仮想ビートルズ・ライヴ 〜 ポール・マッカートニー
(5 min read)
Paul McCartney / Selections from Tripping The Live Fantastic
https://open.spotify.com/playlist/6E45KEIF6aossePExp2XzZ?si=89beee23ce6340cf
ビートルズのライヴ・アルバムってあまりないんですね。現在公式カタログに載っているのは例のハリウッド・ボウルとルーフトップ・コンサートのみ。後者なんか無観客ゲリラ・ライヴですし。
ご存知のとおり1966年8月ですべてのコンサート活動から引退しちゃったバンドなので、それ以後の曲にライヴ・ヴァージョンなんてあるはずもなく。ぼくみたいなファンはそこがイマイチちょっとねと思うときもたまにあるんです。
しかし一作だけ、もちろんビートルズじゃないんですが、ポール・マッカートニーが1989/90年の全世界ツアー・マテリアルから発売したCDなら二枚組だった『Tripping the Live Fantastic』(1990)がそんな不満を充足してくれる内容で、だから大好きなんですね。
つまりぼくはこれをある意味<ビートルズのライヴ・アルバム>として聴いているっていうわけです。たっくさんのビートルズ・ナンバーをやっていて、ちょっと数えてみたらアルバムの全37曲中17曲がそう。間違いなく元ビートルの全作品中最多。
1989/90年のツアーでしょ、ちょうど87/88年にビートルズの全公式CDリイシューがはじめて成し遂げられた時期ですよ。再評価の機運が高まっていたし、みんなが話題にしていて、ひょっとしたらポールだって手元に届いたであろう新メディアでビートルズを聴きなおしたんじゃないでしょうか。
それで多めにセット・リストに組み込んでみようということになったのかも。ほかの3ビートルと違ってそもそもウィングズ時代からときおりビートルズ時代の曲をライヴで披露していたポールですし、根っからの音楽パフォーマンス好きなんですよね、このひと。
音楽やってんのが楽しくてたまんないというのが音の表情のはしばしに表れていて、ぼくはこういうミュージシャンがほんとうに好き。そして『Tripping the Live Fantastic』でとりあげられているビートルズ・ソングはオリジナルにかなり忠実なアレンジだっていうのも仮想ビートルズ・ライヴという気分を演出してくれています。
「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」なんて、ポールがあんなに嫌ったはずのゴテゴテしたフィル・スペクター・オーケストレイションをそっくりそのまま再現していますからね。もちろんここではキーボード・シンセサイザーを使って。
そうです、1989/90年だと機材の著しい進展もこうしたライヴ演奏を可能とした大きな要因。1960年代では生演奏の管弦楽でなきゃ実現不可能だったサウンドを、現代ならたったひとりのデジタル・シンセ奏者が演奏できるようになりました。
「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」でエフェクトとして挿入される人声のざわめきも大編成ホーンズのサウンドもそう。前者なんかは間違いなくオリジナル・レコードからサンプリング抽出されています。「リプリーズ」部分を終盤にくっつけて一曲とし、そのあいだを長尺ギター・バトルでつないでいるのも楽しい。
ビートルズのある時期以後のスタジオ作品はこりにこったアレンジと多重録音のくりかえしが頻用されているので、かりにバンドがツアーを続けていたとしてもそのままではライヴ演奏が不可能なものでした。
スティーリー・ダンが1990年代に入ってライヴを再開するようになった、それも後期のレパートリーを中心にやっているというのと同じことで、ポールも現代の技術をフルに駆使して、あの当時は一回性のライヴで聴くことが可能になるなんてだれも考えていなかったビートルズ後期の曲を生演奏再現できるようになったんです。
(written 2023.2.19)
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