ホンモノ/ニセモノといった二分価値観とは違う世界 〜 レイヴェイ・ディグズ・ジャズ
(5 min read)
Laufey Digs Jazz
https://open.spotify.com/playlist/37i9dQZF1DWTtzPKJEaTC4?si=9132ccc459c44265
レイヴェイが好きなので関連もどんどん聴いているわけですが、こないだSpotifyに『Laufey Digs Jazz』というプレイリストが出現しました。レイヴェイほか現行レトロ・ジャズ・ポップス歌手たちの源流ともいえる古めの曲を集めたもの。
“Laufey shares her jazz favorites” と書いてあるので、Spotifyとレイヴェイがコラボしての企画かもしれません。ひょっとしてレイヴェイ自身の選曲っていう可能性が、いやたぶんそうに違いないと思わせる実感が、ふだんこの歌手のプライベートなInstagram投稿を見ているので、しっかりあります。
このプレイリストを流していていちばん強く感じるのは、ドライヴィな快速調が一つもなく、ふわっとソフトでおだやかで静かで室内楽な陰キャものばかりだということ。レトロ・ムードなんてのはいうにおよばず、こうした(ロックとはかすりもしないような)古めのジャズ・ソングこそ現行レトロ・ジャズ・シーンの源流になっているっていうの、もはやだれも疑わないことでしょう。
もうひとつとっても重要なことがわかります。それはいままでぼくら「ホンモノ」志向のジャズ聴きがケッと思ってきたような、つまりニセモノっぽいというかつまらないものと断じて遠ざけてきたような音楽が、ここではしっかり息づいているということ。
レトロ・ジャズ・シーンにおいてそうした「フェイク」が復権しつつあるというか、たとえば本プレイリストにも選ばれているヴァーヴ時代のビリー・ホリデイ、カクテル・ピアノ、『ゲッツ/ジルベルト』とか、おしゃれでムーディだけど骨がない、もし好きと言おうもんならわかっていないねとみなされてきたようなもの、そういうのが確固たる輝きとポジションを持つようになっています。
ある意味それらもホンモノと考えられるようになってきたというか、ホンモノ/ニセモノといった二分価値観とは違う世界がここにあります。つまり現行レトロ・ジャズ・シーンの主役になっているレイヴェイはじめ若手ジャズ歌手にとっては、紙で読むような玄人筋の本格古典評価なんてのは見たことないわけで。そんなの関係ないっていうか、サブスクでべたっとぜんぶならべて距離感の濃淡をつくらず聴いているみたい。
それでもって(周囲の、過去の評価にまどわされず)自分の耳で聴いて、心地いい、楽しい、くつろげると感じた音楽だけをみずから選びとっていて、自分でも書き歌う音楽のベースとしているわけなんですよね。ショップでレコードやCD買う際には棚にならべるための他者判断がどうしてもあらかじめ介在しますが、サブスク聴きの普及でそれが薄くなりました。
特にボサ・ノーヴァふうというか、つまり(従来的な見かたでは)フェイク・ボサ・ノーヴァなんですけど『ゲッツ/ジルベルト』みたいな音楽が、現行レトロ・シーンにおいてしっかり再評価されているということは、このアルバムがいいと思う人間はブラジル音楽がわかっていないとされる価値観で生きてきた人間には軽いショックですらありました。
ブラジル音楽、ボサ・ノーヴァと考えようとするから『ゲッツ/ジルベルト』やそれ系のちょっぴりスタイリッシュなボサ・ノーヴァ・インフルーエンストなアメリカン・ポップスなんかくだらないとなるんであって、そんな要素を軽くとりいれてみただけのムーディなジャズ・ソングとして、実はゆっくりおだやかにくつろげる良質ポップスだとわかってきます。
ジョアン・ジルベルトやアントニオ・カルロス・ジョビンが全面参加しているもんだからそのあたりの評価であれこれ言われますけれども、レイヴェイや2020年代のレトロ・ジャズ・シーンにいる新世代歌手たちにとっては、それもまたムードがあって楽しいリラクシングな音楽なんですよ。クラシック系の一部室内楽やスウィング・ジャズなどと同列で。
(written 2022.12.12)
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