グラント・グリーン「ジェリコの戦い」の思い出
(5 min read)
Grant Green / Feelin’ the Spirit
https://open.spotify.com/album/1yejkU8avlKZK3PuH3sjHC?si=rtCBKMV-RAqguWhy8tURDg
ジャズ・ファン史上いちばんはじめに好きになったギターリスト、グラント・グリーン。最初に買ったレコードは『フィーリン・ザ・スピリット』(1963)でしたが、これに出会ったのには別のきっかけがありました。
ジャズきちになってすぐにLP二枚組のブルー・ノート・ベストみたいなコンピレイションを買ったんですよね。名演ばかり一曲づつ選りすぐった日本盤で、だれが編纂者だったのかもアルバム題も忘れてしまいましたが、いまでも忘れられないのはグラント・グリーンの「ジェリコの戦い」をそのコンピで聴いたときの衝撃。『フィーリン・ザ・スピリット』からの一曲。
なにも知らない高校三年生には、あの「ジェリコの戦い」はあまりにも刺激フルでした。ジャズ・ギターを聴いたのだってたぶん初めてだったし、ニグロ・スピリチュアルズ(という言いかただったあの当時は)との初邂逅だったのも間違いありません。聖書の世界だってなにも知らず。だからねえ、そんな人間が聴く音楽じゃなかったよねぇ。
といってもそのブルー・ノート・ベストみたいコンピは入門者向けのガイド・サンプラーみたいなものだったので、だから「ジャズとはこういう(のがベースにある)音楽なんですよ〜」と指し示すような、つまりあのころのジャズ史観を典型的に反映した選曲だったんでしょうね。21世紀だったら選ばれたかどうか。
そしてぼくはこうした案内に導かれるがまま、ジャズからブラック・ルーツを探求するように音楽ライフを送ってきて、たしかにこのごろはあっさり淡白な薄味系を好むようになってきてはいるものの、長年濃口で塩分高めなブラック・ジャズやそれに近接する領域をこそ愛してきたのです。デイヴ・ブルーベックなんかどこがいいの?っていう人生でした、去年ぐらいまで。
こんなことを思い出し『フィーリン・ザ・スピリット』をひょっとして25年ぶりくらいにちょっと聴きかえしたりしているのは、ブルー・ノートの公式ソーシャル・メディアがこれをトーン・ポエット・シリーズの一つとしてヴァイナル・リイシューしたと投稿しているのを見かけたから。
いま聴くと、2曲目の「ジェリコの戦い」はたしかに名演ですしブラック・ジャズの王道をいくものではあるものの、ちょっと暗いというか深刻さが目立つような気がして、これが本作を代表するものだと言われると、聴くひと買うひと減っちゃうんじゃないかなという気がしないでもなく。
個人的には1曲目「ジャスト・ア・クローサー・ウォーク・ウィズ・ジー」なんかの小走りで駆けているような軽快さがもっと楽しいように思います。3曲目「ノーバディ・ノウズ・ザ・トラブル・アイヴ・シーン」も、曲題は深刻そうだけど実際の演奏はそんなでもなく聴きやすくていいですし。
それから、これはぜひ付言しておきたいことなんですが、このアルバムでピアノを弾いているのは2022年現在でも現役活躍中のハービー・ハンコックなんですね。録音セッションの1962年12月っていうとマイルズ・デイヴィス・バンド加入(63年春)直前くらい。
マイルズ・バンドではビル・エヴァンズ系の洗練されて落ち着いたクラシカルなピアノを弾いたという印象の強いハービーですが、62年5月録音のソロ・デビュー作『テイキン・オフ』には「ウォーターメロン・マン」があったし、ファンキーなブラック・ジャズ方面の資質も同時に持ち合わせているピアニストでした。
ですから70年代なかごろからポップ・ファンク路線に進んでああいった感じになったのもじゅうぶん納得できる音楽家ではあったんですよね。79年没のグラント・グリーンだって70年ごろからは類似傾向のファンク・ジャズをやり、ソウル・ナンバーだってたくさんカヴァーしました。
(written 2022.10.16)
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