カテゴリー「ブルーズ」の145件の記事

2023/03/22

アルバート・コリンズ直系 〜 ミシシッピ・マクドナルド

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(2 min read)

 

Mississippi MacDonald / Heavy State Loving Blues
https://open.spotify.com/album/3Yh5Oq9qa4e7PvKN3bCPTQ?si=a6FPNTpjSumrYJQmnIeLdg

 

若手新世代ブルーズ・ギターリスト&ヴォーカリスト、ミシシッピ・マクドナルドの新作『Heavy State Loving Blues』(2023)が出ました。ぼくも前から注目していた存在ですが、今作はひときわ切れ味がよくなったので、これだったら書き残しておこうという気になれます。

 

聴きどころはなんたってアルバート・コリンズ系といえるパキポキ・ギターのカッコよさ。歯切れよくたたみかけてくるこうしたサウンドはヤミツキになっちゃう生理的快感で、じっさいラスト10曲目「Blues for Albert」なんか明確にコリンズへささげたインストルメンタル・ブルーズ。

 

全編ブルーズ・ギター・ソロなんですが、はさまれるように途中でちょっとだけナレイションが入ります。そこではミシシッピ・マクドナルドがいつどうやってコリンズのレコードを知ったかという出会いや感謝のことばがつづられています。

 

これだけでなくアルバム全編でサウンドの粒だちがよく、ギターがよく鳴っているのがわかりますし、自作のファンキーなソングライティングも以前に増して充実しているし、だれがアレンジをやっているのか適度にカラーを添えるホーン・セクションもほどよいころあい。

 

ヴォーカルのほうは正直いって「がんばっているな」という以上の感想を持ちにくいんですが、今後はさらに向上するでしょうし、なによりこれだけ弾ければね、エリック・クラプトン〜スティーヴィ・レイ・ヴォーンの系譜に連なる新世代として現役のパワフルさを聴かせつける力作といえるはず。

 

(written 2023.2.21)

2023/02/24

みんな、いまぼくらは歴史をたどっているんだよ 〜 エディ 9V

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(3 min read)

 

Eddie 9V / Capricorn
https://open.spotify.com/album/34kckA5C2zC6ouE5ncMJfI?si=ujZvVbtETp-4RYqN1jqW6A

 

おととし12月ごろでしたか、デビュー作をとりあげたエディ 9V(ナイン・ボルト)。若手サブスク世代のレトロなブルーズ・ギターリスト&シンガーなんですが、二作目『キャプリコーン』(2023)が出ました。

 

ジョージア州メイコンにあるキャプリコーン・スタジオで録音したもので、それゆえでのアルバム題。ここはオールマン・ブラザーズ・バンド、マーシャル・タッカー・バンド、ウェット・ウィリー、チャーリー・ダニエルズ・バンド、ボニー・ブラムレットなどが数々の名作を生み出してきた南部の名門レコーディング・スタジオ。

 

それもあってかエディ 9Vの今作はブルーズだけでなくもっと幅広いサザン・サウンドを展開していて、ソウル/スワンプ・ロック寄りの内容になっているのが、ある意味前作以上にとってもいい。3、8曲目はカヴァー。

 

ブルージーなエレキ・ギター・ソロが今回も全編でたっぷり聴けますが、前作と違ってエディ本人ではないようです。メンバーのギターリストにまかせているみたいで、本人はヴォーカル中心。ドゥエイン・オールマンばりのスライドが聴けたりするので名前を知りたいな。

 

そのスライドがカッコいい2曲目、8曲目(ボブ・ディラン)なども特に出来がよく、聴きごたえありますね。シル・ジョンスン → ボニー・レイトな3もすばらしい。ホーン・セクションの入りかたまでまさに南部ふうで、1970年前後ごろの雰囲気満点。

 

ギターをさほど弾かずともヴォーカルだけでじゅうぶん魅せるエディは、歌手としてもここまでの存在なんだということを立派に証明しています。ナイン・ボルトっていうステージ・ネームがエレキ・ギターへの言及で、前作なんかはそこにフォーカスしていた感じでしたが。

 

2曲目が終わって3曲目に入るとき、エディがバンド・メンバーに向けてしゃべっているんですけど「great brothers, we’re tracking history right now, ya all」って。本人もアトランタ出身であり、歴史を創ってきた南部の名門スタジオでやっているんだぞっていうある種の高揚感が伝わってくるようじゃないですか。

 

(written 2023.2.10)

2023/02/01

ブルーズの年輪 〜 アンジェラ・ストレイリ

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(2 min read)

 

Angela Strehli / Ace of Blues
https://open.spotify.com/album/1Yx4Cwak3jUGTZxWR74oga?si=CECNkKwiQpaMkBXEVa81pg

 

テキサスのブルーズ・クラブ、アントンズ設立にも関係したベテラン・ブルーズ歌手、アンジェラ・ストレイリの最新作『Ace of Blues』(2022)は、このアルバム題で推察されるとおりO.V. ライトの「エイス・オヴ・スペイズ」をカヴァーしているのがキモ。

 

そもそもが(ラスト12曲目を除き)カヴァー・アルバムなわけですが、個人的にことさら印象的なのが「エイス・オヴ・スペイズ」と「トライング・トゥ・リヴ・マイ・ライフ・ウィズアウト・ユー」(オーティス・クレイ)という二曲のソウル・ナンバー。

 

これら以外はブルーズ・ナンバーでベテランらしいこなれた無難な内容ですが、っていうかそれら二つのソウル・カヴァーだってオリジナルをほぼストレートに尊重していて驚きや意外性はないのですが個人的にはなんだか好き。

 

ブルーズだってこうしたトラディショナルなソウルだって、時代を経てもそうは変わらない世界なわけで、一枚の紙のオモテとウラみたいにして一体でともに歩みながらずっとやってきたというのを、アンジェラみたいなベテランが証明しているともいえますね。

 

声はもうすっかり老齢のものですけれど、コクのあるしっかりした歌いこなしをみせていて、バンドのサウンドだって堅実。みずみずしさよりも渋みのまさる音楽で、年輪を重ねただけあるという重厚感みたいなものが歌にあって、こういうのいいとぼくは思います。

 

唯一のオリジナルであるラスト12曲目の「SRV」というのはもちろんスティーヴィー・レイ・ヴォーンへのトリビュートでしょう。夭折した同郷テキサスの天才ギターリストを思い出しながらしんみりと思いをつづっています。

 

(written 2023.1.16)

2023/01/20

ファンク・ブルーズ五題(5)〜 ウィル・ジェイコブズ

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(3 min read)

 

Will Jacobs / Goldfish Blues
https://open.spotify.com/album/37ch8gg8aeKqab8LwgCPO4?si=zmJI6S2ESmup8dk7BVx5gg

 

2022年のデビュー・アルバム『ゴールドフィッシュ・ブルーズ』リリース時点で29歳の新人ブルーズ・ギターリスト&シンガー、ウィル・ジェイコブズ。なんでも10代のころから地元シカゴのローカル・シーン&ヨーロッパでは活躍してきたとのこと。

 

このアルバムもPヴァインの『P-VINE recommended BLUES & SOUL feat. STAN MOSLEY』プレイリストで知ったんだとばかり思っていたからシリーズにつらねたんですけど、どうも違うみたい。そのプレイリストに本作からの曲はないです。

 

じゃあどこで気づいたのかって、もうすっかり忘れちゃいましたゴメンチャイ。いちおうファンク・ブルーズとのシリーズ題につなげてみたものの、ウィルの本作はファンキーというよりぐんと軽くあっさり風味。淡白なポップ・フィールもあります。

 

本人のヴォーカル&ギターのほかはベースとドラムスしかいないトリオ編成で、かなりシンプルで整理されたサウンドだっていうのもそんな印象に拍車をかけています。それでも4、8、10曲目など正調ファンク・チューンもあるにはあって。

 

ファンクといってもディープさはなく、わりと軽めなんですけどね。エレキ・ギターの音色だってほとんど飾らずファットでごてごてした感じにせず(エフェクター類をあまり使っていないはず)、素直なストレート・サウンドにチューンナップしてあるのも淡白系ブルーズとの印象を強めている一因。

 

そうそうギターといえばですね、本作ではどの曲でも二本、三本と同時に聴こえるんですが、あきらかにウィルの一人多重録音だっていうのが疑いなく明白にわかってしまうっていう、ここまでそれがはっきりしているギターリストもめずらしいんじゃないですかね。

 

聴きやすいファンク・ブルーズだっていうか、そもそもが暑苦しくむさい世界なんですけど、本作はまったく印象が違います。聴き手によってはこんなのダメだものたりないよという感想が浮かぶでしょうが、ここ一、二年あっさり薄味系の音楽こそフェイバリットになってきたぼくにはこういうのもときにはいいな思えたり。

 

(written 2023.1.8)

2023/01/19

ファンク・ブルーズ五題(4)〜 サード・コースト・キングズ

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(2 min read)

 

Third Coast Kings
https://open.spotify.com/album/3vTo93HPZchFgdKcW9XwVs?si=IWJa1Z4zQaCBevrUaIBLKQ

 

これまたPヴァイン製プレイリスト『P-VINE recommended BLUES & SOUL feat. STAN MOSLEY』で知ったもので、サード・コースト・キングズの『サード・コースト・キングズ』(2012)。ほとんどジェイムズ・ブラウン・マナーのファンク・ミュージックで満たされています。

 

米ミシガン州のバンドなのは間違いないみたいですが、同州デトロイト発とするもの(CD販売サイト)とアン・アーバーとするもの(Wikipedia)が併存しています。公式サイトでは “Metro Detroit area” が出身活動地だということになっていますから、たしかにアン・アーバーも近接していますよね。

 

アルバム・トータルで聴くと正直やや一本調子で、しかもアマチュア・バンドくさいゴチャゴチャ感も否めない面があると思うんですが、じっさいこのバンドはアルバムなら2曲目に収録されている「ギヴ・ミー・ユア・ラヴ」を2010年に7インチでリリースして、それ一発で知られるようになったみたいです。

 

ただし、それとか4、6曲目とか一般にこのバンドの代表作とみなされているらしいヴォーカル・ナンバーよりも、アルバムで多数を占めるインスト曲のほうが個人的には好み。よりグルーヴィですし、聴きやすいし、ギターとドラムスがJBスタイルで、たとえば1、3、5曲目あたりカッコいいです。

 

ちょっぴり雑なところもかえって味で、ホーン・アンサンブルにしろきちんときれいに重ならないとかピッチがあいまいだとかいうのが勢いというかパワー、拡散力を産むことにつながっているとも聴こえます。そういうのってアフロビート・バンドなんかでも散見されるフィーリングでしょう。

 

ファンクとかってそうした押しまくる勢いみたいな部分で勝負するといったところもあるんじゃないかとぼくは思っているし、グルーヴ・ミュージックだからそれでいいかなと思います。デリケートでていねいな音楽じゃないですけど、それを求めるものじゃないですよね。

 

(written 2023.1.4)

2023/01/18

ファンク・ブルーズ五題(3) 〜 イーストサイド・キングズ

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Eastside Kings / テキサス・ファンキー・ブルース最前線
https://open.spotify.com/album/66vmErRZu8DGwDIphPDMiZ?si=_hk_qdIvSjupwwMy7ncMPQ

 

これもPヴァイン製のサブスク・プレイリスト『P-VINE recommended BLUES & SOUL feat. STAN MOSLEY』で知ったもの。イーストサイド・キングズとは個人的に初耳で、アルバム題はなぜかの日本語『テキサス・ファンキー・ブルース最前線』(2016)。日本企画アルバムなんでしょうか。

 

テキサス州オースティンのイースト・サイド出身メンバーがやっているからこのバンド名があるみたいで、リーダーはオルガン奏者&シンガーのピー・ウィー・カルヴィン。ふくめ総勢七名で編成されています。Spotifyにあるアルバムは『テキサス・ファンキー・ブルース最前線』一個だけ。

 

カヴァー曲にもちょっと特色のある作品で、なかでも特に2「レット・ザ・グッド・タイムズ・ロール」、7「クライ・トゥ・ミー」、13「ブギ・チルン」あたりはぼくでも知っているくらいな有名スタンダード。それをグルーヴィ&ファンキーに料理しています。

 

それらもオリジナル曲もふくめ、全体的にいかにもテキサスらしいシャッフル・ビートが多く、なかには典型的ジャンプ・ナンバーみたいに仕上がっているものもあり。21世紀の作品ですけど、このへんローカルに根づいたブラック・ミュージックの伝統は不変なんでしょうね。

 

タイトなファンク・チューンやなつかしめフィールのインスト・ナンバーだってあるし、聴いていてとにかく文句なしに楽しい。ブルーズ系のアメリカ黒人音楽、特に1940〜60年代あたりのそれがお好きなファンのみなさんであれば、ぼくと同じように愉快な時間をすごすことができるはず。

 

(written 2023.1.3)

2023/01/17

ファンク・ブルーズ五題(2)〜 クリスタル・トーマス

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(2 min read)

 

Crystal Thomas / It’s The Blues Funk!
https://open.spotify.com/album/5O2aONk6KwqBhP8GEOPhqV?si=aG9_5577TlSYcbgXO7uv3Q

 

きのう書いたスタン・モズリーの新作リリースをきっかけに、発売元のPヴァインがサブスク・プレイリスト『P-VINE recommended BLUES & SOUL feat. STAN MOSLEY』を作成公開しました。これが楽しいので、よく聴いては参考にしています。Spotifyでは2個しかライクがついていません(うち1個はぼく)。
https://open.spotify.com/playlist/1Z9xYaYKThGv91CFFmaMJR?si=6898b06064704a84

 

それで知ったクリスタル・トーマスのアルバム『It’s The Blues Funk!』(2019)がめっちゃカッコいいのでビビっちゃうくらいなんですね。まさにグルーヴィな豪速球ファンク・ブルーズ一直線で、アルバム題なんかその自信に満ちあふれていますよね。

 

トラックリストに共演者としてチャック・レイニーとラッキー・ピータースンの名前が出ていますが、チャック・レイニーってあれですかキング・カーティスやアリーサ・フランクリンなどともやったあのベーシスト?そうですねそのひとしかいませんね。

 

ラッキー・ピータースンはハモンド・オルガン&ピアノで、そのほかにドラムスとギターだけっていうシンプルな編成の生演奏でグイグイ攻めてくるパワーに圧倒されます。インストルメンタルの8曲目でトロンボーンを吹いているのは、その道でも知られたクリスタル自身でしょう。

 

アルバムは1曲目からもうカッコよすぎて、こりゃいいね!とヒザを叩き快哉を叫ぶ痛快なグルーヴィさ。イントロや間奏のギター・ソロもすばらしくノリいいし、バンドもねえ、従来的なファンク・ブルーズの枠内にすっぽりおさまっていて新しさなんかはないんですけど、ここまで熟練のブルーズを聴けばそんなもん必要ねえって気分。

 

2曲目以後も同じ。特にファンクネスがたぎっているようなタイトなグルーヴを聴かせる4、6(JBみたい)、7、8曲目あたりはなんど再生しても最高の快感。クリスタルのヴォイス・カラーには好嫌が分かれる部分があるかもですが、バンドの演奏にはだれも文句つけられないでしょう。

 

もしこれが2022年のリリース作品だったら、年末のベスト9に入れたかったくらいです。ファンク・ブルーズ史上でみても傑作の一つでしょう。

 

(written 2023.1.2)

2023/01/16

ファンク・ブルーズ五題(1) 〜 スタン・モズリー

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(2 min read)

 

Stan Mosley / No Soul, No Blues
https://open.spotify.com/album/2h7BgA3IliA1QQmvFo37d1?si=TzHBZDwiTZSWPVzZDqZ-cA

 

Pヴァインなどが全面展開しているからですが、2022年暮れ以来日本におけるブルーズやアメリカン・ブラック・ミュージック・ファンの話題をさらっている感もあるスタン・モズリーの新作アルバム『No Soul, No Blues』(2022)。ぼくもシビレています。妹尾みえさん経由で知ったんでした。日本企画作。

 

かつてマラコでも活躍したスタンはブルーズも歌えるソウル歌手といったところでしょうか。本新作はファンク・ブルーズのアルバムみたいに仕上がっていて、そんなところもたいそう好み。タイトなリズムとホーンズがめっちゃカッコいい。

 

スタンのヴォーカルはソウル歌手らしいふくらみを感じさせるもので、シャウト型で鋭角的にガンガンくるというよりはふわっとした印象が(本作では)あります。ちょっぴりニュー・ソウルっぽい?ここは日本人ブラック・ミュージック・リスナーのみなさんと意見が違うところでしょう。

 

それにこのアルバムで個人的にいちばん好きなのは、やわらかくジャジーな6「Undisputed Love」なんですもんねえ。グリッサンドするホーン・アンサンブルもレイド・バックしているし、こういうのが気持ちいい人間ですから、いまは。それでもファンキーな感覚は濃厚に漂っています。

 

アルバム全体のサウンドはゴツゴツしていて迫力があるし、ヴォーカルは「気合」と呼ぶしかないようなフィーリングに満ちているし、ストレートなブルーズらしいものはほとんどありませんが、ソウルフルなファンキーさが横溢していて、ガッツのある(従来的な意味で)ホンモノのブラック・ミュージックをこそ求めているという向きには歓迎されるはず。

 

(written 2023.1.1)

2022/11/11

12 Essential Contemporary Blues Artists(2)〜 ルーシー・フォスター

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(3 min read)

 

Ruthie Foster / Live at the Paramount
https://open.spotify.com/album/4WpmLRfmXFom0gjfLb9FWG?si=QKiu8KXpT72flqdqrxzsJw

 

以前シュメキア・コープランドをピック・アップしたPopMattersの記事『12 Essential Contemporary Blues Artists』(↓)から、二回目はルーシー・フォスターをとりあげてみます。
https://www.popmatters.com/12-essential-contemporary-blues-artists

 

ルーシーは1997年にアルバム・デビューしているようなので、その点ではやはり新世代っていうわけじゃないんでしょうが、こねくらずガナらずコブシもまわさないヴォーカル・トーンにはジャジーなさっぱり感があって、決して旧タイプの濃ゆい歌いくちじゃないですね。

 

最新作『Live at the Paramount』(2020)は、地元テキサスはオースティンのパラマウント・シアターでやったショウをライヴ収録したアルバム。大きな編成のバンドをしたがえていて、そのアレンジを(マイルズ・デイヴィスとの共演歴もある)ジョン・ビーズリーがやっています。

 

ちょっぴりハイ・ソウルっぽいフィーリングも香る音楽で、だからブルーズの枠で知りはしたものの、本作で聴くかぎり実態はさわやかジャジー・ソウルみたいな持ち味です。ジャズ・シンガー寄りかなという感触がしますね。

 

なんかフュージョンっぽいのも三曲ほどあったりするし、それでいて従来的なジャンプっぽい強いシャッフル・ビートの効いたストレートなブルーズ・ナンバーで声を張るものも複数あるっていう。

 

しかしどんな曲をどんな伴奏でやるにせよ、ルーシーのストレート&ナイーヴなヴォーカル・スタイルは一貫していて、それがあるから安心して聴くことができますね。従来的な曲想のブルーズ・ナンバーでは大向こうをうならせるミエを切るような強い発声もできる多彩なスタイルの持ち主。

 

アルバム全体でみると、ブルーズの枠で知り聴いてみたもんだからどうしても「けっこうさっぱり淡白なジャジーさだ」という印象が先行してしまいますが、ほんとうはそっち、つまりブルーズも歌えるジャズ歌手、と考えたほうがいいのかもしれません。バンドのサウンド・アレンジも手伝って、そういう気になってきました。

 

なお、ラストでアンコール的に二曲のジャズ・ナンバー「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」「マック・ザ・ナイフ」をやっていますが、その前の「フェノメナル・ウーマン」がとってもいいです。キャロル・キング/アリーサ・フランクリンの「ア・ナチュラル・ウーマン」を意識した曲なのはあきらか。

 

決してロー・ダウン&ダーティな感じになることがなく、どんな曲をやっても常にクラッシーなのがルーシー。その意味では、もはやベテランに近いくらいのキャリアの持ち主ではありますが、(ブルーズ歌手とみれば)新世代的な感覚を備えているといえる面があるかも。

 

(written 2022.10.27)

2022/10/03

ブルーズ界最長老にして最現役 〜 バディ・ガイ

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(3 min read)

 

Buddy Guy / The Blues Don’t Lie
https://open.spotify.com/album/4l9eneOLKyG0u5W4bkDQwp?si=ttryH2pdTM-cW3ApwrkrVQ

 

1936年生まれ58年デビューだから今年でバディ・ガイは86歳キャリア64年目。影響を与えたギターリストなら星数で、代表的有名どころだけでもエリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ、ジミ・ヘンドリクス、キース・リチャーズ、スティーヴィ・レイ・ヴォーンなどなど。

 

そしてそれら弟子格のだれよりも2022年ではバディ・ガイのほうがばりばり最前衛の現役感を発揮しているっていう。これはすごいことですよ。そう「すごい」なんていう安直すぎてふだんは使えない表現しか出てこないほど、このブルーズ・ギターリスト&シンガーは突出しています。

 

出たばかりの新作『ブルーズ・ドント・ライ』(2022)でもそんなとんがったブルーズ表現が健在で、加齢で衰えるなんてこととはまったく無縁。どうなってんのこのひと?音楽じたいはずっと不変のもので、いまさらとりたててどうということもないんですが、こんな作品を2022年に86歳が発表できるっていう事実は、はっきりいって特例的だと思います。

 

本作ではメイヴィス・ステイプルズ、エルヴィス・コステロ、ジェイムズ・テイラー、ボビー・ラッシュ、ジェイソン・イズベル、ウェンディ・モーテンといった豪華で多彩なベテラン・ゲストもむかえ、それらもすべてバディ・ガイの土俵にひきずりこんで飲み込んでしまうという器のデカさを如実に示しているのもすごい。

 

楽しくグルーヴするファンク・ブルーズが中心だけど、たとえばメイヴィス・ステイプルズやジェイムズ・テイラーと共演したものなんかはややシリアスな社会派の眼差しも歌詞にあって、いかにもこの共演者だねっていうタイプをしっかり発揮しているのも好ましく、それでいてギターは変わらずバディ・ガイのサウンドを出しています。

 

それもこれも吸収しての「ブルーズ」なんだよという老熟な境地はやはりしっかり聴きとれて、考えてみればこのジャンルはむかしからある意味社会派な音楽でもあったというか、個と社会がピッタリ張り合わせになった地点をこそつづってきたもの。60年以上ブルーズをやってきたバディ・ガイなら骨髄に沁み込んでいる事実でしょう。

 

つまり不変=普遍の人間感情とか存在のありようをペンタトニックに乗せて表現してきた音楽であるブルーズなんて、決して時代遅れになることもないし流行とか更新とかそういったことを意識する必要もないっていう。むかしから変わらないこの音楽の根っこの核心部分だけ煮詰めて煮詰めて凝縮したようなある種のイコンと化したのが、2022年のバディ・ガイだということでしょうね。

 

(written 2022.10.2)

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