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2023年1月

2023/01/31

エネルギッシュ&リリカル 〜 山中千尋

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(2 min read)

 

山中千尋 / Today Is Another Day
https://open.spotify.com/album/1rfz7JSqXPVU4w2gxm49Yf?si=abAWjf3rT5qDkWrsnRBViA

 

なにかのプレイリストからどれか一曲流れてきて、オッいいじゃんとなって知ったジャズ・ピアニスト山中千尋の最新アルバム『Today Is Another Day』(2022)がなかなか聴ける充実の内容。

 

自作、カヴァー織りまぜての全編オーソドックスなピアノ・トリオ編成で、特に千尋の手になるオープニングのアルバム・タイトル曲はぼく好み。最初ゆったりおだやかに弾きはじめたなと思ったら、速攻トップ・ギアに入れて疾走します。そのまま最後までハードにグルーヴし、たまらない快感。

 

するといきなり2曲目がなぜかのラテン・スタンダード「Tres Parables」(オズバルド・ファレス)。個人的にはナット・キング・コールがスペイン語で歌ったラテン・ソング集でも楽しんできた好きな一曲で、このチョイスはうれしかった。いつくしむようにデリケートに鍵盤上を指が動くのが美しい。

 

ラテン・ナンバーとはいえませんが4「Old Days」は千尋オリジナルながらラテン・フィールを濃厚にただよわせた曲。これもサイコーだぁ。もちろんジャズの世界ではこういうのむかしから多いわけで、その伝統に沿っているということです。終盤はサルサふうになり。

 

7曲目もスペイン語題の「Ojos De Rojo」ですが、これはちっともラテンじゃなくシダー・ウォルトンの書いたジャズ・ナンバー。千尋の演奏は細やかに弾きながらもかなりグルーヴして、けっこういいと思います。ちょっぴりバド・パウエルっぽいような感じがします。

 

そのほかドライヴ・ナンバーはアルバムにいくつもあって、たとえば5「Midnight Mood」(ジョー・ザヴィヌル)なんかもそう。曲題に反し真夜中の静かな雰囲気じゃなくて、軽快で勢いよくどんどんあざやかに弾きこなす明るくスウィンギーな演奏です。

 

(written 2023.1.17)

2023/01/30

余裕のある歌いまわし 〜 ウィリー・クレイトン

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(1 min read)

 

Willie Clayton / Caesar Soul & Blues
https://open.spotify.com/album/5YW9sV0Kx64fM5lZLadCMd?si=LmqHpvxqRtuXEgp8c38IRQ

 

after youで知りました。

https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-12-07

 

『Caesar Soul & Blues』(2022)ってとんでもないタイトルですよねえ、サザン・ソウルのベテラン歌手、ウィリー・クレイトン。ソウルとブルーズの帝王ってことですもん、それも自称。自信の表れか、周囲の現行ソウル・シーンに歌える歌手が少なくなってきたなか一人でがんばっているという自覚なのか。

 

このタイトルでねじふせるだけのパワーと説得力がたしかにこのアルバムにはあります。生演奏サウンドを中心としたプロダクションも充実しているし(ビートがデジタルっぽいけど)、ウィリーのヴォーカルもベテランらしい堂々とした迫力に満ちています。

 

ダンサブルなビート・ナンバー二曲の快感で幕開けから圧倒。そのまま三曲目のメロウ・バラードをスウィートに決めるのもすばらしい。声も大のぼく好みですし、歌いまわしに余裕があるので安心して聴けます。

 

バラードといえば本作ではステッパーよりいっそう充実している印象が個人的にはあって、たとえば終盤の6、7曲目あたりもずいぶんいいです。やっぱりこうしたタイプの曲で、歌えるか歌えないかの差が決定的に出るでしょう。特に三連ビートの7「Don’t Make Me Beg」にぼくはグッと来ました。

 

(written 2023.1.12)

2023/01/29

お年頃

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(2 min read)

 

っていうのはあがた森魚のことばで、敬愛しているミュージシャンが続々亡くなっているなこのごろ、みんなそういう歳か、それにしても多いぞって思うのは、実はむしろ聴き手のこっちのほうがそういう年代になったんだという意味。

 

今朝もトム・ヴァーレイン(テレヴィジョン)の訃報が飛び込んできて、個人的にはそうでもないミュージシャンでしたけど、ジェフ・ベックとか高橋幸宏(というかYMOだけど)とかは若いころから大好きだったから、続くのがさすがのぼくもちょっとね。

 

たしかに最近どんどんみんな亡くなるなぁっていう印象があるんですけども、考えてみたらぼくらが高校〜大学生のころに絶頂期で活躍していたミュージシャンってたぶん20代くらい(音楽家の最充実期)だったわけですから、こっちが還暦になれば、先輩はそりゃみんな死ぬようなことになっておかしくないわけですよ。

 

ですから音楽ファンでも(精神的)世代によっては、たとえばヒップ・ホップやR&B世代とかだとまだまだ好きなミュージシャンがいい歳になってしまって…というようなことにはなっていないはず。そんなみんなだっていずれはいまのぼくらと同じような思いをする時がそのうち来ます。

 

それなもんで、だからあがた森魚の言う「お年頃」っていうのがまさにピッタリだなって思うんですよね。どんな音楽のファンもどんな世代も必ず通過する儀式みたいなもん。ぼくらはたまたま1970年前後くらいがピークだったような音楽を愛してきたから、いま2023年にこうなっているというだけの話。

 

(written 2023.1.29)

2023/01/28

息抜きも音楽で 〜 アンダーシュ・モゲンセン&カール・ウィンザー

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(2 min read)

 

Anders Mogensen, Carl Winther / Brazilian Moods
https://open.spotify.com/album/2ziQ6aTPa4e99ZRJJUkO62?si=abjFQKMKSPyJLRZCcdfwuw

 

デンマークのドラマー、アンダーシュ・モゲンセンっていうのがだれなのかちっとも知りませんが、カール・ウィンザー(同国人ピアニスト)とのコラボで出したアルバム『ブラジリアン・ムーズ』(2022)は、欧州人植民地主義目線の音楽かもですが、わりかし聴きやすくて軽い息抜きにはいいんじゃないかと思います。

 

ピアノ・トリオ+(曲により)ストレート・サウンドのエレキ・ギターっていうシンプルな編成で、しっかりした歯ごたえみたいなものはありませんが、リラックスできるふにゃっとしたBGMとして格好で、こういうのもときどきいいんですよ。

 

ごらんのとおりジャケットは熱帯路線の原色づかいで、でも中身の音楽にそんな部分はあまりありません。そもそもブラジルふうと謳っているものの、ブラジル音楽要素だってさほど濃くはない軽快ジャズ・ロック・フュージョン。

 

ブラジリアン・ミュージックっぽさを感じるのは、かろうじて全曲のビート感にうっすらくらいなもんで、それはややチック・コリアと初期リターン・トゥ・フォーエヴァーを思わせます。

 

だからつまらんっていうんじゃなく、こういうスーパーとかデパートなどのBGMでかかっていそうな軽い音楽がぼくはちょっと好きなんです。緊張せず肩肘張らずにリラックスして聴けるし、正面から向き合って真剣勝負で聴くっていうものばかりじゃ疲れちゃうでしょ。

 

息抜きも音楽でやりたいんで、だからこの手のアルバムをけっこうたくさん保存(アプリで)しているんですよね。おだやかで軽いソフトなサロン・ミュージックはここ数年流行になっていますし、BGMの効用ってものもありますから。

 

(written 2023.1.11)

2023/01/27

インディゴ・ブルーな冬の哀感 〜 ディレク・チュルカン

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(2 min read)

 

Dilek Türkan / Akşamı Süzme Deniz
https://open.spotify.com/album/33e0NgVrgNqypp8WzNlFdv?si=znvnJxQMSGCvqzUS1jNPrw

 

スチャラカさんのツイートで知りました。
https://twitter.com/xiu_chang_po/status/1613141544546226179

 

トルコの古典歌謡歌手ディレク・チュルカンのニュースを、2018年作『An』以来聞かなくなっていましたよね。それは2020年に知ったものでしたから、もう三年近く。しかし21年に新作が出ていました。

 

それが『Akşamı Süzme Deniz』(2021)。これも充実した内容で、納得のいくアルバムです。その後も新曲はちょこちょこ出しているみたいですけど、アルバムではこれが最新でしょうか。

 

一部界隈ではそこそこ人気のディレクなのに二年前のアルバムにだれもなにも言わずで。そりゃあねえ(ショップでもないのに)盤がないと口にすらしないというヘンタイ・オヤジが多いってことは知っていますけどもね。ぼくだってスチャラカさんが話題にするまで気づきませんでしたから。

 

ともあれ『Akşamı Süzme Deniz』。やはりオスマン〜トルコ初期時代の古典曲を、従来的な少人数の楽器編成で、じっくりと哀切を込めてしかしほとんど声も張らずに淡々と歌っているのがいい。もともと宮廷音楽だったので、これもやっぱりサロン・ミュージックってことなんですね。

 

適度なラテン・リズムの活用もこの世界は古くから得意とするところ。基本(西洋音楽でいうところの)マイナー・キーの曲が多いものの、メイジャーとマイナーを行き来したり、あるいはたとえば10曲目みたいにさわやかなフィーリングをたたえた明るいメイジャー・ナンバーもあって。

 

そういうのが流れてくると、インディゴ・ブルーな冬の哀感をただよわせるアルバム全体の曇り空にさっと陽光が差したかのようで、とってもいいですね。こういう世界はレトロとかどうとかいうんじゃなくて、何百年もずっとこんな姿を変わらず維持しているんです。

 

人間のいだく気持ちが太古でも2020年代でもなんら変わりないように。

 

(written 2023.1.20)

2023/01/26

Z世代最強ドラマー!中村海斗登場

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(3 min read)

 

中村海斗 / Blaque Dawn
https://open.spotify.com/album/5AEfXYcsVxs4VzDImZtTJS?si=o9l4chTaTW6XWLsMBZX8NA

 

2001年ニュー・ヨーク生まれ育ちが栃木→群馬っていう新世代ジャズ・ドラマー、中村海斗(Kaito Nakamura Davis)のデビュー・アルバム『Blaque Dawn』(2022)がものすごいカッコいい。これも昨年12月21日リリースだったもので、なんときのう書いた和久井沙良のと同日だったみたい。

 

なんだか日本のZ世代ジャズ・ミュージシャンが続々デビュー・アルバムを出しているような、それもすべて注目に値する新感覚の充実ぶりで、そういう時代になったなあ〜と深い感慨をおぼえます。

 

アルバムは全曲カルテット編成。すべて海斗の自作コンポジションで、佐々木梨子(サックス)、壷阪健登(ピアノ)、古木佳祐(ベース)という面々。みんな同世代の若手でしょうか、一体となってグイグイ迫りくる勢いに圧倒されます。

 

四人とも饒舌なのが特徴で、ことに梨子の燃えあがるアルト・サックスはすばらしいものがあります。まるでイマニュエル・ウィルキンスじゃん、つまりアルトを吹くジョン・コルトレインだと聴きまがうほどの突出ぶり。健登の弾きまくりピアノも聴きごたえあるし(ときどき垂直系)、なんなんでしょうねこのバンド。

 

イマニュエル・ウィルキンスといえば海斗自身好きなんだそうですよ。たしかにコンポジションに間違いない痕跡があります。そしてなにより細かく手数多く多すぎるくらいに叩きまくるそのポリ・ドラミング・スタイルは、いままでのどんなジャズ・ドラマーでも聴いたことのない異次元のもの。

 

ホントまじこんなん聴いたことないよ!と口あんぐりなんですが、ここ10年くらいかな、USでも日本でも新感覚ドラマーが続出しているのを海斗はすべてふまえ、それらまるごとひっくるめてごっそりアップデートしてくれちゃったような、そんな叩きっぷりなんですよね。

 

個人的に強く惹かれたのは終盤7曲目の「U.R.B.」。アルバム中最長尺の11分以上あるし、これがクライマックスとみていいんじゃないですか。ここで聴ける四人のほとばしるパッションは筆舌に尽くしがたいものがあります。バンドを猛烈にグルーヴさせながらひとり異なるビートを同時進行で刻んでいる海斗のポリリズミック&ゆるぎないアプローチに悶絶。

 

そうでありながら決して重たくシリアスにならないひょうひょうとした軽みというかさわやかさが海斗のプレイにはただよっていて、ぼくこのひと現役日本人ジャズ・ドラマーではいちばん好きだぁ。そんなにたくさん聴いているわけでもないけど、海斗こそ最強の存在と断言しちまいたい。

 

(written 2023.1.25)

2023/01/25

和久井沙良のデビュー・アルバムがヤバいほど天才

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(2 min read)

 

和久井沙良 / Time Won’t Stop
https://open.spotify.com/album/0rQDHxRhpolHbzQYcB510w?si=mHxt_OMaSgC5paCOTe8Z6Q

 

bunboniさんに教わりました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-01-08

 

ジャズ・ピアニスト和久井沙良のデビュー・アルバム『Time Won’t Stop』(2022)がヤバい。カッチョエエ〜〜っ!ぼくが特にシビレているのは1曲目の「tietie」。ドラムスとギターが快感で、こればっかりなんども聴いちゃうな。さまざまなプレイリストに入れたし。

 

&ディープなグルーヴを聴かせる2曲目「Calming Influence」もゾックゾクするし、これらオープニングだけでこのアルバムは決まりですね。大西順子的にノリよくガンガン弾きまくるタイプのグルーヴィな音楽こそ沙良の本領だと思えます。このことは4、5曲目の小休止を経て後半部を聴いてもわかること。6、8曲目の勢いなんかすごい。

 

アルバムにほぼ全面参加のドラマー上原俊亮が細かなビートを聴かせるのもグッドで、完璧に新世代ジャズ・ドラミングのスタイルですよね。特にベース・ドラムの踏みかたがぼくは好き。1曲目の熱くカッコいいロック・ギターはイシイトモキ。

 

沙良はピアノとシンセサイザーを弾くだけでなく、全曲のコンポジション、アレンジをやっていて、それがジャズやクラシックだけでなくネオ・ソウル、ヒップ・ホップをしっかり踏まえたものだとわかるのがいいですね。しかもごく自然なフィールで体内に沁み込んでいます。

 

ラップやヴォーカルの使いかたもうまいし、しかもこんな天才作曲家でありながら融通のきく職人芸的で腕前の確かな即興演奏者でもあるっていう。アルバムもバラエティに富んでいるし、音楽家としてスケールの大きさを感じます。

 

(written 2023.1.21)

2023/01/24

台湾で爛熟したチルなジャジー・ソウル 〜 薛詒丹

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(2 min read)

 

薛詒丹 / 倒敘
https://open.spotify.com/album/7a2iUG6isz5gYrX0JppnVG?si=t7uNsg1NTA2KlIgING1xkQ

 

Astralさんのブログで知りました。
https://astral-clave.blog.ss-blog.jp/2022-11-28

 

台湾人歌手、薛詒丹(ダン・シュエ)初のフル・アルバム『倒敘』(2022)が最高にたおやかでいい。最初にEPを紹介していたbunboniさんも書いたし、だから言うことなんて残っていないんですけども、自分なりの感想を軽くメモしておきます。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-01-06

 

世紀の変わり目あたりからずっと来ているジャジーなネオ・ソウル系の音楽で、おだやかな都会的洗練が高度にただようチルでおしゃれな一品。それが、昨年ごろからぼくも意識するようになりましたが台湾で爛熟しつつあるとの感を持ちます。

 

本作での個人的好物は、シルキー・メロウな2「飯後點心」、ドラマーの刻む細かいビートと小刻みなギター・リフが心地いい4「沙發危機」、なぜだかなつかしさ的なものがこみあげてくるような切な系メロディの10「倒敘」あたり。全編オーガニックな生演奏なのもグッド。

 

ヴォイス・カラーはちょっぴりビョークっぽいところもある歌手ですが、音楽性は違います。薛詒丹のこうした音楽は、ぼくのみるところ1980年代のフュージョン、AORあたりに源泉があって、その流れで来たスムース・ジャズやヒップ・ホップ通過後の新世代ジャズ、あるいはネオ・ソウルなどが、ここ数年ですべて一体となって溶け合って現在に至っているのではないかと。

 

特に台湾の新世代(薛詒丹、陳以恆、リニオン、レイチン、など)にいえると思うんですけど、多種な新世代音楽の融合はどの要素がどれだけの割合でどう溶け合っているか?がほぼわからない程度にまで渾然一体で消化されているのが特色。ジャズでありネオ・ソウルでありシティ・ポップであるっていう。

 

ですからはっきり分別しすぎないで、あるがまま素直に楽しむのが音楽の実態にそぐうことじゃないかなとぼくは思います。

 

(written 2023.1.10)

2023/01/23

マイルズのB面名作(2)〜『コレクターズ・アイテムズ』

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(4 min read)

 

Miles Davis / Collectors’ Items
https://open.spotify.com/album/7ala9fiogyYeZkXLvTZO9r?si=0-RxyubSTRGnWidaCBAPNg

 

これも1953年録音のA面と56年のB面(5曲目から)はなんの関係もないアルバムであるマイルズ・デイヴィスの『コレクターズ・アイテムズ』(1956)。変名でチャーリー・パーカーが参加しているという事実以外におもしろみがないと個人的には思うA面とは対照的に、B面三曲は立派な演奏なんです。

 

それら三曲をレコーディングしたセッションがちょっとおもしろいのは、その56年3月16日というとマイルズはすでにファースト・レギュラー・クインテットを結成済みで、正規録音もちょっとはしていたということ。

 

それなのにこのときだけバンドを使わず、ソニー・ロリンズ、トミー・フラナガン、ポール・チェインバーズ、アート・テイラーで三曲やりました。ロリンズ重用はつとに有名ですが、フラナガン(大好き)とはこれが生涯唯一の共演記録で貴重。

 

そんなこともあってか、つまんないな〜とぼくは感じるA面に比し、むかしからこのB面が個人的大好物。そりゃあもうこっちばっかりターンテーブルに乗せていました。53年だとまだビ・バップの余韻から抜け出せず模索中だったのが、56年なら立派に自己の音楽スタイルを確立していましたし。

 

三曲では、トップの「ノー・ライン」からしてハーマン・ミュートで鈴の転がるようなチャーミングな音色でもって軽快にスウィングするトランペッターの妙味に惹きつけられます。曲題は、テーマなしいきなりインプロではじまりそのまま終わるっていうものだからでしょう、おそらく。

 

オープン・ホーンで吹く二つ目の「ヴィアード・ブルーズ」は定型12小節。そして実はこのブルーズ、レギュラー・クインテットでやった同年五月ヴァージョンが『ワーキン』に収録されています。同じ曲ですが、あっちでは「トレインズ・ブルーズ」という曲題になり、作者もジョン・コルトレインにクレジットされています。

 

それと比較すると「ヴィアード・ブルーズ」のほうはテンポと重心が低く、しかもややコミカルというかユーモラスなファンキーさをただよわせているのが特徴。ブルーズのうまいフラナガンの持ち味も光ります。こっちのほうがぼくは好みです。

 

こうした中庸テンポでのファンキーさは『バグズ・グルーヴ』B面でも味だったもので、「ヴィアード・ブルーズ」のこうしたラインの上下をあわせ勘案すると、あるいはひょっとしてこれもロリンズの書いたものなんじゃないかと思ったり。マイルズにクレジットされていますけども。

 

三つ目のプリティ・バラード「イン・ユア・オウン・スウィート・ウェイ」。これこそ全体的にすぐれているこのB面のなかでも特に傑出していて、大学生のころからこれ一曲を溺愛してきました。やはりレギュラー・クインテット・ヴァージョンが『ワーキン』で聴けますが、ぼくの耳にはこっちのほうがいっそう美しく切なく響きます。

 

(written 2022.12.27)

2023/01/22

最近のお気に入り 2022〜23 冬

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(1 min read)

 

最近のお気に入り 2022〜23 冬
https://open.spotify.com/playlist/6GTVqv4eYB76hb9l4OQ94u?si=8a7c79cad6214d07

 

1)Rachael & Vilray / Is a Good Man Real?(US)
2)Kim Tae Chun / Christmas(韓国)
3)和久井沙良 / tietie(日本)
4)Mica Millar / Will I See You Again(UK)
5)J.J. Johnson / It Could Happen to You(US)
6)Sarah Kang / about time(韓国)
7)梅朵 / 今生有幸遇见你(中国)
8)Laufey / Valentine(アイスランド)
9)Crystal Thomas / Can’t You See What You’re Doing to Me(US)
10)Dilek Türkan / Pencerenin Perdesini(トルコ)
11)薛詒丹 / 沙發危機(台湾)
12)Miles Davis / In Your Own Sweet Way(US)
13)山中千尋 / Today Is Another Day(日本)
14)Chet Baker / That Old Feeling(US)
15)Lake Street Dive / So Far Away(US)
16)Emma Smith / I’ve Got My Love to Keep Me Warm(UK)
17)Linsey Webster / Stay with Me(US)
18)Eddie Condon / Beale Street Blues(US)
19)Angela Strehli / Ace of Spades(US)
20)Hailey Brinnel / I’ll Follow the Sun(US)

 

最近よく聴いているものってことですから、リリースは古いものもあります。

 

(written 2023.1.15)

2023/01/21

“一強” だった氷川きよしの休養で男性演歌界はどう変わるのか

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(5 min read)

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/4eb820f6d6b75df8bf862e67745511359af4daa4

 

2022年12月31日でもって一年間の休養に入った氷川きよし。どうなんでしょうね、動きが速く激しい芸能界からそんなに遠ざかったら、いかなきよしでも無事復帰できるかどうか、うんでも絶対的エースだったのでだいじょうぶかとは思っているんですけども。

 

きよしのスタイルといえば、ああいった新世代感を強くまといつつ&ポップスやロック・ナンバーも歌いはしたものの、提供される曲もヴォーカル・スタイルもトータルな世界観も、古くさい定型演歌イメージを保持していました。

 

つまり従来的なステレオタイプをひきずったままの(精神的)高齢演歌リスナーをも満足させられる存在でありながら、世代的にはまだ若く将来への希望も大きく明るかったのがきよし。消滅の危機に瀕しているといってもいいくらいな演歌界では最大の光でした。

 

ともあれ(一年間は)いないわけですから、「ポストきよし」方向へと男性演歌界が動きはじめていることは間違いありません。新たなムーヴメントはもうしばらく前からはじまっていて、すでにしっかりした流れを形成しつつあります。

 

きよしのような煌びやかで華やかな世界観提示にかわって、もっと日常的なふだん着感覚に根ざしたような新世代演歌シンガーたちはしばらく前から活躍するようになっています。山内惠介や三山ひろしなどは従来的な「王子さま」路線かもしれませんが、辰巳ゆうと、真田ナオキ、新浜レオン、中澤卓也らはストレート&ナイーヴなニュー演歌のイメージをふりまいています。

 

演歌でも、つくりこんだ世界というより、そのへんの玄関から出てきてそのまま電車に乗ってやってきた近所の身近なおにいちゃんというような、そんなフィーリングで活動しているのが新世代若手演歌歌手です。

 

そうした歌手たちは(演歌とは関係なかったはずの)AKB48的な「会いに行ける」系イベントを積極的に展開し、フレンドリー&ファミリアー感を強調しています。CDショップやショッピングモールなどで歌唱キャンペーンをやり、2ショット撮影&握手会をさかんに開催しています。

 

ファンの接しかたもそれにともなって変化するようになっていて、歌手や会社側の提供するネット活用のサービスについてくるようになっているんですよね。いまやソーシャル・メディア&サブスク時代で、演歌でも新世代はそれらを積極的に活用していますから、ファンもそれを楽しむようになっています。

 

こうしたことは、いまだサブスクに曲がなくソーシャルでの本人アカウントもないような旧世代、たとえば(女性だけど)水森かおりとそのファンなんかとは根本的にありようが異なります。ライヴ&テレビ&レコード or CDでっていうような時代は去りつつあるんですね。

 

演歌みたいに高齢ファンが中心になっているような世界では、もちろんそれらにぜんぶついていくのは厳しいと思っているかたもなかなかいて、たとえば昨年夏に中澤卓也の新曲が出ましたが、配信リリースからCD発売まで一ヶ月ありました。

 

だから最初はストリーミング/ダウンロードで新曲を楽しむしかなくて、卓也本人アカウントのコメント欄を読んでいても、「なかなかむずかしい、孫にやってもらった」と本音を寄せるファンもそこそこいましたから。スマホ一個あればカンタンにできちゃうじゃないかとぼくなんかはイージーに考えていますが、そういうもんじゃないみたいです。

 

新世代演歌歌手は(性別問わず)、ド演歌ではない耳なじみいい曲と歌唱法を選択しているというのも、音楽的には大きいこと。このブログでいままでさんざんくりかえし力説してきたことですが、従来的な濃厚劇的でエモーショナルな演歌ワールドは、きよしが最後の存在だったとみるべきなのかもしれません。

 

むかしながらの演歌がなくなってしまうのかとさびしさをおぼえるファンがいるかもしれませんが、ルーツをたどれば古典演歌だってもともといっときの流行にすぎなかったもの。大衆音楽の世界は時代の変遷とともに姿を変えていくのが健全です。諸行無常。

 

(written 2023.1.18)

2023/01/20

ファンク・ブルーズ五題(5)〜 ウィル・ジェイコブズ

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(3 min read)

 

Will Jacobs / Goldfish Blues
https://open.spotify.com/album/37ch8gg8aeKqab8LwgCPO4?si=zmJI6S2ESmup8dk7BVx5gg

 

2022年のデビュー・アルバム『ゴールドフィッシュ・ブルーズ』リリース時点で29歳の新人ブルーズ・ギターリスト&シンガー、ウィル・ジェイコブズ。なんでも10代のころから地元シカゴのローカル・シーン&ヨーロッパでは活躍してきたとのこと。

 

このアルバムもPヴァインの『P-VINE recommended BLUES & SOUL feat. STAN MOSLEY』プレイリストで知ったんだとばかり思っていたからシリーズにつらねたんですけど、どうも違うみたい。そのプレイリストに本作からの曲はないです。

 

じゃあどこで気づいたのかって、もうすっかり忘れちゃいましたゴメンチャイ。いちおうファンク・ブルーズとのシリーズ題につなげてみたものの、ウィルの本作はファンキーというよりぐんと軽くあっさり風味。淡白なポップ・フィールもあります。

 

本人のヴォーカル&ギターのほかはベースとドラムスしかいないトリオ編成で、かなりシンプルで整理されたサウンドだっていうのもそんな印象に拍車をかけています。それでも4、8、10曲目など正調ファンク・チューンもあるにはあって。

 

ファンクといってもディープさはなく、わりと軽めなんですけどね。エレキ・ギターの音色だってほとんど飾らずファットでごてごてした感じにせず(エフェクター類をあまり使っていないはず)、素直なストレート・サウンドにチューンナップしてあるのも淡白系ブルーズとの印象を強めている一因。

 

そうそうギターといえばですね、本作ではどの曲でも二本、三本と同時に聴こえるんですが、あきらかにウィルの一人多重録音だっていうのが疑いなく明白にわかってしまうっていう、ここまでそれがはっきりしているギターリストもめずらしいんじゃないですかね。

 

聴きやすいファンク・ブルーズだっていうか、そもそもが暑苦しくむさい世界なんですけど、本作はまったく印象が違います。聴き手によってはこんなのダメだものたりないよという感想が浮かぶでしょうが、ここ一、二年あっさり薄味系の音楽こそフェイバリットになってきたぼくにはこういうのもときにはいいな思えたり。

 

(written 2023.1.8)

2023/01/19

ファンク・ブルーズ五題(4)〜 サード・コースト・キングズ

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(2 min read)

 

Third Coast Kings
https://open.spotify.com/album/3vTo93HPZchFgdKcW9XwVs?si=IWJa1Z4zQaCBevrUaIBLKQ

 

これまたPヴァイン製プレイリスト『P-VINE recommended BLUES & SOUL feat. STAN MOSLEY』で知ったもので、サード・コースト・キングズの『サード・コースト・キングズ』(2012)。ほとんどジェイムズ・ブラウン・マナーのファンク・ミュージックで満たされています。

 

米ミシガン州のバンドなのは間違いないみたいですが、同州デトロイト発とするもの(CD販売サイト)とアン・アーバーとするもの(Wikipedia)が併存しています。公式サイトでは “Metro Detroit area” が出身活動地だということになっていますから、たしかにアン・アーバーも近接していますよね。

 

アルバム・トータルで聴くと正直やや一本調子で、しかもアマチュア・バンドくさいゴチャゴチャ感も否めない面があると思うんですが、じっさいこのバンドはアルバムなら2曲目に収録されている「ギヴ・ミー・ユア・ラヴ」を2010年に7インチでリリースして、それ一発で知られるようになったみたいです。

 

ただし、それとか4、6曲目とか一般にこのバンドの代表作とみなされているらしいヴォーカル・ナンバーよりも、アルバムで多数を占めるインスト曲のほうが個人的には好み。よりグルーヴィですし、聴きやすいし、ギターとドラムスがJBスタイルで、たとえば1、3、5曲目あたりカッコいいです。

 

ちょっぴり雑なところもかえって味で、ホーン・アンサンブルにしろきちんときれいに重ならないとかピッチがあいまいだとかいうのが勢いというかパワー、拡散力を産むことにつながっているとも聴こえます。そういうのってアフロビート・バンドなんかでも散見されるフィーリングでしょう。

 

ファンクとかってそうした押しまくる勢いみたいな部分で勝負するといったところもあるんじゃないかとぼくは思っているし、グルーヴ・ミュージックだからそれでいいかなと思います。デリケートでていねいな音楽じゃないですけど、それを求めるものじゃないですよね。

 

(written 2023.1.4)

2023/01/18

ファンク・ブルーズ五題(3) 〜 イーストサイド・キングズ

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(2 min read)

 

Eastside Kings / テキサス・ファンキー・ブルース最前線
https://open.spotify.com/album/66vmErRZu8DGwDIphPDMiZ?si=_hk_qdIvSjupwwMy7ncMPQ

 

これもPヴァイン製のサブスク・プレイリスト『P-VINE recommended BLUES & SOUL feat. STAN MOSLEY』で知ったもの。イーストサイド・キングズとは個人的に初耳で、アルバム題はなぜかの日本語『テキサス・ファンキー・ブルース最前線』(2016)。日本企画アルバムなんでしょうか。

 

テキサス州オースティンのイースト・サイド出身メンバーがやっているからこのバンド名があるみたいで、リーダーはオルガン奏者&シンガーのピー・ウィー・カルヴィン。ふくめ総勢七名で編成されています。Spotifyにあるアルバムは『テキサス・ファンキー・ブルース最前線』一個だけ。

 

カヴァー曲にもちょっと特色のある作品で、なかでも特に2「レット・ザ・グッド・タイムズ・ロール」、7「クライ・トゥ・ミー」、13「ブギ・チルン」あたりはぼくでも知っているくらいな有名スタンダード。それをグルーヴィ&ファンキーに料理しています。

 

それらもオリジナル曲もふくめ、全体的にいかにもテキサスらしいシャッフル・ビートが多く、なかには典型的ジャンプ・ナンバーみたいに仕上がっているものもあり。21世紀の作品ですけど、このへんローカルに根づいたブラック・ミュージックの伝統は不変なんでしょうね。

 

タイトなファンク・チューンやなつかしめフィールのインスト・ナンバーだってあるし、聴いていてとにかく文句なしに楽しい。ブルーズ系のアメリカ黒人音楽、特に1940〜60年代あたりのそれがお好きなファンのみなさんであれば、ぼくと同じように愉快な時間をすごすことができるはず。

 

(written 2023.1.3)

2023/01/17

ファンク・ブルーズ五題(2)〜 クリスタル・トーマス

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(2 min read)

 

Crystal Thomas / It’s The Blues Funk!
https://open.spotify.com/album/5O2aONk6KwqBhP8GEOPhqV?si=aG9_5577TlSYcbgXO7uv3Q

 

きのう書いたスタン・モズリーの新作リリースをきっかけに、発売元のPヴァインがサブスク・プレイリスト『P-VINE recommended BLUES & SOUL feat. STAN MOSLEY』を作成公開しました。これが楽しいので、よく聴いては参考にしています。Spotifyでは2個しかライクがついていません(うち1個はぼく)。
https://open.spotify.com/playlist/1Z9xYaYKThGv91CFFmaMJR?si=6898b06064704a84

 

それで知ったクリスタル・トーマスのアルバム『It’s The Blues Funk!』(2019)がめっちゃカッコいいのでビビっちゃうくらいなんですね。まさにグルーヴィな豪速球ファンク・ブルーズ一直線で、アルバム題なんかその自信に満ちあふれていますよね。

 

トラックリストに共演者としてチャック・レイニーとラッキー・ピータースンの名前が出ていますが、チャック・レイニーってあれですかキング・カーティスやアリーサ・フランクリンなどともやったあのベーシスト?そうですねそのひとしかいませんね。

 

ラッキー・ピータースンはハモンド・オルガン&ピアノで、そのほかにドラムスとギターだけっていうシンプルな編成の生演奏でグイグイ攻めてくるパワーに圧倒されます。インストルメンタルの8曲目でトロンボーンを吹いているのは、その道でも知られたクリスタル自身でしょう。

 

アルバムは1曲目からもうカッコよすぎて、こりゃいいね!とヒザを叩き快哉を叫ぶ痛快なグルーヴィさ。イントロや間奏のギター・ソロもすばらしくノリいいし、バンドもねえ、従来的なファンク・ブルーズの枠内にすっぽりおさまっていて新しさなんかはないんですけど、ここまで熟練のブルーズを聴けばそんなもん必要ねえって気分。

 

2曲目以後も同じ。特にファンクネスがたぎっているようなタイトなグルーヴを聴かせる4、6(JBみたい)、7、8曲目あたりはなんど再生しても最高の快感。クリスタルのヴォイス・カラーには好嫌が分かれる部分があるかもですが、バンドの演奏にはだれも文句つけられないでしょう。

 

もしこれが2022年のリリース作品だったら、年末のベスト9に入れたかったくらいです。ファンク・ブルーズ史上でみても傑作の一つでしょう。

 

(written 2023.1.2)

2023/01/16

ファンク・ブルーズ五題(1) 〜 スタン・モズリー

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(2 min read)

 

Stan Mosley / No Soul, No Blues
https://open.spotify.com/album/2h7BgA3IliA1QQmvFo37d1?si=TzHBZDwiTZSWPVzZDqZ-cA

 

Pヴァインなどが全面展開しているからですが、2022年暮れ以来日本におけるブルーズやアメリカン・ブラック・ミュージック・ファンの話題をさらっている感もあるスタン・モズリーの新作アルバム『No Soul, No Blues』(2022)。ぼくもシビレています。妹尾みえさん経由で知ったんでした。日本企画作。

 

かつてマラコでも活躍したスタンはブルーズも歌えるソウル歌手といったところでしょうか。本新作はファンク・ブルーズのアルバムみたいに仕上がっていて、そんなところもたいそう好み。タイトなリズムとホーンズがめっちゃカッコいい。

 

スタンのヴォーカルはソウル歌手らしいふくらみを感じさせるもので、シャウト型で鋭角的にガンガンくるというよりはふわっとした印象が(本作では)あります。ちょっぴりニュー・ソウルっぽい?ここは日本人ブラック・ミュージック・リスナーのみなさんと意見が違うところでしょう。

 

それにこのアルバムで個人的にいちばん好きなのは、やわらかくジャジーな6「Undisputed Love」なんですもんねえ。グリッサンドするホーン・アンサンブルもレイド・バックしているし、こういうのが気持ちいい人間ですから、いまは。それでもファンキーな感覚は濃厚に漂っています。

 

アルバム全体のサウンドはゴツゴツしていて迫力があるし、ヴォーカルは「気合」と呼ぶしかないようなフィーリングに満ちているし、ストレートなブルーズらしいものはほとんどありませんが、ソウルフルなファンキーさが横溢していて、ガッツのある(従来的な意味で)ホンモノのブラック・ミュージックをこそ求めているという向きには歓迎されるはず。

 

(written 2023.1.1)

2023/01/15

こういうのが好き!〜 レイチュル&ヴィルリー

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(3 min read)

 

Rachael & Vilray / I Love A Love Song!
https://open.spotify.com/album/0j551HTufOYW6EJ9CQwNrD?si=fncdmoGxTBSbFUVOYSN53Q

 

萩原健太さん(経由の能地祐子さんにも)に教わりました。
https://kenta45rpm.com/2023/01/13/i-love-a-love-song-rachael-vilray/

 

金曜日お昼に知って以来もうすっかりこればっかのヘヴィ・ローテイション。三日間で20回は聴いたな。正直ゾッコンで、これだよこれ、こういうのがぼくの好きな音楽なんだ、待ってました!と快哉を叫ぶ内容のレイチュル&ヴィルリー新作アルバム『アイ・ラヴ・ア・ラヴ・ソング!』(2023)。

 

そう、これ2023年のニュー・リリースなんですよね。それでもってなんともレトロで、ロック勃興前の1930〜40年代を意識したスウィング・ジャズなポップス一直線。とうとうぼくみたいな嗜好の人間にとって「いまだっ!」っていう時代が到来したのかなあ〜。無性にうれしい。

 

まだ一月なのに2023年間ベスト1はこれにしたいっと思うほどなんですが、ヴィルリーというソングライター&ギターリストは初耳でした。レイチュルとは以前書いたレイク・ストリート・ダイヴのレイチュル・プライスそのひと。いやあ、ここまでノスタルジア・ジャズ向きとはねえ。幼いころはドリス・デイになりたかったらしいです。

 

12「Goodnight My Love」だけがカヴァーで、ほかはどれもヴィルリーの筆になるオリジナル・ソング。それがどこからどう聴いてもレトロ路線まっしぐら。ティン・パン・アリーの時代にテレポートしたような感覚横溢なんですが、これどうなってんの。21世紀にこんなソングライターいたんだね。ヴォーカルも取ります。

 

レイチュルのまろやかでセクシーな声もいいし、そもそもヴィルリーの書くものには難曲も多いのに、歌いこなしが天才的にスムースで、最初からこれを歌うために生まれてきたんだみたいなナチュラルなたたずまいなのがすばらしい。

 

伴奏はたぶん九人編成くらいのサウンドですねこれ。リズム四人+ホーン五管くらいかな。それもサロンふうで、まさしくレトロ・コンテンポラリー。サックスとクラリネットのジェイコブ・ジマーマンがアレンジもやっていて、なんだかビッグ・バンドみたいになめらかリッチでふくよかに香るっていうのもマジック。

 

歌詞はけっこうねじれていてユーモアに富みアイロニカルだと、それもあってアメリカ人ファンはこの音楽が好きなんだと、いう話も読みますが、個人的にはそこにあまり耳を傾けておらず、ただただおおむかしのハリウッド・サウンドみたいなメロディ・ラインとサウンド、そしてゴージャスでありかつアット・ホームなメロウ・アトモスフィアに酔っているだけであります。

 

なお「レイチュル&ヴィルリー」という表記は、公式アカウントのプロフに発音ガイドが載っているので従いました。
https://www.instagram.com/rachaelandvilray/

 

(written 2023.1.15)

2023/01/14

最高に楽しいクリスマス・ミュージック 〜 キム・テチョン

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(2 min read)

 

Kim Tae Chun / Santa Don’t Knock at Your Window
https://open.spotify.com/album/7jOBfcsGt90M6vi6ImcfyA?si=WxJT07QuT6qyvj1540w41Q

 

bunboniさんに教わりました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-12-25

 

クリスマス・ミュージックの季節じゃなくなりましたが、年中いつ聴いても楽しいものはやっぱり楽しいってわけで、韓国人音楽家、キム・テチョンの『Santa Don’t Knock at Your Window』(2014)がとってもいい。アルバム題も曲題もハングルですが、サブスクだと英題も併記されていますのでそっちを使いました。

 

ハワイアンふくめのアメリカン・ルーツ・ミュージックで仕立てあげたクリスマス・ソング集で、プサンを拠点とするキムはアクースティック・ギター弾き語りのカントリー・スタイル。それでぐいぐいスウィングするノリいい音楽を聴かせるんですよね。

 

1曲目からもうほんとめっちゃ楽しくて、サウンドはギターを中心とするリズム・セクションで組み立てられています。それがもうほんと極上。投げやりでちょっぴり邪悪に突き放したようなキムのヴォーカルもいい。がちゃがちゃからみながら入ってくるバック・コーラスだって痛快。

 

この1曲目と4曲目が個人的にはこたえられない大好物。やっぱり軽快なスウィング感がたまらないんですよね。キムはハワイアンなスライド・プレイも全編で聴かせていて、それだってうまいですよ。アルバム・タイトル曲の2なんかはちょっとスクリーミン・ジェイ・ホーキンスを思わせるムードだったり。

 

キリスト教会ふうのオルガン・サウンドをバックに歌われる5曲目に続くアルバム・ラストの6はおなじみ「きよしこの夜」。キムはハミングだけで歌詞は歌わず、ハワイアン・スタイルのギター・スライド・プレイに徹していて、まるでライ・クーダーなどアメリカン・ルーツ系のギターリストみたいですよ。

 

(written 2023.1.9)

2023/01/13

松山庶民派グルメ五選

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(2 min read)

 

クリニック通院とかヘア・サロン、ネイル・サロンその他でふだん市街地(松山市駅周辺、銀天街、大街道あたりなど)に出ると利用するレストランが五つほどあるので、ちょこっとご紹介がてらメモしておきたいと思います。

 

ぼくがいつも食べる定番メニュー価格の安い順に。場所はいずれもGoogleマップでさがせます。

 

1)キッチン・ライオン(カレー)千舟町

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ぼくが愛媛大学生だった約40年前からずっと同じ場所で営業を続けている老舗カレー・ショップ。安価でおいしい。カレーひとすじで、食後のコーヒーすらありませんが、カフェは周囲にいくらでもある立地。とにかく味が安定しています。現金のみ。

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2)麺家なかむら(ラーメン)大街道わき三番町

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プロ野球ヤクルト・スワローズが松山で試合などやると選手たちが食べにくる人気店(店内にサイン色紙など多数)。鶏ガラだしの塩ラーメンがとろけるほど絶品。狭い店内、無愛想なマスターですが、味は最高なので。要前日予約。現金のみ。

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3)とんとん(トンカツ)大街道

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松山No.1のトンカツ店でしょう。揚げものメニューは豊富ですが、いつも伊予いも豚のリブロースカツ御膳(ごはん、お味噌汁、キャベツ、香の物)を食べています。トンカツは香り高くジューシー。クレジット・カード可。

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4)かどや(おさかな)大街道

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海産物豊富な宇和島に本店があり。お店のイチオシは鯛めしですが、加熱していない生の切り身が食べられないぼくはいつも焼き魚を。やや暗めにアレンジされた店内照明もおしゃれで趣味よくクラッシー。なおかつ価格は庶民的。クレジット・カード可。

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5)うな一(うなぎ)市駅近く湊町

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うなぎは庶民料理じゃありませんねゴメンナサイ。大洲に住んでいた2018年10月にOKIソロ・ライヴで上松し見つけたビル二階の小さな関東風うなぎ屋さん。当時は女将さんがやっていて、その笑顔とおしゃべりとお人柄にすっかり魅了され通うように。いまでは息子さんが受け継いで、味も向上しています。ペイペイ可。

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(written 2022.12.10)

2023/01/12

ぼくにとっての最大のわさみん効果

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(3 min read)

 

とは、岩佐美咲を知って好きになったことを経由して、関連する演歌・歌謡曲方面への懐古的な興味がフル復活したこと。懐古だけでなくコンテンポラリーな新世代にも親しむようになったし、わさみんがどうこうっていうよりそっちのほうがぼくにとってはほんとデッカいことなんです。

 

じっさいわさみんはシングルのカップリングやアルバムで多数の演歌・歌謡曲スタンダードを歌っているし、ライヴ・イベントでもそう。だから自然とそれらの元歌手を聴くようになると思いますよ。そんな際いちいちCDやレコード買わなくても、思いついたらその場ぱぱっとサブスクで聴けるというのもマジ大きいです。

 

テレビやラジオ(の番組はもう聴いていないんだけど)でもわさみんはやっぱり演歌・歌謡曲系の歌手と共演することが多いし、そんなこんなで、美空ひばり都はるみ 〜 宇多田ヒカルや椎名林檎 〜 YOASOBI、オフィシャル髭男dismまで歌いこなすわさみんについていくと、とうぜん古今のJソングにくわしくなるはず。

 

音楽にかんしては根が貪欲なたちですから、わさみんヴァージョンで飽き足らず、オリジナルはどんなだっけ?ほかにどんなヴァージョンがあるの?とか、サブスクだと歌手名でも曲名でも検索できてサービスにあるやつはぜんぶ一覧で出てきますから、あらいざらい聴くようになりました。

 

インターネットのソーシャル、特にTwitterですけどわさみん関連、たとえば所属している長良プロダクションや徳間ジャパンはもちろんフォローしているし、関連する演歌・歌謡曲系アカウントをかなりたくさん追いかけるようになってみたら、それで情報がどんどん流れてくるんですよね。

 

結果知るようになった歌手や曲、アルバムは、そりゃもうたっくさんあって、ちょっとおもしろそうかも?とあたまにかけらでも浮かべばそのままSpotifyで検索し、パッと聴ける。ないものもけっこうあるけど(水森かおりはなぜ一曲もないの?)あるものをかけて、聴き込めばそれなりに感想がうかび、文章化につながったり、つながらなくても人生が充実するようになりました。

 

それがここ七年ほどブログで展開している演歌・歌謡曲関連記事の正体。「すべて」源泉をたぐればわさみんきっかけで直接間接的に知り聴いてみたっていうのが理由ですよ。一見わさみんに関係していなさそうでも。探究心旺盛なぼくの性格もあるでしょうが、わさみん推し活の自然な成りゆきだと思いますね。

 

(written 2022.12.30)

2023/01/11

充実のサンバ・パゴージ 〜 ロベルタ・サー

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(2 min read)

 

Roberta Sá / Sambasá
https://open.spotify.com/album/0CMOYF41lPS0w3Lf0GX3Hn?si=4Ik0i-8VQU-pmgecfSQ99Q

 

ジャケットはこんなでアレですけど、ロベルタ・サー(ブラジル)の最新作『Sambasá』(2022)はEPっぽい短さながら充実のサンバ・パゴージで、真っ向勝負。手ごたえあります。

 

ここまで正統的なサンバをロベルタが全面的かつストレートに歌うんですからうれしいですよね。もとから飾らない素直なヴォーカルが持ち味の歌手なので、素材とアレンジ/プロデュース次第でここまで良質な音楽ができあがるということでしょうね。

 

ナイロン弦ギター&カヴァキーニョを中心にした弦楽器群+パンデイロ、タンボリン、スルドその他といった打楽器群でサウンドが編成されているあたりもオーセンティックなサンバのマナーに沿ったもの。そこにアコーディオンやピアノなどがくわわります。

 

ブラジル音楽独自のサウダージが横溢しているのもうれしいところ。1曲目のコーラス部分からもそれはわかります。ロベルタが歌う主旋律はクッキリあざやかに上下するメロディ・ライン。それを重くせずあっさりと軽くふわっとつづっているのがぼくには最高なんですね。

 

2曲目はピアニストがアコーディオンを弾くのとリズムの感じとあわせ、やや北東部ふう。4曲目でゼカ・パゴジーニョ、6でペリクレスという二名のパゴージ界重鎮がゲスト参加して渋いノドを聴かせているのもいい。それら二曲ではサウダージもきわまっている感じです。特に6「Sufoco」。

 

(written 2022.12.29)

2023/01/10

UKレトロ・ソウルのライジング・スター 〜 ミカ・ミラー

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(2 min read)

 

Mica Millar / Heaven Knows
https://open.spotify.com/album/1Y9V7wuiJFJGZe5eGuMuMb?si=e3BcoXlYRR-TWn4FyFolLA

 

マンチェスターの新人レトロ・ソウル歌手、ミカ・ミラーのデビュー・アルバム『ヘヴン・ノウズ』(2022)は昨夏のリリースだったもの。これがわりといいんですよね。ハチロクの三連ビートを基調にした米南部ふうなゴスペル・ソウルもなかにはあって、ぼくなんかには最高。ミカはUKじゃ注目新人としてそこそこ話題になっている存在です。

 

特にグッと胸をつかまれたのがハート・ブレイキングで痛切なトーチ・ソングの8「Will I See You Again」。これがなにかのプレイリストから流れてきたことがぼくがミカを知ったきっかけでしたからね。この曲も三連の米サザン・ソウルふうで、泣いているような歌詞といい切ないメロディといい、ほんとに沁みます。

 

ある意味現代の名曲、名トーチ・ソングに仕上がったんじゃないかとすら思う「Will I See You Again」も、ソングライティング、アレンジ、プロデュース、演奏、ヴォーカルなどすべてだれにも頼らずミカひとりでこなしていて、それはアルバム全体がそう。

 

アルバム・タイトル曲の4「Heaven Knows」も、それから10「Stay」も、なつかしい三連サザン・ソウル・スタイル。その他すべての曲がむかしふうで、2022年の新作なのにヒップ・ホップやネオ・ソウル、現代R&Bを通過した痕跡がぜんぜんなし。全編70年代ふうのソウル・ミュージックで満たされているっていうようなレトロ具合です。

 

(written 2022.12.28)

2023/01/09

ジャズ入門ガイドにもいい最高のブルー・ノート・アルバム 50

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(4 min read)

 

https://www.udiscovermusic.jp/stories/the-50-greatest-blue-note-albums?amp=1

 

「最高のブルーノート・アルバム50枚」というのを数日前にuDiscovermusicが発表していました。なぜなら1月6日はブルー・ノート・レコーズの創立記念日でしたから。今年で社史84年目。最もアイコニックなジャズ・レーベルなのはもはやだれも疑わないでしょう。

 

記事文は短いもので、本体は下位から順に50作を紹介しSpotifyリンクを貼ってある部分にあります。しかもリストは音楽家名とアルバム題だけシンプルに書いてあって、一言の解説もなし。立派な見識と思います。

 

ジャズ好きなら見たこともないなんていう作品は一つもないはず。ですからみなさんごらんになって、納得するなり異論を持つなりすればいいことで、リンクされてあるSpotifyリンクを踏んで聴いたりCDでさがしてもいいし、めいめいのやりかたで楽しんでいただきたいと思います。

 

21世紀的新世代ジャズといえるものはロバート・グラスパーが選ばれているだけで、かろうじてカサンドラ・ウィルスンもその先駆けかといったこの二つだけ。ほとんどが1950〜60年代に録音発売されたレコードなのは、やっぱりこの会社、アルフレッド・ライオンが現役だった時代こそっていうことなのかもしれません。

 

50作のセレクション、上位に来ているものとちょっと気になるものはちょこちょこ聴きなおしましたが、めっちゃひさしぶりだったものもあります。たとえば一位の『サムシン・エルス』(キャノンボール・アダリー&マイルズ・デイヴィス)も15年ぶりくらい。Spotifyにあるのはオリジナルのモノラル版ですね。

 

これをふくめ、三位までがマイルズ関連であるというのもなんだか興味深いような。このトランペッターとアルフレッドは個人的親交があったものの、作品をたくさんレーベルに残したというほどでもないのに、それでもこうなるっていうのは存在感ゆえでしょうか。

 

こうしたブルー・ノート・ジャズの傑作群に大学〜大学院生のころはそりゃあもう胸を躍らせていたもんでした。夢中でレコード買いまくっていたなあ。そのうちCDで買いなおしたのは七割くらいで、そんでもってサブスク時代になって以後はなんでもあるので(ブルー・ノートは例外なくぜんぶある)おおいに助かります。

 

ちょっと気になれば所有していなくともパパッと聴けて楽しいし、今回のuDiscovermusicの50作セレクションでだってそうです。それでちょっとした感想も浮かぶし、現在未来の私的音楽ライフ形成に役立つので、マジでありがたいこと。

 

それに約10年前ごろからのソーシャル・メディア時代に、この老舗ジャズ・レーベルは完璧対応しているというのもすばらしいところ。個人的にいつも見ているのはTwitterとInstagramだけですが、その他のプラットフォームにもアカウントがあるはず。ニュー・リリースや発掘ものなど、そのほか折に触れて投稿があってハッと思い出したり発見したり。

 

ソーシャル・メディアとサブスクへの対応、この二点は2020年代においてレコード会社が展開してほしい必須のことがらなんで、長い歴史を持つブルー・ノートもそこへきっちり寄せてきているのはみごとですね。ベテランばかりでなく若い新規ファンも獲得しやすいですし。

 

ぼく的にイマイチ好みじゃないとかさほど熱心には聴いてこなかったっていうものもセレクションのなかに多少ありますが、これを契機にまたふたたびチャレンジしていますし、それでいままでにない自分へと変貌することもできるかもしれません。みなさんもぜひ。

 

(written 2023.1.8)

2023/01/08

聴きどころはブラウニーのブリリアンスとホーン・アレンジメントの妙 〜『The Eminent J.J. Johnson Vol.1』

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(2 min read)

 

J.J. Johnson / The Eminent J.J. Johnson Vol.1
https://open.spotify.com/album/4TxTaew1OPodAmKE1ICoIC?si=xRmIPE7jQD2Tbn68Nj2r9w

 

ブルー・ノートの公式ソーシャル・アカウントが紹介していたので、いま『The Eminent J.J. Johnson Vol.1』(このかたちでの発売は1989年)を生まれてはじめて聴いていますが(えっ?)、これめっちゃいいですね。どうしていままで聴く機会がなかったんでしょう、有名作だからアルバム題とジャケットはかなりよく見ていたのに。

 

サブスクにあるこのアルバムは2001年盤CDに沿ったもの。末尾の別テイク三トラックを外せば、10インチ盤オリジナルLP『Jay Jay Johnson with Clifford Brown』(1953)と同じ六曲で、曲順は違えども、これはこれで整理されていて聴きやすく、いいと思います。

 

トロンボーン、トランペット、サックス三管の重なりや動き、リズムとのからみあいなど緻密にアレンジされているのがわかりますが、だれが譜面書いたんでしょう、たぶんピアノで参加しているジョン・ルイスですかね、メンバーのなかでこういうのやれそうなのは。マイルズ・デイヴィスの九重奏団でだってアレンジャーの一人でしたし。

 

ソロ・パートにくると、なんたってトランペットのサウンドがあまりにブリリアントで、そこだけクッキリ浮き出ているように聴こえます。さもありなんクリフォード・ブラウンですよ。1953年6月のセッションですが、なんだか突出したあざやかさ。現在過去未来、これだけ吹けるトランペッターはほかにいないはず。

 

特に3「ターンパイク」ではソロ・リレーの一番手でブラウニーが出て、もうそれだけでいいほうに曲の印象が決まってしまうような、そんなみごとさ。このトランペッターはタンギング技巧がすばらしくて(全ジャズ・トランペッター中私的No.1)、そのおかげでフレイジングがくっきり歯切れいい快感をもたらし、最高です。

 

なんだかおかげでJ.J. ジョンスンもジミー・ヒースもソロはかすんでしまうほどですが、このアルバムの聴きどころはブラウニーのブリリアンスとホーン・アレンジメントの妙にあるんですから、これでおっけ〜。大好きな曲5「イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー」はJJのワン・ホーン吹奏で、美しく淡々とメロディをつづっているのがまたいいですね。

 

(written 2022.12.20)

2023/01/07

軽いBGMとして聴きたいレトロ・ポップス 〜 サラ・カン

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(2 min read)

 

Sarah Kang / how i remember
https://open.spotify.com/album/01NnWmqdwaZPdIzU5elnOS?si=TPMsd3SUQKmndHk-Kyuvyg

 

こないだなにかのプレイリストを流していて耳を惹いた韓国人シンガー、サラ・カン。そのとき聴こえてきたのは「about time」で、これがレトロ・ジャジーで完璧な好みだけど、と思いたぐって、最新作『how i remember』(2022)にたどりつきました。

 

アルバム全体では、レトロといってもオーガニックではなく打ち込みとデジタル・シンセを多用していますけど、ソングライティングがむかしふうにジャジーだしスウィートでメロウなヴォーカルもそう。ビートやサウンド・メイク(とアルバム・ジャケット)はロー・ファイっぽいですね。

 

そもそもロー・ファイってレトロ指向な音楽なわけで、 サラの本作も随所でアナログ・レコードを再生するときのパチパチっていう針音ノイズがわざとミックスされていたりするし、そういう装いで聴かせる音楽だっていうのがよくわかり、ぼくの好みにピッタリ合うんですよね。

 

「about time」は完璧な1930年代のスウィング・ジャズ・ポップスを意識した2/4拍子ですし、そのほかの曲もどこまでもレトロ。バック・イン・タイムっていうか、こういうのがいま流行だからそれに乗ってちょっとやってみただけの音楽家かもですけどね。『how i remember』っていうアルバム題もほんのりレトロ趣味に言及しています。

 

曲はサラも参加している共作が多く、トラックリストのところに載っているコラボ・ネームを見るとどうも日本人っぽいつづりのローマ字もあります。多くの曲がそうした共作でできあがっていますが、サラの名しか記載がないものはひとりでトラック・メイクもやっている模様。

 

音量をさほど上げず、室内でなにかをしながらの軽いBGMとして流していればいい雰囲気で、そういう接しかたをするもんですよ、ロー・ファイとかレトロ・ポップスって。

 

(written 2022.12.24)

2023/01/06

マイルズのB面名作(1)〜『ウォーキン』

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(4 min read)

 

Miles Davis / Walkin’
https://open.spotify.com/album/2aiYquTSYZ6xdi1gyHHR76?si=RpZruuLHSayIHgyeo6z-CQ

 

CDやサブスクでは「(片)面」なんてありませんが、シングルでもアルバムでもレコードでは通常A面こそが売り、メインというか主力商品を投入するもので、B面はおまけみたいなもん、裏面、という認識が一般的ですよね、届け手も聴き手も。

 

だからそれを逆手にとってあえてB面にちょっとおもしろそうなものを入れてみたり、両A面扱いにしたり、マニアックな聴き手も注目したりっていうことがむかしからあると思います。好きなら全面聴きたいというのが本心でもありますし。

 

それにある時期以後みたいにアルバム全体で一貫した統一性、流れなんてものがまだなかった時代、LPレコード登場初期には、無関係のセッション音源を寄せ集めた、いはばコンピレイション的なものが多かったという側面もあって、A面B面でガラリと様子が違うなんてのもあたりまえでした。

 

マイルズ・デイヴィスの『ウォーキン』(1957年発売)だってそう。A面のブルーズ二曲こそが時代を画する傑作だというみなされかたをしてきましたが、B面の三曲は別なセッションからの音源なんですよね。そして、実はそっちも(そっちこそ?)チャーミング。

 

バンド編成もムードもA面とはだいぶ違う『ウォーキン』B面の三曲はクインテット編成。アルト・サックスにデイヴ・シルドクラウト(ってだれだかいまだによく知らない、ほかでも見ないし)、リズムはA面と同一でホレス・シルヴァー、パーシー・ヒース、ケニー・クラーク。

 

バップ系の熱いもりあがりこそが命のA面に比し、B面の「ソーラー」「ユー・ドント・ノウ・ワット・ラヴ・イズ」「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー」には冷ややかなクールネス、温度の低さ、淡々としたおだやかさがあって、そういうところこそ好きですよ、いまのぼくは。A面が非日常とすれば、B面には日常的な室内楽っぽさがあります。

 

ボスがトランペットにカップ・ミュートをつけているのも(A面はいずれもオープン)そんなムードを醸成している一因です。くわえてA面に比べB面はビート感というかグルーヴが水平的でなめらか。スウィングするというよりす〜っと横に流れていく感じ。それは三曲ともドラマーがブラシしか使っていないことにも原因があります。

 

曲はですね、「ソーラー」がこのセッションのために用意されたマイルズ・オリジナルで、これしかしかなりの有名曲ですよ。なんたってこの音楽家の墓石にはこの曲の譜面が刻印されているくらいだし、じっさいSpotifyデスクトップ・アプリでみるとアルバム中再生回数も最多(600万回弱)。

 

「ユー・ドント・ノウ・ワット・ラヴ・イズ」はサックス抜きのワン・ホーン・バラード。イントロでホレス・シルヴァーが弾くちょっぴりいびつに跳ねるフレイジング(はこのピアニストが得意とするところ)に導かれ、しかしテーマ吹奏に入るとビート感は平坦なものになります。

 

その上をリリカル&メロディアスに吹いていくマイルズのプレイがとっても魅力的だと思うんですよね。バラディアーとしてまだ若干の未熟さも散見されますが、すでに数年後フル開花する持ち味の片鱗は、いやかなりか、覗かせているとぼくは聴きますね。

 

あんがいカップ・ミュートの音色が蠱惑的に響くという面だってあります。このジャズ・トランペッターはいうまでもなくハーマン・ミュートこそが生涯のトレードマークだったんですが、そうなる前はチャーリー・パーカー・コンボ以来ずっとカップ・ミュートを使っていました。

 

(written 2022.12.16)

2023/01/05

ASD(=ぼく)に理解できないこと

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(2 min read)

 

・事実や正しさだけを最優先しないこと(みんななぜ?)
・ひとの気持ち(ぜんぜんわからない)
・他人の立場になって考える(なぜできないかと言われる人生だった)
・ギヴ&テイク(あげるだけ/もらうだけ)
・空気(読めない)
・世間(気にしたことがない)
・義理と人情(ってなんだっけ?)
・気遣い(やりかたわからず)
・タテ社会(生きづらい)
・本音と建前、ウラとオモテ(区別できない、すべて本音)
・うわべ(内実と違ったりすることがあるらしいね)
・思っても言わないこと(ストレートに言ってしまう)
・根まわし(いきなり本論をぶつける)
・社交辞令(言わないし、言われたことも額面どおり受け取る)
・忖度(悪だと思っている)
・落としどころ(ってなにを決めるの?)
・ソフト・ランディング(人生いつも難着陸)
・パズル、クイズ(イライラするばかり)
・正論だけ堂々と述べても通らないことがある(なぜ?)
・他人はウソをついたり本当のことを言わないばあいもある
・言外のふくみ

 

~~~

一方いいところもあるんですASDには↓

・語彙が豊富
・ファクト重視のコミュニケーション傾向
・論理思考が得意
・とことん突きつめて考える
・記憶力がいい
・言語スキル、特に筆力が高い
(相互コミュニケーションは大問題だけど、一方的発言は得意なのだ)
・細かいところに気づく能力
・興味のある一つのことをやり続ける集中力と持続力
・正直である
・常識にとらわれない発想力
・単調な作業を飽きずにできること
・根気や精密さのいる作業への適性
・見た目が若いこと

 

(written 2022.12.14)

2023/01/04

レイヴェイが好きというならベイカーも(チェット川柳)

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(3 min read)

 

Chet Baker Sings
https://open.spotify.com/album/5JJ779nrbHx0KB2lBrMMa4?si=9WXWrA-OR4yFMTlLJFH9Cw

 

『Laufey Digs Jazz』プレイリストでいちばんたくさん選ばれていたのはチェット・ベイカーで五曲。レイヴェイは自分のアルバムでも「Just Like Chet」という自作曲をやっているし、間違いなくチェット・ベイカー好きでそれが最大のインスパイア源ですよね。こないだはエイモス・リーもチェット・ベイカーへのトリビュート・アルバムを出しました。

 

この事実、ほんとうはちょっとあれだったんですよねえ、ぼくには。大学生のころ最初に聴いたときからずっとチェットはどのアルバムもなんか苦手で、特にヴォーカルがどうしても性に合わないっていうか、長年ガツンとくるブラック・ミュージック・シンガーこそフェイバリットでしたから。

 

がしかしそれでも愛するレイヴェイが好きというのなら…と、使ったお箸まで舐めたいくらいな心情があるもんで、最近趣味も変化してきたしで、ちょっと気を取りなおして、まずは『Laufey Digs Jazz』に選ばれていたチェットの五曲を抜き出してまとめ、聴きはじめました。

 

なかでも二曲選ばれている1956年の名作『チェット・ベイカー・シングズ』がひときわ心地いいように聴こえました。約40年間なんど聴いてもピンとこなかったのに、推しの力ってホントおっきいですよ。オープニングの「ザット・オールド・フィーリング」なんて、いまやたまらない快感です。

 

こういったちょっと軽めのビートが効いた調子いいナンバーこそぼく的には本アルバムで最高の好み。でもたくさんはなくて、ほかに「バット・ナット・フォー・ミー」(これもいいね)と「ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー」「ルック・フォー・ザ・シルヴァー・ライニング」だけ。

 

こうした曲ではヴォーカルもいいし、薄味で涼やかな軽いオープン・トランペットもちょうどいい味つけに聴こえるし、全体的になだらかでおだやか。いまいち乗り切れない内気な恋愛をさっぱり淡々とつづっている様子は、まさにレイヴェイ的。スウィング、ドライヴしているというほどではなく、まったりもしすぎていない中庸さ、それが気分ですよ。

 

だからどっちかというと暗さ、沈んだブルーな色香がただよっているバラード・ナンバーは、いまのぼくにはまださほどでもなく。といっても曲によりますが、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」「ライク・サムワン・イン・ラヴ」「アイヴ・ネヴァー・ビーン・イン・ラヴ・ビフォー」あたりはもっと時間がかかりそうです。

 

(written 2022.12.23)

2023/01/03

Getz / Gilberto+50と原田知世

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(3 min read)

 

v.a. / ゲッツ/ジルベルト+50
https://open.spotify.com/album/3QTVKtmhzL0jKuKZy4ltXj?si=nmAhWbyhT7uEE9kYs4q5hA

 

『ゲッツ/ジルベルト』(1964)のことをいままではケッと思ってきましたから、50年目に全曲をそのままの曲順でカヴァーしたトリビュート・アルバムなんてねえ…と敬遠していたというか正直いって聴かずにバカにしていたというにひとしい『ゲッツ/ジルベルト+50』(2013)だったんですが(でもそのころなぜかCDは買った)。

 

いくら大好きな原田知世プロデューサー、伊藤ゴローの手がけた音楽だとはいえ、う〜〜ん、…と思っていたところ、きのうも書きましたように(レイヴェイ経由で)『ゲッツ/ジルベルト』がとってもステキな音楽だと還暦にしてようやく理解した身としては、ひょっとしてと思って『ゲッツ/ジルベルト+50』もじっくり聴いてみる気分になりました。

 

2013年というと日本でも現在みたいにレトロ&オーガニック路線のポップスはまだそんな大きな潮流になっていなかったはずですが、『+50』をいまの時代に聴くと、完璧なるその先駆けだったと思えます。つまり100%このごろのぼく好みの音楽ってこと。

 

やっぱりボサ・ノーヴァとはいえないと思うんですが、その要素のあるジャジー・ポップスで、おしゃれでスタイリッシュでおだやかソフトなJ-POPというおもむき。いうまでもなくゴローがプロデュースする知世がそんな世界を代表する存在なわけです。知世は『+50』にも一曲だけ「ヴィヴォ・ソニャンド」で参加しています。英語詞。

 

先駆けといってもゴローが知世をプロデュースするようになったのは2007年の『music & me』からのこと。すでにこのとき現在につながる傾向はしっかりありました。しかしこうしたちょっとボサ・ノーヴァっぽいジャジー・ポップスこそが知世&ゴロー・ワールドのカラーなんだ、その源泉みたいなのがここにあると、『+50』を聴いて感じます。

 

近年の日本の(コンピューター打ち込みをサウンドの主軸としない)オーガニックなおだやかポップスは、べつにゴローがつくりだしたとかパイオニアだとかいうわけじゃないでしょうが、『+50』を聴いて直後に知世などかけると、あまりにも酷似しているというかルーツがどのへんにあったかはっきりしているんじゃないでしょうか。

 

個人的には知世ラヴァー(正確にはゴロー・プロデュースものにかぎる)で、そんな世界にすっかり心身の芯まで染まっている身としては、『+50』を聴きながら、あぁこれだよこれこれこそぼくの好きな音楽のスタイルじゃないか、なんだ『ゲッツ/ジルベルト』だったんだ、レイヴェイもそうであるようにゴロー・ワールドもだ、と得心しました。

 

(written 2022.12.15)

2023/01/02

ぼくの『ゲッツ/ジルベルト』愛を言明できる時代にようやくなった

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(3 min read)

 

João Gilberto, Stan Getz / Getz / Gilberto
https://open.spotify.com/album/2W6Hvrtg2Zpc9dW4aBDbdP?si=ZSkUsEjaT-mV3LIcvq3S7w

 

それで、これもレイヴェイが好きだということで、ただそれだけの理由(だけでもないんだけどほんとは)で、聴きなおし見なおすようになったジョアン・ジルベルト&スタン・ゲッツの『ゲッツ/ジルベルト』(1964)が、なんだかんだいってやっぱいいよね。

 

このブログでも以前はボロカス書いてしまいましたが、この手の音楽がまさかここまで復権してくるとはねえ、そのころ想像していませんでした。迂闊にものは言えないもんです。ちょっと前その記事にアクセスが多かったのはそういうことだったんですね。

 

レイヴェイも「プラ・マシュカ・メウ・コラソン」を選んでいたし、じっさいこういったあたりの、決してハードにスウィングもしない、おだやかに静かにそっとやさしく中低音域でささやきかけてくるような雰囲気を持った音楽こそ、現行レトロ・ジャズ・ポップス・シーンのというかレイヴェイ・ミュージックの主源流。

 

ですから「ドラリス」なんかもいいし「デザフィナード」(は「デサフィナード」が標準表記だけどジョアンの歌で発音を聴いてみて)もすばらしいです。さほどスウィンギーじゃなくじっとたたずんでいるような陰キャ・ムードがいいので、「イパネマの娘」「ソ・ダンソ・サンバ」あたりはそうでもありません。

 

サロン・ミュージックふうの密室性と広がりを同時に香らせている録音というか音響も実にいまっぽく、レイヴェイなんかそのへんまで本アルバムからコピーしているんじゃないかと思うほど。そしてムーディでおしゃれですし。

 

自室や雰囲気のいいカフェでラテやカプチーノを楽しんでいるときに聴くにはこれ以上なくピッタリくる音楽で、骨がないとかガツンとこないとかブラジル音楽がわかっていないとかいままでさんざん言われてきて、ぼくもちょっとそう思っていましたけど、いまとなってはすべて手のひら返したい気分。

 

『ゲッツ/ジルベルト』はきれいで良質な音楽ですよ。「ホンモノ」のボサ・ノーヴァ、ブラジル音楽じゃないかもしれませんけど、これはムーディでちょっとおしゃれな雰囲気のいいジャズ・ポップスですから。そこにボサ・ノーヴァ・インフルーエンストな要素が混ぜ込まれているだけの。

 

(written 2022.12.14)

2023/01/01

ホンモノ/ニセモノといった二分価値観とは違う世界 〜 レイヴェイ・ディグズ・ジャズ

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(5 min read)

 

Laufey Digs Jazz
https://open.spotify.com/playlist/37i9dQZF1DWTtzPKJEaTC4?si=9132ccc459c44265

 

レイヴェイが好きなので関連もどんどん聴いているわけですが、こないだSpotifyに『Laufey Digs Jazz』というプレイリストが出現しました。レイヴェイほか現行レトロ・ジャズ・ポップス歌手たちの源流ともいえる古めの曲を集めたもの。

 

“Laufey shares her jazz favorites” と書いてあるので、Spotifyとレイヴェイがコラボしての企画かもしれません。ひょっとしてレイヴェイ自身の選曲っていう可能性が、いやたぶんそうに違いないと思わせる実感が、ふだんこの歌手のプライベートなInstagram投稿を見ているので、しっかりあります。

 

このプレイリストを流していていちばん強く感じるのは、ドライヴィな快速調が一つもなく、ふわっとソフトでおだやかで静かで室内楽な陰キャものばかりだということ。レトロ・ムードなんてのはいうにおよばず、こうした(ロックとはかすりもしないような)古めのジャズ・ソングこそ現行レトロ・ジャズ・シーンの源流になっているっていうの、もはやだれも疑わないことでしょう。

 

もうひとつとっても重要なことがわかります。それはいままでぼくら「ホンモノ」志向のジャズ聴きがケッと思ってきたような、つまりニセモノっぽいというかつまらないものと断じて遠ざけてきたような音楽が、ここではしっかり息づいているということ。

 

レトロ・ジャズ・シーンにおいてそうした「フェイク」が復権しつつあるというか、たとえば本プレイリストにも選ばれているヴァーヴ時代のビリー・ホリデイ、カクテル・ピアノ、『ゲッツ/ジルベルト』とか、おしゃれでムーディだけど骨がない、もし好きと言おうもんならわかっていないねとみなされてきたようなもの、そういうのが確固たる輝きとポジションを持つようになっています。

 

ある意味それらもホンモノと考えられるようになってきたというか、ホンモノ/ニセモノといった二分価値観とは違う世界がここにあります。つまり現行レトロ・ジャズ・シーンの主役になっているレイヴェイはじめ若手ジャズ歌手にとっては、紙で読むような玄人筋の本格古典評価なんてのは見たことないわけで。そんなの関係ないっていうか、サブスクでべたっとぜんぶならべて距離感の濃淡をつくらず聴いているみたい。

 

それでもって(周囲の、過去の評価にまどわされず)自分の耳で聴いて、心地いい、楽しい、くつろげると感じた音楽だけをみずから選びとっていて、自分でも書き歌う音楽のベースとしているわけなんですよね。ショップでレコードやCD買う際には棚にならべるための他者判断がどうしてもあらかじめ介在しますが、サブスク聴きの普及でそれが薄くなりました。

 

特にボサ・ノーヴァふうというか、つまり(従来的な見かたでは)フェイク・ボサ・ノーヴァなんですけど『ゲッツ/ジルベルト』みたいな音楽が、現行レトロ・シーンにおいてしっかり再評価されているということは、このアルバムがいいと思う人間はブラジル音楽がわかっていないとされる価値観で生きてきた人間には軽いショックですらありました。

 

ブラジル音楽、ボサ・ノーヴァと考えようとするから『ゲッツ/ジルベルト』やそれ系のちょっぴりスタイリッシュなボサ・ノーヴァ・インフルーエンストなアメリカン・ポップスなんかくだらないとなるんであって、そんな要素を軽くとりいれてみただけのムーディなジャズ・ソングとして、実はゆっくりおだやかにくつろげる良質ポップスだとわかってきます。

 

ジョアン・ジルベルトやアントニオ・カルロス・ジョビンが全面参加しているもんだからそのあたりの評価であれこれ言われますけれども、レイヴェイや2020年代のレトロ・ジャズ・シーンにいる新世代歌手たちにとっては、それもまたムードがあって楽しいリラクシングな音楽なんですよ。クラシック系の一部室内楽やスウィング・ジャズなどと同列で。

 

(written 2022.12.12)

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