だれしもDJ?〜 ミックスって
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いつごろからかミックス(Mix)ということばが音楽好きのあいだで頻用されるようになっていて、記憶をさかのぼるとたぶんクラブとかお店でDJがハバきかせるようになってからだから1990年代以後か、21世紀のことか、現在まで続いていますよね。
一般のファンでも「〜〜Mix」をつくったよとかよく聴くとかネット上の会話でしばしば見るし、SpotifyとかApple Musicとかのサブスク・サービスではもう星数の「なんちゃらミックス」が日々増殖中。
ヒップ・ホップ世代以後の用語法ですよね。そういうのを見ていると、みんなが言うその手のミックスというのはどうもコンピレイションのことで、べつに混ぜてあるとかなんとかいうんじゃなく、ただ好きなもの聴かせたい(聴きたい)ものをいい感じにば〜っと並べてあるだけです。
とはいえもちろんクラブDJ(は実を言うとぼくもずっと前新宿で一度だけやったことがある、ジャズで)は曲のしっぽをす〜っとスムースに次の曲のあたまにつながるように現場で編集するというか複数台のプレイヤーとクロス・フェイダーを駆使して、まあ「混ぜ」たりするわけです。
ひとによりケースによりそこに別なものを、ビートだけとか、いい感じのチル&ダンサブルになるように同時並行でまさにミックスしたり、感じのいいグルーヴィなパートだけ抜き出してリピートしたりすることもあるから、そのへんからこのことばが使われるようになったのかなと推測しています。
ってことはSpotify公式なんかでもAIが毎日大量に作成している「〜〜Mix」とかなんかはただ既存の曲をそのまま造作なく並べてあるだけでなにも混ぜてなくて、そういうものにこのことばを使うのは個人的にちょっぴりの語源的違和感がないわけじゃないっていう。うるさい?
そして「ミックス」ということばが音楽関係で使われているとき、ぼくが真っ先に思い浮かべるのは、レコードやCDなど録音作品の完成過程でマスタリングの前に行う、マルチ・トラックの楽器や声を適切に混ぜて左右2チャンネルに仕上げるプロセス、すなはちミキシング、ミックス・ダウン作業のことなんですね。これしか知らなかったよ〜、長年。
だから、いつごろだったかコンピレのことをミックスと言いはじめた時期、ぼくのあたまのなかには「?」マークがひたすら浮かんでいました。意味がとれなかったもんなあ。実を言うといまでも(上でも書いたように)ちっとも混ぜずただ並べてあるだけのものをミックスと言われると一瞬たじろいでしまい、「ヴァイナル」とか言われたときと同様の味わいが舌の奥でちょっとするんです。
しかし考えてみれば、ぼくが1970年代末からずっとカセットテープ(その後CD-R)でマイ・ベスト的なコンピレを作り続けてきているのだって、その行為はDJ的なものだといえるのかもしれず、パソコンのiTunesアプリとオーディオ・エディタを使うようになって以後は、編集というかいい感じにつながって聴こえるよう(主にライヴ・ソースなどの)冗長な部分をカットしたりフェイドしてつなげたりもするようになりました。
Spotify中心のサブスク頼りっきり生活になって以後は、サービスで聴けるトラックでそんな編集作業はできない(と思う、手元にそのファイルを持っているわけじゃないから)ので、ただひたすらいい感じに並べるだけのコンピレを、それでも山ほど連日作成するようになっていて、つまり生来そんな傾向のある人間なんでしょうね。
もちろんこんなことは熱心な音楽好きならほぼみんなやっていることで、だからだれだってDJ的?で、ミックスをつくっているといえるんじゃないかと思います。マスタリングの前のミキシングというとスタジオ事情に精通したプロ・ミキサーの仕事だけど、いま使われている意味でのミックスはだれでもできるもので、ことばや行為の敷居が低くなったのはいいことでしょう。
(written 2022.7.16)
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