Throughout a professional career lasting 50 years, Miles Davis played the trumpet in a lyrical, introspective, and melodic style.
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タイトルにもってきたこの英文は、マイルズ・デイヴィスの公式Twitterアカウントのプロフィールに書かれてあるもの(写真はそのアイコン)。これ以上簡潔かつ的確にマイルズ・ミュージックがどんなだったか言い表した文を、ぼくは見たことがありません。
さすがは公式アカウント(おそらくエステートのなかに動かしている人物がいるでしょう)だけあるなぁとため息が出ます。ぼくなんかがこれになにかことばを重ねるのはただのムダとしか思えず。それでも継ぎ足さずにいられない性分なのをどうかご容赦ください。
上の英文で特に感心するのは “introspective”。内省的というか内観的というか、自己の内にある感情や思考をじっくり省察し、それを独白のように演奏したのがマイルズだということで、オープン・ホーンでもハーマン・ミュートでも生涯これで貫かれている、キャリア全体を通しほぼそうだった、まさにこれこそマイルズの本質を指摘した単語だといえます。
ジャズ・トランペットといえば、いばってみせつけるようなマチスモ外向性をこそ特色としてきたもの。輝かしい音色を持つサッチモもディジーもブラウニーも、歴史をかたちづくった偉人はみなそうじゃありませんか。マイルズ(とビックス)だけは例外的存在で、その特異性でこそ歴史に名を残しました。
むろんマイルズも1968〜75年まで、やや外向的な演奏スタイルをとっていた時期もありました。あのころはそもそも表現したいのがそういった外向きに拡散放射するファンク・ミュージックでしたから。フレイジングもリリカル&メロディックというより機械的にクロマティック(半音階的)なラインを上下することが増えました。
そんなあいだも、曲によりパートにより、じっくり内面を省察するように慎重にフレーズを置き重ねていく様子がときおり聴けましたし、1981年に復帰して以後は亡くなるまでの10年間、50〜60年代回帰というか、比してもいっそうintrospectiveなスタイルに拍車がかかっていた印象もあります。
はじめからそういったスタイルの持ち主としてプロ・デビューした、いや、自伝や各種エピソードを読むとアマチュア時代からそんな資質を発揮していたようだと判断できますが、チャーリー・パーカーみたいな人物のバンドでキャリアを開始したというのがマイルズにとってはクリティカルだったんだなあと、いまではよくわかります。
あんなジャズ史上No.1といえるような太く丸い音色でばりばり饒舌に吹きまくる超天才の、しかも1945〜48年というその全盛期にレギュラー・メンバーとして毎夜のように真横でじかのナマ音を耳にしていたんですから、同じことをやっていたんじゃダメ、それでは自分の存在価値はないと、骨身に沁みて痛感したはず。生身をすり減らすようなパーカーのブロウイング・スタイルも、プロとして持続したかったマイルズには不向きでした。
デビュー前からもともと線の細い演奏スタイルだったのが、そんな経験を経て独立し自分のバンドを持つようになったわけですから、パーカーとは真逆な道を歩んだのも納得です。結局のところ(パーカー&ディジーに接した)1940年代なかごろの衝撃的経験が、マイルズの音楽生涯を支配したのだという見方ができますね。
(written 2022.5.31)
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