1978年のレトロ・ポップ 〜 アルバータ・ハンター
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Alberta Hunter / Amtrak Blues
https://open.spotify.com/album/1m4GnCnP6Z6jS4YcX3Vl8y?si=LTGjhQzFSrSSpAY98Fso0Q
以前「落ちぶれたらみんな知らん顔」プレイリストに選んで思い出したアルバータ・ハンターの復帰作『アムトラック・ブルーズ』(1978)。78年のリリースですが79年にジャズ・ファンになったぼくは当時の最新アルバムとして知り買いました。『スイングジャーナル』誌にレヴューが載ったか話題になっていたはず。
『スイングジャーナル』はジャズ雑誌でしたが、あのへん1920年代に最隆盛だった米北部都会派女性ブルーズは同時代のジャズとたいした違いはなく、当時から伴奏陣は全員ジャズ・ミュージシャンでしたし、音楽性も似たようなもんです。べシー・スミスだってぼくが知ったころは(CBSソニーの同じシリーズで)ジャズ・レコードの棚にならんでいたんですからね。
じゃなかったらジャズ・ファンになりたての時期のぼくがベシーとかアルバータとかに出会って買うなんてことはなかったはず。ロックからブルーズに入ったファンがこういった種類のものにイマイチ苦戦する心境を吐露なさるケースがあるのもこれが理由でしょう。
『アムトラック・ブルーズ』も、ブルーズのことをなにも知らない当時のぼくだってジャズ・アルバムとしてまったく違和感なく聴いて好きだったんですから。っていうかつまり完璧にジャズ・アルバムだとしか思っていませんでした。
選曲もなにもかも内容は1978年時点からしたって古いというか、いまふうのタームでいえばレトロ・ポップな内容で、2023年に聴くとそんなところがかえって新鮮かも、ある意味で。
最新の良好録音で古いSP時代スタイルの音楽をやるっていうそんなレトロ趣味に『アムトラック・ブルーズ』はピタッとくるかもしれません。いまや全員が忘れている作品でしょうけど、これが初アルバータ、初北部都会派女性ブルーズだったぼくには決して忘れられない思い出の一作なんです。
とにかく好きなのがトップの「ザ・ダークタウン・ストラターズ・ボール」。これは79年当時からいまでもずっとそう。ピアノ・イントロもジャジーですてきだし、最初の1コーラスをリズムだけでバラード調にしんみりつづるアルバータとバンド(特にピアノ)がとっても沁みます。
明夜のバンドのライヴに遅れたくないからちゃんと迎えにきてねお願いしますよ踊りたいからっていうだけの曲で、アルバータが歌うそんな心情も音楽好きだったら心から共感できるものに違いありません。
1コーラス終わるとバンドが猛然と快活なビートを刻みはじめますが、その瞬間のスリルもたまりません。スウィング調になってからは管楽器が入ってきて、オブリガートを吹いたりソロをとったり。伴奏だけ雰囲気をちょっとづつ変えながら、アルバータは同じ歌詞をなんどもくりかえしています。
プロデュースはジョン・ハモンド。制作陣も歌手にしても78年になにかやろうと思ったわけじゃなく、20年代から歌ってきた同じものをずっと維持していた(といっても引退していたけど)のをそのまま出しているだけで、録音技術とバンドが新しくなったことでレトロな視点と雰囲気が誕生したっていう作品じゃないですかね。声は若くないですけど。
(written 2023.5.1)
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