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2022/07/22

マイケル・ヘンダスンはマイルズになにをもたらしたのか

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(5 min read)

 

Miles Davis / A Tribute To Jack Johnson
https://open.spotify.com/album/0xr31or2qYglJpiX6pODjY?si=9YMVASbIRuOqCPOrURgD_w

 

マイケル・ヘンダスンが亡くなったということで。ぼくにとってこのベーシストはマイルズ・デイヴィスとやったものがすべてなので、なかでも個人的にいちばん好きな『ア・トリビュート・トゥ・ジャック・ジョンスン』(1970年録音71年発売)を聴きかえしました。

 

特にベースにフォーカスするように聴いたんですが、そうでなくたってこのアルバムでのヘンダスンのプレイはきわだっています。レコードだとA面だった「ライト・オフ」でのベース・ラインなんかファンキーで絶品グルーヴィ。かなりロックっぽいけど、実はファンクですよね。

 

しかもこの『ジャック・ジョンスン』になった主要マテリアルを録音した1970年4月7日というと、ヘンダスンはまだバンドに加入しておらず、加入させるかどうかの判断をマイルズが下すためのオーディションだったんですから。それでこのキレ味、いい演奏すれば使ってもらえると張りきったというのがあったにせよ。正規加入は同年秋ごろ。

 

ベースの前任者はデイヴ・ホランドで、「ライト・オフ」とかでこれだけの演奏をヘンダスンがしているにもかかわらずそのまますぐにはバンドに入れずしばらくホランドを使っていたというのが信じられないと思ったりもするんですが。やっぱりちょっと保守的なところのあったトランペッターでした。

 

でも実はこのセッションのテープをホランドも聴いたに違いなく(発売は翌年)、こりゃヤバいぞ!と思ったのかその後のスタジオ・セッションやライヴ・デイトでは(ジャズ・ベースというより)ソウルフルでグルーヴィな演奏をして、ときどきラリー・グレアムになっていたりもしたんです。

 

つまりレギュラーの座が危ういと先輩をあわてさせ豹変させたベースだったということ。ソウル界出身のヘンダスンがマイルズ・バンドにもたらしたものとは、上で(スライの「サンキュー」をやった)ラリー・グレアムの名前を出しましたが、まさに湧き出てくるように反復するヒプノティックなグルーヴを飽かず延々と持続させられる往復力。

 

もちろんそんなのはジャズにそれまでなかったもので、ファンク・ミュージックへとマイルズが舵を切るコーナーストーンをヘンダスンがもたらしてくれたんです。68年ごろから描いていた自己未来像とも合致し、75年夏の隠遁までヘンダスン以外ありえないといった感じで一つの例外もなく使い続けました。

 

ヘンダスンらが実現していたこの手のグルーヴとは人間にとって要はセックスのグルーヴ。生理的でナマナマしい身体的な快感なんですよね。70年あたりからマイルズは自分の音楽にそうした肉体性を宿らせようと試みていて、67年暮れから実験がはじまっていました。

 

スタジオではロン・カーターだったりホランドだったりしても、自由に(ジャズ的に)演奏させるのではなく、あるいは譜面化しておくとかあらじめ用意しておいたお決まりのラインを定常的に弾かせるという、ドラマーへの指示にしてもそうで、つまりリズム・セクションの役割を限定的に固定し、マイルズは最初まずそうやってファンク・グルーヴを実現しようとしていました。

 

1970年春ヘンダスンの参加は、自由に弾かせてもスポンティニアスにそうしたプレイのできるベーシストの登場を意味するもので、あわせてジャック・ディジョネット(ら)のドラミングもよりタイトなものへと変貌していくようになり、バンド全体がニュー・ミュージックに取り組む方向性がしっかりするようになりました。

 

ヘンダスンが具現化したそうしたグルーヴの例証として、『アガルタ』(75)など、より超絶的なベース演奏がほかにあるのに『ジャック・ジョンスン』を選んだのには、これが嚆矢であったということ以外に、ベースが聴こえやすいという理由もあります。フロントの管楽器以外はシンプルなトリオ編成(ギター、ベース、ドラムス)で空間があって、機材の揃ったスタジオ録音で音響も良好鮮明、エレベの粒だちや音色、細かな表情までとてもよくわかります。

 

Michael Henderson (July 7, 1951 - July 19, 2022)

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(written 2022.7.20)

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