新しさという強迫観念 〜 ブライアン・シャレット
(5 min read)
Brian Charette / Jackpot
https://open.spotify.com/album/53bpqU3b1AjAtwXvrxOE5P?si=wH2g_SqkQmiOvqGXoAd1KA
萩原健太さんのブログで教えてもらいました。
https://kenta45rpm.com/2022/09/06/jackpot-brian-charette/
ジャズ・オルガン奏者、ブライアン・シャレットの新作『ジャックポット』(2022)をとりあげた上のエントリーにいいことが書いてあって、全力で首を縦にふってうなづきました。端的にいえば、古い音楽も新しい音楽も等価値にすばらしいという点。
健太さんのお書きになっていることがほんとうにそのとおりなので、一部ちょっと引用させてください。
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まあ、今さらここに何か新しいものがあるわけではないのも事実だけれど、“新時代の空気感を、新たなグルーヴを…”みたいな曖昧な強迫観念の下、やみくもにジャンルを超えて混沌へと身を投じる系でないと評価されにくい昨今のジャズ・シーンにあって、こういう往年のフォーマットに最大限のリスペクトを払った、ある種まっすぐな新作に出くわすと、お古いファンとしてもうれしくなってしまう。
ジャズに限らず、新しさを模索する動きと過去をリスペクトする動きと。どっちも等価値にかっこいい。両輪で歩んでもらわないと、ね。
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ブライアン・シャレットの新作をレヴューする格好をとりつつ、健太さんがいちばんおっしゃりたかったことはここにあった、これこそこのエントリーの主眼だったことはあきらかでしょう。
そしてぼくもまったくこれが言えると思っていますね、常日頃から。ブライアン・シャレットの今年の新作『ジャックポット』も特にどこがどうということのない従来的なオルガン・ジャズで、1960年前後あたりにたくさんあったああいった路線をそのまま継承しているものです。
曲だってすべてブライアンが今作のために書いたオリジナルだとはいえ、どこが「新」曲??と言われるであろう伝統的にスウィンギーでソウルフルでジューシーなハード・バップ・チューンばかり。それをオルガン、サックス、ギター、ドラムスというスタンダードな編成でひねりなくストレートにやっています。
1960年前後ごろのオルガン・ジャズ・スタイルだからといって、今作はレトロとかイミテイションとかいうものじゃないと思うんですよね。あのころのああいったジャズはいまだ生き続けている現役の価値観で、2022年にでも意味のある楽しくワクワクできる音楽じゃないかということです。
古いからいいとか新しさにこそ価値があるとか、そういう二律背反的な発想じゃなく、そもそもつながっているんだし、ぼくら一般リスナーはどれも同じように並べて聴いていけばいいと思いますし、自分にとって楽しい美しいと思えるものを、スタイルの新旧関係なく忌憚なしに選んでいけばいいと、いつも考えているんですよね。
でもでも、いま2010年代以後は、なんだか(特にジャズの世界では)新世代感がないとつまんない、評価できない、古いものなんか…っていうような価値観・評価軸が支配的であるようにぼくにもみえていて、いっぽうでこうしたブライアン・シャレットの新作みたいなのだってどんどん発売されているぞという事実は決して無視してほしくないんです。
新しいものが好きで心から共感できるならそれでいいし、古い従来的なものが好きならそれもまた等しくよしで、ひとのことはほうっておけばいい。それをなんだか「新しくなくっちゃ!」っていう強迫観念で躍起になって追いかけているのは、もしも本心じゃなかったら、人気評論家とかに影響されて…、そんな空気で、いま流行りだから…とかっていうんならどうなのか?と、ここ10年ほどずっと感じています。
自分の耳で聴きましょうよ。それで自分にとってほんとうに心地いい心底いいと思えるものを、他人の言うことや、あるのかないのかあいまいな時代の空気に左右されず選んでいきたいと、ぼくはそういう態度でやっていきたいと思います。趣味なんだし、自分の人生なんですから。
(written 2022.9.7)
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