「フラジャイル」by ノラ・ジョーンズ 〜 『カム・アウェイ・ウィズ・ミー』20周年
(4 min read)
Norah Jones / Come Away With Me (20th Anniversary Super Deluxe Edition)
https://open.spotify.com/album/38niOCuDsxhw0jIGL6Q2Ph?si=Y1NFBPWmSICCAVLgCWFnxQ
20周年記念ということでノラ・ジョーンズの2002年デビュー・アルバム『カム・アウェイ・ウィズ・ミー』スーパー・デラックス・エディション(2022)が出たばかり。午後のお散歩と続く夕食づくりのときにぶらぶら流していたら、なかにハッと耳をそばだてるかなりいい未発表曲がいくつか聴けましたのでメモしておきます。
特にCDなら三枚目にあたる部分に数曲ありましたが、なかでもラスト13曲目に置かれた「フラジャイル」。これはすばらしかった。泣きそうになっちゃって、そのままなんどもくりかえし聴きました。こんなにも沁みるのに、20年前ブルース・ランドヴァル(当時のブルー・ノート社長)はボツにしちゃっていたなんて。
それはわからないでもありません。デビューに際し、ノラのことをいはゆる<ピアノ・ガール>的な立ち位置で売り出そうとしたでしょうからね。クリオ・ブラウンとかローズ・マーフィとかあの手のピアノ弾き語り女性ジャズ・シンガーの21世紀版として。
それなのにノラの「フラジャイル」はアクースティック・ギター一本だけでの伴奏なんですね。弾いているのはビル・フリゼール。ちょっと会社の思い描くセールス・イメージにあわなかったと思いますが、それでもこれは絶品なんですよ。20年が経過してノラは大物になったので、自分の意に沿うように作品を出すことができるようになったおかげで日の目を見ました。
ノラの「フラジャイル」は、かの有名なスティングの曲ではありません。作者としてクレジットされているのはノーム・ワインシュタイン(Noam Weinstein)。みなさん知っていましたか?ぼくは初めて見た名前ですがシンガー・ソングライターみたいで、サブスクにノーム自身の歌う「フラジャイル」もありました。
それにしてもいままでノーム・ワインシュタインなんていう名前はアメリカでも日本でも、世界で、ほとんど(まったく?)世に出てこなかったはずです。今回のノラの「フラジャイル」リリースが初めてのタイミングだと言っていいかも。
メロディも歌詞もなんともいえずしんみり沁みてくるいい曲で、2002年当時ノラはどこでこの曲を知ったのでしょう?ノーム自身のレコーディングはもっと後のことでした。しかしこれをとりあげて録音してみる、ビル・フリゼールが最高のアクギ伴奏をつけるというのが、デビュー当時からのノラの慧眼だったといえるはず。
結局お蔵入りしてしまい、曲も作者も埋もれたまま20年が経過したわけですが、曲のよさ、目をつけた選曲のよさ、アクギ伴奏の絶妙さ加減、ノラの淡々としたおだやかで静かなヴォーカル、そしてジャズという狭い枠には決しておさまらない(ややアメリカーナふうな)新時代感覚を身につけていたことなど、どこをとってもこの「フラジャイル」は完璧です。
ようやくリリースされたということで、しかもそれを20周年ボックスのしめくくり、オーラスに置いたわけですから、この「フラジャイル」がノラといまのブルー・ノートにとって持っている意味の大きさがわかりますね。じんわりと伝わってくる人間味のある曲と伴奏と歌です。
(written 2022.5.3)
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