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2023年10月

2023/10/31

しんどいとき助けになる音楽(39)〜 ナット・キング・コールのラテン歌曲集

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(3 min read)

 

Nat King Cole / Latin American Tour with King Cole

https://open.spotify.com/playlist/7GlR8e592Xomud4vjHrN9h?si=fe5d4246adb14740

 

ナット・キング・コールでもう一個、ラテン歌曲集の話をしたいと思います。ジャズ・ファンにとっての戦後のナットが『アフター・ミッドナイト』であるなら、一般のポップス・ファンにはむしろラテンでしょうしね。個人的にも大好き。

 

ぼくなんか大のナット好きでありかつラテン・ソング好きなんだから、気に入らないわけがないっていう。上のSpotifyリンクは自作プレイリストですけれど、ただの私的ベストじゃありません。ナット生誕100年記念で2019年にテイクオフ/サンビーニャからCDリリースされた『キング・コールと行くラテンアメリカの旅』と同内容。

 

ベスト・アルバム的コンピレなのでそのままではサブスクに載るわけありませんが、もとのラテン・アルバム三枚はもちろんあるので、編者の竹村淳さんの真似を勝手にしてSpotifyで編んでおいたものというわけです。これが楽しい。

 

あの時代の日本の洋楽好きにとってのナット・キング・コールとはどういうものだったのかを如実に物語るセレクションで、いまの時代までもこうした歌は永遠に愛されるものだなあと実感します。

 

原語(スペイン語、ポルトガル語)のままナットは歌っているわけですが、いずれもちっともしゃべれなかったそうです。まさに一音一音なぞるようにコピーしながら発音し歌っていったらしいのですが、それを考慮に入れれば大健闘というべき内容でしょう。

 

実際ナットのラテン・アルバムは中南米諸国でも受けがよく、かなり売れたそうですから。歌手としての存在感ということでしょうけど、しっかりアレンジされたオーケストラ・サウンドもよく練れているし、ラテン・テイストがほどよくブレンドされているっていうか、中庸な味で、聴きやすいですよね。

 

(written 2023.9.27)

2023/10/30

しんどいとき助けになる音楽(38)〜 ナット・キング・コール『アフター・ミッドナイト』

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(2 min read)

 

Nat King Cole / After Midnight

https://open.spotify.com/album/30S26T1LJHuWoMl8xb6Wl4?si=kkEYq0fYSNe5NlFXtPNF2w

 

だれがどう言おうとナット・キング・コールが好き。なめらかで丸く甘い歌声がですね、ほんとうに気持ちいなぁって。1957年のアルバム『アフター・ミッドナイト』は、ポップ歌手として大きな成功をおさめたのちにやったジャズ回帰作で、とってもいいんです。

 

原点回帰ってわけで、もちろんナットもジャズから出発したのでした。本作のレパートリーのなかには1940年代初期のピアノ・トリオでやった曲の再演もあるし、ほとんどすべてがスウィンギーなジャズ・ナンバーで、痛快。

 

むろんなかにはポップに寄ったような曲もあるんですけど、そうかと思えばごく初期のデビュー当時(デッカ時代)を思い起こさせるようなジャイヴなフィーリングも聴けたり、ラテン・ナンバーもあったりと、さまざまな切り口からこの歌手を楽しめるいい作品ですよね。

 

スタンド・マイクで大きなオーケストラをバックに歌うようになっていたナットが、ひさびさにピアノの前にすわって、弾きながらコンボで歌っているし、その腕前もかつてのまま立派です。ピアノをかなりたくさん弾いているし、メンバーのジャジーなソロやオブリガートもたっぷり。

 

40年代と比べればいっそう声が丸くソフトで甘口になったなあという実感もあり、そういうほうが好きなぼくなんかにはむしろ『アフター・ミッドナイト』こそ好ましいと思えたりしますからね。

 

(written 2023.9.26)

2023/10/29

秋の陽だまりのように快適 〜 原田知世『恋愛小説 4』

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(3 min read)

 

原田知世 / 恋愛小説 4〜音楽飛行

https://open.spotify.com/album/5OrIKp4u65lKY1MGvhzWZB?si=_xQK-YW6ScmmuqNXXW7rjQ

 

リリースされたばかりの原田知世最新作『恋愛小説 4〜音楽飛行』がかなりいい。伊藤ゴローがプロデュースするこのカヴァー・ソング・シリーズのなかでは最高の出来になったんじゃないかという気すらします。ほとんど傑作といっていいです。

 

今回はすべて洋楽ソングのカヴァーで、1960〜70年代初演のものばかり。ビートルズ、モンキーズ、カーペンターズ、ニール・ヤング、ジョニ・ミッチェル、ロネッツ、スティーヴィ・ワンダー、ビリー・ジョエル。一定世代にはこたえられない選曲でしょう。

 

ゴローは基本的にオリジナルのアレンジを尊重し、でありつつフレイジングはそのままに楽器を置き換えたり、ジョニの「Both Sides Now」で聴かれるマリンバのかすかなサウンドなど細かく手のこんだ隠し味までていねいにほどこしているのがわかります。

 

そしておどろくのは知世ヴォーカルの成熟ですね。以前からくりかえしていますように50歳を超えたあたりから歌手としての円熟とめざましい成長・完成をみせるようになり、キュートでチャーミングな持ち味はそのままに歌手として安定するようになりました。

 

今作でも全曲英語詞ということで歌いにくさがあったのでは?とリリース前はぼんやり想像していましたが、いざ聴いてみたらとんでもない、非の打ちどころのない歌いこなしで、これなら日本語歌手による洋楽カヴァー集として文句なしに推薦できる内容です。

 

ちょうどいまぐらいの秋の心地いい晴れた日の午後の陽だまりを思わせる本作での知世の歌(をゴロー・サウンドが支えているわけですが)を聴いていると、ほんとうに心地よくて夢見心地。このままこの時間が永遠に続けばいいのにと感じるほど。

 

ほんとうに歌手として知世は成長した、円熟してきているというのを心の底から実感できるアルバムです。永年の愛聴作になりそう。

 

(written 2023.10.28)

2023/10/26

タイトなコンテンポラリー・ジャズ 〜 チェンチェン・ルー

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Chien Chien Lu / Built in System: Live in New York 内建系統

https://open.spotify.com/album/1w8DTGBEwQ3YRsDTC9Mv0o?si=V7E-APnASpGYAcbnHd-Mkw

 

チェンチェン・ルーがいいぞと日本語で話題にしているのがほとんどぼくだけのような気がして、これこのままでいいんですかね。たしかに世間的にヒットする要素がまったくないわけですけども、音楽はごく上質の台湾人ジャズ・ヴァイブラフォン奏者であります。

 

そんなチェンチェン、つい先週出た最新作『Built in System: Live in New York 内建系統』(2023)は、今年二作目で通算三作目。といっても今年一つ目はリッチー・グッズとの共作名義による企画アルバムでしたから、単独名義のソロ作品としてはキャリア通算で『The Path』に続く二個目です。

 

その『ザ・パス』が明快な1970年代ふうソウル・ジャズでファンキー路線まっしぐらだったのに比べたら、最新作『Built in System』は情緒感を消したコンテンポラリー・ジャズ路線といえます。こういうのもいいですね。

 

編成は、ふだんのボス、ジェレミー・ペルト(tp)に、リッチー・グッズ(b)、アラン・メドナード(dms)というカルテット編成。鍵盤楽器やギターがいないというのもタイトなサウンド・カラーを決定づけている大きな理由でしょう。

 

またドラムスのアランがかなりの好演を聴かせていて、細かな手数の多い細分化ビートを叩き出すありさまは、まさにいまのコンテンポラリー・ジャズではドラムスが鍵を握っているぞと実感させるものがあります。

 

ファンキーだったりメロウだったりすることがないのは、プロデューサーがジミー・カッツに交代したのが理由かも。ジミー・カッツはNYCで非営利のジャズ・レーベルを運営する人物で、レコーディングし作品をリリースするチャンスがなかなかないけれど音楽的にはすぐれているというミュージシャンに門戸を開いているという存在です。

 

そんなわけもあってか、本作でのチェンチェンはエンタメ路線ではなくややネオ・クラシカルな現代ジャズを志向していて、リリカルだったりする部分がまったくない硬質なサウンドを心がけているのがよくわかります。今回マリンバは弾かずヴァイブに専念しているのも特色でしょうか。

 

(written 2023.10.22)

2023/10/25

しんどいとき助けになる音楽(37)〜 ソウル II ソウル

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Soul II Soul / Club Classics Vol.One

https://open.spotify.com/album/5VxTLm2IZsDQn3r9eX1qfa?si=EewlEFr7TVqtD1AkoegODQ

(オリジナル・アルバムは10曲目まで)

 

ソウル II ソウルのことはいまでも大好き。このユニットっていうより、ファースト・シングルとして大ヒットした「キープ・オン・ムーヴィン」(1989)がもう好きで好きで、その気持ちはずっと変わらず続いています。

 

日本でこの曲のスタイルはグラウンド・ビートと呼ばれていて、「キープ・オン・ムーヴィン」一曲お聴きになれば、ご存知ないかたでもああこんな感じねと納得していただけると思うんですけど、それがぼくはもう大好きでたまらないわけです。

 

間違いなく御茶ノ水ディスクユニオンで耳にし、そう、あのころ(1980年代末〜90年代前半)明治大学の駿河台キャンパス夜間に非常勤で毎週金曜日通っていて、授業開始まで余裕のあったときは入りびたっていました。その後山の上ホテルのカフェでコーヒーっていうルーティン。

 

記憶が確かならまずファースト・シングルとして「キープ・オン・ムーヴィン」が出て、その後それを1曲目に収録した一枚目のアルバム『クラブ・クラシックス Vol.1』が出たんだったと思います。どっちも買いました。

 

っていうかアルバムのほうは、ひょっとしたら『キープ・オン・ムーヴィン』とのタイトルを冠したアメリカ盤のほうを買っていたかもしれません。中身は同じなんですけど、ヒット曲の名前を出したほうが売りやすいだろうとの判断だったかもしれませんね。

 

個人的には、打ち込みビート+アクースティック・ピアノ+ストリングス+キャロン・ウィーラーのヴォーカルだけっていうシンプルでスペイシーな「キープ・オン・ムーヴィン」という曲のことが大好きなだけだったから、アルバムのほうは2曲目以後イマイチな感じがしていました。いま聴きかえしても同じ気持ちですね。

 

世間的には「バック・トゥ・ライフ」とかのほうが売れたんですけど、ぼくにとっては「キープ・オン・ムーヴィン」一曲がすべてのユニットでした。

 

(written 2023.10.6)

2023/10/24

しんどいとき助けになる音楽(36)〜 カーティス・メイフィールド

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Curtis Mayfield / New World Order

https://open.spotify.com/album/4M8Zce860gRCdyv1hXOK32?si=Xc9Tbl_eTh-mKni5klpCTQ

 

ダークでペシミスティックなトーン 〜 これがカーティス・メイフィールドの最終作『ニュー・ワールド・オーダー』(1996)を支配しているフィーリングですが、そうであるがゆえにいまのぼくはとても強く共感し、そうだよねえと納得できるんですよね。

 

明るめの曲もあるにはありますが、全体的にはどこまでも暗く、とまで言わなくても落ち着いた渋い色調で塗り込められているでしょう。あらゆる面で絶好調だった30代なかばで出会ったんですけども、歳とって、さらにきびしく体調が悪化して悲観的な気分になってきている現在では、かけがえのない大切な音楽に聴こえるんですよね。

 

だからといってカーティスは決して絶望しているわけでもありません。若さと健康の貴重さを一つのテーマとして扱っている作品のように思えますが、ここでのカーティスならではの人生に対する深い理解、納得感、そしてある種のポジティヴィティも込められているんです。

 

こういった音楽は、カーティスと似たような境遇にある人間をなぐさめてくれるだけでなく、人生が思ったようにならず、不健康で、落ち込んでいるすべてのみんなに向けられたもの。聴けば慰撫されるし、つらいことばかりの人生も、だからこそ美しいんだと語りかけてくれているかのようです。

 

(written 2023.10.4)

2023/10/23

しんどいとき助けになる音楽(35)〜 カウント・ベイシー&カンザス・シティ7

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(2 min read)

 

Count Basie and the Kansas City 7

https://open.spotify.com/album/38hVn63tek1lRKfkvZiZpk?si=Zqy0TJFqQ56b7r4MmmINDg

 

音のよい戦後録音でカウント・ベイシー・バンドの実力がとてもよくわかる『Count Basie and the Kansas City 7』(1962)は、むかしもいまもぼくの大推薦アルバム。しかもここでは少人数のコンボ編成でモダン。

 

ベイシー・バンドが編成を小さくしてやるときには戦前からカンザス・シティ6とか7とかの名前をよく使うんですよね。このアルバムのばあいは細かい部分までかなりしっかりアレンジされているなという印象があって、リズムのストップ&ゴーとかホーン・リフのフレーズや出入りなど、譜面なしでは不可能な内容。

 

アレンジを書いたのはフルートで参加しているフランク・ウェスでしょうね。細かくていねいに練り込まれていながらも、このカンザス・バンドのイキイキとしたスポンティニアスさをちっとも殺さずかえって引き立てるみごとなアレンジ手腕と思います。

 

ソロをとるメンバーのなかでは、特にベイシーのピアノが目立ちます。思わず「うまいなぁ〜」と声が出そうになるほどの闊達さで、といっても例によって音数はかなり少ないんですが、要所のみを確実に押さえていく様子はさすがとしか言いようがありません。

 

そのベイシーのピアノを中心とする4リズムのまるで生きもののような躍動感こそ本作の聴きどころ。フロントで吹かれるホーン・ソロはそんな特筆すべきできばえでもないように思いますが、リズム・セクションのピチピチしたみずみずしいスウィング感ですべてを納得させてしまうものがあります。

 

(written 2023.10.2)

2023/10/22

打ち込みでやっていても、打ち込みでつくりましたなデジタル感なしっていうのがレトロ・ポップ 〜 サラ・カン

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Sarah Kang / Hopeless Romantic

https://open.spotify.com/album/4T9XmSaKAXnEYyNn8ILJK2?si=j2gNUlaFSmGyeZyLythsOQ

 

お気に入りのレトロ歌手、サラ・カン。韓国出身でUSアメリカを舞台に活躍しています。そんなサラの今年出た『Hopeless Romantic, Pt.1』のことは以前書きましたが、パート1となっているし、本人のインスタでも first half って書いてあるしで、こりゃ来るフル・アルバムの前半部かもしれないなと。

https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2023/07/post-31160e.html

 

そうしたら、やっぱりフル・アルバム『Hopeless Romantic』(2023)が10月6日にリリースされました。うれしい。前半部の五曲で聴けるレトロ・ポップぶりにすっかり骨抜きにされていたぼくは、フル・アルバム大歓迎。

 

後半部に五曲が追加され計10曲となりました。後半のそれら五曲も前半部とまったくムードは変わらず。はかない恋愛風景を甘く切ないジャジーなレトロ・ポップでつづる内容で、ビートはやはりDAWでつくっている模様。

 

そこにピアノやギターその他の演奏楽器がくわえられ、サラが自身の書いた歌をキュート&スウィートに乗せるといった感じ。このひとはただ書いて歌うだけでなく、演奏もアレンジも自分でやっているDIY派なんで、今回の後半部もそうやっているはず。

 

ただ折々にゲスト歌手は参加していて、いろどりを添えています。DAWビートやシンセサイザーもサラは自分でやっているわけですが、特色は生演奏楽器のようなオーガニックなサウンドに仕立て上げられているというところ。レトロ・ポップですからね、それが命です。

 

打ち込みでやっているにもかかわらず、打ち込みでつくりましたなデジタル感が絶対にないっていう、そのへんが一部のロックや、ハウス、ヒップ・ホップなどとの違いですね。

 

レトロ・ポップは懐古的なアナログ感が大切にされるようになった2020年代のファッションなんで、最新のサウンド・メイクでやってはいても、そこのフィーリングは絶対に失わないわけです。おわかりですか。

 

(written 2023.10.21)

2023/10/19

ダウナーなレトロ・ジャズ 〜 リッキー・リー・ジョーンズ

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Rickie Lee Jones / Pieces of Treasure

https://open.spotify.com/album/1uj9iLqDY2alHSLYnTE9wY?si=bW1_EtUWRau72F2BuDy2rw

 

レトロばやりってことで、なんとリッキー・リー・ジョーンズまでもやってしまった最新作『Pieces of Treasure』(2023)というジャズ・アルバム。ティン・パン・アリーのグレイト・アメリカン・ソングブックを歌ったもので、本人というよりプロデューサーのラス・タイトルマンがアプローチして実現したとのこと。

 

それにしても、四月末にリリースされていて速攻で聴いたにもかかわらず、書くのがずいぶん遅れてしまったのは、どうも本作で聴けるリッキー・リーのヴォーカルがですね、う〜んどうも、イマイチ好みじゃないっていうか、なんだかダラダラしていてしまりがなく、だらしないと思ったからなんです。

 

ひょっとして前からこんな歌手だっけ?と思ってデビュー期から聴きなおしてみてもやはりこうではなく、だから本作ふくめ近年の傾向ってことなんですね。う〜ん。ともあれリッキー・リーはこうしてスタンダードを歌ったりジャジーなアプローチをみせることも従前からときどきありはしました。

 

そこへもってきて、ここのところのレトロ・ブーム(をラスは意識したはず)と、さらにリッキー・リー自身もだいぶ年老いてきたっていう、なにか心境の変化みたいなのがあったのか、それでこのアルバムの制作に至ったのではないかというのがぼくの推測です。

 

上で書いた「ダラダラしていてしまりがな」い歌いかたっていうのも、最初ぼくはこんなんじゃあちょっとね…と思いましたけど、老齢者ならではの黄昏のメンタリティというか、人生の終盤にさしかかってのダウナーな気持ちのストレートな反映と考えれば、これはこれで一つの立派なリアリティだよなあと。

 

考えてみればここでカヴァーされているスタンダードの数々がつくる世界観とはいままでずっとゴージャスで華やかだったもの。ほとんどどんな歌手、アレンジャー、演奏家がやったものでもそうでありました。リッキー・リーの本作はそういう世界に対するある種のアンチ・テーゼになっているともいえます。

 

それはかつて1970年代末にデビューしたころの自分自身からの変貌であり、老境ならではの低く暗いムードの音楽。ぼく自身(にぎやかなものより)落ち着いた音楽を好むようになってきているのもやはり初老の入り口に来たからでしょうけど、そういうときにリッキー・リーのこのスタンダード曲集は内面に寄り添ってくれる深みというか吸引力を持っているのかもしれませんよね。わからないけど。

 

(written 2023.6.18)

2023/10/18

9m88の新作アルバムがホントかなりいい

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9m88 / Sent

https://open.spotify.com/album/6vR0QbkphxTdgADE0Y7MEB?si=XFd-KLy7R8yaqSOjMYbCQg

 

先週末の来日公演も成功させた9m88(じょうえむばーばー)。台湾出身在NYCのジャズ/ネオ・ソウル・シンガーです。来日にぴったりタイミングをあわせるかのようにして6日にリリースされた新作アルバム『Sent』(2023)が、ホントとってもいいですよね。

 

本人のInstagramとかみているとかなり好評なようで、そりゃあそうですよこの内容だもん。七月に一度9m88について書いたとき、今年の新曲「若我告訴你其實我愛的只是你」がとってもいいけどこの一曲しかなく、この感じで満たされた30分くらいのアルバムが出るといいなあって言ったんですけど。

 

まさしくそのとおりになって、もううれしいのなんのって。「若我告訴你其實我愛的只是你」はもちろん収録されているし、そのほかもジャジーなネオ・ソウルやジャズ・ソングが中心で、ぼく好み。おだやかでさわやか。じゃないけっこうエッジのとんがったハードな曲も二つありはしますけどね。

 

コントラバスだけの伴奏で歌い出す1曲目から、この歌手の新世代感がフルに発揮されています。その後ストリングスも入って、この曲はまさしくジャズ・ソング。

 

2曲目もフルート・アンサンブルが特徴的なさわやか路線なネオ・ソウルで、聴いていて実に心地いい。アルバム・タイトルになった4曲目は淡々とゆったりしたバラードで、バーバーの歌唱力がよくわかります。

 

けっこう激しめな曲や「若我告訴你其實我愛的只是你」を通過して、7曲目はやはりジャズ・バラード。これもいいね。ラスト8曲目はなぜかのナイロン弦ギターをフィーチャーしたブラジリアン・テイストなボサ・ノーヴァでさわやかに後口よくしめくくり。

 

(written 2023.10.18)

2023/10/17

しんどいとき助けになる音楽(34)〜 Airi

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Airi / City Pop Rendez-Vous

https://open.spotify.com/album/6x5KIXv4960MZ0Vy5SSZVg?si=79d4lhtrTTqH_AIBFKb4Ow

 

最近特によくふたたび聴くようになっているのが日本人ジャズ歌手、Airiの最新作『City Pop Rendez-Vous』(2023)。夏ごろに一度書いたばかりですけどね、そこから時間が経っていないのに、またとりあげてごめんなさい。でもいまは体調が…。

 

このアルバム、聴くとなんか癒されるんですよね。それに妙に耳残りするっていうか、脳内でいつまでもくりかえしずっと鳴っているんです。どうも不思議な引力があるんじゃないですかね。

 

ジャズ・アルバムですが、とりあげられている曲は1970〜80年代のJシティ・ポップばかり。それをジャズ・アレンジしています。そういう企画アルバムなんですが、つまりはもとから曲がいいっていうことなんでしょうか、耳に残るのはですね。

 

曽根麻央がつくりあげたサウンドがこりゃまたおしゃれ。ピアノ(やエレピやシンセなど)+ベース+ドラムスのリズム・セクションをサウンドの軸にして、そこに曽根自身のトランペットや、あるいはギターやパーカッションなどがいろどりを添えています。

 

特にパーカッションですかね、大活躍しているのは。ラテン・テイストも強いアルバムなんですが、ジャジー・ラテンっていうかそんな傾向にパーカッションが大きく寄与しています。

 

この曲、この(特にラテンな)アレンジ、このサウンド、そしてこのヴォーカルがあれば、いまはじゅうぶん満足できる気分になれちゃうっていう、そんな一作です。ジャズとシティ・ポップの両方が好きな向きにはオススメですよ。

 

(written 2023.10.1)

2023/10/16

しんどいとき助けになる音楽(33)〜 マイルズ『リラクシン』

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Miles Davis / Relaxin’

https://open.spotify.com/album/0dyIXPKoUBt1vFJHX57dqt?si=NObnh3XMQcWDk798PPAvuQ

 

マイルズ・デイヴィスがプレスティジでやった例のマラソン・セッション(1956)から誕生したいはゆる四部作のなかでは、むかしもいまも『リラクシン』(58)がいちばん好き。

 

音楽的に最もすぐれているとかは思わないんですけど、とってもくつろげる音楽だなあって、アルバム題どおり。これ聴くと気分がラクになってきますもん。演奏前演奏後のスタジオでのトークがけっこう収録されているというのも一因かも。

 

曲も好きなものばかり。といってもジャズ・スタンダードのラスト「Woddy’N You」以外はこのアルバムではじめて知ったものなんですけど、その後ヴォーカル・ヴァージョンふくめさまざまなのを聴くようになりました。

 

けど、どれ聴いても結局マイルズのこれに戻ってきちゃうっていうか、これがいちばんいいなと感じてしまうのは、やっぱりファンだからなんでしょうね。演奏もほんとうにすぐれていると思うんです。一発即興だったことが信じられないくらい完成されているし。

 

じっさい演奏前の会話とか聞いていると、ボスはサイド・メンバーにあれこれ指示を出しているのがわかります。音を出す前にイメージがあたまのなかにしっかりあったことをうかがわせる内容で、バンド全体のサウンドをどう構築するか?ということに生涯腐心した音楽家らしいなと思います。

 

マイルズ入門にどれか一枚好適なのを教えて!という向きがもしあらば、この『リラクシン』を迷わず差し出したいという気がしています。

 

(written 2023.9.23)

2023/10/15

しんどいとき助けになる音楽(32)〜 サマーラ・ジョイ

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Samara Joy / Linger Awhile

https://open.spotify.com/album/1TZ16QfCsARON0efp6mGga?si=ihON8JR_TZqefxv9fOLCuw

 

みなさんよくご存知のとおり、ぼくはコンテンポラリー・ジャズにおけるレトロ・スタイルがこのうえなく大好き。そもそも大学生のころから1920年代ディキシー/30年代スウィング・ジャズの古いSP音源をリイシューしたLPレコードばかりこれでもかと親しんでいましたから、現行レトロ・シーンにはまっちゃうのは必然みたいなもんでした。

 

サマーラ・ジョイもまたそうした黄金時代へのノスタルジアを音楽で表現している歌手。デビューしたときからファンでしたが、二作目『Linger Awhile』(2022)でますます大好きになりました。だって聴いていると気持ちいいんだもんね。

 

管楽器が参加している曲もありますが、基本的にはギター+ピアノ・トリオというシンプルな編成で、淡々とおだやかに歌うサマーラがいいと思います。まったくなんの変哲もないスタンダードなジャズ・ヴォーカルで、個人的にはそんな音楽もまた大の好みなんです。

 

いまはもう2020年代なんだから、なにかもうちょっと新しいことできないの?という向きもあるかもしれませんが、現行レトロ・シーンにそんなことを言ってもムダなこと。それになにより本人たちがこうした音楽が大好きで心から楽しんでやっているとよくわかるじゃないですか。

 

こないだレイヴェイの記事が『Variety』誌に載っていましたが、いはく「まるでちょうど100年前に生まれてきたような音楽家」ですって。まさにそうですよね。サマーラ・ジョイについても同じことが言えます。

 

(written 2023.9.22)

2023/10/12

いまどきラーガ・ロックな弾きまくり 〜 グレイン・ダフィ

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Gráinne Duffy / Dirt Woman Blues

https://open.spotify.com/album/3pEr5QdlF89ufMoOHASyum?si=X3JaeVHPQEmI_CCIHQSunA

 

アイルランドのブルーズ・ギターリスト、グレイン・ダフィは、いままでにヨーロッパで多くの音楽賞を受けてきた存在らしく、なんでもアイルランドを代表するブルーズ・ギター・ウーマンと評されているとのこと。

 

そんなグレイン、USアメリカ進出六作目にあたる最新作『Dirt Woman Blues』(2023)が出ましたので、ちょこっと手短に書いておきましょうか。聴いてみたら、特にギターのほうは印象に残るものがありましたから。

 

ダートなんていうことばを使ってあることがブルーズ・ミュージックなんだという端的な表現ですが、実際の音楽はそんな泥くさくナスティな感じはせず、もっとさっぱりしている印象です。ブルーズというよりロックですしね。

 

それでもぐいぐい弾きまくり聴き手をうならせる場面が多少あります。特に6「Sweet Liberation」後半のジャム・パートとか、8「Yes I Am」のギター・ソロ・パートとか。後者なんかむかしのことばでいうラーガ・ロック(古っ!)そのもので、70年代にいっぱいあったあんな雰囲気そのまんまの熱い熱い弾きまくり。

 

こうした部分はギターリストとしての腕前を存分にみせつけるもので、じゅうぶん聴きごたえがあります。もちろんスタイルとしては古いんで、エレキ・ギター弾きまくりソロのあるブルーズ・ロックとかは、ぼくは大好きだけど新世代音楽好きとかにはアピールしない音楽かもしれません。

 

(written 2023.6.4)

2023/10/11

しんどいとき助けになる音楽(31)〜 ニーナ・ベケール

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(2 min read)

 

Nina Becker / Minha Dolores

https://open.spotify.com/album/4KKDLia9xJT8NM98jPfRvM?si=mum0iq8rR5-cLtZnH1WEFg

 

ルイス・バルセロスでもう一つ。これもブラジルの歌手、ニーナ・ベケールのアルバム『Minha Dolores』(2014)のこともとっても大好き。サンバ・カンソーンのシンガー・ソングライターだったドローレス・ドゥラン・トリビュートで、ドローレスの曲を歌ったもの。

 

その曲々がとってもいいですよね。個人的にはドローレスのファンというわけでもなかったんですが、ニーナの歌うのがあまりにもチャーミングなのでちょっと聴いてみましたからね。そうしたらすばらしくって、こんなことならもっと前から聴いておけばよかったと思いました。

 

ニーナの本作は、七弦ギターとバンドリンの二人だけっていうシンプルな伴奏。曲によってはゲストでエレピやエレキ・ギターのソロもありますが例外的で、どこまでも二人だけでのショーロふうな簡潔なサウンドなのが音楽にひろがりを生んでいて、歌を活かすことにつながっているのもいいです。

 

だから大好きなルイスのバンドリンも大活躍でたっぷり聴けるのがうれしいんです。よく歌うバンドリンですし、音色がシャープで硬質なのが好印象。七弦ギターのほうはゆんわり優雅な印象ですが、それに乗るニーナの声もふんわりとソフトで、あたたかみがあって、曲もいいし、もうどこからどう聴いてもみごとな音楽だとしか言いようがないですね。

 

(written 2023.9.21)

2023/10/10

しんどいとき助けになる音楽(30)〜 ニーナ・ヴィルチ

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Nina Wirtti / Joana de Tal

https://open.spotify.com/album/0Oivkm8f3O3YIIvPEJJr05?si=2uY8yn3XR3qnAfTcPSYqxA

 

ルイス・バルセロスでニーナ・ヴィルチのファーストを思い出し、その『Joana de Tal』(2012)を聴いていました。バンドリンでルイスが参加しているんですよね。それもなかなかいいプレイぶり。

 

少人数のショーロふうな伴奏に乗せて歌われる室内楽サンバで、かわいくてとってもキュート。こういうのに弱いんですよ。ルイスの10弦バンドリンも随所で光る演奏ぶりで、ニーナのクラシカルな声を引き立てています。

 

サンバ・カンソーン・ナンバーの1「Noticia de Jornal」から快調で、2曲目はノエール・ローザ作の小粋なサンバをトラディショナル・ジャズふうな2/4拍子で。それもかわいいし、全体的にキュートなチャーミングさが目立っているのがいいですね。

 

ぼくの愛するラストの「Zé Ponte」だけはヤマンドゥ・コスタの七弦ギターとグート・ヴィルチのベースだけというシンプルなバックで、ニーナは落ち着いて淡々と歌っています。ヤマンドゥのギターもすばらしく、ソロに伴奏にと腕を聴かせます。

 

(written 2023.9.20)

2023/10/09

しんどいとき助けになる音楽(29)〜 ルイス・バルセロス

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(2 min read)

 

Luis Batcelos / Depois das Cinzas

https://open.spotify.com/album/5qoBExC4dVsx6ZAij7w51h?si=HH1OkvKgTgyhND8qo05nIA

 

ブラジルのショーロ10弦バンドリン奏者、ルイス・バルセロスのことを思い出すきっかけがあって、アルバム『Depois das Cinzas』(2014)を聴きかえしていました。いまぐらいの秋の季節にちょうどピッタリな風かおる音楽ですよね。

 

それはそうと、ぼくにとってしんどいときの音楽は、だいたいUSアメリカ(それも主にジャズ系)、日本、ブラジルに限定されているような感じ。たしかにそのへんがいちばん好きでなじみ深く、メンタルが落ち込んでいるときにでも聴けるってことでしょうね。

 

このアルバムもストレートなショーロ・カリオカで、かっちり枠にはまった古典的な演奏が気持ちいいなと思うんです。基本ストリング・バンドで、曲によって例外的にホーン奏者も参加しています。そんでもって全体的にとってもさわやかでおだやか。

 

そんなところがですね、体調の著しく悪い現在でも聴いてなごめるな〜と思える部分じゃないでしょうか。泣きの(サウダージな)バラード系である4「Flora」の情緒感とかもいいし、アルバム・タイトル曲の6で聴ける秋風のようなすずやかさもすばらしい。

 

ショーロってどうも日本じゃ一般的にイマイチな人気で、全世界的にそうなのかもしれませんけど、こうしたとってもきれいで楽しめるアルバムがあるし、さらにはこういう演奏がそのままサンバの伴奏になったりもするんで、やっぱりもっと聴かれてほしいです。

 

ポピュラー・ファンだけでなくクラシック音楽リスナーにも共感してもらえる音楽じゃないでしょうか。

 

(written 2023.9.19)

2023/10/08

しんどいとき助けになる音楽(28)〜 ビリー・ジョエル

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(3 min read)

 

Billy Joel / ぼくのビリー・ジョエル

https://open.spotify.com/playlist/75wESlSPEmLIEeZdLPRDbP?si=e3bdff5e4e6743d2

 

このビリー・ジョエルのプレイリストは、たしかSpotifyをはじめていちばん最初につくったもののはず。と思って確認したら作成が2017年11月になっていますから、間違いないです。

 

それくらいぼくにとってビリー・ジョエルはふだんからよく聴いている大切な音楽家。高校生のころに好きになって以来ずっとこの気分が続いているんですよね。ニュー・ヨーク・シティへの個人的なあこがれとともにある音楽で、じっさいビリーの音楽は実質的にシティ・ポップに分類してもいいんじゃないかと思います。

 

そのことと関係あると思いますが、ジャズとラテンの影響も濃く、ぼくはそれらよりビリーのほうを先に知って好きになりましたが、ジャズやラテンを聴くようになってからはますますビリーの音楽のなかにあるそうした要素をはっきり楽しめるようになりました。

 

ソングライターとして超一流であるというのがなんたってこのひと最大のメリット。たぶんピアノとヴォーカルの才能じたいは、すぐれているといったってそこまでのものじゃないだろうという気がします。でも書く曲がずばぬけていい。

 

「ニュー・ヨーク・ステイト・オヴ・マインド」「ジャスト・ザ・ウェイ・ユー・アー」あたりは、なんど聴いても全世界のポップス史トータルでみてもベスト5に入るんじゃないかと個人的には思えるくらいな傑作曲でしょう。キャリア初期からいい曲を書いていましたが、プロデューサーのフィル・ラモーンとの出会いがその才能を最高の果実に仕上げる結果につながりました。

 

ベスト・セレクション的なプレイリストはいつ聴いても楽しいし、気分が落ち込んでいるときにでもす〜っとこっちの心に入ってきてなぐさめてくれるっていう、そういう魅力を持ったソングライターですよ、ビリー・ジョエルって。

 

(written 2023.9.18)

2023/10/05

なんでもないハード・バップですが 〜 ハンク・モブリー

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(4 min read)

 

Hank Mobley / Soul Station

https://open.spotify.com/album/731OW49heGHCMrMOREHYlY?si=1rflUyhXRhmwuu-zPxe-xw

 

なぜだかここのところときどき聴いているハンク・モブリーの1960年作『ソウル・ステイション』。なんでもないハード・バップですが、そういうのがとっても聴きたい気分なときもあります。このアルバムはどうやらまだ書いていなかったようですし。

 

一般的にはモブリーでいちばんのアルバムということになっているらしく、なんでもソニー・ロリンズの『サクソフォン・コロッサス』、ジョン・コルトレインの『ジャイアント・ステップス』に相当する位置づけのモブリー作品らしいです。

 

「なんでも」「らしい」とか書いているのは、つまり前から言いますようにぼくは長年モブリーをちゃんと聴いてこなかったんですね。軽視していたというか、マイルズ・デイヴィス・バンド時代があるもんで、前任がトレイン、後任が(実質的に)ウェイン・ショーターですから、そりゃあ分が悪かった。

 

それなもんでモブリーのリーダー作を積極的に聴いてみようという気分に従来はあまりなれませんでした。でも最近トンがった激烈なものより丸くておだやかな音楽が好きになってきましたから、マイルズ作品でもモブリー全面参加のたとえば『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』なんかが沁みるようになってきましたし。

 

歳をとって嗜好が変化し、徐々にモブリーみたいな持ち味のジャズ・サックスもわりといいなあと感じるようになってきたってわけで、そんなところで『ソウル・ステイション』を聴いてみたら、あらとってもいいじゃないって、そう納得しましたきょうこのごろ。

 

オープニングの「Remember」や5曲目のアルバム・タイトル・チューンに象徴されるような4/4拍子のストレート・ジャズも、変哲ないけれど、とっても聴きやすくていいし、さらに個人的にもっと気に入っているのはテーマ演奏部でラテン・ビートが使ってあるもの。

 

とか、リズムに工夫があってブレイクやストップ・タイムの活用が(テーマ部だけなんですけど)聴けるとか、そういうのは、標準的なハード・バップでも当時あたりまえではありましたけど、聴けばやっぱりいいなあと思います。

 

たとえば2「This I Dig of You」、4「Split Feelin’s」はラテン・ビートが使ってあるし(インプロ・ソロ・パートではストレートな4ビートですけどね)、6「If I Should Lose You」はストップ・タイムが駆使されています。アルバム収録曲の半数がこんな感じですから。

 

特に「If I Should Lose You」なんて、もとは悲痛なバラード、というかトーチ・ソングで、止まりそうなテンポで演奏されるかなり沈鬱なフィーリングの曲でした。それをそのまま活かすようなほかのミュージシャンによるヴァージョンがたくさんあって、ぼくも好きでしたし、こういう曲なんだと思っていましたからね。

 

それをとりあげた本作でのモブリーらは、リズム面での工夫をほどこすことでフィーリングを中和し、そこそこおだやかでなごやかなムードのレンディションにしあげているというのが、いまのぼくの気分にはちょうどよくまろやかに響きます。

 

(written 2023.5.25)

2023/10/04

しんどいとき助けになる音楽(27)〜 エドゥ・サンジラルジ

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(2 min read)

 

Edu Sangirardi / Um

https://open.spotify.com/album/278T99dsaxiUd5LR1I99jO?si=jlFZazyYRCu99cn4X6-eQQ

 

ブラジルのジャズ・ミュージシャン、エドゥ・サンジラルジのソロ・デビュー・アルバム『Um』(2022)。サブスクだとちょっぴりジャケット変わっちゃいました。エドゥの姿が消えて、えんじ一色と文字だけになっていて。

 

サブスクってたまにそういうことあるんです。歌手ジャネット・エヴラのファーストもジャケ変更になってしまって、中身の音楽は変わらないからいいようなものの、いつもジャケで認識しているぼくなんか、一瞬オリョ??ってなっちゃいます。

 

ともあれエドゥの本作でいいのはコンポジションとアレンジ、特にホーン・セクションのそれですね。きわめて美しく楽しいと思えます。ストリングスもブラスもリードも複数人使っていますが、ここまでの譜面が書けるっていうのはかなりの才能じゃないでしょうか。

 

4「Maracutaia」で聴けるブラス・アンサンブルのビート感なんか絶妙ですし、なかでもトランペットよりトロンボーンを多用してふわっとやわらかい響きに仕上げてあるところなんか感心します。トロンボーン・ソロがあって、次いでピアノ(エドゥ)、そしてアンサンブルと、流れもみごと。

 

一転しておちついたテンポの5「Estrada no Mar」なんかでも、海っていうより空の雲がゆっくりゆっくり流れていくのをしばしながめているような、そんなホーン・アンサンブルのゆったり微妙な動きかたで、ほんとうに美しいなとため息が出ます。

 

歌手アンナ・セットンの一枚目(でもピアノはエドゥだった)で歌われていた8「Toada」ではフルート・アンサンブルのきれいさがきわだっているし、リズムの緩急も自在。ホーンズのあいまを縫うようにして弾かれるエドゥのピアノもすばらしいです。

 

(written 2023.9.17)

2023/10/03

しんどいとき助けになる音楽(26)〜 スティーヴィ・ワンダー

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(2 min read)

 

Stevie Wonder / Songs in the Key of Life

https://open.spotify.com/album/6YUCc2RiXcEKS9ibuZxjt0?si=EaKao8lWQDiKo087drDwyw

 

スティーヴィ・ワンダーの音楽ってちょっと不思議な肌あたりがあるっていうか、かなりキツい差別告発とか辛辣な社会風刺とかたっぷりふくまれているにもかかわらず、音楽の感触はふわりとやわらかく、しかもなんだかとってもあったかい感じがします。体温のぬくもりがしっかりあるっていうか。

 

そんなところもスティーヴィの音楽を愛してきた大きな理由なんですが、ぼくのなかでは特に『Songs in the Key of Life』(1976)に愛着が強いです。たぶんそれはこれがはじめて触れたスティーヴィだったからでしょうね。大学生のころ最初に買ったこの歌手のレコードでした。

 

二枚組+EPっていう変則的な大規模編成だったおかげで、聴いても聴いても飽きないし、時間のあるときにあちらこちらと存分に楽しめるアルバムだったことも大きな愛好理由です。一個のテーマにフォーカスしているより、ごちゃごちゃしていて、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような雑多感がぼくは好きなんです。

 

いろんなタイプの曲があって、LPの四面はそれぞれそれなりに起伏があるように構成されていたと思いますが、それを思い起こしながらいまではサブスクで聴いているっていうのはぼくの世代ならではですよね。CDやサブスクではじめてこのアルバムを聴くリスナーはどう感じるでしょうか。

 

ともあれ、「文は人なり」っていう有名なことばがありますが、それにならえば音楽家のばあいは「音は人なり」であるなと、スティーヴィの音楽を聴いているといつも思います。キビシいシビアな内容を歌っていても、まなざしは決して冷徹じゃない、血の通ったヒューマンなあたたかみ、やわらかさにあふれているんです。そういう人柄なんだろうなっていうのが音によく出ています。

 

(written 2023.9.16)

2023/10/02

しんどいとき助けになる音楽(25)〜 ジョン・コルトレイン

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(3 min read)

 

John Coltrane / Soultrane

https://open.spotify.com/album/7pU5qUNqbOMToIyqzF0Nmg?si=Zz4TIhTkQUGucY9wi2z8Ew

 

実をいうとジョン・コルトレインの全作品でいちばん好きなのがプレスティジの『ソウルトレイン』(1958)なんですけど、こんなやつファン失格でしょうか?吹きすぎない(といってもたっぷり吹いているけど)中庸さおだやかさ加減がいいと思うんですよね。

 

大学生のころ最初に買ったトレインのレコードがこれだったという理由もなかなか大きくて、その後アトランティック、インパルスと移籍してからのものにイマイチなじめなかったぼくは、結局いつも『ソウルトレイン』に戻ってきます。

 

つまりまだスタイルが過激にとんがっていない時代のものということで、曲もオリジナルはなくてスタンダードな他作で占められているのをほどほどのいい感じに、とんがらず、吹きこなしているっていうのがですね、ぼくの趣味には合うんです。

 

だから保守派ですね、ぼくの音楽趣味は。タッド・ダムロンの1「グッド・ベイト」からのんびりのどかなフィーリングがいいし、続くビリー・ストレイホーン「アイ・ワント・トゥ・トーク・アバウト・ユー」もきれいなバラードをそのままストレートに演奏していてなごめます。A面はこの二曲だけ。

 

B面はもっといいですよ。三曲なんで一個一個の演奏時間が長すぎないのも聴きやすいし、音楽スタイルだってねえ、なめらかで、個人的にはこういうジャズこそ大好き。いまの気分だとなおさらです。

 

ところでB面の三曲でいちばん好きなのは4「シーム・フォー・アーニー」なんですけど、しずかできれいなメロディでいいですよね。でもこれだれが書いた曲だろう?と思って見たらフレッド・レイシーという名前が書いてあるんです。だれでしょうね、知らないなあ。

 

ネットで調べてもまったく情報が出てこないし、そもそも「シーム・フォー・アーニー」だってここで聴けるトレイン・ヴァージョン以外みたこともないですし、どうもあやしいぞ。ひょっとしてこの曲はトレイン・オリジナルで、なにか事情があって変名で登録したとかじゃないかという可能性があるかも。

 

(written 2023.9.13)

2023/10/01

しんどいとき助けになる音楽(24)〜 徳永英明

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(4 min read)

 

徳永英明 / VOCALIST BEST

https://open.spotify.com/playlist/2xVegNiu3RVSvD6fi3RISN?si=ed5e8be425df4491

 

いまの日本で間違いなく No.1アレンジャーだと信じている坂本昌之は、徳永英明の『VOCALIST』シリーズ全六作(2005〜15)の全曲を手がけたことで評価を確立しました。売れたんですよねえ。好みはあるにせよ音楽的にも立派な成果で。

 

もう坂本のアレンジ・ワークには心底ベタベタに惚れていて、所属事務所のフェイス・ミュージックにメール送ってしまいましたからね。ファン・レターとかではなく、どんな歌手のでも細大漏らさず「ぜんぶ」聴きたいので仕事の一覧みたいなのを教えてほしいと。

 

返信が来て「一覧のようなものは作成していない」とのこと。担当者はだいぶ恐縮していましたが、じゃあぼくがやればいいのか。しかしどうやって調べたらいいんだろう。それでもファン・レターだったら事務所のかたがご本人に転送してくださるとのことなので、そのうち書くことにしました。

 

そんなわけできょうも徳永英明を聴いていますが、坂本アレンジの妙味が存分に味わえると思います。どこまでも静かでおだやか、リズム・セクションと弦楽を中心にしたやわらかいサウンドに乗せて、徳永は歌詞の意味をていねいにじっくりつたえようとしっかり発音しています。

 

『VOCALIST』シリーズはすべてカヴァー曲なんですが、原曲を知っていればいるほど予想もできなかったであろう変貌ぶりにビックリします。たとえばTRF(小室哲哉)の「寒い夜だから・・・」なんて、エレクトロニクスをフルに駆使したものだったのが、ここでは完全アクースティックなオーガニック・サウンド。

 

この手のものがこのシリーズにはいっぱいあって、坂本アレンジのマジックを思い知ります。そして聴き終えたら「あぁ、この曲はこういうふうなものとして誕生したんだなあ、あるべき姿にいまはじめて戻った」っていうような気持ちになるんですよね。

 

『VOCALIST』シリーズでは徳永が特に気持ちを込めて、歌詞が鮮明に聴き手に伝わるようにとゆっくり発音されていねいに歌唱されていますから、坂本のアレンジ手腕もいっそう輝いて聴こえるように思えますね。

 

坂本昌之アレンジの特徴:

 

・ひたすらおだやか
・淡く薄味
・シルクのような肌心地
・細かな部分まで神経の行きとどいたデリカシー
・必然最小数の音だけ、ムダのない痩身サウンド

・アクースティック生演奏のオーガニック・サウンド
・自身の弾くピアノが軸
・リズム・セクション中心で、管弦は控えめ

・リズム楽器(ドラムス、ベース、ギター、鍵盤)をセットでかたまりとして動かす

・ブレイクやストップ・タイムなどの使いかたが、控えめだけど効果的

・(特にギターが)ショート・リフを反復する
・ラテン・シンコペイションを軽く効かせ
・フルート・アンサンブルの多用
・その他木管を使い、ブラスはほぼなし
・エレベとコントラバスを適宜使い分け

・原田知世をプロデュースするときの伊藤ゴローとの類似性

 

(written 2023.9.11)

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