ダイナミックな生命力 〜 アルテミス二作目
(3 min read)
Artemis / In Real Time
https://open.spotify.com/album/2zkgkyuC0eyxS2d73xTc2o?si=z03C5bxTSjGmJ-wYi0pZUQ
ギリシア神話の女神からバンド名をとった全員女性のジャズ・バンド、アルテミス。2020年にデビュー・アルバムをリリースし、ライヴではその前から活発に活動し現在までやってきていますよね。このたび二作目『In Real Time』(2023)が発表されました。
今回も音楽はやはり充実しています。メンバーが一作目のころと一部入れ替わり、メリッサ・オルダナとアナット・コーエンが抜け、ニコル・グローヴァー(テナー・サックス)とアレクサ・タランティーノ(マルチ・リード)が新参加。ヴォーカルのセシル・マクローリン・サルヴァントは本作不参加です。
いはゆるリーダーみたいなのはいない集合体ですが、ピアノ(5曲目でだけエレピ)のリニー・ロスネスが音楽監督役で、今回もアレンジはリニー。アルバム全体から1960年代中期新主流派(ポスト・バップ)っぽい香りが強くただよっていて、たしかにあのへんはコンテンポラリー・ジャズの源泉だよねえっていうのは前から感じていたところ。
あのころのマイルズ・デイヴィス・クインテットとかその周辺とか(が要するに=新主流派)の音楽を継承し、コンテンポラリーに再解釈したのが2010年代的新世代ジャズの素地になっているということで、アルテミスのばあいはヒップ・ホップ以後的なサウンド/リズムづくりはないストレート・ジャズとなっています。
ですから現代的な感覚はそなえつつ、旧感覚オールド・ジャズ・ファンの耳にも理解されやすい音楽性を持っているのがこのバンド。2020年代においてこうしたジャズはもはやエヴァーグリーンなんだともいえるでしょうね。情緒的な甘さは徹底排除されていますが、聴きやすくわかりやすい。
新作でいちばん耳を惹いたのは終盤7曲目の「Empress Afternoon」です。作曲はリニー。ずいぶんダイナミックなナンバーで、特にリズムの8ビート変形ラテンな躍動感がたいへんすばらしく、新主流派でいえばマイルズの「Prince of Darkness」「Masqualero」(『ソーサラー』)とか「Riot」(『ネフェルティティ』)を連想させるもの。
コンポジション/アレンジはもちろん、ドラマーの爆発力(アリスン・ミラー)も、アンサンブルの色彩感も、各人のソロもこの曲がアルバム中異様にきわだってみごとであざやか。奔流のごとくグイグイ迫る生命力にみちあふれた汎カリブ〜アフリカ的なジャズ・ビートは圧倒的です。
(written 2023.5.15)
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