カテゴリー「ジャズ」の556件の記事

2022/10/01

人気サンプリング・ソース 〜 ブラザー・ジャック・マクダフ

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(3 min read)

 

Brother Jack McDuff / Moon Rappin’
https://open.spotify.com/album/25sQE6mJ38XKqKm4VKgWp8?si=VPruJToeTOSnlZWruf8m5g

 

ジャケット・デザインが(ぼく的に)悪いと、どうしてもちょっぴり聴く気が起きにくいというダメ・ルッキズム人間なんですけども、それでもジャズ・オルガン奏者、ブラザー・ジャック・マクダフの『ムーン・ラッピン』(1970、ブルー・ノート)、中身は上々。もうちょいおしゃれでカッコいいジャケだったらなぁ。

 

特に2曲目「オブリゲットー」がクラブDJやヒップ・ホップ系ミュージシャンのあいだで人気のサンプリング・ソースだということで、この一点でもっていまでも話題になり生き残っているアルバムだということでしょう。

 

道理でこないだはじめて聴いたアルバムなのに、2曲目が流れてきたら、アッ知ってるぞと思ったわけですよ。といってもヒップ・ホップとかサンプリングを多用した音楽とか、ふだんそんなには聴いていないですから、たぶんブルー・ノート・ジャズのサンプリング・ソース集コンピレみたいなので耳にしていたんだと思います。

 

そうやって甦らなかったら、本作なんて遠い過去の歴史のちりの山のなかに埋もれてしまっていたに違いなく、実際なっかなかCDリイシューもされなかったし、ずっと長らく廃盤のままで、マクダフとブルー・ノートはそんなに縁が深いわけでもありませんから、ファンだって忘れていたかもしれません。

 

それを掘り出してサンプリングするミュージシャンは、だから廃盤になったアナログ・レコードで聴いていたということで、ってことは中古レコード・ショップで買うしかないわけですから、以前もちらっと触れましたけど、DJとかクラブ系のひとたちっていったいどんだけあさってどんだけ聴いているのかと感心しますよね。

 

そうしたおかげで、いま2022年のぼくもサブスクで難なくこのアルバムに接することができるようになっています。嗚呼ありがたや。2曲目だけでなく、アルバム全体にグルーヴィでノリよいカッコいい瞬間が多少あって、しかもジャジーにインプロ・ソロを飛ばしまくるというふうでもないですから、ジャズ・ファン以外にもあんがい聴きやすいという面だってあるのかも。

 

(written 2022.9.5)

2022/09/28

ジャズ・ピアノ100年のタイム・スリップ 〜 エメット・コーエン

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(5 min read)

 

Emmet Cohen / Future Stride
https://open.spotify.com/album/6nGurFCYFgfbZvyA7MB3sk?si=ObbUdb0VSdKYOm-LWJpCRw

 

しばらく前のSpotify公式プレイリスト『Release Rader』で出会った新人ジャズ・ピアニスト、エメット・コーエンにびっくら仰天。いまは2022年なんですけど、ちょうど100年ほども前のハーレム・ストライド・スタイルなんですね。

 

ジェイムズ・P・ジョンスンとかウィリー・ザ・ライオン・スミスとかああいった弾きかたで、なんでこんなのいまどきやってんの!?と思っちゃいましたが、ヴォーカルものだけでなく器楽演奏ジャズの世界でもレトロ・ムーヴメントが発生しつつあるんでしょうか。ハード・バップ・スタイルとかだったらまだ現役だぞっていう感じがしますが、ストライド・ピアノですからねえ。

 

ぼくが出会ったのは2022年新作の「フィンガー・バスター」で、いくらレトロといってもリズム・セクションをともなってはいます。この一曲しか聴けなかったんですが(9月23日に見たらもう一曲出ている)、ジャケットを見れば『アップタウン・イン・オービット』との文字。調べてみたらこれは来たる10月28日リリース予定の最新アルバムみたいです。
https://open.spotify.com/album/4BjFGIIssp2AolqkkhiWji?si=hzeKqGHuQsKEVawtyE-vag

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う〜ん、ジャケットもカッコいいし、待てないなぁ〜と思い検索し、2021年のアルバム『フューチャー・ストライド』というのを見つけ聴きました。アルバムぜんぶがストライド・ピアノというわけじゃなくて、ハード・バップみたいな、あるいはもっとコンテンポラリーな演奏もあるんですが、やはりこのひとのウリはあくまでも一世紀前回帰のストライド・スタイルでしょう。新しくてもデューク・エリントンふうとかあのあたり。

 

古典称揚傾向の強いぼくは、エメット・コーエンのこうした2020年代なのにストライド・ピアノを弾くという姿勢に心から共感します。『フューチャー・ストライド』というアルバム題は、たんなるレトロ趣味に終始するわけじゃないぞということでしょうが、こっちに言わせりゃこの手の音楽は現代性なんぞ意識しないほうが楽しく美しいもの。

 

徹底しなけりゃおもしろくないってわけで、だからそのへん中途半端に新旧折衷したアルバム・タイトル曲の4「フューチャー・ストライド」はイマイチに聴こえました。こういうのより、1「シンフォニック・ラップス」、6「ダーダネラ」、8「ピター・パンサー・パター」といった古典的ジャズ・ピアノどまんなかがぼくは好き。

 

ストライド・ピアノなんていまどき好んで聴くジャズ・ファンはもういなくなってしまったかもしれませんが、もちろんぼくだって20世紀初頭のアメリカに住んでいたわけじゃなく同時代感はありません。ジャズ狂だった大学生のときに興味を持ちレコードを買って聴いてみたら楽しいじゃん!ってなったわけ。

 

エメット・コーエンはベースとドラムスの伴奏つきでやっていますが、本来ストライド・ピアノは独奏用のスタイル。左手のあのぶんちゃぶんちゃっていうリズム演奏でオーケストレイションできるので、伴奏者がつくんならちょっとスタイルを変えてもいいんじゃないかと思っちゃいますけどね。

 

が、エメットは約100年前のスタイルをほぼそのまま再現して、そこにリズム・セクションをつけていますね。個人的には、特にドラムスなんかはジャマだよなあ、こういうピアノ・スタイルには、典雅なピアノなのにちょっとうるさいぞ、とかって感じないでもなく。

 

自覚しているのかどうなのか、最もティピカルな演奏を聴かせる「シンフォニック・ラップス」(と新曲「フィンガー・バスター」)ではパッと伴奏が止む独奏パートも設けていますよね。そこへ来るとその刹那、とってもいい気分におそわれて、やっぱぼくはこういうの好きなんだぁ。

 

(written 2022.9.24)

2022/09/16

もはやフュージョン・バンドではない 〜 イエロージャケッツ

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(3 min read)

 

Yellowjackets / Parallel Motion
https://open.spotify.com/album/2QWh0FN4WfVTaYC5fwiI4I?si=Ra0XBBzPSm6MgnxD0sXGsQ

 

アメリカ西海岸のあまりにも典型的なフュージョン・バンドだったイエロージャケッツ(1981〜)。いまだそのころのイメージのまま認識をアップデートできていないリスナーもいらっしゃるように散見しますが、実をいうとこのバンド、もはやそうではありません。

 

現在のイエロージャケッツを聴けば、フュージョン・バンドの面影なんかどこにもなく、はっきりいってゼロで、完璧なるコンテンポラリーなストレート・ジャズ・バンドへと変貌しているのがわかるはず。1990年にボブ・ミンツァーが加入して舵を切ったよう。

 

ご存知のようにぼくはフュージョン好きなので、80年代のイエロージャケッツもお気に入りでした。知ったのは人気絶頂だった1984年の渡辺貞夫さんが全国ツアーのバック・バンドとして起用したことで。バンド結成のきっかけだったロベン・フォード(g)もいっしょでした、あのときは。

 

あのころと比較すれば、中心人物のラッセル・フェランテ(key)だけを軸に、ほかは全員メンバーが代わったイエロージャケッツ。現在四人編成で(キーボード、サックス、ベース、ドラムス)、結成から数えると40年を超えたという超長寿バンドとして現役活動中なんですね。

 

以前このブログでも前作の『ジャケッツ XL』(2020)をとりあげて書いたことがありました。ドイツのWDRビッグ・バンドとの共演で、アクースティック&重量感のある現代的なストレート・ジャズを展開した立派な内容で、とても感服したのをよく憶えています。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2021/09/post-8b28b2.html

 

今作はカルテット編成のみで演奏するというバンドの原点に立ち返り、ポップな音楽性という柱は40年経っても変わらず維持しながら、やはりコンテンポラリーなジャズ・サウンドを聴かせてくれていて、これもなかなか充実した内容です。四人だけでやるのはデーン・アルダースン(b) が加入した2016年の『Cohearence』以来。

 

一曲だけ、歌手のジーン・ベイラーをフィーチャーした8「イフ・ユー・ビリーヴ」があるにはあります。アーシーなゴスペル・フィールをも感じさせるヴォーカルで、曲はフェランテのオリジナル。歌にオブリでからむミンツァーのサックスも聴かせますね。

 

ストレートなコンテンポラリー・ジャズといっても、イエロージャケッツがやっているのはフュージョンを一度フルに通過したからこそ到達しえた境地で、聴きやすさ、ぼんやりしているとなんでもないような音楽と思えてしまうような明快なグルーヴとノリのよさ、適度な電子楽器の使用法など、80年代フュージョンのエッセンスが現代ジャズとして昇華されているのを感じとることができます。

 

(written 2022.9.15)

2022/09/15

新しさという強迫観念 〜 ブライアン・シャレット

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(5 min read)

 

Brian Charette / Jackpot
https://open.spotify.com/album/53bpqU3b1AjAtwXvrxOE5P?si=wH2g_SqkQmiOvqGXoAd1KA

 

萩原健太さんのブログで教えてもらいました。
https://kenta45rpm.com/2022/09/06/jackpot-brian-charette/

 

ジャズ・オルガン奏者、ブライアン・シャレットの新作『ジャックポット』(2022)をとりあげた上のエントリーにいいことが書いてあって、全力で首を縦にふってうなづきました。端的にいえば、古い音楽も新しい音楽も等価値にすばらしいという点。

 

健太さんのお書きになっていることがほんとうにそのとおりなので、一部ちょっと引用させてください。

 

~~~
まあ、今さらここに何か新しいものがあるわけではないのも事実だけれど、“新時代の空気感を、新たなグルーヴを…”みたいな曖昧な強迫観念の下、やみくもにジャンルを超えて混沌へと身を投じる系でないと評価されにくい昨今のジャズ・シーンにあって、こういう往年のフォーマットに最大限のリスペクトを払った、ある種まっすぐな新作に出くわすと、お古いファンとしてもうれしくなってしまう。

ジャズに限らず、新しさを模索する動きと過去をリスペクトする動きと。どっちも等価値にかっこいい。両輪で歩んでもらわないと、ね。
~~~

 

ブライアン・シャレットの新作をレヴューする格好をとりつつ、健太さんがいちばんおっしゃりたかったことはここにあった、これこそこのエントリーの主眼だったことはあきらかでしょう。

 

そしてぼくもまったくこれが言えると思っていますね、常日頃から。ブライアン・シャレットの今年の新作『ジャックポット』も特にどこがどうということのない従来的なオルガン・ジャズで、1960年前後あたりにたくさんあったああいった路線をそのまま継承しているものです。

 

曲だってすべてブライアンが今作のために書いたオリジナルだとはいえ、どこが「新」曲??と言われるであろう伝統的にスウィンギーでソウルフルでジューシーなハード・バップ・チューンばかり。それをオルガン、サックス、ギター、ドラムスというスタンダードな編成でひねりなくストレートにやっています。

 

1960年前後ごろのオルガン・ジャズ・スタイルだからといって、今作はレトロとかイミテイションとかいうものじゃないと思うんですよね。あのころのああいったジャズはいまだ生き続けている現役の価値観で、2022年にでも意味のある楽しくワクワクできる音楽じゃないかということです。

 

古いからいいとか新しさにこそ価値があるとか、そういう二律背反的な発想じゃなく、そもそもつながっているんだし、ぼくら一般リスナーはどれも同じように並べて聴いていけばいいと思いますし、自分にとって楽しい美しいと思えるものを、スタイルの新旧関係なく忌憚なしに選んでいけばいいと、いつも考えているんですよね。

 

でもでも、いま2010年代以後は、なんだか(特にジャズの世界では)新世代感がないとつまんない、評価できない、古いものなんか…っていうような価値観・評価軸が支配的であるようにぼくにもみえていて、いっぽうでこうしたブライアン・シャレットの新作みたいなのだってどんどん発売されているぞという事実は決して無視してほしくないんです。

 

新しいものが好きで心から共感できるならそれでいいし、古い従来的なものが好きならそれもまた等しくよしで、ひとのことはほうっておけばいい。それをなんだか「新しくなくっちゃ!」っていう強迫観念で躍起になって追いかけているのは、もしも本心じゃなかったら、人気評論家とかに影響されて…、そんな空気で、いま流行りだから…とかっていうんならどうなのか?と、ここ10年ほどずっと感じています。

 

自分の耳で聴きましょうよ。それで自分にとってほんとうに心地いい心底いいと思えるものを、他人の言うことや、あるのかないのかあいまいな時代の空気に左右されず選んでいきたいと、ぼくはそういう態度でやっていきたいと思います。趣味なんだし、自分の人生なんですから。

 

(written 2022.9.7)

2022/09/08

アーシーさもおだやかなオルガン・ジャズ 〜 フレディ・ローチ

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(3 min read)

 

Freddie Roach / Down To Earth
https://open.spotify.com/album/59vNvpgA2YQr4AC5ValpHV?si=J-M3Wd91SXOibPPluU9l5Q

 

ジャズ・オルガン奏者のアルバムで、1962年のブルー・ノートもの、とくれば、もう中身を聴かなくたってだいたいどんなものか想像できようというもの?。フレディ・ローチという名前は知りませんでしたが、やはり内容はそのまんまというに近かった?『ダウン・トゥ・アース』。このアルバム題だってねえ?。

 

フレディのデビュー・アルバムで、編成はオルガン、テナー・サックス、ギター、ドラムスのカルテット。ケニー・バレルだけは有名人でしょう。3曲目「Lujan」(ヘンリー・マンシーニ)以外すべてボスの自作なんですけど、どうってことないブルーズ・リフばかり。

 

おなじみ路線であるということを言いましたが、本作はそれでもクールでおだやか。62年のブルー・ノート・オルガン・ジャズにしてはコテコテというより洗練された味が強いといえるかもしれません。くっさぁ〜いアーシーなフィーリングがさほど濃厚じゃないのが2020年代にはコンテンポラリーに響くかも。

 

いちばんのうまあじは、やはりケニー・バレルのギターだと思います。このひとが参加しているというだけで本作の値打ちは上昇。ブルージーでありながら都会の夜を思わせる洗練されたおしゃれなテイストを持ちあわせているギターリストであることが、このアルバムの方向性を決定づけているんじゃないでしょうか。

 

フレディ・ローチのオルガンだってさほどホットじゃなく、ジミー・スミス、ブラザー・ジャック・マクダフあたりと比較すればややおとなしい弾きかた。ねちっこくグリグリ責め立てるといった中年オヤジ的いやらしさ、しつこさはなく、さっぱりした淡白な味がします。

 

ですから、『ダウン・トゥ・アース』なんていうタイトル(の曲はないのに)を考案したのはもちろんアルフレッド・ライオンでしょうし、この社長はそうしたテイストが大好きでどんどんやらせたのではありますが、意に反し?コテコテには仕上がらなかった、つまりだからおなじみ路線でもないし「中身を聴かなくたって判断できる」というようなものではないのかもしれません。

 

リスナーによっては肩透かしをくらったという気分になるかもしれず、そんなわけでなのか、本作も当オルガン奏者もすっかり知られていないまま埋もれて21世紀になってしまったのかもしれませんね。そんな hidden gem でもブルー・ノートものであればサブスクには載りますから、ぼくみたいにいつどのタイミングでひょっこり出会うかわかりません。

 

(written 2022.8.29)

2022/08/19

あなたはいずこ?〜 4分18秒の小さな宝石(二回目)

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(4 min read)

 

Christian McBride / Where Are You?
https://www.youtube.com/watch?v=mkFg8sW4MoY

 

きのうの『おだやかな音楽』セレクションで思い出したアメリカ人ジャズ・ベーシストのクリスチャン・マクブライドがコントラバスを弓で弾く「Where Are You?」が、好き。もう大好き。2009年のアルバム『カインド・オヴ・ブラウン』ラスト・ナンバーですが、なんかい聴いても泣いてしまいます。

 

これは以前一度書いたことですけどね。アンタまた同じこと言うのか、とあきれられそうですが、めっちゃきれいで感動的なのに忘れちゃっていたんです、マクブライドのあのアルバムのことを。全体としてはなんでもない標準的な作品ですから。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2019/01/419-72f2.html

 

それなのに、ラストの一曲だけこんな宝石なもんだから、思い出すとまたつづりたい気分になってしまうんです。一枚一曲主義ということを以前書いたこともありますが、どんなアルバムのなかにだって一曲だけでもいい玉がみつかれば(ほかが石でも)ラッキーで幸せで飛び上がるようなことだとぼくは思っているし、書いておく価値もあります。

 

Spotifyで聴くと異常に音量が低いこのアルバム『カインド・オヴ・ブラウン』、だからほんとうは「ウェア・アー・ユー?」もプレイリストに選びにくかったんですけれど、こんなにもきれいなものだから、どうしてもガマンできず。曲は1937年にジミー・マクヒュー(曲)とハロルド・アダムスン(詞)が書きガートルード・ニースン(Gertrude Niesen)が初演したもの。

 

その後主にジャズ系の多くの歌手や演奏家にカヴァーされて有名になった曲ですが、今回その多くを聴けるだけ聴いてみて、やはりマクブライド2009を超えるものはない、これこそ至高のものだと確信しました。こんなにも美しい演奏、というか音楽はないでしょう。

 

ピアノと弓弾きベースのデュオ演奏(アルバム中ほかの曲にはサックス、ヴァイブラフォン、ドラムスがいる)というふたりだけの静かで淡々としたサウンドなのもいいですね。「私をひとり残して、あなたはどこへ行ってしまったの?あなたなしなんて考えられない」という悲哀をつづるのに、おだやかでクールな表現のほうがかえってフィーリングがきわだちます。

 

弓弾きコントラバスの音程がきわめて正確なのも演奏の美しさを強調しています。ジャズ・ベーシストはピチカートを常用しますから、そのへんが多少あいまいでもふだんさほど問題にならないんですが、弓で弾いたときにバレてしまうんです。ところがマクブライドのこの演奏では完璧に正確。

 

音色もきれいでさわやかに丸いし、コントラバス演奏における100点満点の理想型を実現していて、それでもってこの切なく哀しく美しいメロディ・ラインを、インスト演奏だけどまるで歌詞の意味をかみしめ込めていくかのごとくナイーヴ&ストレートに弾くさまに、まるで感嘆のため息しか出ません。

 

Spotifyで聴ける「ウェア・アー・ユー?」のうち代表的なものをちょっとだけ拾って並べておきました(↓)。クリス・コナー、フランク・シナトラ、アリーサ・フランクリン、ボブ・ディラン、ソニー・ロリンズ。YouTubeには初演のガートルード・ニースンによるブランズウィック盤オリジナルSPもあります。
https://open.spotify.com/playlist/6uQ9aOIAUJw0NRybZbpPYh?si=322bec79d7ec4465

 

(written 2022.8.18)

2022/08/11

あの時代のアメリカと都会的洗練 〜 リー・ワイリー

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(3 min read)

 

Lee Wiley / Retrospective of a Jazz Singer
https://open.spotify.com/album/3zlyraeHrfHcMgD0p6rgPs?si=15fsrglCQtetpDof1d1XwA

 

2022年リリースとのクレジットになっていますが、なにかの発掘音源でしょうね、リー・ワイリーのアルバム『Retrospective of a Jazz Singer』。 数ヶ月前、いつだったかのSpotify公式プレイリスト『Release Rader』で知りました。

 

これしかしネット上にな〜んにも情報がないですね。CDだってあるのかどうか、検索してもなにも出ませんが、そんなわけでくわしいことがちっともわからず。聴こえてくる音だけですべてを判断しなくちゃなりません。つらい…。

 

それでもなにか書きとめておきたいと思えるほどこの歌手の声がぼくは大好きだから。惚れたきっかけはもちろんかの『ナイト・イン・マンハッタン』でしたが、あれは1951年のレコード。リー・ワイリーは1930年代から録音を開始していて、50年代いっぱいまで活動しました。

 

そして本作『Retrospective of a Jazz Singer』には『ナイト・イン・マンハッタン』を連想させる摩天楼の夜会みたいなおしゃれなムードがあります。そもそもそういう特質の歌手なんですが。音楽性がどうこうっていうより、伴奏もふくめてのムード一発でひたってなんとなく楽しむっていうものですよ。

 

マイルズ・デイヴィスにしたってはじめからずっとそうだし、近年の原田知世とか、考えてみればそういった雰囲気重視のムード音楽、BGM的なものが好きでずっときた音楽愛好歴なのでした。真剣に対峙して正面から向き合ってじっくり聴き込まないと、っていうものも好きだけど、もちろん。

 

それにしてもリー・ワイリーの本作はちょっと不思議です。伴奏のオーケストラがちゃんとしたステレオ録音なんですよね。1975年まで生きたひとだけど、歌手キャリアは50年代末で終了しているので、う〜ん、これはちょっとどうなんだろう…、歌もふくめ何年ごろの録音なんでしょう?

 

あるいはひょっとしてオーケストラだけ録りなおした現代録音で、それを重ねたっていう可能性がかすかにあるような気がちょっとしてきましたが、50年代末ごろの未発表音源でこうした音響もあるいは可能だったかもしれないし、とにかくいっさいのデータがどこにもないんだから。

 

それでも音源を聴けばいい気分にひたれるのがぼくにとってのリー・ワイリー。ちょっとスウィートなしゃれた声質で、だから人気が出たんだと思います。本作ではスタンダードな有名曲を中心に、おだやかでさわやかな小洒落た伴奏に乗せすっと軽く歌いこなしていて、こうした都会的洗練こそジャズ(系のもの)にぼくが求めているもの。

 

リー・ワイリーはそうした世界を体現した歌手でしたね。あの時代の、しかもアメリカ固有の、音楽だったなあ、それを象徴した歌手だった、と思えます。

 

(written 2022.6.28)

2022/08/02

ひたすら楽しいマヌーシュ・スウィング 〜 ジャズ・シガーノ・キンテート&ヤマンドゥ・コスタ

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(4 min read)

 

Jazz Cigano Quinteto e Yamandu Costa
https://open.spotify.com/album/2Ta0frj85gkvSdvKIW9Kg7?si=lNMp-CtHSfu4yZKQr-2V7A

 

新作を次々リリースするペースが速すぎるヤマンドゥ・コスタ(七弦ギター、Br)で、しかもフィジカル完無視状態なので、もはやだれもなにも言わなくなりましたが、数日前にまたまた出ました、『Jazz Cigano Quinteto e Yamandu Costa』(2022)。タイトルどおりジャズ・シガーノ・キンテートとの共演。シガーノが中心で、ヤマンドゥは客演。

 

ジャズ・シガーノ・キンテートのほうはちょっと説明しておいたほうがいいでしょうか。バンド名そのままのマヌーシュ・スウィング、それも1930年代のジャンゴ・ラインハルトがやったそれを忠実に継承再現しているという古典派で、ブラジルはクリチーバの五人組(ヴァイオリン、ギター、ギター、ベース、ドラムス)。
https://jazzciganoquinteto.com.br

 

日本ではまったく無名の存在ですけど(カナで検索したら、ほんとうに一つも出なかった)2010年にデビュー・アルバムをリリースしているので、キャリアはあります。そして今回はじめて知りましたが、その当時からヤマンドゥとは共演を重ねてきているようで、浅いおつきあいじゃないみたいです。

 

フル・アルバムというかたちでこの両者の共演が記録されてみんなが聴けるようになったのは今回が初ということですね。ヤマンドゥがマヌーシュ・ジャズ(ジプシー・スウィング)を演奏するというのはやや意外でしたが、なんでもできるヴァーサタイルさを身につけているんでしょう。

 

七弦ナイロン・ギターをどこで弾いているのかわかりにくいと思うほどシガーノのバンド・アンサンブルにきれいに溶け込み一体化しているヤマンドゥ。なんかピックではじくスティール弦の音しか聴こえないじゃん?ひょっとして持ち替え?とか正直思ったりもしますが(よく聴くとちゃんとそこにいる)、このアルバムはあくまでシガーノのものであって、ヤマンドゥは目立たない脇役ですね。

 

ジャンゴが創始者のこうしたジャズ・サウンドが個人的にはいまだ大好物で、こうやって現代ブラジルのコンテンポラリー・ミュージックとしてもちゃんと生きているのを確認できたのは大きなよろこび。メンバーやヤマンドゥの自作にまじり、ジャンゴの曲だってやっているし、どこまでも伝統に敬意を払って端正な姿勢をくずさないあたりにぼくだったら好感を持ちますね。

 

それになんたって聴けばめっちゃ楽しいもんねえ(ぼくは)。なんだかちょっぴり正統派ジャズでもない、ちょっとだけはみ出したような雰囲気もジャンゴの音楽には感じとれて、それはアメリカン・スタンダードなんかをやっているときでもそうでした。その味の正体がなんなのか?いまだよくわからないんですが、なんとも惹きつけられる不思議なチャームがあります。

 

シガーノのメンバーも(世界も)ジャンゴのそんな部分に魅力を感じて、21世紀になってこうした音楽をやっているんじゃないでしょうか。アクースティック・ギターで軽快にざくざくリズムを刻んでいるのを耳にするだけで快感で、それに乗って別なギターリストがシングル・トーンでメロディを弾くストリング・バンド・サウンドこそこの手の音楽の真骨頂。

 

また、小規模でこじんまりとまとまったサロン・ミュージックふうなおもむきは、そうした傾向の音楽が再流行しているここ10年ほどの世界のトレンドに合致もしているもので、もちろんシガーノのメンバーは流行ではなく信念でやっているだけですが、それがたまたま時流に乗ったという面がありますね。

 

(written 2022.8.1)

2022/07/29

南ア・ジャズの時代?〜 マルコム・ジヤネ

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(3 min read)

 

Malcolm Jiyane Tree-O / Umdali
https://open.spotify.com/album/3nXuL25LbboMeH2KfOE1U8?si=pfkMfxzySlKWI1UAsHkgCw

 

いいジャケットですね。これもたしかディスクユニオン経由で知ったアルバムで、南アフリカのジャズ・トロンボーン&マルチ楽器奏者マルコム・ジヤネのリーダー・デビュー作『Umdali』(2021)。去年暮れか今年はじめごろに聴いてはいましたが、ピンとくるようになったのは最近のこと。南アのジャズについて書くのは今年三つ目です。

 

気だるいようなレイド・バック・フィールが強くあるのが(ぼくにとっては)本作最大の特徴で快感ポイント。ジャズでいうならブルージーとかファンキーとか言われるような音楽要素、それが全体的に濃厚です。

 

全曲ジヤネの作編曲ですが、実態は書かれてある部分より各楽器奏者のインプロヴィゼイション・ソロの連続でどの曲も構成されているように聴こえます。ソロをとるのはトランペット、トロンボーン、サックス、ピアノ。バンドはそのほかパーカッションをふくむリズム・セクション。

 

どのソロもエモーショナルで暖かみのある内容なのが、コンテンポラリー・ジャズではいまどきなかなか聴けないものかもという気がします。前半はややユーモラスな感じもある3曲目からぐんとよくなって、レイド・バック感全開。エレピもホーン・アンサンブルもファンキーでレイジーでいいですね。こういう音楽が大好き。

 

4曲目は出だしから湿ったエモーションに満たされていて、都会的な洗練と退廃も感じさせるムード。ホーン・アンサンブルにからみながら展開されるジヤネのスモーキーなトロンボーン・ソロも聴きごたえ十分です。その後トランペット・ソロ、ジヤネ(と思う)のヴォーカル、サックス・ソロと続きます。

 

曲中、というかアルバム全編を通しずっとコンガの音がスパイシーに効いているのもなかなかきわだっていて、背後というより前景に置かれているのかもしれないと思うほどのミキシングなので、いっそうそれがよくわかります。

 

そしてアルバムのクライマックスは間違いなくラスト5曲目「Moshe」。ジヤネはすばらしいトロンボーン・ソロを吹くだけでなくここでも歌っています、と思ったけどジヤネじゃねえかも。曲や、また特にピアニストのプレイにファンキーさが濃厚にただよっていて、しかもエモーショナルにあふれ出る感じ。そこが本作の特長ですよね。

 

(written 2022.7.26)

2022/07/28

完成度の高いアフロ・カリビアン・ジャズ 〜 マリオ・カノージュ、ミシェル・ゼニーノ

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(3 min read)

 

Mario Canonge, Michel Zenino / Quint’up
https://open.spotify.com/album/3bpLP7dPj2QwA3MnPAjOze?si=tWhxU1ekSqu598_YASXfnw

 

これはたしかディスクユニオンのツイートで見つけたやつ。ご存知のようにその後現在にいたるまで同店のオンライン・サイトは閉鎖中ですから、日本語情報なしで書かねばならないのはちょっぴりつらいところ。なんとか音楽の楽しさに引っ張られるようにやっていきましょう。

 

マルチニーク出身のピアニスト、マリオ・カノージュとマルセイユのベーシスト、ミシェル・ゼニーノの双頭ジャズ・クインテットによるアルバム『Quint’up』(2018)がなかなか楽しいと思います。すくなくともぼく好みのジャズ。

 

音楽的には1965〜68年のマイルズ・デイヴィス・セカンド・クインテットやそれ由来のいはゆる新主流派、つまりポスト・バップ作品なんですが、そこに新主流派には薄かったカリビアン・テイストを濃厚に加味したような感じ。

 

メインストリームな4/4ビートとカリブ由来の8ビート系を縦横自在に行き来したり混ぜたりするところに本作最大の聴きどころがあるみたいで、そうしたミックス・リズムには主役のマリオはもちろん、ドラムスのアルノー・ドルマンもかなり貢献しています。

 

1曲目のテーマ演奏部 → ソロ・パートへ移行する瞬間からそれは明確にわかります。リズムがパッとチェンジするんですよね。ソロ部は一貫してメインストリームな4ビートですが、それでも各人のソロをつなぐブリッジ部分では複雑な8ビートに転換するし、ソロが演奏されているあいだもドラムスがいびつなアクセントを入れたり。

 

2曲目のタイトルが「Calypsonge」で、そのまんまカリプソ・ジャズ。こういうのはべつに目新しいものでもなく、ソニー・ロリンズが「セント・トーマス」(1957)ですでにはっきりやっていたもの。その他メインストリーム・ジャズにも古くからカリプソ要素はあるので、そうした伝統に沿った一曲ということなんでしょうね。これも楽しい。

 

アルバム中いちばん耳を惹くのは4曲目「Not Really Blues」。基本的にはハード・バップなんですが、アフロ・キューバン・テイストが濃厚で、特にアルノーのドラミングにそれが顕著。しかもソロ・パートでは4ビートで進行しつつカリビアン8ビートを混在並存させています。

 

その他の収録曲はまずまずメインストリームなストレート・ジャズでしょうが、そんななかにも随所でリズム面でのアクセント付けや工夫は聴かれます。こうみてくると、アフロ・キューバン/カリビアンな要素は通常的なジャズのなかにも歴史的に頻出してきたものなので、本作がことさら目立ってすばらしい、あたらしいというわけでもない従来ジャズかもしれませんが、こなれた完成度の高さはみごとでしょう。

 

(written 2022.7.12)

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