酷暑をしのぐ涼感音楽 〜 Tales of Wonder ふたたび
(5 min read)
v.a./ Tales of Wonder: A Jazz Celebration of Stevie
https://open.spotify.com/album/3ooyAWAJArRdEYb1UGO2lS?si=VxX7TyKZSJmqgFGFbBuC6w
暑いっすねえ。なんか今年の夏はいままでにない灼熱じゃないですか。19世紀末に近代的な観測がはじまって以後、日本では史上最高の気温だそう。国連によればこれもはや地球温暖化などではなく地球沸騰化の時代に入ったとかで。
ぼくら庶民としては電気代のかかりすぎを避けなくちゃいけないですから、ちょっとムードだけでもより効果的に涼しくしたいということで、音楽狂の身でその手の涼感ミュージックをさがすわけですが、ピッタリなのがあります。
見つけた三年前の夏にもとりあげて同じようなことを書いたコンピレイション『Tales of Wonder: A Jazz Celebration of Stevie』(2020)がそれ。数日前Facebookメモリーズを見ていて思い出し聴きなおしてみたら、体感温度が2℃下がりました。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2020/08/post-5be26a.html
あらたな感想はないので再度書かなくてもいいでしょうが、今夏の異常高温にさらされるなかでやっぱりもう一度このアルバムの冷感ムードを再確認してお伝えしておきたいと思うようになりました。新規の読者さんもいらっしゃるようですし。
ジャズ・インスト作である『テイルズ・オヴ・ワンダー』がどういうアルバムであるか、個々のミュージシャン名とかについては上にリンクした過去記事をぜひお読みいただきたいと思います(ほとんどクリックされないけどさこの手の)。どうヒンヤリかということに今日はしぼりますが、エレキ・ギターもフェンダー・ローズ・ピアノもヴァイブラフォンも、なんだかブリージー。
曲はすべてスティーヴィ・ワンダーのもので、ここでのカヴァーもエレキ楽器と8ビートをもちろん使っていますから、つまりこれはいはゆるフュージョンなんですよね。フュージョンって1970〜80年代からわりかしヒヤっとしたさわやかな肌あたりのある音楽じゃないですか。
それは都会的洗練ということなんですけども、ジャズもロックもソウルも暑苦しくやろうと思えばいくらでもできる音楽ながら、融合させたとたんにこんな涼風ただようフィーリングになるっていうのがですね、つまりクロスオーヴァーやフュージョンの特質です。
ヴォーカルなしのインストルメンタルであることも、こうした要素に拍車をかけています。といってもここで演奏されている曲、スティーヴィ・オリジナルからして夏向きの冷房音楽みたいな面がちょっとありました。歌を抜くことでいっそうそれが強調されているなと思います。
むさ苦しいフィールになりがちなオルガンだって、5曲目「You Haven’t Done Nothin’」で聴けるそれはすーっとしたミント味のような印象がありますし、エレキ・ギターがテンポ・ルバートでイントロを弾きはじめる出だし1「Send One Your Love」からして、そのギター・トーンがすでにさわやか。
3「Superwoman」でのフェンダー・ローズなんて、まるでエアコンのしっかり効いた部屋でしかも扇風機の軽い風に当たっているかのようなブリージーな響きで心地よく、軽いジャズ・ボッサへと解釈した続く4「You and I」も曲調からしていい。
さらにそこでは(ぼくがクール・サウンドと前から評価する)ヴァイブラフォンの活用が冷感を高めています。同じベン・ギリースがアルバム・ラストの名演「Visions」でもコントラバスとのデュオで弾いていますが、最上の快適さじゃないかと聴こえます。シンプルな二重奏なのがまたグッド。
(written 2023.8.2)
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