あまりにも典型的なレトロ・ポップ 〜 エマリーン
(3 min read)
Emmaline / Songs from Sweetwater
https://open.spotify.com/album/6A9UjWvIFWBPGoz2VIBAdp?si=w03IuERBSG-lv9TnGGW-cw
70sシティ・ポップ路線がこの歌手はいいじゃんと言っても、個人的な趣味の話。近年のエマリーン本人はレトロ・ジャズ路線にすっかり舵を切ったということで、出たばかりの最新EP『Songs from Sweetwater』(2023)もやはりそんな感じ。映画かなにかのサウンドトラックですかね。
こ〜れがもう!レトロもレトロ、ここまでのものって、いくらこうしたコンテンポラリー・ミュージックが好きなぼくでも出会ったことがないかも?と思うくらい徹底されているんですね。ちょっぴり気恥ずかしくなってくるほどの典型ぶり。
ここまでやったら一種のカリカチュアじゃないのかという気がしてくるくらいですが、やっているのは「ザ・マン・アイ・ラヴ」「イット・ハド・トゥ・ビー・ユー」「アフター・ユーヴ・ゴーン」「ブルー・スカイズ」「サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー」「スウィート・ジョージア・ブラウン」。
すべてティン・パン・アリーで産まれたスタンダード・ナンバーで、大事なことはこれらいずれも1930年代末のスウィング時代までしか歌われなかった曲であるというところ。モダン・ジャズが勃興してからは意図して懐古をやるか旧来世代のミュージシャン以外やりませんでした。
ここが2020年代レトロ・ジャズ・ポップのキモで、古いジャズを遡及的に指向しているといってもハード・バップとかそのへんはそんな対象になっていません。なっている歌手もいるんですが(エマ・スミスなど)、多くがもっと古いディキシー、スウィング時代に範を求めています。
つまりモダン・ジャズ以降だと古いだなんだといっても21世紀にも連続的に継承されているもので、いまだ息絶えてなんかいないという実感があるでしょう。ここ10年ほどのレトロ・ジャズ指向は、もはや連続していない、失われて消えてしまい断絶している時代への一種のあこがれ、っていうことがモチーフになっているんですから。
エマリーンのデビュー期はきのう書きましたようにどっちかというとスティーリー・ダンみたいなシティ・ポップ路線でした。それも古いのではありますが、さらに進んで、おそらくは流行だからっていうんでレトロ・ジャズな方向性を、生得的直感でというより学習してとりいれたんだろうと思うんですね。
音楽一家で育ち、幼少時分から古い音楽と楽器に接していたみたいなんですが(「スウィート・ジョージア・ブラウン」で聴けるジャズ・ヴァイオリンはエマリーン自身によるもの)、学習してのレトロ・ポップ路線であることが、ここまでの典型ぶり発揮となって表れているのかもしれないなとぼくは考えています。
(written 2023.5.3)
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