カテゴリー「ジャズ」の620件の記事

2023/11/19

貞夫ワールドの真骨頂 〜『渡辺貞夫 meets 新日本フィルハーモニー交響楽団』

Screenshot-20231027-at-121502

(3 min read)

 

渡辺貞夫 / meets 新日本フィルハーモニー交響楽団

https://open.spotify.com/album/0TkyL38ugATzAuQkJoLs7P?si=QzFf6DvJSPqVsn4ERhgmww

 

渡辺貞夫90歳の最新作は『渡辺貞夫 meets 新日本フィルハーモニー交響楽団』(2023)で、文字どおり新日フィルとのライヴ共演。今年4月29日にすみだトリフォニー・ホールで録音されたものです。こ〜れがすばらしいできばえですよ。両者の共演は30年以上ぶり。

 

曲はすべて貞夫さんのオリジナル・ナンバー。それをバンドが支え、さらにアレンジをだれがやったのか見事なオーケストラ・サウンドがいろどりを添えています、っていうよりがっぷり四つに組んだような演奏ぶり。90歳でここまでできるんだ!と思うとうれしくなります。

 

ジャズというよりフュージョン系の曲ばかりで、それを生演奏オケとの共演でライヴ演奏するというのは、実をいうと『How’s Everything』(1980)以来の貞夫さんのお得意パターン。サウンドがゴージャスになるのはフュージョン・ミュージックの特質とそもそも相性がいいと思います。

 

今作でもネオ・クラシカルなサウンド寄りでフュージョンの2020年代的コンテンポラリーネスを聴かせているし、それに乗ってアルト・サックスに専念の貞夫さんは快調に歌うように吹くしで、もはや文句なしの内容です。

 

個人的に特にグッとくるのは哀切系のバラード・ナンバー。3「つま恋」、5「オンリー・イン・マイ・マインド」、7「レクイエム・フォー・ラヴ」の三曲。4「ボア・ノイチ」をふくめてもいいかな。貞夫サウダージとでもいうような独自の哀感がたまりません。

 

なかでも7「レクイエム・フォー・ラヴ」があまりにもすばらしい。オーケストラのサウンドもきれいだし(ほんとアレンジャーだれ?)、こういう涙腺を刺激するような切ないバラードは「コール・ミー」(『オレンジ・エクスプレス』)以来貞夫ワールドの真骨頂ですね。

 

(written 2023.10.29)

2023/11/05

シモン・ムリエ最新作『Inception』がほぼ名作

Screenshot-20231022-at-181914

(3 min read)

 

Simon Moullier Trio / Inception

https://open.spotify.com/album/39enGgghe9HiH7ruXEGz2c?si=RYbfMEtwTvS93ZvG5IJujw

 

フランス出身在USAのジャズ・ヴァイブラフォン&バラフォン奏者、シモン・ムリエ最新作『Inception』(2023)がめちゃめちゃいい。ほとんど名作といっていいできばえです。バラフォンも弾いているのはグッドですが、さらに本作は基本カヴァー集なんですよね。

 

ラストの「RC」がシモンの自作なのを除けばすべてカヴァーで、なぜかの「デザフィナード」なんかもあったりしますが、それ以外はジャズ・ソング、それもモダン・ジャズ系のもの。ホレス・シルヴァー、マッコイ・タイナー、チャールズ・ミンガス、マイルズ・デイヴィス、ウェイン・ショーター、ビル・エヴァンズ。

 

ビリー・ストレイホーンの「ラッシュ・ライフ」なんかはみんながやっている有名曲ですが、知名度の低い曲を中心に選んでいるように思えます。マイルズのブルーズ「フランシング」とか、カヴァーされているの初めてみましたよ。

 

その「フランシング」は先行リリースされていて前から聴けたんですが、テンポを上げ速めの調子にアレンジ。と同時にいはゆるブルーズくささを完璧に抹消し、情緒感のない現代ジャズに仕立てあげているのが特徴です。

 

そういえばどのカヴァー・ソングも古いジャズ・オリジナルをとりあげてコンテンポラリーにやってみせるという意図があったんじゃないかと思える内容で、以前もいいましたがシモンはバップ以来の伝統を尊重しつつそれを現代ジャズへと変換するというタイプの音楽家であろうと思います。

 

個人的に本作でことさら気に入っているのは激速テンポで演奏されている2「Inception」、9「RC」の二曲。疾走感が実にすばらしく、まるで陸上競技の100m走を見ているかのような極上のスリルと快感です。

 

どちらでも、あるいはほかの曲でもそうですが、シモンはフレーズをやや大きな声でうなりながら弾いていて、それがなくたって完璧なる肉体派とわかるマレットさばき。聴いていて気持ちいいったらありゃしません。

 

ここのところ毎日これしか聴いていないといってもいいくらい惚れちゃいました。年末のベスト10入り確実。

 

(written 2023.10.27)

2023/10/26

タイトなコンテンポラリー・ジャズ 〜 チェンチェン・ルー

Screenshot-20231018-at-153852

(3 min read)

 

Chien Chien Lu / Built in System: Live in New York 内建系統

https://open.spotify.com/album/1w8DTGBEwQ3YRsDTC9Mv0o?si=V7E-APnASpGYAcbnHd-Mkw

 

チェンチェン・ルーがいいぞと日本語で話題にしているのがほとんどぼくだけのような気がして、これこのままでいいんですかね。たしかに世間的にヒットする要素がまったくないわけですけども、音楽はごく上質の台湾人ジャズ・ヴァイブラフォン奏者であります。

 

そんなチェンチェン、つい先週出た最新作『Built in System: Live in New York 内建系統』(2023)は、今年二作目で通算三作目。といっても今年一つ目はリッチー・グッズとの共作名義による企画アルバムでしたから、単独名義のソロ作品としてはキャリア通算で『The Path』に続く二個目です。

 

その『ザ・パス』が明快な1970年代ふうソウル・ジャズでファンキー路線まっしぐらだったのに比べたら、最新作『Built in System』は情緒感を消したコンテンポラリー・ジャズ路線といえます。こういうのもいいですね。

 

編成は、ふだんのボス、ジェレミー・ペルト(tp)に、リッチー・グッズ(b)、アラン・メドナード(dms)というカルテット編成。鍵盤楽器やギターがいないというのもタイトなサウンド・カラーを決定づけている大きな理由でしょう。

 

またドラムスのアランがかなりの好演を聴かせていて、細かな手数の多い細分化ビートを叩き出すありさまは、まさにいまのコンテンポラリー・ジャズではドラムスが鍵を握っているぞと実感させるものがあります。

 

ファンキーだったりメロウだったりすることがないのは、プロデューサーがジミー・カッツに交代したのが理由かも。ジミー・カッツはNYCで非営利のジャズ・レーベルを運営する人物で、レコーディングし作品をリリースするチャンスがなかなかないけれど音楽的にはすぐれているというミュージシャンに門戸を開いているという存在です。

 

そんなわけもあってか、本作でのチェンチェンはエンタメ路線ではなくややネオ・クラシカルな現代ジャズを志向していて、リリカルだったりする部分がまったくない硬質なサウンドを心がけているのがよくわかります。今回マリンバは弾かずヴァイブに専念しているのも特色でしょうか。

 

(written 2023.10.22)

2023/10/05

なんでもないハード・バップですが 〜 ハンク・モブリー

Xat1245732176

(4 min read)

 

Hank Mobley / Soul Station

https://open.spotify.com/album/731OW49heGHCMrMOREHYlY?si=1rflUyhXRhmwuu-zPxe-xw

 

なぜだかここのところときどき聴いているハンク・モブリーの1960年作『ソウル・ステイション』。なんでもないハード・バップですが、そういうのがとっても聴きたい気分なときもあります。このアルバムはどうやらまだ書いていなかったようですし。

 

一般的にはモブリーでいちばんのアルバムということになっているらしく、なんでもソニー・ロリンズの『サクソフォン・コロッサス』、ジョン・コルトレインの『ジャイアント・ステップス』に相当する位置づけのモブリー作品らしいです。

 

「なんでも」「らしい」とか書いているのは、つまり前から言いますようにぼくは長年モブリーをちゃんと聴いてこなかったんですね。軽視していたというか、マイルズ・デイヴィス・バンド時代があるもんで、前任がトレイン、後任が(実質的に)ウェイン・ショーターですから、そりゃあ分が悪かった。

 

それなもんでモブリーのリーダー作を積極的に聴いてみようという気分に従来はあまりなれませんでした。でも最近トンがった激烈なものより丸くておだやかな音楽が好きになってきましたから、マイルズ作品でもモブリー全面参加のたとえば『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』なんかが沁みるようになってきましたし。

 

歳をとって嗜好が変化し、徐々にモブリーみたいな持ち味のジャズ・サックスもわりといいなあと感じるようになってきたってわけで、そんなところで『ソウル・ステイション』を聴いてみたら、あらとってもいいじゃないって、そう納得しましたきょうこのごろ。

 

オープニングの「Remember」や5曲目のアルバム・タイトル・チューンに象徴されるような4/4拍子のストレート・ジャズも、変哲ないけれど、とっても聴きやすくていいし、さらに個人的にもっと気に入っているのはテーマ演奏部でラテン・ビートが使ってあるもの。

 

とか、リズムに工夫があってブレイクやストップ・タイムの活用が(テーマ部だけなんですけど)聴けるとか、そういうのは、標準的なハード・バップでも当時あたりまえではありましたけど、聴けばやっぱりいいなあと思います。

 

たとえば2「This I Dig of You」、4「Split Feelin’s」はラテン・ビートが使ってあるし(インプロ・ソロ・パートではストレートな4ビートですけどね)、6「If I Should Lose You」はストップ・タイムが駆使されています。アルバム収録曲の半数がこんな感じですから。

 

特に「If I Should Lose You」なんて、もとは悲痛なバラード、というかトーチ・ソングで、止まりそうなテンポで演奏されるかなり沈鬱なフィーリングの曲でした。それをそのまま活かすようなほかのミュージシャンによるヴァージョンがたくさんあって、ぼくも好きでしたし、こういう曲なんだと思っていましたからね。

 

それをとりあげた本作でのモブリーらは、リズム面での工夫をほどこすことでフィーリングを中和し、そこそこおだやかでなごやかなムードのレンディションにしあげているというのが、いまのぼくの気分にはちょうどよくまろやかに響きます。

 

(written 2023.5.25)

2023/08/09

キューバのベートーヴェン 〜 ニュー・クール・コレクティヴ、アルマ・カルテット

A4073447529_10

(3 min read)

 

New Cool Collective, Alma Quartet / Opus 127

https://open.spotify.com/album/6AgECLoboHcH2LgWwuxc8H?si=Ih96k16PRIWCZvFO299QbA

 

ニュー・クール・コレクティヴは結成20年以上にもなるオランダの雑食系ジャズ集団。その最新作はアムステルダムの弦楽四重奏団アルマ・カルテットと組んだ『Opus 127』(2023)で、名の通りベートーヴェンの作品127、すなわち弦楽四重奏曲12番からアダプトしたもの。

 

原曲は四楽章構成でしたが、そのうち第二〜第四楽章をとりあげてジャズ・アレンジしてあります。なかでも個人的にンモ〜タマラン状態なのが1トラック目の「II アダージョ」。ぜひベートーヴェン・スコアに忠実なクラシック・ヴァージョンと聴き比べていただきたいと思います、サブスクにたくさんありますから。

 

ニュー・クール・コレクティヴのは優雅なキューバン・ボレーロへと仕立てあげているんですね。最高じゃないですか。メロディはストリングスじゃなくサックスやトロンボーン、トランペットなど管が吹いていて、それがボレーロのリズムと相性よすぎると思うくらいの完璧な響き。ほんと〜っにきれい。

 

ドラムス、パーカッションの使いかたも曲と解釈にピッタリはまった最適なもので、随所で入るティンバレスのフィル・インにツボを刺激されて快感です。こんなキューバふうにベートーヴェンが変貌するなんて。目のつけどころ、アダプトと解釈の極上さに舌を巻きます。

 

「II アダージョ」でのアルマ・カルテットはさほど目立たず、バックグラウンドで控えめに対位メロを演奏したり和音でカラーリングをふくらませたりといった役目。それでもジャズ・バンドがハメを外さないようにクラシカルな手綱をしっかり握っているのがわかります。

 

トラック2、3ではこのストリング・カルテットもフロントで活躍。リズム・セクションが当然ついてスウィンギーになってはいますが(2「III スケルツォ」はワルツ、3「IV フィナーレ」はマーチふう)これら2トラックではわりあい従来的な<ジャズ・ミーツ・クラシック>の枠におさまっているかも。

 

ですけどね、1「II アダージョ」のボレーロがあんまりにもエレガントで美しく居心地いいもんで、それさえあればこのEPは聴く値打ちあるよ!と強く断言したいっていう、それほどのできばえですよ、この曲というか楽章は。たった3分54秒しかないなんて。5分は続けてほしかった。

 

(written 2023.7.19)

2023/08/02

酷暑をしのぐ涼感音楽 〜 Tales of Wonder ふたたび

A2737803893_10

(5 min read)

 

v.a./ Tales of Wonder: A Jazz Celebration of Stevie

https://open.spotify.com/album/3ooyAWAJArRdEYb1UGO2lS?si=VxX7TyKZSJmqgFGFbBuC6w

 

暑いっすねえ。なんか今年の夏はいままでにない灼熱じゃないですか。19世紀末に近代的な観測がはじまって以後、日本では史上最高の気温だそう。国連によればこれもはや地球温暖化などではなく地球沸騰化の時代に入ったとかで。

 

ぼくら庶民としては電気代のかかりすぎを避けなくちゃいけないですから、ちょっとムードだけでもより効果的に涼しくしたいということで、音楽狂の身でその手の涼感ミュージックをさがすわけですが、ピッタリなのがあります。

 

見つけた三年前の夏にもとりあげて同じようなことを書いたコンピレイション『Tales of Wonder: A Jazz Celebration of Stevie』(2020)がそれ。数日前Facebookメモリーズを見ていて思い出し聴きなおしてみたら、体感温度が2℃下がりました。

https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2020/08/post-5be26a.html

 

あらたな感想はないので再度書かなくてもいいでしょうが、今夏の異常高温にさらされるなかでやっぱりもう一度このアルバムの冷感ムードを再確認してお伝えしておきたいと思うようになりました。新規の読者さんもいらっしゃるようですし。

 

ジャズ・インスト作である『テイルズ・オヴ・ワンダー』がどういうアルバムであるか、個々のミュージシャン名とかについては上にリンクした過去記事をぜひお読みいただきたいと思います(ほとんどクリックされないけどさこの手の)。どうヒンヤリかということに今日はしぼりますが、エレキ・ギターもフェンダー・ローズ・ピアノもヴァイブラフォンも、なんだかブリージー。

 

曲はすべてスティーヴィ・ワンダーのもので、ここでのカヴァーもエレキ楽器と8ビートをもちろん使っていますから、つまりこれはいはゆるフュージョンなんですよね。フュージョンって1970〜80年代からわりかしヒヤっとしたさわやかな肌あたりのある音楽じゃないですか。

 

それは都会的洗練ということなんですけども、ジャズもロックもソウルも暑苦しくやろうと思えばいくらでもできる音楽ながら、融合させたとたんにこんな涼風ただようフィーリングになるっていうのがですね、つまりクロスオーヴァーやフュージョンの特質です。

 

ヴォーカルなしのインストルメンタルであることも、こうした要素に拍車をかけています。といってもここで演奏されている曲、スティーヴィ・オリジナルからして夏向きの冷房音楽みたいな面がちょっとありました。歌を抜くことでいっそうそれが強調されているなと思います。

 

むさ苦しいフィールになりがちなオルガンだって、5曲目「You Haven’t Done Nothin’」で聴けるそれはすーっとしたミント味のような印象がありますし、エレキ・ギターがテンポ・ルバートでイントロを弾きはじめる出だし1「Send One Your Love」からして、そのギター・トーンがすでにさわやか。

 

3「Superwoman」でのフェンダー・ローズなんて、まるでエアコンのしっかり効いた部屋でしかも扇風機の軽い風に当たっているかのようなブリージーな響きで心地よく、軽いジャズ・ボッサへと解釈した続く4「You and I」も曲調からしていい。

 

さらにそこでは(ぼくがクール・サウンドと前から評価する)ヴァイブラフォンの活用が冷感を高めています。同じベン・ギリースがアルバム・ラストの名演「Visions」でもコントラバスとのデュオで弾いていますが、最上の快適さじゃないかと聴こえます。シンプルな二重奏なのがまたグッド。

 

(written 2023.8.2)

2023/07/30

バルセロナ出身のジャズ・サックス、ジュク・カサーレスの『Ride』がちょっといい

A2196093962_10

(2 min read)

 

Lluc Casares / Ride

https://open.spotify.com/album/3LvZAZoOBtjEdeYpER1iyq?si=8nv3VczCT7KfqRUIHFJvLA

 

ジュク・カサーレスは1990年バルセロナ生まれのジャズ・リード奏者。ジュリアードを卒業していますが、三月に発売されていた最新作『Ride』(2023)はギター+ピアノ・トリオの伴奏で、ずいぶん心地よくノリよくスウィングしていて楽しいですよ。

 

ここではテナー・サックスに専念しているジュクにとって四作目で、住んでいたアムステルダムの街に題材をとったものらしく、じっさい同地での2022年9月のコンサート前日にバンドでスタジオ録音されたもの。+ラスト8曲目はそのコンサートでのライヴ収録。

 

新世代ジャズとかではなく、従来型のメインストリームなスタイルではありますが、なかなか耳を聴き張るダイナミックであざやかな演奏ぶり。ジュク以外のメンバー四人も腕達者ですが、個人的には特にギターのジェシー・ヴァン・ルーラーが印象に残りました。

 

静かなバラード系の曲はまずまずかなといった印象ながら、グルーヴするノリいい曲の数々での五人の演奏ぶりはほんとうにみごと。2「Grewisms」、3「Melo」あたりなんて鳥肌立ちそうなほどカッコいいし、リズムのキメが快感で、ソロ・インプロをあざやかにきわだたせています。

 

そのあざやかなキメはあらかじめ用意されていたものかもしれませんが、演奏のなかではきわめて自然発生的に聴こえますし、アレンジではなくアド・リブだったかも。特に「Melo」で聴けるキメがカッコいいんですが、それがこの曲ではグルーヴに一定のファンキーさを与えています。

 

6「Prova Dos」ではラテン・リズム(に聴こえる)の色彩や躍動感があって、これもいいですね。アルバムで大部分を占めるスタジオ録音曲も一回性のライヴ収録で、事後の編集はいっさいなしだそうです。

 

ジュクがリーダーの作品ではありますが、一人でたくさん吹いているというよりも、メンバーにどんどん演奏させている感じで、なかでもギターのジェシーがメインのソロ時間を占めているだろうと思います。ほぼ双頭クインテットに近い様子。ほんといいギターリストですよ。

 

(written 2023.5.12)

2023/07/24

ジャジーに洗練されたBGM 〜 リンジー・ウェブスター

A0454277393_10

(3 min read)

 

Lindsey Webster / You Change

https://open.spotify.com/album/5ybpAA7FFs6aV6y6WXgH8r?si=i-Xlo_J2SVCXOU6PXUAhkA

 

以前一度書いたお気に入りスムース・ジャズ歌手、リンジー・ウェブスターの新作が出たっ!...といって喜んで聴いていたところ、その『You Change』はどうやら新作ではなくて2015年にリリースされていたもののよう。な〜んだ。

 

Spotifyの新着案内プレイリストで流れてきて、アプリ内で見てみたら2023と記載されているしですっかり信用していましたが勘違いだったみたい。それはそれでいいとして、気に入ったのでやっぱりちょっと手短に書いておこうかな。

 

リンジーの音楽はスムース・ジャズ・チャートの常連ですが、コンテンポラリーR&Bとクロスする領域での現代ジャズ・ヴォーカルなわけです。『ユー・チェインジ』も同じ。AOR的でもあって、だからむかしならフュージョンとされたようなもの。

 

ソフトでメロウで、都会的に洗練されていて、土と泥にまみれた田舎の農村あぜ道感なんて1ミリもないっていう。いまのぼくは愛媛県松山市森松町っていう、つまり周囲にたんぼと畑しかないような場所に住んでいますけど、そんなあぜ道をお散歩しながらBGMでリンジーのこういうのとか聴いているんです。摩天楼なんかと縁もゆかりもない田舎町で。

 

そいでもって緑と花と小川と小鳥と蝶に囲まれつつ都会の音楽を聴き、いい雰囲気にひたって妄想するのが日常なんですね。リンジーは2020年ごろまでずっとキース・スラタリー(キーボード)と私生活をともにし、音楽的にもパートナーシップを組んでいました。『ユー・チェインジ』もそんな時期の一作で、全曲二名の共同プロデュース。

 

私生活では別れちゃったみたいなのですが、音楽面ではビジネス・ライクな関係が継続していて、以前書いた『Reasons』(2022)もそうでした。この事実がリンジーの音楽をシティ・ポップなよそおいをまとったスムース・ジャズにしあげている最大の要因なんですね。

 

『ユー・チェインジ』全体としては、どうも人間関係でつらくかなしいことがあった女性を主人公としての物語をつむいでいるようなつくりで、曲調もマイナー・キーを主体にした悲哀感のこもるものが多くあります。

 

しっかりしたビートを効かせつつエモーションは抑制しながら淡々と、それでもクールな熱を込めてつづるリンジーのヴォーカルとジャジーに洗練されたバック・トラックは、しっかり正対して聴き込むというよりまさしくウォーキングなどのBGMとして極上。

 

このごろのぼくはそうした音楽がわりと好きなんです。流し聴きに最適なものが。

 

(written 2023.5.16)

2023/07/19

楽しい時間をワン・モア・タイム!〜 ケニー・ドーハム

61nrwgjefl_ac_sx425_

(3 min read)

 

Kenny Dorham / Una Mas

https://open.spotify.com/album/478lLfwrnUMDKIgaLCPTIy?si=o92QOmDnSrq0u0yL0mG9tg

 

そういえばケニー・ドーハム(ジャズ・トランペッター)ってあまり熱心に聴いてきませんでした。ほかのジャズ・ミュージシャンのリーダー・アルバムに参加しているのを聴けばいいなぁ〜と思ってきたのに、ケニー自身の作品をディグすることが少なくて。

 

でもこないだなにかでふらりとすれちがった『Una Mas』(1963)には度肝を抜かれたっていうか大感動して、なんども聴いちゃいました。特に1曲目のアルバム・タイトル・チューンでぶっとび。

 

ボサ・ノーヴァ・インフルーエンストな一曲ということになっていて、たしかにそんな感じがあります。クインシー・ジョーンズの有名な「ソウル・ボサ・ノーヴァ」なんかと同じパターンで、あれは1962年だったからひょっとしてそれにインスパイアされてケニーは翌年「ウナ・マス」を書いたかも。

 

USアメリカにおけるボサ・ノーヴァ流行期でした。しかしぼくの耳には(ケニーの得意とする)アフロ・キューバン・スタイルのようにも聴こえます。当時のモダン・ジャズ界ではしっかり区別されていなかったかも。でもそんな中南米ふうの跳ねるリズムが快感です。

 

鍵を握っているのはあきからにハービー・ハンコックのピアノとトニー・ウィリアムズのドラミング。レコーディング時すでにマイルズ・デイヴィス・クインテットのレギュラー・メンバーでしたが二名とも、そっちではまだこういった音楽やっていなかったです。

 

特にハービーがブロック・コードを叩くのが快感で、そのパターンは自身のヒット・ナンバー「ウォーターメロン・マン」なんかと共通しています。トニーのほうは60年代末ごろまでラテン・ビートを自身ではさほど活用していなかったですから、ケニーのこれではハービーが主導権を握っているんでしょう。

 

うねうねと身をよじらせるようなジョー・ヘンダスンのテナー・サックス・ソロも聴きごたえありますし、三番手で出るハービーはまったくお得意の曲調って感じで水を得た魚のごとく闊達に弾いています。

 

ケニーの声でしょう終盤で「ウナ・マス!」との掛け声が入り、そのことばどおり同じテーマがまたもう一度リピート演奏されるのも楽しいですね。

 

(written 2023.4.23)

2023/07/16

ジャズ喫茶にまとわりつく狭隘な老害たち

956eed7180cb1cee914fc6a783116a42500x375

(4 min read)

 

写真は四ツ谷のいーぐるですが、以下の本文とは関係ありません

 

きのうかなりビックリするツイートが、あるかたのリツイートでまわってきて読めてしまいました。ジャズ喫茶ではお客のレコード持ち込みは基本ご法度で、それが常識だからかけてもらおうなんて思うな、それを新世代はなんだ!というもの。

 

ぼくの個人的ジャズ喫茶体験(主に1980年代前半)と相反するばかりか、ジャズとはどういったものか?という世界観とも矛盾する言説のように感じました。こんなことを言うひとがわりといるからジャズは世間で不人気なんですよ。

 

これしちゃいかんあれしちゃダメだなんていう考えかたから最も遠いのがジャズ・ミュージックのはず。コード進行にのっとった演奏をベースとするやりかたもあれば、なにをどう吹いてもかまわないそもそもテーマなんかないしっていうフリー・インプロまであり、一般化定式化は不可能ですよジャズとは。

 

チャーリー・パーカーは雇ったばかりの若輩マイルズ・デイヴィスに「こわがらずどんどん前に出てプレイしろ」「ジャズに間違ったノートはないんだぞ」とか言ってプッシュしていました。いずれもパーカー死後のマイルズ回想言で知ったものですが、マイルズの生涯を決定づけたばかりかミュージシャンではないぼくみたいな人間だってこうしたことばを人生訓としてきました。

 

そう、ジャズとは freedom の別名。音楽や音楽家がそうであるばかりでなく、どう聴くか?といったファン、リスナーにとってもそれこそモットーのはず。日本特有の文化であるジャズ喫茶のありようもまた例外ではなく(過去の)実態は実にさまざま。たしかにお客のレコード持ち込みは断るお店が多かったかもですが、すすんでかけてくれるところだっていくつもあり、「こういうもんだから」という決めつけは不可能でした。それが本当のところでしたよ。

 

おしゃべり厳禁で、お客はみんな黙ってスピーカーから流れてくる音楽に真剣に聴き入るお店が多かったかもですが、そうでなくカウンター越しに店主と客がきさくに会話を交わすお店だってわりとあり、リクエストを受けてくれるかどうかだって「こうだ」という法則なんかは存在せず。さまざまだった、自由だった 〜 これが実態。

 

それなのに、ジャズ喫茶ではこうしなさい、これがルールだから外れちゃダメ、なんていうことを垂れ流すのは勘弁していただけませんか。そんな定型ルール、いつできたんですか。お店の雰囲気をこわしたり他のお客の迷惑になったりはいけませんが、それはどんな世界でも同じでしょう。

 

しかも「ジャズ喫茶とは?を知っている」と自負する古い世代(60代以上)が、そういう硬直した言説を流しやすい傾向があるように見受けられ、そうなるともはや完璧にジャズ老害と化しているんだと言わざるをえません。ぼくもその世代ですけどね、みずから厳に戒めたいと思います。

 

(written 2023.7.16)

より以前の記事一覧

フォト
2023年11月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ