意識的なブルーズの声 〜 シュメキア・コープランド最新作
(3 min read)
Shemekia Copeland / Done Come Too Far
https://open.spotify.com/album/3509A3ATMDnr5hYBji4RcV?si=pZf_nu2eRoegrkH9956ZvQ
ブルーズ歌手、シュメキア・コープランド。きのうの文章を書いてしばらく寝かせていたら、そのあいだに新作が出ちゃいましたね。『ダン・カム・トゥー・ファー』(2022)。Spotify公式の新作紹介プレイリスト『Release Rader』で知りました。
カッコよくノリいいファンキーなグルーヴ・ブルーズがやはり中心で、なかにはアクースティックなものやザディコやカントリー・ナンバーなんかもありますが、エレキ・スライド・ギターがぎゅわ〜んと鳴るようなものがシュメキアの本領で、たっぷり聴けます。
なんですけども歌詞に耳を向けるとかなりな社会派っていうか、シリアスでヘヴィな内容を正面から歌い込んでいて、シュメキアはウィル・キンブロー(プロデューサー)と組んだ2018年の『アメリカズ・チャイルド』からこれで三作、ずっとこの路線。メイヴィス・ステイプルズ、リアノン・ギドゥンズあたりと共鳴するような意識的な黒人歌手といえます。
本新作でも銃乱射事件、黒人差別問題、奴隷制度、父から子への性虐待など重いテーマが扱われていて、シャウト型といえるシュメキアの濃厚な発声と歌いまわしはこうした内容を歌って強い説得力を持たせることのできるものですよね。BLM以来のアメリカ黒人の声といえるかもしれません。
シュメキアにかぎりませんが、そんな深刻なテーマの数々を歌いながらも決して暗くグルーミーなフィーリングになることがなく、どこまでも強くしっかりしたグルーヴを保っているのはアメリカン・ブラック・ミュージックの美点でしょう。
サウンドとかビート面でいえば、個人的には2曲目「ピンク・ターンズ・トゥ・レッド」がアルバムでいちばんの好み。1曲目ではゲストとしてサニー・ランドレスの名前がトラックリストに出ていますが、この2曲目でも同様の粘りつくスライド・ギターが聴けます、だれが弾いているんでしょう。ドラマーもいいな。
8「ベアフット・イン・ヘヴン」でもビート感とトゥワンギーなギターが心地いいし、マディ・ウォーターズ「フーチー・クーチー・マン」みたいなリフを持つラスト12「ノーバディ・バット・ユー」は父ジョニー・コープランドの曲。これもいいですね。
ジャズやロックにおける(オヤジ嗜好的な)ブルーズ成分はもはや時代遅れで、薄ければ薄いほどいい、できればないほうがいいというのが2010年代以後的なアメリカン・ミュージックのトレンドなんですけど、どう転んでもぼくなんか(音楽感覚的にも)オヤジ世代でしかなく、ブルーズ大好きなもんで、時代意識をこうしたサウンドに乗せて聴かせてくれるシュメキアみたいな歌手の音楽だって、ある意味最新型の一つと言えるはずだと思います。
(written 2022.8.31)
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