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2023年5月

2023/05/31

王道路線のカーボ・ヴェルデ音楽 〜 ネウザ

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(2 min read)

 

Neuza / Badia Di Fogo
https://open.spotify.com/album/4O37hEglhcvi5kmRkzrv93?si=YmkSkhn6QuCvKG-fCyCw5Q

 

bunboniさんのブログで知りました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-03-17

 

カーボ・ヴェルデ人歌手、ネウザの2018年作『Badia Di Fogo』は、なんでもUSのカーボ・ヴェルデ移民コミュニティが制作したインディものらしく、内部でしか流通しないのだそうです。サブスクで聴ければ、ぼくとしてはフィジカルの入手がどうとか気にしないので。

 

新世代ポップスじゃなくて、コラデイラやモルナなどカーボ・ヴェルデの伝統リズムをストレートに使った従来的王道路線の安定した音楽で、新奇にちっとも色目を使わず、どこまでも堅実な音楽づくりに徹する姿勢はすがすがしく好感が持てますね。

 

特に個人的お気に入りであるコラデイラが多用されているのがなんともうれしい。楽しいしダンサブルで、じっさい部屋で聴いていても勝手にヒザや腰が動いちゃう2、3、5。コラデイラじゃないけど7、8のダンス・ビートもいいな。

 

じっくり歌を聴かせるモルナでも、つくりこまれたしっかりしたサウンドに味のあるヴォーカルが乗って実におだやか。踊れるコラデイラ系とのバランスっていうかアルバムの構成もよく練られていて、プロデュースが好適なんですね。アレンジはカク・アルヴェスらしいけど、プロデューサーはだれだろう。

 

ネウザの歌も落ち着いていてやわらかく自然体な歌いかた。前から言っていますようにこねくったり張りすぎたりコブシぐりぐりなどせず、ナチュラル&スムースに声を出すおだやかな歌手こそ近年のぼくの好みですから。

 

(written 2023.3.23)

2023/05/30

高嶺の花

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(4 min read)

 

Carmen McRae / It’s Like Reaching for the Moon
https://www.youtube.com/watch?v=WwodkqC26iA

 

だれにも絶対に近づかないのは、2020年はじめごろ自分がASD(自閉スペクトラム障害、アスペルガー)だとハッキリわかるようになってから。あらゆる人間関係をみずから「必ず」破壊してしまうやつなんで。そうとは意図していないんですよ、でも健常発達のみなさんからすれば、コイツなんやねん!ってことになっているみたい。結果、拒絶され自分が泣くことになります。

 

だからだれかとの関係を大切に思えばそれだけ、いいねと思えばなおさら、絶対に近づかないように、しっかり距離を保つようになったんですけれど、そんなぼくの気分にピッタリな歌があります。ビリー・ホリデイが歌って有名にした(1936)「It’s Like Reaching for the Moon」っていうポップ・ソング。

 

〜〜 あなたにはどう考えても近づけない、まるで月に届けと願うようなものだから、星や太陽に届かないように、羽根なしに飛ぶなんて、弦なしにヴァイオリンを弾くなんてできないように、あなたはそんなはるか遠く高い場所にいる、天使がこっちを好きになってくれるなんてありえないでしょ、そういう至高の存在だから 〜〜

 

っていう歌で、むかし「高嶺の花」という邦題になっていた時代もありました。最近ではそのままカタカナ表記ですね。Spotifyで曲検索するとたくさん出ますが、いちばんの個人的お気に入りはビリー・ホリデイのではなくカーメン・マクレエがジミー・ロウルズのピアノ一台で歌ったライヴ・ヴァージョン(『ザ・グレイト・アメリカン・ソングブック』1972)。
https://www.youtube.com/watch?v=WwodkqC26iA

 

ビリーが定番化させた歌ではあるものの、72年発売だったカーメンのも同じほどの影響力を持っていて、二大ヴァージョンと言っていいはず。カーメンは歌う前に「ビリー・ホリデイの歌をやらずに終わることなどできませんから」としゃべっているんですが、そんなカーメンのほうも有名になっているだろう、というのを後世のヴァージョンズを聴いていると実感できるものがあります。

 

かつて大好きだった『ザ・グレイト・アメリカン・ソングブック』というアルバム全体は、実をいうと最近そうでもなくなってきていて、なぜかってカーメンはやや重い、ねっとりと粘りつくような歌いくちでしょ、引きずるような感じっていうか。ちょっとそういうのがですね、イマイチになってきています。あっさり淡白系のほうがいまではいいのです。

 

でも二枚組レコード二枚目B面ラスト前だったこの「イッツ・ライク・リーチング・フォー・ザ・ムーン」は完璧。いつなんど聴いてもため息が出るほど美しいと感じます。歌詞を反映するように発声を控えめにして、やや遠慮がちにひっそり淡々と&ていねいにつづっているのがすばらしいですよ。

 

ほぼビートのないテンポ・ルバートで、ジミー・ロウルズの弾くピアノだけが伴奏っていうのもいい(アルバム全体ではバンドが演奏している)。

 

すくなくともぼくにとってはカーメンのこれこそ、この歌の決定的レンディション。ねばっこいヴォーカル・スタイルもこうした歌なら最適でステキに聴こえるし、ジミー・ロウルズの歌伴だって呼吸というか間合いというかツボを心得ていて、シンプルだけど細部に神経が行き届いていて、押し引きも自在、心地いいです。

 

最終盤で「薄い望みだけど、いつの日かふりむいてくれたらいいな」とも歌っているのは、やっぱり人間のメンタリティってこういうもんですよね。でもぼくにはこの気分、まったくないです。あくまで自分のなかの妄想にとどめておかなくちゃ。そのためのBGMとして、常なるいましめとして、カーメンのこの「イッツ・ライク・リーチング・フォー・ザ・ムーン」はぴったりです。

 

(written 2023.3.19)

2023/05/29

ライト・タッチな片想い 〜 レイヴェイ

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(3 min read)

 

Laufey / From the Start
https://open.spotify.com/album/1BOZNMzXTIkz8nUfGCxfpe?si=f0Vny0d_QOWqQY_GUO1s2A

 

愛するレイヴェイの新曲「From the Start」(2023)がリリースされたということで、いくらファンだからって一曲出るたびに話題にしていたらキリないじゃ〜んって感じなんですけども、こりゃまたとってもいい歌だし、周辺にも話題続出なんで、ちょっと書いておきます。

 

周辺の話題とは、まずなんたって六月にアジア〜オーストラリア・ツアーをやるってこと。そのなかには東京公演もあるんですね。たったワン・ナイトのソロ弾き語りですけど、ブルーノート東京のチケットがはやくにソールド・アウトしちゃって、ぼくなんか指をくわえてくやしがっているばかり。まぁ東京は遠いし。

 

いつのまに日本でもそんな人気歌手になったんだっけレイヴェイって。二年前最初にブログでとりあげたころは知るひとぞ知るという存在でしかなかったけど、うれしい。基本サブスク&ダウンロードのみで、おまけ的にヴァイナルを出すこともたまにあるかなというスタイルの存在がここまでになっているというのは、やっぱり時代が変わりました。

 

新曲「フロム・ザ・スタート」は、そんな来日公演6.5に向けてのおみやげっていうか、これ聴いて待っててね!って感じのシングルでもあるでしょうね、ぼくらにとっては。いままでレイヴェイにいくつもあったライト・タッチのボッサ・ポップスで、キュートで洗練された黄金律メロディ。お得意のやつ。

 

そんな古風な、つまりレトロなサウンドに乗せて切ない片想いを楽しそうにつづっていて、親友に恋をしてしまっているけれど、その親友はほかのだれかに恋をしているというストーリー。その相手っていうのが、いつもだけどレイヴェイのばあい、像を結びませんよね。

 

そもそも “you” の性別すらもはっきりしないし、恋の姿が漠然としていて、深刻で重たい感じだってちっともなし。サウンド同様に歌詞の世界観もライトっていうか、そんなところ、いかにもいまどきZ世代っぽいっていうか。

 

録音されリリースもされた昨秋のアイスランド交響楽団との共演コンサート at レイキャヴィクに続き、今年九月にはワシントンD.C.でロス・アンジェルス交響楽団と共演するという告知もありました(すでに売り切れ)。スタジオ・レコーディングによる新作も準備中と受けとめられなくもないアナウンスもあって、いいね調子いいレイヴェイ。

 

エヴァーグリーンでありながら現代的でポップな遊び心もある初夏っぽい「フロム・ザ・スタート」、東京で歌ってくれるかもしれません。ぼくは行けないんだけど。

 

(written 2023.5.26)

2023/05/28

アダルト・シティ・ソウルの官能 〜 スモーキー・ロビンスン

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(2 min read)

 

Smokey Robinson / Gasms
https://open.spotify.com/album/14xK4FTz2jDiWE8vL1rZaK?si=L7QQg22mT1KGJ2H6vj5RJg

 

スモーキー・ロビンスンに説明など不要。今年リリースされたばかりの新作アルバム『Gasms』(2023)がなんだかやたらステキで、セクシュアルなものに弱いぼくなんか完璧にイチコロ。あまり積極的に聴いてこなかった音楽家だけど、まったく降参。メロメロです。

 

もう冒頭から、オーガズムからとったという「ガズムズ」のアダルト・ソウルぶり。このひとも83歳なんだけど、色気がまったく枯れていない現役ぶり。それでいて押しつけがましいいやらしさが微塵もなく、さわやかで軽いさっぱりした青春の空気すらただよっているっていう。

 

耳元でそっと優しくささやくようなフェミニンなヴォーカル・スタイルが、このひとはずっとこうだったけど、2020年代となってはコンテンポラリーなおだやかメロウR&Bに聴こえたりもするのが抜群で、80すぎて時代にフィットしてきたような感じかも。

 

1曲目だけでなくきわどい性愛がアルバム全体のテーマになっていて、そのために再演もカヴァーもなし、全九曲が今作のための書きおろしオリジナルなんですけど、ブルージーだったりドゥー・ワップふうだったりゴスペル・フィールもあったりなど、どの曲も飛び抜けていい出来なんですね。

 

バックのサウンドは洗練されたフュージョンというかコンテンポラリーなスムース・ジャズふうのポップさに満たされているのもぼく好み。ソウルだけでなくブルーズとかゴスペルとかのブラック・ミュージック要素もあくまでおだやかに溶け込んでいます。

 

特に気に入ってくりかえし聴いているのは1「Gasms」、6「Beside You」、8「You Fill Me Up」あたり。これらで聴けるもうたまらん極上のフェザーなシルク・タッチでそっとこちらの内側に触れてくるスモーキーの音楽は、まるでスロー・セックスのおもむき。静かに、しかし深く熱い熟なフィールをたたえています。

 

(written 2023.5.28)

2023/05/25

ジャンゴふうエレガンスの再現 〜 ジョショ・シュテファン

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(2 min read)

 

Joscho Stephan / Four of a Kind
https://open.spotify.com/album/2kYhRDLD1vDZ4CvqedYViF?si=pi6Xpt2KR3-IQ5zNJnhoJQ

 

またまたお気に入りのジプシー・スウィング・ギターリストを見つけちゃいました。1979年生まれジョショ・シュテファンというドイツ人。2023年に二作出しているとSpotifyではなっているうち『Four of a Kind』が大のぼく好み。

 

ジョショは1999年に一作目をリリースしているみたいなので、もうじゅうぶんキャリアがあります。ジャンゴ・ラインハルトばりに弾くスタイルを持ち、『Four of a Kind』ではルーマニア生まれのヴァイオリニスト、コステル・ニテスクをむかえ、+自身のトリオ(2ギター+コントラバス)という弦楽四人編成。

 

アルバムの約半数は1930年代ごろによく演奏された有名スタンダードで、あのころジャンゴらもやりました。さらにフランス・ホット・クラブ五重奏団のオリジナル「Tears」もあり、あとはジョショのオリジナルですが、それもスタイルは一聴瞭然としています。

 

通好みに渋く淡々と弾く職人芸ギターリストではなく、華麗に技巧をみせつけるタイプの弾きまくり系なのがジョショ。今回パートナーに選んだコステルがちょうどステファン・グラッペリ役みたいな感じかな。むかしたくさん聴けたああいった音楽が最新録音であざやかに甦っているのが(ぼくには)うれしい。

 

スタンダードでも他作でも自作でもジョショらの音楽は変わらず一貫しています。二つの大戦間にあった欧州的な粋がここでは生きていて、あの時代のジャンゴ・ミュージックに魅せられ追求しているギターリストはいまだ多かれど、ジョショらの演奏にはまごうかたなきレトロ・ユーロピアン・エッセンスがただよっていて、ほかとは一線を画するところ。

 

たとえば6「Just A Gigolo」(がなにかのプレイリストで流れてきてそれで惚れた)なんかでも香っているさわやかなクールネスっていうか、有名スタンダードをただストレートにやっているだけのなかに独特の空気を持たせるのがうまい音楽家です。体臭みたいなのは消して、エレガンスだけ表現できているっていう、技巧披露系でなかなかいないですよこんなギターリスト。

 

(written 2023.5.17)

2023/05/24

オフ・ビート・チャ・チャからドドンパへ 〜 浜村美智子

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(4 min read)

 

浜村美智子 / Michiko Hamamura and the Bright Rhythm Boys of Tokyo
https://open.spotify.com/album/6tqHvgcRG6DOGdjE60y8fY?si=YWIjLPN-RQawR9G2Hu3MHQ

 

bunboniさんに教わりました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-03-29

 

これもオフ・ビート・チャ・チャの文脈で聴ける部分があるだろう浜村美智子がなぜか香港でレコーディングし当地のレーベルから発売されていた一作が、サブスクにもあります。CDリイシューのタイミングで載せられたのでしょう。

 

サブスクでみればアルバム題は『Michiko Hamamura and the Bright Rhythm Boys of Tokyo』(1961?)となっています。bunboniさんの記事にあるように正確な発売年はわかりませんが、だいたい60〜61年あたりなんでしょう。

 

このへんってオフ・ビート・チャ・チャの名作が(香港とかで)出ていた時期であると同時に日本ではドドンパが誕生しレコードが発売されるようになったあたり。日本に入ってきたオフ・ビート・チャ・チャがドドンパへ変貌したというのはウィキペディアなんかにも記載があることです。

 

香港録音の美智子のこの一作は、ちょうどその移行の中間期あたりの音楽性を持っているというのが率直な感想。基本的にはオフ・ビート・チャ・チャの曲が多くも、そのラテン・ビート・ルーツを如実に示す「Day-O」みたいなカリプソがあったり、それはでも当時たまたま流行していたものを歌っただけでしょうが、ちょっとおもしろいですよね。

 

日本の「さくら」はオフ・ビート・チャ・チャになっていますが、エルヴィス・プレスリーへのアンサー・ソング「Yes, I’m Lonesome Tonight」があって、それにかんしてはおだやかで静かなジャジー・ポップス、ラテン性はありません。

 

ところで横道にそれますが、エルヴィスってロックンロールのオリジネイターの一人と世間では認識されていて、ジャズが握っていたアメリカン・ポップスの主導権を奪った張本人なので(器の小さいセクト主義を持つ)こちらがわの一部からは嫌われているかもしれませんね。

 

でもこうした「アー・ユー・ロンサム・トゥナイト?」みたいな、「ブルー・ムーン」でも「ラヴ・ミー・テンダー」でも、バラードを歌うときのエルヴィスはロッカーというよりはその爆発前夜の甘い爛熟ジャズ・ポップス歌手に変貌していました。ナット・キング・コールあたりに近い感覚で。

 

いかにも初期移行期人物らしき双貌性で、そんなところアメリカン・ポピュラー・ミュージック史の流れを実感できるのがおもしろいじゃないかと、ぼくなんかはいつも興味深くエルヴィスを聴いていますよ。

 

それはそうと浜村美智子。10「Mack The Knife」はドドンパのリズム・パターンなんですよね。演奏は日本人じゃなくてセザール・ヴェラスコ&ヒズ・ソサエティ・オーケストラって、これはフィリピン人バンドか?というのがbunboniさんの推測。

 

いずれにせよドドンパは日本でだけの流行だったので、香港録音でフィリピン人?による伴奏がそうなっているというのはやや不思議。よっぽどドドンパ・ビートが好きで敏感なファンじゃないと気づきにくいかもしれません。でも間違いない。11「Island in the Sun」もちょっぴりドドンパっぽいです。

 

(written 2023.4.20)

2023/05/23

オフ・ビート・チャ・チャが好き!〜 方逸華

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(3 min read)

 

方逸華 / Mona Fong Meets Carding Cruz
https://open.spotify.com/album/1mzN2sYoVIj5i2u0OxuF9w?si=G3vHfe6xShW4kO3L16NbRA

 

bunboniさんに教えていただきました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-03-27

 

どうもなんかね、オフ・ビート・チャ・チャのことがぼくは大好きみたい。以前書いた江玲(コンリン)もいまだヘヴィロテだし、今度は方逸華(モナフォン)ってわけで、これもいいね。音楽としてはどっちもおんなじようなもんだけど、こんなに楽しいならいくらでも聴きたい。

 

bunboniさんが江玲リイシュードを紹介するまで未知のジャンルだったんですが、でも聴いてみればこども時分に親しんでいたようなどこかなつかしいスウィートな既聴感があって、やっぱりあの時代日本でも、ぼくはまだそんな自覚なかったけど耳にしていて、この手の音楽が刷り込まれていたんでしょうね。それがいまごろよみがえっているんだっていう。

 

方逸華(香港)のほうは『Mona Fong Meets Carding Cruz』(1960)っていうアルバムで、1曲目がなんと日本の「黄色いさくらんぼ」。そのほかUSアメリカ産のポップ・ソングなどを、英語と中国語をコーラスごとに入れ替えながら、キュートに歌っています。

 

浜口庫之助が書きスリー・キャッツが初演した「黄色いさくらんぼ」(59)は、最初から日本におけるキューバン歌謡セクシーだったわけですから、香港へ来てこうしてオフ・ビート・チャ・チャに変貌するのも道理。ここでの方逸華ヴァージョンはスリー・キャッツのをかなり踏襲しています。もとからこういう曲なので。

 

中国語圏の大スタンダード「夜来香」もとりあげていて、それだってラテン(キューバン)・ビート由来のオフ・ビート・チャ・チャのアレンジでやっているのが、かえって曲が本来持っていた未知なるチャームをきわだたせていて、いいですね。これも1コーラス目は英語、2コーラス目は中国語。

 

アレンジやバンドのことなどは上掲bunboniさんの記事に書かれてあるので参考にしてください。ヴォーカルは曲によりパティ・ペイジあたりを想起させるものもあって(5など)、たんにワルツだからなのかもしれませんが、もっと大きな当時のワールド・ポップの潮流みたいなものを個人的には感じないでもありません。ロック爆発前夜の爛熟ムードっていうか。

 

方逸華のヴォーカルはキュート&チャーミングでありながら落ち着きと端正さを感じさせるていねいなもので、どこといって強い個性はありませんが、きっちり曲を歌い込むスタンダードなスタイルが好感を呼ぶものです。

 

(written 2023.4.19)

2023/05/22

新感覚なハード・バップ 〜 シモン・ムリエ新作

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(2 min read)

 

Simon Moullier / Isla
https://open.spotify.com/album/1VCuhTEr3opMNYw6ygehr5?si=2CB4h_RjQG6Dwm_tKREb1A

 

2020年のデビュー作『Spirit Song』をぼくもとりあげて書いたジャズ・ヴァイブラフォンの新鋭シモン・ムリエ。三作目にあたる最新アルバム『Isla』(2023)は個人的にずいぶん心地よく聴けるストレート・ジャズで、しかもなんだかひんやりさわやかなフィールがあって、いいねえ。

 

マーサー・エリントンの「Moon Mist」とスタンダードの「You Go to My Head」以外はシモンの自作。それをピアノ・トリオを伴奏につけたカルテット編成でシンプルに演奏していく姿には、バップ由来のジャズ伝統を大切にしながら2020年代的な新風も吹きこんでいるさまがハッキリ表れています。

 

滑舌のいいあざやかなマレットさばきを聴かせるシモンのプレイがやっぱりすばらしいですが、同じくらい今作で注目したいのはキム・ジョングクのドラミング。キムはシモンの三作すべてで叩いていますが、人力演奏でありながらコンピューター打ち込みでつくったようなマシン・ビート感があります。

 

ヒップ・ホップ以後的な感性を生演奏ドラムスに反映させているというわけで、ここ15年以上そうしたドラマーが増えているというのも事実。カッチリしたキムのビート・メイクは、バンドが従来的な枠組みのなかでメインストリームなジャズを演奏していても、そこにコンテンポラリーな色彩感をつけくわえるものです。

 

でありながらきわめて自然で、カルテットによるジャズ演奏としてすっと聴きやすい明快さがあり、書きましたようにモダン・ジャズの伝統を大切にしていますから、シモンは、なのでコンテンポラリーなセンスで演奏しながらも目新しさがそんなにきわだたず、いかにも更新してますみたいなてらいになっていないのが好感を呼ぶところ。

 

個人的にことさら気持ちいいなと感じたのは4「Enchantment」と7「Phoenix Eye」、特に後者です。シモンのオリジナルですが、みんながよく知っているスタンダード・ナンバーのフィールがあって、要するにハード・バップ・ナンバー。なのにドラマーの叩きかたは新感覚で、しかもバンドの演奏がサクサク心地よいのです。

 

(written 2023.5.19)

2023/05/21

成熟して落ち着いてきたヒバ・タワジ、それでも完璧 〜『Baad Sneen』

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(3 min read)

 

Hiba Tawaji / Baad Sneen
https://open.spotify.com/album/6GIUWZvRkFJyjgLwXak8Md?si=aKbyaCDaRYqyD1g0PuHA4g

 

ヒバ・タワジ(レバノン)の新作『Baad Sneen』(2023)がほぼまったく話題になっていないのは、やっぱりCDがまだないからですよね。そもそも出るのかどうなのか。サブスクなら問題ありませんが、ヒバをサブスクで聴くファンは日本にあまりいないでしょうし。

 

がしかしヒバやウサマ・ラハバーニ(プロデューサー)のTwitterを見ていてもわかるように、現地やアラビア語圏ではみんなどんどん楽しんでいますし、なんたってもう不足なく聴けるものを無視しているのは気持ちが健康ではありません、ぼくは。アラブ音楽はCD出さない方向に進んでいるのも事実。

 

ヒバみたいな強烈で濃厚な世界はこのところややトゥー・マッチで遠ざけるようになってはいるんですが、歌手として一流の実力を持った存在であるのは間違いないし、一度は惚れた(特に2017年の『30』で)弱みもあって、『Baad Sneen』もわりとよく聴いていますから、手短に感想を記しておきます。

 

強烈と書きましたが、それでも2023年という時代を意識してか、ややあっさりめに仕上げているようなところも見受けられるのが特徴でしょうか。濃厚に激しくグイグイ迫るばかりでなく、優しく軽くそっと置きにくるようなヴォーカルに、それでも旧来的ではあるのですが、コンテンポラリーなグローバル・ポップスを意識したような雰囲気も若干あります。

 

『30』でそこそこ聴けたジャジーな洗練と跳ねる無垢で明るいムードは今回ほぼ消えて、代わってちょっぴりダウナーな落ち着きをみせるようになっているのもポイントでしょう。レバノンの現況および、結婚、出産と人生の経験をたどり(それで制作・発売が当初より遅れたのかも)獲得した人間的円熟が歌に聴きとれるように思います。

 

大向こうをうならせるような高音部でのパフォーマンスもなくなりましたし、ヴォーカル表現がスムースで自然体に近づいてきているなという印象を持ちました。ウサマのサウンド・メイクは前から完成されていて変化ありませんから、実はそこもちょっとヒバの変化に合わせてすこし淡白系にしてくれていたらもっと好みにしあがったかも。

 

といってもですね、ラスト13曲目「Ossist Hob」なんかは完璧な大団円。デビューのころとなにも変わらない世界がここにはあって、曲想といい歌いかたといい、後半部〜エンディングにおけるミエを切るようなハイ・レジスターのスキャット飛翔といい、これなら納得でしょう。

 

(written 2023.5.18)

2023/05/18

新奇をてらわない王道のトルコ古典歌謡 〜 ヤプラック・サヤール

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(2 min read)

 

Yaprak Sayar / Klasikler
https://open.spotify.com/album/6phxKyFn5APQSqw3L02rE5?si=2CsFW5WfRpSP1qXpX5FNsA

 

アラトゥルカ・レコーズの一作目『Girizgâh』(2014)で知って好きになったトルコ古典歌謡の歌手、ヤプラック・サヤール。二作目『Meydan』(15)にも参加していましたが、続くソロ・デビュー・アルバム『Caz Musikisi』(18)はなんでかのスウィング・ジャズ・アレンジで、全員がずっこけたっていう。

 

レトロ・ジャズ流行の先取りだったわけでもなし、なんだったんでしょうね。本人のTwitterアカウントによく上がるふだんの演唱風景にそんなのはもちろんなく、当時から現在までたとえばサズ一本の伴奏とかでストレートに古典を歌っていますから、あのアルバムだけなんだかちょっとねえ。気合い入りすぎ?

 

でもこないだ出たばかりの最新アルバム『Klasikler』(2023)は新奇をてらわない王道の古典路線で、これはいいと思いました。今年はじめにもう一作あったんですが、そっちはトルコ民謡集。ですから『Klasikler』はキャリア通算三作目かな。でもって最高作になったかと思います。

 

今回ヤプラックの自作とクレジットされている曲も多いので、古典仕様でオリジナルを書いたということでしょうか。なかには年代の古いものもあるのかも。そのへん実はあまりわかりませんが、聴けばムードは瞭然、アラトゥルカ・レコーズで展開されていたのとまったく同じ世界がここにはあります。

 

個人的には、こうした音楽でたとえばカーヌーンなどがイントロでめくるめく旋律を奏でていたりするのが、たとえばアルジェリアのシャアビでマンドーラがやはりイントロなどできらびやかに弾きまくっているのと同じフィーリング。たいへん気持ちいいんですよね。

 

ヤプラックの声は以前からちっとも変わらないスモーキーな色気をたたえていて、哀感というより独特の屹立する気高さのようなものがあるなと感じます。きわめて少人数からなる室内楽バンドの伴奏をしたがえ、しっとりとトルコ古典をつづるのを聴くのは、たとえば日暮後などなら、なにものにもかえがたいリラックス・タイムになります。

 

(written 2023.5.6)

2023/05/17

歌ごころを大切にしたインストルメンタルのお手本 〜 クラズノ・ムーア・プロジェクト

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(3 min read)

 

Eric Krasno, Stanton Moore / Krasno / Moore Project: Book of Queens
https://open.spotify.com/album/6RwGvHFkks31pCeLlto8Dy?si=GHQr8E2JR6WfBfEzYgTAwQ

 

古くからの友人だったソウライヴのギターリスト、エリック・クラズノとギャラクティックのドラマー、スタントン・ムーアが組んだ新プロジェクトによるアルバム『Krasno / Moore Project: Book of Queens』(2023)は、インストルメンタルによる女性歌手曲カヴァー集。

 

超有名曲もそうでもないのも混じっているので、以下にオリジナル歌手名を一覧にしておきました。もしよかったら気になったものは元歌をぜひさがして聴いてみてくださいね。

 

1 エイミー・ワインハウス
2 シャロン・ジョーンズ・アンド・ザ・ダップ・キングズ
3 ケイシー・マスグレイヴ
4 ビリー・アイリッシュ
5 ブリタニー・ハワード
6 ペギー・リー
7 アリーサ・フランクリン
8 H.E.R.
9 ニーナ・シモン

 

二名のほかにはオルガン奏者がいるだけのシンプルで伝統的なトリオ編成がアルバムの根幹。曲によりゲスト・ギターリストがいたりサックスが参加していたりで、演奏はグルーヴィ&かなりソウルフルに決めています。

 

こういった音楽がレトロなんだっていうのは、ジャケットのふちが年月が経ってこすれた紙のようになっていて、さながら中古レコード・ジャケにみえることでもよくわかります。この手の趣向、最近みかけるようになっていますよね。

 

中身も、まるで1960〜70年代の香りがプンプンしています。あのころこうしたインスト音楽いっぱいあったじゃないですか、それが甦ったようなフィーリング。ブルーズ、ジャズ、ソウル、ロックのバンド・インストを基調としたこの手のものは、いつまでも輝きを失わない不変のものなんだなあと本作を聴いていると実感します。

 

個人的には5「Stay High」(feat. コーリー・ヘンリー)、6「Fever」(feat. ブランフォード・マルサリス)、7「A Natural Woman」と続くあたりの流れが好きで、ラスト9「I Wish I Knew How It Would Feel To Be Free」での奔流のようなもりあがりもすばらしい(feat. ロバート・ランドルフ)。

 

いずれの曲も三人+ゲストによる演奏はあくまで歌心を大切にしているのがとってもよく伝わってきて、原曲の持ち味を存分に活かしながら歌うがごとくつむぎだすインプロ・ソロには、インスト・ブラック・ミュージックの醍醐味が詰まっています。

 

(written 2023.4.18)

2023/05/16

加齢による身体的衰弱が思考に深みをもたらす

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※ 写真は本文と関係ありません

 

(4 min read)

 

こないだ作家の近藤雄生(ゆうき)さんがいいこと言っていました。

~~~
加齢や体力の衰えを感じるほどに、人間の精神や考え方に、物理的な肉体が与えている影響の大きさを実感する。体が衰え、死に向かっていくからこそ人間には人間の思想や文化があるんだなあと。
~~~

 

こうしたことは、ぼくら60歳も越えた世代なら日々皮膚感覚で実感していること。肉体的に衰え、要介護段階にはまだ遠いけれど前フレイル状態にやや入りつつあるかもしれないようなステージにあって、内面的思考のほうはどんどん冴えを増すばかり。

 

もちろん肉体/精神と二分して考えたりするのはちょっとおかしなことで、気持ちとかハート、感情もすべて脳の働きなので、その意味では(肉体と切り離すかたちでの)心、精神なんてものはなく、なにもかもがピュアに身体的な現象ってことではあります。

 

近藤さんは、だから病気もケガも衰えも年齢的限界もないAIは人間的思考にとってかわりようがない、生身の人間の思考はそれら肉体的衰弱によってこそ深みや鋭さを増すのだから、という方向へ結論づけなさりたいようです。

 

ぼくとしてはAIならではの活躍シチュエーションがあると思っていて、もうすでにそうなっているし、人間に置き換わるものでないにせよ、ネガティヴなとらえかたはしていません。イノベーション万歳?Spotifyとかで日々AIのありがたみを味わっているおかげ?

 

いずれにせよAI思考と人間思考は異なるもの。そして後者は年齢を経れば経るほど、加齢で肉体が衰えればそれだけかえって、斬れ味と味わいを増していくものです。渋みというか落ち着き、まろやかみも出てくるし。

 

あれもできないこれもできなくなったとか、人生あきらめなくちゃなんないことも増えて、だからこそかえってというか引き換えにっていうか得られるものが思想や文化にはあって、それでこそ人間思考の存在価値があるというものです。

 

こんなこと、言語化していなかったまでも日々実感しているあたりまえのことであるにもかかわらず、近藤さんのツイートがあるまでぼくは意識していませんでした。が、たしかにこのとおりです。音楽を聴き、考え、文章を書き、発表するという生活のなかで、その作業がここ数年どんどん容易になってきているのも事実。

 

ブロガーとして経験を重ねて熟練したっていうことなんですけど、大きなケガや病気もかかえるようになったし、若いころのように思いどおりには動作できなくなってきたと痛感することが多いですが、テーブルに置いたノート・パソコンの前にすわって執筆に専念するという一点においては以前よりスムースにできるようになりました。

 

気持ちもフラットでピースフルになっているし、おだやかで淡々とした薄味なメンタルで落ち着いていて、そうなったのと相前後するように好きな音楽の傾向も変化しました。ケバケバしいものを遠ざけるようになり、静かでまろやかな淡々とした音楽をどんどん聴くようになりました。

 

こうしたことは生命体としての人間の有限性にきわめて密接に関係しているというか、人生が限りあるもので、死へ向かって徐々に衰えていくからこその充実なんだと言えるはず。歳とっていなかったら、いまのぼくの文章はないです。

 

(written 2023.3.30)

2023/05/15

ダイナミックな生命力 〜 アルテミス二作目

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(3 min read)

 

Artemis / In Real Time
https://open.spotify.com/album/2zkgkyuC0eyxS2d73xTc2o?si=z03C5bxTSjGmJ-wYi0pZUQ

 

ギリシア神話の女神からバンド名をとった全員女性のジャズ・バンド、アルテミス。2020年にデビュー・アルバムをリリースし、ライヴではその前から活発に活動し現在までやってきていますよね。このたび二作目『In Real Time』(2023)が発表されました。

 

今回も音楽はやはり充実しています。メンバーが一作目のころと一部入れ替わり、メリッサ・オルダナとアナット・コーエンが抜け、ニコル・グローヴァー(テナー・サックス)とアレクサ・タランティーノ(マルチ・リード)が新参加。ヴォーカルのセシル・マクローリン・サルヴァントは本作不参加です。

 

いはゆるリーダーみたいなのはいない集合体ですが、ピアノ(5曲目でだけエレピ)のリニー・ロスネスが音楽監督役で、今回もアレンジはリニー。アルバム全体から1960年代中期新主流派(ポスト・バップ)っぽい香りが強くただよっていて、たしかにあのへんはコンテンポラリー・ジャズの源泉だよねえっていうのは前から感じていたところ。

 

あのころのマイルズ・デイヴィス・クインテットとかその周辺とか(が要するに=新主流派)の音楽を継承し、コンテンポラリーに再解釈したのが2010年代的新世代ジャズの素地になっているということで、アルテミスのばあいはヒップ・ホップ以後的なサウンド/リズムづくりはないストレート・ジャズとなっています。

 

ですから現代的な感覚はそなえつつ、旧感覚オールド・ジャズ・ファンの耳にも理解されやすい音楽性を持っているのがこのバンド。2020年代においてこうしたジャズはもはやエヴァーグリーンなんだともいえるでしょうね。情緒的な甘さは徹底排除されていますが、聴きやすくわかりやすい。

 

新作でいちばん耳を惹いたのは終盤7曲目の「Empress Afternoon」です。作曲はリニー。ずいぶんダイナミックなナンバーで、特にリズムの8ビート変形ラテンな躍動感がたいへんすばらしく、新主流派でいえばマイルズの「Prince of Darkness」「Masqualero」(『ソーサラー』)とか「Riot」(『ネフェルティティ』)を連想させるもの。

 

コンポジション/アレンジはもちろん、ドラマーの爆発力(アリスン・ミラー)も、アンサンブルの色彩感も、各人のソロもこの曲がアルバム中異様にきわだってみごとであざやか。奔流のごとくグイグイ迫る生命力にみちあふれた汎カリブ〜アフリカ的なジャズ・ビートは圧倒的です。

 

(written 2023.5.15)

2023/05/14

ツェッペリンにおだやかな曲なんてほとんどない

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(3 min read)

 

Led Zeppelin - calm songs
https://open.spotify.com/playlist/46ezoVQYX0J24yd04I8had?si=f4498f9db7154910

 

レッド・ツェッペリンは音楽ファン人生の最初だった10代なかばに出会って好きになったバンド。あのころトンがってイキっていたぼくは音楽でもやっぱりハードでエッジの効いたものが好きでした。ツェッペリンを好きになった一因もそれ。

 

歳とってもそうしたロックが好きだという趣味が変わらずそのままずっと続いているファンもかなり多いので、おだやかで平和なものを中心に愛聴するように傾向が変わったぼくはどっちかというとマイノリティなのかもしれません。

 

もちろんそのぉ〜、ハード・ロックにまでおだやかさを求められるものならそうしたいと思ってしまうぼくの考えが根本的に筋違いなわけですけども、もともとボスのジミー・ペイジはマイルドでフォーキーな嗜好をもあわせ持っていた音楽家ではありました。

 

ヤードバーズ解散後、次の方向性を模索していた際、ロバート・プラントの声とジョン・ボーナムのドラミングを耳にして、これだ!ハード・ロック路線で行こう!となったわけであって、そう、この二名こそツェッペリンのイコン・ヴォイスみたいなもんでしたね。

 

ともあれそんななかから、これはまだ比較的おだやかで静かっぽい感じかもとちょっとは思える曲を集めて一個のプレイリストにしておいたのがいちばん上のリンク。だから「コミュニケイション・ブレイクダウン」も「胸いっぱいの愛を」を「ハートブレイカー」も「移民の歌」も「ロックンロール」もありません。

 

ツェッペリンを聴くロック・ファンのみなさんに、ぼくもかつてはこのバンドのすべてが大好きだったけど最近はこんな感じを好むようになってきたよっていうのを、このバンドの音楽でもって多少は理解していただけるかと思います。

 

といってもですね、やっぱりツェッペリンだけあって、出だしから前半はゆっくりおだやかに徐行していても、途中から終盤にかけて激しく派手で重たい感じに展開することが多いです。きょうのセレクションもほとんどがそう。そんなものまで外していたらほぼなにも残らないバンドですから。

 

個人的には特にジョン・ボーナムのドラミングがやかましく感じます。おだやかムードをすべてぶち壊しにしてくれていて、これは決して悪口とか批判じゃないのですが、曲が、特に後半、ドラマティックに展開する最大のキー・マンに違いありません。ヘヴィ。でも最近はもっと軽いのが好きだなぁ。

 

多くのロック・ミュージックは(淡々としているより)ドラマティックに展開したほうがいいし、それでこそ聴き手のみんなに賞賛されるっていうわけで、ツェッペリンも同傾向のバンドでした。ってかほとんどのロックはそうでしょ。

 

(written 2023.4.9)

2023/05/11

ジャンプもジャズなのだ(其の弍)〜 レオ・パーカー

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(4 min read)

 

Leo Parker / Rollin’ wth Leo
https://open.spotify.com/album/4iuVTKizRNoo1GqETTVHRH?si=LcUJ3_y_Sy6EewEzGMOqYA

 

bunboniさんのブログで知りました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-05-02

 

ブルー・ノートはブギ・ウギ・ピアノを録音しようと設立されましたが、実際にはモダン・ジャズ以降の歴史がレーベル史とピッタリ重なっている会社なので、プリ・モダン・スタイルというかこうしたジャンプ系のアルバムがあるなんて、ぼくも知りませんでしたレオ・パーカー(バリトン・サックス)の『Rollin’ wth Leo』(1961年録音80年発売)。

 

リズム+バリサク+テナー+トランペットの編成で、やっぱり特にバリバリ吹くレオのブルーズ・バリサクが超快感です。コテコテ(原田和典の発案ではなく、濃厚ソース系の味を表現する関西では古くからあることば)そのもので大好物。薄味好みになったけど、ときには濃い味も。

 

個人的にはやっぱりアップ・ビートの効いたスウィング/ジャンプ・ナンバーが好み。1「The Lion’s Roar」、4「Music Hall Beat」、5「Jumpin’ Leo」、8「Mad Lad Returns」あたり。アップ・ビートじゃないけど、まさにド直球ジャンプな3「Rollin’ with Leo」もいいね。

 

この手のものは主に1940年代に隆盛だった音楽で、当時はビッグ・バンドでやることが多かったんですが、コンボ編成もときおりありました。レオらはそれをそのまま1961年録音の本作で再現しているんですよね。そんなのまったくお呼びじゃなかった時代。

 

ジャンプとはジャズ本流からちょっぴりハミ出て、といっても境目なんかなく連続しているものなんで双方やったミュージシャンも多く、じっさい中村とうようさんと出会う前の時代にジャンプを知ったぼくなんかはメインストリーム・ジャズ、つまり黒人スウィング・バンドからの流れで自然に聴くようになりました(ジャイヴもそう)。

 

ぼくがジャズからジャンプやジャイヴをスムースに知った1980年前後ごろ、松山のレコード・ショップではジャズの棚にふつうにジャンプ系(とその後分類されるようになったもの)のレコードも仲良く並んでいて、ジャズ棚をあさっていておもしろそうなものは次々買っていましたから、自覚も区別もなしに同じように聴いていました。

 

もちろんあのころのジャズ喫茶といえば(ぼくが常連だったビ・バップ前ばかりかける一店舗を除き)シリアスなハード・バップとかモードとかフリーとか、お店によってはクロスオーヴァー/フュージョンも、そんなのをむずかしい顔をして黙って無言で聴くところばかりでした。

 

だからその例外的一店舗 “ケリー” のマスター荒井さんに教えてもらうとか、自分でレコード買って自宅で聴くとかで、それでぼくは古いジャズに夢中になっていったんです。そんななかに(ニュー・オーリンズ、ディキシー、スウィングだけでなく)ジャンプやジャイヴもありました。

 

ってかだからジャンプもジャイヴ(というタームはあのころ知らなかった)もジャズです。でもってリズム&ブルーズやロックの誕生へと間断なくつながった母親なんだってことは、その後とうようさんに教えてもらいましたけど。

 

(written 2023.5.11)

2023/05/10

ファド新世代の古典回帰 〜 カルミーニョ

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(2 min read)

 

Carminho / Portuguesa
https://open.spotify.com/album/3YYC6lQ2PV71ncQrJbV1HE?si=GwmgSUJaSuu7iMs6dR7lWg

 

ちょっと好きなポルトガルの歌手、カルミーニョ。ファドでもないようなブラジル音楽路線もありました(両国を行き来しながら活動していた)。悪くないとぼくは思って以前一回記事にしましたが、三月にリリースされた最新作『Portuguesa』(2023)は古典ファド回帰みたいな感じでしょうか。

 

自作や共作曲が多く、それらだって伝統ファドのスタイル。とはいえギターラと混じりあうようにエフェクトの効いたエレキ・ギターが大胆に使われている曲があったり、あるいはエレキ・ピアノ&デジタル・マニピュレーターも。このへんはカルミーニョらしさです。

 

伝統ファドのマナーに(基本的には)沿いながら、必ずしも重苦しいばかりではない軽みをのぞかせているのも個人的にはいいと思います。それでも張りのあるナマナマしい声の重量感やコブシはしっかりあって、そこにかんしてはあっさり感じゃなくて濃厚な従来フィーリング。

 

11、12曲目に代表されるように地中海的な跳ねる陽光を感じさせる曲もアルバム後半にはあって、ファドにそうした一抹の明るさを求めるっていうか、この音楽にあるまるでこもれ日がさすかのようなやわらかい感覚が好きなぼくにはうれしいところ。

 

もう10年以上でしょうかファド新世代とか新感覚ファドだとか言われる若手歌手がポルトガルで続々台頭していて、それは近年のグローバルな音楽トレンドと合致もしていること。カルミーニョもその一人とみなされてきたわけです。

 

しかし今作は伝統派の重厚古典ファドにまずまず立ち返ったような内容で、原点回帰っていうかルーツ探訪というか(ある意味レトロ?)、ときおり新世代感を垣間見せながらも、アルバム全体の基本傾向としては従来的なファド・ファンをも納得させられそうな音楽を志向しています。

 

(written 2023.4.16)

2023/05/09

本当の音なんて結局わからない

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(3 min read)

 

っていうことを日々痛感しています。ぼくはたいてい録音された音楽を聴いていますが、部屋にいるときはだいたいメインのアンプ+スピーカーで鳴らしていても、お風呂タイムは防水ミニ・スピーカーで、早朝や深夜はヘッドフォンですし、もちろん外出時は携帯性の高いイヤフォン。

 

すると同じ音源を再生してもそれらそれぞれでまったく、というのは言いすぎにしても、かなり音が違うわけです。もう音そのものが違う。あたりまえながら。同一音楽でもなにが「本当の」音か?「ホンモノの」音か?なんてわからんでしょ。

 

部屋のメイン装置だって別のものに買い換えればかなり音が変わるし、じっさい人生で数回それを経験しました。アンプやスピーカーにそれぞれ固有の個性がありますし、こうまで別な音楽に聴こえたりするのか!っていうのはみなさん体験なさっているはず。

 

結局のところ、音の真実なんてものはなく、再生装置なりの「解釈」だけが無限に存在し積み重なっているっていうことかもしれません。じゃあ原音がそのまま届く現場で聴く生演奏の音が真実だろうかっていうと、あんがいそれも言いにくい。場所のアクースティック次第で音は変わりますから。原音ってなに?

 

20世紀初頭のレコード産業樹立後は、この「原音再生とはなにか?」というテーマをずっとみんなで追いかけてきた歴史だったともいえて、現場でナマで聴くよりレコードなど録音メディアで音楽に日常的に接しているというのがひとびとの現実になりましたから、ある意味ホンモノの音楽という像の認識に逆転現象も起きるようになりました。

 

すなわちレコードで聴く音こそ「実物」で、ライヴはそれの(目の前での)再現であるっていう、そんな逆転。わりとあたりまえに存在しているんじゃないでしょうか。そんな像だって、実はひとそれぞれ抱いているイメージが異なっているってことですから。

 

オーディオ装置で変わるだけでなく、ディスクなどに刻まれたもとの音だってマスタリングや盤質次第でだいぶ変わります。レコード時代はカッティングでも違いました。結局、同じ音楽家の同じ作品でも、ひとそれぞれ聴いている音は違うんですよね。同じ体験は二つとありません。

 

だから真実に届いていない、隔靴掻痒だという意味ではどれもニセモノで、でありながらしかしどれも聴き手にとってのリアリティを持ったホンモノでもあるんです。この二律背反が身に沁みないかぎり音楽狂とは言えません。

 

もちろん再生装置が違ったり生演奏であっても、変わらぬ一貫したその音楽家らしさみたいなものが常に感じられてアイデンティティになっているのはだれでもわかるので、音響が変わっても真実は一個で不変であると言えるわけですけどね。

 

(written 2023.4.11)

2023/05/08

あまりにも典型的なレトロ・ポップ 〜 エマリーン

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Emmaline / Songs from Sweetwater
https://open.spotify.com/album/6A9UjWvIFWBPGoz2VIBAdp?si=w03IuERBSG-lv9TnGGW-cw

 

70sシティ・ポップ路線がこの歌手はいいじゃんと言っても、個人的な趣味の話。近年のエマリーン本人はレトロ・ジャズ路線にすっかり舵を切ったということで、出たばかりの最新EP『Songs from Sweetwater』(2023)もやはりそんな感じ。映画かなにかのサウンドトラックですかね。

 

こ〜れがもう!レトロもレトロ、ここまでのものって、いくらこうしたコンテンポラリー・ミュージックが好きなぼくでも出会ったことがないかも?と思うくらい徹底されているんですね。ちょっぴり気恥ずかしくなってくるほどの典型ぶり。

 

ここまでやったら一種のカリカチュアじゃないのかという気がしてくるくらいですが、やっているのは「ザ・マン・アイ・ラヴ」「イット・ハド・トゥ・ビー・ユー」「アフター・ユーヴ・ゴーン」「ブルー・スカイズ」「サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー」「スウィート・ジョージア・ブラウン」。

 

すべてティン・パン・アリーで産まれたスタンダード・ナンバーで、大事なことはこれらいずれも1930年代末のスウィング時代までしか歌われなかった曲であるというところ。モダン・ジャズが勃興してからは意図して懐古をやるか旧来世代のミュージシャン以外やりませんでした。

 

ここが2020年代レトロ・ジャズ・ポップのキモで、古いジャズを遡及的に指向しているといってもハード・バップとかそのへんはそんな対象になっていません。なっている歌手もいるんですが(エマ・スミスなど)、多くがもっと古いディキシー、スウィング時代に範を求めています。

 

つまりモダン・ジャズ以降だと古いだなんだといっても21世紀にも連続的に継承されているもので、いまだ息絶えてなんかいないという実感があるでしょう。ここ10年ほどのレトロ・ジャズ指向は、もはや連続していない、失われて消えてしまい断絶している時代への一種のあこがれ、っていうことがモチーフになっているんですから。

 

エマリーンのデビュー期はきのう書きましたようにどっちかというとスティーリー・ダンみたいなシティ・ポップ路線でした。それも古いのではありますが、さらに進んで、おそらくは流行だからっていうんでレトロ・ジャズな方向性を、生得的直感でというより学習してとりいれたんだろうと思うんですね。

 

音楽一家で育ち、幼少時分から古い音楽と楽器に接していたみたいなんですが(「スウィート・ジョージア・ブラウン」で聴けるジャズ・ヴァイオリンはエマリーン自身によるもの)、学習してのレトロ・ポップ路線であることが、ここまでの典型ぶり発揮となって表れているのかもしれないなとぼくは考えています。

 

(written 2023.5.3)

2023/05/07

「ルビー」は最高の現代シティ・ポップ・チューン 〜 エマリーン

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(2 min read)

 

Emmaline / All My Sweetest Dreams
https://open.spotify.com/album/6MXyZ6SiKBcbVKY1QANgFa?si=dqCSIsFgR6aFKCP4r5kD2w

 

萩原健太さんのご紹介で知ったエマリーンという歌手(USアメリカ)。レトロ・ジャズ路線もいいですが、ドナルド・フェイゲン(スティーリー・ダン)っぽい70sふうシティ・ポップみたいなのを歌っているときがさらにいっそう魅力的だとぼくは感じました。顕著なのがデビュー作『All My Sweetest Dreams』(2019)。
https://kenta45rpm.com/2023/03/29/retro-kind-of-love-emmaline/

 

このEPにはまだレトロ・ジャジーな方向はなく、ヴァイオリンも弾いておらず、ひたすらシティ・ポップばかり歌っていて、曲はすべてエマリーンのオリジナル。といってもどのへんを意識したかあきらかで、過去に隆盛だったさわやかシティ・ポップ、AOR系を完璧に模しているんですね。

 

2020年代的同時代性はないからその意味ではやっぱりレトロ指向ではありましょうが、ジャズよりこういった(ロック系)シティ・ポップ路線のエマリーンこそ、ヴォーカルもいいけどソングライティングが、最高にいまのぼく好み。むろんそれはジャジーな要素と切り離せないものです。

 

特にグッとくるのは3「Shy」と6「Ruby」。気持ちいいぃ〜。2「All My Sweetest Dreams」もいいな。さわやかクールで都会的。チリひとつ落ちていない感じでひたすら洗練されていて、土と泥にまみれたような部分なんかこれっぽっちもありません。それがぼくの嗜好でもあります。

 

なかでも「ルビー」はきときわチャーミングで最高。流れてきた瞬間に一耳惚れしちゃったような快適さで、だぁ〜いすき!なんの変哲もないシティ・ポップ・チューンのようではありますが、2023年にこんな曲なかなか聴けるもんじゃありません。

 

AORっていうかつまり西海岸フュージョン+ヴォーカル入りのようでもあり、コンピューター打ち込みを排したオーガニックな演奏音楽であるのもすばらしいと思います。音楽一家で育ったエマリーンは、ですから幼いころからこうしたものを身につけられる環境にあったんでしょうね。

 

この後現在までにある二つのEP(2023.4.22時点)はややレトロ・ジャズ寄りで、レイヴェイあたりにも通底しつつ違う個性も感じます。

 

(written 2023.4.22)

2023/05/04

2023年に甦るLAスワンプ 〜 ミコ・マークス with アワヴァイナル

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(3 min read)

 

Miko Marks | OurVinyl Sessions
https://open.spotify.com/album/1jYR4r6R2gWLtGQYPbm4qR?si=qrJLGDgySXmPyvkMxCQ7FA

 

黒人ながらカントリー畑でデビューし、ゆえに苦労し、ロック、カントリー、ソウル、ゴスペル、ブルーズなどが渾然一体となっていた1970年前後ごろのLAスワンプ系みたいな音楽を現代に追求している新世代歌手ミコ・マークス(USアメリカ)のことは以前書きました。

 

リリースされたばかりの最新EP『Miko Marks | OurVinyl Sessions』(2023)もまた同じスワンプ路線。しかしこれ、アワヴァイナルって初耳ですけど、なんでしょう?なにかのバンドかプロジェクト?と思って検索したら、どうやらライヴ・ミュージックをサポートするプラットフォームらしいです。かつてのMTVアンプラグドとかそんな感じかな。

 

それなもんで「アワヴァイナル・セッションズ」の冠でさまざまな歌手のオーディオEPみたいなのがサブスクでリリースされていて、同内容を収録したヴィデオもYouTubeで同時展開している模様。ミコのはこれ↓
https://www.youtube.com/watch?v=W3_CXH3NDBo

 

これによれば、バック・バンドはいままでミコをレコーディングなどでサポートしてきたリザレクターズです(といってもはじめて見るんだけど)。演奏曲もいままでにリリースされたアルバムに収録されている(ぼくには)おなじみの四曲。それの2023年版ライヴ再演ということですね。

 

ですから曲に目新しさはなく、歌も演奏もいままでミコを聴いてきた人間にはすっかり既知のスワンプ路線ですし、それでもあれですね、ザ・バンドとかその周辺、70年前後ごろのああいったロック系ミュージックがお好きなみなさんであれば、気に入っていただけるはずと思いますよ。

 

既発曲ばかりながら、オリジナル・ヴァージョンに比しバンドもミコも技量が進み練り込まれていて、熟練の味を聴かせるようになって滋味を増しているのは好ポイント。さらに一回性のライヴ・ミュージックであるのも曲にグルーヴィさをもたらす結果になっていて、楽しいです。

 

個人的に特にカッコいいぞと感じたのは2「Ancestors」。こうしたビートの効いたグルーヴ・チューンで聴くこの手の音楽はいつでも最高。フェンダー・ローズとエレキ・ギターのサウンドに支えられたバンドの演奏もみごとだし、ミコの張りのあって迫力と説得力に満ちたヴォーカルだってすばらしいです。

 

(written 2023.5.4)

2023/05/03

どうってことないけど、くつろげる(3)〜 スタンリー・タレンタイン

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(2 min read)

 

Stanley Turrentine / Never Let Me Go
https://open.spotify.com/album/67w1QF7VyubwUOJNSAdqp8?si=mBnLYyMHQKGXwzDJfFPV3A

 

以前言いましたがリズム&ブルーズにも片足つっこんでいた泥くさい持ち味のジャズ・テナー・サックス奏者、スタンリー・タレンタインが好き。また一つ『Never Let Me Go』(1963)というアルバムのことを書いておきましょう。

 

私生活でも当時のパートナーだったシャーリー・スコットがオルガンを弾いていて、+ベース+ドラムス+コンガという四人編成。コンガはこのころブルー・ノートでよく起用されていたレイ・バレット。その後ファニア・オール・スターズで活躍しましたね。

 

オルガン+コンガ入りでもさほどアクや泥くささは強くなく、都会的洗練のほうを感じるおとなしめの音楽。それでもテナーの音色やフレイジングなんかはけっこうファンキーですから、マイルドだと感じるのはシャーリーのオルガン・サウンドが一因かもしれません。

 

テンポよく快調に幕開けし、2曲目はビリー・ホリデイの原曲を活かすようにしっとりと。ぼくの最大のお気に入りは3「Sara’s Dance」。トミー・タレンタインの曲となっていますが、ここではラテン・リズムが使われていて、かなりファンキー。こうなるとコンガが効きます。

 

アルバム後半もシャーリーのリリカルなプレイが光る6「Never Let Me Go」なんか絶品バラードですよね。切ないメロディをスタンリーもるるとつづっていていい味です。アルバム題になっているだけに、これを聴かせたい、出来がいいという判断なんでしょう。

 

ラストのスタンダード8「They Can’t Take That Away from Me」もグッドな内容。テーマ演奏部のリズム面でちょっとした工夫があるのもポイントです。そういえばこのアルバム、どんな有名曲もひねりが効いていてストレートにはやらないっていう。

 

こうしたべつにどうってことない凡作、というと語弊があるでしょうがそこらへんにいくらでもころがっているようなフツーの作品を楽しめると、音楽ライフに深みとひろがりが出ます。

 

(written 2023.4.17)

2023/05/02

どうってことないけど、くつろげる(2)〜 トミー・フラナガン・トリオ

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(2 min read)

 

Tommy Flanagan / Tommy Flanagan Trio
https://open.spotify.com/album/6ib55A9F22eHSqsVDjQPvu?si=hRzaKwsGSeKmlWn-6px3cg

 

ちょっと前の新着案内プレイリスト『Release Rader』で流れてきて、そのときちょうど公園をお散歩ちゅうだったんですけど、音楽の美しさにハッとして思わず足が止まりそうになったトミー・フラナガンの『トミー・フラナガン・トリオ』(1960)。

 

ムーズヴィル・レーベル(プレスティジの傍系)からの一作なので、俗にトミフラのムーズヴィルと言われたりしてきたと思うんですが、それにしてもなぜ新着案内で流れてきたんでしょう。あらたにリイシューされたとかでしょうか。う〜ん、べつになにもないと思うんですけど、そのへん確認はしていません。

 

ともあれスタンダードなピアノ・トリオ編成(トミー・ポッター、ロイ・ヘインズ)でおだやか&静かに淡々と弾いているっていうのがいまのぼくには最高に気持ちいいんです。 意図してこうしたサイレント・ムードをねらったような選曲と演奏で、やかましいのも得意なロイだって静か。

 

レイ・ブライアントあたりとも似て、フラナガン自身こうして落ち着いた中庸スタイルが得意なジャズ・ピアニストではあります。トリオ名作として世に名高い『オーヴァーシーズ』があんなにハードなのは背後のエルヴィン・ジョーンズが猛プッシュしているから。

 

本来的にはおだやか淡々路線のジャズ・ピアニストだったんだろうことは諸作を聴けばわかることです。このムーズヴィルの一作も、マジなんてことない、どうでもいいようなピアノ・トリオで、とりたてて傑作良作でもないし、ジャズ史のなかに埋もれたちりの一つにすぎないんですけど、そんな平坦な日常性のなかにも真の美は隠れているんだってことを最近実感しています。

 

(written 2023.4.5)

2023/05/01

どうってことないけど、くつろげる(1)〜 ヘイリー・ブリネル

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(3 min read)

 

Hailey Brinnel / Beautiful Tomorrow
https://open.spotify.com/album/0M3Rq3rexDsLnrDv0y2DsK?si=5P8sXSt4R8i4-LuGF_HPyA

 

好みのレトロ・ジャズ歌手、ヘイリー・ブリネルの新作『Beautiful Tomorrow』(2023)が出ました。ジャケットは安易にぱぱっとやっつけた感じの低予算路線であれですが、そのへんやっぱりインディっていうか知る人ぞ知る存在でしかないんですよね。中身は楽しいので、ぼくには。

 

「ティー・フォー・トゥー」「ア・カテージ・フォー・セール」「キャンディ」といった定番スタンダードにまじって自作もあり。そして今回はドナルド・フェイゲンの「ウォーク・ビトゥウィーン・レインドロップズ」(『ザ・ナイトフライ』82)もカヴァーされています。

 

フェイゲンのあれは最初からレトロなジャズ・ムードを強く意識したナンバーでしたので、それを今回ヘイリーが選んだというのは聴いてみる前から納得できるものがありました。8ビート・シャッフルを4/4拍子にアダプトし、はたしてピッタリなムードで、曲よし演奏よしの文句なし。

 

これに象徴されていますように、いはゆる「古き良きアメリカ」みたいなものを音楽で再現せんとする指向がこうしたレトロ・ジャズ・ポップスにはあって、古き良きアメリカってなんやねん?!といぶかしがる向きもいらっしゃるでしょうが、ぼくなんかはたんに聴いたら楽しい、好みの音楽であるというだけの話です。

 

今回もなじみのオールド・スタイルなジャズ・バンドをバックにつけて、そして前作とちょっと異なっているのはやや大きめ編成の管楽器アンサンブルも曲によっては参加しているということでしょう。ディキシーランド路線からややスウィング系へと進んだような感じ。

 

2曲目「I Might Be Evil」(自作)だけはちょっぴりモダンっていうか、ブルージーでファンキーな香りすらただようシャッフル・ナンバーで、なんだかハード・バップみもあります。これ一曲を例外に、あとはさっぱり淡々とレトロ・ムードを追求。

 

ラストのスタンダード「キャンディ」だけは以前のビートルズ・カヴァー「アイル・フォロー・ザ・サン」同様にコントラバス一台の伴奏。こういうのを聴くと、ヴォーカリストとしてちょっとした実力を持っているんだなとわかります。

 

個人的にはこうした音楽がくつろぎのリラックス・タイムにぴったりなんですね。

 

(written 2023.3.26)

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