ジャズ・ピアノ100年のタイム・スリップ 〜 エメット・コーエン
(5 min read)
Emmet Cohen / Future Stride
https://open.spotify.com/album/6nGurFCYFgfbZvyA7MB3sk?si=ObbUdb0VSdKYOm-LWJpCRw
しばらく前のSpotify公式プレイリスト『Release Rader』で出会った新人ジャズ・ピアニスト、エメット・コーエンにびっくら仰天。いまは2022年なんですけど、ちょうど100年ほども前のハーレム・ストライド・スタイルなんですね。
ジェイムズ・P・ジョンスンとかウィリー・ザ・ライオン・スミスとかああいった弾きかたで、なんでこんなのいまどきやってんの!?と思っちゃいましたが、ヴォーカルものだけでなく器楽演奏ジャズの世界でもレトロ・ムーヴメントが発生しつつあるんでしょうか。ハード・バップ・スタイルとかだったらまだ現役だぞっていう感じがしますが、ストライド・ピアノですからねえ。
ぼくが出会ったのは2022年新作の「フィンガー・バスター」で、いくらレトロといってもリズム・セクションをともなってはいます。この一曲しか聴けなかったんですが(9月23日に見たらもう一曲出ている)、ジャケットを見れば『アップタウン・イン・オービット』との文字。調べてみたらこれは来たる10月28日リリース予定の最新アルバムみたいです。
https://open.spotify.com/album/4BjFGIIssp2AolqkkhiWji?si=hzeKqGHuQsKEVawtyE-vag
う〜ん、ジャケットもカッコいいし、待てないなぁ〜と思い検索し、2021年のアルバム『フューチャー・ストライド』というのを見つけ聴きました。アルバムぜんぶがストライド・ピアノというわけじゃなくて、ハード・バップみたいな、あるいはもっとコンテンポラリーな演奏もあるんですが、やはりこのひとのウリはあくまでも一世紀前回帰のストライド・スタイルでしょう。新しくてもデューク・エリントンふうとかあのあたり。
古典称揚傾向の強いぼくは、エメット・コーエンのこうした2020年代なのにストライド・ピアノを弾くという姿勢に心から共感します。『フューチャー・ストライド』というアルバム題は、たんなるレトロ趣味に終始するわけじゃないぞということでしょうが、こっちに言わせりゃこの手の音楽は現代性なんぞ意識しないほうが楽しく美しいもの。
徹底しなけりゃおもしろくないってわけで、だからそのへん中途半端に新旧折衷したアルバム・タイトル曲の4「フューチャー・ストライド」はイマイチに聴こえました。こういうのより、1「シンフォニック・ラップス」、6「ダーダネラ」、8「ピター・パンサー・パター」といった古典的ジャズ・ピアノどまんなかがぼくは好き。
ストライド・ピアノなんていまどき好んで聴くジャズ・ファンはもういなくなってしまったかもしれませんが、もちろんぼくだって20世紀初頭のアメリカに住んでいたわけじゃなく同時代感はありません。ジャズ狂だった大学生のときに興味を持ちレコードを買って聴いてみたら楽しいじゃん!ってなったわけ。
エメット・コーエンはベースとドラムスの伴奏つきでやっていますが、本来ストライド・ピアノは独奏用のスタイル。左手のあのぶんちゃぶんちゃっていうリズム演奏でオーケストレイションできるので、伴奏者がつくんならちょっとスタイルを変えてもいいんじゃないかと思っちゃいますけどね。
が、エメットは約100年前のスタイルをほぼそのまま再現して、そこにリズム・セクションをつけていますね。個人的には、特にドラムスなんかはジャマだよなあ、こういうピアノ・スタイルには、典雅なピアノなのにちょっとうるさいぞ、とかって感じないでもなく。
自覚しているのかどうなのか、最もティピカルな演奏を聴かせる「シンフォニック・ラップス」(と新曲「フィンガー・バスター」)ではパッと伴奏が止む独奏パートも設けていますよね。そこへ来るとその刹那、とってもいい気分におそわれて、やっぱぼくはこういうの好きなんだぁ。
(written 2022.9.24)
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