カテゴリー「原田知世」の21件の記事

2022/09/04

こんなにも心地いい音楽だからいつまでも聴いていたい 〜 原田知世『恋愛小説3』

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(6 min read)

 

原田知世 / 恋愛小説3 〜 You & Me
https://open.spotify.com/album/1EZy3C9uNNtucsPLo1lP63?si=HcuMeJt3TKin0xEHd0yI9w

 

原田知世2020年秋のアルバム『恋愛小説3 〜 You & Me』。リリースされたときに聴いて感想をブログにもあげましたが、なんだか最近ふたたびのヘヴィ・ローテイションになっていて、なぜでしょうねえ、<知世+伊藤ゴロー>ブーム再来みたいな部分があるのかなあ、個人的に。今年に入ってから顕著ですよね。

 

あまりにも好きで、これこないだCD買いましたからね。聴くのならサブスクでちっとも困らないのに、これも愛好表現?各曲の演奏者を知りたいということもありました。そういったへん、ユニバーサルの公式サイトがなぜ載せないのか、実はちょっと不思議です。CD買ってよということか。

 

パーソネルや各種録音データなどの情報は、主にサブスクで聴いているファンなら知りたいところ。ゴロー produces 知世のばあい、いつでも演奏がいいし、『恋愛小説3』でもサウンドのオーガニックさがきわだっているので、二年経ってCDを買ったぼくはブックレットを見ながらパーソネルだけ以下に書き写しておきました。どうぞご参考に。ほんとはユニバーサルが公式にやらなきゃ。

 

1)A面で恋をして
・伊藤ゴロー(g、key、prog)
・佐藤浩一(pf)
・鳥越啓介(b)
・みどりん(dms)
・角銅真実(per)
・伊藤彩ストリング・カルテット
・SARA、TAIMACK(back vo)

2)ベジタブル
・大貫妙子(vo)
・伊藤ゴロー(g、key、prog)
・角銅真実(per)
・伊藤彩ストリング・カルテット
・SARA(back vo)

3)小麦色のマーメイド
・伊藤ゴロー(key、prog)
・佐藤浩一(pf)
・鳥越啓介(aco-b)
・みどりん(dms)
・伊藤彩ストリング・カルテット

4)二人の果て
・小山田圭吾(vo)
・伊藤ゴロー(key、prog)
・佐藤浩一(pf)
・鳥越啓介(aco-b)
・みどりん(dms)
・伊藤彩(vi)
・結城貴弘(ce)

5)新しいシャツ
・佐藤浩一(pf)

6)A Doodlin’ Song
・細野晴臣(vo)
・伊藤ゴロー(prog)
・佐藤浩一(pf)
・鳥越啓介(b)
・みどりん(dms)
・角銅真実(per)
・伊藤彩ストリング・カルテット

7)花咲く旅路
・伊藤ゴロー(prog)
・佐藤浩一(pf)
・鳥越啓介(aco-b)

8)ping-pong
・土岐麻子(vo)
・伊藤ゴロー(prog)
・佐藤浩一(pf)
・鳥越啓介(b)
・みどりん(dms)
・角銅真実(per)
・伊藤彩ストリング・カルテット

9)ユー・メイ・ドリーム
・伊藤ゴロー(g、prog)
・佐藤浩一(pf)
・鳥越啓介(b)
・みどりん(dms)
・角銅真実(per)
・藤田淳之介(sax)
・SARA(voice)

10)あなたから遠くへ
・伊藤ゴロー(g、dms)
・佐藤浩一(Fender Rhodes)
・鳥越啓介(b)

 

さてさて、この『恋愛小説3』、聴けば聴くほど沁みてきて、間違いなくこの歌手のカヴァー・ソング集『恋愛小説』シリーズ三作のなかではいちばん好みですし最高傑作でもあると思います。なんでしょう、知世の充実ぶりがいっそうきわだっていると思うんですよね。50歳を超えるか超えないかあたりから、ヴォーカルに落ち着いた丸みのある円熟味が出てくるようになりましたよね。

 

ゴローがつくる熟なサウンドにふわりと乗って、近年のグローバル・ポップス最大のトレンドであるオーガニック&レトロな指向性もはっきりしているし、なんの工夫も装飾もしない頼りないか細く薄い声こそが実はキモで、音楽のおだやかさ平坦さを好い向きに導いているように聴こえます。

 

いま2020年代はこうしたゴロー produces 知世みたいな音楽家にうってつけの時代だといえて、こういったこと、時流にうといぼくでも今年に入る前後ごろからしっかり認識できるようになりました。元日にレトロ・ポップスの記事、二日にオーガニック・サウンドの記事を上げましたが、そのときどちらでも知世に触れたのはそういうことです。

 

年初のあの二本の文章はぼくなりにリキ入れて書いた自信作だったんですけど、書きながらずっとあたまにあったのが知世&ゴローのこうした音世界。『恋愛小説3』だと往年の歌謡曲ヒットをカヴァーしていますから、その意味でもぼくみたいな嗜好の持ち主にはピッタリ来るんです。

 

今回CD付属ブックレットを読み各曲の演奏者もわかったことで、たとえば美しく切なくて泣きそうになる「新しいシャツ」でピアノ一台でのきれいな伴奏を聴かせている佐藤浩一という名前も知りました。目立たない些細な部分でそれでもしっかり効果的にデジタル・プログラミング・サウンドが使われている(のはすべてゴローの担当)のもわかりました。

 

ぼくにとって、結局のところいちヴォーカリストとしての知世そのひとがというのもさることながら、ゴローのサウンド・クリエイションがたまらず好きなのかもしれず、そのなかの最高のワン・ピースとして知世の声がこの上なく効果的にはめ込まれていい感じに響きくるということなんでしょうか。

 

(written 2022.8.26)

2022/07/04

原田知世40周年記念アニバーサリー・ツアー2022をイマジナリーに楽しむ

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(3 min read)

 

原田知世40周年記念アニバーサリー・ツアー 2022 “fruitful days”
https://open.spotify.com/playlist/55zzzsJWZKzp3JGqptp6yP?si=ebc6712c29a44fd8

 

というのはぼくはそのコンサート行ってないわけです、金欠病で。大阪一回、名古屋一回、東京二回と去る六月に行われた原田知世のライヴ・ツアーは、デビュー40周年記念で今年三月の新作アルバム『fruitful days』リリースを記念したものでした。

 

ツアーが終わってしばらくしてこのプレイリストが公開されたというわけ。名古屋・東京公演でのセット・リストを再現した曲順で知世スタジオ・アルバム・ヴァージョンをそのまま並べたもの。現場に行かれたみなさんには追体験のよすがになるし、ぼくみたいに行っていない人間でもイマジナリーな楽しみかたができます。

 

カヴァー曲は少なくて、冒頭で歌われた『恋愛小説3』からの二曲だけ。あとは最初から知世のために用意されたオリジナル・ナンバーで構成されています。しかも九割以上伊藤ゴロー・プロデュース作より。そうじゃないのは2曲目「恋をしよう」だけトーレ・ヨハンソンが手がけた『Blue Orange』からのもの。

 

コンサートの内容もゴローがプロデュースしたに違いありませんが、アレンジとかはスタジオ・ヴァージョンと若干異なっていた可能性もあります。そもそも同じメンバー全員を使えないでしょうし、管や弦などは人数制限もあるはずですから、必然的にやや変わらざるをえないでしょう。

 

でもほぼ同じ知世 produced by 伊藤ゴローの世界がそこに展開されていたでしょう。行きたかったなあ。特に最新作『fruitful days』は傑作として、(いままでくりかえし言ってきたけど)このタッグによる最高作として、個人的にもたいへんなお気に入りとなっているので、そこからのレパートリーがいちばん多いというのはもう垂涎ですよ。

 

逆にというか、ふだんさほどには聴き込んでいないアルバムの曲もそこそこあって。言いにくいんですけどたとえば(このライヴに三曲ある)『ルール・ブルー』(2018)は個人的にそんな大好きでたまらないというほどでもありません。しかし収録曲「銀河絵日記」なんかは代表作としてその後もずっと歌われていますね。

 

ラストにおかれた知世のシグネチャー「時をかける少女」は2017年の『音楽と私』ヴァージョン。これが最新ということもあるし、知世&ゴローの現在地点を示すものということで、おそらく今回のライヴでもこれに則したアレンジで披露されたんでしょう。

 

それにしてもやっぱり中盤8〜10曲目あたりの『fruitful days』パートはなんかい聴いてもグッと来るものがあり、これをナマで聴けたらどんなによかったかと思わざるをえませんね。そのへんの具体的な感想は読んだことないですけど、会場の客席にすわっていたみなさんも似たような気分だったのでは。

 

(written 2022.7.3)

2022/03/28

なんでもない日々をちょっとした幸福へと変える歌 〜 原田知世

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(3 min read)

 

原田知世 / fruitful days
https://open.spotify.com/album/4qEzXvDAgusrcMi5O5dWr7?si=zstfBuBiT9GN1UJzN_8tFw

 

2022年3月23日にリリースされた原田知世の新作『fruitful days』は、伊藤ゴローがプロデュースするこの歌手の最高傑作になりました。全キャリアを通してのNo.1かもしれません。そう思えるほど、すばらしい。

 

3月23日以後音楽はもうこれしか聴いていないんじゃないかと思えるほどのヘヴィロテぶりなんですが、こんなにも美しいチャームに満ちているんですから当然です。美メロばかりな曲が粒ぞろいで文句なしで、ゴローのプロデュースが冴えているし、知世のヴォーカルもいままでにない充実を聴かせています。

 

個人的にいちばんのお気に入りにはなんといってもオープニングの1曲目「一番に教えたい」。高橋久美子の書いた歌詞は日常生活に根ざした素直でナイーヴなものですが、詞先でそれにつけたゴローのメロディとアレンジが変態的といえるほど屈折した美しさで、最高にデリケート。

 

それをつづる知世の声は、年齢を重ねていっそうのやさしさとおだやかさを備えるようになっていて、その薄味で淡色系なヴォーカルの味わいは、いまのぼくの耳にはこれ以上ない癒しに聴こえます。なんでもない平穏で平凡な日々を語った曲にふさわしい歌手です。

 

若かったころの知世の歌にはこうした落ち着きはありませんでした。人生経験を重ね、人生の残り時間が見えてきたかもという年齢になって(「50代になってからは、自分が健康でいられていろんなことができる時間というのは、長いようでそんなに残ってないのかなと思うようになりました」)、こうした淡い心境を最高にいい感じに歌うことができるようになっています。

 

そんな知世の充実に寄り添うような色彩を持つ曲の数々とゴローの静かでオーガニックなサウンド・メイクで、もうぼくなんか完璧に溶けちゃっていますね。現在の日本のポップス界における最高の果実がこのアルバムだと言いたいくらいです。

 

2曲目「ヴァイオレット」(川谷絵音)も最高に美しいし、4「真昼のたそがれ」(辻村豪文)で聴けるスウィング・ジャズを意識したようなレトロなサウンドと4ビートもいい。このへんまでは、いやラストまで、アルバムに間然するところがなく、つくりこまれた隙のないプロデュースぶりでため息が出ます。

 

さらに、二曲のセルフ・カヴァー(5「守ってあげたい」9「シンシア」)がこのアルバムをスペシャルなものにしています。ゴロー&(50代の)知世コンビならではというできばえで、過去の初演と比較すれば凪のようなしずやかさは瞭然。ここまで来たんだという感慨を、聴き手のぼく自身の内面に重ね合わせ、ひとしおな気分です。

 

https://www.universal-music.co.jp/harada-tomoyo/products/uccj-9237/

 

(written 2022.3.27)

2022/02/09

冬の夕暮れどきに 〜 原田知世「いちょう並木のセレナーデ」

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(4 min read)

 

原田知世 / いちょう並木のセレナーデ
https://open.spotify.com/track/2pIjbgXMbJtaTvUAYo9dsi?si=a54e7427078247cd

 

原田知世2019年のアルバム『Candle Lights』9曲目に収録されている「いちょう並木のセレナーデ」がホントいい。この時期、真冬のちょうど日が暮れかかってきたような時間帯にでも聴くと、しんみり沁みてきて、心おだやかになります。

 

もちろん小沢健二のオリジナル(1994『LIFE』)ですが、でもオザケンで聴いてもあまりピンと来ないのに、知世カヴァーで聴くとこんなにもいいっていう、だからこれまたプロデュース&アレンジをやった伊藤ゴローの仕事がみごとだっていうことでしょう。

 

いい曲でも、だれが歌うか、どんなアレンジでやるか、によって生きたり死んだりすると思うんですよね。歌というものもまた、このひとっていう決定的表現者を得るということがあると思います。それではじめて生命を吹き込まれるんです。

 

知世&ゴロー・ヴァージョンの「いちょう並木のセレナーデ」、実は以前2016年の『恋愛小説2〜若葉のころ』の、それも初回限定盤だけの末尾に(ボーナス・トラックとして)収録されていました。それが初出で、ぼくはそれを買ったと思うんですが、Spotifyだとグレー・アウトしていて聴けなかったんですよね。

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一つの新曲と三曲のリミックスをふくむバラード再録集である2019年の『Candle Lights』に入ったことで、その収録曲としてようやくサブスクでも聴けるようになり、同時に『恋愛小説2〜若葉のころ』のほうのトラックリストでも解禁されました。どっちで聴いても同じもの。

 

知世の「いちょう並木のセレナーデ」はスティール弦アクースティック・ギター一台だけの伴奏で歌われています。弾いているのがだれなのか、やっぱり伊藤ゴローか、『恋愛小説2』も『Candle Lights』も買ったはずのCDがどこにあるのやら、平積みカオス山脈のなかにまぎれこんでいますから、確認できません(公式HPに載せておいてほしい>ユニバーサルさん)。

 

でもそのアクギ一台だけの伴奏で静かにおだやかにしんみりとていねいに歌う知世のヴォーカルは極上の味わい。特にどうという工夫や技巧もこらさないというか、そもそもそんなもん持っていない歌手なわけですけど、そんなアマチュアっぽさというか、ナイーヴで素直なスタイルで映える曲というのが、こないだ書いた「新しいシャツ」(大貫妙子)であり、「いちょう並木のセレナーデ」ですよ。

 

(たぶんゴロー自身が弾いているんであろう)ギター伴奏だけにしたというプロデュースが曲と歌手の持ち味を最大に活かすことにつながっていて、そういった曲をうまく見つけて拾ってくるのも絶妙ですが、知世の持つ生来のヴォーカル資質がなんともいえないうまあじを聴かせています。

 

二人の別れの光景をふんわり淡々とふりかえっている内容の歌で、決して激しく鋭いトーンや濃い味はここになく、背伸びしない等身大で身近な空気感、さっぱりしたおだやか薄味な淡色系音楽のすばらしさが心の空腹に沁みわたり満たされていく思いです。

 

(written 2022.2.8)

2022/01/16

大貫妙子の「新しいシャツ」は原田知世という表現者を得た

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(4 min read)

 

新しいシャツ
https://open.spotify.com/playlist/0McQKHXxufqAAUk2nxGLHt?si=900298d5348b474b

 

『恋愛小説3 〜 You & Me』(2020)収録の原田知世カヴァーで知った「新しいシャツ」。とてもいい、沁みてくる曲ですよ。1980年に大貫妙子が書いたもので、妙子自身なんども歌っているみたいです。

 

といってもぼくはただの知世ファンなだけで、大貫妙子についてはいままで名前だけ知っていたものの活動にあまり関心を寄せず、その曲や歌をあまり聴いてきませんでした。きらいとかどうとかではなく、なんとなく時間が経っただけ。

 

ところが知世『恋愛小説3』5曲目の「新しいシャツ」に、最初はそうでもなかったのが、近ごろなんだかとってもしんみり感じ入るようになってきたんです。だれだか知らないけど(CD買ってないから)伴奏ピアニストもみごと。ピアノ独奏だけで知世が歌っています。

 

そしてなんといっても曲がいいです。二人の別れの風景を描いたものなんですけど、淡々とおだやかでいる主人公の心情をつづるメロディがこりゃまた絶妙に美しくて、涙が出そう。「(あなたの心が)いまはとてもよくわかる」部分、特に「とてもよく」とクロマティックに動く旋律にふるえてしまうんです。

 

ソングライターとしての妙子の才に感心するゆえんですが、このことにいままで長年、そう50年近い音楽リスナー歴でまったく、気づいていませんでした。知世ヴァージョンがあまりにすばらしく響くので、Spotifyアプリでクレジットを見て、それではじめて妙子の曲だと知ったくらいですから。

 

さがしてみたら妙子自身が歌う「新しいシャツ」は三つあるようです。1980年の『ROMANTIQUE』収録のものがオリジナル。当時現役バンドだったYMOの三人とその人脈がサポートしたアルバムで、この「新しいシャツ」は個人的にイマイチ。

 

その後二種類あるのはいずれもアクースティック・ヴァージョン。妙子は1987年からずっとアクースティック・ライヴを続けているようで、近年の活動の軸になっているみたい。ピアノとストリング・カルテットだけで自身の書いた曲を静かに歌うというシリーズ。

 

妙子アクースティック・ヴァージョンの「新しいシャツ」二つは、スタジオ録音の『pure acoustic』(一般発売は1996)のものとライヴ収録による『Pure Acoustic 2018』(2018)のもの。いずれも上述のとおりの伴奏で歌ったものです。

 

それが実にいいんですね。シンプルで静かな伴奏が、別れのときにおだやかにたたずんでいるという心象をうまく描写できています。ピアノ一台だけの伴奏という知世ヴァージョンをプロデュースした伊藤ゴローも、それらを参照したに違いありません。

 

個人的な好みで言えば、妙子の声のトーンと細かなフレイジングに装飾のない96年『pure acoustic』ヴァージョンは、よりすばらしいと感じます。フレーズ末尾で変化や抑揚をつけずストレートに歌うのがこの歌の内容にはとても似合っているような気がしますから。

 

実はまさにこの意味においてこそ、原田知世ヴァージョンこそ至高のもの。声質そのものが素直でナイーヴで、ふだんからどうという工夫や装飾もせず淡々と歌う知世のスタイルは、「新しいシャツ」という曲にフィットしているし、静かに弾かれる一台のピアノだけという伴奏も絶好の背景です。

 

大貫妙子の「新しいシャツ」は2020年になって原田知世という最高の表現者を得たのだろうと思います。と言えるほど知世『恋愛小説3 〜 You & Me』収録ヴァージョンはあまりにもすばらしく、切なく、美しい。

 

(written 2022.1.12)

2022/01/05

薄味系淡色オーガニック・ポップス 〜 原田知世&伊藤ゴローの世界

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(6 min read)

 

https://open.spotify.com/playlist/3r71Pfsc3i5TEG8Olz6fRP?si=f907c29a47874540

 

music & me (2007)
enja (2009)
noon moon (2014)
恋愛小説(2015)
恋愛小説2〜若葉のころ(2016)
音楽と私(2017)
ルール・ブルー(2018)
Candle Lights (2019)
恋愛小説3〜You & Me (2020)

 

ジャジーなレトロ・ポップス・ムーヴメントの記事(1/1)でもオーガニック・ミュージックの記事(1/2)でも、伊藤ゴローがプロデュースする原田知世の作品にそれとなく触れました。そう、ここ日本では、現代のそうした時流を最もよく具現化しているのがこのコンビだとぼくは考えています。

 

ノラ・ジョーンズがデビューして世を席巻したのが2002年。そこから五年で、日本にもその流れが入ってきたわけです。知世をプロデュースすることになった伊藤ゴローも、はっきりと「ノラ・ジョーンズ的なもの」を意識してサウンド・メイクしたんだなと、いまではよくわかります。

 

つまり、極力コンピューター・プログラミングやデジタルくさいサウンドを避け、アクースティックな人力演奏とアナログ・ヴィンテージなテクスチャーにこだわって、手づくり感のある歌と演奏を実現したいという志向は、知世&ゴローによる全九作を聴けば、明白でしょう。

 

伊藤ゴロー・プロデュース原田知世の音楽をひとことで形容すれば「おだやかさ」、これに尽きます。「やさしさ」「静けさ」と言いかえてもいいんですが、カドがなく、やわらかくまろやかで、あわい色彩感。薄味。

 

ノラ・ジョーンズ的なジャジー・ポップスからの影響とともに、ゴローの持ち味であるジョアン・ジルベルト直系のボサ・ノーヴァ・テイストもそこにくわえ、最低限のデジタル処理はもちろん施していますが、基本、アクースティックなアナログ人力演奏を徹底しているわけです。

 

熟年をむかえた知世の声質が、これまたそういったサウンドにとてもよくフィットするんですよね。声にハリやノビやツヤが弱く、声量や音程感もややあいまいで、まぁヘタといえばヘタな歌手なんですが、極上の雰囲気を持つヴォーカルです。

 

だからソウルフルでファンキーな強いサウンドには合わせられないんですが、ゴローはどういったプロデュースに知世が適応するか、徹底して知り抜いていたと思います。というか、自分の実現したい音楽にいちばん似合う声をさがしていて知世に行き着いたということでしょうか。

 

平穏で静かで落ち着いた知世&ゴローの世界は、派手でザラついてトンがった濃厚な音楽がお好きという向きには決して推薦できないんですが、長年の音楽愛好を経て還暦付近にたどりつき、実人生でもつらく苦しい思いを重ねてきた結果の、おだやかな凪状態を求めるリスナーには、またとない贈りもの。

 

そんな知世&ゴローの世界、現時点での九作、総計99曲7時間弱というなかから、ぼくなりにことさら最高の心地よさだと思えるものをピック・アップし、なんとかしぼって、20曲約一時間半というプレイリストをSpotifyで作成しておきましたので、もしご興味がおありのかたはちょっと覗いてみてください。ほんとうに癒しなんです。
https://open.spotify.com/playlist/3r71Pfsc3i5TEG8Olz6fRP?si=f907c29a47874540

 

基本的にアルバム・リリース順、アルバムのなかでは収録順にならべようとしましたが、ちょっとだけ順序を入れ替えた部分もあります。オープニングとクロージングは聴感上の効果を考慮して大きく並び順を変更しました。

 

このコンビのデビュー作『music & me』には、知世にとって人生最大のシグネチャー「時をかける少女」のセルフ・カヴァーがありましたが、プレイリスト末尾に持ってきました。ゴローの弾くボサ・ノーヴァなナイロン弦アクースティック・ギターとシェイカーだけという、つまり知世の世界を今後どうかたちづくっていくかの宣言みたいなワン・チューンでしたね。

 

カヴァー集一作目、2015年の『恋愛小説』には、ノラ・ジョーンズのデビュー・アルバムに収録されていた代表曲「ドント・ノウ・ホワイ」があるのも象徴的です。『恋愛小説』シリーズ、その後二作は1970〜80年代の歌謡曲カヴァー。だからレトロ・ポップスといっても着地点はそんな古くないのですが、「昭和」時代への眼差しという意味ではたしかに2020年代フィールがあります。

 

2017年に発表されたセルフ・カヴァー集『音楽と私』は、それまでの知世自身の代表曲をゴローとともにリメイクしたもので、フル・アクースティックな人力演奏サウンドが徹底されています。歌手キャリアをふりかえりながら新時代のオーガニック・ポップス志向を実現したアルバムで、坪口昌恭のピアノだけで歌われる「天国にいちばん近い島」なんて、もう息を呑む美しさですよ。

 

それら、過去の初演ヴァージョンと比較すれば、伊藤ゴローがこの歌手を使ってどんな音世界を新時代に構築しようとしたか、いっそう明確に理解できます。ゴローのサウンドで歌う知世は、水を得た魚、そういえるでしょう。

 

(written 2021.12.30)

2020/10/19

オーガニックなラヴ・ソング 〜 原田知世

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(8 min read)

 

原田知世 / 恋愛小説3〜You & Me

https://open.spotify.com/album/1EZy3C9uNNtucsPLo1lP63?si=6pw7r8qETOqHBrCM3-IKsg

 

原田知世の新作アルバム『恋愛小説3〜You & Me』が2020年10月14日に出ました。昨年も『Candle Lights』があったんですけれども、それはベスト盤みたいなもので、新曲もふくまれていたとはいえ、あくまで企画ものみたいな感じでした。

 

だから知世の新作としては2018年の『ルール・ブルー』以来ということになりますね。『恋愛小説3』というアルバム題でおわかりのように、いままでに二作出ているラヴ・ソング・カヴァー集の三作目。

 

一作目『恋愛小説』(2015)が洋楽ポップスのカヴァー集、二作目『恋愛小説2〜若葉のころ』(2016)が日本の歌謡曲のカヴァー集だったわけですが、今作『恋愛小説3』も日本のポップスばかりとりあげて、そして『2』との違いは曲の年代ですね。

 

『2』が山口百恵とか太田裕美とかの1970年代の歌謡曲ヒットをカヴァーしていたのに対し、今年の『恋愛小説3』ではもっとあたらしい、1980〜90年代の日本のポップ・ソングを中心に歌っています。知世の世代だったということでしょうか。

 

さらに今作『3』ではゲスト歌手が四名迎えられているのも大きな特色です。大貫妙子、小山田圭吾、細野晴臣、土岐麻子。細野さん以外は、個人的に実はイマイチなじみの薄い歌手たちなんですよね。

 

曲も、『恋愛小説2』収録のものはぜんぶよく知っているおなじみのものばかりだったのに対し、今回の『3』では、実を言うと知らなかった曲ばかり。だから、体内にしみついている曲を伊藤ゴロー(プロデュース)&知世がどう料理するか?という楽しみかたはできませんでした。

 

そんなわけで、自分のために、『恋愛小説3』の収録曲のオリジナル歌手たちを、以下に一覧にしておきます。

 

1)A面で恋をして(ナイアガラ・トライアングル)
2)ベジタブル (大貫妙子)デュオ with 大貫妙子
3)小麦色のマーメイド(松田聖子)
4)二人の果て(坂本龍一)デュオ with 小山田圭吾
5)新しいシャツ(大貫妙子)
6)A Doodlin’ Song(ジャッキー・クーパー)デュオ with 細野晴臣
7)花咲く旅路(原由子)
8)ping-pong(原田知世)デュオ with 土岐麻子
9)ユー・メイ・ドリーム(シーナ&ザ・ロケッツ)
10)あなたから遠くへ(金延幸子)

 

1曲目の「A面で恋をして」からしてかなりいいですよねえ。伊藤ゴローがつくったサウンドも極上だけど、知世の声がイキイキとしていて、曲が生き返っています。伊藤ゴローはもうずっと知世のプロデュースを続けてきていますけど、今作でもその腕前が光っています。ゴローの世界を最もよく表現できる歌手が知世だということなのかもしれません。

 

それは知世との仕事じゃないゴローのふだんの音楽活動からしてもなんとなく想像できることです。ゴロー・ファンがどれだけこういったアルバムを聴くのか?買ったり聴いたりする中心はやっぱりあくまで知世ファンだろうという気もしますが、こういった日本のポップスを素材に活かされるゴロー・サウンドの清新さはなかなかのものです。

 

知世の声もいいし、さわやかですっきりしていて、まわりくどいところがまったくありません。凝っているのはゴロー・アレンジのほうで、知世はそれに乗っかってすーっとすんなり歌っているなという印象です。2曲目「ベジタブル」もいいけど、もっといいと思うのが(今回ぼくが唯一知っていた曲の)3「小麦色のマーメイド」ですね。ストリングスの活用がみごとな伴奏に乗って、知世がつづることばがじんわりと心に沁みます。

 

ところで、今回ゲスト歌手が四名、女性二名、男性二名といるわけですけど、特に女性歌手二名、大貫妙子と土岐麻子はほとんど目立っていませんよね。男性ゲスト歌手のほうは、やっぱり声に男女差があるということもあって、参加しているというのがよくわかりますが、女性二名のほうは、うっかりしていると知世一人で歌っているように思ってしまうほど。やっぱりあくまで主役をきわだたせる役目に徹したということでしょうね。一体化しているというか。

 

5曲目「新しいシャツ」の伴奏はアクースティック・ピアノ一台だけ。これは実にいい歌ですよねえ。伴奏がこういった感じだからこそ、知世の声のチャーミングさがきわだちます。これはある意味今回のアルバムのハイライトかもしれません。はじめて聴いた大貫妙子の曲ですけど、いい曲ですよねえ。それがわかるっていうことは、伴奏と歌がすばらしいっていうことです。

 

7曲目「花咲く旅路」は原由子が歌った沖縄音階ソング。原はこういうのをつくって(といってもこれは桑田佳祐の作詞作曲だけど)歌うのが得意ですよね。サザンオールスターズ内でもときどき歌っています。知世も、鈴木慶一プロデュース時代からこの手の曲は歌うことがあり、慣れたもんです。実にいいですね。オーガニックなサウンドの質感もすばらしい。

 

そう、オーガニック・サウンドというのは、今回の新作アルバム『恋愛小説3』で一つの大きな聴きものになっているなと感じます。混じりものなしのコットン100%のシャツをまとっているかのような肌触りの心地よさ、それがオーガニックっていうことなんですけど、伊藤ゴローのサウンド・メイクって前からそうなんですよね。またそんなオーガニックな音の質感に、知世の声質が実によく似合っているなと感じます。知世ってそんな歌手じゃないですか。

 

そして、今作でぼくがいちばん大好きになったのが9曲目「ユー・メイ・ドリーム」。シーナ&ロケッツがやったポップなロック・ソングですけど、曲そのものがいいですよね。ちょっとビートルズが書きそうな曲でしょ、特にリフレインの大サビ部分(「それが私の素敵な夢〜〜」ではじまる部分)でビートルズっぽさが炸裂しています。

 

ゴローはしかしエレキ・ギターやシンセサイザーを使わず、あくまでアクースティックなサウンド・メイクに徹しているのが耳を惹きます。曲がいいので、それをとことん活かすように素直に歌った知世のナチュラル&ナイーヴ・ヴォーカルもすばらしいし、これ、この「ユー・メイ・ドリーム」はほんとうに楽しいなあ。

 

(written 2020.10.18)

 

2020/02/17

原田知世 in the night

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https://open.spotify.com/playlist/1IlylYVTXg6he9HhD2TNXU?si=F9O4Tda3SDiLgaJUqFZahw

 

このプレイリストをつくったのは2019年の10月でしたから、書くのがちょっと遅れました。昨2019年、原田知世の新作アルバム『Candle Lights』がリリースされたときにそのきっかけで作成したものだったんです。伊藤ゴローがプロデュースする知世は、入眠準備用のくつろぎミュージックとしても最高なんですけど、『Candle Lights』なんかは格別そうですよねえ。

 

でもこの新作アルバムだけだとちょっと時間が短いんです。約51分しかありません。集中して聴き込むにはこれくらいですけど、入眠準備のためのナイト・ミュージックとしてはあっという間に終わってしまいます。このアルバムが出る前から、近年の知世のスモーキーな声はおやすみ BGM としてこれ以上ない快適さだと思って聴いてきましたし、『Candle Lights』でいっそうそれを確信しましたから、自分用のナイト・ミュージックとしての知世プレイリストをつくったんですね。

 

この約二時間近いプレイリスト『原田知世 in the night』を、お風呂から上がった夜22時半すぎごろに聴きはじめ、そのまま入眠準備をし、音楽のヴォリュームはややしぼって小さめの音量で BGM としてちょうどいいようにして、時間が来たら眠剤を飲み、30分ほどで眠くなっていくその時間が、ぼくにとっては一日でいちばんくつろいでいるまったりタイムなんですね。いやあ、幸せな気分です。ベッドに入るのは24時すぎごろ。

 

小さめの音量で静かな雰囲気で聴いていれば、知世の最近の、ちょっとハスキーにかすれたような声質がちょうどいい感じに響くんですね。それでもってこういった落ち着いた雰囲気の曲の数々をムーディーに歌っているのを(小さな音で)聴けば、心が安らかになって一日の雑音も消え、しずまっていくような、そんな心持ちがします。心にさざなみが立たず、スーッと凪の状態になって、それで入眠用のナイト・ミュージックとしてはこれ以上ない心地よさなんですね。

 

そんな知世(+ゴロー)ワールドは、やっぱり最新作の『Candle Lights』で最大限に発揮されていますから、ぼくのこのプレイリストもそれが中心です。そこへ至る前に一時間くらい足していますけどね。まずぼくの大好きな『恋愛小説2〜若葉のころ』(2016)を置き、続けて知世オリジナル・ソングを伊藤ゴロー流にリメイクした近年ヴァージョンも持ってきています。つまり主に『音楽と私』(2017)からですが、「時をかける少女」だけは2007年の『music & me』のボサ・ノーヴァ・ヴァージョンを。

 

それが終わったら、このプレイリスト本番の『Candle Lights』セクションです。2019年の新作アルバムですけど、でも新曲は一つだけ。残りは過去曲のリメイクと、過去のアルバム収録曲をそのまま再録したもので占められていますから、ややコンピレイション的な側面もあります。でも間違いなくニュー・アルバムだといえる全体の統一性だってあるんですよね。

 

それはキリリと引き締まった冬の空気感と、クラシカルだったりジャジーだったりする(のはたぶんプロデューサーの伊藤ゴローのおかげかな)アレンジがおだやかで、知世の近年のこの声質によく似合っているということ、快活で激しいアップ・ビーターは一曲もないこと、などですかね。それらのおかげでアルバム『Candle Lights』全体を貫く一個のムードが聴きとれますよね。とても静かでおだやかでスタティック。躍動感はありませんが、寝る前には必要ないものです。

 

さあ、今夜もこれを聴きながら、静かでおだやかな気分で眠りにつくことにしましょう。

 

(written 2020.1.27)

2019/07/18

原田知世 / マイ・ベスト(二回目だけど)

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https://open.spotify.com/playlist/2iv3ZMahUZH4VSwKtbjDyj?si=bsWVAW2VQ3aC6up61_e1Xw

 

2019年1月28日、渋谷はNHKホールで体験した原田知世ちゃんのコンサート。昨年末にリリースされた最新作『L'Heure Bleue (ルール・ブルー)』発売記念のものでしたので、そこからのレパートリーが中心でした。ステージ上にいたした伊藤ゴローさんがお話しされていましたが、 久々のオリジナル・アルバムですが、どうもみなさんカヴァー・ソングのほうがお好きなようでと苦笑なさっていたのです。でも、ゴメンニャサイぼくもやっぱりそんなひとりで、知世ちゃん+ゴローさんのコンビで往年の歌謡曲や知世ちゃん自身の過去曲など、(セルフ・)カヴァーしたものが大好きなんですね。

 

これは理由のひとつとして知世ちゃんに出会ったタイミングというのもあるんです。ぼくが縁あって知世ちゃんをしっかり聴くようになったのは2017年のこと。ちょうど二枚のカヴァー・ソング集『恋愛小説』の1と2が直前にあって、セルフ・カヴァー集の『音楽と私』とベスト盤の『私の音楽』がその年にリリースされました。そんなときにぼくは知世ちゃんに出会ったんですね。

 

だから、そういった世界から知世ちゃんになじんでいったのは間違いないわけでして。ですから、以前自分でつくっていまでもずっとふだん楽しんでいる知世ちゃんのマイ・ベストも、ほぼそんな選曲になっていますよね。でも鈴木慶一さんプロデュース作品からも特にカッコイイと思うものを数曲入れました。ロックっぽいというか元気のいいエスノ・ポップみたいな良曲がいくつもありますから。沖縄音階を使いつつダブふうのサウンド・メイクを施してある「さよならを言いに」なんか、絶品ですよ。ムーンライダーズっぽいロック・ナンバー「月が横切る十三夜」もいいノリよくカッコイイです。

 

伊藤ゴローさんプロデュースのもののなかにも、たとえば「September」みたいなグルーヴ・チューンがあるのですが、全体的にはしっとり落ち着いた大人の静かな世界を表現しているかなと思います。好きかどうかはひとによって意見が分かれそうな気もしますよね。ジャズやある種のブラジル音楽などに親しみを持つかたがたならば、わりとすっと入っていけそうに思うのですが。

 

その際、たぶんハードルとなるのは知世ちゃんのヴォーカル資質ですよね。声量も小さいし張らないし(これはNHKホールで痛感しました)ふわっとしていて、悪く言えば「ガッツがない」。演歌歌手などにあるような強い声を張って伸ばしたりなどはまったくやりませんできません。芯の細い声質ですからね。そういった、いわば in a silent way なサウンド志向もぼくなんかはあんがい好きなんですね。どういった音楽構築を目指すかの方向性が一致すればこの上なくハマるのが知世ちゃんの声です。

 

伊藤ゴローさんと知世ちゃんとのコンビでこれだけ成功しているのは、やはりそういったことが吉と出たということじゃないでしょうか。結果としてとても魅力的なサウンドとヴォーカルに聴こえますからね。まず最初はゴローさんが知世ちゃんをチョイスしたらしいんですが、自己の音楽にどんな声がいちばんピッタリ来るかを見抜いたゴローさんはさすがです。

 

そんなゴローさん&知世ちゃんコンビでやった音楽のうち、マイ・ベストの選曲の歌謡曲カヴァーのなかでは、たとえば松田聖子さんの「SWEET MEMORIES」なんか、最高じゃないでしょうか。ハープとコントラバスとソプラノ・サックスだけというゴローさんのアレンジがなんといっても切なくて見事ですが、その上に乗る知世ちゃんの声と歌いかたがぼくは大好きなんですよ。曲よしアレンジよし歌よしで、この切哀感満点な失恋ソングの最高のヴァージョンになったと思います。

 

知世ちゃん自身の過去曲のセルフ・カヴァーでは、なんといっても「時をかける少女」(2017年版)と「天国にいちばん近い島」がすばらしすぎます。前者は完璧なボサ・ノーヴァ・スタイル。失いそうで壊れそうな愛をガラスのように大切に扱うデリケートがよく表現されています。後者は坪口昌恭さんの弾くピアノ伴奏がおそろしいまでに美しくて、それで泣きそうになっちゃいます。ややハスキーに、愛する対象を美として称える知世ちゃんの声にかかるちょうどいいエコー成分が、ぼくたちのため息なんですね。

2018/09/18

原田知世、2007年の音楽と私

 

 

2004年の伊藤ゴローとの出会いによってシンガーとして蘇った原田知世。二名のタッグによるフル・アルバム第一作『music & me』(2007)は、しかしまだそれまでの知世ミュージックからいくつかを引き継いでいるし、曲によってゴローは参加していない。鈴木慶一が手がけているものだって一つある。

 

 

しかし全体的にはやはり伊藤ゴローのカラーというか、それまでテクノ・ポップみたいだったりエスノ・ロックみたいだったりした知世の音楽が、どっちかというとアクースティックな響きが中心のオーガニック・テクスチャーなものへと変貌しているよね。まだ過渡期の印象もあるけれど、間違いない変化を感じとれる。

 

 

たとえば高橋幸宏が手がけている4曲目「Are You There?」。これはバート・バカラック・ナンバー(歌ったのはディオンヌ・ワーウィック)だけど、この知世のヴァージョンではやはりほぼ全面的にコンピューターを使ったデジタル・サウンドが使われていて、アレンジもプログラミングも幸宏がやっている。

 

 

しかしかつてのようなテクノ・ポップ路線から離れつつあるように聴こえるんだよね。もちろん幸宏の手腕がそれだけすぐれているから、デジタル・サウンドに有機的な肉体性を宿らせることに成功しているから、なんだけど、もともとのバカラックのペンの抜きん出た資質とあわせ、知世の成熟したやわらかい声が、それこそが、この「(私じゃない)ほかの女の子といたの?」っていう曲にナマの息吹を吹き込んでいる。フリューゲル・ホーンも効果的だ。

 

 

それなもんだから、「Are You There?」に続けて5曲目にビートルズの「I Will」が来ても、なんらの違和感もないんだ。ポールのこじんまりしたアクースティック・ギター弾き語りだったビートルズのオリジナル(『ザ・ワイト・アルバム』)をなぞるかのように、知世の「I Will」も、伊藤ゴローの弾くギターとパーカッショニストだけという地味で落ち着いた演唱。これはしかしかなりビートルズ・ヴァージョンに近く、ゴロー&知世のタッグならでは、という独創性は薄いかも。

 

 

でも言いたいのはこういうことだ。知世の「I Wil」はまさしくオーガニック・ポップなんだけど(あっ、そういえばビートルズの『ザ・ワイト・アルバム』も1968年のオーガニック・サウンド・アルバムだねえ、いま気がついた)、表面的にはテクノ的なサウンド・メイクをしてある4曲目「Are You There?」と連続して流れがいいってこと。有機質感のサウンドが芯を貫いているなと感じるっていうことだ。

 

 

この視点でいけば、アルバム中唯一鈴木慶一が参加している7曲目「菩提樹の家」は、メロディ・ラインの特色なんかはいかにも慶一節だなと感じるんだけど、音創りは変化してきている。かつて『GARDEN』『Egg Shell』をやったときのような勢いのいいロック・テイストは消え、しっとり落ち着いたやわらかいポップス路線に転向したような雰囲気に仕立ててあるよね。アクースティック・ピアノやフルートも効果的。

 

 

そんな21世紀的なオーガニック・ポップス路線を、知世の『music & me』でいちばん象徴しているなと感じるのが、続く8曲目「シンシア」と、アルバム・ラストの必殺「時をかける少女」新ヴァージョンだ。このふたつは本当にすばらしい。伊藤ゴローの力を借りて、あ、いや、逆か、伊藤ゴローが自らの音世界を具現化するための最好適なベスト・シンガーとして原田知世を選び、二名コンビで新しい高みにあるような音楽を表現できているじゃないか。

 

 

「シンシア」も「時をかける少女」もボサ・ノーヴァにアレンジしてあって、伊藤ゴローの弾くナイロン弦ギターを中心に少人数のアクースティック楽器しか用いられておらず(ベースもコントラバス)、ふわりと暖かい空気のように漂うアンビエントふうな音像に乗って、知世のややハスキーになりつつある、声量の小さい、決して張らないヴォーカルが、やさしみを増している。

 

 

だいたいにおいてブラック・ミュージック(的なもの含む)の愛好家であるぼくで、ファンキーで強靭なガツンと来るリズムとサウンドが好きで、ヴォーカルなんかも、たとえばジェイムズ・ブラウン(アメリカ)や サリフ・ケイタ(マリ)やヌスラット・ファテ・アリ・ハーン(パキスタン)みたいな、あんな声の出しかたが好きなんだけど、いつもいつもそういうものばかりじゃない。

 

 

端的に言えば "TPO” ということだけど、あ、いや、ぼくも歳とったということか、気分や時間帯や季節や年齢などの変化によって聴きたいものの傾向と種類が大きく変貌することもある。最近の個人的メンタルに、こんな<伊藤ゴロー&原田知世>コンビの音楽が真に沁みるなぁ〜って、本心からそう思う。

 

 

どんな音楽を聴きたいか、実際どんなのを聴いているかは、やっぱりそのときさまざまなんだけど、 ま、いま当面は知世ちゃんで。
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