なんでもない日々をちょっとした幸福へと変える歌 〜 原田知世
(3 min read)
原田知世 / fruitful days
https://open.spotify.com/album/4qEzXvDAgusrcMi5O5dWr7?si=zstfBuBiT9GN1UJzN_8tFw
2022年3月23日にリリースされた原田知世の新作『fruitful days』は、伊藤ゴローがプロデュースするこの歌手の最高傑作になりました。全キャリアを通してのNo.1かもしれません。そう思えるほど、すばらしい。
3月23日以後音楽はもうこれしか聴いていないんじゃないかと思えるほどのヘヴィロテぶりなんですが、こんなにも美しいチャームに満ちているんですから当然です。美メロばかりな曲が粒ぞろいで文句なしで、ゴローのプロデュースが冴えているし、知世のヴォーカルもいままでにない充実を聴かせています。
個人的にいちばんのお気に入りにはなんといってもオープニングの1曲目「一番に教えたい」。高橋久美子の書いた歌詞は日常生活に根ざした素直でナイーヴなものですが、詞先でそれにつけたゴローのメロディとアレンジが変態的といえるほど屈折した美しさで、最高にデリケート。
それをつづる知世の声は、年齢を重ねていっそうのやさしさとおだやかさを備えるようになっていて、その薄味で淡色系なヴォーカルの味わいは、いまのぼくの耳にはこれ以上ない癒しに聴こえます。なんでもない平穏で平凡な日々を語った曲にふさわしい歌手です。
若かったころの知世の歌にはこうした落ち着きはありませんでした。人生経験を重ね、人生の残り時間が見えてきたかもという年齢になって(「50代になってからは、自分が健康でいられていろんなことができる時間というのは、長いようでそんなに残ってないのかなと思うようになりました」)、こうした淡い心境を最高にいい感じに歌うことができるようになっています。
そんな知世の充実に寄り添うような色彩を持つ曲の数々とゴローの静かでオーガニックなサウンド・メイクで、もうぼくなんか完璧に溶けちゃっていますね。現在の日本のポップス界における最高の果実がこのアルバムだと言いたいくらいです。
2曲目「ヴァイオレット」(川谷絵音)も最高に美しいし、4「真昼のたそがれ」(辻村豪文)で聴けるスウィング・ジャズを意識したようなレトロなサウンドと4ビートもいい。このへんまでは、いやラストまで、アルバムに間然するところがなく、つくりこまれた隙のないプロデュースぶりでため息が出ます。
さらに、二曲のセルフ・カヴァー(5「守ってあげたい」9「シンシア」)がこのアルバムをスペシャルなものにしています。ゴロー&(50代の)知世コンビならではというできばえで、過去の初演と比較すれば凪のようなしずやかさは瞭然。ここまで来たんだという感慨を、聴き手のぼく自身の内面に重ね合わせ、ひとしおな気分です。
https://www.universal-music.co.jp/harada-tomoyo/products/uccj-9237/
(written 2022.3.27)
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