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2022/06/20

「愛の魔力」(ティナ・ターナー)by マイルズ・デイヴィス

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(6 min read)

 

Miles Davis / What’s Love Got To Do With It
https://open.spotify.com/album/6QeWVuTZluyIIsbJWzXYHK?si=TOQxM4LJRpKqmWQ_O0EMBw

 

いまはスイスで悠々自適の余生を送っているティナ・ターナー。そのソロ歌手生涯を代表する傑作曲「愛の魔力」(What’s Love Got To Do With It)は、1984年の復帰アルバム『プライヴェイト・ダンサー』に収録されていたもの。シングル・カットもされ大ヒットしました。

 

これをマイルズ・デイヴィスがスタジオで正式録音したっていう、なんだか風説みたいなものは、1984〜85年ごろにぼくもどこかでチラ読みしていたんですよね。ひょっとしたらソースはインタヴューかなんかで本人がぽろっとしゃべったものかも(70年代からよくある)。そこから伝言ゲームみたいになったんじゃないかと。

 

かなり前のことなので当時のことはだいぶ忘れましたが、読んだのはたしかコロンビア時代末期か、あるいはワーナー移籍(1986)直後あたりだったかもしれません。しかしマイルズによる「愛の魔力」録音が84/85年ごろだったというのは記憶のなかの一片として、ほんの小さなものだけどしっかりと、2022年でも残っています。

 

それがとうとうこないだ6月17日に公式リリースされました。見つけたときはうれしかったなあ。瞬時に脈拍が速くなり血圧も上がったような、そんな感じでした。だって、マイルズがティナの名曲「愛の魔力」を吹くのを聴けるんですから。ウワサがようやくホンモノになったし、アルバム『プライヴェイト・ダンサー』のなかでいちばんの愛聴曲でしたから。

 

聴けば、かの1985年バンドとわかります。そのまま85年夏に来日したので勝手にそう呼んでいますが、要はアルバム『ユア・アンダー・アレスト』(1985)をやったメンバー。ボブ・バーグ(sax)、ジョン・スコフィールド(g)、ロバート・アーヴィング III(key)、ダリル・ジョーンズ(b)、ヴィンス・ウィルバーン(dms)、スティーヴ・ソーントン(per)。

 

そのへん、ちゃんとしたレコーディング・データ・クレジットは、来たる9月16日にCDなら三枚組のボックス『ザッツ・ワット・ハプンド 1982-85:ザ・ブートレグ・シリーズ Vol.7』が発売され、それに「愛の魔力」も収録される予定なので、それが出れば録音に至ったエピソード的なものもあるいはふくめ、あきらかになると思います。三ヶ月前に先行で一曲だけ聴けるようになったというわけ。
https://www.legacyrecordings.com/2022/06/17/miles-davis-thats-what-happened-1982-1985-the-bootleg-series-vol-7-coming-september-16

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この1982〜85年、特に『ユア・アンダー・アレスト』に至った84年ごろのマイルズは、ラジオのヒット・チャート番組で流れてくるようなポップ・ヒットをそこそことりあげ録音していた時期で、それはティン・パン・アリー系や同時代のものでもスタンダードな流行歌をたくさんやっていた1960年代前半までと同じこと。

 

ご存知のように『ユア・アンダー・アレスト』には「ヒューマン・ネイチャー」(マイケル・ジャクスン)と「タイム・アフター・タイム」(シンディ・ローパー)がありますよね。マイルズによる録音は前者が84年12月、後者が同年1月です。

 

ですからティナの「愛の魔力」もマイルズによる録音はやはり84年だったであろうと推測できるんです。アルバム『プライヴェイト・ダンサー』は同年5月に発売されていて、シングル盤リリースも同時期、ってことはマイルズが耳にして演奏したのは同年それ以後ということになります。

 

バラードだけどしっかりしたビートが効いていたティナのオリジナルに比べれば、マイルズ・ヴァージョンはぐっとテンポを落とし、ビート感は弱くして、マイルズが吹くメロディ・ライン一本をきわだたせるようにアレンジ(おそらく本人か、ロバート・アーヴィング IIIの手になるもの)されています。

 

浮遊感の強いイントロのシンセサイザーとギターのリフ・フレーズはそのまま踏襲されていますね。ティナのでは聴けないややラテンというかカリビアンな香味がまぶされているように感じるのは、スティーヴ・ソーントンのおかげでもありますが、このころレゲエ・ビートをマイルズはときどき使っていましたから(「タイム・アフター・タイム」だってそう)。

 

メロディをきれいに吹くバラディアーとしての本領発揮といえるリリカルで内省的でメロディックな吹奏ぶりで、こういうのこそまさにマイルズのマイルズたるゆえんですよ。原曲のメロディ・ラインが美しいがゆえなんですけど、ハーマン・ミュートをつけたトランペットのサウンドは、まるで泣いているような、きわめて線の細い、いまにも消え入りそうなデリケートさ。

 

1957年のコロンビア移籍に際し同社のジョージ・アヴァキャンが「卵の殻の上を歩く」とマイルズの演奏スタイルを評し、この比喩も有名になりましたが、そんな持ち味は81年復帰後もまったく失われていない、それどころかいっそう磨きがかかっていたという聴きかただってできそうです。

 

なお「愛の魔力」という邦題になっていますが、「What’s Love Got To Do With It」というのは「それに愛なんてべつに関係ないでしょ」という程度の意味。ティナの歌う歌詞を聴いても、実にマイルズが共感しそうな内容だと思います。

 

(written 2022.6.19)

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