるということになりました。

 

それでも60年代初期的な、有名ブルーズ・ナンバーのカヴァーばかりでセットを組み立てたかったという当初の意図は、オリジナル曲をやってもいつもに聴かれないディープでブルージーなフィーリングを表現する結果となって活きていて、当時の新曲でありながらバンド初期のころのようなフレッシュな衣をまとっているのはおもしろいところ。

 

今回のリリースにあたってミキシングをあらたにやりなおしたボブ栗山も、このエル・モカンボでストーンズが表現していたそんなインティミットな現場感を強くただよわすブルーズ・フィールをどこまでも大切にしてサウンド・メイクしたんだなとわかるのがいいですよね。

 

これが『ラヴ・ユー・ライヴ』で当時から大きな評価を得たのでということか、その後数年でスタジアム規模の会場でしかツアーできなくなるほどメガ企業化したこのバンドは、しかしそのつど一回はどこかで(ときどき秘密裡に)小さな会場でのクラブ・ギグをやって、立ち位置を確認するようになりました。

 

ストーンズのエル・モカンボは、原点回帰というか、折に触れてちいさな初心に立ち返ることの大切さを、そのサウンドで身をもって人間的にぼくらに教えてくれています。

 

(written 2022.5.13)

2022/05/13

リズム&ブルーズと呼ばれた音楽 〜 デューク・ロビラードのマニフェスト

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(2 min read)

 

The Duke Robillard Band / They Called It Rhythm & Blues
https://open.spotify.com/album/2Iv8pnhLaHJUf4KBNjaxU6?si=RMx-2hG4TxG0sWzfqYgdnA

 

萩原健太さんのブログで知りました。
https://kenta45rpm.com/2022/03/30/they-called-it-rhythm-and-blues-duke-robillard/

 

ベテラン・ブルーズ・ギターリスト、デューク・ロビラードの新作アルバム名は、そのものずばり『ゼイ・コールド・イット・リズム&ブルーズ』(2022)。爽快感すらあるストライク・ゾーンどまんなかの直球で、実際、ブルーズ、リズム&ブルーズ界往年の名曲群(若干の新曲あり)を小細工せずストレートに投げ込んだ一作。

 

こういった世界にあまりなじみがないとか、そもそも音楽をあまり聴かないというみなさんだって、この手の曲は一個だけ耳にしたことがあると思いますよ。長寿の深夜テレビ番組『タモリ倶楽部』のテーマ・ソング、あれですよ、あの世界がこれです。

 

今回ロビラードは曲ごとにさまざまなゲスト参加を得て、まさにこういうのがリズム&ブルーズの世界だったんだ、こういう時代があったんだよというのを、ブルーズがあたかも過去の遺物のように扱われるようになった2010年代以後の現代に、全面的に展開しています。

 

ジャンプ・ブルーズあり、ルンバ・ブルーズあり、ニュー・オーリンズ・ブルーズあり、スタックスふうあり、ロカビリーあり、ウェスタン・スウィングあり…。めくるめくアメリカン・ブラック・ルーツ・ミュージックの雨アラレで、こういった音楽にこそ強い共感をいだくぼく(だけじゃないはず)みたいな人間には感謝感激のアルバムなんであります。それも2022年の新作ですから。

 

たしかにこんな音楽はもう時代遅れっていうか、ジャケット・デザインだってジジイの世迷言的時代錯誤感たっぷりではありますが、2022年でも決して消えてなくなったわけじゃない、確実にそれを継承している音楽家やファンが間違いなくここにいるぞという、そんなマニフェストみたいなもんですか。

 

(written 2022.5.10)

2022/05/12

あなたのいる星の彼方へ 〜 タミ・ニールスン&ウィリー・ネルスン

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(3 min read)

 

Tami Neilson, Willie Nelson / Beyond The Stars
https://open.spotify.com/album/3ha32uxw82uW6rFHzErQVE?si=H5ZIiEz9SrCnnifjBpk6_Q

 

カナダ出身ニュー・ジーランド在住の歌手、タミ・ニールスンのことはいままで二度書きましたが、どうもですね、ぼくはこのひとの声が好きみたいです。なんだか心地いい清涼感があって、それがマオリ的といえるものかどうかわからないけど、心惹かれてくりかえし聴いてしまうものがあります。

 

そんなタミの2022年新曲「ビヨンド・ザ・スターズ」がこないだ出たんですが、なんとウィリー・ネルスンとの共演。曲はタミの書いたもので、ウィリーが客演するかたちの、あくまでタミ主導の一曲。七月リリース予定のタミの新作アルバム『キングメイカー』に収録されるとのこと。

 

先行で「ビヨンド・ザ・スターズ」だけ発表されたわけですが、歌詞でおわかりのとおり、愛する人物と永遠に離れ離れになってしまった主人公の喪失感を歌ったモーンフルな一曲。具体的にタミは2015年にこの世を去った父のことを想いながら曲を書き歌ったようです。

 

そしてウィリー・ネルスンが当の父役として曲中に登場し話しかけるというドラマになっているんですね。実際、ウィリー1933年生まれ、タミ77年ですから、父子としての設定がちょうどいいくらいの年齢差。そのことと、同じカントリー畑の音楽家だということで、ウィリーに声がかかったのかもしれません。

 

追悼歌ではあるんですが、三拍子の曲をお聴きになれば、哀切で深刻な悲痛感みたいなものがほぼないさわやかな調子になっていることを感じることができるはず。これこそぼくがタミの曲や歌に惹かれている最大の理由で、南洋音楽的っていうか、「ビヨンド・ザ・スターズ」はアバネーラじゃないけれど、なんだかさざなみのような抗しがたいチャームがあると思うんですね。

 

タミはまずに亡くなった父のことを歌いましたが、そうと限定された歌詞や曲じゃありません。愛する大切なのにもう手の届かない星の彼方にあるもののことを想いながら、聴き手がそれぞれの事情を投影させて感情移入していける曲で、マオリ的、と言ってしまいますが、ただよう清涼な空気感で救われます。

 

(written 2022.5.9)

2022/05/11

音楽というそびえる山を支える裾野庶民の歌の楽しみとはこういうもん

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(3 min read)

 

こないだのゴールデン・ウィークはちょうど住んでいる団地の棟のゴミ当番だったので、ゴミ置き場の管理と棟周囲の公共スペースにポイ捨てされているゴミやタバコ吸い殻を拾って歩いていました。

 

お天気のいいある午後、いつものようにごみチェックで棟まわりを歩いていると、ふと、ある部屋から歌声が聴こえてきました。姿は見えなかったけれど、レコードやCDや配信とかその他作品を流しているのではなく、住人のかたが大きな声で歌っていました、美空ひばりの「川の流れのように」(1989)を、ア・カペラで。

 

それにおおいに感銘を受けてしまったんですね。こういうのこそが一般庶民にとっての音楽というか歌の楽しみかただよねえって。熱心にレコードやCDを買い集めたりサブスクで聴きまくったりするようじゃない、世間の「大勢」にとっての歌とは、そういうもんです。

 

ぼくと同じ棟にお住まいのそのかたがひばりの「川の流れのように」を大声で口ずさんでいたのは、たぶんむかしヒットしていたころに聴きおぼえたのをそのままリピートしているかなんかだと思うんですが、あるいはひょっとしてひばりヴァージョンじゃなかったのかもしれませんけどね。

 

それでも歌、曲ってこうやって生き続けていくんですよね。ぼくの住んでいる森松団地はもちろん公営住宅(愛媛県営)ですから、低収入・無収入者向けのもの。音楽ソフトを買いまくったりできない層が住人ですし、しっかりしたオーディオ装置なんてもちろん持っていない。「川の流れのように」だってたぶんテレビ歌番組かなんかで聴きおぼえたんでしょう。

 

歌がこの世の隅々にまで浸透する、生活の一部になり、世の血肉となって沁み込んで、日常生活の不可欠な一部になる、それで生きていく、っていうのは、なにも熱心な音楽マニアやファン、紙やWeb媒体に文章を書いたりなど、そういった人間が支えているんじゃありませんよ。

 

そして、ふとしたときに団地の一室などからなにか好きな歌を口ずさむのが聴こえてくるようにまでなれば、それはすなわち裾野がひろがった、末端まで行きわたったということで、そうであってこそ音楽という山がそびえる高みを獲得することができるんです。音楽の世界を支えているのは、低地の裾野にいる無数の貧乏庶民です。

 

(written 2022.5.7)

2022/05/10

フローラ・プリムのニュー・アルバムは圧巻の傑作

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(3 min read)

 

Flora Purim / If You Will
https://open.spotify.com/album/54jqOozz2WPoJV9KXs7eRh?si=eWjYV3MxQX6ol-Idn92pmw

 

フローラ・プリム15年ぶりの新作『If You Will』(2022)がかなりいいですよね。傑作じゃないかな。キャリアと高齢なりに枯れている・円熟しているということがなく、みずみずしいピチピチした新鮮な魅力にあふれているっていう。もうビックリですよ。

 

基調になっているのはリオ・サンバをベースにしたブラリジアン・ジャズ・フュージョン。ジョージ・デュークと共作した過去曲の1「If You Will」からそれが全開のダンス・チューンで、腰が動きます。しっかしあまりにも声が若いなあ信じられんと思ったら、メイン・ヴォーカルは子のダイアナか。

 

だれが歌うにせよ、ここにはフローラが1970年代から展開してきたサンバ・ジャズ・フュージョンがしっかりと刻印されていて、しかもそれが2022年型にアップデートされているコンテンポラリーネスも聴きとれるのはやはりすばらしい現役感。この手のダンス・ミュージックは古くならないっていうのがあるにせよ。

 

2曲目「This Is Me」からはフローラがメイン・ヴォーカルですが、ダイアナの若々しさに負けていないフレッシュな躍動感があって、80歳にして衰えるっていうことと無縁なんですね、このひとは。音楽的にはまったく老化していません。

 

この2曲目は先行シングルだったもので、やはりこのアルバムに全面参加しているパートナー、アイアート・モレイラのジャム・バンドを現代にアップデートしたもの。ブラジリアン・フュージョンですけれど、快活でダンサブルな、本アルバムの白眉といえる一曲(私見)。楽しいぃ〜っ!

 

英語で歌うリターン・トゥ・フォーエヴァー時代の3「500 Miles High」はやはりジャジーに。エレベ・ソロも聴きどころのひとつです。その後はふたたびサンバ・フュージョン路線で進みます。都会的洗練と野趣が絶妙なバランスで共存融和するサウンドは聴きごたえ満点。

 

8「Dois + Dois = Tres」だけがなぜかのブルーズ、それも1960年代末〜70年代初頭ふうにくっさ〜いどブルーズ・ロックなんですが、これはなんだろうなあ。エリック・クラプトンみたいなエレキ・ギター・ソロはだれが弾いているんでしょうね。これだけアルバムのなかで浮いています。

 

ラストの9「Lucidez」はナイロン弦アクースティック・ギターとフェンダー・ローズのサウンドが熱を冷やす静謐で美しいハーモニーを持つバラード。ちょっとジャジーなミナス音楽を想わせたりもしますね。フローラのヴォーカルもきわだって魅力的に響きます。

 

(written 2022.5.8)

2022/05/09

耳に心地いいラウンジーなカリビアン・ジャズ 〜 トロピカル・ジャズ・トリオ

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(2 min read)

 

Tropical Jazz Trio
https://open.spotify.com/album/1tw5sOSOuAfHCehsIxBqeD?si=yLjJ2HgjTG-XQAj1JpWA6w

 

ジャズのピアノ・トリオ、といってもこれはピアノ+ベース+、ドラムスじゃなくてパーカッションですが、『トロピカル・ジャズ・トリオ』(2019)は、グアドループ出身の二名とフランス人ベーシストという構成。

 

トロピカルといっても、そこから連想できそうな明るい陽光や跳ねる裸体と開放感みたいな要素はこのアルバムの音楽にありません。むしろ仄暗い落ち着きが支配していて、ややダーカーというかほのかな翳り。

 

そこがいかにもラテン性を感じさせるところなんですが、やはり主役たるグアドループ出身のピアニスト、アラン・ジャン・マリーの資質ゆえということなんでしょう。同じく同地出身のパーカッション奏者、ロジェ・ラスパイユのカラフルなプレイもみごと。

 

演奏されているのはオリジナルにくわえ、多くがジャズ系の名曲。デューク・エリントン、ホレス・シルヴァー、ディジー・ガレスピーなどはカリブ(〜アフリカ)を意識した曲を残しましたからとりあげられて当然なんですが、トニーニョ・オルタ、チャールズ・チャップリン、セルジュ・ゲンズブールや、シャンソンの名曲「さくらんぼの実る頃」だってやっています。

 

いずれの曲もビギンやグウォカを下敷きとしたクレオール・ジャズ系の料理になっていて、ものによってアフロ・キューバン・スタイルやジャズ・サンバ系のアプローチも聴かれます。

 

ラウンジ・スタイルなおしゃれなピアノ・ジャズで聴きやすく、そこに若干のファンキーなアフロ・リズムをからめた、ベテラン揃いの手練れトリオならではの余裕や円熟味を感じさせる内容で、ふだん聴きの音楽として耳疲れせず、とてもいいですね。

 

(written 2022.3.11)

2022/05/08

白熱のサルサ・ジャズ 〜 スティーブ・グアシ

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(2 min read)

 

Steve Guasch y Su Orquesta Nueva Era / Siguiendo La Tradición
https://open.spotify.com/album/4jM7a1WXVTu2TDjkrB0BLa?si=8irkEs73Q2q1QIjQcz3knw

 

サルサの世界もそういえば男ばっかりですよねえ。

 

在NYラテン、ラテン・ジャズ・シーンの中核として活躍する打楽器奏者スティーブ・グアシが主役の2002年(2006年?)作『Siguiendo La Tradición』は、歌ものが少ないインストルメンタル中心のサルサ・ジャズ・アルバムみたいなもんだといえるでしょうか。

 

これがたしか昨2021年にレコードでリイシューされたということらしく、ぼくのタイムラインではかすかに話題になっていたので、それでようやく存在に気がついたわけです。

 

サルサ寄りのラテン・ジャズ作品としては特にどうってことないものかもしれませんが、ちょっと目立つのはメインストリーマーなモダン・ジャズ・ミュージシャンがよくやるスタンダード曲がいくつかふくまれていることです。

 

それも、えっ、こんなのがラテンになるの?っていうような有名曲ばかり。2「マイ・フェイヴァリット・シングズ」、10「ソーラー」(マイルズ・デイヴィス)、11「朝日のようにさわやかに」の三曲で、聴けばビックリ、原曲がなんだったかすぐには気づきにくいかもと思えるほどの変貌ぶり。

 

それらがラテン・ジャズ、サルサ・ジャズになったことなんてないと思うんですけど、ちょっと聴き、完璧にラテン・オーケストラのためにあつらえられたオリジナル・ナンバーみたいになっています。こんなの聴いたことないですよねえ。

 

ピアノやサックス、トランペットなどのソロもたっぷりで、しかもリズムが完璧キューバンなそれになっているだけでなく、原曲のコード進行も曲げてスパニッシュ・モードに展開してあるんですよね。打楽器群も派手に大活躍し、白熱のデスカルガみたいになっているパートはおおいに聴きごたえあります。

 

(written 2022.3.13)

2022/05/07

これがいまのぼく 〜 マイ・フェイバリット100

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(3 min read)

 

My Favorite 100 Tunes
https://open.spotify.com/playlist/5ZSMnayfaVFOe2P1sv7VSi?si=913d539f7f3c4b44

 

ふと思い立ち、自分で聴くお楽しみ用に「好きな100曲」というプレイリストを作成しておきました。最初100という枠は設定していませんでしたが、ドラッグ&ドロップで次々と放り込んで、ちょうど100に到達したところでストップしただけです。

 

もちろん下敷きなしのまるごしで100曲を選び出すのはむずかしい。2015年秋にブログをはじめて以来毎年末に書いているベスト10ランキングと、もうすでに400個以上になっている自作Spotifyプレイリスト、この二つを再確認しながら、これらこそいまのぼくのモスト・フェイバリットだといえるものを選んでいきました。

 

100もあれば一個一個どこがどう好きを具体的に説明するなんてできません。ざっとみわたしていただいて、だいたいこういったあたりがいまのぼくの好きな音楽だ、つまりこういう人間なんだ、という全体的な傾向を感じていただけるんじゃないかと。

 

アメリカ合衆国とブラジルと日本の音楽が中心で、しかもジャズとか、そのほかのジャンルでもジャジーで、しかもさっぱりおだやかで薄味なものがここのところの大の好みなんで、これで音楽キチガイとしての<いまのぼく>の正直なありようをそのままストレートにいつわりなく出したつもりです。

 

あれもこれも入っていない(たとえば岩佐美咲)とか、作成後に聴きなおしながら修正したい気持ちもないわけじゃありません。それでもサッチモ(ルイ・アームストロング)の1930年「ディア・オールド・サウスランド」(大好き!)や、テディ・ウィルスンのブランズウィック・セッション、ライオネル・ハンプトンのヴィクター・セッションからも一曲づつ選べましたので。

 

ブルーズ・ロック・ナンバーだって複数入ったし、演歌も歌謡曲もあり。いちおうアンガーム(エジプト)やレー・クエン(ベトナム)だって大好きなものを一曲づつ選んでおきましたし、生涯の最愛聴曲二つ「星に願いを」「シボネイ」も欠かしませんでしたよ。

 

七時間以上もあるプレイリストなので、ぜんぶを通して聴くことはふだんできません。でも集中するでもなくなんとなく流しながら、お散歩したり部屋で料理をつくって食べたりゆっくりお風呂でくつろいだりなどなど、ノン・ストップで好きな音楽ばかり聴こえてくるんで、ほんとうにリラックスできていい気分です。

 

聴いたことのない未知の音楽にチャレンジしたり、はじめての新鮮な出会いがあったりするのはもちろん緊張感があってスリリングで楽しいこと。還暦をむかえたぼくだっていまだそういった発見にわくわくしながら音楽ライフを楽しんでいます。

 

ですがそのいっぽうで、自分にとってすっかりおなじみのよく知っている好みの世界、いはばコージー・コーナーを持っておいて、気分次第でそれを流し平穏な心地で安寧するというのも大事なことだよなぁと感じるようになってきました。

 

(written 2022.4.18)

2022/05/06

愛されない者のための歌 〜「化粧」

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(4 min read)

 

化粧
https://open.spotify.com/playlist/2DosOA5mqniaF6KKuYLs9o?si=c42eb811115e4192

 

中島みゆきはサブスクに存在しない音楽家で、たぶん本人の強い意向かなにかが働いているんでしょうね。なかにはとても沁みるいい曲があるソングライターなんで、聴きたくなったらほかの歌手によるカヴァーで、ってことになります。

 

それでこないだやはりみゆきの名曲の一つである1978年の「化粧」のことを思い出すきっかけがありました。宮本浩次のアルバム『ROMANCE』(2020)のことは以前ブログでとりあげましたが、先だって四月に松山公演があり、同作に収録されていた「化粧」も歌ったそうです(ぼくは行かなかった)。

 

聴きに行った美容室経営の友人スタイリストからとてもよかったと伝え聞き、同曲のいろんなヴァージョンをまとめて聴きなおしたいと(ほんとはみゆきのオリジナルがいいけど…)Spotifyで曲検索し、あるものぜんぶ、ダブりのないようにまとめてプレイリストにしておいたのが、いちばん上のリンクです。

 

トータル七つ。桜田淳子、宮本浩次、清水翔太、丘みどり、工藤静香、navy & ivory、J-JUN とこれは出てきた順にそのまま。サブスクにだってもっとあるだろうと思っていました。坂本冬美などもカヴァーしているらしいですが見つからず。

 

宮本のとみどりの以外は初耳でしたが、やはり曲がもとからいいんですねこれは、どのヴァージョンを聴いても胸に痛いほど沁み入ります。歌詞の世界が鮮烈で、ぼくなんかもそこにとてもとても強く共感するわけですが、感情を込めずに淡々と歌うのも、エモーショナルに歌うのも、この曲に似合っていると思います。

 

七つのうちでは、やはりこの曲に強く惹かれるきっかけだった宮本ヴァージョンがいいなぁと感じたんですが、それはたんに耳なじみがあるというだけのこと。ぜんぶをじっくりなんども聴くと、ピアノ一台の静かな伴奏でしんみりつづっているようなものが実は最高かもしれません。

 

たとえば清水翔太のとか navy & ivory のとか。後者は名前も初めて見たと思って調べました。キーボードとヴォーカルの二人組日本人音楽ユニットみたいですよ。2000年結成で13年に解散しています。韓国人歌手ジェジュンのヴァージョンもピアノだけでのしっとり伴奏。

 

清水翔太ヴァージョンでは歌いまわしにやや演歌っぽい回転が聴かれます。本人の資質というより曲由来のこぶしかもしれません、みゆきの書くメロディはときどきそうなりますから。正真正銘の演歌歌手、丘みどりのヴァージョンは、たしかにそれらしさ全開。声のハリやノビや強さ、濃厚さ、フレーズ終わりごとに入る軽いけどしっかりしたヴィブラートなど、モノが違うなと思わせるものがあります。

 

がしかし歌唱力が卓越しているからといって、曲を、特にみゆきの「化粧」みたいなのを、強く沁みるようにリスナーに伝達できるかは別問題。決してここでのみどりヴァージョンがイマイチという意味ではなく、曲の力が強いソングライターなので、ストレートに歌うほうがかえっていいかも。声にも癖や色がないほうが。

 

なので、Spotifyで聴ける「化粧」七つのなかでいちばんの好みは navy & ivory のやつ。ジェジュン・ヴァージョンはピアノにジャジーなフレイジングの癖や置換和音が聴かれ、伴奏だけならこれがいちばんですけど、ヴォーカルにややリキみがあります。navy & ivory のはチェロのオブリガートが随所に入っていますが、曲想によく似合っていて効果的。

 

(written 2022.4.24)

2022/05/05

都会の退廃 〜 ジュリア・ウー『2ession』

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(3 min read)

 

Julia Wu / 2ession
https://open.spotify.com/album/55zxCUQ3WL7Pmjps4ROlrT?si=FgGMi_p3RbeXm-d5wqgEug

 

とってもいいぞと以前ご紹介したジュリア・ウー。中国生まれのオーストラリア人でいまは台湾を拠点に活躍中の新世代R&B歌手ですが、新作というかこれはなんだろう?EP『2ession』(2022)というニュー・リリースがこないだありました。

 

たったの四曲15分しかありませんが中身がサイコーなので、短く軽く書いておくことにしました。収録曲はいずれも過去にジュリアがリリースしていた既発曲の再演ニュー・ヴァージョン。

 

これはでもぼくがこの歌手を知っているからわかることで、このアルバムについていままでなんらの発表も情報も、中文ですら、さがしてもありませんし、ジュリアの公式Instagramでもまったく触れられていません。売る気ないのか?

 

ジャケット画像すらどこにも存在せず拾ってこられなかったから、今回はSpotifyアプリで表示させたのをiPhoneでキャプチャしクロップして体裁を整えたという次第。八年で初の事態だよなあ。

 

ともあれジュリアの新作『2ession』、コンテンポラリーR&Bでありながら、自身の既存代表曲のオーガニック生演奏リメイクというところに主眼がありそうな内容。いままでこの歌手をご存知なかったみなさんも入っていきやすい入門的な一作のようにも思えます。

 

四曲ともほんとうにいいです。サウンドも聴きやすいし、ナマの質感を活かしながら随所に適切なデジタル処理がほどこされています。歌手の声もソフトでおだやか。決して声を張ったり叫んだりせず淡々と歌うスタイルなのがいかにもコンテンポラリーR&Bらしいところ。

 

そんな現代的なアンビエンスなのに、レトロ趣味なぼくの大のお気に入りになっているのは1990年代R&Bふうのフィーリングがはっきり聴きとれるところです。そして新作はオーガニックな楽器演奏での組み立てにこだわったことで、よりいっそうの嗜好品となりました。

 

なかでも4曲目「你是不是有點動心」。絶品やないですか。なんですのこのムーディなアトモスフィアわ。都会の夜におしゃれなバーみたいなところで窓外のネオンでも眺めながらゆっくりくつろいでいるような、そんな洗練された曲調と伴奏と歌。= 都会の退廃。2017年の曲で、いままでに二つのヴァージョンがありましたが、今回のが最高のもの。

 

(written 2022.5.4)

2022/05/04

「フラジャイル」by ノラ・ジョーンズ 〜 『カム・アウェイ・ウィズ・ミー』20周年

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(4 min read)

 

Norah Jones / Come Away With Me (20th Anniversary Super Deluxe Edition)
https://open.spotify.com/album/38niOCuDsxhw0jIGL6Q2Ph?si=Y1NFBPWmSICCAVLgCWFnxQ

 

20周年記念ということでノラ・ジョーンズの2002年デビュー・アルバム『カム・アウェイ・ウィズ・ミー』スーパー・デラックス・エディション(2022)が出たばかり。午後のお散歩と続く夕食づくりのときにぶらぶら流していたら、なかにハッと耳をそばだてるかなりいい未発表曲がいくつか聴けましたのでメモしておきます。

 

特にCDなら三枚目にあたる部分に数曲ありましたが、なかでもラスト13曲目に置かれた「フラジャイル」。これはすばらしかった。泣きそうになっちゃって、そのままなんどもくりかえし聴きました。こんなにも沁みるのに、20年前ブルース・ランドヴァル(当時のブルー・ノート社長)はボツにしちゃっていたなんて。

 

それはわからないでもありません。デビューに際し、ノラのことをいはゆる<ピアノ・ガール>的な立ち位置で売り出そうとしたでしょうからね。クリオ・ブラウンとかローズ・マーフィとかあの手のピアノ弾き語り女性ジャズ・シンガーの21世紀版として。

 

それなのにノラの「フラジャイル」はアクースティック・ギター一本だけでの伴奏なんですね。弾いているのはビル・フリゼール。ちょっと会社の思い描くセールス・イメージにあわなかったと思いますが、それでもこれは絶品なんですよ。20年が経過してノラは大物になったので、自分の意に沿うように作品を出すことができるようになったおかげで日の目を見ました。

 

ノラの「フラジャイル」は、かの有名なスティングの曲ではありません。作者としてクレジットされているのはノーム・ワインシュタイン(Noam Weinstein)。みなさん知っていましたか?ぼくは初めて見た名前ですがシンガー・ソングライターみたいで、サブスクにノーム自身の歌う「フラジャイル」もありました。

 

それにしてもいままでノーム・ワインシュタインなんていう名前はアメリカでも日本でも、世界で、ほとんど(まったく?)世に出てこなかったはずです。今回のノラの「フラジャイル」リリースが初めてのタイミングだと言っていいかも。

 

メロディも歌詞もなんともいえずしんみり沁みてくるいい曲で、2002年当時ノラはどこでこの曲を知ったのでしょう?ノーム自身のレコーディングはもっと後のことでした。しかしこれをとりあげて録音してみる、ビル・フリゼールが最高のアクギ伴奏をつけるというのが、デビュー当時からのノラの慧眼だったといえるはず。

 

結局お蔵入りしてしまい、曲も作者も埋もれたまま20年が経過したわけですが、曲のよさ、目をつけた選曲のよさ、アクギ伴奏の絶妙さ加減、ノラの淡々としたおだやかで静かなヴォーカル、そしてジャズという狭い枠には決しておさまらない(ややアメリカーナふうな)新時代感覚を身につけていたことなど、どこをとってもこの「フラジャイル」は完璧です。

 

ようやくリリースされたということで、しかもそれを20周年ボックスのしめくくり、オーラスに置いたわけですから、この「フラジャイル」がノラといまのブルー・ノートにとって持っている意味の大きさがわかりますね。じんわりと伝わってくる人間味のある曲と伴奏と歌です。

 

(written 2022.5.3)

2022/05/03

ネオ・ソウルに混じるおしゃれカルカベ 〜 ゾーズ・シャンハイ

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(3 min read)

 

Zoe’s Shanghai / Lava Love
https://open.spotify.com/album/15WYJCGGKm3PiepYR2QWUT?si=A-eA7eF6RMqxUMnUfbRelw

 

ゾーズ・シャンハイはバルセロナ出身のバンドで、現在はパリが拠点。やっているのはジャジーなネオ・ソウル。最新作『Lava Love』(2021)で知りましたが、ぜんぶの曲が英語詞なんで、パッと聴き最初アメリカかイギリスのバンドかな?とぼんやり感じていました。

 

なぜ上海なのかは調べてもわからず。中心人物はヴォーカル&ギター担当のゾー・レニー(Zoé Renié)。これにベースのアレックス・モラス(Alex Molas)、キーボードのトマス・フォッシュ(Tomàs Fosch)、ドラムスのアウレリアン・ランディ(Aurélien Landy)が参加した4ピース・バンドです。

 

アルバムの音楽性にバルセロナとかパリとかヨーロッパふうな印象もほぼなくて、アメリカ発の世界で普遍的なネオ・ソウルをやっているなと思います。なんでもジャイルズ・ピータースンも注目しているバンドだそう。あるいはひょっとしてそっち方面で今後ブレイクしたりする可能性もある?ってことはやっぱり欧州発信?

 

聴いて心地よくリラックスできる音楽ですが、胸にひっかかるとか特にどうとかってこともないような漂うアンビエンスなのは、やはりコンテンポラリーな音楽らしいなめらかさ。アメリカやイギリスの現代R&Bなんかにも共通する特性で、実をいうとこの手のコンテンポラリー・ミュージックはいまいちピンとこない部分もあって、やっぱりレトロ志向なほうが好みだなあと感じます。

 

それでも一曲だけ妙に耳に残るおもしろいサウンド・メイクをしていたものがあります。4曲目「7min」。最初ふわ〜っとしたキーボード・シンセサイザーの音が幕か空気のように降りてくるんですが、数秒でなんとそこにカルカベ(鉄製カスタネット)の打音がミックスされはじめます。

 

ゾーの歌が出てしばらく経つとそのカルカベは消えるんですけども、アウトロ部分で再度挿入されて、そこにヴォーカルも重なります。やはりヴェールのようなシンセ・サウンドが垂れ込めて、カルカベを香らせながらそのままフェイド・アウトして曲が終わるっていう。

 

べつにグナーワとか北アフリカ音楽っぽさなんかなくて、たんなる軽いスパイスというかアクセント、装身具としてちょっと着けてみただけのこと。いまやこういったネオ・ソウル・ミュージックでは、カルカベのかしゃかしゃっていうあのサウンドが一種のおしゃれアクセサリーになりうるんだなあ。モロッコの儀式現場での泥くさ〜い響きとはおよそかけ離れた世界ですけど、あの音が好きなぼくは微香でもニンマリ。

 

(written 2022.5.2)

2022/05/02

ストレートなストーンズ愛そのままに 〜 The Lady Shelters

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(写真はバンドの公式Instagramより)

 

(4 min read)

 

The Lady Shelters 公式YouTube
https://www.youtube.com/c/TheLadyShelters

 

アルバム『Almost Famous』
https://open.spotify.com/album/1AFmOvyYGMdXm8RnyboAmu?si=MkbQGV3ETYm2hJ3EU3r5bQ

 

たしか妹尾みえさん経由で知ったThe Lady Shelters(以下「レディシェ」)という日本のロック・バンドがあります。ヴォーカルとドラムスが女性でギターとベースが男性という四人組。

 

全員若いみたいで、年齢なんか知るわけありませんが、見た目20代くらいかな。バンドのキャリアだってまだ二年ほどらしく、Spotifyなどサブスクにアルバムもありますが、メイン・ステージはYouTube(とInstagram)みたいです。都内でライヴもどんどんやっているよう。

 

このレディシェがですね、もう見た目の年齢からはおよそ想像つかないくらいのレトロ志向なロック・バンドなんですね。最大のインスパイア源はローリング・ストーンズとザ・フーで、それも1960〜70年代のそれらをお手本に、ほぼコピーに徹したスタイルでやっています。

 

そもそもこのバンド名だって、メンバーの半数が女性だということと、ストーンズの代表的名曲「ギミー・シェルター」からもってきているんですもん。

 

サブスクで聴けるオリジナル・アルバムでもストーンズ偏愛っぷりはわかりますが、このバンドはクラシック・ロック系のカヴァーをどんどんアップしているYouTubeをざざっと視聴したほうが特徴がわかりやすいんじゃないかという気がします。

 

こういうのって、完璧おっさんがやるおっさんのための音楽だと思ってきたのに、それを2020年代の若手バンドがやっているんですからねえ。日本人ロッカーならRCサクセション、シーナ&ザ・ロケッツ、BOØWYとかあのへんの感じそのまんま。

 

公式YouTube動画にはやっぱりストーンズ・ナンバーのカヴァーが多く、ほぼどれもアレンジやスタイルなどほぼそのままコピー。最新動画としてハウリン・ウルフの「リトル・レッド・ルースター」がInstagramで紹介されていたのは絶対にあれだろうと思って聴きにいけば、やっぱり『ラヴ・ユー・ライヴ』ヴァージョン。

 

「ルート 66」もそうなら、マーサ&ザ・ヴァンデラスの「ダンシング・イン・ザ・ストリート」だってミック・ジャガーとデイヴィッド・ボウイが共演したヴァージョンを使っているし、このバンドにかんしてはとにかくストーンズ愛をそのままストレートに表明しているとあたまに入れておけば間違いないです。

 

世界のポピュラー音楽で、時代遡及的なレトロ・ムーヴメントが多ジャンルでの同時多発的な流行になっているというのが、ここ数〜十年ほどの間違いない動きなわけですけど、「もう終わった」「死んだ」などとも言われたりするストーンズみたいなクラシック・ロックに、若い世代、それも日本人が突如魅せられてバンドをはじめてみるなんていうことだってあるんですね。

 

ぼくはもうおじいちゃんになりかけのおじさんだから、レディシェがやっているような音楽にはノスタルジアとちょっぴりの気恥ずかしさみたいなものを感じたりします。こんなもの、もう、ちょっとね...と思わないでもないんですが、レディシェのみんなは新鮮でピチピチした魅力をストーンズ他の曲に聴きとってコピーしているに違いありません。

 

それを還暦おやじが横目でながめて冷笑したりなんてしちゃ、ダメですよね。バンドは一途&真剣にやっていて、こうした音楽がレディシェのみんなにとっては2020年代のリアルなんですから。

 

(written 2022.4.20)

2022/05/01

ポップなリオ新世代の面目躍如 〜 ニーナ・ベケール

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(3 min read)

 

Nina Becker / Acrílico
https://open.spotify.com/album/5Toc0KiEuEohfd7cR3dqid?si=MovfTGMFTH-xPNxQ4KCv_w

 

2014年のドローレス・ドゥラン集『Minha Dolores』が大人気だったニーナ・ベケール。これでこのブラジル人歌手を知りました。あのころこのアルバムを話題にしているひとは多かったですし、ぼくもブログをはじめてから数度書いたくらい。

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その後ニュースを聞かなくなったよなあと思っていたんですが、2017年に新作『Acrílico』を出していたんですね。ついこないだ気がついたばかり。なんか、ぜんぜん話題になっていなかったような気がします。

 

ディスクユニオンの通販サイトくらいしか日本語情報がないので、ファンとしての感想はじゃあぼくが…というわけでとりあげて書いておくことにします。なかなかおもしろいアルバムなので。

 

おだやかなあたたかみに癒された『ミーニャ・ドローレス』から一転、今作はかなり先鋭的で実験的なサウンドで満たされていて、強い不協和音の点描的な連発でほぼ無調に近づいている曲もあったりします。

 

ニーナと他の人との共作が多いようですが、メロディ感も希薄で、なんだかポスト・ロックふうにアンビエントな音像。浮遊するあいまいなサウンドの上をニーナが鋭角的に舞うといった感じででしょうか。

 

そもそもそういった音楽も前からソロではやる歌手で、ドローレス・ドゥラン集がよかったというみなさんには受け入れがたい作風かもしれません。ニーナとともにドゥーダ・メロがプロデューサーとしてクレジットされていて、伴奏はペドロ・サー(ギター)、アルベルト・コンチネンチーノ(ベース)、ラファエル・ヴェルナンチ(ピアノ)、トゥッチ・モレーノ(ドラムス)。

 

曲によりモレーノ・ヴェローゾ、カシン、エヴェルソン・モラエス、ネグロ・レオ、エドゥアルド・マンソなどが参加して、やはりチャレンジングな演奏を聴かせています。前衛的といえる冒険精神が横溢しているんですよね。

 

でも土台にあるのはあくまでサンバやジャズ・ボッサだなと鮮明にわかるのがぼくみたいなファンでもすんなり聴けるところ。ニーナの声にはあたたかみとくつろぎ、そして華があるし、とびきりポップな歌手ですし、こんなとんがった音楽をやってもざわめきばかりにならずレトロなリラックス・フィールが同居しているのには安心できます。

 

(written 2022.4.10)

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