カテゴリー「ロック」の278件の記事

2023/09/05

シティ・ポップとしてのキャロル・キング「イッツ・トゥー・レイト」

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Carole King / Tapestry

https://open.spotify.com/album/12n11cgnpjXKLeqrnIERoS?si=4ZQYuodbSxS0wCh7ebSFNA

 

『ライター』を聴きかえした際、ついでだからとやっぱり『タペストリー』(1971)も聴いたんですけど、今回は新発見がありました。シングルでヒットもした3曲目の「イッツ・トゥー・レイト」がめっちゃおしゃれで都会的。

 

だから、ある意味1971年にしてシティ・ポップの先駆けみたいになっているなあ、とあらためて感じました。特に中間部でギター〜ソプラノ・サックスと続くソロ・パートはややジャジーというかフュージョンっぽさをもただよわせ、この曲の都会ムードをいっそう高めています。

 

楽器ソロはほかにも入っている曲があるのに、なんか「イッツ・トゥー・レイト」だけムードが違いますからね。かなり洗練されているし、コンガまで使われているややラテンな雰囲気でリフまで考えられていて、かなりていねいにアレンジされています。

 

もうなんか聴けば聴くほどシティ・ポップ・チューンとしか思えなくなってくるんですが、キャロルも最初はNYCで活動していたんだし、西海岸に移ってからも大都会ロス・アンジェルス在住で、ソング・ライティングにおしゃれで都会的な要素があっても不思議じゃないなとは思います。

 

『タペストリー』全体ではそんなムードあまりないだけに、「イッツ・トゥー・レイト」の都会っぽさ、ジャジーさが目立っている気がしますね。

 

(written 2023.8.25)

2023/07/18

ロックでサンタナ「ブラック・マジック・ウーマン」以上の悦楽なし

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Santana / Abraxas

https://open.spotify.com/album/1CHUXwuge9A7L2KiA3vnR6?si=xQhJ4XjqRtmCfiSv_m2fwQ

 

こないだなにかのきっかけでふと思い出すことがあって(@スターバックスコーヒー松山市駅前店)聴きなおしたサンタナのアルバム『Abraxas』(1970)、ってかそのとき聴いたのは2曲目「ブラック・マジック・ウーマン」だけだったんですけど、それが最高じゃないですか。あのときスタバでコールド・ブリュー・コーヒー飲みながら聴き、あらためて感銘を受けました。

 

いまとなってはロック・ミュージック・ソングのなかでいちばん好きなのがサンタナ版「ブラック・マジック・ウーマン」かもしれません。ピーター・グリーンが書きフリートウッド・マックでやったのがオリジナルではありますが(1969)、どう聴いてもサンタナのレンディションがはるかに魅力的。

 

マック・オリジナルからしてラテン・ブルーズだったので好きにならないわけがない曲ではありましたが、UKブルーズ・ギターリストのグリーンとしてはラテン・テイストをさほどに強調はしていなかったと思います。サンタナのはそこを拡大したのがグッド。

 

そもそも序章になっている1曲目「シンギング・ウィンズ、クライング・ビースツ」が終わり本編幕開けたる2「ブラック・マジック・ウーマン」がはじまると、その瞬間のスリルと色気にゾクゾクしますよね。オルガンとパーカッションが雰囲気をつくるなかカルロス・サンタナのギター・イントロが流入した刹那、はやイキそう。

 

一瞬のブレイクがあってギター・ヴォリュームをくいっと持ち上げイントロが本格的に弾かれるあいだは絶頂が続いている感じで、むかしはそこからグレッグ・ローリーのヴォーカルが入ってくるとちょっとガッカリな印象を持っていました。カルロスのセンシュアルなギターをもっと聴きたいぞと。エクスタシーがずっと続けばいいのにと。

 

現在ではヴォーカルも楽しいしラテンなエロスに満ちているなと感じるようになりました。いったん終わってやはりカルロスのギター・ソロ再開。それを聴いているあいだは艶っぽい気分で楽しくってしかたがないですよ。

 

その後やはり歌、次いでカルロスはイントロと同じフレーズを弾いて幕閉じとし、メドレーになっているインスト・ナンバー「ジプシー・クイーン」(ガボール・ザボ)へとなだれ込みます。

 

(written 2023.7.12)

2023/06/25

王道のアメリカン・ルーツ・ロックは永遠に不滅です 〜 トレイシー・ネルスン

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Tracy Nelson / Life Don’t Miss Nobody
https://open.spotify.com/album/28gauff9JHiO1Co73MvUnP?si=rPTDfCLyTLCpIxB4qYbuCA

 

米西海岸ベイ・エリアのブルーズ・ロック・バンド、マザー・アース(1968〜77)創設時からのリード・シンガーとして活躍したトレイシー・ネルスン。同バンド在籍は72年ごろまで。74年からソロで活動しています。

 

ですからトレイシーもだいぶキャリアが長いわけですが、最新アルバム『Life Don’t Miss Nobody』(2023)がずいぶんいい出来で胸に沁みる内容。個人の感想ながら、こうしたブルーズ・ロックっていうかアメリカン・ルーツに根差したロック系ポップスは永遠に不滅なんだなあとの感慨を強く持ちました。

 

ブルーズ要素はもう古いとか時代遅れとか言うみんなにまどわされず、いままでどおりこれからもこうしたエヴァーグリーン・ミュージックを聴き続けていきたいし、じっさい新作もいまだどんどん出ていますからね、ベテラン・若手の別を問わず。

 

本作にはブルーズ・ロックというよりブルーズ・ミュージックそのものだろうと思えるようなものも二曲あります。4「Your Funeral and My Trial」と9「It Don’t Make Sense」。ブルージーなスライド・ギターやハーモニカをフィーチャーし、こ〜りゃいいね。ほんとこういうの快感です。

 

かと思えばクラリネットの入るトラッド・ジャズふうなものがあったり(5)、伝承曲の7「Hard Times」ではアコーディオンが使われていて南部ふうのイナタい雰囲気でありつつ毅然としたヴォーカリストの心境もうかがえる内容で、すばらしい。

 

ウィリー・ネルスン参加の8曲目はやはりカントリー・ソングですが、ブルーズ・ロックとの境界線を感じない内容。カントリーだってもとはといえば白人版ブルーズとしてルーツ的には出発したんだし、トレイシーもウィリーもそのへんの事情というか伝統を体現しているわけでしょう。

 

ラテンというかカリビアンなロックンロールも二曲あり(10、12)。うちチャック・ベリーをカヴァーした12「Brown Eyed Handsome Man」ではトレイシー、アーマ・トーマス、ダイアン・デイヴィッドスン、マーシャ・ボール、リーバ・ラッセル、ヴィッキー・キャリーコが一堂に会し交互にマイクを握ったりというぜいたくさ。こんなおねえさまがたにはさまれた〜い。

 

(written 2023.6.16)

2023/05/14

ツェッペリンにおだやかな曲なんてほとんどない

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Led Zeppelin - calm songs
https://open.spotify.com/playlist/46ezoVQYX0J24yd04I8had?si=f4498f9db7154910

 

レッド・ツェッペリンは音楽ファン人生の最初だった10代なかばに出会って好きになったバンド。あのころトンがってイキっていたぼくは音楽でもやっぱりハードでエッジの効いたものが好きでした。ツェッペリンを好きになった一因もそれ。

 

歳とってもそうしたロックが好きだという趣味が変わらずそのままずっと続いているファンもかなり多いので、おだやかで平和なものを中心に愛聴するように傾向が変わったぼくはどっちかというとマイノリティなのかもしれません。

 

もちろんそのぉ〜、ハード・ロックにまでおだやかさを求められるものならそうしたいと思ってしまうぼくの考えが根本的に筋違いなわけですけども、もともとボスのジミー・ペイジはマイルドでフォーキーな嗜好をもあわせ持っていた音楽家ではありました。

 

ヤードバーズ解散後、次の方向性を模索していた際、ロバート・プラントの声とジョン・ボーナムのドラミングを耳にして、これだ!ハード・ロック路線で行こう!となったわけであって、そう、この二名こそツェッペリンのイコン・ヴォイスみたいなもんでしたね。

 

ともあれそんななかから、これはまだ比較的おだやかで静かっぽい感じかもとちょっとは思える曲を集めて一個のプレイリストにしておいたのがいちばん上のリンク。だから「コミュニケイション・ブレイクダウン」も「胸いっぱいの愛を」を「ハートブレイカー」も「移民の歌」も「ロックンロール」もありません。

 

ツェッペリンを聴くロック・ファンのみなさんに、ぼくもかつてはこのバンドのすべてが大好きだったけど最近はこんな感じを好むようになってきたよっていうのを、このバンドの音楽でもって多少は理解していただけるかと思います。

 

といってもですね、やっぱりツェッペリンだけあって、出だしから前半はゆっくりおだやかに徐行していても、途中から終盤にかけて激しく派手で重たい感じに展開することが多いです。きょうのセレクションもほとんどがそう。そんなものまで外していたらほぼなにも残らないバンドですから。

 

個人的には特にジョン・ボーナムのドラミングがやかましく感じます。おだやかムードをすべてぶち壊しにしてくれていて、これは決して悪口とか批判じゃないのですが、曲が、特に後半、ドラマティックに展開する最大のキー・マンに違いありません。ヘヴィ。でも最近はもっと軽いのが好きだなぁ。

 

多くのロック・ミュージックは(淡々としているより)ドラマティックに展開したほうがいいし、それでこそ聴き手のみんなに賞賛されるっていうわけで、ツェッペリンも同傾向のバンドでした。ってかほとんどのロックはそうでしょ。

 

(written 2023.4.9)

2023/05/07

「ルビー」は最高の現代シティ・ポップ・チューン 〜 エマリーン

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Emmaline / All My Sweetest Dreams
https://open.spotify.com/album/6MXyZ6SiKBcbVKY1QANgFa?si=dqCSIsFgR6aFKCP4r5kD2w

 

萩原健太さんのご紹介で知ったエマリーンという歌手(USアメリカ)。レトロ・ジャズ路線もいいですが、ドナルド・フェイゲン(スティーリー・ダン)っぽい70sふうシティ・ポップみたいなのを歌っているときがさらにいっそう魅力的だとぼくは感じました。顕著なのがデビュー作『All My Sweetest Dreams』(2019)。
https://kenta45rpm.com/2023/03/29/retro-kind-of-love-emmaline/

 

このEPにはまだレトロ・ジャジーな方向はなく、ヴァイオリンも弾いておらず、ひたすらシティ・ポップばかり歌っていて、曲はすべてエマリーンのオリジナル。といってもどのへんを意識したかあきらかで、過去に隆盛だったさわやかシティ・ポップ、AOR系を完璧に模しているんですね。

 

2020年代的同時代性はないからその意味ではやっぱりレトロ指向ではありましょうが、ジャズよりこういった(ロック系)シティ・ポップ路線のエマリーンこそ、ヴォーカルもいいけどソングライティングが、最高にいまのぼく好み。むろんそれはジャジーな要素と切り離せないものです。

 

特にグッとくるのは3「Shy」と6「Ruby」。気持ちいいぃ〜。2「All My Sweetest Dreams」もいいな。さわやかクールで都会的。チリひとつ落ちていない感じでひたすら洗練されていて、土と泥にまみれたような部分なんかこれっぽっちもありません。それがぼくの嗜好でもあります。

 

なかでも「ルビー」はきときわチャーミングで最高。流れてきた瞬間に一耳惚れしちゃったような快適さで、だぁ〜いすき!なんの変哲もないシティ・ポップ・チューンのようではありますが、2023年にこんな曲なかなか聴けるもんじゃありません。

 

AORっていうかつまり西海岸フュージョン+ヴォーカル入りのようでもあり、コンピューター打ち込みを排したオーガニックな演奏音楽であるのもすばらしいと思います。音楽一家で育ったエマリーンは、ですから幼いころからこうしたものを身につけられる環境にあったんでしょうね。

 

この後現在までにある二つのEP(2023.4.22時点)はややレトロ・ジャズ寄りで、レイヴェイあたりにも通底しつつ違う個性も感じます。

 

(written 2023.4.22)

2023/05/04

2023年に甦るLAスワンプ 〜 ミコ・マークス with アワヴァイナル

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Miko Marks | OurVinyl Sessions
https://open.spotify.com/album/1jYR4r6R2gWLtGQYPbm4qR?si=qrJLGDgySXmPyvkMxCQ7FA

 

黒人ながらカントリー畑でデビューし、ゆえに苦労し、ロック、カントリー、ソウル、ゴスペル、ブルーズなどが渾然一体となっていた1970年前後ごろのLAスワンプ系みたいな音楽を現代に追求している新世代歌手ミコ・マークス(USアメリカ)のことは以前書きました。

 

リリースされたばかりの最新EP『Miko Marks | OurVinyl Sessions』(2023)もまた同じスワンプ路線。しかしこれ、アワヴァイナルって初耳ですけど、なんでしょう?なにかのバンドかプロジェクト?と思って検索したら、どうやらライヴ・ミュージックをサポートするプラットフォームらしいです。かつてのMTVアンプラグドとかそんな感じかな。

 

それなもんで「アワヴァイナル・セッションズ」の冠でさまざまな歌手のオーディオEPみたいなのがサブスクでリリースされていて、同内容を収録したヴィデオもYouTubeで同時展開している模様。ミコのはこれ↓
https://www.youtube.com/watch?v=W3_CXH3NDBo

 

これによれば、バック・バンドはいままでミコをレコーディングなどでサポートしてきたリザレクターズです(といってもはじめて見るんだけど)。演奏曲もいままでにリリースされたアルバムに収録されている(ぼくには)おなじみの四曲。それの2023年版ライヴ再演ということですね。

 

ですから曲に目新しさはなく、歌も演奏もいままでミコを聴いてきた人間にはすっかり既知のスワンプ路線ですし、それでもあれですね、ザ・バンドとかその周辺、70年前後ごろのああいったロック系ミュージックがお好きなみなさんであれば、気に入っていただけるはずと思いますよ。

 

既発曲ばかりながら、オリジナル・ヴァージョンに比しバンドもミコも技量が進み練り込まれていて、熟練の味を聴かせるようになって滋味を増しているのは好ポイント。さらに一回性のライヴ・ミュージックであるのも曲にグルーヴィさをもたらす結果になっていて、楽しいです。

 

個人的に特にカッコいいぞと感じたのは2「Ancestors」。こうしたビートの効いたグルーヴ・チューンで聴くこの手の音楽はいつでも最高。フェンダー・ローズとエレキ・ギターのサウンドに支えられたバンドの演奏もみごとだし、ミコの張りのあって迫力と説得力に満ちたヴォーカルだってすばらしいです。

 

(written 2023.5.4)

2023/04/23

CDで買った最後のポール・マッカートニー 〜『エジプト・ステイション』

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Paul McCartney / Egypt Station
https://open.spotify.com/album/3uLrSFrNqa8CULSIU7e9v5?si=vg9TKAPdSoasJmFxVhC07w

 

ポール・マッカートニー2018年のアルバム『エジプト・ステイション』。ぼくがCDで買った最後のポールで、この後現在までに『マッカートニー III』(20)の一作あるだけなんですけど、そっちはサブスクで楽しみました。

 

(基本的に)物体を買わずサブスクで音楽を楽しみ愛するようになったのは2019年の晩夏ごろから。17年にSpotifyプレミアム(有料)を契約していましたが、同時にCDも買っていたんです。移行に二年かかりました。

 

その移行期間、ぼくはちょっとおかしなサブスクの使いかたをしていて、CD買って聴いてこりゃいいねと思ったアルバムを、次いでサブスクでさがし、見つかったのをリンク貼ってソーシャル・メディアやブログで紹介していたっていう。

 

逆ですよね。サブスクを試聴機代わりに使って、いいねと思ったらディスク買うっていうやりかたをなさっているみなさんが圧倒的多数のはず。そこいくとぼくはいったいなにをやっていたんでしょう。さすがにいまはもう違っています。

 

ポール・マッカートニーの『エジプト・ステイション』も、まずネットでジャケットを見て、あっいいじゃんと思ってCDを買い、届いたもののそっちはあまり聴かず、物体見つめながらサブスクでなんども聴いたんだったと記憶しています。

 

2018年だからブログをやっていたんですけど、なぜかこの作品のことをとりあげなかったですね、当時は。音楽はいいぞと思ったのに、チャンスを逃してそのままになっています。こういうことって毎日書いているとわりとあるんですよね。

 

そいで、いまごろ不意に思い出し、その後二度の引っ越しでディスクはもう山のどこにあるかわからないけどサブスクなら検索すればパッと出てくるので、数年ぶりにまた聴きました。今度はちょっぴり感想を書き残しておこうかなって。

 

『III』とあわせたポール近年の二作はまったく傾向の異なる音楽で、個人的な好みでいえばもう断然『エジプト・ステイション』を選びたいということになります。ビートルズ〜ウィングズ時代から続くポールらしさ満開。

 

つまりポップなロックで聴きやすいってこと。むかしからのポールのファンだったなら「これだよこれ、これこそポールらしいメロディ・ラインとサウンドだ」ってヒザを打ちそうな曲が満載で、聴いていて心地いい。

 

また一人多重録音ではないバンド演奏のグルーヴがしっかりあることも気に入っている理由の一つ。イキイキした音楽の躍動感が聴きとれるというのがですね、むかしながらの楽器演奏スタイルに生命が宿るという考えというか嗜好の古くさいファンであるぼくにはいいんです。

 

(written 2023.3.4)

2023/04/20

心のぜいたく 〜 ドナルド・フェイゲン『ザ・ナイトフライ・ライヴ』

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Donald Fagen / The Nightfly Live
https://open.spotify.com/album/5C5qAs32rM9PXL6MNuxTDp?si=kk0J9VPsRTStq7GkhrSz9A

 

三回目ですがドナルド・フェイゲン『ザ・ナイトフライ・ライヴ』(2021)。なんべん書くねんw?!と言われそう。これも都会の音楽プレイリストに入れたら熱が再燃し、このごろとってもよく聴いています。毎晩欠かさずお風呂あがりに流しているんじゃないかと。間違いなくこの一ヶ月の最ヘヴィロテ・アルバム。

 

都会の音楽だっていうのはオリジナルの『ザ・ナイトフライ』(1982)からもちろんそうでした。21年リリースのこの再現ライヴもジャケット・デザインを見るだけで中身の洗練度がよくわかります。こういうジャケがぼくは大好きなんですよ。

 

そして生バンドによる一回性のライヴ・パフォーマンスだっていうのも、ディスクやサブスクで聴いている人間だって、まるで都会の夜のゴージャスなライヴ・コンサート会場におしゃれして出かけていって参加しているっていうそんなヴァーチャルな妄想にひたることのできるムードを演出しているように思います。

 

熟練の腕利きミュージシャンたちが、もとから完成度の高いアルバムの曲群をオリジナル収録どおりの順番で、アレンジもほぼそのままに再現している企画ものライヴ音楽だったというのが(ぼくには)いいんですよね。

 

1980年代当時は多くのセッション・ミュージシャンたちにパーツごとなんども演奏させたテープを複雑に切り貼りするスタジオ密室作業で完成させるしかなかったのが、現代なら生演奏バンドでそのまま実現できるようになったという。だからライヴ披露できたわけですから。

 

この音楽には生活臭みたいなものがまったくなく、日本でいえばお味噌汁とお漬けもののにおいみたいな、そういうのが完璧に抹消されたきれいな都会的洗練が支配しているのが、なんともいえずぼくの好みどまんなか。一夜限りの大切な大切なプライム・タイムを実現するために、細かく微かなディテールからていねいに練りあげられ組みあわさった極上のグランド・デザインが音で具現化しています。

 

高額なコンサート・チケットを買わなくたって、立派でおしゃれなレストランでディナーを頼まなくたって、ゴージャスな洋服なんか着なくたって、それらにおとらない心のぜいたく、こうしてなんでもない自分の部屋のスピーカーからサウンドとなって展開される都会の一夜をかたどった楽しい音楽こそ、ヴァーチャルだけど、ぼくには最高の贅沢品です。

 

(written 2023.4.4)

2023/04/17

シティ・ポップとしてのエリック・クラプトン『アンプラグド』

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(4 min read)

 

Eric Clapton / Unplugged
https://open.spotify.com/album/6zxsfP7TdXLAS9QEGNN0Uy?si=UphbFjLFQ3m2J-8tfFxG_Q

 

きのう「みんな知らん顔」ブルーズのプレイリストにもここから選んだんですが、エリック・クラプトンのライヴ・アルバム『アンプラグド』(1992)。これ、実はぼくけっこう好きですね。ちょっと恥ずかしいことかもしれないんですが、もうそんなこと気にしている歳じゃない。

 

90年代当時このCDはかなり売れて有名人気盤になり、前からロック・ギター・キッズのあいだでは大ヒーローだったクラプトンの一般世間での知名度も一躍急上昇することになりました。が、そのいっぽうでクロウト筋からの音楽的評価は必ずしもかんばしくなかったのです。

 

つまり、60〜70年代からクラプトンをずっと聴いてきていたすれっからしの耳の肥えたブルーズ、ロック・リスナーのあいだでは「う〜ん、これはちょっとねえ…」という声が多かった。その大半は、たくさんやっているギター弾き語りの戦前ブルーズ・チューンがきれいさっぱりと洗浄されちゃったみたいになっていることへの違和感だったように思います。

 

90年代といえばCDメディアの普及にともなって戦前黒人ブルーズがCDでばかすかリイシューされまくっていて、一種のブームみたいになっていましたよね。それなもんでオリジナルを耳にする機会がぼくらも増えて、それに比べて『アンプラグド』のクラプトンのは…みたいな感想があったかも。

 

ぼくもあのころは同調していたんですが、あっさりこざっぱりしたおだやかな都会的音楽こそ最愛好になったここ数年の個人的趣味の変化をふまえて『アンプラグド』を聴きなおしてみたら、あ〜ら不思議、なんかとってもいいじゃない。アクースティック・オンリーのオーガニック生演奏というのもステキだし。

 

たしかに2「ビフォー・ユー・アキューズ・ミー」、3「ヘイ・ヘイ」、9「ウォーキン・ブルーズ」、12「モルティッド・ミルク」とか、やっぱりね、ちょっと、これでいいの?という気分が拭いきれない面もあって、こりゃ “ブルーズ” じゃあないだろうと言いたくなってくるフィーリングがぼくにもいまだあります。

 

しかし最近このアルバム全体をじっくりなんども聴きなおしていてようやく気づいたのは、これらは必ずしもブルーズじゃないんだってこと。オリジナルはブルーズ・チューンですが、ここでのクラプトンらの解釈は一種の洗練されたおしゃれシティ・ポップになっているんじゃないかと思うんです。

 

だからこそブルーズ・リスナーには受け入れられないと思うんですが、ジャジーなシティ・ポップ好きにとっては恰好の音楽で、これはこれでわりといいものですよ。4「ティアーズ・イン・ヘヴン」、5「ロンリー・ストレインジャー」、8「ラニング・オン・フェイス」といった曲じたいのポップ・チューンとならんでいますから、この側面はいっそう強化されています。

 

そう考えないと、このごろのぼくがこのアルバムに感じている快適さは説明できない気がします。本作でいちばん好きな6「ノーバディ・ノウズ」とか、同系統のちょっぴりホンキーなジャグ・バンド・ミュージックっぽい10「アルバータ」、11「サン・フランシスコ・ベイ・ブルーズ」とかも、こんな視点で聴きなおすことで、ここでのレンディションのチャームをよりよく理解できるはずです。

 

(written 2023.3.17)

2023/03/20

ホワイト・ニュー・ソウルとしてのセントラル・パーク・コンサート 〜 キャロル・キング

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(3 min read)

 

Carole King / Home Again - Live from Central Park, New York City, May 26, 1973
https://open.spotify.com/album/50CaGSXy1G8maVQypYXbxr?si=46F_sOJJRjmyS10Z4J08fA

 

以前からの予告どおりこないだ(ちょっと前か)出たキャロル・キングの『Home Again - Live from Central Park, New York City, May 26, 1973』(2023)では、8トラック目のバンド・メンバー紹介にはじまる後半パートこそ聴きもの。

 

キャロルは「デイヴィッド・T・ウォーカーズ・バンド」とMCで呼んでいる大編成で、エレキ・ギター(デイヴィッド・T・ウォーカー)、エレキ・ピアノ(クラレンス・マクドナルド)、エレキ・ベース(チャールズ・ラーキー)、ドラムス(ハーヴィ・メイスン)、パーカッション(ミズ・ボビー・ホール)にくわえ、2サックス、2トロンボーン、2トランペット。

 

ピアノ弾き語りをいつも基底とするキャロルがこんな編成でライヴでもスタジオでも演奏することはあまりなく、この日のこのバンドは本人もしゃべっているように完成済みでリリース間近だった当時の新作『ファンタシー』(1973.6)から弦楽だけ抜いてそのまま使ったもの。

 

『ファンタシー』は最初と最後に「ビギニング」と「エンド」を置き全曲をそのあいだにはさむ組曲形式のコンセプト・アルバムで、ソウル・ロック、あるいはブルー・アイド・ソウルとして玄人筋から高く評価された作品です。

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1973年というといはゆるニュー・ソウルがちょうど大きな波となっていた時代。キャロルとしてもそのへんの流行を意識したチャレンジをしたのでしょう。そんな新作のライヴお披露目としてセントラル・パーク・コンサートを使った格好です。このまま全米ツアーにも出ました。

 

はたしてこの日の後半は『ファンタシー』の音楽性をライヴでかなりな部分再現することに成功しているように聴こえます。歌詞は内省というより社会派なメッセージ性に富み、サウンド面でもジャズやフュージョン、そしてソウルに著しく接近。まさしくホワイト・ニュー・ソウルのおもむきです。

 

なかでも特に13「ヘイワード」とか16「コラソン/ビリーヴ・イン・ヒューマニティ」あたりの斬新なサウンドはあざやかで耳を奪われます。メドレーになっている後者の1曲目なんか、こりゃもうラテン・ジャズ・ファンクだろうといえるグルーヴ感で、スリリング&躍動的。

 

(written 2023.2.23)

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