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2023年7月

2023/07/31

シティ・ポップ in ジャズ 〜 Airi

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(3 min read)

 

Airi / City Pop Rendez-Vous

https://open.spotify.com/album/6x5KIXv4960MZ0Vy5SSZVg?si=IP7eSJMmRbS51rZlV1p2mg

 

日本人ジャズ・シンガーAiriがJシティ・ポップのジャジー・カヴァーにいどんだ新作『City Pop Rendez-Vous』(2023)がおしゃれでちょっといい。仕掛け人はJ-Jazz界のニュー・ヒーロー曽根麻央で、曽根はアレンジ、プロデュース、各種ピアノ、シンセサイザー、トランペットを担当しています。

 

そのほか演奏メンバーは:

 

シンサカイノ - bass

鈴木宏紀 - drums

Kan - perc

マルセロ木村 - guitar

 

以下は収録曲の初演歌手一覧:

 

1 Jazz Singer(濱田金吾)

2 リバーサイドホテル(井上陽水)

3 スカイレストラン(荒井由実)

4 あまく危険な香り(山下達郎)

5 Midnight Pretenders(亜蘭知子)

6 マイピュアレディ(尾崎亜美)

7 ゴロワーズを吸ったことがあるかい(かまやつひろし)

8 Saravah!(高橋幸宏)

9 ワインレッドの心(安全地帯)

10 都会(大貫妙子)

11 Midnight Love Call(南佳孝)

12 スローなブギにしてくれ(南佳孝)

 

なかには知名度の高くない曲もありますが、有名ヒットもふくめ、あの曲がこんなふうにジャズになるのか!という意外さ、新鮮な驚きに満ちたアルバムといえるでしょう。

 

全体にパーカッションがよく効いているし、メインストリームというよりラテン・ジャズなアレンジになっているのもたいへんに好み。従来から王道ジャズのなかにラテン要素はしっかりありますが、本作はことさら強く意識されている印象。

 

なかでも2「リバーサイドホテル」、3「スカイレストラン」、8「Saravah!」、9「ワインレッドの心」、10「都会」あたりは中南米テイストが濃厚で、原曲がどんなだったかを思い浮かべるとビックリですよね。

 

しかもただラテン・ジャズ・アレンジでやったシティ・ポップというだけでなく、電気電子楽器と8ビート系&丹念に構築されたサウンド・アレンジメントの活用でフュージョンっぽいテイストをも獲得しています。「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」だけはタイトなジャズ・ファンク。

 

そもそもフュージョンは洗練された都会の音楽という側面も強かっただけに、シティ・ポップ・チューンがこうしたふうに変貌するのは自然なことではありました。それにしてもの変わりようで、初めて日本語で歌ったというAiriは乗っかっているだけかもですが、曽根の目のつけどころの確かさと同時にレンディションの大胆さに唖然とします。

 

(written 2023.7.25)

2023/07/30

バルセロナ出身のジャズ・サックス、ジュク・カサーレスの『Ride』がちょっといい

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(2 min read)

 

Lluc Casares / Ride

https://open.spotify.com/album/3LvZAZoOBtjEdeYpER1iyq?si=8nv3VczCT7KfqRUIHFJvLA

 

ジュク・カサーレスは1990年バルセロナ生まれのジャズ・リード奏者。ジュリアードを卒業していますが、三月に発売されていた最新作『Ride』(2023)はギター+ピアノ・トリオの伴奏で、ずいぶん心地よくノリよくスウィングしていて楽しいですよ。

 

ここではテナー・サックスに専念しているジュクにとって四作目で、住んでいたアムステルダムの街に題材をとったものらしく、じっさい同地での2022年9月のコンサート前日にバンドでスタジオ録音されたもの。+ラスト8曲目はそのコンサートでのライヴ収録。

 

新世代ジャズとかではなく、従来型のメインストリームなスタイルではありますが、なかなか耳を聴き張るダイナミックであざやかな演奏ぶり。ジュク以外のメンバー四人も腕達者ですが、個人的には特にギターのジェシー・ヴァン・ルーラーが印象に残りました。

 

静かなバラード系の曲はまずまずかなといった印象ながら、グルーヴするノリいい曲の数々での五人の演奏ぶりはほんとうにみごと。2「Grewisms」、3「Melo」あたりなんて鳥肌立ちそうなほどカッコいいし、リズムのキメが快感で、ソロ・インプロをあざやかにきわだたせています。

 

そのあざやかなキメはあらかじめ用意されていたものかもしれませんが、演奏のなかではきわめて自然発生的に聴こえますし、アレンジではなくアド・リブだったかも。特に「Melo」で聴けるキメがカッコいいんですが、それがこの曲ではグルーヴに一定のファンキーさを与えています。

 

6「Prova Dos」ではラテン・リズム(に聴こえる)の色彩や躍動感があって、これもいいですね。アルバムで大部分を占めるスタジオ録音曲も一回性のライヴ収録で、事後の編集はいっさいなしだそうです。

 

ジュクがリーダーの作品ではありますが、一人でたくさん吹いているというよりも、メンバーにどんどん演奏させている感じで、なかでもギターのジェシーがメインのソロ時間を占めているだろうと思います。ほぼ双頭クインテットに近い様子。ほんといいギターリストですよ。

 

(written 2023.5.12)

2023/07/27

J-POP最先鋭 〜 LioLanの衝撃

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(4 min read)

 

LioLan / UNBOX

https://open.spotify.com/album/2vyntk7jJZ1dvP2qswyPy0?si=31TmIKiKTwWdcHoteO5NZw

 

カッコいい!あまりにもカッコよすぎると思うくらいなLioLan(リオラン)のデビュー作『UNBOX』(2023)に完璧ノックアウトされたまんまリリース来ずっと毎日ヘヴィロテ状態。和久井沙良とキャサリン二名によるJ-POPユニットです。

 

沙良は去年暮れのデビュー作『Time Won’t Stop』を今年はじめに聴いて惚れちゃった天才ですが、キャサリンというシンガーとは初の出会い。ヨーロッパ系白人っぽい顔つきですが埼玉県人だそうで、東京藝術大学での沙良の後輩らしいです。声楽とオペラを学んだとか。しかし『UNBOX』は地声で歌うポップスで、ラップも披露。

 

そのキャサリンのラップがですね、めちゃめちゃリズム感よくて、天性のラッパーじゃないのかと思ってしまうくらいですよ。しっかりした発声でメロディを歌うヴォーカル部分とのつながりもスムースであざやかなシームレスぶりで、1曲目「nanikasa」からすでにそのカッコよさのトリコになってしまいます。

 

カッコいいというのは沙良のソングライティング、トラック・メイクについてもいえること。デビュー作でも颯爽とした(サウンド面での)イケメンぶりを発揮していましたが、今作でも現行J-POPシーンでここまでポップでしかも先鋭的なメロディ書きと音づくりのできる人物はいないよねえと唖然とするくらいの才能を発揮しています。

 

もうはっきりいってゾッコン惚れちゃっているんで冷静にことばを重ねることがむずかしいくらいですが、なんども聴けば聴くほどつくりこまれた細部の小さな一個一個のピースまでていねいに練られているのがわかり、かといってはじけるような瞬発力もあって、それはジャズ・ミュージシャンの一回性のインプロのようなあざやかさ。

 

沙良の作業によるものでしょうコンピューター打ち込みでつくられた曲と、ドラムス、ベース、ギターの演奏ミュージシャンをゲストにむかえ生演奏で組み立てた曲(1、3、4)が半分づつくらい。しかし両者にサウンド・テクスチャーの差はほぼなく、ヒップ・ホップ系のビートだって人力演奏で実現されていたりします。So Kannoっていうドラマー、すげえな。

 

もうね、出だしの1「nanikasa」があまりにもすんばらしすぎて、いきなりこれを聴いちゃったもんだから全身が耳からシビレたようになっちゃって。メタ音楽的な要素もあるこれ一曲だけでもいいから多くのリスナーに届いてほしい。J-POPのフィールドでここまでできちゃうんだっていう最先鋭がギュッと詰め込まれたような超絶的なEPです。

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(写真はLioLan公式Instagramより)

 

(written 2023.7.27)

2023/07/26

切なく甘くノスタルジックなレトロ・ポップでつづるラヴ・ソング 〜 サラ・カン

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(3 min read)

 

Sarah Kang / Hopeless Romantic, Pt.1

https://open.spotify.com/album/2SbZ3ohaiBoFvCofVE18h0?si=CH0lHkFmSaiAxKbZWePp4g

 

以前一度書いたわりあい好きなレトロ・ジャズ歌手、サラ・カン(韓国プサン生まれLA育ち現在の拠点はNYC)の新作『Hopeless Romantic, Pt.1』(2023)が出ましたが、これアルバムの前半というか一部で、続きのPt.2がそのうち出て完結するってことでしょうか。本人が “first half” とかってインスタで言っていたような。

 

とりあえずいまはPt.1だけ聴ける状態なのでそれを書いておきます。もう待てないんだもんね。それくらいチャーミングだし、これはこれでちゃんとバランスのとれた完結品のような趣をしています。

 

1930〜50年代ごろのUSアメリカにたくさんあったキュートでジャジーなポップスへの眼差しがはっきりしていて、そういう世界への憧憬をはっきり示す歌手やソングライターはその後も現在までときどき出現してきましたよね。近年のレトロ・ブームはそれが大きな潮流として顕出しムーヴメントになっているというわけです。

 

最大の共通項は「非ロック」「前ロック」ってことで、サラ・カンの音楽もまた同じ。今回はラスト5「It’s You I Like」だけがフレッド・ロジャーズのカヴァーで、それ以外は自作。サラは歌えるだけでなく、曲を書きアレンジ/プロデュースし楽器もやれる音楽家なんで、やはりそのようにつくりあげていると思います。

 

ところでそのフレッド・ロジャーズの「イッツ・ユー・アイ・ライク」をサラがカヴァーしているのがクラシカルで、最高にすんばらしいんじゃないかとぼくは思います。同じくニュー・ヨーク在住の日本人ピアニスト、泉川貴広が伴奏をつとめているデュオなんですけど、なんともかわいらしくチャーミングで、大好き。あなたのなにからなにまでぜんぶ好きっていう歌詞も好き。

 

これがラストに置かれていることには明確なプロデュース意図を感じますし、バランスがとれている、構成が練られているとわかるものですよ。それくらいこのEPのクローザーとしてはこの上なくピッタリ。デジタルなリズム伴奏がついている4曲目までからのあざやかな流れになっています。

 

ピアノやアクースティック・ギターとDAWビート中心のシンプルなサウンドを軸に、控えめのトロンボーンやハーモニカ、チェロなどを効果的に配した1〜4までは、あくまで切ないフィールの自作の歌を聴かせよう、それをきわだたせようという音づくりになっています。やや甘めのサラの声は、こうしたノスタルジアをつづるのに最適ですね。

 

(written 2023.7.23)

2023/07/25

心底くだらないとASDが思ってしまう日本の文化

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(10 sec read)

 

・空気を読む

・遠慮会釈

・年功序列

・忖度

・ギヴ・アンド・テイク

・出る杭は打たれる

・本音と建前

・立場上の発言

・非言語コミュニケーション

・根まわし

・前例主義

・名指しせずに言及する

・ときどきウソを言う

 

(written 2023.7.15)

2023/07/24

ジャジーに洗練されたBGM 〜 リンジー・ウェブスター

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(3 min read)

 

Lindsey Webster / You Change

https://open.spotify.com/album/5ybpAA7FFs6aV6y6WXgH8r?si=i-Xlo_J2SVCXOU6PXUAhkA

 

以前一度書いたお気に入りスムース・ジャズ歌手、リンジー・ウェブスターの新作が出たっ!...といって喜んで聴いていたところ、その『You Change』はどうやら新作ではなくて2015年にリリースされていたもののよう。な〜んだ。

 

Spotifyの新着案内プレイリストで流れてきて、アプリ内で見てみたら2023と記載されているしですっかり信用していましたが勘違いだったみたい。それはそれでいいとして、気に入ったのでやっぱりちょっと手短に書いておこうかな。

 

リンジーの音楽はスムース・ジャズ・チャートの常連ですが、コンテンポラリーR&Bとクロスする領域での現代ジャズ・ヴォーカルなわけです。『ユー・チェインジ』も同じ。AOR的でもあって、だからむかしならフュージョンとされたようなもの。

 

ソフトでメロウで、都会的に洗練されていて、土と泥にまみれた田舎の農村あぜ道感なんて1ミリもないっていう。いまのぼくは愛媛県松山市森松町っていう、つまり周囲にたんぼと畑しかないような場所に住んでいますけど、そんなあぜ道をお散歩しながらBGMでリンジーのこういうのとか聴いているんです。摩天楼なんかと縁もゆかりもない田舎町で。

 

そいでもって緑と花と小川と小鳥と蝶に囲まれつつ都会の音楽を聴き、いい雰囲気にひたって妄想するのが日常なんですね。リンジーは2020年ごろまでずっとキース・スラタリー(キーボード)と私生活をともにし、音楽的にもパートナーシップを組んでいました。『ユー・チェインジ』もそんな時期の一作で、全曲二名の共同プロデュース。

 

私生活では別れちゃったみたいなのですが、音楽面ではビジネス・ライクな関係が継続していて、以前書いた『Reasons』(2022)もそうでした。この事実がリンジーの音楽をシティ・ポップなよそおいをまとったスムース・ジャズにしあげている最大の要因なんですね。

 

『ユー・チェインジ』全体としては、どうも人間関係でつらくかなしいことがあった女性を主人公としての物語をつむいでいるようなつくりで、曲調もマイナー・キーを主体にした悲哀感のこもるものが多くあります。

 

しっかりしたビートを効かせつつエモーションは抑制しながら淡々と、それでもクールな熱を込めてつづるリンジーのヴォーカルとジャジーに洗練されたバック・トラックは、しっかり正対して聴き込むというよりまさしくウォーキングなどのBGMとして極上。

 

このごろのぼくはそうした音楽がわりと好きなんです。流し聴きに最適なものが。

 

(written 2023.5.16)

2023/07/23

最近のお気に入り 2023 夏

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(40 sec read)

 

最近のお気に入り 2023 夏

https://open.spotify.com/playlist/0iy6kG4WtHrGVXin44kGlU?si=eb1ab1699d1b4e1a

 

愛媛県地方は7/21に梅雨明けしましたし。

 

1 LioLan / nanikasa(日本)

2 LINION / Listen to Me(台湾)

3 Janet Evra / Tenderly (US)

4 Laufey / From the Start(アイスランド)

5 Simon Moullier / Phoenix Eye (US)

6 Omara Portuondo / Duele(キューバ)

7 Smokey Robinson / You Fill Me Up(US)

8 Dudu Tassa, Jonny Greenwood / Ahibak(イスラエル、UK)

9 Chembo Corniel / Evidence(US)

10 Chien Chien Lu, Richie Goods / Rain(台湾、US)

11 9m88 / 若我告訴你其實我愛的只是你(台湾)

12 Airi / ワインレッドの心(日本)

13 New Cool Collective, Alma Quartet / Op.127: II Adagio(オランダ)

14 Sarah Kang / It’s You I Like(韓国)

15 Joe Lovano / My Little Brown Bag(US)

 

(written 2023.7.22)

2023/07/20

台湾ネオ・ソウル新世代 〜 9m88

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(3 min read)

 

9m88 / 9m88 Radio

https://open.spotify.com/album/0hccS5GDRif53V4ZHYmamd?si=tPTk74bjQz-2IrnDankWqQ

 

在NYの台湾人ネオ・ソウル/ジャズ・シンガー、9m88(ジョウエムバーバー)が今秋に渋谷で来日公演をやるみたい。好きなのでちょっと行きたいかもと思ったのに、WWW Xでのライヴはオール・スタンディングとのことで、自分の現況をかんがみるに、う〜〜ん…。

 

この歌手、ぼくが出会ったのは今年リリースの新曲「若我告訴你其實我愛的只是你」(2023)で。Pヴァインの紹介だったこれが初邂逅で、な〜んてさわやかでチャーミングでジャジーなんだと好きになっちゃいました。しかしこれ一曲しかなく、アルバムならSpotifyにあるのは『9m88 Radio』(2022)が最新。

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新曲シングルはかなりジャジー、ほぼジャズ・ピースでしたが、『9m88 Radio』はやはりネオ・ソウル〜コンテンポラリーR&B色が強いといえます。シティ・ポップ香もあり。ってかそれらのジャンル区分ねえ、台湾新世代の前では無意味ぃっ。

 

個人の好みだけ言わせてもらうと「若我告訴你其實我愛的只是你」の感じで満たされた30分くらいのアルバムが出ればとてもうれしいんですが、いまは『9m88 Radio』をくりかえし聴いています。バーバーのばあいサウンドに台湾ローカル色は皆無で、世界で通用する才能と思いますね。

 

オーガニックな生演奏楽器を中心に組み立てながら、そこにまじる適度なコンピューター・サウンドやデジタル・エフェクトの使用もいい塩梅。エリカ・バドゥっぽい音楽をベースにヴォーカルはかわいらしいふわっとしたチャーミングさを感じさせる部分もあります。また一曲ごとに多彩なゲスト・プロデューサーと組んでいます。

 

個人的にことさら好きだと感じるのは、やはりジャズ・カラーが強い2「Tell Me」、シティ・ポップな5「A Merry Feeling」あたりは特に。クラシカルな9「Dark Night / Sunlight」もいいし、ディアンジェロあたりを彷彿させる11「Star」なんかも抜群。

 

湿度の低いカラリさわやかな音楽ですね。

 

(written 2023.7.15)

2023/07/19

楽しい時間をワン・モア・タイム!〜 ケニー・ドーハム

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(3 min read)

 

Kenny Dorham / Una Mas

https://open.spotify.com/album/478lLfwrnUMDKIgaLCPTIy?si=o92QOmDnSrq0u0yL0mG9tg

 

そういえばケニー・ドーハム(ジャズ・トランペッター)ってあまり熱心に聴いてきませんでした。ほかのジャズ・ミュージシャンのリーダー・アルバムに参加しているのを聴けばいいなぁ〜と思ってきたのに、ケニー自身の作品をディグすることが少なくて。

 

でもこないだなにかでふらりとすれちがった『Una Mas』(1963)には度肝を抜かれたっていうか大感動して、なんども聴いちゃいました。特に1曲目のアルバム・タイトル・チューンでぶっとび。

 

ボサ・ノーヴァ・インフルーエンストな一曲ということになっていて、たしかにそんな感じがあります。クインシー・ジョーンズの有名な「ソウル・ボサ・ノーヴァ」なんかと同じパターンで、あれは1962年だったからひょっとしてそれにインスパイアされてケニーは翌年「ウナ・マス」を書いたかも。

 

USアメリカにおけるボサ・ノーヴァ流行期でした。しかしぼくの耳には(ケニーの得意とする)アフロ・キューバン・スタイルのようにも聴こえます。当時のモダン・ジャズ界ではしっかり区別されていなかったかも。でもそんな中南米ふうの跳ねるリズムが快感です。

 

鍵を握っているのはあきからにハービー・ハンコックのピアノとトニー・ウィリアムズのドラミング。レコーディング時すでにマイルズ・デイヴィス・クインテットのレギュラー・メンバーでしたが二名とも、そっちではまだこういった音楽やっていなかったです。

 

特にハービーがブロック・コードを叩くのが快感で、そのパターンは自身のヒット・ナンバー「ウォーターメロン・マン」なんかと共通しています。トニーのほうは60年代末ごろまでラテン・ビートを自身ではさほど活用していなかったですから、ケニーのこれではハービーが主導権を握っているんでしょう。

 

うねうねと身をよじらせるようなジョー・ヘンダスンのテナー・サックス・ソロも聴きごたえありますし、三番手で出るハービーはまったくお得意の曲調って感じで水を得た魚のごとく闊達に弾いています。

 

ケニーの声でしょう終盤で「ウナ・マス!」との掛け声が入り、そのことばどおり同じテーマがまたもう一度リピート演奏されるのも楽しいですね。

 

(written 2023.4.23)

2023/07/18

ロックでサンタナ「ブラック・マジック・ウーマン」以上の悦楽なし

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(3 min read)

 

Santana / Abraxas

https://open.spotify.com/album/1CHUXwuge9A7L2KiA3vnR6?si=xQhJ4XjqRtmCfiSv_m2fwQ

 

こないだなにかのきっかけでふと思い出すことがあって(@スターバックスコーヒー松山市駅前店)聴きなおしたサンタナのアルバム『Abraxas』(1970)、ってかそのとき聴いたのは2曲目「ブラック・マジック・ウーマン」だけだったんですけど、それが最高じゃないですか。あのときスタバでコールド・ブリュー・コーヒー飲みながら聴き、あらためて感銘を受けました。

 

いまとなってはロック・ミュージック・ソングのなかでいちばん好きなのがサンタナ版「ブラック・マジック・ウーマン」かもしれません。ピーター・グリーンが書きフリートウッド・マックでやったのがオリジナルではありますが(1969)、どう聴いてもサンタナのレンディションがはるかに魅力的。

 

マック・オリジナルからしてラテン・ブルーズだったので好きにならないわけがない曲ではありましたが、UKブルーズ・ギターリストのグリーンとしてはラテン・テイストをさほどに強調はしていなかったと思います。サンタナのはそこを拡大したのがグッド。

 

そもそも序章になっている1曲目「シンギング・ウィンズ、クライング・ビースツ」が終わり本編幕開けたる2「ブラック・マジック・ウーマン」がはじまると、その瞬間のスリルと色気にゾクゾクしますよね。オルガンとパーカッションが雰囲気をつくるなかカルロス・サンタナのギター・イントロが流入した刹那、はやイキそう。

 

一瞬のブレイクがあってギター・ヴォリュームをくいっと持ち上げイントロが本格的に弾かれるあいだは絶頂が続いている感じで、むかしはそこからグレッグ・ローリーのヴォーカルが入ってくるとちょっとガッカリな印象を持っていました。カルロスのセンシュアルなギターをもっと聴きたいぞと。エクスタシーがずっと続けばいいのにと。

 

現在ではヴォーカルも楽しいしラテンなエロスに満ちているなと感じるようになりました。いったん終わってやはりカルロスのギター・ソロ再開。それを聴いているあいだは艶っぽい気分で楽しくってしかたがないですよ。

 

その後やはり歌、次いでカルロスはイントロと同じフレーズを弾いて幕閉じとし、メドレーになっているインスト・ナンバー「ジプシー・クイーン」(ガボール・ザボ)へとなだれ込みます。

 

(written 2023.7.12)

2023/07/17

さわやかでポップなインスト・ファンク 〜 ハンタートーンズ

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(2 min read)

 

Huntertones / Engine Co.

https://open.spotify.com/album/348I0s4uasv5JMawwbPwWo?si=fDS4Rih2TH6St7K5OYtiCg

 

米NYブルックリンに拠点を置くインスト・ファンク・バンド、ハンタートーンズに出会うきっかけがありました。キャリア二作目にあたる最新アルバム『Engine Co.』(2023)がめちゃめちゃカッコよくてですね、もう大好き。

 

鍵盤なしギター・トリオのリズムにトランペット+トロンボーン+サックスという六人編成。音楽としてはJBズとミーターズを足して二で割ったような感じでしょうか。

 

本作で聴けるハンタートーンズの特徴は、ファンクといっても重厚にグイグイ迫るよりは軽妙でひょうひょうとしているフィーリング。曲によってはインストでやるさわやかシティ・ポップっぽいものを連想させたりします(4「フォー・ロイ」)。だから、ややフュージョンっぽいかも。

 

軽妙でユーモラスという点ではどっちかというとミーターズのスタイルに似たものがあり、じっさい本作ではこのニュー・オーリンズ・ファンク・レジェンドの曲を二つカヴァーしています。ストレートなリスペクトの気持ちがあるんでしょうね。

 

それら二曲「シンキング」「シシー・ストラット」は、いずれも骨格しかなかったようなミーターズのオリジナル・スケルトン・サウンドを軸にして、さらにもっと肉と皮をつけてふくらませたような内容。

 

それはやっぱりこっちは三管ホーンズだからってことと、さらにギターもロックっぽいスタイルで、強いエフェクトをかけてリッチ&ファットにソロを弾いたりもしているからでしょう。ドラマーもやや派手め。

 

音の鳴らない空間を存分に活かしたミーターズ・ヴァージョンはそれだけに味わい深いものでしたが、ポップな肌ざわりもあるハンタートーンズはもっと聴きやすくわかりやすい音楽を目指しているんだなとわかります。

 

(written 2023.5.13)

2023/07/16

ジャズ喫茶にまとわりつく狭隘な老害たち

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(4 min read)

 

写真は四ツ谷のいーぐるですが、以下の本文とは関係ありません

 

きのうかなりビックリするツイートが、あるかたのリツイートでまわってきて読めてしまいました。ジャズ喫茶ではお客のレコード持ち込みは基本ご法度で、それが常識だからかけてもらおうなんて思うな、それを新世代はなんだ!というもの。

 

ぼくの個人的ジャズ喫茶体験(主に1980年代前半)と相反するばかりか、ジャズとはどういったものか?という世界観とも矛盾する言説のように感じました。こんなことを言うひとがわりといるからジャズは世間で不人気なんですよ。

 

これしちゃいかんあれしちゃダメだなんていう考えかたから最も遠いのがジャズ・ミュージックのはず。コード進行にのっとった演奏をベースとするやりかたもあれば、なにをどう吹いてもかまわないそもそもテーマなんかないしっていうフリー・インプロまであり、一般化定式化は不可能ですよジャズとは。

 

チャーリー・パーカーは雇ったばかりの若輩マイルズ・デイヴィスに「こわがらずどんどん前に出てプレイしろ」「ジャズに間違ったノートはないんだぞ」とか言ってプッシュしていました。いずれもパーカー死後のマイルズ回想言で知ったものですが、マイルズの生涯を決定づけたばかりかミュージシャンではないぼくみたいな人間だってこうしたことばを人生訓としてきました。

 

そう、ジャズとは freedom の別名。音楽や音楽家がそうであるばかりでなく、どう聴くか?といったファン、リスナーにとってもそれこそモットーのはず。日本特有の文化であるジャズ喫茶のありようもまた例外ではなく(過去の)実態は実にさまざま。たしかにお客のレコード持ち込みは断るお店が多かったかもですが、すすんでかけてくれるところだっていくつもあり、「こういうもんだから」という決めつけは不可能でした。それが本当のところでしたよ。

 

おしゃべり厳禁で、お客はみんな黙ってスピーカーから流れてくる音楽に真剣に聴き入るお店が多かったかもですが、そうでなくカウンター越しに店主と客がきさくに会話を交わすお店だってわりとあり、リクエストを受けてくれるかどうかだって「こうだ」という法則なんかは存在せず。さまざまだった、自由だった 〜 これが実態。

 

それなのに、ジャズ喫茶ではこうしなさい、これがルールだから外れちゃダメ、なんていうことを垂れ流すのは勘弁していただけませんか。そんな定型ルール、いつできたんですか。お店の雰囲気をこわしたり他のお客の迷惑になったりはいけませんが、それはどんな世界でも同じでしょう。

 

しかも「ジャズ喫茶とは?を知っている」と自負する古い世代(60代以上)が、そういう硬直した言説を流しやすい傾向があるように見受けられ、そうなるともはや完璧にジャズ老害と化しているんだと言わざるをえません。ぼくもその世代ですけどね、みずから厳に戒めたいと思います。

 

(written 2023.7.16)

2023/07/13

チェンチェン・ルー・インタビュー in『台湾ビーツ』

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(5 min read)

 

https://ja.taiwanbeats.tw/archives/12059

 

こないだチェンチェン・ルー(在米台湾人ジャズ・ヴァイブ奏者、大好き)自身のInstagramストーリーで紹介されていて知ったんですが、『Taiwan Beats』という台湾の音楽&カルチャーのネット・メディアにチェンチェンのインタビュー記事が掲載されました。

 

チェンチェンはこの手の情報をたいていストーリーでしか紹介せずそのままにしちゃうので24時間で消えてしまい、それじゃあちょっともったいないよなあと思える内容だったので、こうしてぼくが書いているという次第。

 

っていうのも要注目だったのはその『台湾ビーツ』、中英日の三カ国語メディアなのでインタビューの日本版もあったことです。台湾では大注目のチェンチェンですが、まとまった長さの日本語コンテンツはいままでなかったですからね。

 

このまえも書きましたが五月下旬チェンチェンは自身のバンドで台湾ツアーをやったので、『台湾ビーツ』もそのとき意を決して取材したようです。ふだんはニュー・ヨークを拠点にUSアメリカで活動していて、ジェレミー・ペルトに帯同して欧州ツアーもときどきやっていますが、コンサートで母国に帰ってきたのは初めてでしたし。

 

いつでも個人的には音楽家のデビュー前とかキャリアがどうだとか、考えかたを知るとか、その手のことはすべて音楽作品をよりしっかり理解したい一心で調べていること。その一点でのみ読む価値を見出していて、それじたいはべつにそんなねえ。経歴や頭のなかは「音に出る」と思っていますし。

 

その点今回のチェンチェン・インタビューは有益。たんにいままで日本語であまり紹介されてこなかった音楽家だから、どういう人物なのか知れただけでも入門者にはありがたいでしょうし、それ以上に音楽性について理解する大きな手がかりにもなっています。

 

ニュー・ヨーク移住前、フィラデルフィア時代に現在のソウル・ジャズな演奏スタイルを身につけたとわかったのがぼく的には意味の大きなこと。やはり全米の都市都市で音楽性にも個性、地域差がありますから。フィラデルフィア時代に、と語っていたのは納得でした。

 

何年ごろとは書かれていませんがフィリーでロイ・エアーズのトリビュート・ショーがあって、そのアンサンブルでロイの役目を依頼され引き受けたことがあるらしいです。それが大きなきっかけだったのかもしれません。リズム&ブルーズ/ソウルとジャズの合体融合を象徴するようなヴァイブ奏者でしたロイは。

 

そうしたことはチェンチェン一作目『ザ・パス』のサウンドを聴けばだれでも納得できることでしたし、さらに進んでヒップ・ホップ/R&B的な感性にまで踏み込みつつあるのが二作目『コネクティッド』ではあきらかでした。ライヴでロイのパートをやったことがきっかけで、このような方向性が明確になったという可能性があると思います。

 

台湾ツアーをやったバンド・メンバーのこともくわしく紹介されていて、特にチェンチェンの音楽にはなはだ大きく貢献しているプロデューサー/ベーシストのリッチー・グッズがどんな音楽家であるのかしっかり語られているのも重要な情報です。

 

一作目制作にあたり南管(中国伝統楽器)を学んでいたことも語られています。台湾出身という文化的ルーツさがしの一環だったようで、たしかに『ザ・パス』にはそんな要素もわりと反映されています。ジャズとリズム面での共通性があるという指摘もおもしろかった。

 

新作『コネクティッド』の内容に深くかかわることですが、ニュー・ヨークでひとりでやっている台湾人ジャズ奏者、しかも若い女性であるということの苦悩苦労も語られていて、必ずしも自分の音楽に関係ないことがらだと本人は言うんですが、個人的生活の内省が『コネクティッド』には色濃く反映されていただけに、決して無視はできません。

 

(written 2023.7.11)

2023/07/12

1978年のレトロ・ポップ 〜 アルバータ・ハンター

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(4 min read)

 

Alberta Hunter / Amtrak Blues

https://open.spotify.com/album/1m4GnCnP6Z6jS4YcX3Vl8y?si=LTGjhQzFSrSSpAY98Fso0Q

 

以前「落ちぶれたらみんな知らん顔」プレイリストに選んで思い出したアルバータ・ハンターの復帰作『アムトラック・ブルーズ』(1978)。78年のリリースですが79年にジャズ・ファンになったぼくは当時の最新アルバムとして知り買いました。『スイングジャーナル』誌にレヴューが載ったか話題になっていたはず。

 

『スイングジャーナル』はジャズ雑誌でしたが、あのへん1920年代に最隆盛だった米北部都会派女性ブルーズは同時代のジャズとたいした違いはなく、当時から伴奏陣は全員ジャズ・ミュージシャンでしたし、音楽性も似たようなもんです。べシー・スミスだってぼくが知ったころは(CBSソニーの同じシリーズで)ジャズ・レコードの棚にならんでいたんですからね。

 

じゃなかったらジャズ・ファンになりたての時期のぼくがベシーとかアルバータとかに出会って買うなんてことはなかったはず。ロックからブルーズに入ったファンがこういった種類のものにイマイチ苦戦する心境を吐露なさるケースがあるのもこれが理由でしょう。

 

『アムトラック・ブルーズ』も、ブルーズのことをなにも知らない当時のぼくだってジャズ・アルバムとしてまったく違和感なく聴いて好きだったんですから。っていうかつまり完璧にジャズ・アルバムだとしか思っていませんでした。

 

選曲もなにもかも内容は1978年時点からしたって古いというか、いまふうのタームでいえばレトロ・ポップな内容で、2023年に聴くとそんなところがかえって新鮮かも、ある意味で。

 

最新の良好録音で古いSP時代スタイルの音楽をやるっていうそんなレトロ趣味に『アムトラック・ブルーズ』はピタッとくるかもしれません。いまや全員が忘れている作品でしょうけど、これが初アルバータ、初北部都会派女性ブルーズだったぼくには決して忘れられない思い出の一作なんです。

 

とにかく好きなのがトップの「ザ・ダークタウン・ストラターズ・ボール」。これは79年当時からいまでもずっとそう。ピアノ・イントロもジャジーですてきだし、最初の1コーラスをリズムだけでバラード調にしんみりつづるアルバータとバンド(特にピアノ)がとっても沁みます。

 

明夜のバンドのライヴに遅れたくないからちゃんと迎えにきてねお願いしますよ踊りたいからっていうだけの曲で、アルバータが歌うそんな心情も音楽好きだったら心から共感できるものに違いありません。

 

1コーラス終わるとバンドが猛然と快活なビートを刻みはじめますが、その瞬間のスリルもたまりません。スウィング調になってからは管楽器が入ってきて、オブリガートを吹いたりソロをとったり。伴奏だけ雰囲気をちょっとづつ変えながら、アルバータは同じ歌詞をなんどもくりかえしています。

 

プロデュースはジョン・ハモンド。制作陣も歌手にしても78年になにかやろうと思ったわけじゃなく、20年代から歌ってきた同じものをずっと維持していた(といっても引退していたけど)のをそのまま出しているだけで、録音技術とバンドが新しくなったことでレトロな視点と雰囲気が誕生したっていう作品じゃないですかね。声は若くないですけど。

 

(written 2023.5.1)

2023/07/11

とても楽しい曲があるけどアルバムとしてはイマイチみたいなことが多いから、むかしからぼくはよくプレイリストをつくっちゃう習慣がある。いいものだけ集めてまとめて聴こうってわけ

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(4 min read)

 

写真のとおりSpotifyでぼくは現在503個ものプレイリストを作っていますが、こんなやつおらんやろ〜。なんでこんなにプレイリスト作成が好きで、じっさいそれをよく聴いているのか?ちょっと不思議な気もしますが、とにかく自分で作るのが大好き。

 

こうしたことはサブスク・ユーザーになってからのことではなく、それ以前はiTunesで作りまくっていたし、CD時代になる前もレコードからダビングしてカセットテープでマイ・ベスト的コンピレをたっくさ〜ん作成していました。もう音楽ファンになったのと同時くらいに自分で作るようになったんですよね。

 

買ってきたアルバムなりをただそのまま拝聴するというので飽き足らず、リスナーとしてのこちらがわからある種の音楽制作的なことに積極的に参加していく、踏み込んでいくという行為かもしれません。

 

こんなマイ・ベスト・コンピレ作成癖が身についたのは、高校大学生当時自室にレコード再生装置がなかったというのも大きな理由です。家族が集まるリビングにステレオ・セットがあって、自分の部屋で一人聴きたかったぼくは、レコードというレコードを次々ほぼぜんぶカセットにダビングして持ち運んでいたんです。

 

当然レコードの片面長を残さず連続収録できる容量のカセットを使いますから、ダビングし終わるとおしりのほうに空白時間がちょっとできちゃう。そのままにして活用しないのはもったいないよと思って、別のレコードから(続けて流れてきたらよさそうだぞと思うものを選んで)入れて、それで余白をつぶしていました。貧乏性?A面とB面の長さがかなり違うレコードだといっそう。

 

そんなカセットを部屋では聴いていたんで、ショップで買うLPアルバムそのままの姿じゃなかったんです、ぼくがふだん聴いていたのは。音楽ファンになった初っ端からこれで、ずっとこのまま六年近くやってきて、大学院進学で東京で独り住まいになって初めてレコードをそのまま自室で聴くっていう体験をしました。

 

音楽リスナーとしての楽しみかたの土台というか地金みたいなのがダビング・カセット時代にすっかり形成されちゃっていましたので、三つ子の魂百まで、61歳の現在でもヒマさえあれば、いまはサブスクで、マイ・ベスト的プレイリストをなにかにつけてすぐ作るんです。これはもう抜けない習性。

 

そもそも(表題にしましたように)アルバムのなかに一曲二曲飛び抜けて出来がよく楽しいものがあり、ほかはそうでもないっていうケースはめちゃめちゃ多いじゃないですか。そんなときみなさんはどうなさっているんですか?すばらしい曲を待つ残りの退屈な時間はガマンですか?

 

そんなの時間のムダづかいだと思っちゃうぼくは、だからさまざまなアルバムから楽しいと(自分で)思えた曲ばかり選りすぐって集めて聴くようになりました。いはば各クラブ・チームから抜群に優秀な選手ばかり選抜したスポーツの国家代表チームみたいなもん。ワクワクしないわけがないです。

 

つまりぼくの音楽ライフは高校生のころからずっと年中ワールド・カップとかWBCとかが続いているようなもんです。へっへっへ。パソコンでやるかぎりプレイリスト作成はドラッグ&ドロップしていくだけっていう呆気ないほどラクチン簡単な作業で、こんなんでいいの?と思っちゃうほどイージー&カジュアルですしね。

 

(written 2023.6.9)

2023/07/10

ウィズ・ストリングスで聴かせたウィントンの気概 in『ホット・ハウス・フラワーズ』

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(4 min read)

 

Wynton Marsalis / Hot House Flowers
https://open.spotify.com/album/1k5A9i3hIBHm3XKpWBFeNX?si=jNw7ypu1Rr-g1pEOUXJHFw

 

ジャズ・トランペッター、ウィントン・マルサリスのウィズ・ストリングス・アルバム『ホット・ハウス・フラワーズ』(1984)は、レコード・リリース当時どうもピンとこない作品でした。なにをやりたいのか意図がぼやけて不鮮明な気がして。

 

しかしこないだちょっと思い出すことがあって超久々に聴きなおしてみたら、けっこういいじゃんと思えましたからね。やっぱりね、売っちゃうなんて問題外(個人的には)、即断せず数十年経ってもあらためてまた聴いてみるっていうのが大事ですよ(ぼくはしつこい)。それくらい時間がかかる作品もあります。のろまなもんで。

 

ウィントンのこれはあきらかにクリフォード・ ブラウンの『ウィズ・ストリングス』(1955)を反面教師的に意識したアルバムだったんだなということが、いまとなっては鮮明に伝わってきます。ストリングス伴奏もので口あたりの鋭い辛口のものができるんだぞって証明したかったっていうような感じでしょうか。

 

個人の嗜好としてはですね、甘口音楽も大好きなんで、もとから甘いものはとことん大甘に仕上げてくれてこそすばらしい、そのほうがおいしいと思っている音楽好きで、そのことと、情緒感を薄くした辛口のものも好きっていうのは両面あいならび双立するんですよ。あんまり甘党 or 辛党どっち?みたいな二者択一発想をしてほしくないなと(食の面でも)ふだんから考えています。

 

なもんで、ブラウニーのウィズ・ストリングスもかなり好きなんですね、ぼくは。ですけれど、玄人筋や評論家たちからは散々な評価を受けてきたというのも事実。きびしいかたからは「駄盤」と一刀両断されたりして、聴く価値なしだとの見かたがジャズ聴きのあいだでは一般的でしたよね。

 

トランペッターとしてはウィントンも尊敬している存在なので、同じ楽器、同じウィズ・ストリングスものをやって、同じ轍を踏まないようなアルバムをつくりたかった、辛口で、耳の肥えたリスナーをうならせるようなものを、っていうのが『ホット・ハウス・フラワーズ』制作の根底にあったんじゃないでしょうか。

 

ブラウニーのを意識したっていうのは、そのラストに収録されていた「スターダスト」をウィントンのほうは1曲目に置いたのでもよくわかります。そのほか「フォー・オール・ウィ・ノウ」「星に願いを」「アイム・コンフェッシン」などの定番スタンダードもとりあげていて、いずれもスウィートなリリカルさを消した演奏に徹しています。

 

この意図をプロデューサーやストリングス・アレンジャーもよく理解しているのがサウンドを聴いているとわかりますよね。メロディ展開、ハーモニー構成や転調、リズム面での大胆な工夫など、どれもブラウニーのものでは考えられなかった実験に挑んでいて、ただのパス・タイム的ストリングスものに終わらせないスリルを生み出しています。

 

好みだけからいえば、上で書いたようにもともとリリカルなチャームを持っている曲はそれを最大限に活かすような甘いアレンジと演奏がより楽しめるよなあと思わないでもないんですが、ウィントンの気概みたいなものをいまでは素直に評価したいと思えるようになってきました。

 

(written 2023.5.2)

2023/07/09

レトロ・ジャズ・ポップスの先駆けだったと今ではわかるジャネット・エヴラ

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(3 min read)

 

Janet Evra / Hello Indie Bossa
https://open.spotify.com/album/4ZGZHM0fPwIqIRfU2Ozxcx?si=0P354SneSTycICSL0y8A5w

 

bunboniさんのブログで知りました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-06-05

 

bunboniさんとぼく以外話題にするひとがほぼいないジャズ歌手、ジャネット・エヴラ(UK→US)ですが、個人的には2018年のデビュー作『Ash Her to Dance』1曲目「Paris」冒頭の三語 “I still wonder” で惚れちゃった明瞭な発声とヴォーカル・スタイルの持ち主で大好き。

 

それなのに二作目『New Friends Old Favorites』(2021)はイマイチで、それでも記事にはしましたが惚れた弱みみたいなもんで、なんかちょっとモヤモヤの残る作品でした。ジャネットの持ち味はこれじゃない感があったというか。

 

ですから三作目『Hello Indie Bossa』1曲目「Tenderly」がうれしかった。もう一聴で快哉を叫びましたよ。これだよこれこの路線こそがジャネットの本領発揮だすばらしいきれい楽しいって、惚れなおしちゃいました。いやあ、ホント。ジャネット・エブラ、いいねえ。

 

それに「テンダリー」ではヴァイブラフォンがいい。さわやかだし、ボッサ・テイストなジャズ・ポップにちょうどいい色彩を添えていて、ぼくがヴァイブ好きなだけっていう理由もありますが、ここまで曲にピタっと来ているクールな使いかたもなかなかないですよ。

 

それで、ちょっとあれなことを以下書きますが、ジャネットのデビュー作に出会ったのが2019年でしたから、あのころまだレイヴェイはこの世界にいませんでしたし、そもそもレトロ・ムーヴメントがまだそんな顕在化していなかったと思います。

 

そんな時期にジャネットに出会い、こ〜りゃいいね!と思って好きになっちゃったわけですけど、一作目と同様にすばらしいこの三作目の、2023年における立ち位置を考えてみるに、こりゃもう完璧にレトロ・ジャズ・ポップスの代表作そのものです。

 

ふりかえってみれば2018年の一作目はそのみごとな先駆けだったように、いまでは思えます。レイヴェイもこの手のボッサ・ポップスは得意としているし、同じようなことをやっている若手歌手は実に多いです。

 

波風が立つところの微塵もない、ひたすらおだやなでピースフルな癒しになる薄味な音楽 〜 それがコンテンポラリーなレトロ・ジャズ・ポップスの特色なんですが、ジャネット・エヴラもそのなかに位置づけたときに(ぼく的には)理解と輝きが増すように思います。2018年デビューなんで、当時まだその波は立っていませんでしたけどね。

 

(written 2023.6.12)

2023/07/06

アジア人ヘイト・クライムを乗り越えて 〜 チェンチェン・ルー、リッチー・グッズ

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(5 min read)

 

Chien Chien Lu, Richie Goods / Connected
https://open.spotify.com/album/660yigNLfAwobQE2RleOiQ?si=8zTz18puRZaWrWKC0enqGQ

 

在米台湾人ジャズ・ヴァイブラフォン&マリンバ奏者のチェンチェン・ルー、二作目は盟友リッチー・グッズとの共作名義で『Connected』(2023)。リッチーはチェンチェンのデビュー作でもプロデュースとベースを担当していました。

 

これしかし、一月にリリースされたとき(チェンチェンのファンだから)速攻で聴いたにもかかわらず書くのが夏まで伸び伸びになってしまったのは、第一印象からしばらくはイマイチだな〜と感じていたからです。

 

とはいえ『コネクティッド』はついこないだ台湾の大きな音楽賞を受けたんですよね。表彰式では現地の母親が代わってステージに上がりトロフィーをもらって謝辞を述べていました。一作目の『ザ・パス』もなんか受賞していたし、故国では評価が高いんですチェンチェンは。

 

それに先立ちバンドで台湾ツアーもやっていて、本人のInstagramにその様子がどんどん上がっていましたが、それを見るかぎり大盛況。コンサートではアルバム二つからの曲をやったはず。終演後にはチェンチェンとリッチーでやったサイン会みたいなのに大行列で、あの大人気ぶりは母国が産んだジャズ・スター的な扱いなんでしょうね。

 

そんなこんなで『コネクティッド』も見なおしたとかいうわけじゃなく、一月来あきらめず聴き続けているうち(ぼくはそういうしつこい人間)、あるときちょっと前、あっ、こりゃひょっとしてかなりすぐれた音楽かもしれないぞと気がつくようになったわけです。鈍感?

 

エンタメ・ソウル・ジャズ作品だった前作から一転、『コネクティッド』はシリアスな社会派メッセージ性のかなり強いアルバム。一貫するテーマはコロナ・パンデミック期間にUSアメリカで続出するようになったアジア人アジア系へのヘイト・クライムです。

 

リッチーのほうはアフリカ系ということで、やはり受け続けてきた差別や排撃とアジア人ヘイト・クライムを重ね合わせ、しかし両者のコミュニティのあいだには溝も深かったこと、それを今後どう乗り越えていったらいいかといった課題がアルバム全編で追求されています。

 

このテーマをわかりやすく伝達するため、アルバムには三つのナレイション・トラック、4「2021 Interlude」6「Rain Interlude」9「Someday Interlude」を挿入。4と6はチェンチェンとリッチーの日常的なダイアローグで、9はパストール・Dr・アドルファス・レイシーによるスピーチです。

 

リッチーが「アジア人ヘイト・クライムをどう思う?」とストレートに問いかけチェンチェンが自身の考えを述べるといったやりとりが中心で、パンデミック時代の苦悩や内省、USアメリカ社会の現状やそのなかでの人種的マイノリティの生活など。

 

9「Someday Interlude」は先行する8「Someday We’ll All Be Free」に続くもの。それはダニー・ハサウェイのカヴァーで、人種的軋轢をみんなで乗り越えようといういかにも1970年代前半らしいニュー・ソウルの典型テーマを持った曲でした。それが2020年代にもピッタリくるというわけでカヴァーされているんでしょう。

 

したがって9「サムデイ・インタールード」は、性や肌がどんなであれ、人間は支え合わなくちゃ生きられないんだから、壁や溝を乗り越えてつながっていこうよという理想がスピーチされています。

 

身に迫るリアルな課題だからでしょう、チェンチェンやリッチーが生きている今のUSアメリカ社会の現状と自分たちのおかれている立場があぶり出されていますが、アジア人ヘイト・クライムの問題をこれだけクッキリ表現した音楽作品ってほかにあったでしょうか。

 

音楽的にはやはり1970年代ソウル・ジャズ的なサウンドと、今回は特に70年代前半ごろのウェザー・リポート(『スウィートナイター』『ミステリアス・トラヴェラー』あたり)を思わせるサウンドで組み立てられています。

 

さらに5「Rain」はSWV(Sisters with Voices)のカヴァー。ジャコ・パストリアスの「ポートレイト・オヴ・トレイシー」を下敷きにした曲だったので、リッチーのベース・プレイがジャコのそれによく似たスペイシーでリリカルなスタイルになっているのも納得です。

 

(written 2023.7.3)

2023/07/05

今年のレコード・ストア・デイで発売されたマイルズ・ファンク

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(4 min read)

 

Miles Davis / Turnaround: Rare Miles from the Complete On the Corner Sessions
https://open.spotify.com/album/0wjje5HkrFhR7SrIwlHoGT?si=YZZKycuhRX-kN91Yj7CxOw

 

こんなのいつ出たんだ?マイルズ・デイヴィスの新コンピ『Turnaround: Rare Miles from the Complete On the Corner Sessions』(2023)。調べてみたら、今年四月のレコード・ストア・デイ用の商品としてリリースされたものらしいです。へえ。

 

ちょっとした拡大アナログ・シングルみたいなもんで、もちろん四曲すべて『The Complete On the Corner Sessions』(2007)が初出の既発音源をそのまま再録。だけど器が変われば気分も違うってわけでしょ。レコード一枚サイズだし。サブスクにもあったので、ささっと聴いてみましたよ。カッコ内は録音日付↓

 

1 Jabali (1972/6/12)
2 U-Turnaround (1972/11)
3 The Hen (1973/1/4-5)
4 Big Fun / Holly-wuud Take 3 (1973.7.26)

 

「レア」ってことなんですけども、たしかにね、『オン・ザ・コーナー』ボックスが出たときにトータル六枚すみずみまで漏らさずなんども聴きまくって体に染み込ませたぼくみたいなファンがかなりの例外的特殊人間ってことでしょうから、世間一般ではレアな知られていない四曲でしょう。

 

そもそもこの1972〜75年時期のマイルズ・スタジオ音源って、当時リリースされていたのが『オン・ザ・コーナー』と『ゲット・アップ・ウィズ・イット』だけで、『ビッグ・ファン』もあったけどこれからしてすでに蔵出し音源集みたいな趣でした。

 

とにかくマイルズの70年代はLP二枚組ライヴ・アルバムばっかりで、スタジオ音源はちょっとしか公式リリースされていなかったんです。CD時代になってからだって一連の(コンプリートと銘打った)ボックスものが出るまでまるまるごっそり眠ったままで、大部なボックスなんて一曲一音づつ細かく分析的に聴くひとあまりいませんしね。

 

ですから『オン・ザ・コーナー』『ゲット・アップ・ウィズ・イット』『ビッグ・ファン』未収録のものはすべて2023年時点でもレア音源ってことになるかもしれないです。そ〜りゃもう膨大な量があったんですよ。メイジャーなレコード会社(当時のマイルズはコロンビア)の一般的販売ペースだと出しようもなく、お蔵入りさせるしかなかったもの。

 

それらのなかにはじっさい聴いてみればかなり充実したものがたくさんあったというのが今回の『ターナラウンド』でおわかりいただけるかと思います。個人的にはあっさり淡白趣味へと変貌してしまいましたから、このへんの荒々しいマイルズはまず聴かなくなっていますが、夢中だったころに皮下骨髄まで浸入させたサウンドをすみずみまで鮮明に記憶しています。

 

好みだけでいえばB面の二曲がけっこういい(な気分のときなら)。B1「ザ・ヘン」はファンクというよりロック・チューンに近い質感で、ビート・スタイルもそうだしギターのサウンド・メイクもそう。マイルズはトランペットを多重録音しています(二本聴こえる)。

 

B2「ビッグ・ファン/ホリー・ウード-テイク3」は、これをソースに二曲のシングル「ビッグ・ファン」「ホリー・ウード」が抽出され、シングル盤の両面となって73年にリアルタイム発売されたもの。その元音源です。

 

それらシングルの風のような軽ろみのあるさわやかさに比べたら、元音源はイマイチ重たい土ぼこりフィール。当時のマイルズ・ファンクとしてはそのほうが普段着の真実に近かったなとは思います。

 

(written 2023.6.28)

2023/07/04

その俳優や音楽家などの人間性清廉潔白を見たいんじゃなくて、芸能芸術の力や技を楽しみたいだけですから

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(3 min read)

 

前も同じこと言いました。俳優とか音楽家などのやることは、演技や演奏歌唱といった芸能芸術の魅力がすべてだとぼくは思っていて、そこから離れたふだんの生活とか人間性とか清廉潔白であるかどうかなど、正直いってド〜〜でもいいわけです、基本。

 

チャーリー・パーカーみたいなドロドロの違法薬物中毒者や、フィル・スペクターのように殺人犯として刑務所内で人生を終えたとか、でもそのことでこうした音楽家のつくりだした作品の価値が下がったとか販売停止になったとか世間がソッポ向いたとか、そんな話ぜんぜん聞かないでしょ。

 

日本の芸能界だけが世界基準からしたら特殊なのか、すぐ店頭から回収したり配信停止にしたり放送上映を中止したりなど、ぜ〜ったいにおかしいです。そうすることでいったいだれが得をするのか。自粛しろとクレームするカスタマーも一部にいるでしょうが、なにか勘違いしているとしか思えないです。

 

レコード会社、放送局、映画会社、マスコミ、芸能関係者や事務所などは、妙な意見をぶつけてくる一部の世間をはねのけ、むしろ世論をリードしていかなくちゃなんない立場ですよ。芸能芸術の普及拡散をたすけ引っ張っていこうっていう組織なはずが、迎合してやめちゃってどうすんですか。

 

古今東西、芸力と私生活のスキャンダルやだらしなさは無関係。いや、もういまはそんな時代じゃない、ちゃんとした人間であることがそういう世界にも求められているのだということかもしれませんが、そういうもんじゃないと強く思っているぼくの発想が古いのかなあ。

 

不祥事、スキャンダルなどはいはゆる芸の肥やしだから、なんて古めかしいことを言いたいわけじゃなくて、こんなやつはけしからんもう観ない聴かないっていうかたがたは勝手にそうすればいいだけで、販売配信そのものをやめてしまうのは大問題だと思いますよ。

 

そこは視聴者が自分の意思や判断で自主選択できるようにしておいてほしい。そのために会社がわは販売配信を続けたほうがいいです。芸能芸術のためということはちっとも考えられていない事態が(日本では)進みつつあるような気がして、たいへん残念。

 

(written 2023.7.2)

2023/07/03

拡大された『24 ナイツ』でもブルーズ・サイドが好き 〜 エリック・クラプトン

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(4 min read)

 

Eric Clapton / blues side of The Definitive 24 Nights
https://open.spotify.com/playlist/1IoHl9NYgUwgiWU1PZgL6A?si=08473e5594614768

 

CD二枚組だったエリック・クラプトンの『24 ナイツ』(1991)が拡大されてCD六枚+ブルーレイ三枚というボックスになった『The Definitive 24 Nights: Deluxe Box Set』(2023)から、CD2のブルーズ・サイドだけ抜き出して一個のプレイリストにしたのが上のリンク。

 

1990/91年のロイヤル・アルバート・ホール長期レジデンシー公演からのライヴ音源だった『24 ナイツ』のことは個人的にちょっと好きでずっときているというのが事実。昨年一度書きました。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2022/09/post-b01b0d.html

 

なかでも好みだったのがCD1後半四曲のブルーズ・サイド。バディ・ガイ、ロバート・クレイ、ジョニー・ジョンスンなどUSアメリカの黒人ブルーズ・ミュージシャンを一同にバンドにむかえ数々のブルーズ・スタンダード・チューンをくりひろげていたもの。

 

90年代あたりからのクラプトンがやるブルーズについては、特に次作にあたる『アンプラグド』(92)なんかできわだっていましたがクロウト筋からは散々な評判で、世間的にバカ売れしたという事実とは裏腹に従来からのブルーズ(・ロック)・ファンからは「こんなのダメ」と言われたものでした。ブルーズ・アルバム『フロム・ザ・クレイドル』(94)にしてもそう。

 

なんの心境かあのころクラプトンはかなり意識して積極的にブルーズ・スタンダードをたくさんやっていましたが、端緒となったのが『24 ナイツ』のブルーズ・サイドだったんじゃないでしょうか。その後しばらく連続していますからね。キャリア初期からブルーズばかりなひとですけれども。

 

あくまで個人的にはですね、『24 ナイツ』ふくめこのへんのクラプトンがやるあっさりこぎれいなこじんまりブルーズのこともちょっと好きで、エモーションとかスケール感とかはないものの、聴きやすいし、なんだかね、うんシティ・ポップ的洗練というか、とにかくさっぱりしていて胃もたれ胸焼けしないんです。

 

泥くさくないおしゃれでスタイリッシュなブルーズってわけで、裏返せばいくら聴いても心に残らないガツンと来ないものですから、そんなのちょっとね…とみなさんおっしゃるのはマジで理解できます。ぼくもかつて同じでしたから。この歳になってくると薄塩味がいいってだけの話で。この手の告白が恥ずかしくなくなったし。

 

ですから1991年オリジナル『24 ナイツ』でたった四曲だったブルーズ・サイドがディフィニティヴ版では13曲1時間28分となり、これでもかとたっぷり楽しめるのは(ぼくにとって)うれしいんですね。もとの四曲もきちんと再録されているし。

 

91年オリジナルにはなかったバディ・ガイやアルバート・コリンズなどクラプトン以外が歌うナンバーも収録されていますし(違いがきわだっていますけど)、一曲ジョニー・ジョンスンが完璧1930年代スタイルのブギ・ウギ・ピアノを披露するものだってあります。そういうのはどうやったってオリジナル版には入れられなかったものでしょう。タイトなファンク・ブルーズも複数あっていいですよ。

 

なお、このブルーズ・サイド、通して聴くと起承転結があって、一回のコンサートをそのまま収録したみたいな流れに聴こえますけど、じっさいには90年ものか91年か、日付だってバラバラでしょうし、それぞれベスト・テイクと判断できたであろうものを並べてつなげてあるんでしょう。

 

(written 2023.6.27)

2023/07/02

ジャズ・ギターの新進注目株 in Japan 〜 浅利史花

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(4 min read)

 

浅利史花 / Thanks for Emily
https://open.spotify.com/album/6SnmxEiNhgy8qvJGOsUOb8?si=p6sT9a2cQ6CjgfY0lytObw

 

若手新進ジャズ・ギターリストの浅利史花(ふみか)については、2020年のデビュー作『Introducin’』から聴いていましたが、今年出た2nd『Thanks for Emily』(2023)でグンと一段成長したな、これならっていう印象なので、書いておくことにしました。

 

エミリーとは若くして逝去したエミリー・レムラーのこと。しかしエミリー・レムラーっていまやだれが憶えているだろうかっていうような存在になってしまいました。たしかに存命活動中からそんな目立って話題になるギターリストでもありませんでした。

 

ですけれど史花がこうしてトリビュート作を出してくれたおかげでぼくだって思い出すことができました。こないだレコ発ライヴでのツアーを終えたばかり。ドラマー中村海斗を聴いた大阪梅田のミスター・ケリーズでもやったみたいで、そのピアノもやはり海斗ライヴで好きになった壷阪健登。

 

健登はアルバムのほうでも弾いていて、これも個人的にはポイント高いです。アクースティックなピアノ(エレピも)・トリオを基本的な伴奏バンドとし、一曲サックス、一曲フルートも参加。ほぼ全編で史花のギターが大きくフィーチャーされているといっていい内容です。

 

若手新進ながら、アップデートされた新世代ジャズのスタイルで演奏するギターリストではなく、わりと従来路線なメインストリーマーなんですが史花は、でもこれだけ充実した音楽ならばじゅうぶん聴きごたえがありますよ。音の一個一個がちゃんと立っているというか粒立ちのいいサウンドで、そこも感心します。

 

アルバムで個人的に特にいいなと思ったのはファンキー・テイストを聴かせるやつ。なかでも3曲目「Lonely New Year」は超カッコいい。これはほぼジャズ・ファンク・チューンじゃないですか。タイトなファンク・リズムが決まっているし、史花の弾きかたもまるでウェス・モンゴメリーのファンク・ヴァージョンみたいで最高。

 

それでだれの曲?と思ってSpotifyでクレジットを見たら史花の自作となっているんですね。ところがこれはイマイチはっきりしません。なぜならアルバムに収録されている三曲の有名スタンダード「How Incensitive」「I Thought About You」「Polkadots and Moonbeams」も史花自作となっていますから。

 

はっきりエミリーの曲とぼくでも知っているものだって同じで、アルバムの全曲がこれ。このへんはちょっとダメだなあ。サブスクに登録する際、会社の担当者がテキトーいい加減にやっちまったということでしょうけど、おかげでこれ知らない曲だけどとてもいいねと思ったって自作とのクレジットが信用できず。

 

それはそうと、テナー・サックスが参加する6「Go to Bed」もカッコいいファンキー・チューンで、ぼくは好き。1960年前後ごろのハード・バップ・ムード横溢のブルージーさ。こういうのはスタイルが古いとかレトロとかいうんじゃなくて、すたれない王道、エヴァーグリーンってことですよ。

 

あまりにも美しかったウェス・モンゴメリーのがジャズ・ギター・ヴァージョンではよく知られているであろう8「Polkadots and Moonbeams」での史花は、やはりはっきりウェスを意識したような演奏ぶり。特に前半を無伴奏ソロでつづるあたりのリリカルさは特筆すべきみごとさで、聴き惚れます。

 

(written 2023.6.14)

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