カテゴリー「マイルズ・デイヴィス」の241件の記事

2023/01/23

マイルズのB面名作(2)〜『コレクターズ・アイテムズ』

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(4 min read)

 

Miles Davis / Collectors’ Items
https://open.spotify.com/album/7ala9fiogyYeZkXLvTZO9r?si=0-RxyubSTRGnWidaCBAPNg

 

これも1953年録音のA面と56年のB面(5曲目から)はなんの関係もないアルバムであるマイルズ・デイヴィスの『コレクターズ・アイテムズ』(1956)。変名でチャーリー・パーカーが参加しているという事実以外におもしろみがないと個人的には思うA面とは対照的に、B面三曲は立派な演奏なんです。

 

それら三曲をレコーディングしたセッションがちょっとおもしろいのは、その56年3月16日というとマイルズはすでにファースト・レギュラー・クインテットを結成済みで、正規録音もちょっとはしていたということ。

 

それなのにこのときだけバンドを使わず、ソニー・ロリンズ、トミー・フラナガン、ポール・チェインバーズ、アート・テイラーで三曲やりました。ロリンズ重用はつとに有名ですが、フラナガン(大好き)とはこれが生涯唯一の共演記録で貴重。

 

そんなこともあってか、つまんないな〜とぼくは感じるA面に比し、むかしからこのB面が個人的大好物。そりゃあもうこっちばっかりターンテーブルに乗せていました。53年だとまだビ・バップの余韻から抜け出せず模索中だったのが、56年なら立派に自己の音楽スタイルを確立していましたし。

 

三曲では、トップの「ノー・ライン」からしてハーマン・ミュートで鈴の転がるようなチャーミングな音色でもって軽快にスウィングするトランペッターの妙味に惹きつけられます。曲題は、テーマなしいきなりインプロではじまりそのまま終わるっていうものだからでしょう、おそらく。

 

オープン・ホーンで吹く二つ目の「ヴィアード・ブルーズ」は定型12小節。そして実はこのブルーズ、レギュラー・クインテットでやった同年五月ヴァージョンが『ワーキン』に収録されています。同じ曲ですが、あっちでは「トレインズ・ブルーズ」という曲題になり、作者もジョン・コルトレインにクレジットされています。

 

それと比較すると「ヴィアード・ブルーズ」のほうはテンポと重心が低く、しかもややコミカルというかユーモラスなファンキーさをただよわせているのが特徴。ブルーズのうまいフラナガンの持ち味も光ります。こっちのほうがぼくは好みです。

 

こうした中庸テンポでのファンキーさは『バグズ・グルーヴ』B面でも味だったもので、「ヴィアード・ブルーズ」のこうしたラインの上下をあわせ勘案すると、あるいはひょっとしてこれもロリンズの書いたものなんじゃないかと思ったり。マイルズにクレジットされていますけども。

 

三つ目のプリティ・バラード「イン・ユア・オウン・スウィート・ウェイ」。これこそ全体的にすぐれているこのB面のなかでも特に傑出していて、大学生のころからこれ一曲を溺愛してきました。やはりレギュラー・クインテット・ヴァージョンが『ワーキン』で聴けますが、ぼくの耳にはこっちのほうがいっそう美しく切なく響きます。

 

(written 2022.12.27)

2023/01/06

マイルズのB面名作(1)〜『ウォーキン』

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Miles Davis / Walkin’
https://open.spotify.com/album/2aiYquTSYZ6xdi1gyHHR76?si=RpZruuLHSayIHgyeo6z-CQ

 

CDやサブスクでは「(片)面」なんてありませんが、シングルでもアルバムでもレコードでは通常A面こそが売り、メインというか主力商品を投入するもので、B面はおまけみたいなもん、裏面、という認識が一般的ですよね、届け手も聴き手も。

 

だからそれを逆手にとってあえてB面にちょっとおもしろそうなものを入れてみたり、両A面扱いにしたり、マニアックな聴き手も注目したりっていうことがむかしからあると思います。好きなら全面聴きたいというのが本心でもありますし。

 

それにある時期以後みたいにアルバム全体で一貫した統一性、流れなんてものがまだなかった時代、LPレコード登場初期には、無関係のセッション音源を寄せ集めた、いはばコンピレイション的なものが多かったという側面もあって、A面B面でガラリと様子が違うなんてのもあたりまえでした。

 

マイルズ・デイヴィスの『ウォーキン』(1957年発売)だってそう。A面のブルーズ二曲こそが時代を画する傑作だというみなされかたをしてきましたが、B面の三曲は別なセッションからの音源なんですよね。そして、実はそっちも(そっちこそ?)チャーミング。

 

バンド編成もムードもA面とはだいぶ違う『ウォーキン』B面の三曲はクインテット編成。アルト・サックスにデイヴ・シルドクラウト(ってだれだかいまだによく知らない、ほかでも見ないし)、リズムはA面と同一でホレス・シルヴァー、パーシー・ヒース、ケニー・クラーク。

 

バップ系の熱いもりあがりこそが命のA面に比し、B面の「ソーラー」「ユー・ドント・ノウ・ワット・ラヴ・イズ」「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー」には冷ややかなクールネス、温度の低さ、淡々としたおだやかさがあって、そういうところこそ好きですよ、いまのぼくは。A面が非日常とすれば、B面には日常的な室内楽っぽさがあります。

 

ボスがトランペットにカップ・ミュートをつけているのも(A面はいずれもオープン)そんなムードを醸成している一因です。くわえてA面に比べB面はビート感というかグルーヴが水平的でなめらか。スウィングするというよりす〜っと横に流れていく感じ。それは三曲ともドラマーがブラシしか使っていないことにも原因があります。

 

曲はですね、「ソーラー」がこのセッションのために用意されたマイルズ・オリジナルで、これしかしかなりの有名曲ですよ。なんたってこの音楽家の墓石にはこの曲の譜面が刻印されているくらいだし、じっさいSpotifyデスクトップ・アプリでみるとアルバム中再生回数も最多(600万回弱)。

 

「ユー・ドント・ノウ・ワット・ラヴ・イズ」はサックス抜きのワン・ホーン・バラード。イントロでホレス・シルヴァーが弾くちょっぴりいびつに跳ねるフレイジング(はこのピアニストが得意とするところ)に導かれ、しかしテーマ吹奏に入るとビート感は平坦なものになります。

 

その上をリリカル&メロディアスに吹いていくマイルズのプレイがとっても魅力的だと思うんですよね。バラディアーとしてまだ若干の未熟さも散見されますが、すでに数年後フル開花する持ち味の片鱗は、いやかなりか、覗かせているとぼくは聴きますね。

 

あんがいカップ・ミュートの音色が蠱惑的に響くという面だってあります。このジャズ・トランペッターはいうまでもなくハーマン・ミュートこそが生涯のトレードマークだったんですが、そうなる前はチャーリー・パーカー・コンボ以来ずっとカップ・ミュートを使っていました。

 

(written 2022.12.16)

2022/12/06

マイルズの知られざる好作シリーズ(4)〜『イン・パーソン、フライデイ・ナイト・アット・ブラックホーク』

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(3 min read)

 

Miles Davis / In Person, Friday Night At the Blackhawk, San Francisco, Volume I
https://open.spotify.com/playlist/2gDinlJa9TevAPKk1h6Nvw?si=67f5e58853f74cc3

 

マイルズ・デイヴィスが生涯で率いた全バンドちゅう、いまとなってはいちばん好きかもしれないとすら思う1961年バンド。ハンク・モブリー、ウィントン・ケリー、ポール・チェインバーズ、ジミー・コブ。

 

このバンドになったのがいつか、正確なことなんてわかりようもありませんが、ジミー・コブは『1958マイルズ』になった音源を録音した58年5月のスタジオから参加していたし、『カインド・オヴ・ブルー』の59年3、4月セッションではもうすでにウィントン・ケリーがレギュラーでした(が、あのときだけ例外的にビル・エヴァンズを呼びもどした)。

 

ハンク・モブリーはアルバム『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』になった61年3月セッションがマイルズ・バンドでの初録音。これでラインナップが整ったわけですが、このバンドでそのまま続く4月にサン・フランシスコのブラックホークに出演した記録二日間のうち金曜ぶんがきょう話題にしたいアルバム『イン・パーソン、フライデイ・ナイト・アット・ブラックホーク』(1961)です。

 

どこがそんな「生涯の全バンドでもいちばん好きだ(いまでは)」といえるほどなのかっていうと、極上のリラックス感と熟練のまろやかな職人芸的スウィンギーさがよく出ているところ。小さなクラブにコロンビアが大かがりな機材を持ち込んでやりにくかったなどとマイルズは述懐していましたが、どうしてどうして中身はすばらしい。

 

この61年バンドの特質は以前も『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』の記事のときにも書きましたが、おだやかで平坦な日常性、インティミットなアット・ホーム感がサウンドに鮮明に出ているところにあるなというのがぼくの見解です。マイルズといえばテンションの強い張り詰めたような音楽性が売りではありましたが、いまのぼくにはリラクシングな日常的音楽のほうが心地いいんです。

 

そんな嗜好で選べば、マイルズの残した全ライヴ・アルバムでもいちばんといえるのがこれ。おなじみのレパートリーが並びますが、1曲目のブルーズ・チューン「ウォーキン」でも、たとえば世紀の傑作と名高い『’フォー’&モア』(1966)ヴァージョンと比較すれば、いはんとするところはわかっていただけるはず。その間三年、バンドが変わればボスもその音楽性も変わるっていう、そんなトランペッターだったことは以前も書きました。

 

『フライデイ・ナイト・アット・ブラックホーク』、ここまでまろやか&明快で歯切れよくスウィングし間然しない内容なんですから、正直いって名作、傑作の一つに数えてもいいんじゃないか、間違いないぞと、だれもそういわないですけど、ぼくはそう断言したいですね。

 

(written 2022.10.8)

2022/11/16

バンドが自分の楽器だ 〜 マイルズ

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(3 min read)

 

前から言いますように、マイルズ・デイヴィスという音楽家(主にトランペット)は、バック・バンドがどんなでも闊達に吹けて本領を発揮できたというタイプではありませんでした。その点では凡庸な演奏を従えてでも天才的なプレイをしたルイ・アームストロング、チャーリー・パーカー、クリフォード・ブラウンらとは異なっています。

 

マイルズのばあいは「バンドこそが自分の楽器」といったようなスタイルの持ち主。だからバンドの演奏がつまらないと連動するように自身のトランペットまでたいしたことないように聴こえてしまう音楽家なんですね。そこをしっかり自覚できていたがゆえに、いつの時代でもバンド・メンバー選びには最大の注意を払っていたわけです。

 

どんな音楽家でもそういった部分はあると思いますが、マイルズのばあいはバンドに左右される度合いがひどいんですよね。裏返せばバンドがしっかりしていれば、それに乗って自身のトランペットもいい感じに聴こえるし、そもそも間をとても大切にしていた音楽家で、特にノリよくグルーヴィにドライヴするタイプの音楽でこういったことが最大限に発揮されたと思います。

 

そしてバンド任せで自由にやればいい、自分はさほど口出しせず伸び伸びと演奏してもらいたいという感じでもありませんでした。スタジオ・セッションではもちろんライヴ・ステージ上でもメンバーにうるさく指示を出して、自分の目指す方向性のサウンドに持っていけるように按配していました。

 

ライヴのときなんか自分が吹いていないあいだはソデにひっこんで知らん顔していたじゃないかと言われそうですが、バンドのサウンドはしっかり聴いていて、その場ですぐにではないにせよ、あとからここはこうしろと指導していましたし。73〜75年ごろのファンク期以後亡くなるまではそのままステージにいて、客席には背中向けて、演奏中にバンドへ指図していました。

 

こういったことはバンドこそが自分の楽器だという気持ちがあるからやること。リーダー・ミュージシャンとしての責任感みたいなものともいえますが、バンドがグルーヴするか否かで自分のトランペットが、音楽全体が、生きるか死ぬかも決まってくるんですから、文字どおり命懸けでバンド・サウンドの構築に取り組んでいたんですよね、マイルズは。

 

この点においてはデューク・エリントン、マイルズ・デイヴィス、フランク・ザッパ、プリンスの四者は同一タイプのミュージシャンだったなと思いますね。

 

(written 2022.9.14)

2022/10/31

でも、めっちゃカッコいいぞ、そこ 〜 マイルズ「シー/ピースフル」in『イン・ア・サイレント・ウェイ』

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(3 min read)

 

Miles Davis / In A Silent Way
https://open.spotify.com/album/0Hs3BomCdwIWRhgT57x22T?si=sQcfGoRdTSq-pW_188QYig

 

長いあいだ、それこそ40年以上、B面っていうか2トラック目の「イン・ア・サイレント・ウェイ(/イッツ・アバウト・ザット・タイム)」しか聴いてこなかったといってもいいマイルズ・デイヴィスのアルバム『イン・ア・サイレント・ウェイ』(1969)なのに、最近はA面の「シー/ピースフル」もカッコいいぞって思うんです。

 

ジョー・ザヴィヌルによる冒頭のオルガンびゃ〜がすでにクールでチルで体毛が逆立つほどだって思うんですけど、この1曲目にはエモーションが爆発解放される瞬間はなく、最初から最後までずっと一貫して抑制の効いたクールネスに支配されている、一定のペースをくずさないっていうのも、まさしくいまのぼく好み。

 

まるで泉の水がこんこんと湧き出るのをながめているような気分になりますが、だから動きというかグルーヴはそこにあるわけです。B面もそうだけどトニーのドラミングをきつく制限していて、決まった定常ビート維持しかさせていないこと(A面ではハイ・ハットのみ)も、クールネスをきわだたせる結果となっています。どんなドラマーなのか?を踏まえたら、こんなことよくやらせたなと思いますよね。

 

ドラマーの役割を固定する一方で、ベースと鍵盤には自由に動きまわらせているという、その対比がグルーヴを産んでいますよね。B面よりもいっそうオルガンがカッコよく活躍しているし、ハービー・ハンコック、チック・コリア二名のフェンダー・ローズだって最高。この三名のからみあいこそがこの曲のキモです。

 

なかでもぼくがこのごろシビレているのが、ウェイン・ショーターのソプラノ・サックス・ソロになっての10:11から。背後の、特にフェンダー・ローズの動きに注目してほしいです。ハービーかチックのどっちか(どっち?)がまずワン・フレーズ弾いて、それがあまりにもカッコよかったせいか、くりかえし七回反復しているでしょ、このリフ・フレーズ、かっちょええ〜〜っ!

 

事前に用意されていたものだとは思えず、その場の思いつきで即興的に弾きはじめたという様子です。ですが、弾いてみた本人もカッコよさにびっくりしたのか反復し、共感したもう一名のエレピ奏者、そしてオルガンも途中から参加し、三名ユニゾンでこの同一フレーズを合奏リピートしているんです。七回。カッコいい。

 

メインのソロじゃなく伴奏部なんですけど、そのリフこそがこの曲で最もカッコいいシビレる箇所だなということに、40年も聴き続けていてようやく最近(なんと遅い)気がつくようになりました。ずっと聴き逃していた、というかA面をそもそも聴いていませんでした、ごめんちゃい。

 

でも、めっちゃカッコいいぞ、そこ。

 

(written 2022.9.29)

2022/10/21

マイルズ『クールの誕生』解放同盟

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(6 min read)

 

Miles Davis / Birth of the Cool
https://open.spotify.com/album/0QWea2w5Y6pSoSWHuc7JMf?si=dtgkzEzNRPiBftwqrpYa8g

 

というのを勝手にひとりで立ち上げました。なにかというと、マイルズ・デイヴィスの『クールの誕生』(1949/50、アルバム・リリースは57)にまとわりつく超名盤とか歴史的意義とかなんとか、めんどくさい言説からこのアルバムを解き放って、音楽だけをじっくり楽しめるようにしたいっていう。

 

というのはですね、ぼくはイヤな体験をしているんです。突如ジャズに目覚めた高三1979年に出会った『スイングジャーナル』別冊ムック本みたいなもの、タイトルも忘れましたがとにかくニュー・オーリンズ以来のジャズの名盤を選りすぐって300枚か400枚だったか紹介するというもので、入門者にはもってこいだと思い、買ったんです。

 

近年、ジャズのディスク・ガイドはほとんどがビ・バップ以後に偏ってしまっているのに比べ、あのころはまだディキシー/スウィング全盛期の傑作アルバム(もとはSP盤だから、コンピLPですけど)だってどんどん載っていたのは美点でした。サッチモとかビックスとかデュークなどの全盛期録音に迷わず出会えたのもあのムック本のおかげ。

 

そのムック本、マイルズの『クールの誕生』も紹介されていたんですけど、レヴューを書いていたのが野口某だったか寺島某だったかジャズ喫茶のめんどくせ〜オヤジ系評論家で、いはく「これは楽しいアルバムじゃない、じゃあどう聴くか、真面目に学究的に聴け」とかなんとかそんな意味のことを。

 

高校生当時からナニコレ?!なに言ってんの!でしたが、2022年現在でもWebに載る『クールの誕生』紹介文のたぐいは、実をいうとこの手の言説をいまだに引きずっていて、中身の音楽をちゃんと聴けていません。中山康樹さんがこのアルバムのことを『マイルスを聴け!』全版でボロカス書いたのが直接的にはエコーしているんですけど。

 

べつにジャズ喫茶をどうこう言いたいわけじゃありません。『クールの誕生』をいまじっくり聴くと、時流に合ったコンテンポラリーで静的なおだやかさとクールネスを兼ね備えたサウンドを持っていると思えるし、そもそも聴きやすい音楽だし、マイルズの残した諸作のうち現在ではいちばん楽しいもののひとつかもしれないっていう、そういう部分をしっかり書いてほしいよね、っていうことです。

 

火花を散らすようなアド・リブ合戦やインプロのスリルがないじゃないかと言われそうですけど、そうしたビ・バップ・マナーから脱却しようとする試みだったんですから。全盛期チャーリー・パーカー・コンボのレギュラー・メンバーだったマイルズは、ああいった苛烈な身体運動ですり減らしていくのを間近でリアルに体験していた人間ですからね。

 

ハナからそういうのに向いている資質の音楽家じゃなかったんですから、独立後のリーダー・セッションではもっと熱の低い、おだやかで、ソフトでとっつきやすく聴きやすいサロン・ミュージック、軽く聴き流していいムードをつくってくれるBGMになるような、イージー・リスニングっていうか、そういったマイルド・サウンドを目指したんだというのがぼくの見かた。

 

このことは、その後1991年に亡くなるまでのトータル・キャリアでマイルズがどういう方向を主に意識していたかじっくり検討すればわかることじゃないですか。そこに歴史的意義とかなんとか、むずかしいことを言ってもあんまりちょっとね。内省的で洗練されたソフト&スムース・サウンド、リラックスできるお手軽サロン・ミュージックが『クールの誕生』〜 これ、以前からぼくは書いています。

 

高音管楽器がボスのトランペットとリー・コニッツのアルト・サックスしかないというのも、ソフト&マイルド路線を特徴づけています。ぜんぶで六管のうち半数(バリトン・サックス、フレンチ・ホルン、チューバ)が低音担当で、トロンボーンだって低めの音域でああいった音色ですから、全体的なアンサンブルにカドが立たずまろやか&なめらかな響きになっていますよね。

 

リズム・セクションだっておだやかなビートを奏でていて決して爆発するということがないし、(ビ・バップにしばしばあった)イビツでハードなところがまったくありません。

 

このような結果、『クールの誕生』は聴きやすいなめらかムード。ジャズというとむずかしいとかとっつきにくいとか真剣に聴き込まなくてはならない世界だとかいった先入観を打破しにかかっているのがマイルズらの目論見ですよ。ビ・バップに対するアンチ・テーゼ、というと表現がちょっと強いですけど、脱ビ・バップというか、自分なりのちょっと違うことをやってみたかったっていう、それだけのことだったのでは。

 

その後のマイルズのキャリアをみわたすと、このおだやか&クール路線でやった最有名傑作が1959年の『カインド・オヴ・ブルー』と69年の『イン・ア・サイレント・ウェイ』なんですからね。

 

マイルズってそんな音楽家ですよ。『クールの誕生』もお気楽サロン・ミュージックだっていうのが本質なんですから、肩肘張らずリラックスして聴きましょう。

 

(written 2022.8.27)

2022/10/10

マイルズの知られざる好作シリーズ(3)〜『ビッグ・ファン』

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(7 min read)

 

Miles Davis / Big Fun
https://open.spotify.com/playlist/5ToQKa5MO1bdXzpNSVIE9r?si=dab96b9f515e4989

 

マイルズ・デイヴィスのアルバム『ビッグ・ファン』(1974)。知られざる作品だというのは間違いありませんが、「好作」「佳作」といえるかどうかはかなり評価が分かれそう。日本でも以前から人気なかったその上に重ねるように中山康樹さんがボロカス言うたため、いっそうだれも見向きしなくなったという面があるかも。

 

中山さんのことをどうこう言う気はないんですが(ぼくもお世話になったし)、語調が強くて好き嫌いも激しかったひとだけに、日本最大の(もう故人だけど)マイルズ専門家として実は功罪あいなかばしたという面もおおいにあるだろうと、ぼくなんかは考えておりますね。むやみな信奉は毒ですよ〜。みんな自分の耳で聴こうよ。

 

ともあれ、大学生のころから二枚組レコード(からカセットテープにダビングしたものをだけど)でくりかえし聴いていた『ビッグ・ファン』。個人的にはいまでも好きだし、あんがい悪くないぞ、聴きどころのある良作だと思っているので、きょうとりあげて書いておきましょう。

 

いまサブスクにある『ビッグ・ファン』は、ある時期以後のリイシューCDをそのまま使っていて、盛大にボーナス・トラックが、それも末尾じゃなくまんなかに入り込み(なんでこんなことすんだ?>レガシー)、オリジナル四曲の姿がひょっとしてリスナーによってはわかりにくいと思うので、上でリンクしたのは復元しておいた自作プレイリストです。

 

これら四曲が二枚組レコードの片面に一個づつ収録されているという構成だったんですが、むかしもいまもぼくが好きなのはA面「グレイト・エクスペクテイションズ」とD面「ロンリー・ファイア」。いずれも1969〜70年ごろのマイルズに顕著だったサウンド傾向で、実際前者は69年11月、後者は70年1月の録音。

 

これら二曲というか2トラックには共通項があります。決められたリフというかパッセージみたいなのをマイルズがちょっと表情だけ変えながらひたすら反復するのみで、インプロ・ソロみたいなものがありません。だれのソロもほぼなくて、だからジャズ聴きの耳にはちっともおもしろくない、退屈だっていうことになるかも。

 

ご存知のとおり1967年録音68年発売の曲「ネフェルティティ」からマイルズはこうした手法をとりはじめていて、実はジョー・ザヴィヌルがマイルズに共感するようになったきっかけでもありました、「ネフェルティティ」は。それで68年暮れからマイルズのレコーディングにザヴィヌルが参加するようになったんです。

 

マイルズとザヴィヌルは70年のはじめごろまでスタジオ・レコーディング・セッションではほぼ常に共同作業を続けていて、その時期に誕生したいずれもがコラボの成果といっていい内容を示しています。『ビッグ・ファン』に収録された「グレイト・エクスペクテイションズ」「ロンリー・ファイア」だってそう。

 

だいたい「グレイト・エクスペクテイションズ」として1トラックになってはいますけど、実は二曲のメドレーというか、演奏時にはバラバラだったのを発売用プロダクションで編集してつなげただけで、13:37からはウェザー・リポートでおなじみのザヴィヌル作「オレンジ・レイディ」なんですよね。

 

ぼくの耳にはどう聴いてもここでのマイルズ・ヴァージョンのほうがずっと楽しくて、これがあるからこそアルバム『ビッグ・ファン』を聴く値打ちがあると言ってもいいくらい。メロディはよく知られたもので、メロディ・メイカーとしてのザヴィヌルの才を感じるところ。それをマイルズはひたすら反復しているわけです。

 

聴きどころはその「オレンジ・レイディ」後半部でリズム・セクションが躍動的になるところ。ウェザー・リポート・ヴァージョンにはない展開で、そこはこれら二名の音楽家の資質の違いでしょうね。フェンダー・ローズ(たぶんチック・コリア、演奏にはザヴィヌル不参加)が印象的なリフを奏ではじめてからのビート感がなんともいえず心地いいです。21:36から。

 

ほとんど知られていませんが、同年八月の『ビッチズ・ブルー』録音セッション(には演奏でもザヴィヌル参加)でも「オレンジ・レイディ」はリハーサル的に演奏だけされてはいますので、そのころにすでに曲はあり、二人で試行錯誤をくりかえしていたのだなとうかがわせるものがあります。そのテープが残っていないんだそうで(涙)。

 

マイルズとのセッションのために書いて用意し持っていった曲で、69年11月にはレコーディングも無事終え完成したにもかかわらず当時は発売されなかったがため、ウェザー・リポートでのデビュー・アルバムのほうでやりなおし収録することにしたのでしょう。それは71年初春の録音。

 

D面「ロンリー・ファイア」には演奏でもザヴィヌルが参加しています。こっちは59年ごろからのマイルズが得意としたスパニッシュ・スケール・ナンバー。荒野をひとり行くみたいな孤独感、哀愁感が基調になっていて、それもいいですね。スパニッシュを得意としたチックのフェンダー・ローズもRTFみたいにそれっぽくて、聴きもの。

 

(written 2022.9.7)

2022/09/26

マイルズ『イン・ア・サイレント・ウェイ』コントラバスかっちょいい

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(7 min read)

 

Miles Davis / In A SIlent Way
https://open.spotify.com/album/0Hs3BomCdwIWRhgT57x22T?si=4pFAq04wQJWmpnZtNmFM4Q

 

そいで、マイルズ・デイヴィスのあのころの作品で、(長年最高評価だった)『ビッチズ・ブルー』(1970)より、現在では一個前の『イン・ア・サイレント・ウェイ』(69)のほうが人気が高いしドープだと思えている原因の一つに、後者はエレベ奏者がおらずコントラバス(デイヴ・ホランド)だけだというのがあるんじゃないかと。

 

特にかちょよくドープなのがB面「イッツ・アバウト・ザット・タイム」のグルーヴですが(私見)、この曲でのコントラバスがいいぞとぼくが感じはじめたのはほんのここ数年のこと。近年の、特にジャズやそれに関連した新作でときおり使われているのを耳にしてシビレるなあと感じるようになってからです。

 

ぼくが気づくのが遅かっただけで、よくふりかえってみればもう10年くらいかな、コントラバスが新作音楽で使われているんじゃないかという気がします。もうエレベは古いとかそんなことを言う気はありませんけども。コントラバス復活は音楽のオーガニック志向とも関係あるのでしょうか。

 

復活といっても、もちろん従来的なメインストリーム・ジャズでの使用法とはかなり異なっていて、それまでエレベが担っていたようなヒプノティックでかっちょいいファンキーなリフとかヴァンプをコントラバスでやらせて、それでなんともいえないクールなフィーリングを産んでいると思うんですよね。

 

おそらくヒップ・ホップ系のミュージシャンたちがコントラバス・サウンドの質に目をつけて、むしろこっちのほうが現代的だとエレベの代わりに使いはじめたんだと思いますが、そう、ピアノやギターなんかもアクースティックなものが同様にそういうたぐいの世界で再脚光を浴びて頻用されるようになっていますが、だからそれ以降でしょうね。

 

マイルズ『イン・ア・サイレント・ウェイ』でのデイヴ・ホランドの使われかたは、そういった2010年代以後的な使用法だよねえとぼくには聴こえ、これ1969年2月の録音なんですけど、ずいぶんと早い先駆けだったもんだなあ、2022年にもコンテンポラリーにかちょよく聴こえるわけですねえ。

 

あのころのマイルズはアクースティック・サウンドから電化する途上にあったから、次作の『ビッチズ・ブルー』ではエレベと併用し、その後はエレベ一本になりました。だから『イン・ア・サイレント・ウェイ』でコントラバスなのは保守的というだけのことだったのに。いまになって意味を取り戻したっていうか現代性を獲得したっていうか。

 

2曲目「イッツ・アバウト・ザット・タイム」ではジョン・マクラフリン(g)→ ウェイン・ショーター(ss) → マイルズ(tr)の順にソロをとり(完成品ではテープ編集で冒頭にもマイルズのソロがおいてある)、テーマみたいなものはもとからなく、ソロ三つの連続が曲の表層上の実体です。

 

それらはもちろんインプロヴィゼイションなんですけども(編集のおかげで作曲したような感じに聴こえますね)、重要なことは下層部で支えるリズム・セクションの動きが完璧に事前アレンジされているということ。そしてそれこそが「イッツ・アバウト・ザット・タイム」のほんとうの実質で、二つのリフ・パターンを切り替えながら進み、それに乗って三名がソロをとるっていう仕組み。

 

分解すると正確にはパターンは計三つ。(1)下降和音二つづつであわせて六つ(2)三連符ベース(3)ファンキー・パターン。(2)は(1)の基底部を支え同時並行で演奏されていますから、時間経過にのっとれば二種のリフが三名のソロのバックでこの順に出てくるわけです。

 

(1)の下降和音集団のときにはベースのホランドはそれに参加しておらず、上記のとおりその背後で三連符ヴァンプを弾いているんですが(ザヴィヌルのオルガンもときたま参加)問題は超カッコいい二番目のファンキー・パターンとぼくがいったリフです。だれが書いたんだろうなあ、作曲はマイルズにクレジットされていますけど、う〜ん…。

 

だれが書いたものにせよ、ベースとフェンダー・ローズ(たまにオルガンも)がユニゾンでそのリフを合奏し、その重なりがいっそうこのリフの響きをファンキーにしているっていうこんなアイデアは、1967年12月録音の「ウォーター・オン・ザ・ポンド」におきギターとベースで同じことをやらせたころからマイルズは持っていたものではありました。

 

マイルズによるこの手のアイデアが最高度に結実したのが「イッツ・アバウト・ザット・タイム」であって、もうシビレるほどたまらないファンキーさ、クールさに聴こえるし、もしこれがエレベだったらここまでカッコよくドープに仕上がっていないはずだと思うので、69年2月のマイルズとしては臆病でまだコントラバスだっただけなんですけど、2022年に聴くぶんには結果的にフィール・グッド。

 

まるでクラブDJとかがここだけ抜き出してループしたりしそうな、そんなリフですよね。実際たくさんサンプリングされているのかもしれません。『ビッチズ・ブルー』にそんな瞬間ないですもん。マイルズだからレア・グルーヴ扱いにはなりませんが、実質的にそんな感じです『イン・ア・サイレント・ウェイ』って。

 

(written 2022.8.21)

2022/09/18

1982〜85年の未発表スタジオ音源に聴くブルーズ・サイドとポップ・サイド 〜 マイルズ

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Miles Davis / That's What Happened 1982-1985: The Bootleg Series, Vol. 7
https://open.spotify.com/album/2mwZpszzkV5EzChG04oDWv?si=4cEZhJ1JT2S3JoIE9osT4Q

 

ネットとかしたりなどでのんびり軽い気持ちで流し聴いたマイルズ・デイヴィスの『That's What Happened 1982-1985: The Bootleg Series, Vol. 7』(2022)。リリースされたばかりの未発表発掘音源集で、ちょうどワーナー移籍直前、コロンビア時代末期のものですね。リアルタイム・リリースでいえば『スター・ピープル』(83)、『ディーコイ』(84)、『ユア・アンダー・アレスト』(85)のあたり。

 

CDなら三枚組ですが、三枚目は83年7月7日のモントリオール・ライヴ。二枚目までがスタジオ・アウトテイクで、興味をひかれるのはそっちです。おおざっぱにいってディスク1がブルーズ・サイド、ディスク2がポップ・サイドということになるんじゃないでしょうか。

 

これは晩年のマイルズを決定づけた二大要素であるとともに、本来この音楽家がなにを大切にして1948年以来のソロ・キャリア全体を歩んだかということも象徴しているとぼくには思えます。そしてこれら二つは81年復帰後マイルズの50年代回帰ということを明確に示していますよね。

 

特にハッこれはおもしろい!と身を乗り出すのがディスク1に収録されたブルーズ・ナンバーの数々。なんたって2、3トラック目の「マイナー・ナインス」はJ.J.ジョンスン(トロンボーン)との再会セッションで、二人だけでの演奏。バンドはおらず、JJが吹く伴奏をマイルズがエレピでやっている(トランペットは吹かず)というもの。この上なくブルージーな雰囲気満点で、こ〜りゃいい。

 

しかしJ.J.ジョンスンですからね。正式共演は1950年代前半のブルー・ノートやプレスティジでのレコーディング以来っていう。なんでJJだったのかともあれ、このころマイルズがJJとひさびさに再会してなにか録音したらしいぞっていうウワサは当時飛び交っていて、ぼくも目にしたことがありました。

 

それがようやく日の目を見たということで。しかも「マイナー・ナインス」パート1でJJが吹いているのは電気トロンボーンのサウンドに聴こえるし、マイルズのエレピだってブルージーでコクがあってうまいですよ。やはりブルーズ・ナンバーで、こっちはバンドで演奏する4〜6「セレスティアル・ブルーズ」のパート3にもJJが参加しています。

 

ブルーズ、というかブルージーなフィーリングという点では、ディスク1の末尾に収録された9、10「フリーキー・ディーキー」もみごと。編集済みの完成テイクが『ディーコイ』に入っていましたが、それはふわふわただようようなアンビエント感満載のアブストラクトなものでした。

 

ところがここではナマのむきだしのアーシーなブルーズ・フィールをこれでもかと聴かせてくれて、ジョン・スコフィールドも本来の持ち味を存分に発揮しているし、いまのところたぶんぼくはこの2トラックが今回のディスク1でいちばん好きですね。聴きものだとも思います。

 

ディスク2をポップ・サイドと呼んだのは、1950年代からもともとポップ・バラードのリリカルでプリティな演奏に本領を発揮していたマイルズが、その長所をフルに取り戻したような演奏がたくさん楽しめるからです。「タイム・アフター・タイム」「ヒューマン・ネイチャー」の別ヴァージョンもあるし、以前先行で聴けるようになったときに記事にした「愛の魔力」(ティナ・ターナー)もあります。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2022/06/post-3335a8.html

 

今回のこのアルバム・リリースで初めて聴けるようになったものでいえば、100%未発表で存在も知られていなかった4曲目「ネヴァー・ラヴド・ライク・ディス」に実は惹かれました。オープン・ホーンで吹いていますが、曲題の意味が身に沁みてくるような、いいバラードです。マイルズ作とクレジットされていますけど、ホントかな?

 

マイルズ公式Twitterアカウントが言うように、このトランペッターはリリカルで内省的かつメロディックに演奏することに生涯を懸けた音楽家だったんですが、そんな特色が今回リリースされたこのアルバムでもよくわかります。

 

(written 2022.9.17)

2022/09/05

個人的クールの誕生 〜 マイルズ関係の趣味も変わってきた

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(6 min read)

 

最近音楽の趣味がおだやか系に変化してきたというのはくどいほどくりかえしていますが、最愛好ミュージシャンのマイルズ・デイヴィス関係でもそれがはっきり反映されています。

 

しばらく前まではどっちかというと荒々しくごりごりハードでノリのいいファンク路線が好きだったんですけど、つまり『ビッチズ・ブルー』『オン・ザ・コーナー』『アガルタ』(その他70年代中期のライヴ作品)など。そのへんをめったに聴かなくなりました。あんなにも好きだったのに。

 

聴けば聴いたで、こういうのもやっぱりいいな〜とは思うんですけど、そもそも聴く気にあんまりなんないっていうか、ちょっとかけてみては、アッこういう気分じゃないよねいまのぼくは…ってなることが多いです。

 

入れ替わりに、傑作とは思うもののそんなに大好きというほどでもなかったかもしれないアルバムをどんどん聴くようになっていて、もちろんなかにはずっとフェイバリットだったものもあるんですが、『クールの誕生』『マイルズ・アヘッド』(の特にA面)『カインド・オヴ・ブルー』とかが最近のローテイションです。

 

『イン・ア・サイレント・ウェイ』もそうかな。それらいずれもいままでだって大好きだったんですけど、相対的にごりごりなハード・ファンク期のほうを聴くことが多かったので、比べればやや影が薄くなっていました。

 

これらのアルバム群は、マイルズのクールでおだやかな傾向を代表するもので、いっぽうにハードでワイルドな路線も、特に1969〜75年の電化ファンク時代にはあったんですけど、考えてみればこの音楽家はそもそも静かで淡々としたクールな音楽のほうに本領を発揮したというのがキャリア・トータルでみればよくわかるし、そういう資質の持ち主だったんだと思います。

 

いままではそれをあまり考慮せず、まあ無視して、69〜75年の電化ファンク時代がいいんだぞと自分に言い聞かせるようにしていて、一種のこだわりだったというか、そのへんがマイルズの生涯でも特にクレイジーだった時期なのは間違いないことで、ロック/ファンク方面にもファンを拡大していましたし。

 

つまり、こっちが歳とって嗜好が変化したというだけの話。どのへんがマイルズという音楽家最大の成果だったか、どうやって時代をリードしてきたか、名作とはなにか、なんていう部分に興味がなくなって、なくなったわけじゃないけどさんざん聴いてきたので、いまはもうただひたすら自分にとって快適な音楽だけを選んでいきたいという気分になってきたわけです。

 

それで残ったのが上であげた『クールの誕生』『マイルズ・アヘッド』『カインド・オヴ・ブルー』『イン・ア・サイレント・ウェイ』とかそのへん。快適にスウィング、というかグルーヴするナンバーもあるもの、それらだって決して激しくないし、全体的には落ち着いたおだやかさ、まろやかさ、平坦さ、要するに抑制された美を実現しているのがとってもグッド。

 

そして(いままでなんども書いてきたことですが)マイルズはもとからこんな方向性のアマチュア・トランペッターだったのにチャーリー・パーカーなんかのコンボでデビューしちまって、苛烈を極めるビ・バップ・ムーヴメントのどまんなかでプロ演奏活動を開始してしまったというのが、独立後の方向性を反動的にしたという面も確実にあると思います。

 

パーカーはといえばマイルズのおだやか系資質をうまく利用していて、自分のサックス・サウンドと並べたときにいい感じのコントラストを生むので音楽全体でバランスがとれてよいと考えていたでしょう。自分のバンドを持つようになってからのマイルズがハードな吹きまくり系サックス奏者をサイドに置くことが多かったのも、こうしたバード経験から得た知恵に違いありません。

 

さて、たとえば『クールの誕生』の「ムーン・ドリームズ」とか、スローじゃないけどバリトン・サックスと低音ブラスの合奏がなんともいえず心地いいおだやかサロン・スウィングに聴こえる「ガッドチャイルド」「バプリシティ」などや。

 

『マイルズ・アヘッド』の「カディスの乙女」「マイ・シップ」といった、空の雲がゆっくり流れてうつろっていくような静かで美しいオーケストラ・サウンドのゆったりとしたただよいとか。『カインド・オヴ・ブルー』の「ブルー・イン・グリーン」「フラメンコ・スケッチズ」などのまるでピアニッシモな静けさとか。

 

『イン・ア・サイレント・ウェイ』のタイトル曲での牧歌的な響きもいいけど、それにサンドウィッチされているファンキー・グルーヴァー「イッツ・アバウト・ザット・タイム」のステディでじっとしている湖面のさざなみをおもわせるたたずまいに石を投げたら波紋がひろがるみたいなふうのエモーションが込められていて、後半一瞬で解放されるところとか。

 

こういった数々の瞬間にいまのぼくは心底快適さを感じ、ほんとにいいなぁ〜って惚れ惚れとため息をつくような感動を、いまさらはじめて発見したかのごとく味わっているんです。

 

(written 2022.8.20)

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