カテゴリー「ブルーズ」の136件の記事

2022/10/03

ブルーズ界最長老にして最現役 〜 バディ・ガイ

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(3 min read)

 

Buddy Guy / The Blues Don’t Lie
https://open.spotify.com/album/4l9eneOLKyG0u5W4bkDQwp?si=ttryH2pdTM-cW3ApwrkrVQ

 

1936年生まれ58年デビューだから今年でバディ・ガイは86歳キャリア64年目。影響を与えたギターリストなら星数で、代表的有名どころだけでもエリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ、ジミ・ヘンドリクス、キース・リチャーズ、スティーヴィ・レイ・ヴォーンなどなど。

 

そしてそれら弟子格のだれよりも2022年ではバディ・ガイのほうがばりばり最前衛の現役感を発揮しているっていう。これはすごいことですよ。そう「すごい」なんていう安直すぎてふだんは使えない表現しか出てこないほど、このブルーズ・ギターリスト&シンガーは突出しています。

 

出たばかりの新作『ブルーズ・ドント・ライ』(2022)でもそんなとんがったブルーズ表現が健在で、加齢で衰えるなんてこととはまったく無縁。どうなってんのこのひと?音楽じたいはずっと不変のもので、いまさらとりたててどうということもないんですが、こんな作品を2022年に86歳が発表できるっていう事実は、はっきりいって特例的だと思います。

 

本作ではメイヴィス・ステイプルズ、エルヴィス・コステロ、ジェイムズ・テイラー、ボビー・ラッシュ、ジェイソン・イズベル、ウェンディ・モーテンといった豪華で多彩なベテラン・ゲストもむかえ、それらもすべてバディ・ガイの土俵にひきずりこんで飲み込んでしまうという器のデカさを如実に示しているのもすごい。

 

楽しくグルーヴするファンク・ブルーズが中心だけど、たとえばメイヴィス・ステイプルズやジェイムズ・テイラーと共演したものなんかはややシリアスな社会派の眼差しも歌詞にあって、いかにもこの共演者だねっていうタイプをしっかり発揮しているのも好ましく、それでいてギターは変わらずバディ・ガイのサウンドを出しています。

 

それもこれも吸収しての「ブルーズ」なんだよという老熟な境地はやはりしっかり聴きとれて、考えてみればこのジャンルはむかしからある意味社会派な音楽でもあったというか、個と社会がピッタリ張り合わせになった地点をこそつづってきたもの。60年以上ブルーズをやってきたバディ・ガイなら骨髄に沁み込んでいる事実でしょう。

 

つまり不変=普遍の人間感情とか存在のありようをペンタトニックに乗せて表現してきた音楽であるブルーズなんて、決して時代遅れになることもないし流行とか更新とかそういったことを意識する必要もないっていう。むかしから変わらないこの音楽の根っこの核心部分だけ煮詰めて煮詰めて凝縮したようなある種のイコンと化したのが、2022年のバディ・ガイだということでしょうね。

 

(written 2022.10.2)

2022/09/03

意識的なブルーズの声 〜 シュメキア・コープランド最新作

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(3 min read)

 

Shemekia Copeland / Done Come Too Far
https://open.spotify.com/album/3509A3ATMDnr5hYBji4RcV?si=pZf_nu2eRoegrkH9956ZvQ

 

ブルーズ歌手、シュメキア・コープランド。きのうの文章を書いてしばらく寝かせていたら、そのあいだに新作が出ちゃいましたね。『ダン・カム・トゥー・ファー』(2022)。Spotify公式の新作紹介プレイリスト『Release Rader』で知りました。

 

カッコよくノリいいファンキーなグルーヴ・ブルーズがやはり中心で、なかにはアクースティックなものやザディコやカントリー・ナンバーなんかもありますが、エレキ・スライド・ギターがぎゅわ〜んと鳴るようなものがシュメキアの本領で、たっぷり聴けます。

 

なんですけども歌詞に耳を向けるとかなりな社会派っていうか、シリアスでヘヴィな内容を正面から歌い込んでいて、シュメキアはウィル・キンブロー(プロデューサー)と組んだ2018年の『アメリカズ・チャイルド』からこれで三作、ずっとこの路線。メイヴィス・ステイプルズ、リアノン・ギドゥンズあたりと共鳴するような意識的な黒人歌手といえます。

 

本新作でも銃乱射事件、黒人差別問題、奴隷制度、父から子への性虐待など重いテーマが扱われていて、シャウト型といえるシュメキアの濃厚な発声と歌いまわしはこうした内容を歌って強い説得力を持たせることのできるものですよね。BLM以来のアメリカ黒人の声といえるかもしれません。

 

シュメキアにかぎりませんが、そんな深刻なテーマの数々を歌いながらも決して暗くグルーミーなフィーリングになることがなく、どこまでも強くしっかりしたグルーヴを保っているのはアメリカン・ブラック・ミュージックの美点でしょう。

 

サウンドとかビート面でいえば、個人的には2曲目「ピンク・ターンズ・トゥ・レッド」がアルバムでいちばんの好み。1曲目ではゲストとしてサニー・ランドレスの名前がトラックリストに出ていますが、この2曲目でも同様の粘りつくスライド・ギターが聴けます、だれが弾いているんでしょう。ドラマーもいいな。

 

8「ベアフット・イン・ヘヴン」でもビート感とトゥワンギーなギターが心地いいし、マディ・ウォーターズ「フーチー・クーチー・マン」みたいなリフを持つラスト12「ノーバディ・バット・ユー」は父ジョニー・コープランドの曲。これもいいですね。

 

ジャズやロックにおける(オヤジ嗜好的な)ブルーズ成分はもはや時代遅れで、薄ければ薄いほどいい、できればないほうがいいというのが2010年代以後的なアメリカン・ミュージックのトレンドなんですけど、どう転んでもぼくなんか(音楽感覚的にも)オヤジ世代でしかなく、ブルーズ大好きなもんで、時代意識をこうしたサウンドに乗せて聴かせてくれるシュメキアみたいな歌手の音楽だって、ある意味最新型の一つと言えるはずだと思います。

 

(written 2022.8.31)

2022/09/02

12 Essential Contemporary Blues Artists(1)〜 シュメキア・コープランド

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(3 min read)

 

Shemekia Copeland / Deluxe Edition
https://open.spotify.com/album/747l6AGzZzDh8yBQLJgLgT?si=yVzrhPkBTN2_lP9YoPSGRg

 

今年四月ごろだっけな、PopMattersが「12 Essential Contemporary Blues Artists」という記事を載せていました。ざっと読んで、聴けるだけ聴き、印象に残ったものは書いておきたいと思います。
https://www.popmatters.com/12-essential-contemporary-blues-artists

 

きょうは一番手ということでシュメキア・コープランド。日本では一般に「シェメキア」というカナ書きをされているみたいです。1990年代末にデビューしているので「新世代」と言いにくいかもしれませんが、コンテンポラリー・ブルーズ・シーンの注目株として活躍するようになったのは今世紀に入ってから。

 

もっともぼくは上掲PopMattersの記事ではじめて知った歌手です。サブスクで聴けるものをすべて聴いてみたら、2011年の『デラックス・エディション』がいちばんの充実作と思えました。最新は20年の『アンシヴル・ウォー』(2022年8月8日時点)。アメリカーナを意識したそれもよかったですけど。

 

シュメキアのブルーズ・ヴォーカルは朗々とした声を強く張ってリキを込めるシャウト型ですね。ガナる瞬間もあったりするので、そんなにリキまずもっと軽くすっと声を出したらどうか?と思わないでもないですが、でも粘りつくようにグルーヴィで、ファンキーでかなりカッコいいので。

 

『デラックス・エディション』というアルバムは、このタイトルどおりさまざまなミュージシャンを迎え多様な曲を多くのプロデューサーと組んでやってみたという力作。ストレートなグルーヴ・ブルーズが多いには多いですが、なかにはドクター・ジョンがプロデュースしたニュー・オーリンズ・スタイルというかカリビアンな3・2クラーベ・ブルーズもあったり。

 

メロウなスローもあるし、あるいはなぜかのおだやかなジャズ・ナンバーもあって(13)それもおもしろいと思います。そこではシュメキアも強さのなかにまるでジャズ・シンガーみたいなやわらかなたたずまいをみせて、バンドの演奏も2/4拍子の平穏でトラディショナルなもの。

 

それでもやはりシュメキアの本領はあくまでストロング・フィールなファンク・ブルーズでしょう。1、7、12などで聴かせる押し出す感じのノリいい「強い女」イメージは、女性ブルーズ歌手シーンにあってはむかしから定番ではありますが、現代にはいっそうの訴求力、同時代性をたたえたものだといえるかもしれません。

 

(written 2022.8.8)

2022/08/16

ブルーズ in ハード・バップ

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(5 min read)

 

Blues in Hard Bop
https://open.spotify.com/playlist/6LfXg7WFpFqSoM8YCCIQz0?si=2270d98b18a9401f

 

が、もうホント、好きで好きでたまらないっていう人間のぼく。ひとにより退屈だとかいうケースがあっても各人それぞれの嗜好なのでそれでいいと思います。個人的に好きなものを聴き続けていくってことで。

 

そういうわけで、きょうはハード・バップ・ブルーズのなかから特に大好きという、しかもみんな知っている超ベタな有名すぎるところだけ10曲選んで、プレイリストにしておきましたのが上のリンク。

 

1)Horace Parlan / Us Three (60)
2)Miles Davis / Freddie Freeloader (59)
3)Lee Morgan / The Sidewinder (63)
4)Herbie Hancock / Watermelon Man (62)
5)Sonny Clark / Cool Struttin’ (58)
6)Curtis Fuller / Five Spot Ater Dark (60)
7)Horace Silver / Señor Blues (57)
8)Charles Mingus / Wednesday Night Prayer Meeting (60)
9)Sonny Rollins / Blue 7 (57)
10)The Modern Jazz Quartet / Bags’ Groove (88)

 

それはそうと、Spotifyで見るとカーティス・フラーの「ファイヴ・スポット・アフター・ダーク」だけカナ表記なんですが、これなんで?アルバム中でもこれだけ。英語設定で使っているし、どんな曲名も基本原語表記で出るアプリなんだけどな〜。

 

ともあれ、ここに並べた10曲のジャズ・ブルーズは、どなたにとっても説明などまったく不要の名曲ばかり。ラストのMJQだけ88年の発売になっていますが、収録は解散前の74年。それでも新しいかもしれませんね。でも曲は52年のものですから。『ラスト・コンサート』ってぼくは好きなアルバムです。

 

これ以外はすべてハード・バップ全盛期の50年代後半〜60年代初頭の録音発売です。選んでいったら結果的にそうなったのは必然の成り行きなんでしょう。いまの気分では、静かでおだやかな音楽と(その真逆みたいな濃ゆい)ブルーズ in ジャズ & ロックが音楽趣味の二本柱みたいなもんです。

 

きょう選んでおいたのは、いずれもブルーズの定型コード進行(I度、IV度、V度)そのままのものばかり。といってもモダン・ジャズですから、特にコーラス終わりとかで、ちょっぴりの変化はあるんですけれども。まずまずわかりやすくとっつきやすいし、聴き慣れた人間にとっても延々と同一パターンを反復するのには理屈抜きの身体的快感があります。

 

これらのなかでは、おそらくソニー・クラークの「クール・ストラッティン」あたりが、特に日本人ジャズ好きには最も典型的でシンボリカルなハード・バップ・ブルーズだと認識されているでしょう。カーティス・フラーの「ファイヴ・スポット・アフター・ダーク」もかな。

 

こういったあたり、あまりにもベタすぎるので、ジャズ・ファンになってまもなく通ぶるようになったぼくは、むかし大学生のころ、横目でチラ見しながらケッ!とかって思っていたかもしれません。いまや高齢者、そんな気取りというか冷淡ムードは消えたので、いいものはいい楽しいと心から素直に周囲にも言えるようになって、ここでこうしてプレイリストに選んでいるというわけです。

 

ベタというのは言い換えればミーハーということです。そう、ハード・バップにおけるブルーズ定型はミーハーな世界なんですよね。ありきたりでお決まりのワン・パターン。でもミーハーで一途な愛好情熱こそ、どんな世界でも、常に時代を動かしてきたものなんだということを忘れないでほしいですね。

 

一曲だけ、ソニー・ロリンズの「ブルー・7」だけはあまりブルーズくささのないクールな演奏で、それでも途中ソロを弾くピアノのトミー・フラナガンだけはいつものブルージーなリックを連発して、和声を感じさせないボスのテナーと好対照。マックス・ローチのドラムス・ソロがこれまた二小節単位で動くブルーズ進行を叩いているような内容で、それも楽しい。

 

(written 2022.8.15)

2022/06/28

どこまでも自然体のまろやかな老境 〜 ボニー・レイト

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(3 min read)

 

Bonnie Raitt / Just Like That…
https://open.spotify.com/album/5urpeKkrqE82otTOfs8OFd?si=rfmr8NrNQxWrSWeShLOnnQ

 

なぜか楽しくてくりかえし聴いてしまうボニー・レイトの最新作『Just Like That…』(2022)。っていうのはそもそもこのひとそんなに大好きというほどじゃなかったのです。それもおかしな話、こういったブルーズ・ロックはどう考えてもぼくの嗜好どまんなかのはずなのに。

 

それなのにいままではボニーのどのアルバムを聴いてもあまりピンときたことがなく。決してつまらないなんてことはなかったけれど、ふ〜ん…っていう感じで、惚れ込んで聴きまくったっていう経験がなかった音楽家なんですね。ホントなぜだろう?自分でもわかりません。

 

それでもこの最新作で聴ける、どこにもムダな力の入っていないきわめて自然体な音楽姿と、それでいながらぼんやりしてなくてタイトに引きしまったバンド・サウンドは、いまごろになってようやくこのミュージシャンが大好きだと思えるだけの魅力があります。

 

個人的には、ファンキーでグルーヴィな6曲目「ウェイティング・フォー・ユー・トゥ・ブロウ」、気怠るそうにブルージーなスロウの7「ブレイム・イット・オン・ミー」あたりの流れが、本作でのいちばんの聴きどころと思えます。そして、これら二曲ではハモンド・オルガン(グレン・パッチャ)が目立ってすばらしい。

 

まさしくブルーズ音楽をやるベテランのうまみが発揮されているわけですけど、バンドの演奏もボニーのヴォーカルもしっとり落ち着いていて、きわだってまるやか。けっこう隙間の空いたラフでラクなサウンドなのも心地よく、でありかつタイトにグルーヴしているっていう、ほとんど奇跡と思えます。

 

迫力で圧倒したりなんか絶対にしないこんな境地、いかなボニーでもこの老歳になったからこそ実現できたものかもしれませんが、いや、ふりかえって考えてみたらこの音楽家はもっとずっと前から同じこんな自然体な姿勢で音楽をやり続けていたじゃないかと思え、つまりは聴き手のこちらのほうがようやく追いついただけってことか。

 

アルバム全編で本人のスライド・ギターも冴えた音色で鳴っているし、しんみりとおだやかにアクースティック・サウンドで決めたものも複数あり、それになにより声の質感がナチュラルでとってもいいですよね。すっと軽く歌っているだけでしょうが、そんな日常的なありようがそのままこうした上質な音楽になるというのが音楽を生きている人間のあかしです。

 

(written 2022.6.27)

2022/05/13

リズム&ブルーズと呼ばれた音楽 〜 デューク・ロビラードのマニフェスト

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The Duke Robillard Band / They Called It Rhythm & Blues
https://open.spotify.com/album/2Iv8pnhLaHJUf4KBNjaxU6?si=RMx-2hG4TxG0sWzfqYgdnA

 

萩原健太さんのブログで知りました。
https://kenta45rpm.com/2022/03/30/they-called-it-rhythm-and-blues-duke-robillard/

 

ベテラン・ブルーズ・ギターリスト、デューク・ロビラードの新作アルバム名は、そのものずばり『ゼイ・コールド・イット・リズム&ブルーズ』(2022)。爽快感すらあるストライク・ゾーンどまんなかの直球で、実際、ブルーズ、リズム&ブルーズ界往年の名曲群(若干の新曲あり)を小細工せずストレートに投げ込んだ一作。

 

こういった世界にあまりなじみがないとか、そもそも音楽をあまり聴かないというみなさんだって、この手の曲は一個だけ耳にしたことがあると思いますよ。長寿の深夜テレビ番組『タモリ倶楽部』のテーマ・ソング、あれですよ、あの世界がこれです。

 

今回ロビラードは曲ごとにさまざまなゲスト参加を得て、まさにこういうのがリズム&ブルーズの世界だったんだ、こういう時代があったんだよというのを、ブルーズがあたかも過去の遺物のように扱われるようになった2010年代以後の現代に、全面的に展開しています。

 

ジャンプ・ブルーズあり、ルンバ・ブルーズあり、ニュー・オーリンズ・ブルーズあり、スタックスふうあり、ロカビリーあり、ウェスタン・スウィングあり…。めくるめくアメリカン・ブラック・ルーツ・ミュージックの雨アラレで、こういった音楽にこそ強い共感をいだくぼく(だけじゃないはず)みたいな人間には感謝感激のアルバムなんであります。それも2022年の新作ですから。

 

たしかにこんな音楽はもう時代遅れっていうか、ジャケット・デザインだってジジイの世迷言的時代錯誤感たっぷりではありますが、2022年でも決して消えてなくなったわけじゃない、確実にそれを継承している音楽家やファンが間違いなくここにいるぞという、そんなマニフェストみたいなもんですか。

 

(written 2022.5.10)

2022/04/28

時代がひとめぐりしての2022年型フォーク・ブルーズ 〜 タジ・マハール&ライ・クーダー

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(3 min read)

 

Taj Mahal & Ry Cooder / Get on Board: The Songs of Sonny Terry & Brownie McGhee
https://open.spotify.com/album/3d5mOvPLoAggvWctC7L12Z?si=hYvwelm-QOics4n3wM5Iqw

 

タジ・マハール&ライ・クーダーの新作『ゲット・オン・ボード:ザ・ソングズ・オヴ・サニー・テリー&ブラウニー・マギー』(2022)は大きな注目を集めていて、各所で賞賛のことばが書かれまくっていますから、ぼくなんかは黙って楽しんでいればいいような気もします。なんの説明も必要ありませんし。

 

でもみんながあまり言わないことを一個強調しておきたくて。それはこの音楽が端的に<ブルーズの復権>を謳ったものだってこと。そうかといって音楽家たちになんのハッタリも気負いもなく、すんなりナチュラルにホーム・セッションをこなしているのがベテランらしいところ。

 

題材になっているサニー&ブラウニーのパフォーマンスというのは、1960年代には公民権運動の讃歌としても機能していました。だから2022年にそれをとりあげる重要性もそこにあるとぼくは思うんですね。BLMムーヴメントやロシアのウクライナ侵略など60年代と変わらず揺れまくりのこの時代、サニー&ブラウニーの曲が息を吹き返す意義は大きいです。

 

タジとライは、しかし(キャリアと年齢ゆえか)特に気張らず欲もなくメッセージを示すこともなく、ただ淡々とワキームの自宅で三日間のライヴなホーム・セッションを重ねただけ。それにあとから音をくわえたり細かな修正をし、つくりこんで完成品にもっていったんですね。

 

そんな事情があるもんですから、アルバムの音響はかなりラフで、スタジオではない空間性を感じさせるもの。そこがまたナマな質感で、ブルーズ・ミュージックのイキイキとした再現模様を演出していて、いいじゃないですか。そう、21世紀以後、ブルーズはもう死んだ、終わった、老人の音楽だ、現代的訴求性なんかない、とさんざんな扱いですが、そんなことないんですよね。

 

それをタジとライはヴィヴィッドに示してくれたような気がします。時代が一巡りも二巡りもして、過去の遺産みたいになっていた音楽がかえっていま「新しい」と脚光をあびたりするようになっていますが、ブルーズが時代の流行音楽だった60年代当時から現役の二人が、レトロな視点というよりむしろ不変の意味を持つものとして、サニー&ブラウニーのレパートリーを甦らせているのはうれしいです。

 

まるで「自分たちが駆け出しだったころに憧れていたひとたちのようにいまはなった」と言わんばかりに、自分たちはここにいるよ、めぐりめぐってここへ戻ってきたと、しかもそれを自然体で気楽に演奏している姿がアルバムのサウンドに聴きとれて、なんだか頼もしく胸がときめきます。

 

(written 2022.4.27)

2022/03/17

ブルーズ界の次世代キング 〜 クリストーン・キングフッシュ・イングラム

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(2 min read)

 

Christone “Kingfish” Ingram / 662
https://open.spotify.com/album/3oHvQF3GcnbPRsnp2pieAZ?si=y8RhiCNmQieUczCZoZ0NBA

 

これこれ、これですよ、こういう音楽こそ好きなんですよ、ぼくは。

 

アリゲイター・レコーズからデビューして三年、ブルーズ界の超新星ともいえるギター&ヴォーカル、クリストーン・キングフッシュ・イングラムの二作目『662』が昨2021年に出ました。デビュー作同様トム・ハンブリッジがプロデュース。

 

“662” とはキングフィッシュの出身地ミシシッピ州クラークスデイルの電話市外局番で、だからある意味ルーツ回帰宣言みたいなものなんでしょうか。といってもデルタ・ブルーズをやっているわけじゃありませんが、もちろん(歌詞には出てくる)。

 

こってりとヘヴィ&タイトにドライヴするファンク・ブルーズをやるのがキングフィッシュの持ち味で、ちょっぴり往年のプリンスを思わせるところもあります。ロウダウンなダーティさはほぼなく、都会派ですね。

 

タイトル・トラックの1曲目からパワー全開で突っ走るキングフィッシュ。聴きどころはひととおり歌が終わってバンドの演奏が一瞬止まり、あいだをおいてから敢然とはじまる弾きまくりギター・ソロ。いやあ、こういったファンキーなブルーズ・ギター・ソロを2022年のリアルタイムな音楽として聴けるなんてねえ、感無量です。

 

2曲目以後もさまざまにグルーヴのタイプを変えながら、ジミ・ヘンドリクス、エリック・クラプトン、バディ・ガイらの衣鉢を受け継ぎ、現代のホワイト・ストライプスやブラック・キーズとも呼応しながら、ひょっとしたらジョージ・クリントン、ブーツィ・コリンズなんかとも共振できるような音楽がこれでもかと展開されています。

 

ブルーズはもうすっかり「過去のもの」だみたいなとらえられかたをするようになっているかもしれませんが、それでもいまだにときおりこういう大型新人が出てくるあたり、アメリカン・エンタメ・ミュージック界の健全さ、ふところの深さを感じずにはいられません。

 

(written 2022.3.14)

2022/02/22

ぼくにとってはこれが最高の「ハウ・ロング・ブルーズ」 〜 ダン・ピケット

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(4 min read)

 

Dan Pickett / Baby How Long
https://www.youtube.com/watch?v=TYLyQFeUWDg

 

知るひとぞ知るといった存在の米カントリー・ブルーズ・ミュージシャン、ダン・ピケット。第二次大戦後の1949年にフィラデルフィアのゴッサム・レーベルに録音した十数曲がすべてで、それ以外どんな人物だったのかもまったく謎。

 

ダン・ピケットについては、以前も一度書きましたね。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/post-f412.html

 

フィラデルフィアの会社に録音したといっても長旅の結果であったに違いなく、残された音源を聴けばあきらかに南部のギター弾き語りカントリー・ブルーズ・ミュージシャンであったとわかります。ミシシッピ・デルタ・ブルーズの影響も濃いです。

 

ダン・ピケットが残した録音のうちぼくがこよなく愛するのが、どんなアルバムでも1曲目に来る「ベイビー・ハウ・ロング」。曲題だけでもわかりますが、かのリロイ・カー最大の代表曲「ハウ・ロング・ブルーズ」のカヴァーです。この曲のことがそもそも大好きですが、ダン・ピケットのヴァージョンはといえば、こ〜りゃもう至高のものとしかぼくには思えないわけです。

 

これが収録されたPヴァイン盤『ロンサム・スライド・ギター・ブルース』CD発売が1991年。90年代に山ほど出た古いブルーズ音源リイシューものの一環で、ぼくはこれを店頭で見かけるまでダン・ピケットなんて名前すら聞いたことありませんでした。

 

でも雰囲気のあるジャケットとアルバム題に惹かれたんですよね。それでなんとなくの直感みたいなものでレジへ持っていったと思います。自宅へ帰って聴いてみて、1曲目の「ベイビー・ハウ・ロング」に強い衝撃を受けました。こんなに魅力的な曲があるのか?こんなに沁みるブルーズ・ギター&シンガーがいるのか?と。

 

間違いありませんが、このとき1991年が、リロイ・カーのこの有名曲を知った最初でした。ひょっとしたらリロイ・カーの名前すらも知らなかったし、だからこの曲に星数ほどのカヴァー・ヴァージョンがあることなんてつゆ知らず。でもそれらを知ったいまでも、このダン・ピケットの「ベイビー・ハウ・ロング」こそ、ぼくにとっては最高のヴァージョンだと思えてなりません。

 

つまり、シティ・ブルーズの代表的名曲であるリロイ・カーの「ハウ・ロング・ブルーズ」に、南部カントリー・ブルーズとして出会ったのだということです、ぼくは最初。

 

ザクザクとギターで刻むビート感はまさしく南部カントリー・ブルーズのもので、それがあまりにもチャーミング。歌うがごときスライド・プレイもいいですよね。ダンはときおり歌のフレーズ末尾を一部歌い切らず、そのまますっとスライド・ギターに置き換えているパートもあります。

 

また、この塩辛いヴォーカルがいいんですよね。歌い出しの「ナウ、ベイビー・ハウ・ロング/ア〜、ツッ、ハウ・ロング」のパート、ここだけでもう降参です。特に2節目の音程を独自に装飾してマイナー調に歌うところ、胸をグッとつかまれてしまいます。

 

むずかしいことはなにもやっていない、ギター・ビートとスライドでの繊細な歌い、そしてこのヴォーカルと、たったそれだけでこれだけの小宇宙を創造してしまうあたりといい、素材は超有名ブルーズ・スタンダードだけどダン・ピケットにしかできないオリジナルみたいに仕上げているところといい、ぼくにとってこれ以上のカントリー・ブルーズはありません。

 

(written 2021.8.20)

2022/01/19

サブスク世代のレトロ・ブルーズ 〜 エディ 9V

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(3 min read)

 

Eddie 9V / Little Black Flies
https://open.spotify.com/album/3IELDMdo0nbuzRSduoXYwJ?si=sulMTeAJRqWGMQo1A6RSfg

 

なかなかに痛快でちょっとオタクっぽくて好感が持てる白人ブルーズ・ギターリスト&シンガーのエディ 9V(ナイン・ヴォルト)。9ボルト電池ってことだと思うので、だからエレキ・ギター小僧と名乗っているんでしょう。

 

本名はメイスン・ブルックス・ケリー。ジョージア州アトランタ出身で、なんでも15歳のころに学校へ行くことも仕事に就くことも拒否して、地元のブルーズ・クラブ・サーキットへの参加を表明。ちょっとオールド・ファッションドな生きかたかもねえ。

 

2019年にデビュー・アルバムをリリースし、きょう話題にする本作『リトル・ブラック・フライズ』は、フル・アルバムとして三作目にあたるものみたいです。2021年5月リリースだったこれでぼくはエディに出会いました。

 

ちょっぴりロー・ファイなサウンドにわざと加工して1950年代シカゴ・ブルーズみたいに聴こえるようにしてあるこのアルバム、収録曲はアルバート・キング(11)とかジミー・リード(12)などのカヴァーを除き、エディとプロデューサー、レイン・ケリーとの共作オリジナル。

 

バンド(エディのほか、たぶんサイド・ギター、ハーモニカ、オルガン、ベース、ドラムス)でスタジオ入りしてのほぼライヴ一発録りだったそう。そんな生のブルーズ・フィールがこのアルバムにはあふれていて、バンドでのエレキ・ブルーズを聴き慣れた、それも往年のシカゴ・ブルーズ系が好きな人間には、たまらないレトロ感。

 

ボビー・マーチャンふうあり、ジェイムズ・カーふうあり、マディ・ウォーターズふうあり、エルモア・ジェイムズふうありで、エディ自身このへんのグッド・オールド・ブルーズの世界にすっかり魅せられて、ずぶずぶにはまり込んでいるんだなあというのがよくわかります。

 

レトロ・ブームがある、ここ数年くらいか?かつての古い(ジャジーな)ポップスがリバイバルする動きがたしかな流れとして確立されつつある、それも新世代が取り組んでいるというのは間違いないコンテンポラリー・ムーヴメントだと言えますし、21世紀の音楽としてはまったく現代的訴求感のないブルーズの世界なんかでも似たような現象があるのかもしれません。

 

こういったレトロ・ブームの背景として、おそらく配信、それもサブスクで過去音源にだれでも自由かつ安価でどんどんアクセスできるようになったということがあるんじゃないかとぼくは考えています。

 

1990年代にも戦前ブルーズやクラシック・ロックなどのリバイバル・ブームがありましたが、あのころはちょうど当時の新メディアだったCDで、古い(SPやLPなどの)音源が立て続けにリイシューされ、それで当時の若年世代も過去の音楽になじんでいた時期でした。

 

エディ 9Vは現在24歳ですから、ぴったりサブスク世代というわけで、たぶんそういうことかと。

 

(written 2021.12.12)

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