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2022/09/05

個人的クールの誕生 〜 マイルズ関係の趣味も変わってきた

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(6 min read)

 

最近音楽の趣味がおだやか系に変化してきたというのはくどいほどくりかえしていますが、最愛好ミュージシャンのマイルズ・デイヴィス関係でもそれがはっきり反映されています。

 

しばらく前まではどっちかというと荒々しくごりごりハードでノリのいいファンク路線が好きだったんですけど、つまり『ビッチズ・ブルー』『オン・ザ・コーナー』『アガルタ』(その他70年代中期のライヴ作品)など。そのへんをめったに聴かなくなりました。あんなにも好きだったのに。

 

聴けば聴いたで、こういうのもやっぱりいいな〜とは思うんですけど、そもそも聴く気にあんまりなんないっていうか、ちょっとかけてみては、アッこういう気分じゃないよねいまのぼくは…ってなることが多いです。

 

入れ替わりに、傑作とは思うもののそんなに大好きというほどでもなかったかもしれないアルバムをどんどん聴くようになっていて、もちろんなかにはずっとフェイバリットだったものもあるんですが、『クールの誕生』『マイルズ・アヘッド』(の特にA面)『カインド・オヴ・ブルー』とかが最近のローテイションです。

 

『イン・ア・サイレント・ウェイ』もそうかな。それらいずれもいままでだって大好きだったんですけど、相対的にごりごりなハード・ファンク期のほうを聴くことが多かったので、比べればやや影が薄くなっていました。

 

これらのアルバム群は、マイルズのクールでおだやかな傾向を代表するもので、いっぽうにハードでワイルドな路線も、特に1969〜75年の電化ファンク時代にはあったんですけど、考えてみればこの音楽家はそもそも静かで淡々としたクールな音楽のほうに本領を発揮したというのがキャリア・トータルでみればよくわかるし、そういう資質の持ち主だったんだと思います。

 

いままではそれをあまり考慮せず、まあ無視して、69〜75年の電化ファンク時代がいいんだぞと自分に言い聞かせるようにしていて、一種のこだわりだったというか、そのへんがマイルズの生涯でも特にクレイジーだった時期なのは間違いないことで、ロック/ファンク方面にもファンを拡大していましたし。

 

つまり、こっちが歳とって嗜好が変化したというだけの話。どのへんがマイルズという音楽家最大の成果だったか、どうやって時代をリードしてきたか、名作とはなにか、なんていう部分に興味がなくなって、なくなったわけじゃないけどさんざん聴いてきたので、いまはもうただひたすら自分にとって快適な音楽だけを選んでいきたいという気分になってきたわけです。

 

それで残ったのが上であげた『クールの誕生』『マイルズ・アヘッド』『カインド・オヴ・ブルー』『イン・ア・サイレント・ウェイ』とかそのへん。快適にスウィング、というかグルーヴするナンバーもあるもの、それらだって決して激しくないし、全体的には落ち着いたおだやかさ、まろやかさ、平坦さ、要するに抑制された美を実現しているのがとってもグッド。

 

そして(いままでなんども書いてきたことですが)マイルズはもとからこんな方向性のアマチュア・トランペッターだったのにチャーリー・パーカーなんかのコンボでデビューしちまって、苛烈を極めるビ・バップ・ムーヴメントのどまんなかでプロ演奏活動を開始してしまったというのが、独立後の方向性を反動的にしたという面も確実にあると思います。

 

パーカーはといえばマイルズのおだやか系資質をうまく利用していて、自分のサックス・サウンドと並べたときにいい感じのコントラストを生むので音楽全体でバランスがとれてよいと考えていたでしょう。自分のバンドを持つようになってからのマイルズがハードな吹きまくり系サックス奏者をサイドに置くことが多かったのも、こうしたバード経験から得た知恵に違いありません。

 

さて、たとえば『クールの誕生』の「ムーン・ドリームズ」とか、スローじゃないけどバリトン・サックスと低音ブラスの合奏がなんともいえず心地いいおだやかサロン・スウィングに聴こえる「ガッドチャイルド」「バプリシティ」などや。

 

『マイルズ・アヘッド』の「カディスの乙女」「マイ・シップ」といった、空の雲がゆっくり流れてうつろっていくような静かで美しいオーケストラ・サウンドのゆったりとしたただよいとか。『カインド・オヴ・ブルー』の「ブルー・イン・グリーン」「フラメンコ・スケッチズ」などのまるでピアニッシモな静けさとか。

 

『イン・ア・サイレント・ウェイ』のタイトル曲での牧歌的な響きもいいけど、それにサンドウィッチされているファンキー・グルーヴァー「イッツ・アバウト・ザット・タイム」のステディでじっとしている湖面のさざなみをおもわせるたたずまいに石を投げたら波紋がひろがるみたいなふうのエモーションが込められていて、後半一瞬で解放されるところとか。

 

こういった数々の瞬間にいまのぼくは心底快適さを感じ、ほんとにいいなぁ〜って惚れ惚れとため息をつくような感動を、いまさらはじめて発見したかのごとく味わっているんです。

 

(written 2022.8.20)

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