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2022/10/21

マイルズ『クールの誕生』解放同盟

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(6 min read)

 

Miles Davis / Birth of the Cool
https://open.spotify.com/album/0QWea2w5Y6pSoSWHuc7JMf?si=dtgkzEzNRPiBftwqrpYa8g

 

というのを勝手にひとりで立ち上げました。なにかというと、マイルズ・デイヴィスの『クールの誕生』(1949/50、アルバム・リリースは57)にまとわりつく超名盤とか歴史的意義とかなんとか、めんどくさい言説からこのアルバムを解き放って、音楽だけをじっくり楽しめるようにしたいっていう。

 

というのはですね、ぼくはイヤな体験をしているんです。突如ジャズに目覚めた高三1979年に出会った『スイングジャーナル』別冊ムック本みたいなもの、タイトルも忘れましたがとにかくニュー・オーリンズ以来のジャズの名盤を選りすぐって300枚か400枚だったか紹介するというもので、入門者にはもってこいだと思い、買ったんです。

 

近年、ジャズのディスク・ガイドはほとんどがビ・バップ以後に偏ってしまっているのに比べ、あのころはまだディキシー/スウィング全盛期の傑作アルバム(もとはSP盤だから、コンピLPですけど)だってどんどん載っていたのは美点でした。サッチモとかビックスとかデュークなどの全盛期録音に迷わず出会えたのもあのムック本のおかげ。

 

そのムック本、マイルズの『クールの誕生』も紹介されていたんですけど、レヴューを書いていたのが野口某だったか寺島某だったかジャズ喫茶のめんどくせ〜オヤジ系評論家で、いはく「これは楽しいアルバムじゃない、じゃあどう聴くか、真面目に学究的に聴け」とかなんとかそんな意味のことを。

 

高校生当時からナニコレ?!なに言ってんの!でしたが、2022年現在でもWebに載る『クールの誕生』紹介文のたぐいは、実をいうとこの手の言説をいまだに引きずっていて、中身の音楽をちゃんと聴けていません。中山康樹さんがこのアルバムのことを『マイルスを聴け!』全版でボロカス書いたのが直接的にはエコーしているんですけど。

 

べつにジャズ喫茶をどうこう言いたいわけじゃありません。『クールの誕生』をいまじっくり聴くと、時流に合ったコンテンポラリーで静的なおだやかさとクールネスを兼ね備えたサウンドを持っていると思えるし、そもそも聴きやすい音楽だし、マイルズの残した諸作のうち現在ではいちばん楽しいもののひとつかもしれないっていう、そういう部分をしっかり書いてほしいよね、っていうことです。

 

火花を散らすようなアド・リブ合戦やインプロのスリルがないじゃないかと言われそうですけど、そうしたビ・バップ・マナーから脱却しようとする試みだったんですから。全盛期チャーリー・パーカー・コンボのレギュラー・メンバーだったマイルズは、ああいった苛烈な身体運動ですり減らしていくのを間近でリアルに体験していた人間ですからね。

 

ハナからそういうのに向いている資質の音楽家じゃなかったんですから、独立後のリーダー・セッションではもっと熱の低い、おだやかで、ソフトでとっつきやすく聴きやすいサロン・ミュージック、軽く聴き流していいムードをつくってくれるBGMになるような、イージー・リスニングっていうか、そういったマイルド・サウンドを目指したんだというのがぼくの見かた。

 

このことは、その後1991年に亡くなるまでのトータル・キャリアでマイルズがどういう方向を主に意識していたかじっくり検討すればわかることじゃないですか。そこに歴史的意義とかなんとか、むずかしいことを言ってもあんまりちょっとね。内省的で洗練されたソフト&スムース・サウンド、リラックスできるお手軽サロン・ミュージックが『クールの誕生』〜 これ、以前からぼくは書いています。

 

高音管楽器がボスのトランペットとリー・コニッツのアルト・サックスしかないというのも、ソフト&マイルド路線を特徴づけています。ぜんぶで六管のうち半数(バリトン・サックス、フレンチ・ホルン、チューバ)が低音担当で、トロンボーンだって低めの音域でああいった音色ですから、全体的なアンサンブルにカドが立たずまろやか&なめらかな響きになっていますよね。

 

リズム・セクションだっておだやかなビートを奏でていて決して爆発するということがないし、(ビ・バップにしばしばあった)イビツでハードなところがまったくありません。

 

このような結果、『クールの誕生』は聴きやすいなめらかムード。ジャズというとむずかしいとかとっつきにくいとか真剣に聴き込まなくてはならない世界だとかいった先入観を打破しにかかっているのがマイルズらの目論見ですよ。ビ・バップに対するアンチ・テーゼ、というと表現がちょっと強いですけど、脱ビ・バップというか、自分なりのちょっと違うことをやってみたかったっていう、それだけのことだったのでは。

 

その後のマイルズのキャリアをみわたすと、このおだやか&クール路線でやった最有名傑作が1959年の『カインド・オヴ・ブルー』と69年の『イン・ア・サイレント・ウェイ』なんですからね。

 

マイルズってそんな音楽家ですよ。『クールの誕生』もお気楽サロン・ミュージックだっていうのが本質なんですから、肩肘張らずリラックスして聴きましょう。

 

(written 2022.8.27)

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