増殖する南ア新世代ジャズ 〜 シソンケ・ションティ
(4 min read)
Sisonke Xonti / uGaba the Migration
https://open.spotify.com/album/1Igp59kX92saIgyQYTbnm7?si=UM9e2TpMRES0tKuelKRrcg
半年前ごろからときどきSpotifyアプリに「Jazz South Africa」というセクションが出現したりします。ふだんどんどん聴いているからだ、とはいえないはずなので、あんたジャズ好きだろう、このへんが注目分野だからオススメを、ってことなんでしょう。
それでそこからちょこちょこ拾っておもしろそうと感じたものを(といってもそう感じる情報がないけど、ジャケット・デザイン以外には)聴いてみています。ンドゥドゥーゾ・マカティーニとかリンダ・シカカネあたりは関係なく聴いて書きましたが。
そんな「Jazz South Africa」セクションのなかでひときわ目を惹くジャケットだったのが、シソンケ・ションティ(というカナ読みでいいの?)のアルバム『uGaba the Migration』(2020)。サックス奏者みたい。検索したけどほぼなにも出なかったから、日本では無名に近いはず。
アルバムの音楽は上質なので、ちょこっとご紹介がてらメモしておきたいと思います。録音データとパーソネルくらいしか載っていないけどbandcampにページがあるので、その手の情報にかんしてはそちらをぜひごらんください。
https://as-shams.bandcamp.com/album/ugaba-the-migration
アルバム題にもなっているし、間違いなく2〜5トラック目の「The Migration Suite」4パートが目玉なんでしょう。その前の1「Newness」からして実はかなりいいと感じます。ちょっぴりフュージョンっぽさというかさわやかな多種混淆ムードをただよわせているのも新世代ジャズのおもむき。
「マイグレイション組曲」で個人的にグッとくるのはパート2から。いきなりの手数多いポリリズミックなドラミングが心地いいし、それに乗るホーン・アンサンブルもよく練り込まれています。シソンケによる朗読みたいなもの(の背後でもドラムスが聴きもの)をはさみ、サックス・ソロへ。
シソンケのサックス演奏はパッショネイトでスピリチュアルなもの。南アではそうしたジャズ・ミュージシャンが新世代に多い気がしますよね。1960年代的なフリーキー・トーンをまじえながら熱く吹きまくるさまに、こちらの胸も高鳴ります。こうしたところは旧世代ジャズ・ファンでも共感できるはず(その背後がずっとポリリズムだけど)。
パート3、4も、基本ホーン・アンサンブルで構成されながら、なかに楽器インプロ・ソロやヴォーカルをはさみこむバランス感覚だって2010年代以後的なものですよね。ことにパート3で聴かせるピアノのヨネラ・ムナナは本作をシソンケと共同プロデュースしているキー・パーソン。
そのヨネラの美しいピアノ演奏に導かれはじまるパート4で聴ける静謐でおごそかなムードのホーン・アンサンブルは、おだやかでチルでリラクシング。そのままコントラバス・ソロ → トランペット・ソロと続き、ずっとクール・ダウンしているようなムードは維持しつつ、ドラマーのプレイは控えめです。これもいいなあ。
「マイグレイション組曲」が終わって以後は、たとえばはなやかでのびのある女声ヴォーカルをフィーチャーした7「The Call」あたりもかなりいいですね。現代R&B/ネオ・ソウルっぽいムードで、ひょっとしたらこれが本アルバムでいちばん好みの曲かも。エレキ・ギター・ソロがとてもいいね、と思ったらゲストのエレキ・ベーシストなのか。
クロージングの9「Nomalungelo」は本大作の総決算みたいな大団円。ドラマーがひとりで叩きだす精妙なポリリズムを土台に、新世代らしいさわやかなホーン・アンサンブル+ヴォーカル+ソロのバランスで聴かせる、ノリいいグルーヴ・オリエンティッドな一曲。これも最高です。
(written 2022.10.25)
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