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2023年9月

2023/09/28

上海ノスタルジア 〜 しんどいときの音楽(23)〜 林寶

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(3 min read)

 

林寶 / 上海歌姫

https://open.spotify.com/album/10AnSSaMCdFVpsHUz0LnJU?si=y3OrCKcMS4iiCcgAOVIjCA

 

ところで「歌姫」ってことばに拒絶感を示す向きもあるようで、特に一部のフェミニスト界隈がそうなんですけど、その気持ち、実を言うとぼくもちょっとわからないでもありません。なんかね、若い女性を玩具視しているような印象がかすかに匂います。

 

がしかしそれは考えすぎというもの。歌姫はべつにそんな問題になるタームでもなく、外国語なら diva といえるものを漢字圏では歌姫というだけのことで、ディーヴァに違和感なきひとは歌姫もべつにおかしくないはずですよ。

 

そんなわけで上海出身の中国人歌手、林寶(りんばお)の傑作『上海歌姫』(2011)の話をふたたびしたいと思います。第二次大戦前のジャジーな上海歌曲をレトロにとりあげた企画作で、こ〜れがやわらかいノスタルジーにつつまれていて、実にきれい!

 

有名曲のカヴァー集なんですけど、唯一アルバム題になった3曲目の「上海歌姫」だけは本作のために用意された新曲。作品のテーマを言い表したもので、上海時代曲を歌う若い女性歌手という像をきれいに表現しています。

 

「上海歌姫」だけはサウンドもややコンテンポラリーなポップスに寄せたような内容ですが、それを除けばアルバムは全編で完璧レトロなおもむき。ピアノを中心とするリズムとストリングス+木管中心のオーケストラが奏でる響きもたおやかで実にすばらしい。

 

林寶のヴォーカルも、曲によってキュートでコケティッシュな味わいをみせたり、しっとりとした大人の女性を表現するていねいなスタイルまで、その変幻自在ぶりもあざやかで聴き惚れます。ラテン風味がまずまず出ているアレンジも聴かれるのだって、いかにもあの時代っぽいですね。

 

アルバム・ラストの10「天涯歌女」は1曲目のリプリーズですが、幕閉めらしいドラマティックな構成になっていて、歌が終わると二胡に続きピアノに導かれて聴こえてくるストリングス・オーケストラのフレーズが「在し日」への憧憬をとてもとても強くかきたてて、切ない気分にひたらせてくれます。

 

(written 2023.9.10)

2023/09/27

マイルズ60年ライヴの「ソー・ワット」でのトレインにしびれる

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(3 min read)

 

Miles Davis / Kind of Blue (Legacy Edition)

https://open.spotify.com/album/4sb0eMpDn3upAFfyi4q2rw?si=JPrLQFpkTEKydN3Y92hqAQ

 

『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』を聴いていたら、この時期にこのマイルズ・バンドで吹きまくるジョン・コルトレインをもっと楽しみたくなってきて、『カインド・オヴ・ブルー』レガシー・エディション(2009)をピック・アップしました。

 

それのラストに1960年欧州ツアーからのオランダ公演「ソー・ワット」が入っているんですよね。かの『ファイナル・ツアー』と同時期の録音ですが、あのボックスにその「ソー・ワット」は(なぜか)収録されていません。

 

トレインをたっぷりっていうんならそのリーダー作を聴けばいいじゃないかと思われるかもですが、あのときのマイルズ・バンドでの60年欧州ツアーほど吹きまくっているものってあんがい少ないんですよ。それくらいあのツアーでのトレインは苛烈。

 

それになんたってぼくはウィントン・ケリー、ポール・チェインバーズ、ジミー・コブのリズム・セクションが大好きで、この穏当なリズムに過激なトレインのあまりにも過剰なソロが乗るっていう構図がですね、もうたまらないわけです。

 

くだんの「ソー・ワット」におけるトレインのソロ長は8分以上。ボスのトランペット・ソロが3分程度ですからねえ、サイド・メンバーなのに二倍以上も吹いていて、こんなにやっちゃってだいじょうぶだったのか?と心配になるくらい。

 

しかし当時のマイルズはトレインに絶大なる信頼を置いていましたから、好きなようにやらせてあげようっていう気分だったでしょう。それでもさすがに一回聞いたことがあるそうです:「なんでそんなに長く吹くんだ?」と。いはく「夢中になりすぎて終わりかたがわからなかった」。

 

このころからすでにトレインは自身のリーダー作での疾走ぶりを予感させる激烈ぶりがはじまっていて、その端緒がこの「ソー・ワット」で聴けるというわけです。個人的にトレインの(アトランティック、インパルスでの)リーダー作はそうでもないっていう感想を持つ自分にとっては、このマイルズ60年ツアーあたりが臨界点かなあと。

 

臨界点ならではのグツグツ煮えたぎる熱さが聴けますし、それを冷静沈着に支える3リズムの安定感もあいまって、大好物というわけです。

 

(written 2023.9.6)

2023/09/26

しんどいとき助けになる音楽(22)〜 マイルズ『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』

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Miles Davis / Someday My Prince Will Come

https://open.spotify.com/album/4Khts8jtPr6XbQP10q80Hw?si=Uk39inC9TRGE1CSqYPPVaw

 

マイルズ・デイヴィスの諸作中もっとも保守的なアルバムだったかもといえる『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』(1961)。ジャズの歴史を変えた時代を創ったなんていう部分はこれっぽっちもありませんが、音楽は上々ですよね。実は隠れファンの多い作品で、ぼくも大好き。

 

全体的におっとりしたおだやかな内容で、とってもプリティ。そんなところがファンの支持を集めている理由でしょうし、ぼくも体調のひどく悪いのが続く時期に聴いて「いいね」と思えるわけです。いまは荒々しいファンク期なんかとてもムリですから。

 

有名スタンダードと自作がいりまじり、そういえばこの後のマイルズはきれいなバラードなんかほとんどやらなくなってしまったのでした(1981年復帰後を除く)。だからこのアルバムが最後期くらいにあたります。それも愛されている理由でしょうね。

 

丸い音色でやわらかく吹くサックスのハンク・モブリーも好ましく、またウィントン・ケリーを中心にしたリズム・セクションも中庸を心得ていて、いい味です。それに乗せてボスもリリカルであるという本来の美点を存分に発揮しています。

 

二曲でゲスト参加のジョン・コルトレインだっていいスパイスになっていて、この時期のシーツ・オヴ・サウンドを駆使するトレインにマイルズは大きな信頼を寄せていたことがよくわかる吹かせかたです。

 

ジャズ・クリティシズムにおけるマイルズ・デイヴィスという存在とその評価は「歴史をかたちづくったクリエイティビティ」という一点に集約されていて、『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』みたいな、なんでもないハード・バップだけどとっても気持ちいいという作品はかえりみられないのが残念です。

 

(written 2023.9.5)

2023/09/25

最近のお気に入り 2023 秋

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(50 sec read)

 

最近のお気に入り 2023 秋

https://open.spotify.com/playlist/3raRr0pXgEZdpoTsOy6WSE?si=10de93fdabcc44e2

 

ようやくちゃんと涼しくなってきましたね。今年の酷暑はしつこかったなあ。

 

そいで、八月以後体調がひどく悪いせいで、話題の新着とかみなさんのご紹介とかほとんど聴けていないんですけど、それでも主に過去作のなかから晩夏〜九月ごろまずまずよくかけているかなというものを10曲ちょこっと選んでおきました。

 

1 Laufey / Bewitched

2 Miles Davis / So What (live 1960)

3 林寶  / 串(夜上海+夜來香+鳳凰于飛)

4 John Coltrane / Theme for Ernie

5 Billy Joel / Rosalinda’s Eyes

6 Luis Barcelos / Depois das Cinzas

7 Nina Wirtti / Zé Ponte

8 Nat King Cole / Just You, Just Me

9 Nat King Cole / Perfidia

10 Caetano Veloso / Capullito de Aleli

 

(written 2023.9.25)

2023/09/24

#最もよく聴いたライブ盤を4枚あげる

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(2 min read)

 

・Miles Davis / Agharta

・James Brown / Live at the Apollo Vol. II

・Benny Goodman / Carnegie Hall Concert

・Fania All Stars / Live at The Cheetah

 

というのがTwitterで流行っているみたいなので、ちょっと真似して選んでみました。なにか大事なものを忘れている気がしないでもありませんが、まずまずこんなもんで。

 

ジェイムズ・ブラウンやファニア・オール・スターズとかはほかのひともけっこう選びそうですけど、マイルズのこれとベニー・グッドマンはやっぱりぼくならではでしょう。

 

特にベニー・グッドマンですね。こんなのをかなりよく聴いたっていうのはぼくだけかも。でもUSアメリカ大衆音楽史上ほんとうに大きな意味を持つライヴ・コンサート・アルバムなんです。

 

クラシックではないポピュラー界の音楽家がはじめてカーネギー・ホールに出演した記録ですし、しかも1938年にしてそれをきっちり録音し(戦後だけど)レコード発売されたっていうのがですね。

 

間違いなくUSアメリカ大衆音楽史上「初の」ライヴ・アルバムだったはず。だれがはじめてやったのか?なんて話題になっていないと思いますが、ベニー・グッドマンのこれがなかったら、その後もなかったんです。

 

現在は『Live at Carnegie Hall - 1938 Complete』というタイトルのもと、下掲のジャケでサブスクにあります↓

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(written 2023.9.24)

2023/09/21

1920年代そのままに 〜 サラ・キング

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(2 min read)

 

Sarah King / Tulip or Turnip

https://open.spotify.com/album/7hMNhRWeD2XjjMlwL9okYj?si=2csWJKf8RtO84uT0yCo93g

 

ニュー・ヨークはブルックリンの歌手なんだということ以外なにもわからないサラ・キング。名前をアルファベットで検索すると、ギターかかえてテンガロン・ハットかぶったカントリー歌手が出てきますが、別人だよなあ。ぼくがこないだ偶然出逢ったほうはレトロ・ジャズ歌手だもん。そっちは情報ほぼ皆無で。

 

でもファースト・アルバムらしき『Tulip or Turnip』(2021)はマジいいよ。なにも知らないけど惚れちゃった。ちょっぴりビリー・ホリデイちょっぴりブロッサム・ディアリーみたいなキュートなヴォーカルがいいし、なんたって20sディキシー/30sスウィング時代の知られていない隠れた宝石を、当時のスタイルそのままチャーミングに演奏するバンドも好み。

 

バンドはピアノ・トリオにクラリネットだけっていうシンプルな編成。このカルテットもサラも、おおむかしのジャズが心から大好きなんでしょう、ひたすら追求して2023年に再現しているっていう。レトロが流行りだからちょっとやってみたっていうだけだとここまでできないですよね。

 

とりあげられている曲はデューク・エリントンやティン・パン・アリーのソングライターたちなどが書いた、しかも忘れられてしまった小品ばかり。無知なぼくはなんと本作ぜんぶの曲を知りませんでした。クレジット見るまではオリジナルなんじゃないかと勘違いし、たいしたイミテイションぶりだと、そこに感心していたくらいですから。

 

と思っちゃうくらい、知らない曲+きわまったレトロ・スタイルの徹底ぶりで、古いジャズやジャズ系ポップスがお好きな向きには格好にかわいくキュートでチャーミングな一作。8曲目なんか必然性がないのにガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」をクラリネットがイントロで引用しているほどで、要するにあの曲が発表されたあの時代(1924年)のムードがそのままここに活きています。

 

(written 2023.5.14)

2023/09/20

しんどいとき助けになる音楽(21)〜 エマ・スミス

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Emma Smith / Snowbound

https://open.spotify.com/album/0ExyRBD1gjGW2OUeKYecrJ?si=5TLJSgdXQEaVT_pEE5T90g

 

クリスマス・シーズン用のリリースだったエマ・スミスの配信オンリーEP『Snowbound』(2022)ですが、聴くのは一年中いつでもできます。 

 

おだやかに落ち着いた音楽ではなく、かなり元気に跳ねまわっているものなんですけど、心身の具合が著しく悪い現在でも聴ける、いいなと思えるのは、要するに好きだ、愛着を持っているってことなんでしょうね。

 

ハードにグルーヴするモダン・ジャズで、バンドはサックス+オルガン・トリオというこれまた従来的な編成。レトロといえますが、エマ本人はヴィンテージということばをつかっています。

 

ヴォーカルにはコクがあり、雰囲気たっぷりにもりあげるバンドの演奏に乗せてシャウトしたりスキャットしたりの歌いまわしにも余裕を感じさせます。といってもまだフル・アルバム一枚だけというキャリアの歌手なんですけど、やっている音楽が新しいものではないからってことなんでしょうね。

 

個人的に特に好きなのは快活なビートの効いた1、3、5曲目。なかでもストップ・タイムやブレイクを効果的に配した3「I’ve Got My Love to Keep Me Warm」はカッコいい。もうなんかこればっかりリピート再生しちゃいます。

 

(written 2023.9.3)

2023/09/19

しんどいとき助けになる音楽(20)〜 ビリー・ホリデイ

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Billie Holiday / Solitude

https://open.spotify.com/album/4izD3SCRElbkO06i8yf4Zp?si=pS81KETfRpm0SelOrZaqig

 

ヴァーヴ系時代はあまり評価の高くないビリー・ホリデイですが、いいものはあります。なかでもいちばん好きなのが『ソリチュード』(1956)。声のあばれなくなったビリーがひたすら淡々と世界をつづっていて、いまのぼくなら共感できます。

 

ギター、ピアノ、ベース、ドラムスのリズムを軸にトランペットとサックスが一本づつくわわるというジャズ・バンドの伴奏。いかにもヴァーヴらしいコンサバ・サウンドですが、ヴォーカルのバックとしては好適なんですね。

 

ビリーの声と歌いかたは、ある種「老熟」の境地といっていい味を聴かせていて、たしかに1930年代のような覇気はないものの、元気が失せたのがかえって歌にちょうどいい落ち着きをもたらす結果になっているなと、いまのぼくには聴こえます。

 

特に好きなのが1「East of the Sun」、2「Blue Moon」、7「I Only Have Eyes For You」、8「Solitude」、10「Love for Sale」、11「Moonglow」あたり。なかには快活なナンバーもありますが、基本おだやかじゃないですか。速めテンポな曲でもケバ立つところがなく、すべてを悟ったかのような微笑みを感じます。

 

この後、二度目のコロンビア時代となるともっと枯れて、まるでおばあちゃんみたいな声なんですが(まだ40代なのに)、そこまで行く前段階のヴァーヴ系時代のやわらかなビリーを、ぼくはかなり愛しています。

 

(written 2023.9.2)

2023/09/18

しんどいとき助けになる音楽(19)〜 ウィントン・マルサリス

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Wynton Marsalis / Standard Time Vol.3: The Resolution of Romance

https://open.spotify.com/album/3ggRodyIM1r04IT4K3Ikho?si=f8LebH8WQ1WW3zKBWoTmRQ

 

ウィントン・マルサリスの『スタンダード・タイム』シリーズ。何作出たんでしたっけ?途中から興味をなくしてしまって買わなくなったのでした。でも最初のころのはマジでよかったといまでも思っています。なかでも好きだったのが1990年の『Vol.3: The Resolution of Romance』。

 

これ、Vol.3なのにVol.2の前年にリリースされたんですよね。当時のあのへんの事情はいまだまったく知りません。ともあれVol.3はきれいな音楽。これもとうぜんよく知られたスタンダードばかりで(基本は)、しかもこの作品が具合よく仕上がったのはピアノに父エリス・マルサリスを起用したことにあったと思います。ベースとドラムスはウィントンのバンドから。

 

ジャケットにも2ショットが大きく写っているし、父エリスの起用は本作ならではの目玉だったはず。じっさいエリスの抑制のきいたおだやかなピアノがアルバムのムードを決定づけていて、ウィントンもそれにあわせるように淡々ときれいなメロディを吹いているのがいいですよね。

 

アド・リブ・ソロ・パートが少なくて、あるいはまったくなかったりなど、あくまで原曲の美しいメロディをきわだたせようとしているのが聴いているとよくわかり、決して過剰に演奏しない、徹底的に抑え込まれた均整がとれています。

 

バンドで演奏していない曲もけっこうあって、ピアノとトランペットのデュオとか、あるいはエリスのピアノ独奏の曲だって数個まじっていますが、それがまたすばらしい雰囲気ですよ。聴かせるリリカルさを持っているし、どこまでも美しく、徹底的に音楽のつかいとなって演奏しています。

 

ウィントンはいつもこういう音楽をやってくれたら応援できると思います。

 

(written 2023.9.1)

2023/09/17

しんどいとき助けになる音楽(18)〜 由紀さおり

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(2 min read)

 

由紀さおり / VOICE II

https://open.spotify.com/album/5u96HgpkYtVbLgIKd4aPaX?si=zZa8VjBRQWyGXrm7KkcH2A

 

坂本昌之というアレンジャーの存在を知ったのは坂本冬美の『ENKA』シリーズででした。なんてきれいなサウンドをつくるんだろうとビックリして惚れちゃって、結局坂本の仕事を調べて追いかけてぜんぶ聴きたいと思うようになりました。

 

由紀さおりの『VOICE II』(2015)もそうやって知ったアルバム。坂本がアレンジしているということで聴いてみたんです。坂本昌之は21世紀の日本歌謡界で最高のアレンジャーじゃないですか。すくなくともぼくはそれくらい惚れ込んでいます。サブスクだとアレンジャー・クレジットが出ないのは残念。

 

さおりの『VOICE II』は古い(主に1960年代の)非演歌系ムード歌謡曲ばかりをとりあげて、「あの時代」へのノスタルジアも込めながら、なおかつ現代的なジャジーであっさりした薄味音楽に仕立て上げたという一作。曲がどれも古いので、お若いリスナーのみなさんだと知らないものばかりかもしれません。

 

でもそれで問題ないんですよね。決して古くさくなんかなくてじゅうぶん聴ける内容だと思いますし、最初からこういう感じの曲だったんだねと信じ込んでもいいくらいの違和感ないできあがり。さおりの、この歌手はまえからずっとそうですが、さっぱりしたナイーヴでストレートな発声が曲を活かすことにつながってもいます。

 

アレンジされたサウンドがこれまたなんともおしゃれで、21世紀的なジャズ/シティ・ポップの境界線をまたいだような、すばらしく都会的なフィーリング。ここ数年流行しているサウンドを完璧に実現していて、これこれこういうのだよ、ぼくの好きなのは!とヒザを打つような会心の音楽になっています。

 

(written 2023.8.30)

2023/09/14

しんどいとき助けになる音楽(17)〜 アラン・トゥーサン

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(3 min read)

 

Allen Toussaint / American Tunes

https://open.spotify.com/album/0CvKQbws4lBM0UopcAn7OK?si=eMtmsJ3qSt-pVAu7cYo-DA

 

評価しないという向きもあることは重々承知していますが、個人的にはアラン・トゥーサンの晩年二作『ザ・ブライト・ミシシッピ』(2009)、『アメリカン・チューンズ』(16)はほんとうにお気に入りのアルバムです。

 

特に遺作になった『アメリカン・チューンズ』が好き。これは基本ジャズ・ピアノ作品なんですよね。前作もジャズ・アルバムでしたが管楽器がたくさん入っていました。今作ではピアノをほぼ全面的にフィーチャーし、アランの腕前を披露する内容になっているのがいいですね。

 

ニュー・オーリンズの音楽家らしい解釈がいたるところで聴かれるのが楽しくて、それは「ビッグ・チーフ」「ヘイ・リトル・ガール」みたいな、もとからのニュー・オーリンズ・ピースばかりでなく、ビル・エヴァンズやアール・ハインズなどニュー・オーリンズとは無縁だったジャズ・ピアニストの曲でもそうなっています。

 

むしろ「ビッグ・チーフ」「ヘイ・リトル・ガール」ではクラシカルなタッチもあって、なかなかエレガントに仕上がっていますが、「ワルツ・フォー・デビイ」「ロゼッタ」なんかでカリビアンな8ビートが使われています。一聴ちょっぴりビックリするような解釈なんですよね。

 

それでこそニュー・オーリンズらしさが出ているといえるもので、とっても楽しいですよ。それでいて紳士的なエレガンスも失っていないし、さっぱり感のある格調高い演奏になっているのがすばらしい。

 

そして個人的にこのアルバムの白眉は9曲目のゴットシャルク・ナンバー「Danza, Op.33」。一度目のサビ部分からぱっとアバネーラになっているのが大好きで、ぼくはとにかくアバネーラ愛好家ですからね、こういう演奏はモ〜タマランとなります。

 

ヨーロッパのクラシカルな舞曲ふうを基調としながらも、アバネーラでアフリカン/カリビアンなリズム・テイストをも加味していて、ジャズ・ピアノの成り立ちとはどういうものか、ニュー・オーリンズ音楽存立の根源を解き明かしたような演奏です。とにかくもう大好き!

 

(written 2023.8.28)

2023/09/13

ニュー・オーリンズ・ピアノの正統的後継者 〜 ジョン・クリアリー

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Jon Cleary / New Kinda Groove ~ The Jon Cleary Collection

https://open.spotify.com/album/1md164stYAuu9xfWl8c3yS?si=TiNvfYqcR3GI1GiKDcNRwg

 

なんでも10月に来日公演をやるらしいジョン・クリアリー。それを記念して日本編集の新しいベスト・アルバムがリリースされました。『New Kinda Groove ~ The Jon Cleary Collection』(2023)。八月下旬に出たこれが楽しくて、いつなんど聴いても笑顔になっちゃうんです。

 

このひと、生まれはイングランドなんですけど、いまやすっかりニュー・オーリンズ・ピアノ・ファンクの正統的な後継者としてシーンを支える存在ってことですっかり認識されていますよね。Wikipediaなんかでも “American” って紹介されているし。

 

ベスト・アルバムはやっぱり元気にグルーヴするノリいい曲が中心。そのなかに落ち着いたミドル・テンポのものを混ぜ込んだり、なかには沁みるしっとりバラード(失恋系はトーチ・ソングというべきか)もあって、一時間以上を飽かせません。

 

ピアノの腕前はもはや言わずもがな、万人が認めるところでしょうけど、ヴォーカルも味があってかなりいい。ピアノを弾かず歌に専念している曲もあるんですけど、しっかり聴かせます。

 

曲によってちょっぴり鮮明なカリブ香味もただよわせていたりするのは、やっぱりいかにもニュー・オーリンズという土地のなせる伝統のわざ。クリアリーもそうした間違いない味わいを着実に継承していて、ホンモノだなあと実感させます。

 

アルバム末尾に入っているボーナス・トラック的な三曲のライヴもかなりいいです。ってかこのベスト・アルバム、そのパートこそ目玉なんじゃないかと思えますよ。

 

(written 2023.8.9)

2023/09/12

レイヴェイの闊達自在なレトロ・ポップ・ワールド 〜 新作『ビウィッチト』

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(4 min read)

 

Laufey / Bewitched

https://open.spotify.com/album/1rpCHilZQkw84A3Y9czvMO?si=tXKi6AalTbCVDx2RDSdrYw

 

愛するレイヴェイの新作『Bewitched』(2023)が9/8に出たばかりですが、それにしてもかなりのリリース・ペースですよねえ。ファースト・アルバムが昨夏で、一ヶ月後に『The Reykjavík Sessions』があり、秋にやったフル・オーケストラとの共演ライヴが今年初めに出て、九月にはもう新作ですよ。

 

ともあれ『ビウィッチト』はかなり注目されていて、フィジカルがまだなのにサブスクで大ヒット街道を爆進中。本人も大活躍しているし、二年前にデビューEPをインディでリリースしたころほとんど話題にならなかったことから考えたらもうまるで別世界の住人みたいですよ。

 

今作は全体的にかなりクラシカルなテイストの強いレトロ・ポップに仕上がっていて、曲はスタンダードの「ミスティ」を除きやはり自作。それがまったくグレイト・アメリカン・ソングブックの世界そのまんまっていうか、この手のものを書かせたらレイヴェイ以上の存在はいないだろうと確信できるほどですよ。ある種異常な才能と思えるくらい。

 

1950年代ごろの〜〜シスターズ的な世界を模した1曲目「Dreamer」は、こんなふくよかな女性ヴォーカル・コーラスをいままでレイヴェイは使ったことないだけに、新しい世界だなとやや驚きます。もちろん音楽的には完璧にレトロなおなじみのもの。コーラスは一人多重録音かも。

 

個人的に特にぐっときたのが3「Haunted」。ボサ・ノーヴァながらクラシカルなサウンドを持っていて、自身がギターで弾くヴォイシングはジョアン・ジルベルト直系だと思わせます。ビートが入ってきてからがなんとも心地よくて、これ最高だなあ。

 

全体にレトロ・ジャズ・ポップがならぶなか、なぜか6「Lovesick」だけはロック・チューン。これもいままでのレイヴェイにはなかったチャレンジです。しかしこれとてコンテンポラリーではなく、ビートルズとかビーチ・ボーイズを思わせる1960年代風味満載の一曲ですけどね。だからレトロ・ロックというべきか。

 

インタールードとしてはさまれているピアノ・ソロ・インストの9曲目も立派なできばえで、その後はシングルで先行リリースされていたものが続きます。そしてラストのタイトル曲「Bewitched」。間違いなくこれが本作の白眉といえるすばらしさ。

 

オーケストラ・サウンドによるイントロに続きそれがすっと消えレイヴェイ一人でのギター弾き語りでぽつぽつと歌いはじめる瞬間のクワイエットな美しさは、なんとも筆舌に尽くしがいものがあり。曲メロもきれいだし、みごとな一曲ですね。

 

昨年まではベッドルーム・ポップっぽいDAWアプリ駆使での作り込みサウンドが中心でしたが、人気歌手となったことでふんだんに演奏バンドやオーケストラを使えるようになって、もともと本人のあたまのなかで鳴っている音楽を自在にアナログで表現できるようになったのも、本作ではとても大きいことです。

 

(written 2023.9.12)

2023/09/11

しんどいとき助けになる音楽(16)〜 エラ and ルイ

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Ella Fitzgerald, Louis Armstrong / Ella and Louis

https://open.spotify.com/album/3kfnwa4p4uYiTOP8K8ooSE?si=xQmVoSH8RfSoF0X72l2RbA

 

あれっ、これまだこのブログで書いたことなかったみたいだなあ、エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングのデュオ・ヴォーカル・アルバム『エラ・アンド・ルイ』(1956)。といっても「耳で聴く幸せ」として楽しむようになったのは最近のことですけどね。

 

もちろんジャズ・ファンになりたてのころから存在は目にしていたものの、これといった理由なくなんだか遠ざけていました。注目するようになったのは、エラとルイのデュオ録音コンプリート集CD四枚組『チーク・トゥ・チーク:ザ・コンプリート・デュエット・レコーディングズ』が2018年に出て以後のこと。

 

あのボックスはほんとうに楽しかった。それで本体は『エラ・アンド・ルイ』シリーズだっていうのを意識するようになったからですよね、この1956年作をちゃんと聴くようになったのは。ハードでエッジのとんがった音楽が好きだった若い時代に届いてこなかったのはムリもないんですが。

 

そう、『エラ・アンド・ルイ』はひたすらおだやかでまろやかなやさしい音楽で、自宅とかでゆっくりくつろぐにはもってこいなんですよね。どこが楽しいかなんて細かいことはいちいち言いませんが、細部までていねいな気の利いたサウンドに乗せ、エラとルイがスポンティニスかつスムースに歌っています。

 

選ばれている曲はすべてティン・パン・アリーのスタンダード。それをなんのひねりも工夫もせず二人がストレートにかわるがわる歌っているだけなのに、どうしてこんなに楽しく美しいのか。ベテランならではの熟練のわざっていうか、ささっと演唱してここまでの世界ができあがってしまうっていう。

 

ヴァーヴのハウス・バンドともいうべきオスカー・ピータースン・カルテットの歌伴もツボを心得ていて実にみごとで気持ちいい。自身の作品ではどうもちょっとねと思わないでもないピータースンも、歌伴ならここまで味のある文句なしのピアノを聴かせるってのがとってもいいですね。

 

(written 2023.8.27)

2023/09/10

しんどいとき助けになる音楽(15)〜 レイヴェイの『ザ・レイキャヴィク・セッションズ』を愛する理由

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Laufey / The Reykjavík Sessions

https://open.spotify.com/album/6ETdl4OHcpXhMQdLWstM2G?si=n1Jw76yQS6GxFiLU_Sv-wQ

 

しんどいときによく聴く音楽としてレイヴェイのことをきょう9/8は書こうと思っていたら、かねてからのアナウンスどおり新作『Bewitched』(2023)のリリース当日でした。こ〜れがすばらしくって!

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でもまだ二、三回しか流していないし、もうちょっと時間をかけてじっくり聴き込んでから新作のことは書きたいですから、きょうはいままでのレイヴェイ作品で個人的にいちばん愛着のある配信EP『The Reykjavík Sessions』(2022)について軽くメモしておくとします。

 

これがなんであるか、なぜレイキャヴィクかなどについては去年リリースされたときにくわしく書いた過去記事がありますのでどうかご参照ください。配信のみ、EPであるということからか、全世界的にだれひとり話題にしませんが、音楽は極上であるとぼくは信じています。

 

ピアノやギターでの弾き語りソロ録音で、話題にならないもう一つの理由としてポップというよりややクラシカルな感触が強いのでということもあるかもしれません。選りすぐりの自身の良曲ばかりだし、楽器の腕前は確か、ヴォーカルもふくよかですが、装飾のまったくないラフ・スケッチでもありますし。

 

しかしぱぱっと簡易にやったようなパフォーマンスでありながら、できばえは実にみごと。加工のないソロ弾き語りで、かえって曲の姿や魅力、歌手&楽器奏者としての輪郭がくっきりむきだしになっていて、ナマの息づかいまで聴こえてきそうな良好録音でレイヴェイの真実みたいなものがポンと前に出ていると思いますよ。

 

(written 2023.9.8)

2023/09/07

ショーロな七弦ギターの教本 〜 マルコ・ペレイラ、ロジェリオ・カエターノ

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(3 min read)

 

Marco Pereira, Rogério Caetano / Sete Cordas, Técnica e Estilo

https://open.spotify.com/album/4uWDqS1SAAToMFOhALcnWi?si=kz9oAPfXS3qsTYG6UqSsMg

 

Spotifyの『Release Rader』で出会ったんですけど、アルバム題といい各曲題といい聴いてみても、なにかブラジリアン七弦ギター練習曲集みたいな感じのマルコ・ペレイラ、ロジェリオ・カエターノによる『Sete Cordas, Técnica e Estilo』(2023)。でもこれ、どれもちょっと弾いてはすぐ止まるし、なんだろうなあ、ショーロには違いないんだけど、と思って調べてみました。

 

そうしたら、七弦ギター教則本(2010)の付属音源なんだそうです。道理でね。だからちゃんと教本があって、それにはCDで付属しているんでしょう、その音源がサブスクにもあるだけっていう。本の表紙(が音源のジャケでもある)をよく見ると、演奏がロジェリオで、教本の執筆監修はマルコとなっています。

 

こういうのはテキストがないとね、サブスクで音だけ聴いていてもおもしろくないんですが。で、この本+CDは日本でもディスクユニオンで売っているようですよ。とはいえ七弦ギターがなかなか通常の楽器店やギター・ショップでは買いにくいんじゃないかなあ日本では。六弦も満足に弾けないぼくなんか、七弦なんてムリムリ。

 

でもなんとなくの雰囲気にひたるだけっていうか、サブスクでこれを流しながらムードだけ、マルコやロジェリオに教わっているようなちょっとしたメイク・ビリーヴっていうか、ポルトガル語読めないからやっぱり教本のほうはあれだけど、音だけで、弾けない七弦ギターをなんだかちょっと習っているような、それだけのホント軽い妄想にはひたれます。

 

それににしても聴いてみたら多くでギターは二本同時に聴こえ、一本がリズム・カッティングで一本が単音旋律を奏でているし(+パンデイロ程度)、その様子からしてロジェリオの多重録音じゃなさそうですよ。マルコも弾いているのかもしれません。

 

サックスやフルートが入るパートもあります。でもあくまで主役は七弦ギター。ところでナイロン七弦ギターってブラジル以外で使われている音楽あるんでしたっけ?それもショーロやショーロふう伴奏のつくサンバとか、そういうのだけというに近いような気がするんですが、この印象間違っているでしょうか?

 

(written 2023.6.17)

2023/09/06

しんどいとき助けになる音楽(14)〜 カエターノ・ヴェローゾ

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Caetano Veloso / Fina Estampa

https://open.spotify.com/album/6fBP4q8gYKo4LU9V6zVT3i?si=jaARo-5yToOPQF-yTMtbYA

 

こないだ思い出すきっかけがあったカエターノ・ヴェローゾ(ブラジル)の『粋な男』(1994)。これホントめっちゃ好きなんです。やっぱり肌あたりのやわらかいフィーリン集っていうのがですね、いまのしんどいぼくにはピッタリ。

 

フィーリンっていうかラテン歌曲集だから、ブラジル人のカエターノですけど本作は全編スペイン語。当時の相棒ジャキス・モレレンバウムがチェロとオーケストラ・アレンジを担当し、きれいなきれいな世界を構築しています。それだけでも聴き惚れるくらいの。

 

その上で歌うっていうよりなめらかにすべっていく感じのカエターノのヴォーカルも実に気持ちよくソフト。選曲もいいしアレンジいい歌もいいっていう三点揃いで、これぞカエターノの最高傑作であろうとぼくなんかは前から考えています。

 

これの次作にあたるライヴ・アルバム『Fina Estampa Ao Vivo』(1995)は、そこまでのキャリア全体をふりかえる総決算的な作品。スケールが大きいし充実していて、カルメン・ミランダとかブラジル語の歌もあり。汎ラテン・アメリカ的視点があって楽しいものの、ややフォーカスが甘いかなという気がちょっぴりしないでもないです。

 

(written 2023.8.26)

2023/09/05

シティ・ポップとしてのキャロル・キング「イッツ・トゥー・レイト」

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Carole King / Tapestry

https://open.spotify.com/album/12n11cgnpjXKLeqrnIERoS?si=4ZQYuodbSxS0wCh7ebSFNA

 

『ライター』を聴きかえした際、ついでだからとやっぱり『タペストリー』(1971)も聴いたんですけど、今回は新発見がありました。シングルでヒットもした3曲目の「イッツ・トゥー・レイト」がめっちゃおしゃれで都会的。

 

だから、ある意味1971年にしてシティ・ポップの先駆けみたいになっているなあ、とあらためて感じました。特に中間部でギター〜ソプラノ・サックスと続くソロ・パートはややジャジーというかフュージョンっぽさをもただよわせ、この曲の都会ムードをいっそう高めています。

 

楽器ソロはほかにも入っている曲があるのに、なんか「イッツ・トゥー・レイト」だけムードが違いますからね。かなり洗練されているし、コンガまで使われているややラテンな雰囲気でリフまで考えられていて、かなりていねいにアレンジされています。

 

もうなんか聴けば聴くほどシティ・ポップ・チューンとしか思えなくなってくるんですが、キャロルも最初はNYCで活動していたんだし、西海岸に移ってからも大都会ロス・アンジェルス在住で、ソング・ライティングにおしゃれで都会的な要素があっても不思議じゃないなとは思います。

 

『タペストリー』全体ではそんなムードあまりないだけに、「イッツ・トゥー・レイト」の都会っぽさ、ジャジーさが目立っている気がしますね。

 

(written 2023.8.25)

2023/09/04

しんどいとき助けになる音楽(13)〜 キャロル・キング「アップ・オン・ザ・ルーフ」

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Carole King / Writer

https://open.spotify.com/album/6sy9uYbSfuhH1HCv2e6269?si=0_caJkd0Q9CnErubdekBqg

 

西海岸に移ったキャロル・キングが『タペストリー』(1971)で大ブレイクするその一個前のアルバム『ライター』(70)末尾に収録されている「アップ・オン・ザ・ルーフ」が切なくてはかなくて、ほんとうに大好き。

 

NYCのブリル・ビルディング時代に書いたもので、もとはドリフターズへの提供曲でした。そっちも有名だけど、ぼくはこのキャロル自演ヴァージョンのほうが圧倒的に好きですね。最大の理由は「しんどい」人間向けの歌だから。

 

つらいときは屋根の上に逃げるんだっていう内容で、ドリフターズのは仕事が忙しいときに一服しようといった程度の歌だったのが、キャロルのはもっとグッと内省的になっていて、自己を見つめ、しんどいときにはこうすればいいのかもっていう、いかにもシンガー・ソングライターらしい内的な歌へと変貌しています。

 

そんなところが、このキャロル「アップ・オン・ザ・ルーフ」が沁みる理由。ミーハー・ファンのぼくは長年『タペストリー』でしか触れてこなかった音楽家でしたけど、あるときCD二枚組のベスト・ボックス『A Natural Woman: The Ode Collection 1968-1976』っていうのが出たときにそれを買ってみたんですよね。

 

いま調べてみたら1990年代末ごろの発売だったみたい。そしたら一枚目に「アップ・オン・ザ・ルーフ」が入っていて、一聴で泣いちゃったんですよね。ドリフターズのヴァージョンすら聴いたことなかったんですが、このキャロルのはなんて沁みるんだと。一発でこの曲のファンになっちゃいました。

 

ずっとずっと前、このブログのコメント欄でAstralさんとこの曲の話になったことがあって、同じ気持ちの人間がほかにもいるってわかったのはうれしかったですよ。一般世間ではさほどなんとも思われていない曲らしいですけどね。

 

(written 2023.8.24)

2023/09/03

しんどいとき助けになる音楽(12)〜 My Favorite 梅朵

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My Favorite 梅朵(精選版)

https://open.spotify.com/playlist/1yDx2eyj8j3DZJSgVere0L?si=022851ed54a040d8

 

1970年北京生まれのCポップ歌手、梅朵(めいどあ)がとってもさわやかで、ほんとうに気持ちよくて、大好き。知るきっかけが去年あったんですが、そこからはずっと聴くようになっています。『My Favorite 梅朵』っていう自作プレイリストをですね。

 

さわやかと書きましたが、ホントこれがこの歌手で最大の特質なんじゃないかと思います。健康なときにはもちろんいいし、心身が弱っているときなんかにもそっと寄り添ってくれるやさしさ、あたたかみだって感じる声で、そっと手をかざしてくれているっていうか、なんか、そんな心地がいま聴いていてもするんですよね。

 

曲メロがもとからそんな感じだからっていうのが大きいと思いますが、おそらくすべて梅朵のために用意されたオリジナル・ソングじゃないでしょうか。それらをどんな作家が書いているのかとっても知りたいぞと思ってもよくわからないんです。Spotifyでクレジットを見ると漢字名が書かれてはいますがサッパリで。

 

アレンジもとってもいいし、ほとんどが打ち込み、コンピューター使用によるサウンドと聴こえますが、なかなかオーガニック感のある響きですよね。その上を風が吹き抜けていくかのようにさらっと軽快に歌う梅朵のソフトな声質が沁みて、歌詞がチンプンカンプンなのにこんなに心を動かされることってあるんですね。

 

なかでもぼくのオススメはプレイリスト3曲目に入れておいた「有没有一种思念永不疲惫」(2020)。これ一曲だけでもいいので、ぜひ聴いてみてほしいな。マジでさわやかで気持ちいいんだよ〜。

 

(written 2023.8.22)

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