黄金時代へのノスタルジア 〜 サマーラ・ジョイ
(3 min read)
Samara Joy / Linger Awhile
https://open.spotify.com/album/1TZ16QfCsARON0efp6mGga?si=0jfmXC-0SoGLBVl_rnwKaA
リリースされたばかりのジャズ歌手サマーラ・ジョイの最新作『リンガー・アワイル』(2022)を聴いていたら、もういまのぼくはこういうのですっかり気分よくてですね、こういった高級ホテルのラウンジとかでやっているような音楽って、ケッ!とか思って長年バカにしていた面もあるんですけど、歳とって変貌しました。
サマーラ・ジョイってどんな歌手なのか、デビュー時から日本語メディアでも注目されていて、文章がたくさん読めるので、ぼくがここで説明する必要はないはず。もしこの記事ではじめて知ったんだけどっていうかたがいらっしゃれば「サマラ・ジョイ」でぜひ検索してみてください。
最新作もジャケット・デザインを一瞥しただけで、やっぱりこの歌手もレトロ志向なんだなとわかりますが、こうした音楽はジャズやその近辺において完全に一時代の大きな潮流となった感がありますね。サマーラもティン・パン・アリーなスタンダード・ソングを中心に、ピアノ・トリオ+ギターという標準的なジャズ伴奏をつけて、ふわっとおだやかに歌っています。
ぼくはお酒がまったく飲めないし、ハイ・クラス・ホテルにも縁がないしで、こうしたラウンジ・ミュージックを現場の生演唱で聴くというチャンスはいままでの人生になかったんですが、自室でおいしいコーヒーを淹れてゆっくり楽しみながら、おだやかでていねいなひとときをすごすという、そんな日常のための極上BGMになってくれるのがサマーラ・ジョイ。
ジャジーなムード満開だけど、ときおり適度にブルージーになったりラテン・ビートが使ってあったりと、そのへんの作法も黄金時代のジャズ・ポップスそのまんま。サマーラのヴォーカル・カラーは、スタンダードを歌うときのカーメン・マクレエあたりの味にちょっと似ているなと思います。
1930〜50年代あたり、ロックンロール爆発前夜に爛熟していたジャジー・ポップスへの憧憬が間違いなくサマーラ(やその他レトロ・ジャジー歌手たち)のなかにはあって、いま、ここ10年くらいかな、こうしたノスタルジアをリアルな音にして届けてくれる歌手が急増していますよね。
こうしたムーヴメントはいったいなんなのか?じっくり考えてみないとわかりませんが、ヴァーチャルなファンタジーがリアリティを持つようになったネットとスマートフォン時代だからこそ具現化するようになった音楽だとも思えます。
ともあれ、いまから40年ほど前の大学生時代からスウィング系のヴィンテージ録音ジャズやそれで歌うポップ歌手なんかが大好物で愛し続けてきたぼくにとっては、サマーラ・ジョイもまたストライクな歌手。新しくもなんともないし、音楽として特になんでもないようなものですけど、趣味の世界ですからね。
(written 2022.9.19)
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