カテゴリー「ロック」の259件の記事

2022/09/10

クラプトン『24 ナイツ』がわりと好き

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(4 min read)

 

Eric Clapton / 24 Nights
https://open.spotify.com/album/6buXSkzKCNuC3ieAjYsmDk?si=AG7S-czSTXC-UPQvSaMiEA

 

それにしてもエリック・クラプトンって、そのファンであることがちょっと気恥ずかしいような存在だということなのか、多くのみなさんが遠慮しながら自嘲気味に発言しています。ぼくにはもうそんな若々しい気分なんてないので、いいものはいいと素直に言いたいです。それが歳を重ねたということ。こんなこと言っていいだろうか?笑われない?って思わなくなりました。

 

それで、全肯定の熱心なファンを除けば一般にはクラプトンって1980年代なかごろまでだった音楽家という見かたが支配的で、ぼくも同意見ではありますが、それ以後の作品にだって好きなものはちょこちょこあります。その一つが1991年発売の『24 ナイツ』。CDだと二枚組でした。

 

このライヴ・アルバムがなんであるか、ロイヤル・アルバート・ホールでの連続公演のこととか、四部構成でそれぞれテーマがあってバンド編成ががらりと違うとか、調べればくわしい解説が出ますので、どうぞ検索なさってください。該当Wikipediaを読むだけでもおっけ〜と思います。

 

個人的に好きなのはディスク1の2パート。1〜4曲目が1960年代のクリーム・ナンバーを中心に4ピース・バンドでの再演。5〜8がブルーズ・サイドで黒人ブルーズ・ミュージシャンを従えてのカヴァー集。これらがぼくには心地いいんですね。

 

こういうと、60年代からロックやクラプトンを聴いてきている筋金入りのみなさんには、アンタ気は確かか?と思われそう。だけど、個人的な嗜好のことにはだれも注文つけられませんから。それを隠さず正直に堂々と言える年齢になってきましたので。

 

1〜4曲目(2は新曲)なんて、クリームのオリジナル・ヴァージョンよりずっと好き!(えっ?)って思えるくらいですから。特に「バッジ」と「ホワイト・ルーム」。90年代にもなってなんでそんなのやってんの?懐メロかよ!と悪口も言われたでしょうが、バンド演奏のキレとビート感がオリジナルよりずっと好き。ぼくは。

 

ドラマーはスティーヴ・フェローンで、ずいぶんシャープなドラミングをするので、大好きなんです。そのほか三名、合計たったの四人でやっているのに不足ないゴージャスなサウンドに聴こえるし、ライヴ演奏にしてはスキがないし、クラプトンのギター演奏だっていつもに増してきわだっています。

 

5曲目以後のブルーズ・サイドでぼくがいつもじっくり聴いてしまうのは6「ハヴ・ユー・エヴァー・ラヴド・ア・ウーマン」。クラプトンにとっては60年代から数えられないほどくりかえしやってきた最頻演得意曲で、そのあまりに手慣れた感ゆえ、ここでは悪くいえばクリシェだらけのつまらない演奏に堕しているとも聴こえます。

 

ギターの音色づくりにしたっていかにもだし、フレイジングも手癖だらけのオン・パレード、妙にこぎれいな清潔感ただようとても流暢ないっちょあがり的演奏、こんなの「ブルーズ」じゃないよというのが一般のブルーズ/ブルーズ・ロック愛好家の意見でしょう。ぼくもおっしゃるとおりと思うんですけども。

 

それでもなにかの心地よさ、聴きやすさがこの「ハヴ・ユー・エヴァー・ラヴド・ア・ウーマン」にはあります。非ブルーズに落ちることの危険性ととなりあわせになった平坦なおだやかさ、エモーションがほとばしらずこぼれおちたりなどいっさいしないありきたりの日常性が、ニセモノ・ブルーズであるとはうすうす感じながらもの愛好感にぼくのなかではつながっているんです。むかしから。

 

(written 2022.9.4)

2022/08/31

ピーター・アースキンのキャリア最高傑作 〜 スティーリー・ダン『アライヴ・イン・アメリカ』2曲目「グリーン・イアリングズ」

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Steely Dan / Alive In America
https://open.spotify.com/album/66rBZ848b4aO0hCJQF6GGc?si=jyxN1lbtR8e-31kIAiwG5A

 

スタン・ケントン楽団時代(1972〜)、メイナード・ファーガスン時代(75〜)を経て、78年ウェザー・リポートに起用され一躍名をあげたドラマーのピーター・アースキン。ちょうどジャコ・パストリアス在籍時代と重なりバンドの人気絶頂期だったこともあってか、名声を確固たるものとしましたね。

 

ウェザー・リポートでも最初のころはやや頼りないドラミングが散見されましたが、同バンドで経験を積んで立派な演奏を聴かせるようになったピーターの、そのキャリア最高傑作はスティーリー・ダンのアルバム『アライヴ・イン・アメリカ』(1995)2曲目の「グリーン・イアリングズ」に違いありません(私見)。93年9月10日カリフォルニアでのライヴ。

 

ライヴ・アルバムとしてはスティーリー・ダンにとっての一枚目にあたるこの作品は1993年と94年のアメリカン・ツアーから収録されていて、それぞれメンバーが微妙に違います。ドラマーにかんしては93年がピーター・アースキン、94年がデニース・チェインバーズ。ゆえに本作で聴けるピーターは2、6、8曲目。

 

CDだと付属ブックレットにドナルド・フェイゲン本人の書いた一曲ごとの一言メモが載っていて、それによれば8曲目「サード・ワールド・マン」にかんして “Erskine perfect” となっていました。また2「グリーン・イアリングズ」と編集でメドレーみたいにつながっている3「菩薩」でデニチェンを “awesome” と表現。

 

プロの耳と一般素人の耳は違うもんだとはいえ、ぼくにはどう聴いても「グリーン・イアリングズ」でのピーターのドラミングこそNo.1。傑出しているし、しかも最高に心地いいノリだと思えます。跳ねるバック・ビートが完璧じゃないですか。ウェザー・リポート時代にここまでの演奏はなかったように思います。

 

イントロ〜歌メロ部分からすばらしいですが、なんど聴いても惚れ惚れとためいきが出るのが間奏へ入ってのギター・ソロ部、特に転調する前まで。そこでのピーター独自のスネア使い、ハタハタ・ドラミングと一般に言われるスタイルはあまりにも快感で、ぼくなんかギターを聴かず、ドラムスにばかり耳がいっちゃいます。

 

一曲を通しハイ・ハット、シンバル、スネア、タム、ベース・ドラムを駆使してピーターが織りなす打楽器模様はあたかもタペストリーのよう。曲とアレンジをとってもよく理解していて、ヴォーカルとバンドのサウンド全体を活かせるように徹底して考え抜かれた有機的な構成です(ここはウェザー時代に鍛えられたのでしょう)。

 

まるで歌っているみたいなドラミングでもあり、ビートの根底をこれ以上なく堅実に支え推進させるヴィークルとなり、歌や楽器ソロを引き立ててみずからも存在感を立派に証明しているっていう、これほどまでの演奏をピーターがやったことあったでしょうか。疑いなく最高傑作でしょう。

 

1970年代からスタジオ密室作業でのドラムス演奏にはこだわりまくったフェイゲンだけに、バンド解散後初のライヴ・ツアーをやるとなってドラマーの選択にはうるさく注文をつけたはず。ピーター・アースキンをまず最初に起用したというのには妥当性があったと納得できるできばえを示しているのがこの「グリーン・イアリングズ」です。

 

(written 2022.8.4)

2022/08/13

ビートルズのどのヴァージョンよりニック・ケイヴの「レット・イット・ビー」が好き

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(3 min read)

 

Nick Cave / Let It Be
https://www.youtube.com/watch?v=MjEJxr538ZA

 

映画サントラの『i am sam』(2002)が好きだったんですけど、サブスク中心の音楽生活になって以後はサービスに入らないもんだから、CDからインポートしたiTunesファイルでずっと聴いていました。

 

でもこないだApple Musicにあるぞということを発見したんですよね。いやあ、うれしかったなあ。ぼくの使うメイン・プラットフォームのSpotifyにはあいかわらずないけれど、それでもちょっと一安心。
https://music.apple.com/jp/album/i-am-sam-music-from-and-inspired-by-the-motion-picture/305849478?l=en

 

いまのぼくの気分でこのアルバムを聴くと、ラストに収録されているニック・ケイヴの「レット・イット・ビー」がすべてだという気がします(極私的意見)。これが好きなんだというのは以前からなんどか書いていることですが、あらためて再認識します。ほんと沁みる。

 

きれいに力が抜けたおだやかで落ち着いた平坦な安閑感がいいってことですが、これがリリースされた2002年にはまだそんな静かな音楽はトレンドになっていなかったはず。ちょうどノラ・ジョーンズがデビューした年で、その後流れがどんどん大きくなっていくようになりましたが、意識されるようになったのはほんのここ数年のことじゃないですか。

 

ニック・ケイヴの「レット・イット・ビー」はそんな流行を先取りしていたかのように思えます。おだやかな音楽がこんなにも好きになったと自覚するようになるずっと前からニックのこの「レット・イット・ビー」は大好きだったから、流行というよりなにか普遍的な説得力があるんでしょう。

 

ピアノとアクースティック・ギターとスネア・ドラムを軸に据えた淡々としたサウンドも最高で、そしてぼくにとってのいちばんの癒しはニックのこの声と歌いかたですね。ポール・マッカートニーの書いた歌詞の世界をよく吟味咀嚼して、それをエモーショナルにではなく、ただひたすら淡々とクールに、ぼそっとつぶやき落とすように、ささやくように、戸惑いまごつくように、無感情にしゃべっているのが、この曲にとっては強い説得力を放っています。

 

人生の終末期に来てささやかで安らかなあきらめとともに日々暮らすようになった人間にとって、このニック・ケイヴの「レット・イット・ビー」はあらゆる意味で完璧な伴侶であり理解者、ヒーラーですよ。それをますます強く実感するようになりました。

 

(written 2022.7.14)

2022/08/06

完璧なキース・カーロック(ドラマー)on ドナルド・フェイゲン『ザ・ナイトフライ・ライヴ』

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(5 min read)

 

Donald Fagen / The Nightfly Live
https://open.spotify.com/album/5C5qAs32rM9PXL6MNuxTDp?si=BteYiaUdRkqT2NClKepcUQ

 

去年リリースされたときに聴いて、いいねと思って記事にもしたドナルド・フェイゲン(スティーリー・ダン)の『ザ・ナイトフライ・ライヴ』(2021)。その後もずっと聴き続けているお気に入りとなっています。

 

なんど聴いても飽きないし、そもそも『ザ・ナイトフライ』(1982)というアルバムが前から大好きだったので、その全曲そのまま再現ライヴなんか、そりゃあ好きにならない理由ないのではありますが。

 

それにしても気持ちよすぎる、快感だ、ここまで聴きやすいと思えるのにはなにか音楽的な理由があるはずだと思ってじっくりさぐってみたら、どうもドラムスを叩いているキース・カーロックのスタイルがぼくの好みピッタリどまんなかなのかもしれません。

 

ってか、たぶんそれ、うん間違いないです。『ザ・ナイトフライ・ライヴ』は、1982年のオリジナル『ザ・ナイトフライ』を基本そっくりそのまま再現したものなので、アド・リブ・ソロのパートを除き、同じなんですが、やはりドラマーの演奏ぶりがきわだっていて、そのグルーヴがたいへん心地いいわけです。

 

ご存知のとおりスティーリー・ダンというかフェイゲンはドラムスのサウンドに異常なこだわりを持つ音楽家で、1970〜80年代のスタジオ録音では大勢のドラマーを呼んで同じ曲を演奏させたものを聴きかえし、パーツごとにベストなものを、それこそシンバルだけとかスネアだけとか切り貼りテープ編集して完成品にまで持っていっていたという人物。

 

あのころはそれしか自分の理想とする音楽の完成品を実現する方法がなかったのかもしれず、一回性のナマのヴァイブより緻密な組み立てを優先し、ライヴ・パフォーマンスはまったくやりませんでした。

 

風向きが変わってきたのは1990年代に入りスティーリー・ダンを再結成し、アメリカン・ツアーをやるようになってから。93/94のツアーから収録した『アライヴ・イン・アメリカ』CDがリリースされたことで、ある意味ぼくらなんかはビックリしたわけです。えっ?あのダンが、フェイゲンが、ライヴ・アルバムを出しただなんて!と。

 

その当時二十歳そこそこだったキース・カーロックをフェイゲンが見出したのは1990年代末ごろらしく、ダンの『トゥー・アゲインスト・ネイチャー』(2000)から参加するようになっています。その後継続して、ライヴもどんどんやるようになったフェイゲン/ダンにずっと帯同しているようです。

 

結局このフェイゲンの重用がカーロックの知名度と評価を決定的なものとしたようで、その後TOTOをはじめさまざまなバンドで演奏するようになっていますが、2022年までも一貫してフェイゲン/ダンの活動ではカーロックがドラムスを叩いています。ぼくは去年の『ザ・ナイトフライ・ライヴ』で知りました。

 

このライヴ・アルバムで聴けるカーロックのドラミングは、特に目立つとか派手に叩きまくるとかいったスタイルじゃありません。一貫して定常ビートをステディにキープすることで心地よいグルーヴを持続させるという演奏ぶりで、しかもどのパーツを叩くのもタイミング的にこの上なく正確。

 

特にハイ・ハットとスネアを中心に組み立てられている職人芸で、ここぞという箇所で的確に入るスネア・フィル・インなんかぼくには極上の快感。特にコーラス終わりとかサビに入る直前とかの節目節目できれいにそれが入り、音楽的にしっかりした意味のある音でもあって、ほんとうにいいドラマーだなと実感します。

 

『ザ・ナイトフライ』に収録されているどんなタイプの曲を叩かせてもいっさいブレがなく、常に余裕綽々のドラミングに徹しているさまは、まるで何百枚焼いてもすべて同じ味のおせんべいを仕上げる熟練の職人みたい。これだよこれこれこそフェイゲンの求めていた生演奏ドラマーだよねえと納得させるに充分なものがあります。

 

(written 2022.7.19)

2022/07/14

ストーンズ本隊より好きなんじゃないか 〜 ミック・ジャガー『ワンダリング・スピリット』

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Mick Jagger / Wandering Spirit
https://open.spotify.com/album/3TAd5skYEcJ9dosbhEsVgA?si=7mBuxqG_TH-jy_uujJhWzA

 

ミック・ジャガーのソロ・アルバム『ワンダリング・スピリット』(1993)、やっぱぼくこれ好きなんだぁ。ローリング・ストーンズのメンバーのどのソロ作よりも格別好きなばかりか、ストーンズ本隊の全アルバムと比較してもずっと好きなんだからおかしいよねえ。だいぶ前にも一度書きましたけど。

 

なにがそんなにかって、まず1曲目「ワイアード・オール・ナイト」がカッコよすぎる。もうこれだけで一発ノックアウトを食らう爽快ロックンロールでかっ飛ばすミックとバンドが超快感。ここまでスピーディでノリよくタイトでシャープな曲って、ほんとストーンズにもなかったような気がするんですけどね。

 

もうこの1曲目だけでこのアルバムの価値が決まったといってもいいくらい。やっぱりオープニング曲って大事ですよ。しかも音響がほんとうにヴィヴィッドっていうか、特にドラムスとエレキ・ギターがくっきり鮮明に録れていて、いいサウンド。ヴォーカルふくめどの楽器音も鮮やかなのが、このアルバムの大きな美点の一つ。

 

2曲目以後やや落ち着いてくる感じですが、1990年代にあって1950年代のリズム&ブルーズ、ロカビリー、初期型ロックンロールを強く意識して、そこへの回帰というか、ミックあたりだったら常にその原点を意識しながら活動を続けてきているであろうものが、本作ではいっそう強く表れているのもいいです。

 

でありながらいかにも90年代だっていう同時代的なクラブ・サウンドをも視野に入れたサウンド・メイクになっているのがわかって、特にややジャジーなサックスの使いかたなんかに顕著にそれが聴きとれて、そのへんとオードソックス・スタイルとの案配っていうか、やりすぎずちょうどいい加減が聴きやすい。

 

先鋭的に時代を意識しすぎるとしばらく経って褪せて感じるようになっちゃうんですけど、2022年に聴いてもカッコいいとじゅうぶん思える不変の魅力をこうした音楽は持っているよねえっていうそうしたエヴァーグリーンなロック・サウンドをベテランは熟知していますよね。当時としては新しかったこんなクラブ・テイストがいまでもじゅうぶん聴けるのは、ひとえに「古典」を知り抜き実践してきたミックならではの差配。

 

UKトラッドみたいなのもあったりするし、けっこうバラエティに富んだ内容で飽きたりなかだるみしたりせず最後まで一気に聴くことができる勢いもあって、ミックのソロ・アルバムのなかでは断然トップの内容、キースのどれよりいいし、これ一個あればなんだったらストーンズだっていらないよ?

 

(written 2022.6.25)

2022/07/02

ぼくの『ジョン・ウェズリー・ハーディング』愛 〜 ボブ・ディラン

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Bob Dylan / John Wesley Harding
https://open.spotify.com/album/2KzCDxKpgLqBffHu1IZ7Kn?si=GGgqnG9CQ-q_UF8YwIsoaw

 

2022年現在、ボブ・ディランの全作品中いちばん好きなのは1967年の『ジョン・ウェズリー・ハーディング』。次が69年の『ナッシュヴィル・スカイライン』だっていう、だから、わかりやすいですね、いまのぼくの趣味。

 

おだやかでフォーキーでアクースティックなカントリー・ロックをやるディランが好きというわけなんですが、前からこうだったわけじゃありません。そりゃあトゲトゲしいエレキ・サウンドで歌詞も辛辣なブルーズ・ロックをやっているのが好きだった時期が長いんです。

 

歳とっておだやかさっぱり嗜好に変化したというわけ。キリッとした冷たく透明な空気を感じるさわやかな『ナッシュヴィル・スカイライン』も大好きですが、緊張感のないまったりムードな『ジョン・ウェズリー・ハーディング』こそいまでは無上の快感。

 

なんたって楽しげでくつろいだサロン・フィーリングが聴きとれますもん、そこからしてストライク・ゾーンですよ。1曲目のタイトル・チューンからそれが全開。なにを歌っているかということよりも、このアクースティック・ギターの地味なカッティングをメインに据えたサウンドがいいと思うんですね。

 

伴奏もすばらしい。ディランのギターとハーモニカ(曲によりピアノ)以外は、基本的にベーシスト(チャーリー・マッコイ)とドラマー(ケネス・A・バトリー)しかいないシンプルなトリオ構成。二名ともナッシュヴィルのミュージシャンですが、ただ淡々と役割をこなすことを徹底した職人芸で、こういう演奏にこそ惹かれます。

 

ツボだけを着実におさえながら、それでもときたまハッとするラインを奏でる瞬間もあり。たとえば1曲目のスネア・フィル・インとか2曲目「アズ・アイ・ウェント・アウト・ワン・モーニング」で聴かれるオブリでのベースの跳ねかたなんか、いいアクセントになっていて耳をそばだてます。でありながらサウンドはどこまでも堅実。

 

要はあくまでディランの書き歌うものをどこまでもひきたてるため、そのためにこそすべてをささげたサポートぶり。落ち着いたフィーリングの曲もいいし、もはやここに足すものも引くものもなにもない必要最小限の音楽の構築美があります。ノリいい曲もあればチャーミングなバラードもあり、しかしいずれも中庸でおだやかで、心地いいくつろぎを表現しているのがこのアルバムの美点。

 

(written 2022.5.18)

2022/06/19

ディランで聴くよりディランっぽい 〜 ニッティ・グリッティ・ダート・バンド

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Nitty Gritty Dirt Band / Dirt Does Dylan
https://open.spotify.com/album/4F0CjdewrCbNZ5k13SOs3T?si=hKgXBQURQamRfNEu8QAyvg

 

メンバーは替わりながら50年以上続いているニッティ・グリッティ・ダート・バンドの2022年最新作は『ダート・ダズ・ディラン』というタイトルのボブ・ディラン曲集。こ〜れが、グルーヴィで、カッコいい。

 

かなりの有名曲から地味なところまでとりまぜて全10曲、さほどオリジナルとアレンジも変えずそこそこ忠実にカヴァーしているのに、ディラン自身(やザ・バンドとか)のよりずっといい、曲の魅力がいっそうよく伝わるできばえだと聴こえるのは不思議です。

 

個人的に特に好きだと感じるのは、3曲目ブルージーな「イット・テイクス・ア・ラット・トゥ・ラフ、イット・テイクス・ア・トレイン・トゥ・クライ」から、ディープなノリがいい6「シー・ビロングズ・トゥ・ミー」まであたり。

 

ことに4「カントリー・パイ」からそのまま切れ目なくつながる5「アイ・シャル・ビー・リリースト」には、かの二人組若手ブルーズ・ロック・バンド、ラーキン・ポーが参加、ハーモニーやソロで歌ったりギター・ソロをとったりなど大活躍。おかげでニッティ・グリッティの演奏にコクが出ているし、曲もますます生きています。

 

そのままの流れで、ロス・ホームズのフィドルも絶好調な続く6「シー・ビロングズ・トゥ・ミー」の躍動感もあざやかでいいですね。複数の曲で全体的に(ディラン・オリジナルにはあまりない)ブルージーでグルーヴィなフィーリングがわりと濃いめにただよっているように感じるのは、ニッティ・グリッティ元来の持ち味にくわえ、ラーキン・ポー参加のおかげでもあるんでしょう。

 

ぼくが最初に知って書いた二年前にはまだ知る人ぞ知るという存在だったラーキン・ポーも、いまや各所ですっかり活躍の場をひろげ、知名度もあがっている模様で、うれしいかぎり。こういったクラシカルなブルーズ・ロックをやる若い世代まで、ニッティ・グリッティみたいな60年代出発のベテランから連続的につながっているんだなあと実感できて、ほんとうに気持ちいいです。

 

本作ではその太い糸をつないでいるのが1962年からずっと2022年でも現役第一線にいるボブ・ディランのソングブックだということで、その曲調を活かしたオーソドックスなカヴァーでも、なぜか本人自演以上に曲のよさがナマナマしく響くニッティ・グリッティの実力を思い知ります。この手の音楽はいつまでも色褪せないということも。

 

(written 2022.6.16)

2022/06/15

失意や逆境のメランコリアとぬくもり 〜 コステロ&バカラック

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Elvis Costello, Burt Bacharach / Painted From Memory
https://open.spotify.com/album/0rhmwOflgYrPntNuEe8chN?si=aOVUD3cOQXi1EcS2tAZ5ag

 

エルヴィス・コステロの全作品でいちばん好きなのが、バート・バカラックと組んだ『ペインティッド・フロム・メモリー』(1998)。実質的にはバカラックのアルバムと呼んだほうがよさそうな内容で、コステロ・ファンには歓迎されなさそうな趣味ですよね。

 

そもそもパンク/ニュー・ウェイヴ・ムーヴメントのなかから出現したようなコステロはさほどぼくの趣味ではなく、どれを聴いてもあまりピンときたことがなかったくらい。反対にバカラックのことは大好きで、そのつむぎだす限りなく美しいコード進行とメロディ・ラインのとりこであり続けていたというのが事実。

 

だから、そんな二人がコラボしたらどんな感じになるか?という不安の入り混じる期待感があったんですが、アルバムを聴いてみて、1曲目「イン・ザ・ダーケスト・プレイス」の冒頭部、コステロが歌い出した瞬間にシビレちゃって、涙腺が崩壊。ためらうようにゆらめきながら入ってくるイントロ・サウンドも美しく、デリケート。

 

そのためらいとゆらめきは、まさに恋をした人間だけが持つフィーリング。それを音にしたものなんですよね。まごうかたなきバカラック・サウンドだと聴けばわかるこのエロス。それをつづるコステロの声もすばらしく響き、いままでの苦手意識はなんだったんだ?と思わせる陰影の絶妙なすばらしさ。

 

もうこの1曲目だけで『ペインティッド・フロム・メモリー』は傑作だと確定したようなもの。アルバムを貫いているトーンは失意、絶望、逆境で、しかしそれでもほのかに見える希望のようなものを暗示するポジティヴネスがただよっていて、ぼくのための音楽だろうと、いまだに聴くたびやっぱり生きていこうと思いなおします。

 

かすかな春の訪れを感じさせるピアノのメロディとゴージャスなオーケストレイションがきわだつ3曲目「アイ・スティル・ハヴ・ザット・ガール」、まるで抒情派ロマン映画の一シーンから切り出してきたようなピアノとオーケストレイションをバックに、去って行った恋人が夢のなかにだけ現れるという慨嘆を切々と歌う7「マイ・シーフ」。

 

バカラック・サウンドの典型的な特徴であるフレンチ・ホルンを中心としたふわりとやわらかいブラス・アンサンブルも、1996年の先行曲だった12「ガッド・ギヴ・ミー・ストレングス」ほかアルバム中随所で用いられていて、ひょっとして(ブランクを経た)バカラックにとってもスペシャルな傑作の一つになったのでは、と思わせる異様な充実を感じます。

 

オール・ジャンルで1990年代を代表する一作でしょう。

 

(written 2022.4.22)

2022/05/14

ストーンズ・ファンにとっての悦楽 〜 エル・モカンボ 77

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The Rolling Stones / Live at The El Mocambo
https://open.spotify.com/album/444RtK8RqcIODjfyaWTuhi?si=p6R0-HRNTQiKdcv9YJL_-A

 

本日リリースのこれがなんであるか、説明などまったく不要。ジャケットはなんだかちゃちゃっとテキトーにやった手抜き仕事みたいに見え、フィジカルなんかほしくない感じですが、中身は言わずと知れた極上品。

 

1977年リアルタイム発売の『ラヴ・ユー・ライヴ』に収録されていたエル・モカンボ音源(C面)は「マニッシュ・ボーイ」「クラッキン・アップ」「リトル・レッド・ルースター」「アラウンド・アンド・アラウンド」の四曲。

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実際ストーンズ・サイドとしてはこのトロントにおける二日間の小規模クラブ・ライヴを back to the early 60’s 的に全曲ブルーズ、リズム&ブルーズのカヴァーのみでやりたいという目論見があったらしいので、当時のリリースはこの意図に沿ったものだったんでしょう。

 

それにむかしから『ラヴ・ユー・ライヴ』ではC面エル・モカンボ・サイドがいちばん好きだというファンがストーンズ界には多くて、バンドの原点回帰的な初々しいレパートリーと演奏、そしてなによりオーディエンスたった400人の小規模シークレット・ギグというインティミットな空気感がレコードで聴く音響(がどろどろのブルーズ現場的でよかった)にも反映されていてのことだったでしょう。

 

だからエル・モカンボのフル・コンサートがとうとう日の目を見るぞというニュースに接したとき、なにも知らない情弱無知なぼくなんか、あっ、じゃあストーンズのやるライヴでrawなブルーズ・スタンダードがいっぱい聴けるんだね、やったぁ〜っ!と飛び上がったもんです。

 

現実には直前にキースがドラッグ不法所持で逮捕されバタバタしてリハーサルができず、ちょっと目標変更して進行中のツアーでふだんからかなりやりなれているストーンズ・クラシックス的なオリジナルと当時の新曲などがかなりたくさん演奏されるということになりました。

 

それでも60年代初期的な、有名ブルーズ・ナンバーのカヴァーばかりでセットを組み立てたかったという当初の意図は、オリジナル曲をやってもいつもに聴かれないディープでブルージーなフィーリングを表現する結果となって活きていて、当時の新曲でありながらバンド初期のころのようなフレッシュな衣をまとっているのはおもしろいところ。

 

今回のリリースにあたってミキシングをあらたにやりなおしたボブ栗山も、このエル・モカンボでストーンズが表現していたそんなインティミットな現場感を強くただよわすブルーズ・フィールをどこまでも大切にしてサウンド・メイクしたんだなとわかるのがいいですよね。

 

これが『ラヴ・ユー・ライヴ』で当時から大きな評価を得たのでということか、その後数年でスタジアム規模の会場でしかツアーできなくなるほどメガ企業化したこのバンドは、しかしそのつど一回はどこかで(ときどき秘密裡に)小さな会場でのクラブ・ギグをやって、立ち位置を確認するようになりました。

 

ストーンズのエル・モカンボは、原点回帰というか、折に触れてちいさな初心に立ち返ることの大切さを、そのサウンドで身をもって人間的にぼくらに教えてくれています。

 

(written 2022.5.13)

2022/05/02

ストレートなストーンズ愛そのままに 〜 The Lady Shelters

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(写真はバンドの公式Instagramより)

 

(4 min read)

 

The Lady Shelters 公式YouTube
https://www.youtube.com/c/TheLadyShelters

 

アルバム『Almost Famous』
https://open.spotify.com/album/1AFmOvyYGMdXm8RnyboAmu?si=MkbQGV3ETYm2hJ3EU3r5bQ

 

たしか妹尾みえさん経由で知ったThe Lady Shelters(以下「レディシェ」)という日本のロック・バンドがあります。ヴォーカルとドラムスが女性でギターとベースが男性という四人組。

 

全員若いみたいで、年齢なんか知るわけありませんが、見た目20代くらいかな。バンドのキャリアだってまだ二年ほどらしく、Spotifyなどサブスクにアルバムもありますが、メイン・ステージはYouTube(とInstagram)みたいです。都内でライヴもどんどんやっているよう。

 

このレディシェがですね、もう見た目の年齢からはおよそ想像つかないくらいのレトロ志向なロック・バンドなんですね。最大のインスパイア源はローリング・ストーンズとザ・フーで、それも1960〜70年代のそれらをお手本に、ほぼコピーに徹したスタイルでやっています。

 

そもそもこのバンド名だって、メンバーの半数が女性だということと、ストーンズの代表的名曲「ギミー・シェルター」からもってきているんですもん。

 

サブスクで聴けるオリジナル・アルバムでもストーンズ偏愛っぷりはわかりますが、このバンドはクラシック・ロック系のカヴァーをどんどんアップしているYouTubeをざざっと視聴したほうが特徴がわかりやすいんじゃないかという気がします。

 

こういうのって、完璧おっさんがやるおっさんのための音楽だと思ってきたのに、それを2020年代の若手バンドがやっているんですからねえ。日本人ロッカーならRCサクセション、シーナ&ザ・ロケッツ、BOØWYとかあのへんの感じそのまんま。

 

公式YouTube動画にはやっぱりストーンズ・ナンバーのカヴァーが多く、ほぼどれもアレンジやスタイルなどほぼそのままコピー。最新動画としてハウリン・ウルフの「リトル・レッド・ルースター」がInstagramで紹介されていたのは絶対にあれだろうと思って聴きにいけば、やっぱり『ラヴ・ユー・ライヴ』ヴァージョン。

 

「ルート 66」もそうなら、マーサ&ザ・ヴァンデラスの「ダンシング・イン・ザ・ストリート」だってミック・ジャガーとデイヴィッド・ボウイが共演したヴァージョンを使っているし、このバンドにかんしてはとにかくストーンズ愛をそのままストレートに表明しているとあたまに入れておけば間違いないです。

 

世界のポピュラー音楽で、時代遡及的なレトロ・ムーヴメントが多ジャンルでの同時多発的な流行になっているというのが、ここ数〜十年ほどの間違いない動きなわけですけど、「もう終わった」「死んだ」などとも言われたりするストーンズみたいなクラシック・ロックに、若い世代、それも日本人が突如魅せられてバンドをはじめてみるなんていうことだってあるんですね。

 

ぼくはもうおじいちゃんになりかけのおじさんだから、レディシェがやっているような音楽にはノスタルジアとちょっぴりの気恥ずかしさみたいなものを感じたりします。こんなもの、もう、ちょっとね...と思わないでもないんですが、レディシェのみんなは新鮮でピチピチした魅力をストーンズ他の曲に聴きとってコピーしているに違いありません。

 

それを還暦おやじが横目でながめて冷笑したりなんてしちゃ、ダメですよね。バンドは一途&真剣にやっていて、こうした音楽がレディシェのみんなにとっては2020年代のリアルなんですから。

 

(written 2022.4.20)

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