聴いたことのない音楽を聴きたい 〜 ウェザー・リポート「キャン・イット・ビー・ダン」
(3 min read)
Weather Report / Can It Be Done
https://open.spotify.com/album/0tXYdgzPsy67uuS0Ugirb7?si=ygvLy4adTY-uxy8TGF-GXA
このリンクはウェザー・リポート1984年のアルバム『ドミノ・セオリー』ですが、そのオープニング・ナンバー「キャン・イット・ビー・ダン」が最高にすばらしいと思うんですよね。ずっと前にも言ったことですが、このバンドのNo.1傑作曲だとぼくは信じています。
でもそんなことを言っているジャズ・リスナーやウェザー・リポート・ファンっていままでぜんぜん見たことないです。どこにもいないみたい。ぼくだけの感想、というか信念なんでしょう。だいたいこれヴォーカル・ナンバーだし、そもそもジャズですらない。ソウル・ナンバーに違いない真っ黒けな一曲です。
そこがいいと感じているんですよね。独裁者だったジョー・ザヴィヌルは1960年代のキャノンボール・アダリー・バンド時代からそういう資質の音楽家だったというのが、ここではフルに発揮されています。でも曲はザヴィヌルのものじゃなく、ワイルド・マグノリアスなどニュー・オーリンズ・ファンクのウィリー・ティーがこのアルバムのために書いた当時の新作。どういう接点があったんでしょうね。
ともあれこの「キャン・イット・ビー・ダン」、歌詞も強く共感できるもの。この世にまだ出ていないメロディ、まだ聴いたことのない音楽というものはどこにあるのだろう、ないみたいだけど、それをずっとさがし求めているんだ、という、メタ・ミュージック的な視点を持った一曲。
歌うのはカール・アンダースン。ジャズやフュージョンのファンにはなじみがない名前かもしれませんね。ぼくだって『ドミノ・セオリー』ではじめて聴きましたが、タメとノリの深いソウル・グルーヴを表現できる歌手で、84年時点で一聴、惚れちゃいました。
この曲、バンドはほとんど出現の機会がなく、たぶんこれ、オマー・ハキムがハイ・ハットでずっと一定の刻みを入れている(&ちょっとだけスネアも使う)以外は、多重録音されたザヴィヌルのキーボード・シンセサイザーしか入っていませんよね。だけどそれが絶品じゃないですか。リリース当時マイルズ・デイヴィスも「あのジョーのオルガンを聴いたか」と絶賛していました。
もう音色メイクが文句なしによだれの出るセクシーなもので、フレーズも曲のメロに寄り添いながらそれをひろげたり深めたりして、空間を埋めていくかのようでありながらふんわりとただよい、適切な間を感じさせる絶妙なもの。
曲がすばらしいのと歌手の声が深いのと最高なキーボード伴奏との三位一体で、もちろんウェイン・ショーターもだれも参加していませんから「ウェザー・リポートの曲」というにはやや躊躇を感じないでもありませんが、それでもこれだけのグルーヴの前にはひれふすしかありませんよ。
(written 2022.4.26)
« ジャジー・カントリー二題(2)〜 ライル・ラヴェット | トップページ | 失意や逆境のメランコリアとぬくもり 〜 コステロ&バカラック »
「リズム&ブルーズ、ソウル、ファンク、R&Bなど」カテゴリの記事
- ロックだってソウルにカヴァー 〜 イーライ・ペーパーボーイ・リード(2023.11.30)
- いまだ健在、往時のままのメンフィス・ソウル 〜 ウィリアム・ベル(2023.08.24)
- こうした音楽を心の灯にして残りの人生を送っていきたい 〜 カーティス・メイフィールド『ニュー・ワールド・オーダー』(2023.08.03)
- さわやかでポップなインスト・ファンク 〜 ハンタートーンズ(2023.07.17)
- コンテンポラリーR&Bもたまにちょっと 〜 ジョイス・ライス(2023.06.21)
« ジャジー・カントリー二題(2)〜 ライル・ラヴェット | トップページ | 失意や逆境のメランコリアとぬくもり 〜 コステロ&バカラック »
コメント