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2023年4月

2023/04/30

ゲキアツだった中村海斗カルテット・ライヴ in 大阪神戸 2 days

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(4 min read)

 

2023年4月27日大阪梅田Mister Kelly’s、28日神戸100ban Hallと二日続けて中村海斗カルテットのライヴに行ってきました。アルバム『Blaque Dawn』リリースにともなう全国ツアーのラスト二日間で、バンドもアルバムと同一の佐々木梨子(サックス)、壷阪健登(ピアノ)、古木佳祐(ベース)。

 

いはゆるレコ発ライヴですけれど、アルバムからの曲をやるという感じではなく、海斗の新曲が中心の構成。アルバム・ナンバーは1stセットで数個やったほかアンコールでも演奏されましたが、それだけ。こうした前向きの新進気質はいいことですよね。

 

二日間ともカルテットの演奏はゲキアツで、以前アルバム・レヴューでも書きましたが四人とも超饒舌で燃え上がるような情熱を聴かせてくれました。ライヴだとそれがいっそう激しかったような印象です。特に海斗と梨子のプレイが目立っていましたが、ほかの二名もすさまじかった。

 

にもかかわらず海斗と梨子の表情はどこまでも淡々としていてクール。顔や体の動きにサウンドがくっきり表出されていた健登と佳祐とは対照的で、観客の反応もなにもいっさい気にするそぶりもなく能面のままであんなにも熱のこもったプレイをくりひろげるなんてねえ。

 

2020年代の新感覚ジャズ・ドラマーとしてすらずば抜けた異次元の叩きっぷりをアルバムでも聴かせていた海斗のドラミングは、ライヴだとそのあまりにも多い手数音数と、さらに複数のリズムが多層同時進行していくポリ・レイヤードなスタイルが、しかし実はかなりさわやかなものでもあるんだと、生で聴きいっそう実感しました。

 

軽やかでしなやかな強靭さ&重厚感とでもいうか、あれだけのサウンドを、しかも音量だってバカでかいのに(神戸ではドラム・セットに一本もマイク立っていませんでしたからオール生音であんなにっていうのは信じられない気分)、振幅のきわめて小さいコンパクトな打撃で実現しているっていうのは驚きでしたね。

 

でありながら、梨子のアルト・サックスとあわせどこかクールで爽快。情熱的な演奏なのに暑苦しく圧倒する感じではなく、春の涼しい風にすーっと当たっているようなさわやかさがあります。外見が落ち着いていて無表情だったこともそう感じた一因かも。

 

いっぽう健登のピアノと佳祐のベース・プレイはフレーズごとに顔や体が大きく動くもの。エモーションが表面に出てくるタイプなんでしょう。汗も飛び散って、ハードなフレイジングのときには顔をゆがめ肩が動き体をよじるような演奏ぶりでした。二名ともそれぞれ即興フレーズを口ずさみうなりながらユニゾンで弾いていましたし。

 

四人ともたがいの出す音をとてもよく聴いていて、フレーズ構成の流れを予測しながら次の瞬間の音をピタリ合わせていくバンド演奏ぶりも一体感を感じるもので、この能力は特に海斗が高いようでした。次にピアノやサックスがどんなタイミングでどんな音を出すか、意外なものでも読めているような瞬間がたくさんあって、ややビックリでしたね。

 

このへんは同一メンバーによるツアー最終盤ということで、その点ではもちろんバンドで音楽が練り込まれていたという面もあったのでしょう。にしてもあまりにも四人の息はピッタリ。しかもすさまじい熱を感じる音楽でありながら、ライヴ終わりでは(新世代らしい)柑橘系のさっぱりしたあとくちを残すライヴでした。

 

二日連続で通って両日ともライヴ前ライヴ後とご挨拶し(そういうファミリアーなヴェニューだった)、どうやら海斗には顔を憶えていただきました。

 

(written 2023.4.30)

2023/04/27

むかし渋谷にマザーズというCDショップがあって(マイルズ・ブートを買っていたところ)

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(5 min read)

 

いまでもあるんじゃないかと思いますが確認していませんマザーズという渋谷のCDショップ。主にブートレグを扱っているお店で、東京在住時代にマイルズ・デイヴィス関係のブートは大半ここで買いました。総額100万円やそこらじゃありません。

 

そこと通販の名古屋サイバーシーカーズですね日本のマイルズ・ブート聖地は。西新宿のブート街にもちょっとあったんですが、あのへんはどっちかというとロック系ブートでしょ。マザーズはジャズに強かった。といっても店名で知れるとおりフランク・ザッパも置いていました。

 

マイルズ・ブート関係でのマザーズとサイバーシーカーズは、中山康樹さん『マイルスを聴け!』何版目かの巻末にひっそりと記載があって、それで知りました。同様のマイルズ・ファンは多かったはず。マイルズにかんしてはこうした情報というかリーダーシップを持っているひとだったので、書く文章には疑問を感じることが多々あったものの。

 

いちおうは通販もやっているマザーズですがそれは電話&銀行振込でってことなんで、やっぱり渋谷の路面店に足を運ぶというのが基本でしたね。しかしここはとにかくどこにあるのか場所がわかりにくくって、初回はずいぶんさがし歩きましたよ。

 

宇田川町のジーンズ・ショップ二階に初期のタワーレコード渋谷店が入っていた時代があったでしょ。みなさん憶えていらっしゃいますか、ぼくそこでたっくさんレコードやCDを買ったんですけど、その道路をはさんだ斜め向かいあたりの雑居ビル二階の一室で看板も出さずに営んでいるのがマザーズでした。

 

ほんと店名すらどこにも出ていないんだから、最初はだれもたどりつけませんよねえ。むろん音楽の著作権者に許諾を得ていないブートでの商売は違法なので、看板など出しておおっぴらにやることなどできないっていうことなんでしょう。

 

マイルズ・ブートで個人的にそそられていたのは1969年から70年代もの、それもライヴ音源です。文字どおり山ほどマザーズで買いました。オーディエンス録音だとあの当時まだ機材が不十分だったので聴けたもんじゃなかったですが、なかにはこりゃオフィシャル筋からの流出じゃないのかと推測できる極上のものもあったりして。

 

お店の在庫点数としては80年代ライヴ音源のほうが多かったと記憶しています。音質も向上したんですが、音楽的にさほどでもなかったというのと、もう一点、来日コンサートにぼくも行けるようになったので満たされていたような気分で、さほどブートをあさり狂わなくてもいいなと感じていました。

 

復帰後は毎年のように来日するようになっていたし、あのころのマイルズ・ライヴがどんななのか、わかっているつもりでした。つまり70年代ものは数の多くない公式ライヴ・アルバムで聴くしかなかったから、なんだか雲をつかむようなぼんやりした像しか結んでいなくて、不充足感をなんとか埋めようとブート・ライヴCDを買っていました、マザーズで。

 

ここまで思い出して書き記してきたのは、こないだSpotifyに『Tivoli Koncertsal (Live Copenhagen ’71)』というアルバムが突然載ったから。1971年でコロンビア・レガシーからのリリースじゃないものはすべてブート。サブスクでもときどきこうして非公式海賊音源が出てきますよね。業者が入れているのでしょう。

 

それでちょっと耳を通しながら、ブートを買いあさっていた時代があったなあとなつかしんでいるというわけです。いまでも自室にはそれらの山がありますがもはや聴くことはなく。スタジオ/ライヴのいかんにかかわらず公式録音でも70年代マイルズって(一部を除き)ほとんど聴かなくなりました。イキっていないおだやかでサイレント・ウェイっていうかピースフルな音楽が好きになりましたから。

 

マイルズってだいたいはそんな静的な指向の音楽家なんですよ。70年代に狂っていただけで。かつてのぼくなら『Tivoli Koncertsal』もワクワクしながら聴いたかもですが、いまとなってはもはや。

 

そうそう、マイルズ・ブートがどんどん出るようになったのは1991年9月の逝去後です。まるで雪崩というか土砂崩れというか堤防が決壊したみたいなリリース・ラッシュになって。やっぱり本人がいるかいないかっていうのが大きいんでしょうね。

 

(written 2023.3.25)

2023/04/26

さわやかな風のように 〜 ナラ・ピニェイロ

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(2 min read)

 

Nara Pinheiro / Tempo de Vendaval
https://open.spotify.com/album/5khFt0geM4dWER1PYQC4Wk?si=SfrAzZdCSDmYo9b4Ifv5nA

 

ブラジルはミナスの新人、ナラ・ピニェイロのデビュー・アルバム『Tempo de Vendaval』(2023)。話題になっていますよね。アントニオ・ロウレイロの全面支援を受けできあがった作品で、ロウレイロは正直いってあまりピンとこない音楽家なんですが、ぼくは、でもナラの本作はかなりいいです。

 

ヴォーカル&フルートのナラはまずフルート奏者として世に出たらしく、本作でも歌が突出しているという印象はありません。楽器と歌が並列しているというか峻別せず対等な立場で並びあう溶けあうというのは、ミナスやブラジルだけでなく近年のポップ音楽における一つの特徴。

 

ロウレイロのプロデュースがそうした側面をいっそう強調させているように思えますね。ナラとロウレイロのほかには七弦ギターとコントラバス奏者という四人編成での演奏で、ロウレイロはもちろんドラムス、パーカッション、ピアノなど鍵盤楽器といった複数を担当しています。

 

情熱というよりまるでさわかやな風がすっと吹き抜けるようなクールな感触がアルバム全体にただよっているのが心地よく、曲はいずれもナラの自作ですが、ていねいに練り込まれアレンジされたサウンドがそれでも聴いた感じスポンティニスに響くのは音楽としてすぐれている証拠。

 

傑作だとか今年のブラジル音楽を代表するだとかはよくわからないんですが、たいへん気持ちのいい音楽であることはたしかです。ブラジル新世代、ミナス新世代がさほどでもないぼくだって、これはなんどもくりかえし楽しんでいます。

 

(written 2023.4.7)

2023/04/25

富井トリオ「恋の果て」は名曲

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(1 min read)

 

富井トリオ / 恋の果て
https://open.spotify.com/album/6eFdeDzaPMruwnbgogY7a6?si=lUsM-fUkSXW9-wkEHTUn1w

 

三月下旬にとみー(@1031jp)さんの全曲がサブスクに揃ったので、どうもご本人が入れたらしいんですが、聴きやすいようにさっそくすべてをまとめて一個のプレイリストにしておきました。
https://open.spotify.com/playlist/782p1pBukwxjgFQYXEq63Y?si=8ce483847d3149fd

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これを流していてことさら耳を惹いたのが昨年12月リリースだった富井トリオ名義のシングル「恋の果て」。名曲でしょう。それくらい楽しく快適です、ぼくには。歌詞とは裏腹に陽気でアッパー、ほぼ浮かれている曲調だっていうのが大きな理由。

 

とみーさんらしいポップさがはじけているんですが、細部に至るまでていねいに練り込まれているなというのもよくわかりますし、さらにギター・トリオというバンドの一回性生グルーヴもしっかりあってヴィヴィッドだっていうのがいいですよね。ライヴで映えそう。メロディ・ラインも楽しい(特にコーラス終わりでの上昇)。

 

もうホントこればっかりSpotifyを一曲反復再生モードにしてくりかえしなんども聴いてしまいます。気持ちいいんだもん。そういうポップ・ロック・チューンですよこれは。インディーもインディー、とみーってだれ?という向きが多いでしょうが、「恋の果て」はどこに出しても立派に通用する傑作です。

 

(written 2023.3.31)

2023/04/24

シリアスにならない明るくポップな南ア・ジャズ 〜 テテ・ンバンビサ

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Tete Mbambisa / Tete’s Big Sound
https://open.spotify.com/album/7l90OKF2ooltbS5amoWJB0?si=ery1iEi3RYy8W__RDo92oA

 

南アフリカのジャズ・ピアニスト、テテ・ンバンビサの1974年作『Tete’s Big Sound』がレコードで復刻されたということらしく、おそらくそのタイミングでということでしょうかサブスクでも聴けるようになりました。

 

ジョン・コルトレインやファラオ・サンダースへの南アからの回答といった勇ましい売り文句も目にしましたが、本作はそんなシリアスなスピリチュアル・ジャズとかではなく、サックスも決してブロウしたりしない、明るく楽しく軽いフュージョンっぽい音楽です。

 

ぼくのいちばんのお気に入りは4曲目「Dembese」。もちろんその前の3「Black Heroes」も強い意義を持っている曲でしょう。大海を思わせるゆったりしたグルーヴを持っていてすばらしいです。それに続いて4曲目が流れてくれば、ほんとうに大きな快感。

 

ほどよいビートが効いていてノリいいし、明るく陽気。その陽気なポップさは、上でも書きましたがフュージョンのそれ(ジャズのというよりはどっちかというと)だとぼくには聴こえます。

 

ジャズとなにが融合しているのかここではよくわかりませんが、たぶんこれは南ア現地の伝統音楽がジャズとあわさって展開しているんじゃないかという気がします。シリアスになりすぎないアフリカネスが、ちょうど一時期のフュージョンがそうだったように、こうしたはじける陽光を思わせる明るいジャズになっているのかも。

 

(written 2023.3.22)

2023/04/23

CDで買った最後のポール・マッカートニー 〜『エジプト・ステイション』

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(3 min read)

 

Paul McCartney / Egypt Station
https://open.spotify.com/album/3uLrSFrNqa8CULSIU7e9v5?si=vg9TKAPdSoasJmFxVhC07w

 

ポール・マッカートニー2018年のアルバム『エジプト・ステイション』。ぼくがCDで買った最後のポールで、この後現在までに『マッカートニー III』(20)の一作あるだけなんですけど、そっちはサブスクで楽しみました。

 

(基本的に)物体を買わずサブスクで音楽を楽しみ愛するようになったのは2019年の晩夏ごろから。17年にSpotifyプレミアム(有料)を契約していましたが、同時にCDも買っていたんです。移行に二年かかりました。

 

その移行期間、ぼくはちょっとおかしなサブスクの使いかたをしていて、CD買って聴いてこりゃいいねと思ったアルバムを、次いでサブスクでさがし、見つかったのをリンク貼ってソーシャル・メディアやブログで紹介していたっていう。

 

逆ですよね。サブスクを試聴機代わりに使って、いいねと思ったらディスク買うっていうやりかたをなさっているみなさんが圧倒的多数のはず。そこいくとぼくはいったいなにをやっていたんでしょう。さすがにいまはもう違っています。

 

ポール・マッカートニーの『エジプト・ステイション』も、まずネットでジャケットを見て、あっいいじゃんと思ってCDを買い、届いたもののそっちはあまり聴かず、物体見つめながらサブスクでなんども聴いたんだったと記憶しています。

 

2018年だからブログをやっていたんですけど、なぜかこの作品のことをとりあげなかったですね、当時は。音楽はいいぞと思ったのに、チャンスを逃してそのままになっています。こういうことって毎日書いているとわりとあるんですよね。

 

そいで、いまごろ不意に思い出し、その後二度の引っ越しでディスクはもう山のどこにあるかわからないけどサブスクなら検索すればパッと出てくるので、数年ぶりにまた聴きました。今度はちょっぴり感想を書き残しておこうかなって。

 

『III』とあわせたポール近年の二作はまったく傾向の異なる音楽で、個人的な好みでいえばもう断然『エジプト・ステイション』を選びたいということになります。ビートルズ〜ウィングズ時代から続くポールらしさ満開。

 

つまりポップなロックで聴きやすいってこと。むかしからのポールのファンだったなら「これだよこれ、これこそポールらしいメロディ・ラインとサウンドだ」ってヒザを打ちそうな曲が満載で、聴いていて心地いい。

 

また一人多重録音ではないバンド演奏のグルーヴがしっかりあることも気に入っている理由の一つ。イキイキした音楽の躍動感が聴きとれるというのがですね、むかしながらの楽器演奏スタイルに生命が宿るという考えというか嗜好の古くさいファンであるぼくにはいいんです。

 

(written 2023.3.4)

2023/04/20

心のぜいたく 〜 ドナルド・フェイゲン『ザ・ナイトフライ・ライヴ』

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(3 min read)

 

Donald Fagen / The Nightfly Live
https://open.spotify.com/album/5C5qAs32rM9PXL6MNuxTDp?si=kk0J9VPsRTStq7GkhrSz9A

 

三回目ですがドナルド・フェイゲン『ザ・ナイトフライ・ライヴ』(2021)。なんべん書くねんw?!と言われそう。これも都会の音楽プレイリストに入れたら熱が再燃し、このごろとってもよく聴いています。毎晩欠かさずお風呂あがりに流しているんじゃないかと。間違いなくこの一ヶ月の最ヘヴィロテ・アルバム。

 

都会の音楽だっていうのはオリジナルの『ザ・ナイトフライ』(1982)からもちろんそうでした。21年リリースのこの再現ライヴもジャケット・デザインを見るだけで中身の洗練度がよくわかります。こういうジャケがぼくは大好きなんですよ。

 

そして生バンドによる一回性のライヴ・パフォーマンスだっていうのも、ディスクやサブスクで聴いている人間だって、まるで都会の夜のゴージャスなライヴ・コンサート会場におしゃれして出かけていって参加しているっていうそんなヴァーチャルな妄想にひたることのできるムードを演出しているように思います。

 

熟練の腕利きミュージシャンたちが、もとから完成度の高いアルバムの曲群をオリジナル収録どおりの順番で、アレンジもほぼそのままに再現している企画ものライヴ音楽だったというのが(ぼくには)いいんですよね。

 

1980年代当時は多くのセッション・ミュージシャンたちにパーツごとなんども演奏させたテープを複雑に切り貼りするスタジオ密室作業で完成させるしかなかったのが、現代なら生演奏バンドでそのまま実現できるようになったという。だからライヴ披露できたわけですから。

 

この音楽には生活臭みたいなものがまったくなく、日本でいえばお味噌汁とお漬けもののにおいみたいな、そういうのが完璧に抹消されたきれいな都会的洗練が支配しているのが、なんともいえずぼくの好みどまんなか。一夜限りの大切な大切なプライム・タイムを実現するために、細かく微かなディテールからていねいに練りあげられ組みあわさった極上のグランド・デザインが音で具現化しています。

 

高額なコンサート・チケットを買わなくたって、立派でおしゃれなレストランでディナーを頼まなくたって、ゴージャスな洋服なんか着なくたって、それらにおとらない心のぜいたく、こうしてなんでもない自分の部屋のスピーカーからサウンドとなって展開される都会の一夜をかたどった楽しい音楽こそ、ヴァーチャルだけど、ぼくには最高の贅沢品です。

 

(written 2023.4.4)

2023/04/19

たぶん一生聴ける 〜 ニーナ・べケール『ミーニャ・ドローレス』

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Nina Becker / Minha Dolores: Nina Becker Canta Dolores Duran
https://open.spotify.com/album/4KKDLia9xJT8NM98jPfRvM?si=d0YJN4nbQNeo2OquSEuaFQ

 

都会の音楽が好きという記事を書こうとしてプレイリストをつくったとき、ふと思いついてニーナ・べケール(ブラジル)の2014年作『Minha Dolores: Nina Becker Canta Dolores Duran』も入れておいたんですが、流し聴きしていると最高に快適なのを、いまさらですが、またまた再確認しちゃいました。

 

Spotifyにあるニーナは全作聴いてみたものの、こんなアルバムほかにないですもんね。傾向がだいぶ違うっていうかMPB路線で、なかには前衛的でシャープなものもあったりして。決してよくないとは思いませんし、一つは記事にしました。

 

ですけれど『ミーニャ・ドローレス』は別格の、スペシャルな、心地よさ。保守的っていうか従来路線っていうか要するにぼく好みの古典派コンサバ音楽なのがいい。基本七弦ギターとバンドリンの二人だけ伴奏だっていうショーロな落ち着いたシンプルさもまたみごと。

 

ボサ・ノーヴァ勃興直前サンバ・カンソーン時代の人物ドローレス・ドゥランの曲をつづるヴォーカルもまろやかなおだやかさ。適切なぬくもりと湿り気を感じるちょうどよき声で、ニーナはふだんの姿から衣替えしてレトロにシフトし成りきっています。

 

いやレトロっていうかこうした静かで淡々と落ち着いた歌謡音楽は不変の魅力をいつの時代でも放っていて決して色あせないものなんじゃないかと思います。社会や人間がどう変わろうともチャームを失わない音楽で、さわやかなクールネスとほどよい官能が同居するこのアルバム、たぶん一生聴けるはず。

 

(written 2023.4.2)

2023/04/18

都会の香りがする音楽が好き

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My City Pop
https://open.spotify.com/playlist/0A8m5yDIFx6qGbJdzWH1fA?si=1e64a6c5fc0542a7

 

ここ10年内のリリースに限定して思い浮かぶまま九作、画像をタイルしてみましたが、このあたりが(いまの)ぼくの好きな音楽ってこと。古いものならたとえばリー・ワイリー『ナイト・イン・マンハッタン』(1955)あたりがまさにぐっとくるシティ・ポップで、そういったものがほんとうに好きになったんですよ。

 

生活や人生のにおいのしない、リアリズムでない、おしゃれで洗練されたスタイリッシュでジャジーでピースフルな都会派ポップス。実生活でも農村のあぜ道より摩天楼のアスファルトを歩いているほうがずっと快適で、これは生来の気質なのか、それとも(がんらい大都会の音楽である)ジャズに惚れて以後そう育ったのか。

 

そしてここ10年以上、約20年近くかな、どんな音楽ジャンルでも都会的でおだやかジャジーなものが台頭しているっていうかちょっとしたブームになっているのも間違いないことで、それはレトロ志向とも関係ありますし、日本のシティ・ポップが世界でムーヴメントになっているようなたぐいのことだって通底しています。

 

多ジャンルをクロスするようにジャズ要素が芯をつらぬくようになっていて、こうしたことはジャズって実体ではなくて音楽演奏の方法論でしかないというこの音楽の本領をいかんなく発揮しているっていうこと。ジャズ的なものがここまでコンテンポラリーによみがえってくるとは、20世紀の終わりごろ思っていませんでした。うれしい。

 

以前は、Niftyのパソコン通信をはじめた1990年代後半から21世紀はじめごろでも、ジャズ・ファンは蔑視されていて、「(ジャズ好きなんか)あっちいけよ」「一度もジャズ・ファンだったことがない」「ジャズなんてケッと思っていた」とか言われたり、言外の態度に出ていたりなどの日々をすごしてきました。

 

ノラ・ジョーンズの出現が2002年ですが、あのころはノラを従来的なジャズ・ヴォーカルの枠内でとらえようとする言説ばかりでしたし、ネガティヴなことばを向けるロック・ファンすらいたくらい。現行シーンの大本流である新世代ジャズとレトロ・ポップスの二つともの源流がノラの汲んだ水にあったことが理解されるようになるのに、さらに10年の時間を要したとはいえ。

 

あのへんのおだやかジャジーなポップスは、たとえばもともと1970年代からレトロ・ジャズ志向も強かったドナルド・フェイゲンあたりの復活にもはっきり関係していて、演奏家の技量向上と機材の発達もあいまって、ロックでもジャズでもポップスでもないようなライヴ・ミュージックの樹立に大きく寄与しているわけです。

 

ブラジリアン・ミュージックなテイストもそこには加味されていて、ブラジル国内から新世代ジャズに共振するような音楽家がどんどん出てくるようになっているばかりか、USアメリカのミュージシャンたちだって(これは60年代からそうだったけど)ブラジル要素を、それもナチュラル&スポンティニアスに、参照したりすることが増えています。

 

台湾や香港や中国内地の新世代ポップ音楽家たちもそんな流れのなかにあって、音を聴きさえすれば「あぁ、これは同一基軸だ、全世界的な潮流なんだね」とどなたでも感じとることができるシーンが、もはやだれも疑えない確固たるものとして確立されていると感じられるのが、いまのぼくの個人的音楽ライフが楽しい最大の要因です。

 

(written 2023.3.27)

2023/04/17

シティ・ポップとしてのエリック・クラプトン『アンプラグド』

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(4 min read)

 

Eric Clapton / Unplugged
https://open.spotify.com/album/6zxsfP7TdXLAS9QEGNN0Uy?si=UphbFjLFQ3m2J-8tfFxG_Q

 

きのう「みんな知らん顔」ブルーズのプレイリストにもここから選んだんですが、エリック・クラプトンのライヴ・アルバム『アンプラグド』(1992)。これ、実はぼくけっこう好きですね。ちょっと恥ずかしいことかもしれないんですが、もうそんなこと気にしている歳じゃない。

 

90年代当時このCDはかなり売れて有名人気盤になり、前からロック・ギター・キッズのあいだでは大ヒーローだったクラプトンの一般世間での知名度も一躍急上昇することになりました。が、そのいっぽうでクロウト筋からの音楽的評価は必ずしもかんばしくなかったのです。

 

つまり、60〜70年代からクラプトンをずっと聴いてきていたすれっからしの耳の肥えたブルーズ、ロック・リスナーのあいだでは「う〜ん、これはちょっとねえ…」という声が多かった。その大半は、たくさんやっているギター弾き語りの戦前ブルーズ・チューンがきれいさっぱりと洗浄されちゃったみたいになっていることへの違和感だったように思います。

 

90年代といえばCDメディアの普及にともなって戦前黒人ブルーズがCDでばかすかリイシューされまくっていて、一種のブームみたいになっていましたよね。それなもんでオリジナルを耳にする機会がぼくらも増えて、それに比べて『アンプラグド』のクラプトンのは…みたいな感想があったかも。

 

ぼくもあのころは同調していたんですが、あっさりこざっぱりしたおだやかな都会的音楽こそ最愛好になったここ数年の個人的趣味の変化をふまえて『アンプラグド』を聴きなおしてみたら、あ〜ら不思議、なんかとってもいいじゃない。アクースティック・オンリーのオーガニック生演奏というのもステキだし。

 

たしかに2「ビフォー・ユー・アキューズ・ミー」、3「ヘイ・ヘイ」、9「ウォーキン・ブルーズ」、12「モルティッド・ミルク」とか、やっぱりね、ちょっと、これでいいの?という気分が拭いきれない面もあって、こりゃ “ブルーズ” じゃあないだろうと言いたくなってくるフィーリングがぼくにもいまだあります。

 

しかし最近このアルバム全体をじっくりなんども聴きなおしていてようやく気づいたのは、これらは必ずしもブルーズじゃないんだってこと。オリジナルはブルーズ・チューンですが、ここでのクラプトンらの解釈は一種の洗練されたおしゃれシティ・ポップになっているんじゃないかと思うんです。

 

だからこそブルーズ・リスナーには受け入れられないと思うんですが、ジャジーなシティ・ポップ好きにとっては恰好の音楽で、これはこれでわりといいものですよ。4「ティアーズ・イン・ヘヴン」、5「ロンリー・ストレインジャー」、8「ラニング・オン・フェイス」といった曲じたいのポップ・チューンとならんでいますから、この側面はいっそう強化されています。

 

そう考えないと、このごろのぼくがこのアルバムに感じている快適さは説明できない気がします。本作でいちばん好きな6「ノーバディ・ノウズ」とか、同系統のちょっぴりホンキーなジャグ・バンド・ミュージックっぽい10「アルバータ」、11「サン・フランシスコ・ベイ・ブルーズ」とかも、こんな視点で聴きなおすことで、ここでのレンディションのチャームをよりよく理解できるはずです。

 

(written 2023.3.17)

2023/04/16

落ちぶれたらみんな知らん顔

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Nobody Knows You When You’re Down and Out
https://open.spotify.com/playlist/6MSqBoanOlgtdGuF2mJev2?si=dff3d3bf2ea640bb

 

むかし大金持ちだったころは
どんなに金を使おうが平気で
友だちを引き連れて遊びまくり
酒という酒をガバガバ飲んだけど

そのうち金がなくなってきたら
友だちなんてみんな消えちゃって、行くあてだってなくなった
こんど金を手に入れることができれば
つぶれるほど握りしめて離さないぞ

なんでかって、落ちぶれたらみんな知らん顔
ポケットに一円もなかったら
友だちだって一人もいなくなる

もう一回立ちなおってくれば
だれもがむかしなじみだって顔してまた寄ってくる
妙なことかもしれないけど間違いない
みんな知らん顔だぞ落ちぶれてしまったら

落ちぶれたらみんな知らん顔
ほんとうにほんとうに
無一文になったらだれもが知らん顔するようになる
一人もいなくなってしまう、みんな逃げちゃうんだ

 

(written 2023.3.16)

2023/04/13

逆境をバネに 〜 中澤卓也『HANDS MADE』

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(2 min read)

 

中澤卓也 / HANDS MADE
https://open.spotify.com/album/21ZiIK02YVLcHLIKURY1B7?si=OY_-at6CT0uFJuNQjh1Eug

 

中澤卓也の5/30大阪メルパルク・ホール公演に行くんですが、さきがけて新作アルバム『HANDS MADE』(2023)が4月12日に出ました。5.30はバンド・ライヴなので、やっぱりこの作品からの曲が中心になるんでしょう。

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演歌のフィールドでデビューしてやってきた卓也ですが、独立後(インディー活動ともいう)はさわやかJ-POPっぽい路線を走っていて、新作『HANDS MADE』も同じです。全曲自身の作詞。作曲はレギュラー・バンドのメンバーですが卓也も一部でチャレンジしています。

 

アルバム題やジャケット・デザインがすでに手づくりを示していて、こういったことはレコード会社のサポートが得られなくなったせいではありますが、逆境をバネになんとか再起せんと懸命に奮闘している姿に接すると、全力で応援したくなります。そういう魅力が卓也の声にはありますよ。

 

重厚感のある1「SHOW TIME」ではじまって、続く2「Magical Summer」は軽やかに駆ける感じ。しっとりバラードをはさんでの4「Umbrella」は2/4拍子のレトロなスウィング・ジャズふう。ベースだってコントラバスが使われています。時流を読んだってことでしょうね。

 

さらに一曲おいての6「君の未来を願う詩」ではメロディ展開に沖縄音階フレーバーがほのかに香っていて、それもすれちがいざまにふわっと鼻をくすぐるだけのさっぱりした感じで、いいですね。

 

ラスト7「またね」はHome Recording Ver.とあるように、おそらく自宅で簡易に録音しただろうひとりでのアクースティック・ギター弾き語り。つくり込まない卓也の身近で親しみやすい素顔みが出ていて、「手づくり」というアルバムをしめくくるには恰好です。

 

(written 2023.4.12)

2023/04/12

ジャズ・コントラバス&ヴォーカルの新世代 〜 石川紅奈

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(2 min read)

 

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https://open.spotify.com/playlist/7M0iOVXWTDpDRh5Mv6cvdu?si=de0a408ee4b94a0a

 

デビューして間もないジャズ・コントラバス&ヴォーカルの新人、石川紅奈(くれな)。話題になっていますよね。サブスクにはアルバム『Kurena』(2023)と若干のシングルがあります。後者にはアルバム未収録曲もあって聴き逃せません。

 

アルバムは前半1970年代初期リターン・トゥ・フォーエヴァーふうな感じではじまって、じっさい2曲目は「500 Miles High」ですし、あのころのチック・コリアあたりを意識したっぽい音づくりなのは小曽根真がプロデュースしているからでもあるんでしょう。ピアノも弾いていそうですね。

 

3曲目のスティーヴィ・ワンダー・チューンだってさわやかジャジーなレンディション。これもほかの曲でもコントラバスでショート・パッセージを反復しているのが軸になっているのはややフュージョン流儀っていうか新世代ジャズっぽさです。

 

そうしたスタイルがピッタリはまったのが5「Off The Wall」(マイケル・ジャクスン)。1979年の原曲からヒプノティックな反復リフが特徴でしたから。もちろん紅奈はそれをコントラバスで。しかもこの曲ではほかの楽器いっさいなしの弾き語りっていう。

 

アルバムはもう一曲あって終わりですが、個人的に紅奈の作品で最も惹かれたのはシングルでしか聴けない「No More Blues」(2022)です。いうまでもなくアントニオ・カルロス・ジョビン作「Chega de Saudade」の英語ヴァージョン。

 

紅奈はこれをコンガとコントラバスのデュオ(+かすかなデジタル・ビート)でやっていて、やっぱり反復リフを軸に、とってもグルーヴィで気持ちいいんですよね。ボサ・ノーヴァっていうより完璧にジャズ。後半ではスキャットとコントラバスのユニゾン・デュオによるインプロ・ソロも聴けます。

 

(written 2023.4.12)

2023/04/11

おかあさんぼくこっちのカレーがいい!

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写真は本文と無関係な街のカレー

 

(4 min read)

 

1997年8月、USテネシー州の大都会ナッシュヴィルに、じゃなくて正確にはその近郊の田舎町なんですけど、夏休みを利用して夫婦で遊びに行ったときのことです。友人のカワサキキョーコさんちにステイしました。

 

キョーコさんはぼくのパートナーの学習院大仏文科時代の同級生で、ときどき連絡をとりあっていたらしいのですが、ある年男性パートナーさんの転勤でナッシュヴィル(近郊)へ家族で引っ越していったのです。

 

「周囲に日本語しゃべる人間がぜんぜんいないのよ〜、日本語忘れそう〜、さびしいぃ」っていうことらしかったので、ちょっとでも癒しになればとぼくたち夫婦で夏に一週間ほど遊びに行くことにしました。

 

キョーコさんちはパートナーさんとお子さんの三人家族。そこへお邪魔して居候しながら、あちこちクルマで連れて行ってもらったりで楽しい時間を過ごしました。

 

パートナーさんはお仕事で昼間はいません。キョーコさんが自宅でつくる料理をいただいていたんですが、そんな準備中にあるときぼくのパートナーが不意にうっかりもらしてしまったんです:「このひと料理うまいのよ、特にカレー」と。

 

じゃあつくってつくってということに当然なって、そんなこと言ったってなあ、使い慣れないよそのキッチン、しかもここはナッシュヴィル(近郊)だし、買い出しからして様子が違うよねえとちょっぴり尻込みしたんですが、押されて決意。

 

カレーのときは午後を存分に使って仕込むということで、翌日午前中にスーパーへみんなで行きました。いま思い出すにあれは行ける範囲でなるべく大規模な、日本食材だって揃うスーパーへ連れて行ってくれたんでしょう。

 

日本のルーや追加する各種スパイス類その他も無事買えたので一安心。お家に帰って下準備の開始です。パートナーは見慣れたもんですが(といってもあまりキッチンにおらずぼくがひとりでつくっていたけど)キョーコさんはとなりで見つめていました。

 

作成手順を書くと長大になってしまうので省略。小学校低学年のこどもも食べるということで、大人用にスパイスを効かせる前にそのぶんはとりわけて、合計五人×約二日分という大量のカレーが完成しました。キョーコさんには意外なプロセスもあったみたいです。

 

夕方パートナーさんも帰宅して、みんなで大きなダイニング・テーブルを囲み、ぼく製の日本式カレーを食べました。おいしいぃ〜とみんな言ってくれて楽しい夕食タイムをなごやかに過ごせましたからハッピーでした。ぼくもふだんは夫婦二人分しかつくらないので新鮮でした。

 

五人とも食べ終わったとき、お子さんがキョーコさんの席へとことこ歩み寄り言い放ってしまったのです:「おかあさんぼくこっちのカレーがいい!」。こうなるとキョーコさんの立つ瀬がありませんが、それでもみんな笑顔でした。

 

ってなわけでお願いされて、合い挽き肉を使うぼくのカレー(キーマ・カレーではない)買いものメモとレシピをキョーコさんのために書き残しておきました。

 

夕食が終わって大型テレビのあるリビングでくつろいでいると、TVニュース・アナウンサーが突然泣き声になって、なにごと?と思ったら英ダイアナ妃の交通事故死を伝えはじめました。ぼくはあれをナッシュヴィル(近郊)でカレーをつくった晩にCNNで知ったのです。

 

(written 2023.3.1)

2023/04/10

ルゾフォニア・グルーヴの美点がつまったサウンド 〜 マイラ・アンドラーデのライヴ・バンド

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(3 min read)

 

Mayra Andrade / Studio 105
https://open.spotify.com/album/720VPaqxg1xJUglaXZ2so4?si=E_xTf_3VRT2uWuUeene8pw

 

カーボ・ヴェルデの歌手、マイラ・アンドラーデがフランスはパリでやったスタジオ・ライヴのアルバムがあるんだって、ついこないだ知ったばかり。『Studio 105』(2010)。もうだいぶ前の作品ですね。オフィス・サンビーニャが売るというツイートがあってようやく気づきました。

 

これがですね、マイラのヴォーカルがどうこうっていうよりも、アクースティック楽器で固めたバンドのオーガニック・アンサンブルの心地よさでとっても快適に聴けます。ベースだってコントラバスの音をピックアップで拾っているんじゃないかと。

 

マイラにとって三作目だったので、二作目までに収録されていたレパートリーを中心に、なかにはパリ・ライヴだということを意識してのセルジュ・ゲンズブールや、あるいはビートルズの「ミシェル」とかもやってはいますがそれらはイマイチ。

 

やはりルゾフォニアの香り高い自曲こそがすばらしいですよ。アクースティック・ギターを軸に据えたバンドのアレンジをだれが手がけたのかとっても知りたいと思うすばらしいアンサンブル。

 

しかも聴いた感じたぶんギター、ベース、パーカッションだけのシンプルなトリオ編成じゃないかと思います。チェロが聴こえる曲はベーシストの持ち替えでしょう。自由度が高いというより事前アレンジされたカッチリした演奏で、それでいてナチュラル&スポンティニアス。

 

多用される反復リフがノリよくカッコいいし、それでもってつくるバンドのグルーヴがとっても気持ちいい。こなれているし、まったく理想のようなサウンドなんですよね、ぼくには。ホントこれギターはだれが弾いてんのか、音楽を牽引しているように聴こえます。

 

マイラのヴォーカルのことをなにも書いていませんが、正直いってこのライヴ・アルバムだとピッチにややぐらつきがあって、正確に音程をヒットせずあいまい。声のハリやツヤもそんな、なんっていうか、その〜。

 

それよりバンドのアンサンブル・サウンドこそ本作の聴きどころでしょう。ここまで心地よいんだから、それさえあればマイラはべつに、あ、いや。でもこのサウンドにはアフリカン・クレオール・ミュージックの、ルゾフォニア・グルーヴの、美点がつまっているように思えます。

 

(written 2023.3.20)

2023/04/09

コンテンポラリー・ジャズに生まれ変わったビョーク 〜『ビョーク・イン・ジャズ』

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(2 min read)

 

v.a. / Björk in Jazz: A Jazz Tribute to Björk
https://open.spotify.com/album/4xOFNUdMlv6DFUlxkFOrNq?si=Ba8SkF9PSHGFUVD52do2zw

 

15組の現代ジャズ・ミュージシャンたちがビョークのソングブックを解釈した、オリジナル・アルバムっていうよりコンピレイションなのかな知りませんが、『Björk in Jazz: A Jazz Tribute to Björk』(2022)がちょっといい。ビョークがどうっていうより現代ジャズのサンプラーとして楽しいです。

 

演者に知っていた名前はほとんどなく、かろうじて2曲目のカミーラ・メサと4曲目のグレッチェン・パーラトだけでした。1993年ソロ・デビューのビョークを聴いて育った若手世代のミュージシャンたちなんでしょうか?

 

原曲いかんにかかわらずジャズ・インストルメンタルになっているものがいくつもあって、ビョーク・オリジナルの姿なんてすっかり面影もないという演奏だって聴けます。ぼくはコンテンポラリー・ジャズよりビョークのほうに思い入れがある人間なんですけどね。

 

それでもオッと耳をそばだてる演奏もあって、たとえば8「Army of Me」のヤロン・ヘルマン。フランス系イスラエル人のジャズ・ピアニストみたいです。11「Hyperballad」のフォックス・キャプチャ・プランもいいな。日本のピアノ・トリオのよう。

 

ラスト15曲目「All Is Full of Love」のピアノも抒情的でステキ。ビル・カンリッフというUSアメリカ人ジャズ・ピアニストで、この音楽家はビョークよりベテランですね。

 

これら以外だって、ヴォーカルものもふくめ、現代ジャズとして聴くときに目立つのは特にドラマーの叩きかた。ビート・メイクの手法はビョークをはるかに超え、ヒップ・ホップを通過したからこそのコンテンポラリーなもの。もちろんそれを(打ち込みじゃなく)楽器人力演奏で実現しているんです。

 

(written 2023.3.12)

2023/04/06

羽をもがれた女性たちのための浄化の歌 〜 青田典子

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(3 min read)

 

青田典子 / Noriko’s Selection -Innocent Love-
https://open.spotify.com/album/45FjHBvKd4ZGD09VIzn1LE?si=5BZYgX7nTxSfSRQcdeC5Ag

 

リリースされたときTwitterのタイムラインで一瞬見かけた気がする青田典子の新作アルバム『Noriko’s Selection -Innocent Love-』(2023)。その後話題になっている気配もありませんが、心に訴えかけてくる作品だとぼくは感じています。

 

典子の歌手活動が熱心な音楽ファンやジャーナリズムにとりあげられることなんてないわけですが、ぼくはぼくでいいと感じたものを自分の気持ちに正直に、だれに遠慮も気がねもせず、書いていくだけですから。

 

それで今作『Noriko’s Selection』はカヴァー・ソング集、それも流行の80sシティ・ポップを意識したようなセレクションなので、オリジナル歌手たちを一覧にして以下にまとめておきます。

 

1 真夜中のドア(松原みき)
2 むくのはね(Kinki Kids)
3 眠りの果て(涼風真世)
4 駅(竹内まりや)
5 化粧(中島みゆき)
6 花束(中島美嘉)
7 たいせつなひと(安全地帯)
8 別れの予感(テレサ・テン)
9 微笑みに乾杯(安全地帯)
10 いのちの歌(竹内まりや)

 

ロスト・ラヴの歌ばかり集められています。典子自身の語るところによれば「(これらの歌に)向き合いながら友人たちが泣いている光景を何度目にしてきたことか」「聴きながら自分をヒロインに立て、慰め、浄化させることを私の同世代は誰もがしてきたんじゃないか」といった曲の数々。

 

だから(基本的に)女性目線の歌ばかり。以前からくりかえしますように日本では性別を超えて自身とは異なるジェンダー立場に身を置ける歌は多く、それでも今作は<羽をもがれた女性たち>という視点がことさら強く出ているようには思いますが、ぼくみたいなオヤジが聴いて感情移入できないわけでもありません。

 

それが音楽のパワーとか浸透力っていうもので、聴き手のほうも想像力と共感力が問われます。さらに選ばれている曲の痛み特性を響かせるため、ヴォーカルには必要最小限の装飾しかほどこされていません。数曲ではまったくのノン・リヴァーヴで、すっぴん声のナマナマしさが曲の痛切を増幅しています。

 

聴くひとによっては共振しすぎ、つらくて聴きとおせないと感じるかもしれないほどの内容で、しかし歌によって、聴くことにより、泣いて、ある種のカタルシスを得ることができる悲しみが存分に宿っている音楽であるがゆえ、心的浄化をもたらしてくれる好作に違いありません。

 

終盤の「別れの予感」「いのちの歌」あたりまで来るとさわやかさがただよっていて、これらはもとからそうした(悲痛感をストレートに強調しない)曲想のものではありますが、仮想のヒロインに立てたリスナーの自分がふっきれて清らかになっていくのを感じることができます。

 

(written 2023.4.6)

2023/04/05

ウェザー・リポート『ナイト・パッセージ』あたりが新世代ジャズのルーツ

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(4 min read)

 

Weather Report / Night Passage
https://open.spotify.com/album/297vP5Fa2Zox6ZNb5zWOuG?si=_9HAouVqQGeCOxb0DDMvgQ
(オリジナル・アルバムは8曲目まで)

 

ウェイン・ショーターが亡くなったときにウェザー・リポートを全作聴きかえしたというのは前も書きましたが、なかでも1980年リリースだった『ナイト・パッセージ』がこのバンドのアルバムでいちばんいいんじゃないか、っていうのはもちろんあくまで個人的感想ですが、そう思い至りました。

 

そうそう『ナイト・パッセージ』は発売を心待ちにして胸をワクワクさせながら、まだか?きょうはどう?と日々レコード・ショップに通ってリアルタイムで一枚買ったこのバンドの最初だったんですよ。いまでもよく憶えています。79年にジャズ・ファンになりましたから。

 

カッチリていねいに練り込まれたアレンジが(ぼくには)心地よく、聴いていてひっかかりがないスムースさ。だから一作すんなり通して終わってしまい「はて?聴いたっけ?」という印象すら残すのは、実は音楽が空気みたいに真にすぐれている証拠なんですね。

 

じゃあつくりこまれているのか?っていうと、実はこれ全曲が一回性のライヴ・パフォーマンスで、1〜7が1980年7月12、13日のロス・アンジェルス、ザ・コンプレックス、8が同年6.29大阪フェスティバル・ホール。事前に綿密なリハーサルは積んだでしょう。

 

そんなイキイキとしたナマ音楽ならではのグルーヴを感じることもできるっていうのが、このバンドにしては当時ちょっと新しかった部分です。だからあのころウェザー・リポートの「ジャズ回帰」宣言だみたいなこともずいぶん言われていて、1曲目のタイトル・チューンなんかは4/4拍子ですし、たしかに全体的にジャズを感じる作品ではありますね。

 

いまの気分で個人的に特に気に入っているのは1、2、6、7曲目あたり。80年当時は3、5あたりもかなり好きでした。5はデューク・エリントンの有名定番曲で、このバンドがカヴァーをやるのも史上初だったし、これもジャズ回帰を印象づけた理由の一つでした。

 

この上なく美しいバラードである2「ドリーム・クロック」はなんど聴いてもウットリするし、難曲であるにもかかわらず細かいキメをバンドが寸分もズレずにびしばし決めていくグルーヴィな6「ファスト・シティ」もスリリングでカッコいいし。

 

ジャズ以外の他ジャンルと混淆(フュージョン)しながら、それでもジャズに軸足を置いて新時代の表現方法を切り拓いた名作だとぼくなんかは『ナイト・パッセージ』のことを高く評価していますよ。当時はひたすら楽しいだけでしたが、2023年に聴きなおすとそういった意義を感じます。

 

2010年代以後的な新世代ジャズ・スタイルのルーツのルーツをさかのぼってさかのぼるとこのへんにたどりつくはずだと思うのに、このごろ一般の音楽ファンのみなさんからはあまり「ウェザー・リポート」っていう文字を聞かなくなりました。

 

(written 2023.4.1)

2023/04/04

サブスク音楽をどうやってオーディオ装置につないでいるか(改訂版)

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(3 min read)

 

https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2021/12/post-f4109c.html

 

以前書いた記事ですが、リクエストがあったので、加筆訂正をくわえて再掲します。レコードやCDを聴いているのと同じオーディオ装置で、高音質で、サブスクを聴くやりかたです。

 

といっても特別なことはなにもなく、どこででも買えるBluetoothレシーバー(DAC内蔵)を使っているだけ。ただこの一個のみです。ぼくが使っているのはこれ↓
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B01COOUKQI/

 

パソコンでもスマホでもBluetoothでレシーバーに接続し、そこからはいつものRCAケーブルでアンプへとつなぐだけ。あとはアンプの入力ソースつまみを都度切り替えれば、たったそれだけのことでCDなど聴いたりしている本格オーディオでそのままサブスクのストリーミング音楽を聴けます。

 

パソコンやスマホ →(無線)Bluetoothレシーバー →(有線)アンプ → スピーカー

 

こうしたBluetoothレシーバーは多くのメーカーからたくさん発売されていますので、どうやってパソコンやスマホからずっと使っているオーディオ・アンプにつないだらいいか、安価で簡便な手段を教えて!という素朴な疑問をお持ちのかたは、ぜひちょっとさがしてみてください。

 

本格的なネットワーク・プレイヤーはやや高価ですし、USB DACを買えばいいかもですがケーブルで接続しないといけませんから。その点Bluetoothレシーバーなら無線でつなげて、スマホやノート・パソコンのとりまわしもラクチン。音質的に上等で、遅延も小さいです。

 

もうほんと2021年の秋に導入して以後、毎日望外の満足感と幸福を味わっているっていう感じ。微細な部分まで鮮明に聴きとれて、デリケートな音や声の表情の変化、陰影までよくわかり、奥行きや深みもしっかり表現、低音がひきしまってタイトにしっかり鳴るっていう具合で、どうしてこれをもっと早く買わなかったんだという。

 

もちろん外出時はヘッドフォンなりイヤフォンを使いますが、自宅ですわってじっくり聴く、あるいは家事などしながら流すといった目的でサブスクを、本格的な高音質で、しかもいままで使っていたアンプ+スピーカーの装置をそのまま使いたいのであれば、最もイージーな手段が音楽用Bluetoothレシーバーに違いありません。

 

近ごろの新しいアンプなら、自前でBluetooth接続機能を備えているでしょう。

 

(written 2023.4.2)

2023/04/03

人生そのものが持つ美しさ 〜『João Gilberto Eterno』

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(3 min read)

 

v.a. / João Gilberto Eterno
https://open.spotify.com/album/4Pi56SuDVvDZPb6cwYrJUf?si=2wKc515PStSCnBF723XEsw

 

この『João Gilberto Eterno』(2021)ってなんだっけ?ジャケットだけ妙に見憶えがあって、ぼくたぶんCDも持っているはずと思うんですけど、ほとんど聴いた記憶がないっていう。ジャケットとアルバム題は初見じゃないけど、中身の音楽は未聴といっていいくらい。

 

Spotifyをぶらぶらしていて再見しふと思い立って、どんな音楽だったかちょっとかけてみよう、なんでも聴いてみなくちゃわからんとクリックしてみたら、これが!完璧にいまのぼく好みの丸くおだやかな現代ブラジリアン・ポップスで、こ〜りゃいいね!聴いてよかった。

 

タイトルどおりジョアン・ジルベルトにささげた内容で、ジョアンのレパートリーを中心に、その90回目の誕生日にあわせて日本で企画・リリースされたもの。Spotifyで見ると演者名がぜんぶカタカナなのはそのためですね。

 

演者は一見しておわかりのとおりジョアンの音楽を敬愛しているブラジルのミュージシャンたち。ジョアン・ドナート、ギンガ、モニカ・サルマーゾ、モレーノ・ヴェローゾ、ローザ・パッソスなど有名人もいて、さらに日本企画ということで伊藤ゴローや小野リサといった日本人ボサ・ノーヴァ・ミュージシャンも参加しています。

 

歌もの楽器演奏もの、いずれも美しく、しかも淡々としていておだやかで、こういう音楽は心に波風が立ったりしませんが、日々の癒しとして常にそばにおいて聴いていたいっていう、そういうなごめるものですよ。結局のところそうした音楽こそ人生で残るようになってきました。

 

ことさらに異様な美しさをたたえているものが多少あって、強く心を動かされた演奏もあります。フェビアン・レザ・パネのピアノ独奏による12「Valse」とジョイス・モレーノの13「Estate」。前者はクラシカルでエレガントな雅を放っていますが、後者はボレーロ的な微熱をも帯びた官能。

 

特に13「Estate」冒頭でジョイスのナイロン弦ギター弾き語りがあって、そこに一瞬のピアノぽろりん刹那ストリングスが流れ込んでくるあたりには、涙がこぼれそうに。なんて美しいのでしょう。人生そのものが本来持っている美しさじゃないかと思えます。

 

(written 2023.3.15)

2023/04/02

最近のお気に入り 2023 春

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(50 sec read)

 

最近のお気に入り 2023 春
https://open.spotify.com/playlist/2dZA6YzQ9T23MknGuAt6iQ?si=883be62fe463419d

 

松山地方はだいぶ暖かくなりました。さくらもちょうど満開。

 

1) Donald Fagen / I.G.Y. (live) (US)
2) Febian Reza Pane / Valsa (Bebel: Como são lindos os youguis)(ブラジル)
3) Joyce Moreno / Estate(ブラジル)
4) 中村海斗 / Blaque Dawn(日本)
5) Fabiano do Nascimento / Retratos(ブラジル)
6) Kimi Djabaté / Alidonke(ギネア・ビサウ)
7) Carmen McRae / It’s Like Reaching for the Moon(US)
8) Joe Chambers / Caravanserai(US)
9) 江玲 / One Way Ticket(香港)
10) Weather Report / Dream Clock (US)
11) Samara Joy / Guess Who I Saw Today (US)
12) Emmaline / Ruby (US)
13) 青田典子 / 別れの予感 (日本)
14) 富井トリオ / 恋の果て (日本)
15) Nina Becker / Outono (ブラジル)

 

(written 2023.3.29)

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