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2022/09/21

ジャズにおけるレトロ・トレンドとはなにか

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(6 min read)

 

ジャズの世界では、新時代のニュー・スタイルが勃興しみんなの話題になったときなぜか同時に古典回顧のノスタルジアも流行するっていう不思議なシンクロ現象がむかしからあります。1940年代のビ・バップ隆盛のときはニュー・オーリンズ・リバイバルがあったし、80年代のフュージョン全盛期にはウィントン・マルサリスら復古派が一大勢力になっていました。

 

2010年代以後現在までだって、ヒップ・ホップ通過後の新世代感覚を身につけた多ジャンル接合的なニュー・エイジ生演奏ジャズが大きな流れとなっているそのわきで、1930〜50年代ふうのプリ・ロック的黄金時代ジャズへのレトロ愛を全面的に打ち出した若手だって確固たるムーヴメントになっています。

 

現在のレトロ・トレンドの中心になっているのはスウィング・ジャズのスタイルで、それも当時主流だったようなビッグ・バンド編成じゃなく室内楽的な少人数編成でやることが多いです。どうしてスウィング・スタイルかっていうと、実はビ・バップってロックンロールと親戚なんですね。そもそも歌ものが映えないしリリカルでもないしっていう。

 

そう、ですから現行レトロ・ジャズ・ブームの中心はあくまで情緒的な歌ものですよ。器楽演奏ジャズでのレトロ志向ってぼくはあまり知りません。ヴォーカルでの復古志向ということで、その伴奏をやる器楽奏者もあわせるようにスタンダードでメインストリームなスタイルをとるようになっているというだけのことです。

 

古いもの、それも自身はリアリティがないはずの70〜80年くらい前のものにあこがれ、追い求め、そんなノスタルジア(っていうのも本来はおかしいんだけど、経験ないんだから、ヴァーチャル・ノスタルジアってことか)をほんとうにリアルな音にして歌ってみたりするっていう、近年のこうしたレトロ・ブームの背景には、ひょっとしたらデジタル・ネイティヴ世代ならではってことがあるのかもなという気がします。

 

以前も書いたしきのうサマーラ・ジョイのときにも触れたんですけど、日本のZ世代に昭和レトロへのあこがれがあるように、ああいったネット常時接続もスマートフォンもなかった、みんながつながっておらず、たがいに適度な距離をおいていた、そういう時代をナマ体験ではいまの若手は知らないわけです。

 

ぼくなんかの世代だと、あんなにも不便で生きづらかった時代にレトロなあこがれを持つなんて、ドウカシテル!って思っちゃうんですけど、なんでもあってすぐそこに手に入り簡単に近づいていけるっていう、そういう世界で生きてきた世代にとっては、かえってほどよい中庸さみたいなのがあって、ちょうどいいフィーリング、羨望の眼差しなのかもしれません。

 

ジャズでいえば、1950年代なかばのロックンロール・ビッグ・バンでアメリカン・ポピュラー・ミュージックの世界で主役が交代したっていうのはなんだかんだいって間違いないし、その後も2022年にいたるまで一度もトップに返り咲いたことなんてないわけです。21世紀になってジャズがもりかえしてきているたって、しょせん主流音楽ではありえませんし。

 

あれ以来ずっと斜陽の黄昏ニッチ音楽、それがジャズ。そうなる前、時代のメイン・スポットライトを浴びていた、爛熟していたジャズ黄金時代へのあこがれとか、ある種の仮想ノスタルジアを持つことがあっても不思議じゃないのかもしれません、若手でも。ぼくだって同時代感覚はありませんが、50年代以前には。

 

音楽はサブスクで聴くというのが中心になっているというのもレトロ・トレンドを後押ししているはず。時代が遠くなるにつれて距離感の濃淡みたいなものができていたのがサブスク普及で消えてなくなって、新しい音楽にも古い音楽にも同じ皿にべたっとフラットに並べて同一に接することができるようになっているでしょ。

 

このことが実はとっても大きいんだと思いますね。レトロ・ジャズ・ブームの中心にいる歌手たちはみんなInstagramをやっているんですが(歌詞のなかに “Instagram” と出てきたりもする)フィードやストーリーをながめていると、だれしもがSpotifyやApple Musicであこがれのナット・キング・コールやチェット・ベイカーや(ヴァーヴ時代の)ビリー・ホリデイなどを聴いているとよくわかります。

 

だから、ネットとスマートフォンがなかった<あの時代>への憧憬といったって、それを味わうためにはそれらデジタル技術を使ってアクセスし投稿もしているわけなんですね。そうした体験をベースにして、みずからも同じような音楽を産み出すようになったっていう。だからやっぱりこれもまた2010年代以後じゃないと存在しえなかったコンテンポラリネスではあるんです。

 

(written 2022.9.19)

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