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2023年2月

2023/02/28

2023年を代表する大傑作 〜 キミ・ジャバテ

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(2 min read)

 

Kimi Djabaté / Dindin
https://open.spotify.com/album/6UK19lM9QS02E9GYi69EHJ?si=Bx3nb-KqRBuAsbqNWEjEDQ

 

リスボンを拠点としているギネア・ビサウ出身のグリオ系音楽家、キミ・ジャバテ(ヴォーカル、ギター、パーカッション、バラフォン)の最新アルバム『Dindin』(2023)がチョ〜カッコいいぞ。もうシビレちゃって、連日こればっか聴いてるんだもん。

 

特にも〜タマラン!のが3曲目「Alidonke」。毎日なんどもリピートし、部屋でひとり踊り狂っちょります。先行シングルの段階ですでに聴けた曲で、そのときから惚れちゃって、こんなのがあるんならアルバムも傑作に違いないと確信できたすばらしいセクシー・グルーヴに降参。

 

西アフリカのグリオ伝統やアフロ・ポルトガルな音楽ルーツにしっかり根差しながら、デザート・ブルーズなどもとりいれつつコンテンポラリーで良質なアフリカン・ビートを体現しているとわかるのが圧倒的で、なにもかも完璧なグルーヴを持つこれは、もう2023年のベスト・トラックに決まりですよ。

 

その他4「Kambem」、7「O Manhe」、10「Mana Mana」など、強く速めのビートの効いた曲はたまらないほどカッコよくグルーヴィで、それでいてかっ飛んでいる印象がなくクール。ヒタヒタと静かに迫ってくるような落ち着きがあり、曲づくりもバンドの演奏もよく練り込まれています、アルバム全体でも。

 

キミ自身の曲であるどれも内容的にはアフリカの社会や政治状況、宗教や女性の権利、貧困、教育といったテーマをとりあげている模様ですが、マンディンカ語を聴解できないぼくは、演奏されるビートやサウンド面でのすばらしさカッコよさにひたすら酔うばかり。

 

「Alidonke」が今年のベスト・トラックであるばかりか、本作『Dindin』はいまのところ2023年の音楽を代表する大傑作に違いないと惚れこんでいます。アフロ・ポップの伝統、近年の成果、ルゾフォニアのみならず世界の音楽を俯瞰する視野のひろさ、新しいビート感 〜〜 すべてを兼ね備えつつ熟練でコクのあるまろやかなできばえに落とし込むキミの手腕に脱帽。

 

(written 2023.2.28)

2023/02/27

デクスター・ゴードンの「ウェア・アー・ユー?」が絶品

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(2 min read)

 

Dexter Gordon / Go
https://open.spotify.com/album/5nEJj9bjoarnzlS88NiWet?si=pmk8GfxARMKepIXYU6y-Fg

 

ときたま無性に聴きたくなることがある典型的ハード・バップ。音楽に接し気楽な心地でいたいときには好適なんですよね、ぼくには。このへんが音楽キチガイへの入り口だったからなんでしょうか、やっぱり。バック・ホームっていうか。

 

優秀な傑作でなくたって、ありきたりのあたりまえでいい、そういうのが聴きたい、聴いてなんとなくダラダラしたムードでくつろぎたいというこのぼくのそんなときたま訪れる嗜好にだれも文句はつけられないはず。そういうのもまた音楽趣味。

 

ということで選んだデクスター・ゴードンの『Go』(1962)。全六曲はオープニング・ナンバーが自作なのを除けばスタンダードばかりで、ソニー・クラークを中心とするピアノ・トリオをしたがえたワン・ホーン編成。デックスに多いですね。

 

バラード二曲(2、5)が特にすばらしくって、ことに5「Where Are You?」は、以前クリスチャン・マクブライドのヴァージョンを絶賛した記事でも書きましたが、ほんとうに大好物の一曲なんですよね。「あなたはどこへ行ってしまったの?」という悲痛な失恋歌ですが、メロディの美しさは筆舌につくしがたく。

 

それで、デックスのテナー・サックス吹奏って、おわかりのとおりちょっともたるんですよね。ビートにジャストで乗らず、ほんのわずかに遅れて音が出てくるでしょ。もっさりしているっていうか、だから快適テンポのグルーヴ・チューンだとイマイチこっちが乗りきれない気がすることもあります。

 

その点、バラードならいいですよ。若干のアフター・ビート乗りでもさもさ吹きあげるスタイルが、じっくりしっとり曲の情緒感をつづっていく様子に聴こえて、リリカルでていねいに感じます。「ウェア・アー・ユー?」みたいな曲だといっそうそれがきわだつと思うんです。

 

正直いって「ウェア・アー・ユー?」一曲の印象があまりにもすばらしいので、ただそれ一個だけの理由できょうのこの文章を書いておこうという気持ちになりました。それほど本曲でのデックスの演奏は沁み入ります。ロスト・ラヴの美があります。

 

(written 2023.2.17)

2023/02/26

1960年代後半への郷愁 〜 エイドリアンズ

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(3 min read)

 

The Adelians / The Adelians
https://open.spotify.com/album/4Tz6y1qG72VP31L53Sd9xr?si=2Ol3UM2KTz6vJalxt1N9mA

 

1960年代モータウンみたいなポップなブラック・ミュージックだなっていうのは聴けばわかるけど、このエイドリアンズって何者なんでしょうか。ほとんど情報がなく、どこでアルバム『ジ・エイドリアンズ』(2017)を知ったのかも忘れたら確かめようがありません。メモしておけばよかった。

 

でもBandcampにページがありました。それによればカナダはモントリオールのバンドで七人編成。ヴォーカルがフロランス・ピタール。ほかギター、オルガン、ベース、ドラムス、サックス二本。『ジ・エイドリアンズ』が唯一の作品のようです。

 

バンドの演奏も歌手の歌いかたも荒削りで一本調子。どうってことない音楽なんですが、なんだか郷愁を強くかきたてられるものがあり、たぶんこれがシックスティーズへの視線を強く持ったレトロ・ソウルだからですよね。

 

といってもぼくは1960年代の洋楽でも邦楽でもほとんどリアルタイムで聴いていなくて、若干テレビの歌番組で触れていた日本の歌謡曲とか演歌とかそのへんだけなんです。当時のジャズやロックやモータウン・サウンドなんてもちろん知らず。

 

しかし当時から日本の歌番組で披露されるヒット曲がそんな洋楽の影響下にしっかりあって、その要素がかなり流入していたよなあと思います。でもこのことだってずっとあとになってからわかるようになったことですから。そうとも知らず知らずに体内に染み込んでいたにせよ。

 

エイドリアンズを聴いていると、まさに「あのころの」っていうことばがピッタリ似合うような音楽で、当時の洋楽なんかリアルタイムではなにも知らなかったぼくですらノスタルジアを感じてしまう、なんだかタイム・スリップしたみたいななつかしさがある、それもやや自覚的に、というのはやっぱり洋楽 in 邦楽をそれとなく感じていたんでしょう。

 

そんなエイドリアンズ、アルバムは音響まで1960年代ふうのサウンドに寄せたようなチープさ雑さで、これモノラルなんですよね。当時のカー・ラジオとかテレビ受像機の内蔵スピーカーとかから流れてきたらちょうどよく響くだろうっていうようなミックスで。

 

レイト60sヒット・チューンのカヴァーだって多少ふくまれているし、ぼくの世代だとちょうど小学生の時分にこんな空気感があったよなあ、それだから少年時代に戻ったような心地がするんだ、洗練されておらずおしゃれじゃないけれど、あのころのあの感じ、それが鼻の奥でツンと匂うみたいな。

 

エイドリアンズのバンド・メンバーがどのへんの年代でどういったひとたちなのか、どういった活動歴かなどは結局Bandcampにもどこにも情報がないんですけど、シックスティーズ・ソウルへのヴァーチャル・ノスタルジアを具現化している存在だっていうのは間違いないんじゃないでしょうか。

 

(written 2023.2.11)

2023/02/25

レイヴェイ『A Night at the Symphony』トラックリスト

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(2 min read)

 

日本時間の2月24日早朝、起きてTwitterのタイムラインを読んでいたら突然目に入った「feeling like leaking the tracklist for Night at The Symphony」というレイヴェイのツイート。

 

アルバムは3月2日のリリースが予定されていますが、レイヴェイ自身待ちきれないといった様子がうかがえますね。それはぼくらファンのがわだってそうなんで、トラックリストを流してくれるのはやっぱりうれしかった。

 

その数分後に手書きのを写して載せてくれたのが上掲写真。公式Instagramにも載りました。これを見ていると、全14曲、予想どおりぼくらファンにはすっかりおなじみの自作ナンバーが大半を占めているとわかります。デビューEP『ティピカル・オヴ・ミー』(2021)からの曲もあり。

 

「ザ・ニアネス・オヴ・ユー」や「エヴリタイム・ウィ・セイ・グッバイ」みたいな有名スタンダードもあるし、一個だけ(ぼくは)見たことのないタイトルもふくまれていますが、シンフォニー・オーケストラとの共演でレイヴェイが歌うとなれば、だいたいどんなものか想像はつきます。

 

コンサート風景の写真を昨年たくさん見ていたころに、スタンド・マイクで歌うだけでなくピアノやギターもわきに置いてあったとわかっているので、それらを弾きながら披露した曲もあったのかもしれません。

 

さあ、アルバムのリリースはもう次の木曜日と近づいてきました。ワクワクしますね。

 

(written 2023.2.25)

2023/02/24

みんな、いまぼくらは歴史をたどっているんだよ 〜 エディ 9V

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(3 min read)

 

Eddie 9V / Capricorn
https://open.spotify.com/album/34kckA5C2zC6ouE5ncMJfI?si=ujZvVbtETp-4RYqN1jqW6A

 

おととし12月ごろでしたか、デビュー作をとりあげたエディ 9V(ナイン・ボルト)。若手サブスク世代のレトロなブルーズ・ギターリスト&シンガーなんですが、二作目『キャプリコーン』(2023)が出ました。

 

ジョージア州メイコンにあるキャプリコーン・スタジオで録音したもので、それゆえでのアルバム題。ここはオールマン・ブラザーズ・バンド、マーシャル・タッカー・バンド、ウェット・ウィリー、チャーリー・ダニエルズ・バンド、ボニー・ブラムレットなどが数々の名作を生み出してきた南部の名門レコーディング・スタジオ。

 

それもあってかエディ 9Vの今作はブルーズだけでなくもっと幅広いサザン・サウンドを展開していて、ソウル/スワンプ・ロック寄りの内容になっているのが、ある意味前作以上にとってもいい。3、8曲目はカヴァー。

 

ブルージーなエレキ・ギター・ソロが今回も全編でたっぷり聴けますが、前作と違ってエディ本人ではないようです。メンバーのギターリストにまかせているみたいで、本人はヴォーカル中心。ドゥエイン・オールマンばりのスライドが聴けたりするので名前を知りたいな。

 

そのスライドがカッコいい2曲目、8曲目(ボブ・ディラン)なども特に出来がよく、聴きごたえありますね。シル・ジョンスン → ボニー・レイトな3もすばらしい。ホーン・セクションの入りかたまでまさに南部ふうで、1970年前後ごろの雰囲気満点。

 

ギターをさほど弾かずともヴォーカルだけでじゅうぶん魅せるエディは、歌手としてもここまでの存在なんだということを立派に証明しています。ナイン・ボルトっていうステージ・ネームがエレキ・ギターへの言及で、前作なんかはそこにフォーカスしていた感じでしたが。

 

2曲目が終わって3曲目に入るとき、エディがバンド・メンバーに向けてしゃべっているんですけど「great brothers, we’re tracking history right now, ya all」って。本人もアトランタ出身であり、歴史を創ってきた南部の名門スタジオでやっているんだぞっていうある種の高揚感が伝わってくるようじゃないですか。

 

(written 2023.2.10)

2023/02/23

ジョー・チェインバーズの最新作は快適なアフロ・ラテン・ジャズ

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(2 min read)

 

Joe Chambers / Dance Kobina
https://open.spotify.com/album/0AUn2s7xXGY4ZGWArU66QA?si=kFACXcB6RiGCgc3zy-mFOg

 

1960年代から活躍しているベテラン・ジャズ・ドラマー、ジョー・チェインバーズ。ブルー・ノート移籍後のここ数作はラテン〜アフリカ路線の野心作が続いていますが、最新アルバム『Dance Kobina』(2023)はひときわみごとなできばえで、聴いていて実に楽しくスリリングで心地よい。

 

ジョーのドラムス/パーカッション/ヴァイブラフォンにベースとピアノがくわわるトリオ編成を軸に、曲によりサックスも参加。ドラムス、パーカッション、ヴァイブは他の奏者名もクレジット一覧にありますが、ここはどっち?という耳判別はできず。

 

甘美なバラードが三曲あるのも心地よさをかたちづくっている大きな要因。それらのメロウさは2010年代以後的なR&Bフィールのそれであるようにも聴こえます。ジョー・ヘンダスンが書いたものとか曲は古いばあいもありますが、ここでの演奏はコンテンポラリー。

 

ことに3曲目「Ruth」とかラスト9「Moon Dancer」なんてとろけそうなスウィートさで、こういうのだったら(ベテラン・)ジャズという狭い枠でなく、もっとひろくネオ・ソウルやR&Bがお好きなみなさんにも楽しんでいただけそうです。後者なんか虫の音が挿入されていてムード満点。

 

ラテン〜アフリカンなグルーヴを聴かせるタイプのビートの効いた曲(2、4、5、6、8)では、リズムのリフもしっかりていねいにアレンジされ練り込まれて効果的に使われているし、さらにビートが曲のなかで変幻にチェンジしたりします。サックス、ヴァイブ、ピアノのソロ・インプロも聴きごたえありますが、個人的にはコンポジションとグルーヴで聴かせる音楽だなと。

 

なかでも4「Caravanserai」はぼく好みの傑作ナンバー。その前の「Ruth」ともども今回用意されたジョー・チェインバーズのオリジナルで、ここらへんとか終盤8、9曲目らへんとか、そういった流れはアルバムを流していて最も快適に感じる時間です。

 

コンテンポラリー・ジャズの快作でしょう。

 

(written 2023.2.20)

2023/02/22

とんがらないおだやかさ 〜 ホルヘ・ドレクスレル

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(2 min read)

 

Jorge Drexler / Tinta y Tiempo
https://open.spotify.com/album/7drLytofGXezhYswIuCGHu?si=JoMr6VNYRR-YQbTyTH0sqw

 

いまやスペイン語圏を代表するシンガー・ソングライターみたいな感じになってきたホルヘ・ドレクスレル(ウルグアイ)。最新作『Tinta y Tiempo』(2022)もたいへん心地よく快適な音楽で、好みです。

 

紹介しているサイトによっては、けっこう攻めたとんがった音づくりだと書いてあったりするんですが、ぼくの印象は逆。安定感があっておだやかで落ち着いた丸いサウンドだよねえと聴こえるのがぼくにはいいんです。

 

最大の理由はソング・ライティング。親しみやすくきれいなメロディ、そしてホルヘのソフトな歌声がステキってこと。ギターのサウンドとフレイジングも快適。ビート・メイクなんかにはヒップ・ホップ通過後のセンスがしっかりありますが、決して先鋭的には(結果的に)なっていないですよね。

 

そういったやわらかさがホルヘの特質じゃないかと思います。さまざまな新しい先鋭的な音楽を吸収して、それをしっかり理解・咀嚼・消化して自分のなかに渾然一体のスープ様に溶け込ませてから、はじめて外へ出すかたちで表現するといったあたりが支持を集めている理由の一つじゃないでしょうか。

 

だから結果的にとっても聴きやすい容貌となってぼくらの耳に届くんです。今作で個人的に特に好みなのは1曲目のメロディ、それもルベーン・ブラデスが出てくるまでのヴォーカル・ラインとか、3曲目のエレキ・ギター・カッティングのまろやかさとか。

 

あるいはアルバム・タイトル・チューン5曲目の静かでおだやかなサウンドとつぶやくようなホルヘのヴォーカルとか(つぶやきささやき系がぼくはけっこう好き)、ラテン・プレイボーイズみたいな6曲目とか、アクースティック・ギター弾き語りな8曲目もナイス。

 

わざとチープなビート・ボックス・サウンドを土台に置き、それと演奏ドラマーのビートを混合させつつ組み立てている9曲目もおもしろいですよ。ラスト10曲目だけはギターではなくピアノ中心のサウンド。アルバム全体で管弦のオーケストラも控えめに使われています。

 

(written 2023.2.9)

2023/02/21

誕生時のジャズとはこうだった 〜 チューバ・スキニー

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Tuba Skinny / Nigel’s Dream
https://open.spotify.com/album/78qCVOQKzsLjEVfqEdZZle?si=Gqj2JKTqSfylalk8DptGdg

 

現代のバンドながら、ひたすらいにしえの古典的なストリート・ジャズ・サウンドを楽しく再現しているニュー・オーリンズのチューバ・スキニー。新作『Nigel’s Dream』(2023)が出ました。このバンドについては、共演したマリア・マルダーの記事で以前触れたことがありましたね。

 

しかしこのアルバム、Spotifyでは2023と記載があって、最新作紹介のプレイリストで流れてきたんですけれど、Bandcampのページだと2018年リリースとなっています。2023はサブスクに入った年ってこと?フィジカルはないみたいだけど?

 

ともあれチューバ・スキニー『Nigel’s Dream』。このバンドが結成以来ずっとやっているのはストリートにあった初期ニュー・オーリンズ・ジャズ、それもまだレコード録音が開始されるより前のスタイルをそのまま現代に再現しているわけで、『Nigel’s Dream』でもそれは不変です。

 

レコード録音がまだはじまっていない時代の音楽がどんなだったかを知る方法はいくつもあると思いますが、ジャズは聴けなくちゃねと思うぼくのばあいは1940年代以後に活躍したニュー・オーリンズ・リバイバルの古老たちのLPでつかんでいました。あの時代の古老たちはみんなレコード産業確立前から現場で活動していたひとたちでしたから。

 

そんなLPレコードの数々で、実はどんなファンも「あっ、誕生当時のニュー・オーリンズ・ジャズってこんな感じだったんだね」というのを知ったんです。キング・オリヴァーにしろサッチモにしろジェリー・ロール・モートンにしろレコードはシカゴなどに出てきてからのもので、やっぱり音楽性が変化していましたから。

 

チューバ・スキニーを聴くと、ああいったニュー・オーリンズ古老たちのレコードで実感していたようなレコード以前時代のニュー・オーリンズ・ジャズの、なんというか空気というか雰囲気というか香気とでもいうか、なんとも名状しがたくもたしかに感じるオーラみたいなものが間違いなくあるのを聴きとれます。

 

それこそがチューバ・スキニー最大の魅力。しかも初期ニュー・オーリンズ・ジャズが必然的にまとっていたまごうかたなきカリビアン・アトモスフィアがこのバンドの音楽にもあります。これこれここの音楽要素がこうで、と明示できるようなものではなく、なんとなくの熱みたいなものとして、そこにあるんです。

 

具体的に分析指摘できるのは2曲目「Unfortunate Rag」にアバネーラ・パートがあるということだけですが、そのほかアルバム全体にただようカリブ音楽テイストは、これだからこそニュー・オーリンズ・ミュージックだ、誕生時のジャズとはこうだったよねというのをぼくらに納得させてくれるものがあります。

 

(written 2023.1.30)

2023/02/20

フェイムの「I’d Rather Go Blind」でスペンサー・ウィギンズはぼくにとって永遠となった

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Spencer Wiggins / I’d Rather Go Blind
https://www.youtube.com/watch?v=zEWv8KtEczE

 

ディープ・ソウル歌手、スペンサー・ウィギンズの訃報に接し、それじたいどうこうっていうより、フェイムに残した超絶名唱「I’d Rather Go Blind」のことを思い出していました。あれはすごかった。

 

ウィギンズというと通常みなさんにはゴールドワックスということになるでしょうし、それはぼくにもよく理解できること。個人的にはこの歌手の名前をずっと知らずにきて、そもそもディープ・ソウルの世界にはうとかったんですが、フェイムの「I’d Rather Go Blind」が大きな衝撃だったのにはきっかけがありました。

 

1990年代後半にやっていたパソコン通信の仲間でナカヲさんという熱心なソウル・マニアが大阪にいらっしゃいました。7インチをどんどん追っかけてコレクトしていて、LPにもCDにもなっていないすばらしいところをCD-Rに焼いては周囲に無料頒布してくださっていたんです。

 

あるときナカヲさんから届いたそんなCD-Rの1曲目がスペンサー・ウィギンズのフェイム録音「I’d Rather Go Blind」でした。1990年代だとウィギンズだけでなくフェイムはまったく復刻されていなかったし、ぼくなんかそのときはじめてこの歌手の名前を見ましたから。

 

聴いてみてぶっ飛んだんですよね。この話、以前もくわしく書きましたけど。こんな歌手がいるのかと、正直いって強い雷撃に打たれたようなものでした。一発で「I’d Rather Go Blind」という曲と歌手に惚れ、ぼくのなかでスペンサー・ウィギンズは永遠の名前となりました。90年代末ごろの話。

 

この曲は、愛する人物がほかの相手のところに行ってしまうのをリアルタイムで現場目撃し、激しいショックを受け落ち込んで、こんなの見るくらいだったら「いっそ目が見えなくなりたい」と強く嘆くという内容の悲痛な失恋歌です。

 

ところがウィギンズ・ヴァージョンは堂々たる声のハリとツヤでもって、そんなハート・ブレイキングな失意なんかどこにもないと思わせてしまうポジティヴな自信と風格に満ちあふれているじゃないですか。「これ以上のものはない」と確信させてしまう納得のヴォーカルです。

 

フェイムという会社もスペンサー・ウィギンズという歌手も「I’d Rather Go Blind」という曲も、あの瞬間ぼくのなかで永遠に忘れられないものとなり、サザン・ソウル、ディープ・ソウルへの格好の道案内となったのでした。

 

ウィギンズのフェイム(とXLの)音源集は、その後2010年に英ケントが『Feed The Flame: The Fame and XL Recodings』というCDにまとめてリイシューしてくれました。(ケント盤やジャスミン盤などは)もちろんサブスクにないので、ぼくもCDで楽しんでいます。

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(written 2023.2.16)

2023/02/19

イージー・リスニングといえるマイルズのアルバムがいくつかあって 〜『マイルズ・アヘッド』

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(4 min read)

 

Miles Davis / Miles Ahead
https://open.spotify.com/album/4ZhmiWgc0KsRjV5samK6wG?si=UCBV8Zk0TY217WkMUS1WvA

 

マイルズ・デイヴィスのキャリアでというのみならずジャズ史上でも屈指の名作とされる『クールの誕生』(1957)も『カインド・オヴ・ブルー』(59)も『イン・ア・サイレント・ウェイ』(69)も、いまのぼくは一種のイージー・リスニングみたいなもんとして聴いていることがあります。

 

ことばを換えればBGM的ってことで、こんなこと言うと各所から石投げられそうですけども、ぼくのなかでは間違いないかと。そんなマイルズ本来の特質がいちばんはっきり表れているのがギル・エヴァンズ編曲指揮の大編成ホーン・アンサンブルと共演した『マイルズ・アヘッド』(57)です。

 

ところで本作のオリジナル・ジャケットは上に掲げたヨットに女性とこどもが乗ってくつろいでいるものなんですが、どうして黒人ミュージシャン本人を使わないんだ?!というマイルズのクレームによってわりとすんなり下掲のジャケットに変更されました↓

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1971年の『ジャック・ジョンスン』とちょっと似たジャケ変更で、その後は『マイルズ・アヘッド』も演奏中のマイルズの姿を写したこれのまま現在まできています。ディスクであれサブスクであれ今やこれしかないので、ヨット・ジャケなんか見たことないよというファンだってけっこういるかも。

 

しかし、イージー・リスニングというかなめらかで聴きやすい音楽性のことを考えたら、実はヨット・ジャケのほうが中身によく合致しているんじゃないか、初出のこれのままのほうがよかったよなあというのがぼくの本音ですねえ。

 

ともあれ『マイルズ・アヘッド』の音楽はスムースで丸くおだやか。火花を散らすようなインプロ・バトルなんかどこにもなく、ギルの手により徹底的に練り込まれたやわらかいホーン・アンサンブルがどこまでも美しく楽しく、まるでお天気のいい暖かい日にぼんやり空を見あげ雲がゆっくり動くのをながめているような、そんな心地がするでしょう。

 

あるいはひょっとして、フリューゲル・ホーンで吹くマイルズのラインすらギルのペンであらかじめ譜面化されていたのではないか?整いすぎだ、と疑いたくなってくるくらい完璧にアンサンブルとみごと不可分一体化しています。

 

発売用のプロダクションで片面五曲づつメドレーっていうか組曲みたいに連続してどんどん流れてくるのだっていいし、とてつもなく美しいけれど壮大感がなく、全体としてこじんまりまとまったプリティでキュートな小品といったおもむきなのも2020年代の気分です。

 

ごりごりハードにグルーヴするものだってたくさんやったマイルズですが、実は『マイルズ・アヘッド』みたくムード重視でふわっとソフトにただよう感じのものこそ本領だったのではないか、というのがこのごろのぼくの嗜好と見解ですね。

 

(written 2023.2.2)

2023/02/18

レイヴェイ『A Night At The Symphony』発売決定!

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(3 min read)

 

Laufey / Valentine (Live at the Symphony)
https://open.spotify.com/album/7fdSE4B5ppCj5jL5iX99w3?si=aaGMXNq_Ts6GGrkA1Vb8rA

 

2023年2月14日、レイヴェイがアイスランド交響楽団とライヴ共演した曲「ヴァレンタイン」がリリースされました。これはきっと来るアルバム発売へ向けての先行公開に違いありませんよ。

 

その証拠にジャケットを見れば「A Night At The Symphony」との文字。これがアルバム題になるんでしょう。昨年10月末の二日間、故郷レイキャヴィクのハルパ・コンサート・ホールで実況録音したものがとうとう出るってことです。

 

あのコンサートについては昨秋にブログで記事にしましたが、コンサート全体をオフィシャルに録音くらいしただろうから、待っていればそのうち発売されるんじゃないか、ぜひそうしてほしいと書きました。果たしてそのとおりに。うれしい。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2022/10/post-f20f3c.html

 

…ときのうここまで書いたら、きょう2/15のレイヴェイ公式Instagram更新であっさりアルバム・リリースの情報が解禁されましたっ。『A Night At The Symphony』。3月2日。やったぁ〜!そいでこれ、一曲先行公開された「ヴァレンタイン」は公式映像もあります↓
https://www.youtube.com/watch?v=yNth3aGL5ho

 

ってことはおそらくコンサート全編を録画したはず。それも出ないかなあ(そっちはまだ情報なし)。CDも出さないレイヴェイのことだからDVDっていうよりYouTubeなど配信でってことなんですけども、そっちもなんとかお願いしたいところです。

 

さあ、一曲だけ聴けるようになった「ヴァレンタイン」でコンサート全体を予想するなんてムリなんですけど、それでもちょっとね、まあ3/2なんてすぐじゃないかとは思うけど、いまはその一曲だけ聴きながら思いを馳せています。

 

「ヴァレンタイン」はレイヴェイ自作ナンバーのなかで最もすぐれた人気の高い名曲。ぼくも大好き。ずっと恋愛に臆病だった主人公が、成就する恋に突然落ち、どうしようこれドキドキ(”I’m seconds away from a heart attack”)ってうれしい悲鳴をあげている内容。しかもメロディがきれいですよね。

 

この歌詞と比例するように、ここ一年ほどのレイヴェイの活動は思いのほか順風満帆で、本人も楽しそう。昨年八月のデビュー・アルバム発売以後、九月には絶品の『ザ・レイキャヴィク・セッションズ』リリース、そして十月にアイスランド交響楽団との共演ライヴ2 days 開催ときていますからね。

 

どこまでいくのか、大ファンのぼくとしてはワクワクしながら見守りたいと思います。まずは3月2日。

 

(written 2023.2.16)

2023/02/17

2015年1月のHbA1cは16だった

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(5 min read)

 

2023年2月現在ぼくが毎月通院しているクリニックは糖尿病内科と心療内科の二つ。このほか毎月ではないけれど定期的に行っているのが歯科、眼科、皮膚科で、これら三つはいずれも疾病治療というよりレギュラー・メンテナンスが主目的。

 

毎食後薬を飲む生活は、もうずっと30年以上続いていてすっかり慣れっこ。外国旅行しても飲まないことなんて一日もないですから。きっかけは28歳のときに渋谷へ向かう朝の井の頭線のなかで突然パニック障害を発症したこと。あのときはあせった。以前一度くわしく書きましたね。

 

といっても当時これがパニック障害というもんだとは気づいておらず(このことばも一般的ではなかったはず)、しばらく様子を見て、毎朝のことになったのでこれはおかしいとなって、地元松山で心療内科を開業している伯父に電話で相談し、ぼくの症状にあったクリニックを東京で紹介してもらいました。伯父は長年東京で勤務医でしたから。

 

結局これが寛解したと自覚できるようになるのに2015年(53歳)ごろまでかかったんですが(原因はどうも仕事のストレスらしい、そんな鬱積していると気づいていなかったけど、むしろ楽しかった)、それと相前後して深刻な糖尿病だと判明したのは皮肉でしたね。

 

それ以前からHbA1cが高めであるという指摘は受けていて、治療を必要とするほどではないにせよ「患者はまあだいたいこのへんの数値を目標に下げてくるもんだから」という言われかたでしたから。だから高めなんだろうなとわかっていました。

 

深刻化していることに最初に気づいたのは、大州で毎月通っていた心療内科医です。2014年の12月に「戸嶋さん、最近ごはん食べてないのか、あきらかに痩せてきているけど」と言われ、「いやいや食欲旺盛です、食べても食べても体重が減って」→「それなら糖尿病の疑いがあるから一度くわしく検査してみたほうがいいよ」ということで、大州で設備の整った総合病院へ紹介状を書いていただきました。

 

それで翌年1月に調べてみたら、診察した消化器内科医の顔色が、もう見るなりめっちゃきびしくて、A1cが16だったので(正常値の上限は6.2)「こんなひどい数字は見たことがない、このまま即入院してください」とのおことばでした。

 

いきなり入院はちょっとキツいのでさすがに断って(えっ)、内服薬と、あとは食事や運動など日常生活の見なおしを努力することにして、その日は帰宅しました。

 

それ以後ですよ、ぼくの健康に対する意識が激変したのは。

 

料理がむかしから好きでしたけど、メニューの改善にかなり気を遣うようになりましたし、2020年に松山に帰ってきて転院し高血圧の治療もはじめてからは塩分も極薄になりました。それがまたおいしいんですよね、薄味料理。淡白であっさりしたものを好むようになりましたし(音楽も)、一般的にもいい料理でしょう、素材を活かした上品さっていうのは。

 

大洲時代にA1cの値もどんどん改善し、最初それが16でひっくり返っていた医師も、一年ほどで5台の後半ぐらいまで下がってきているのを見て安心していました。最初は「通院治療ではむずかしいと思う」と言っていたくらいだったのにねえ。

 

日々の運動(といってもお散歩ですけど)を欠かさなくなりましたし、適度なお散歩で糖尿病や高血圧症のみならずさまざまな疾病対策になり、高齢化による筋力体力の低下防止にもなるし、それからやってみて知ったことですがお散歩でなぜかメンタルがとっても改善するんですよね。心地いい、楽しい気分になります、運動が適度なら。

 

食事や運動だけでなく、日々の生活の細かな部分にまでデリケートに配慮するようになり、ひいてはメンタル面ふくめ人生が快適でていねいになって、不思議と楽しく充実しているという実感があります。

 

すべてのきっかけは糖尿病が深刻に悪化しているのが判明してあわてたこと。痛いとかつらいとかいうような自覚症状のない病気なので、まずビックリしたのは医者の側でしたけど、それきっかけで健康意識が芽生え定着し、生活改善につながって現在まで来ています。

 

まさに一病息災。これを地で行くのがここ10年ほどのぼくの人生です。この四文字熟語の意味が痛いほど骨身に沁みるようになりました。無病息災がベストかもしれませんが、大きな一病あらばこそ健康を大切にするように生活意識が変わると思います。

 

(written 2023.2.8)

2023/02/16

バート・バカラック追悼(2) in ラウンジ・ジャズ

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(2 min read)

 

v.a. / Blue Bacharach: A Cooler Shaker
https://open.spotify.com/album/2XD7VcZb1XQ3RLPAf60OWn?si=7clcioCfTYiffISuxlvrRw

 

バカラックが亡くなったとき、ぼくのTwitterタイムラインもそれ一色で、ブルー・ノート・レコーズ公式も追悼の投稿を寄せていました。そこで紹介されていたのが自社カタログからの一作『Blue Bacharach: A Cooler Shaker』(1997)。

 

ブルー・ノートのジャズ・ミュージシャンたちがバカラック・ナンバーをインストルメンタル演奏(一部歌入り)したもので、一曲づつ演者はさまざま。こんなアルバムあったんですね。既発ものからチョイスしたコンピレイションでしょうか。

 

クソマジメなジャズ・リスナーからは100%嘲笑軽蔑しかされなさそうなアルバムですが、ぼくはあんがいこういうの好きですね、お手軽ムード・ミュージックみたいなのが。気楽に流せるし、部屋でなにかしているときの心地よいBGMとして最適。

 

インスト演奏だから、そのぶんバカラック・メロディの美しいラインがきわだってよくわかるか?っていうと、実はそんなこともなく。やっぱりヴォーカリストが歌ってこそきれいに映える曲を書いたコンポーザーだったということでしょうね。

 

それにブルー・ノートに録音するようなジャズ・ミュージシャンって演奏にひと癖あるひとばかりで、有名バカラック・ナンバーをやるにしたってイントネイションにみんなそれぞれ異なる独自カラーを持っているでしょう、だからどうしたって原曲とは様子の異なる解釈になります。

 

フレーズ・メイクその他のはしばしにあらわれる一種のくさみというか芳香というか、それがジャズという音楽の楽しさであり(聴き手によっては)とっつきにくさともなります。本作みたいな軽いラウンジ・ミュージックふうのものをやっても、それは同じなんですよね。

 

(written 2023.2.15)

2023/02/15

バート・バカラック追悼(1)〜 ルーマーこそ最高のバカラック歌い

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(3 min read)

 

Rumer / This Girl’s in Love (A Bacharach & David Songbook)
https://open.spotify.com/album/6GCJb3dvt1ioLYCIZNYNYR?si=tSZpX_9BSu2vxSV0p707zA

 

バート・バカラックが亡くなりました。94歳、自宅で自然死ということで、これは思いを残す悔しい死では決してなく、だれも文句をつけられない立派な大往生だったといえるのではないでしょうか。コンポーザーとして歴史的な最上の業績は不滅ですし。

 

それでなにかやっぱりちょっと聴いとこうと思い、すこし迷って、結局ルーマーのやった一作にしました。『This Girl’s in Love (A Bacharach & David Songbook)』(2016)。ルーマーは最新にして私見では史上最高のバカラック・シンガーです。

 

声がやさしくておだやか、張ることもなくカドがぜんぜんない丸いヴォーカル・スタイルは飾らず素直で、クラッシーなバカラックのソングブックをつづるのに最適といえるはず。これは実をいうと最晩年のバカラック本人が太鼓判を押していたこと。

 

じっさいバカラックは本作のタイトル・ナンバーにヴォーカルでゲスト出演しています。歌というよりおしゃべりに近いようなものですけど、ルーマーへの信頼が表れているよう。2016年ですから声をおおやけに聴かせたほぼラストだったのでは。

 

バカラックの右腕的存在だったロブ・シラクバリ(ピアノ、プロデューサー)を公私とものパートナーとすることになったのも、ルーマーにとって大きなことだったはず。『This Girl’s in Love』もシラクバリのアレンジ&プロデュースで、ほぼどの曲もオリジナルに忠実なサウンドを再現しています。

 

数曲で特にやわらかいブラス群がスタッカート気味に軽く舞うあたりは、まるでバカラック本人が憑依したんじゃないかと幻聴するほどのクリソツぶり。思うに、ルーマーという史上最も的確なバカラック・シンガーを得て、決定版のようなソングブックを残しておきたいという考えもあったんじゃないですかね。

 

選曲にしろ代表作が揃っているし、バカラック・ワールドに精通しているシラクバリのつくったサウンドに乗り、美しいメロディを崩さずきわめて丹精&丁寧に整った美声で歌い込んでいくルーマーの本作を聴いていると、あぁここに最上のバカラックがあるじゃないかっていう気分になります。

 

(written 2023.2.14)

2023/02/14

The 20 Best Jazz Albums for Beginners

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(4 min read)

 

The 20 Best Jazz Albums for Beginners
https://bit.ly/JazzForBeginners

 

こないだPopMattersが表題のような記事を公開していましたので、興味深く読みました。ジャズ入門者向けのベスト20作というのは二つのパートに分けて10個づつ、後半は「キャノン」と題し古典にふりわけられているのに大きな好感を持ちますね。

 

1)Louis Jordan / The Best of Louis Jordan
2)Horace Silver / Song for My Father
3)Billy Cobham / Spectrum
4)Wayne Shorter / Native Dancer
5)The Crusaders / Chain Reaction
6)Charlie Haden and Hank Jones / Steal Away
7)Cassandra Wilson / New Moon Daughter
8)John Scofield / A Go Go
9)Steven Bernstein’s Millennial Territory Orchestra / MTO Plays Sly
10)Aaron Parks / Little Big II: Dreams of the Mechanical Man
~~ THE CANNON ~~
11)Louis Armstrong / The Best of the Hot 5 & Hot 7 Recordings
12)Duke Ellington / Never No Lament, The Blanton-Webster Band
13)Billie Holiday / The Essential Billie Holiday, The Columbia Years
14)Charlie Parker / The Best of Savoy and Dial Studio Recordings
15)Miles Davis / Kind of Blue
16)Ornette Coleman / The Shape of Jazz to Come
17)John Coltrane / A Love Supreme
18)Wayne Shorter / Speak No Evil
19)Herbie Hancock / Head Hunters
20)Mary Halvorson Octet / Away with You

 

全作にSpotifyリンクが貼られているのも個人的にはグッド。記事を読んでいてオッこれおもしろそうじゃんって感じた読者が(ディスクを持っていなくとも)その場でサッと聴けちゃうのは大きなメリットですよ。入門っていうのは敷居を低くしないと。

 

さらに前半10作にルイ・ジョーダンが入っているのも目を引きますね。しかも一番手。通常はジャズとしてなかなか聴かれない存在ですし、しかし極上に楽しいエンタメ・ジャズ・ミュージックであることは間違いなく、いまや2023年、そろそろ真面目なジャズ・ファンやクリティックからもきちんと評価されてほしいとぼくなんか切に思います。

 

後半のキャノン・パートのラストにメアリー・ハルヴォーソンがあるのはやや違和感がないわけでもなく。キャノンって古典的名作のことですからね。しかしそれ以外は押しも押されぬ定評のあるものばかり。どこからどんなふうにジャズ入門したリスナーも遅かれ早かれ通過する作品です。

 

とはいえ、モダン・ジャズ以前、オーケーのサッチモとヴィクターのデュークとブランズウィックのビリーは、なんだかんだいってどうもやっぱり無視・敬遠されがちで、こんな古いもんオイラは聴かないんだということになってしまうことが多いです。

 

そうかといって2010年代以後的な新世代ジャズに飛びついているのかと思うとそうでもないようなファンもそこそこいて、結局いつまで経ってもハード・バップとか王道のメインストリームばかり聴いている、そこから一歩も出ないなんていうケースはちょっとあるようにみうけられますからね。

 

ですからモダン以前の古典が今回ちゃんとリストに入っているのを見たときは、心からうれしかったです。もっともっと聴かれるようになってほしい。いまだ全面無視に近いですから。

 

たった20作で、録音史だけでも100年を超えるジャズを俯瞰することなどできないのですが、まずはとっかかりとして、入り口に立っているビギナーのみなさん向けにはまずまず悪くないセレクション・リストじゃないかと思えます。

 

(written 2023.1.27)

2023/02/13

ジャズとロックの交差点で 〜 ポール・キャラック

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(3 min read)

 

Paul Carrack & The SWR Big Band / Don’t Wait Too Long
https://open.spotify.com/album/0fz3FJVabxmF2wr7eIrUO4?si=FcF1ZgHJQCaCREHSCdDc6g

 

萩原健太さんのブログで知りました。
https://kenta45rpm.com/2023/01/20/dont-wait-too-long-paul-carrack/

 

ジャズとロックはだいたいおんなじような音楽だというのが前々からの持論なのに、どっちの方面からも反発されること必定で、いままで(一度を除き)そんなに真正面から強くは主張してきませんでした。が、間違いありません。

 

ともあれジャズとロックが交差するような地点というとジャンプとかリズム&ブルーズとかってことになるわけですが、あのへん1940〜50年代あたりはアメリカン・ミュージックの歴史で最も動きがあっておもしろかった時代の一つなんですよね。

 

そのへんをdigった感のあるポール・キャラック(UK)の最新作『Don’t Wait Too Long』(2023)も、だから完璧ぼく好みの音楽。今回はかなりジャズ&ブルーズ寄りの古い選曲ばかりなカヴァー集で、ジャズ系の歌手があまりやらないレパートリーもありますが、料理法はジャジーです。

 

っていうかそれがリズム&ブルーズ的だっていうか、つまりそんな世界。それぞれ曲のオリジナル演者はだれ?っていうたぐいの情報は上記リンクの健太さんブログに載っていますので、必要とあらばぜひごらんください。

 

ヴァン・モリスンとかあのへんと同じ音楽なわけで、きわめてあの世代のUKロッカーらしいともいえます。ヴァンといえばCOVID-19に対する態度をみていてすっかり嫌気がさしてしまい、もう聴く気がなくなっちまいましたけど。

 

同じ理由でエリック・クラプトンもすっかり見放しましたが、キャラックは現在クラプトン・バンドのサポート・メンバーなんですよねえ。クラプトンみたいな(いまでは)つまらないミュージシャンについていることがキャラックの評価を低めないか心配です。

 

ともあれ今作、だれがアレンジしたのかわかりませんがドイツの名門SWRビッグ・バンドによる豪華でファットなホーン・アンサンブルも快感。選曲もいいし、さらにキャラックの70歳を超えて衰えぬ甘くて渋い声もみごと。ブルーズ寄りのジャズというかロックの源流というかこのへんの音楽がお好きなみなさんは舌鼓を打てる内容に仕上がっていると思います。

 

(written 2023.1.26)

2023/02/12

エレガンスとデリカシーのラテン・ジャズ 〜 オスカル・エルナンデス

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(2 min read)

 

Oscar Hernández & Alma Libre / Visión
https://open.spotify.com/album/3bgirS6ncG7jIunzjvQ7od?si=5LhQatYVS_6M4CYj5lQL9A

 

スパニッシュ・ハーレム・オーケストラのピアニスト、オスカル・エルナンデスが、自身の率いるバンド、アルマ・リブレでの新作『Visión』(2022)をリリースしました。新奇をてらったところのないオーソドックスな王道ラテン・ジャズで、なおかつさわやかみもあり、好感が持てますね。

 

ピアノ・トリオ+サックス(or フルート)+パーカッションという五人編成を軸に、曲によりトランペット、ヴァイブラフォン、追加のパーカッションが参加するというぐあい。

 

キューバン・ビートの効いたグルーヴ・チューンが幕開けから連続していいねと思っていたら、3曲目はエレガントなダンソーンでこれも最高。続く4「Chick Forever」はもちろんチック・コリア・トリビュート。オスカル自作の上下するメロディがやや「スペイン」っぽく、ピアノもそれらしく弾きこなします。

 

ダイナミックな5曲目(コンガはルイシート・キンテーロ)も、デリケートで甘い旋律を多重録音じゃないかと思うフルート・アンサンブルが奏でる6曲目もすばらしく。そうそう、ラテンでフルート(やヴァイブラフォン)が使われているの、ぼくは大好きなんですね。マチスモなブラスよりも断然。

 

8「Spring」ではそんなフルートとヴァイブが両方参加していて、もう最高。ラテン・ジャズというと体育会系のむさ苦しい感じだったり勢いまかせに押すようなものがあったりしますが、オスカルの本作にはエレガンス(はラテン本来の味だし)とデリカシーがさわやかに香っていて、濃厚ヘヴィ・サルサ系はどうしても受けつけないぼくだって楽しめます。

 

(written 2023.1.23)

2023/02/11

ヒップ・ホップ以降の世代によるロック以前へのアプローチ 〜 my favorite retro pops

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(2 min read)

 

Swingin’ Nostalgia ~ my favorite retro pops
https://open.spotify.com/playlist/7aVZqK3TbzdRtAOE777ke4?si=b87cc0ffecc845fd

 

萩原健太さんのブログからパクリました。
https://kenta45rpm.com/2023/01/19/nothing-but-pop-file-vol45-swingin-poppin-and-groovin/

 

21世紀とは思えぬスウィンギーでノスタルジックなジャズ・サウンド世界にぼくも埋没しています。レイヴェイとかレイチュル&ヴィルリーとかサマーラ・ジョイとかそのほか近年いっぱい出てきていますから、あきらかに大きな潮流になってきていますよね。

 

カンタンにいえばロック〜ヒップ・ホップ以降の世代がロックンロール以前の音楽世界にアプローチしてみせたようなものってこと。個人的にはそこらへんのジャズ黄金時代こそ最大好物なので、この流れはうれしいかぎりなんです。

 

それなもんで、こないだ健太さんも同様のプレイリストを公開してくださっていたのが個人的にはとっても楽しかったから、そのままパクりつつ自分なりに追加変更してセレクションを作成しておきました、ぼくはもちろんSpotifyで。

 

1)Rachael & Vilray / Is a Good Man Real?
2)Laufey / Valentine (The Reykjavík Sessions)
3)Emma Smith / I’ve Got My Love to Keep Me Warm
4)Samara Joy / Guess Who I Saw Today
5)Lara Louise / Alone Together
6)Billy Field / Bad Habits
7)Hurricane Smith / Cherry
8)Dan Hicks & His Hot Licks feat. Rickie Lee Jones / Driftin’
9)Martin Mull / They Never Met
10)Maria Muldaur / Sweetheart
11)Bob Dylan / Moonlight
12)Asleep at the Wheel / Pipe Dreams
13)The Sir Douglas Band / Someday
14)Father John Misty / Chloë
15)Harry Nilsson / (Thursday) Here’s Why I Did Not Go to Work Today

 

ぼくならではっていう独自性は1〜5曲目までに出ていると思います。6曲目以後は健太リストをそのまま借用しただけ。そこには1970年代ものもたくさんふくまれていますけど、ロック全盛期における古いジャズ時代への憧憬ってことで、こうした指向はむかしからあったとわかります。

 

それが2023年のいま、副流というよりある意味メインストリームになってきているわけで、どうしてここまで?っていうのが、傾倒しているぼくですら不思議に感じるほど。<レトロ&オーガニック>は、いまや2020年代最大のキーワードになりましたね。

 

(written 2023.1.24)

2023/02/10

Spotifyアプリを愛している

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(2 min read)

 

と言って過言ではないと思います。ディスク愛好家がレコードやCDといったフィジカルを愛するように、サブスク聴きがすっかり板についたぼくはSpotifyアプリに深く強い愛情を感じているんです。ディスクだってもちろん好きですが。

 

スポーツ選手は使用する道具やユニフォームを大切にして、肌身離さず愛でていますし、ぼくはといえばSpotifyにベッタリで日常的に愛しているわけです。主に使っているのは写真のとおりデスクトップ・アプリのほうで、モバイル・アプリはお風呂タイムと外出時のみ。

 

やっぱり使い勝手もちょっと違うし、個人的にとっても好きだと感じているのはデスクトップのSpotifyアプリ。日々使っていない時間がないですもんね。朝起きてMacBook Airのフタを開けたら一番に起動させるのがSpotifyでそのまま鳴らしはじめるし(前夜に『Morning』というプレイリストをつくっておく)。

 

そのまま寝るまでSpotifyで音楽聴きっぱなしで、これが途絶えることなんてちっともありません。愛しているといっても、もちろんSpotifyで聴くことを通して、アプリ(やフィジカル)のものではない音楽作品そのものを愛しているというのが実態なんですけど。

 

そして、レコード時代CD時代より、Spotifyを常用するようになってからのほうが音楽愛がいっそう深まって極まったというのが個人的には間違いなく、60歳でこんなことを感じているのってぼくだけかもしれませんよね。ディスクどっぷり世代なのにねえ。

 

もはやいまではサブスク以外で音楽を知り聴く方法がわからないと思うくらい。それくらい心身と不可分一体化しているのがSpotifyアプリ。中毒でしょう。Bear(テキスト書き)とかTwitterとか愛好アプリは数々あれど、ぼくのSpotifyに向ける愛は異常かもしれません。

 

(written 2023.2.1)

2023/02/09

最高にぼく好みのグルーヴィさ 〜 エマ・スミス again

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(2 min read)

 

Emma Smith / Snowbound
https://open.spotify.com/album/0ExyRBD1gjGW2OUeKYecrJ?si=Y0MUbBAETYyqPnenyg4MIA

 

去年のクリスマスに一度書いたんですけども、その後なぜだかいっそうくりかえしどんどん聴きたくなって、そうするうちこりゃなかなかの傑作だろう、すくなくともぼくの好みどまんなかの楽しい音楽だと確信するようになったロンドンのレトロ・ジャズ歌手エマ・スミスのEP『スノウバウンド』(2022)に、もはやヤミツキ。

 

日本だけじゃなく全世界的に話題になっていないのはEPだからなのと、クリスマス・シーズン用としてリリースされたフェスティヴ・ミュージックにすぎないためであろうと思われますね。でも音楽は一級品、季節を問わず楽しめます。

 

徹底的にアレンジされている、特にリズム面で入り組んだ複雑な決めをバンドと歌手が全員一体となって演唱しているというのが最高にぼく好みで、かといって予定調和だとか枠にハマったとかって感じがせず、ぐいぐいくる勢いを感じさせるのがグッド。

 

そんなアレンジはサックスのアレックス・ガーネットが担当しています。その他オルガンがロス・スタンリー、ギターがニック・コストリー・ワイト、エド・リチャードスンのドラムス(これもうまい)。

 

全体的にレトロでありかつファンキー&グルーヴィな雰囲気が濃厚にただよっているのが大好物なんですね。エマ本人はレトロじゃなくヴィンテージということばを使っていますが、どっちにせよ1950年代の音楽性。それが現在でもイキイキと躍動していると聴けばわかります。

 

五曲あるうちメロウ・バラードの二曲をはさんでいるテンポのいいグルーヴ・チューン1、3、5曲目が個人的にはたまらない快感。それらではアレンジされたバンドの演奏が闊達で、それも聴きものです。エマだって乗っかって調子よく歌っていますよね。

 

なかでも3「I’ve Got My Love to Keep Me Warm」がすごく楽しくて、これリズムの決めがめっちゃめちゃカッコいいでしょ。ストップ・タイムを駆使しまくるかなり複雑なアレンジですから、リハーサルを積んだだろうと思うんですよね。こうした決めに決めている音楽がぼくは好物なんです。エマのスキャットもすばらしい。

 

(written 2023.1.22)

2023/02/08

なめらかスムースなルイ・ジョーダンが好き

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(4 min read)

 

Louis Jordan / Let The Good Times Roll: The Anthology 1938-1953
https://open.spotify.com/album/3IXj7J6a5kqVGdyfPbQnHK?si=FhXQWcwrTuW24jb7ywyJKw

 

ジャイヴやジャンプの話をしなくなりました。当然ですよ、もはやレトロ・ジャズ・ポップスなどあっさり淡白な薄味音楽こそ最愛好品になったんですから、濃厚なブラック・ミュージックを聴く気にあまりなりません。

 

ちょっと「ジャンプ」というワードでブログ内検索をしてみたら、2022年5月21日づけクーティ・ウィリアムズ楽団の記事が最新になっています。あれっ、わりと最近じゃん。でもずっと前はこれでもかと続々書きまくっていましたから。

 

常に最新型のものがどんどんリリースされるという世界ではなく、ジャイヴなら1930年代、ジャンプは40年代と、限られた作品点数しか存在しませんから、いったんひととおり書き終えてしまうと題材がなくなってしまうというのも理由でしょうけど。

 

そんななか、いまだくりかえし聴き続けている代表がルイ・ジョーダン。ルイの音楽もジャンプに分類されているわけですが、そのへんは、なんというかジャズでもブルーズでもなんでもいいじゃん、それらまぜこぜ一体化したあたりに真骨頂があった音楽家だというのは意見の一致するところでしょう。

 

約10年後のチャック・ベリーにダイレクトにつながっているということを考えたら、ロックンロールの先駆者でもあるわけで、ってことはビートルズもローリング・ストーンズもルイ・ジョーダンがいなかったら誕生しなかったと、ルーツをたどればそういうことになります。

 

ルイ・ジョーダンの歴史的重要性をいくら強調してもしすぎることはないゆえんですが、しかしその音楽に決してとんがった激しさはなく、奇妙奇天烈でもありません。どっちかというとむしろ丸くてなめらかで、聴きやすいスムースさがあると思いませんか。

 

この点こそぼくがルイ・ジョーダンを聴き続けている大きな理由。最高に楽しいんですけど、決してエッジが鋭くない。きょう最初に書いた「あっさり淡白な薄味音楽」とは言えないですが、それに近い質感がその音楽にはある、そういう印象というか肌心地がするっていうのがですね、いまのぼくにはちょうどいいんです。

 

これはむかしから感じていたことで、であるがゆえにかつてルイ・ジョーダンのことはイマイチに感じていました。アルト・サックスもヴォーカルも曲調もなめらかで、決してハード・ブロウしないそんなルイの音楽は、要するにガツンとこないんです。だからブラック・ミュージックとしてちょっとものたりない面があると感じていたかも。

 

1940年代にいっぱいあったジャンプ系バンドはほとんどが大人数編成でしたが、ジャズでありながら強いビート感とブルーズ・フィール、メインストリームからハミ出すキテレツさ、日常的で卑近で猥雑な表現など、どこをとってもおよそ「上品さ」からは程遠い内容を展開していました。

 

しかしルイ・ジョーダンだけはその音楽のなかに一種の育ちのよさっていうか、クラッシーさ、おだやかなまろやかさをたたえていたよなあっていうのが、だからむかしはそこがイマイチだったけど、いまとなってはちょうどいい、これぐらいが心地いいんだよと感じられるようになりました。

 

(written 2023.1.23)

2023/02/07

2020年代ジャズとしてのエリカ・バドゥ 〜 ホセ・ジェイムズ

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(2 min read)

 

José James / On & On: José James Sings Badu
https://open.spotify.com/album/55shMue7KWtdOnS5DEpbir?si=oayyyLiXSvCNCUc6Zjyk-w

 

ごぞんじホセ・ジェイムズ(ほんとうはホゼでしょうけど)の新作はエリカ・バドゥ・トリビュートでエリカ曲集の『On & On: José James Sings Badu』(2023)。二人ともジャズやネオ・ソウルのフィールドで有名人なので、解説不要でしょうね。

 

日本語でだってテキストがいくつも読めるので、ぼくは個人的に気に入ったところだけちょちょっと手短にメモしておきます。11分以上ある大作の3曲目「Green Eyes」。エリカのオリジナルってどんなでしたっけ、とにかくこのホセ・ヴァージョンは出だしの雰囲気がとっても好み。

 

しかしなにぶん長く、途中でキーも曲調もパッと変わるんですよね。それも二回。出だしクールでおしゃれでさわやかジャジーにはじまって、いいなあと思っていたら、途中からのサックス・ソロ以後やや不穏になり、ピアノが熱を帯びてきてスピリチュアルにもりあがります。

 

後半にも一回チェンジがあって、パッと風景が変わります。そこからはスピリチュアリティは影をひそめ、ジャズというよりネオ・ソウルな音楽になっているんですよね。ヒップ・ホップな要素も主にビート感にあります。

 

あたかも録音後に編集したかのような一曲のなかでの変化とつながりなんですが、実は本人ふくめ六人編成のバンドをウッドストックのスタジオに集めての一発ライヴ録音だったそう。

 

個人的にはおだやか&さわやかジャジーなものがどんなジャンルであれ好物なんですが、しかしヒップ・ホップ影響下のネオ・ソウルとか(60年代ふうな)スピリチュアル・ジャズとかこそ、現代に訴求力を持つコンテンポラリーな音楽として意味を持つものではあるでしょう。

 

そういったのをホセはエリカの音楽に読みとって位置づけているんだろうなというのがアルバム全体から強く感じられます。そもそもオープニングのもろコルトレインなすべり出しかたなんかは、2020年代ジャズとしてのエリカ・バドゥ読みなおしっていう感じのスピリチュアルさで、これが本作を貫く首尾一貫したムードですね。

 

(written 2023.2.5)

2023/02/06

お布施 de 演歌

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(4 min read)

 

っていうようなものがあると思うんですね。これをぼくが理解するようになったのは、岩佐美咲の歌唱イベントに通いはじめた2018年11月からのこと。

 

すでに何枚も持っているにもかかわらず、ファンはみんなどんどんCD(主にシングル盤)買いまくるのを目撃しました。そしてぼくもそうなりました。会場でおしゃべりしていると「すでにこれは自宅に100枚くらいあるよ」というかたもいました。

 

もちろん一枚買うごとに一枚の特典券がもらえ、二枚で2ショット撮影権なので、それを目当てに買うわけです。ここはそういうもんだ、そういう世界なんだということをわさみんイベントに参加するようになって、ファン歴二年弱であのころようやく知りました。

 

これはわさみん界隈だけの特殊事情でもなく、ほぼどんな歌手でも演歌応援ではひろく行われていること。演歌は長らくテレビの歌番組でしか聴いてこず、レコードやCDを買ったり現場に参加するなんてことがなかったから、ちっとも知りませんでした。

 

むろん握手&2ショット撮影を事後に行うのでそのためにCD買ってねっていうのはAKB48出身のわさみんらしいところなんですが、そうでなくたって演歌のコンサートやライヴ・イベントの会場では当然その歌手のCDがたくさん売られています。ファンは(すでに持っていても)それを現場で買うんですよね。それが歌手への応援行為であるということで。

 

しかも特殊なのは、演歌界では同じ一つの新曲CDを、カップリング・ナンバーとジャケットだけ変えて何種類もたくさんくりかえし発売するでしょ。通常盤、初回限定盤、特別盤タイプA、B、Cとか、Fまであったり、どれも表題曲は同じものなんですよ、それをい〜っぱい発売するんです。

 

一種の詐欺みたいなもん、というと語弊がありますが、なんかそんな世界ですよね。演歌界の慣習っていうか、あの最大物氷川きよしですら新曲一つを何種類ものシングルCDでリリースしていましたから。で、ファンはそれをぜんぶ買う。曲がダブるのに。

 

アルバムだってですね、同じ代表曲を毎回収録して、ほぼ似たような内容のベスト盤CDが、歌手によってはほぼ毎年のように出ます。都はるみのような引退同然歌手でも美空ひばりのような故人でも「スーパー・ベスト」だの「究極ベスト」だの「全曲集2021」「全曲集2022」とか。

 

真の意味での<全曲集>だったら一種類しか存在しないはずなのに、CDをそのまま使っているサブスクで見ても、内容的にはちょっぴり選曲とジャケットを変えただけのものが、何種類も、同じ曲ばかり収録したアルバムが、毎年出るんです。どれ聴いても「アンコ椿は恋の花」「涙の連絡船」「大阪しぐれ」があるっていう。

 

こんなことやってんの、演歌界だけですよ。

 

同じようなものにくりかえし毎年寄付のようにお金を払う、だからお布施だってぼくは言うんです。CD買ってもべつにご利益みたいなものが得られるわけじゃないけれど、ファンのほうとしては応援しているという行為を実施することじたいに意味があって、精神の安寧と満足感が得られるし、それが生きがいみたいになって人生が充実するし、楽しいんですよね。

 

推し活ってそういうもんですよ。

 

(written 2023.1.28)

2023/02/05

短命だったマイルズのエヴァンズ・バンドをまとめて 〜『カインド・オヴ・ブルー』レガシー・エディション

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(6 min read)

 

Miles Davis / Kind of Blue (Legacy Edition)
https://open.spotify.com/album/4sb0eMpDn3upAFfyi4q2rw?si=RyhhyVHARsu53k9D5rMb0Q

 

それで昨日の続き。マイルズ・デイヴィス『カインド・オヴ・ブルー』は一曲を除きマイルズ、ジョン・コルトレイン、キャノンボール・アダリー、ビル・エヴァンズ、ポール・チェインバーズ、ジミー・コブの布陣。

 

このメンツでのスタジオ録音って、ほかには『1958 マイルズ』に収録されている四曲しかないんですよね、実は。つまりトータルでたったの八曲。マイルズ史上最も記憶されているバンドかもしれないのに、それは印象が強いというだけの話なんですね。

 

たしかに存在したレギュラー・バンドだったにもかかわらず八曲とはかなり少ないでしょう。1950年代のファースト・クインテット、60年代セカンド・クインテットともにアルバムで最低でも四つはあるっていうのにねえ。

 

しかも『カインド・オヴ・ブルー』を録った1959年3月2日、4月22日というとビル・エヴァンズはすでにマイルズ・バンドを去っていた時期。セッションのため例外的に呼び戻されただけだったんですから短命のほどが知れようってもの。

 

ディスコグラフィをくってみれば、エヴァンズもジミー・コブも『1958 マイルズ』に(いまでは)なった1958年5月26日のセッションが初のスタジオ正式録音。その十数日前に同バンドでライヴ出演しているのが(記録に残るかぎりでは)初顔合わせだったんです。

 

コブは61年まで在籍したものの、エヴァンズはっていうと58年9月のライヴ出演がレギュラーでのマイルズ・バンドではラスト。いっときの臨時的レッド・ガーランド復帰を経て、翌59年1月のラジオ出演からウィントン・ケリーになっています。

 

つまりエヴァンズ定期参加時代のマイルズ・バンドはわずか三ヶ月ちょいしか存在しなかったってことになるんです。その間スタジオ正式録音は『1958 マイルズ』の四曲だけ。もちろん『カインド・オヴ・ブルー』への参加のほうが鮮烈な印象ですけども。

 

そんな短命バンドでありながら影響力は絶大で、どんどんスタイルが移り変わったマイルズ個人のキャリアにとっても、このエヴァンズ・バンド時代は忘れられないものだった様子。特にハーモナイゼイションの面では(エレキ・ギター時代でも)生涯エヴァンズ的なものを求め続けたのでした。

 

そのへんのこと(マイルズとエヴァンズ・ハーモニーの関係)はずっと以前に一度詳述したので、ぜひそちらをごらんください。ともあれコロンビアによる正規スタジオ録音がたったの八曲しかないこのバンド、それらをまとめてぜんぶ聴けるというアルバムがいまではあります。

 

2009年リリースだった『カインド・オヴ・ブルー』レガシー・エディション二枚組のことで、これの一枚目に『カインド・オヴ・ブルー』全曲、二枚目に『1958 マイルズ』から58年録音の四曲が収録されているんです。その他一枚目には『カインド・オヴ・ブルー』の未発表スタジオ・シークエンス(ブートレグでは出ていたものですが、公式発売はこれだけ)なども入っています。

 

これ、もちろん漏らさずサブスクで聴けるんですね。ですから、CDで買ってもいいし、みなさんのお好きなようになさっていただきたいと思います。レガシー・エディションのさらなるメリットだと思うのは、末尾に伝説的な1960年春の欧州ツアーから一曲「ソー・ワット」のライヴ・テイクが収録されていること。

 

つまり『ファイナル・ツアー』ボックス・セット(2018)でも聴けた、かのコルトレイン苛烈なやりすぎ吹きまくりソロが聴けるんです。その「ソー・ワット」、ちょっと計ってみたらマイルズのソロ長が3分2秒なのに、トレインは実に8分31秒も吹いていて。

 

マイルズのもとでのこうした饒舌トレインがぼくは大好物なんですよね。むろん『ファイナル・ツアー』でこれでもかとたっぷり聴けるんですが、『カインド・オヴ・ブルー』レガシー・エディション収録のオランダ、デン・ハーグ公演「ソー・ワット」は『ファイナル・ツアー』に入っていません。

 

さすがにこれ一曲だけピック・アップしただけあるっていう内容で、『ファイナル・ツアー』に各地のが収録されている「ソー・ワット」ほか全曲と比較しても、『カインド・オヴ・ブルー』レガシー・エディションの「ソー・ワット」こそ最良ですからね。

 

いうまでもなく1960年欧州ツアーはエヴァンズ・バンドではありません。きょうの本稿の趣旨からは逸れてしまうプッシュなんですが、いってみればそれだけ『カインド・オヴ・ブルー』レガシー・エディションは聴きどころ豊富な盛りだくさんの内容ってわけです。

 

(written 2023.1.14)

2023/02/04

マイルズの名盤解放同盟(2)〜『カインド・オヴ・ブルー』をお気軽BGMとして聴こう

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(5 min read)

 

Miles Davis / Kind of Blue
https://open.spotify.com/album/1weenld61qoidwYuZ1GESA?si=XzXhZPfKQzWq2RVEtYzAWw

 

「帝王」とか「歴史的名盤」っていうようなことばは、それきっかけでオッじゃあ聴いてみようかと思うリスナーも生み出すいっぽうで、聴き手によってはかえって緊張し萎縮してしまう効果もときどき出してしまうんじゃないでしょうか。

 

それに輪をかけるのがフィジカルじゃなくちゃいけない、お手軽サブスクなんかじゃダメなんだという一部頑迷老人層の言説。それやこれやでリスナーを束縛してしまい、自由な楽しみかたができなくなってしまうと本末転倒でしょう。

 

マイルズ・デイヴィスでいうとなんたって『カインド・オヴ・ブルー』(1959)。この音楽家の生涯最高傑作と言われるばかりか、全ジャズ史上でみて最もすぐれた本格名作ということになっていて、もちろんそれは間違いないことです。

 

しかしこれをあんまり強調しすぎると入門者(はいつでもいる)はかえって身構えてしまうんじゃないかという気がしないでもなく。もっと気楽にっていうかカジュアル&イージーに『カインド・オヴ・ブルー』に入ってこられるようにするのがわれわれベテランの仕事じゃないかと思うんですよね。敷居は低くしとかないと。

 

近ごろのぼくの見かたでは、このアルバムはシリアス・ジャズでもいいし、それよりもっとこう、イージー・リスニングというと語弊があるかもですけど、とっつきやすい、おしゃれムード重視のリラクシング・ミュージックじゃないかという気がしているんです。

 

これはですね、もちろん長年クソ真面目に、それこそ眉間にシワでも寄せてむずかしい顔でこのアルバムに真っ向対峙してきた結果として、その経験の積み重ねの果てに、結果的にあっさり淡白な境地をみちびいている、つまりある種の老化現象かも、という面があると自覚しているんですけども。

 

そもそもマイルズという音楽家本来の持ち味はビ・バップな白熱真剣勝負からやや距離を置いたところに最初からあって、ソロ・デビューになった例の九重奏団(『クールの誕生』)からずっとそうだったじゃないか、1969年の『イン・ア・サイレント・ウェイ』にしてみたってそうだと、このごろぼくは考えるようになりました。

 

静的っていうかクールでおだやかな、沸騰しない水平的な淡々としたグルーヴこそマイルズの領域でしょう。決して枠をはみださないし、いつもいつも計算内にある均整美を大切にしていて、むろん長いキャリアでみれば強く激しくとんがった音楽に傾いていた時期もありましたが、全体的な傾向というか趣味がどこらへんにあったかはあきらかだと思います。

 

そう考えれば、静かでクールで平和なマイルズ・ミュージックのなかで最もすぐれた心地いいBGMになるのが『カインド・オヴ・ブルー』(とか『マイルズ・アヘッド』とか)じゃないかというのがぼくの認識です。音楽的にむずかしいことを言わなくたって、ただ流し聴きすれば楽しいじゃないかと思うんですよね。

 

この事実、大向こうにはばかってかいままでだれも言ってこなかったことですが、実は『カインド・オヴ・ブルー』を聴いた大勢が感じてきたムードじゃないでしょうか。そうに違いないという肌あたりがこの音楽にはあります、だれも疑えないはずだという実感が。

 

マイルズの『カインド・オヴ・ブルー』はジャズの歴史を変えた、時代を創り出した超傑作である 〜 それは間違いのないことです。ですが、キャノンだという事実をあんまり言いすぎない考えすぎないほうが、むしろ素直に、このきれいな音楽だけに向き合えると思いますよ。

 

すくなくともぼくの最近の聴きかたは、お風呂あがりとかの自室でゆったりリラックスしてくつろぎたいときのぼんやりBGMとして『カインド・オヴ・ブルー』を流しています。それで心地いいんです。極上のイージー・ジャズ。それが2020年代的マイルズの聴きかた。

 

(written 2023.1.7)

2023/02/03

フレンチ・レトロ・ポップス 〜 ララ・ルイーズ

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(3 min read)

 

Lara Louise / Alone Together
https://open.spotify.com/album/5JueoGX9TaEDmpvLrA5Ztj?si=b89kKosGT1ajvSL3p_y7Vw

 

本人公式サイトで売っているのもこれ一つなのでデビュー作じゃないかと思うララ・ルイーズの『アローン・トゥゲザー』(2022)は、レトロなフレンチ・ジャズ・ポップスみたいな感じ。ララはオランダ出身ですけどね。

 

こういうのは正直言ってオジサン・キラーみたいなもんで、ぼくなんかそこにまんまとハマっているわけです。一部を除き基本的にカヴァー集ですから、ほとんどの曲はみなさんどこかで耳にしたことがあるだろうというそういうデジャ・ヴをふわっと軽く骨のない感じでやっているんです。

 

パッとしない曲もあるものの、個人的になかなかいいと思うのが3「Jardin d’hiver」、5「Golden Earrings」、8「Besame Mucho」、9「Petite Fleur」あたり。これらの有名スタンダードは曲がもともと魅力的なので、それでもって勝負しているんでしょうね。1「Alone Together」もいいな。

 

このへんの哀感情緒感とちょっぴりのラテン香味がとってもいい味つけになっている古い曲を、2020年代的コンテンポラリーな解釈なんかちっともまじえず、っていうかそもそもレトロ指向こそ現代の(新しい流行りの)ものだからそのほうがある意味コンテンポラリーだっていうか、そんな音楽ですよね。

 

USやUKじゃもうすっかり一大潮流になっているそんなレトロ・ポップス指向、フランス、いやオランダ人だけどやっているのはフレンチ・ポップスですからララは、そんな世界でも流れができつつあるのかも。

 

くわえてあんがいいけると思うのがピンク・フロイドの13「Set the Controls for the Heart of the Sun」。オリジナルがどんなだったか忘れましたが、ここではウードなど活用してちょっぴりマグレブ音楽ふうなニュアンスを出しているのがグッド。

 

それはそうと5「ゴールデン・イアリングズ」は、サブスクだとララ本人の曲とクレジットされていますが、とんでもない。ぼくらジャズ・ファンは、レイ・ブライアントも1957年のプレスティジ作『レイ・ブライアント・トリオ』でやった、有名ポップ・ソングと知っています。

 

サブスク・サービスの問題というより、データを提供する音楽家やレコード会社側がテキトーいいかげんにやっているというのが原因でしょう。以前はアレックス・アクーニャの新作で「マーシー、マーシー、マーシー」も「ワン・フィンガー・スナップ」もコンポーザー名記載欄が空白でしたし、枚挙にいとまがないです。

 

いまだサブスクなんてそんな扱いで、ディスクを買わずサブスクで聴く人間のことは正直軽視されているということなんですが、ちゃんとした仕事をしてほしいとレーベル・サイドに強く望みたいです。

 

(written 2023.1.19)

2023/02/02

これって女子力?

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(5 min read)

 

「女子力あるね」とか「私より女子力高い」というようなことを女性から言われることがときどきあるんですが、特にネイル関連かなソーシャルにできあがりの様子を投稿するとですね、言われます。

 

ネイルだけでなく髪でも肌でも料理でも家事全般でもコーヒー&ケーキでもファッションでも、たしかにぼくは一般に女子力があるとされるたぐいのことが好きで、得意かも。そういうのをいつもInstagramに上げているし。

 

女子力があるというのは、もちろんほめてくれているわけです。こっちがわ、仲間の一員だとして認めてくれているということ。素直にありがたがって喜んでいればいいことであって、なにも言葉尻をとらえてどうこう言わなくていいんですけど、こうしたたぐいのことを「女子」力だと(無意識裡にでも)思ってしまう発想にはやや違和感がないわけでもなく。

 

性別関係なくキレイでありたいと願い実行するのはおかしなことじゃないし、女性の特権というわけでもありません。現にネイリストさんのお話では近年サロンに男性客が(若年層で)微増しつつあるということで、見た目のおしゃれに気を遣うのは同じですよね。

 

旧来的な世間のジョーシキでは、洗顔後やアフター・バスでスキン・ケア(化粧水+乳液+クリーム)をつけたりなんてのは男はやらないんだ、やっていたら「おまえなにやってんねん!?」と言われることもあったりとかするらしく。たしかにぼくは母親にそう言われていました。

 

もちろん常用している花王Curélのスキン・ケア製品は、ドラッグストアで女性向けのメイク用品を扱うコスメ・コーナーにしか置かれていないです。かなりな乾燥敏感肌だからそれ向けにチューンナップされているキュレルを愛用しているわけですが、男性客の多くは足を向けにくいと感じるばあいがひょっとしたらあるかも。階が分かれていたりするし。

 

唇も乾燥しやすいからリップ・クリームは年中欠かせず(じゃないとヒビ割れて出血する)、その際ちょっと遊び心を出して色付きのを使って血色よく見せたりするのはアリかなって、そう思うんです。でも大州では店員さんに不審がられたことがあります。

 

眉メイク・コスメだって使うし、顔のヒゲは十数年前に永久脱毛しちゃっていてツルツルだし、ネイルのおしゃれをはじめてからはまだ一年ちょいしか経っていませんけど、ぼくの人生の必然的な流れのなかにある行為だと思いますね。

 

そういうのをなんでもレッテル貼りたがりの一部メディアは「美容男子」と呼ぶわけですが、そんなこと言ったらねえ、じゃあ床屋通いだって、カッコいい服を着てオシャレにキメるのだって、美容指向でしょうが〜っ。

 

この手のおしゃれごとは年齢性別不問の普遍的なことだというのがぼくの意識の根っこの根にあるんですけど、世間一般の男性もそうだけどむしろ女性のなかに「男がこれをやるとめずらしい」「女子力のある男性だ」と考えてしまう発想が残っている気がします。

 

この手のみだしなみに気を遣う男性は、たぶん女性になりたいとかトランスしたいとかいう気持ちでやっているんじゃありません。女性化して男性にモテたいなんて思っていないですもん。むしろネイルなんかしていると多くの男性から違和感を表明されるだけ。

 

そして、この手のおしゃれ(や料理など)で女子力云々をいうのは一定世代より上の女性にも多いような気が経験上しています。若い女性からは一度もそう言われたためしがありませんからね。ただひたすら「ネイルかわいいですね」と話かけられるだけで。こないだ松山市内の猫カフェ店内でもそうでしたし。

 

(written 2022.12.31)

2023/02/01

ブルーズの年輪 〜 アンジェラ・ストレイリ

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(2 min read)

 

Angela Strehli / Ace of Blues
https://open.spotify.com/album/1Yx4Cwak3jUGTZxWR74oga?si=CECNkKwiQpaMkBXEVa81pg

 

テキサスのブルーズ・クラブ、アントンズ設立にも関係したベテラン・ブルーズ歌手、アンジェラ・ストレイリの最新作『Ace of Blues』(2022)は、このアルバム題で推察されるとおりO.V. ライトの「エイス・オヴ・スペイズ」をカヴァーしているのがキモ。

 

そもそもが(ラスト12曲目を除き)カヴァー・アルバムなわけですが、個人的にことさら印象的なのが「エイス・オヴ・スペイズ」と「トライング・トゥ・リヴ・マイ・ライフ・ウィズアウト・ユー」(オーティス・クレイ)という二曲のソウル・ナンバー。

 

これら以外はブルーズ・ナンバーでベテランらしいこなれた無難な内容ですが、っていうかそれら二つのソウル・カヴァーだってオリジナルをほぼストレートに尊重していて驚きや意外性はないのですが個人的にはなんだか好き。

 

ブルーズだってこうしたトラディショナルなソウルだって、時代を経てもそうは変わらない世界なわけで、一枚の紙のオモテとウラみたいにして一体でともに歩みながらずっとやってきたというのを、アンジェラみたいなベテランが証明しているともいえますね。

 

声はもうすっかり老齢のものですけれど、コクのあるしっかりした歌いこなしをみせていて、バンドのサウンドだって堅実。みずみずしさよりも渋みのまさる音楽で、年輪を重ねただけあるという重厚感みたいなものが歌にあって、こういうのいいとぼくは思います。

 

唯一のオリジナルであるラスト12曲目の「SRV」というのはもちろんスティーヴィー・レイ・ヴォーンへのトリビュートでしょう。夭折した同郷テキサスの天才ギターリストを思い出しながらしんみりと思いをつづっています。

 

(written 2023.1.16)

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