カテゴリー「音楽」の1000件の記事

2022/06/27

不思議とクセになる官能 〜 ラスミー

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(2 min read)

 

Rasmee / Thong-Lor Cowboy
https://open.spotify.com/album/3Y15o4O2ZzpyD4ebt3dyN4?si=wBjx5wpPTmWBYNM5Ngay6Q

 

bunboniさんのブログで知りました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-04-07

 

タイはイサーン地方出身のモーラム歌手、ラスミーの最新作『Thong-Lor Cowboy』(2021)は、なぜかニュー・オーリンズの先鋭新世代ジャズ・プロデューサー、サーシャ・マサコフスキーと組んでの、ハイブリッドでオルタナティヴな、クセになる不思議な甘美と官能に満ちた一作。

 

特に官能性というかセクシーさですね、ぼくが強く惹かれるのは。そのおかげで、なじみのないよくわからない音楽なのに、もう一度もう一度とくりかえし聴いてしまいます。そうした引力はイサーンの臭みの強いヴォーカル・ラインにだけでなく、打ち込みメインのサウンドというかビートにもあります。

 

サーシャ・マサコフスキーというのはまったく知らない音楽家なんですが(ラスミーもだけど)、本作ではシンセサイザーとプログラミングを担当、さらにニュー・オーリンズから鍵盤奏者、ギターリスト、ベーシストを連れてきていて、それでこのなんともいえない独特のサウンドをつくりあげているんですね。

 

ビートにメロウネスがこもっているというか、曲はラスミーの自作なんですが、こんなふうに仕立て上げることで、タイのモーラム音楽でありながら、新世代ジャズ・ヴォーカルの文脈でも聴けそうなハイブリット・ミュージックになっているのがすばらしいですね。

 

なにもわからない音楽なのに、不思議となんども聴いてしまうチャームを感じ、離れられないっていう本作、得体の知れないセクシーさに満ちていて、いまのところはそうしたわからないなりの解析できない快感に身をゆだねています。

 

(written 2022.6.21)

2022/06/26

21世紀のスタンダード・ジャズ・ヴォーカル 〜 みんなエラが好き

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(4 min read)

 

v.a. / We All Love Ella: Celebrating The First Lady of Song
https://open.spotify.com/album/2aNwDScTeNVRQEiqa42tVs?si=_KOz5NmYSwqRxTaz-MAhwg

 

Astralさんの紹介で知りました。
https://astral-clave.blog.ss-blog.jp/2022-02-19

 

あれっ、いつのまにか15曲目ディー・ディー・ブリッジウォーターの歌う「コットン・テイル」がグレー・アウトしているぞ。こだわってもしょうがないので聴けるもので書こう、エラ・フィッツジェラルド・トリビュート『ウィ・オール・ラヴ・エラ:セレブレイティング・ザ・ファースト・レイディ・オヴ・ソング』(2007)。

 

かのフィル・ラモーンがヴァーヴのためにプロデュースしたコンピレイション・アルバムで、エラの生誕90周年を記念してリリースされたもの。現代のさまざまな歌手たちがエラのレパートリーだったスタンダード・ソングを一曲づつ歌うっていう趣向で、このアルバムのための新録じゃないものもありそう(わかりませんけど)。

 

あきらかに新録じゃないのは14曲目「ユー・アー・ザ・サンシャイン・オヴ・マイ・ライフ」。もちろんスティーヴィ・ワンダーの曲で、なんとエラとスティーヴィの共演 at 1977年ニュー・オーリンズ・ジャズ&ヘリティジ・フェスティヴァルっていう。エラ本人が登場するのはここだけで、本作の目玉みたいな発掘音源でしょう。

 

メロディを歌うだけでなく、スティーヴィもエラばりのスキャットを披露し本人と応酬して、なかなか聴きごたえあります。エラの代名詞の一つでもあった器楽的な速射砲スキャットといえば、アルバム・ラスト16「エアメイル・スペシャル」をやるニキ・ヤノフスキも聴かせます。

 

ベニー・グッドマン楽団時代の1941年にチャーリー・クリスチャンが書き同コンボで初演したものですが、すべてのジャズ・ファンは1957年ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルにおけるエラの名唱で記憶しているだろうもの。ニキのこのヴァージョンもほぼ忠実にそれを再現しています。

 

しかし器楽的なスキャットばかりとりざたすのでは歌手エラの真価を理解したことになりません。ティン・パン・アリー系などスタンダードな歌メロも深く咀嚼してしっかりと美しくつづるさまに本領があった歌手だとぼくは理解していて、このアルバムでもほとんどの歌手はエラのそういった部分を再現していますので好感が持てますね。

 

さほどコンテンポラリーなアレンジとサウンドがたくさん聴けるというわけでもなく、こうしたジャズ・ヴォーカルの世界は永久不変のものなんだということもよく伝わります。それでもそれなりに新時代のディープなビート感みたいなものが聴けるトラックもあります。

 

いちばんそれを感じたのは10曲目グラディス・ナイトの「サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー」。アクースティック・ギターのアルペジオと、軽いけれどしっかりシンコペイションを効かせたドラムスが表現するグルーヴ感は間違いなく21世紀のもの。そこにきれいなストリングスがからんだりするさまにはためいきが出ますね。

 

(written 2022.5.12)

2022/06/25

雰囲気一発でたまに聴くと悪くない 〜 スコット・ハミルトン

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(3 min read)

 

Scott Hamilton / Classics
https://open.spotify.com/album/5nqCI1rOU2bhoTNAmxU0jM?si=snq_FuXcQfO4M7MWIBxp0g

 

どう考えても生まれてくるのが遅すぎたジャズ・サックス奏者、スコット・ハミルトン。完璧なるスウィング〜中間派スタイルの持ち主で、なのにデビューは1977年。当時はエレクトリックなフュージョン全盛期、だから40数年くらい遅かったよねえ。

 

そうしたジャズがむかしから大好きなぼくでも、あくまで愛好対象は1920〜30年代末ごろに録音されたヴィンテージもの復刻、せいぜい50年代録音までで、同時代人なのにこんな古くさいレトロなやつなんか!と思ってスコット・ハミルトンに見向きもしないまま40年以上のジャズ・リスナー歴を送ってきました。

 

まだ67歳なんで、新作はリリースし続けているというわけのスコット。2022年最新作『クラシックス』をなにげなくチラ聴きしてみたら(サブスクの利点、こんなのCDなんか絶対買わない)、悪くないじゃん、なかなかムードのあるリラクリング・ミュージックだよねえと、深夜寝る前に部屋の照明を落とした状態でたまにかけてみればいいムードだなと思います。

 

『クラシックス』というアルバム題は、クラシック音楽の名曲の数々をジャズ・アレンジでやってみたという意味。ラフマニノフ(1)、ラヴェル(2)、チャイコフスキー(4、7)、ドビュッシー(5)、ドヴォルザーク(8)など、よく知られているもの中心ですが、そっち方面にうとければ、これなんというジャズ・バラード?とってもいいね、と言われそうなムードですよ。

 

完璧なくつろぎ系の音楽で、緊張感とかスリルみたいなものなんてこれっぽっちもなく、でもこれはこれでTPOさえ間違わなければじゅうぶん聴ける、っていうかリラックスできるものです。スコットのテナーを中心に据えたメインストリームなジャズ・カルテット編成で、スウィング・スタイルでありながら随所にメリハリが効いていて、なかにはジャズ・ボッサっぽいものすらもあったり。

 

なかでも3曲目「If You Are But A Dream」とか5「My Reverie」みたいな切々とつづるバラードでは、こんなにうまくこんなにきれいに抒情を表現した演奏ってなかなかないもんだよねえと思えるすばらしさで、思わず手を止めて聴き入ってしましました。ただのコンサバかと思えば、そういうよさもあるんですよね、スコット・ハミルトン。

 

(written 2022.6.22)

2022/06/24

My Favorite 美空ひばり in the Early Era(演歌前)

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(4 min read)

 

My Favorite 美空ひばり in the Early Era
https://open.spotify.com/playlist/75OXS3FlLhYWO8da4pds1H?si=faae34770496481d

 

またまた書きます美空ひばりの10代エラ。ここらへんこそがひばりのいちばんよかったころだというぼくの考えは微塵も揺るがないもので、ふだんからいつも楽しんでいるのに、世間は理解しませんからね。それどころか演歌時代しか存在しなかった歌手のようにみなされたりすることもあって、なんだよモ〜。

 

若かったころのひばりのジャジーでシャープでスウィンギーな魅力とそれを愛するぼくの嗜好が理解されずとも、最高に楽しい〜っ!というのは間違いのないことなので、大切なことだからやはりなんどもくりかえし言っておきたいわけです。

 

いままでの記事と今回の違いはSpotifyでプレイリストをつくっておいたということ。日本コロムビアの『アーリー・ソング・コレクション 1949-1957』から、個人的に特に好きだ、もうたまらんというものばかり、たった12曲とはいえ、抜き出してまとめて聴けるっていう、これはすばらしい(自画自賛)。

 

これら10代だったころのひばりの魅力に、いはゆる「おんな」的な部分はほぼ(まったく)ありません。ちょっとボーイッシュというか中性的っていうか、さっぱりあっさりしたヴォーカルで、後年大歌手になって以後のもってまわったような女々しくおおげさな感情表現もなし。

 

演歌というジャンルが確立される前の時代で(それっぽい先駆けフィーリングが聴けるものは数曲あり)ロックも台頭していなかったですから、日本でも流行歌といえばジャズ系のポップスばかり。ひばりだってブギ・ウギ・ベースの、つまりジャンプ・ミュージックっぽいスウィンギーな歌をやっていたのがピッタリ好みなんです。

 

ジャンプといってもさわやかで軽快なノリのやつで、ひばりがやったのは。重さや激しさのない薄味の音楽です。「河童ブギウギ」だけでもお聴きになれば、ぼくの言わんとするところはわかっていただけるはず。軽やかなユーモア・センスも込められていて、人生の悲哀をマジにつづる、なんていう部分はちっともないわけです。

 

「リンゴ追分」も入れておきましたが、これなんかは要するに望郷演歌っぽい内容なわけで、といっても東京に出て働いている人間が北の故郷をしのび泣くというんじゃなく、主人公のいる舞台は津軽で、東京で死んだおかあちゃんのことを思い出してしんみりするという内容。

 

すなはち典型的な演歌テーマではあって、濃厚でシリアスになりがちなものなのに、この初演でのひばりのヴォーカルにはそれがなく、歌の世界に没入しすぎずどこか他人事みたいに突き放して外側からあっさりやっているというのが、ぼくから言わせたら健全な距離感。「悲しい酒」でほんとうにステージで涙をこぼしながら歌ったようなああいった姿とは真逆。あんなのは気持ち悪かった。

 

「お祭りマンボ」にせよ「港町十三番地」にせよ得意レパートリーにしていて亡くなるまでひばりはずっと歌ったし、スタンダード・ナンバーとしてカヴァーしている演歌歌手も多いんですが、初演時のひばりヴァージョンが持っていたノリよい軽みはいずれからも消えています。

 

伴奏だってゴテゴテの派手な分厚いオーケストラ・サウンドじゃなく、必要最小限のシンプルな楽器編成でスカスカ隙間のあいた、もういま聴いたら「こんなんでええのんか?」と心配になってくるくらいなんですが、実に味わい深いものです。特に「港町十三番地」、も〜う大好きでたまらん!

 

(written 2022.5.14)

2022/06/23

カァ〜ッコいい!〜 ヨアン・ル・フェラン

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(2 min read)

 

Yohann Le Ferrand / Yeko
https://open.spotify.com/album/71whFKXlyWXyiJf47fkc3x?si=RpzDN9ULQcmeeWu5zeo94w

 

bunboniさんに教わりました。

https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-04-11

 

これ、Spotifyだと音楽家名のところが「Yohann Le Ferrand Yeko」になっていますけど、『Yeko』はアルバム名でしょ。いいかげんだなあ、Spotifyなのか提供したがわなのかわからないけど、サブスクではときたまあります。ちゃんとしてほしいよ。

 

ともあれ、ヨアン・ル・フェランは独学のフランス人ギターリスト。さまざまなバンドに参加して各地でツアーをくりかえしていたようですが、2012年にマリにおもむいたことが決定的なターニング・ポイントになったようです。

 

そこから10年という年月をかけてゆっくり誕生したのが新作アルバム『Yeko』(2022)で、といってもたった六曲23分しかないEPですが、中身は極上、とっても楽しくて、そのおかげもあって一瞬で吹き抜ける風のごとく。でもしっかりした手ごたえを残します。

 

bunboniさんは1曲目出だしのカッコよさを言っていて、たしかにこれにはシビレますね。ぼくがいちばん気に入ったのは2「Dousoubaya」。マリのラッパー、ミルモをフィーチャーしたアフロ・ヒップ・ホップで、これですこのノリというかグルーヴがいいんですよね。フランス人らしいドラマーによる生演奏ビートもうまあじ。サイコーです。

 

ママニ・ケイタが歌う4曲目「Konya」も、その塩辛い声で惹きつけられます。ママニはサリフ・ケイタのバック・ヴォーカルなどもつとめた経験があるそう。トラックはなんてことないマンデ・ポップですけど、ママニの声のトーンが好みっていうか、なんだか抵抗できない魅力があります。

 

ラスト6「Yellema」はコート・ジヴォワール出身の歌手カンディ・ギラが参加。これはもう断然バンド・アンサンブルがはじけていていいですね。特にヨハンの弾くクリーン・トーン(アルバム中ずっとそう)のエレキ・ギター・リフ反復がグルーヴィでノリがよく、リズム陣も冴えています。

 

(written 2022.5.11)

2022/06/22

レトロな70年代オルガン・ジャズ・ファンク 〜 クレステン・オズグッド

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(2 min read)

 

Kresten Osgood Plays the Organ for You
https://open.spotify.com/album/1ffpH63vJM6iPzjFh4zZvy?si=d7gB-5DYQX-BO2QuSI_jUQ

 

新着をお知らせしてくれるSpotify公式プレイリスト『Release Rader』(毎週金曜更新)、こないだ、いつだったかの週分で出会ったカッコいいグルーヴィなジャズ・ファンクが、クレステン・オズグッドの『Kresten Osgood Plays the Organ for You』(2022)。もうめっちゃ気持ちいい。

 

初めて見た名前だと思い調べてみたら、どうもデンマーク人らしいです。しかもすでにキャリアがじゅうぶんにあって、北欧ジャズの「重鎮」という表現も見つかりました。そうなのか…。そのうえファンキー・スタイルではなく、どっちかというと先鋭的な音楽性を持つ、さらにドラマー(&マルチ楽器奏者)なんだとか。

 

アルバム題からすれば今作ではオルガンを弾いているんでしょう。ハモンドに間違いないサウンドで、ほかはやはりデンマーク人らしきギターリスト+ドラマー、さらにパーカッショニストをくわえリズムを強化。でもパーカッションの参加は実はさほどの効果でもなく、従来的なオルガン・トリオのサウンドですね。

 

そう、だからつまり、1960年代〜70年代前半によくあったファンキーなやつ。ブラザー・ジャック・マクダフ、ドクター・ロニー・スミス、ジミー・スミスとか、あのへんの音楽を本作でのクレステンはそのまま再現しているわけです。

 

そのままといっても、もちろんこのデンマーク人のばあいは、直にというより1990年代にレア・グルーヴ的なもので一回濾過されたやつを参照しているんでしょうけどね。ファンキーだけど、ほんのりとややブラジルふうの軽妙でさわやかな味もあったりして(特にドラマー)、暑苦しいコテコテの濃厚ジャズ・ファンクとは若干違うのかも?という気もします。そこがいいですよね。

 

(written 2022.6.20)

2022/06/21

Release Rader

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(3 min read)

 

っていう毎週金曜日更新のSpotifyプレイリストで新着音楽をチェックしているんですが、これはユーザー各人のためにそれぞれあつらえられたもの。もちろんAIが自動でやっているんですけど。

 

なにかこうしたものがないとサブスク・サービス内で新作リリース到着を知る機会がないということで、ある時期に『Release Rader』の存在を知り、毎週末に定期チェックするようになりました。最初はメールで更新のお知らせが来ていたような。

 

『Release Rader』のおかげでニュー・リリースに気づくことができて、聴けばなかなかいいぞと感じ、そのままたぐって新作アルバムに行きついたり、あるいは一曲だけでも、それが結果的にそこそこのブログ記事に結実したりも多いのでいいと思います。

 

ユーザーのふだんの聴取傾向や好みを分析してなるべく合致するように、あるいはよく聴いている音楽家や音楽ジャンルなどを考慮してできあがるんですから、縁もゆかりもない、まったく聴いたこともないという分野のものが実はなかなか出てこない、そっちですぐれたニュー・リリースがあっても情報が入ってこないというのは、正直言って欠点ですけどね。

 

あちこち興味が拡散する人間には、そこだけがちょっともどかしく。チック・コリアとかウェザー・リポートとかその手の新作なんか教えてくれなくたっていいよ、自分でさがせるぞって思っちゃう。ほんとだったらゾクゾクする未知の音楽を推薦してほしいぞと『Relaease Rader』に望みたいんですが、そんなのプログラムが組めないでしょうから。

 

商売ってそんなもんではありますね。顧客のニーズというか、以前はこれを買ったとかこういうのをチェックしていているみたいだとか、その手のデータをもとにして、人力でも自動でも「次はこれ、どうでしょう?」と差し向けるわけで、それ以外にやりかたなんてなく、180度違う別のなにかを常にさがしている人間なんてそもそも少数派ですから、こぼれ落ちるしかないんです。

 

そんなこんなで、(ほぼ)完全にSpotifyでしか音楽を聴かなくなったぼくも、狭い一定傾向を囲い込むような聴きかたに徐々に移行しつつあります。そうするとこれほど便利で心地いいサービスはなく、同時にたいへんつまらなくも感じるので、適度に補うべくネットで情報をあさっていますね。

 

(written 2022.6.14)

2022/06/19

ディランで聴くよりディランっぽい 〜 ニッティ・グリッティ・ダート・バンド

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(3 min read)

 

Nitty Gritty Dirt Band / Dirt Does Dylan
https://open.spotify.com/album/4F0CjdewrCbNZ5k13SOs3T?si=hKgXBQURQamRfNEu8QAyvg

 

メンバーは替わりながら50年以上続いているニッティ・グリッティ・ダート・バンドの2022年最新作は『ダート・ダズ・ディラン』というタイトルのボブ・ディラン曲集。こ〜れが、グルーヴィで、カッコいい。

 

かなりの有名曲から地味なところまでとりまぜて全10曲、さほどオリジナルとアレンジも変えずそこそこ忠実にカヴァーしているのに、ディラン自身(やザ・バンドとか)のよりずっといい、曲の魅力がいっそうよく伝わるできばえだと聴こえるのは不思議です。

 

個人的に特に好きだと感じるのは、3曲目ブルージーな「イット・テイクス・ア・ラット・トゥ・ラフ、イット・テイクス・ア・トレイン・トゥ・クライ」から、ディープなノリがいい6「シー・ビロングズ・トゥ・ミー」まであたり。

 

ことに4「カントリー・パイ」からそのまま切れ目なくつながる5「アイ・シャル・ビー・リリースト」には、かの二人組若手ブルーズ・ロック・バンド、ラーキン・ポーが参加、ハーモニーやソロで歌ったりギター・ソロをとったりなど大活躍。おかげでニッティ・グリッティの演奏にコクが出ているし、曲もますます生きています。

 

そのままの流れで、ロス・ホームズのフィドルも絶好調な続く6「シー・ビロングズ・トゥ・ミー」の躍動感もあざやかでいいですね。複数の曲で全体的に(ディラン・オリジナルにはあまりない)ブルージーでグルーヴィなフィーリングがわりと濃いめにただよっているように感じるのは、ニッティ・グリッティ元来の持ち味にくわえ、ラーキン・ポー参加のおかげでもあるんでしょう。

 

ぼくが最初に知って書いた二年前にはまだ知る人ぞ知るという存在だったラーキン・ポーも、いまや各所ですっかり活躍の場をひろげ、知名度もあがっている模様で、うれしいかぎり。こういったクラシカルなブルーズ・ロックをやる若い世代まで、ニッティ・グリッティみたいな60年代出発のベテランから連続的につながっているんだなあと実感できて、ほんとうに気持ちいいです。

 

本作ではその太い糸をつないでいるのが1962年からずっと2022年でも現役第一線にいるボブ・ディランのソングブックだということで、その曲調を活かしたオーソドックスなカヴァーでも、なぜか本人自演以上に曲のよさがナマナマしく響くニッティ・グリッティの実力を思い知ります。この手の音楽はいつまでも色褪せないということも。

 

(written 2022.6.16)

2022/06/16

畢竟の大傑作 〜 ンドゥドゥーゾ・マカティーニ

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(3 min read)

 

Nduduzo Makhathini / In The Spirit of Ntu
https://open.spotify.com/album/3UnSb3V4gzrt2ofjYfsLDl?si=nwhIKrK9SxObbY3hcYGRAw

 

なんど聴いても、どう聴き込んでも、畢竟の大傑作なんだとしか思えないンドゥドゥーゾ・マカティーニ(南アフリカ)の最新作『In The Spirit of Ntu』(2022)。今年のベスト・ワン・アルバムはもうこれで決まりですよ。

 

ンドゥドゥーゾは新世代ジャズとかのピアニストではなく、従来的なメインストリーム1960年代ジャズの延長線上にある音楽をやっているんですが、この新作は雄大なスケール感、ポリリズミックなビートの強さと鮮明さ、スピリチュアリティ、ほとばしるパッショネイトな表現など、どこをとってもジャズ・ミュージックにおける最良のかたちを獲得したものといえます。

 

1曲目からそれはあきらか。オープニング・トラックにして3、5曲目とならぶ本作の白眉ですが、ピアノ、ヴァイブラフォン、ドラムス、パーカッションで重層的に練り込まれ表現されている強いポリリズムと、前向きの推進力、情熱は、ポジティヴな生命力に満ちあふれています。

 

これが幕開けににあるだけで、もうそれを聴いただけで傑作アルバムだろうと確信できるほど。ドラムスから入る荘厳なプライドに満ちたような3曲目のグルーヴもすばらしい。しゃべっているというかラップみたいなのが散見されるのはンドゥドゥーゾ本人ですかね。

 

5曲目ではゲスト参加のアメリカ人ベテラン・サックス奏者、ジャリール・ショウが徐々に燃え上がるような熱情的なソロを聴かせるのが最高。やっぱりちょっと60年代コルトレインっぽいような。吹きまくりに身をゆだねていれば快感で、その前に入るマッコイ・タイナーみたいなンドゥドゥーゾのプレイもいいです。

 

ジャリールはおそらくここだけで、ほかの曲でも同じくらいパッショネイトなサックスが聴こえるのは、テナーだしリンダ・シカカネなんでしょう。リンダをふくめ本作でンドゥドゥーゾが起用しているのは地元南アフリカの若いミュージシャンたち。

 

7曲目のサックス・ソロもすばらしく、バンドの演奏も活力があふれ、フェイド・アウトしてしまうのだけをちょっと残念に感じます。またアルバム中随所でンドゥドゥーゾのピアノはセロニアス・モンクを想起させるスタイルをとったりもしていますね。

 

ラストの二曲は静かに自己の内面に向きあい祈りをささげるような感じの曲想。9曲目の末尾と10曲目の冒頭は、トラックが切れているものの一続きの演奏だったかも?と思わせ。最後はソロ・ピアノでおだやかにこの1時間8分の壮大なサウンドスケープをしめくくります。

 

(written 2022.6.15)

2022/06/15

失意や逆境のメランコリアとぬくもり 〜 コステロ&バカラック

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(3 min read)

 

Elvis Costello, Burt Bacharach / Painted From Memory
https://open.spotify.com/album/0rhmwOflgYrPntNuEe8chN?si=aOVUD3cOQXi1EcS2tAZ5ag

 

エルヴィス・コステロの全作品でいちばん好きなのが、バート・バカラックと組んだ『ペインティッド・フロム・メモリー』(1998)。実質的にはバカラックのアルバムと呼んだほうがよさそうな内容で、コステロ・ファンには歓迎されなさそうな趣味ですよね。

 

そもそもパンク/ニュー・ウェイヴ・ムーヴメントのなかから出現したようなコステロはさほどぼくの趣味ではなく、どれを聴いてもあまりピンときたことがなかったくらい。反対にバカラックのことは大好きで、そのつむぎだす限りなく美しいコード進行とメロディ・ラインのとりこであり続けていたというのが事実。

 

だから、そんな二人がコラボしたらどんな感じになるか?という不安の入り混じる期待感があったんですが、アルバムを聴いてみて、1曲目「イン・ザ・ダーケスト・プレイス」の冒頭部、コステロが歌い出した瞬間にシビレちゃって、涙腺が崩壊。ためらうようにゆらめきながら入ってくるイントロ・サウンドも美しく、デリケート。

 

そのためらいとゆらめきは、まさに恋をした人間だけが持つフィーリング。それを音にしたものなんですよね。まごうかたなきバカラック・サウンドだと聴けばわかるこのエロス。それをつづるコステロの声もすばらしく響き、いままでの苦手意識はなんだったんだ?と思わせる陰影の絶妙なすばらしさ。

 

もうこの1曲目だけで『ペインティッド・フロム・メモリー』は傑作だと確定したようなもの。アルバムを貫いているトーンは失意、絶望、逆境で、しかしそれでもほのかに見える希望のようなものを暗示するポジティヴネスがただよっていて、ぼくのための音楽だろうと、いまだに聴くたびやっぱり生きていこうと思いなおします。

 

かすかな春の訪れを感じさせるピアノのメロディとゴージャスなオーケストレイションがきわだつ3曲目「アイ・スティル・ハヴ・ザット・ガール」、まるで抒情派ロマン映画の一シーンから切り出してきたようなピアノとオーケストレイションをバックに、去って行った恋人が夢のなかにだけ現れるという慨嘆を切々と歌う7「マイ・シーフ」。

 

バカラック・サウンドの典型的な特徴であるフレンチ・ホルンを中心としたふわりとやわらかいブラス・アンサンブルも、1996年の先行曲だった12「ガッド・ギヴ・ミー・ストレングス」ほかアルバム中随所で用いられていて、ひょっとして(ブランクを経た)バカラックにとってもスペシャルな傑作の一つになったのでは、と思わせる異様な充実を感じます。

 

オール・ジャンルで1990年代を代表する一作でしょう。

 

(written 2022.4.22)

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