カテゴリー「リズム&ブルーズ、ソウル、ファンク、R&Bなど」の167件の記事

2023/05/28

アダルト・シティ・ソウルの官能 〜 スモーキー・ロビンスン

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(2 min read)

 

Smokey Robinson / Gasms
https://open.spotify.com/album/14xK4FTz2jDiWE8vL1rZaK?si=L7QQg22mT1KGJ2H6vj5RJg

 

スモーキー・ロビンスンに説明など不要。今年リリースされたばかりの新作アルバム『Gasms』(2023)がなんだかやたらステキで、セクシュアルなものに弱いぼくなんか完璧にイチコロ。あまり積極的に聴いてこなかった音楽家だけど、まったく降参。メロメロです。

 

もう冒頭から、オーガズムからとったという「ガズムズ」のアダルト・ソウルぶり。このひとも83歳なんだけど、色気がまったく枯れていない現役ぶり。それでいて押しつけがましいいやらしさが微塵もなく、さわやかで軽いさっぱりした青春の空気すらただよっているっていう。

 

耳元でそっと優しくささやくようなフェミニンなヴォーカル・スタイルが、このひとはずっとこうだったけど、2020年代となってはコンテンポラリーなおだやかメロウR&Bに聴こえたりもするのが抜群で、80すぎて時代にフィットしてきたような感じかも。

 

1曲目だけでなくきわどい性愛がアルバム全体のテーマになっていて、そのために再演もカヴァーもなし、全九曲が今作のための書きおろしオリジナルなんですけど、ブルージーだったりドゥー・ワップふうだったりゴスペル・フィールもあったりなど、どの曲も飛び抜けていい出来なんですね。

 

バックのサウンドは洗練されたフュージョンというかコンテンポラリーなスムース・ジャズふうのポップさに満たされているのもぼく好み。ソウルだけでなくブルーズとかゴスペルとかのブラック・ミュージック要素もあくまでおだやかに溶け込んでいます。

 

特に気に入ってくりかえし聴いているのは1「Gasms」、6「Beside You」、8「You Fill Me Up」あたり。これらで聴けるもうたまらん極上のフェザーなシルク・タッチでそっとこちらの内側に触れてくるスモーキーの音楽は、まるでスロー・セックスのおもむき。静かに、しかし深く熱い熟なフィールをたたえています。

 

(written 2023.5.28)

2023/05/17

歌ごころを大切にしたインストルメンタルのお手本 〜 クラズノ・ムーア・プロジェクト

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(3 min read)

 

Eric Krasno, Stanton Moore / Krasno / Moore Project: Book of Queens
https://open.spotify.com/album/6RwGvHFkks31pCeLlto8Dy?si=GHQr8E2JR6WfBfEzYgTAwQ

 

古くからの友人だったソウライヴのギターリスト、エリック・クラズノとギャラクティックのドラマー、スタントン・ムーアが組んだ新プロジェクトによるアルバム『Krasno / Moore Project: Book of Queens』(2023)は、インストルメンタルによる女性歌手曲カヴァー集。

 

超有名曲もそうでもないのも混じっているので、以下にオリジナル歌手名を一覧にしておきました。もしよかったら気になったものは元歌をぜひさがして聴いてみてくださいね。

 

1 エイミー・ワインハウス
2 シャロン・ジョーンズ・アンド・ザ・ダップ・キングズ
3 ケイシー・マスグレイヴ
4 ビリー・アイリッシュ
5 ブリタニー・ハワード
6 ペギー・リー
7 アリーサ・フランクリン
8 H.E.R.
9 ニーナ・シモン

 

二名のほかにはオルガン奏者がいるだけのシンプルで伝統的なトリオ編成がアルバムの根幹。曲によりゲスト・ギターリストがいたりサックスが参加していたりで、演奏はグルーヴィ&かなりソウルフルに決めています。

 

こういった音楽がレトロなんだっていうのは、ジャケットのふちが年月が経ってこすれた紙のようになっていて、さながら中古レコード・ジャケにみえることでもよくわかります。この手の趣向、最近みかけるようになっていますよね。

 

中身も、まるで1960〜70年代の香りがプンプンしています。あのころこうしたインスト音楽いっぱいあったじゃないですか、それが甦ったようなフィーリング。ブルーズ、ジャズ、ソウル、ロックのバンド・インストを基調としたこの手のものは、いつまでも輝きを失わない不変のものなんだなあと本作を聴いていると実感します。

 

個人的には5「Stay High」(feat. コーリー・ヘンリー)、6「Fever」(feat. ブランフォード・マルサリス)、7「A Natural Woman」と続くあたりの流れが好きで、ラスト9「I Wish I Knew How It Would Feel To Be Free」での奔流のようなもりあがりもすばらしい(feat. ロバート・ランドルフ)。

 

いずれの曲も三人+ゲストによる演奏はあくまで歌心を大切にしているのがとってもよく伝わってきて、原曲の持ち味を存分に活かしながら歌うがごとくつむぎだすインプロ・ソロには、インスト・ブラック・ミュージックの醍醐味が詰まっています。

 

(written 2023.4.18)

2023/03/26

グルーヴの体幹 〜 ブッカー・T&ザ・MGズ『グリーン・オニオンズ』60周年

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(2 min read)

 

Booker T. & The M.G.s / Green Onions (60th Anniversay Remaster)
https://open.spotify.com/album/1LMSiyS5O2gcVTUa2rlu9u?si=lJkyojg-SrmDn6HJmsjUKw

 

ブッカー・T&ザ・MGズに説明など不要ですが、名作アルバム『グリーン・オニオンズ』(1962)の60周年記念リマスターが出たということで、あれっ、一年ズレてない?

 

ともあれサブスクにも入ったので、やっぱりもう一回聴きなおしてみました。この作品だってもちろんいまさら解説なんかいらないんですけど、個人的な感想をば手短に。

 

それで、昨年一月、MGズの一員スティーヴ・クロッパー(ギター)の最新作について書いたときの文章とまったく同じことがあたまに浮かぶんですね。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2022/01/post-5bdb75.html

 

集団球技スポーツでは、華麗に技を決めるアタッカーにはたしかにみとれるものの、その実、守備でも攻撃でも堅実な組み立て役(井戸を掘る役、水を運ぶ役 by イビチャ・オシム)が必ずいて、真なるチームの軸として不可欠だったりしますよね。

 

MGズだと、バンド全体でそんないはばグルーヴの体幹を具現化しているようなもので、個人でもバンドでもそうした職人気質な音楽家にむかしから惹かれる傾向がぼくにはあります。決して華麗な技巧を披露するタイプではない存在に。

 

三振を奪うとかホームランを打ったりあざやかなゴールを決めたりで満場のスタジアムを沸かせる存在は、MGズのばあいフロントで歌う歌手であり、みずからはその伴奏に徹しているふだんの姿を、歌抜きインストルメンタルでも変わらずそのまま披露しているだけ。

 

そのぶん、グルーヴの体幹というか骨格みたいなものがかえってくっきりと伝わってくる音楽で、派手さなんかぜんぜんないんですけどエッセンスだけ演奏しているMGズには、ホンモノのミュージシャンシップみたいなものを感じます。

 

『グリーン・オニオンズ』から十数年以上が経過して、ジャズの世界でもブラック・ミュージックの歌伴バンドがそのまま独立したようなフュージョンの世界が出現しましたが、そっちでは技巧ひけらかし系みたいなのも混じっていました。そういうのも好きなんですけどね。

 

(written 2023.2.27)

2023/02/26

1960年代後半への郷愁 〜 エイドリアンズ

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(3 min read)

 

The Adelians / The Adelians
https://open.spotify.com/album/4Tz6y1qG72VP31L53Sd9xr?si=2Ol3UM2KTz6vJalxt1N9mA

 

1960年代モータウンみたいなポップなブラック・ミュージックだなっていうのは聴けばわかるけど、このエイドリアンズって何者なんでしょうか。ほとんど情報がなく、どこでアルバム『ジ・エイドリアンズ』(2017)を知ったのかも忘れたら確かめようがありません。メモしておけばよかった。

 

でもBandcampにページがありました。それによればカナダはモントリオールのバンドで七人編成。ヴォーカルがフロランス・ピタール。ほかギター、オルガン、ベース、ドラムス、サックス二本。『ジ・エイドリアンズ』が唯一の作品のようです。

 

バンドの演奏も歌手の歌いかたも荒削りで一本調子。どうってことない音楽なんですが、なんだか郷愁を強くかきたてられるものがあり、たぶんこれがシックスティーズへの視線を強く持ったレトロ・ソウルだからですよね。

 

といってもぼくは1960年代の洋楽でも邦楽でもほとんどリアルタイムで聴いていなくて、若干テレビの歌番組で触れていた日本の歌謡曲とか演歌とかそのへんだけなんです。当時のジャズやロックやモータウン・サウンドなんてもちろん知らず。

 

しかし当時から日本の歌番組で披露されるヒット曲がそんな洋楽の影響下にしっかりあって、その要素がかなり流入していたよなあと思います。でもこのことだってずっとあとになってからわかるようになったことですから。そうとも知らず知らずに体内に染み込んでいたにせよ。

 

エイドリアンズを聴いていると、まさに「あのころの」っていうことばがピッタリ似合うような音楽で、当時の洋楽なんかリアルタイムではなにも知らなかったぼくですらノスタルジアを感じてしまう、なんだかタイム・スリップしたみたいななつかしさがある、それもやや自覚的に、というのはやっぱり洋楽 in 邦楽をそれとなく感じていたんでしょう。

 

そんなエイドリアンズ、アルバムは音響まで1960年代ふうのサウンドに寄せたようなチープさ雑さで、これモノラルなんですよね。当時のカー・ラジオとかテレビ受像機の内蔵スピーカーとかから流れてきたらちょうどよく響くだろうっていうようなミックスで。

 

レイト60sヒット・チューンのカヴァーだって多少ふくまれているし、ぼくの世代だとちょうど小学生の時分にこんな空気感があったよなあ、それだから少年時代に戻ったような心地がするんだ、洗練されておらずおしゃれじゃないけれど、あのころのあの感じ、それが鼻の奥でツンと匂うみたいな。

 

エイドリアンズのバンド・メンバーがどのへんの年代でどういったひとたちなのか、どういった活動歴かなどは結局Bandcampにもどこにも情報がないんですけど、シックスティーズ・ソウルへのヴァーチャル・ノスタルジアを具現化している存在だっていうのは間違いないんじゃないでしょうか。

 

(written 2023.2.11)

2023/02/20

フェイムの「I’d Rather Go Blind」でスペンサー・ウィギンズはぼくにとって永遠となった

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(3 min read)

 

Spencer Wiggins / I’d Rather Go Blind
https://www.youtube.com/watch?v=zEWv8KtEczE

 

ディープ・ソウル歌手、スペンサー・ウィギンズの訃報に接し、それじたいどうこうっていうより、フェイムに残した超絶名唱「I’d Rather Go Blind」のことを思い出していました。あれはすごかった。

 

ウィギンズというと通常みなさんにはゴールドワックスということになるでしょうし、それはぼくにもよく理解できること。個人的にはこの歌手の名前をずっと知らずにきて、そもそもディープ・ソウルの世界にはうとかったんですが、フェイムの「I’d Rather Go Blind」が大きな衝撃だったのにはきっかけがありました。

 

1990年代後半にやっていたパソコン通信の仲間でナカヲさんという熱心なソウル・マニアが大阪にいらっしゃいました。7インチをどんどん追っかけてコレクトしていて、LPにもCDにもなっていないすばらしいところをCD-Rに焼いては周囲に無料頒布してくださっていたんです。

 

あるときナカヲさんから届いたそんなCD-Rの1曲目がスペンサー・ウィギンズのフェイム録音「I’d Rather Go Blind」でした。1990年代だとウィギンズだけでなくフェイムはまったく復刻されていなかったし、ぼくなんかそのときはじめてこの歌手の名前を見ましたから。

 

聴いてみてぶっ飛んだんですよね。この話、以前もくわしく書きましたけど。こんな歌手がいるのかと、正直いって強い雷撃に打たれたようなものでした。一発で「I’d Rather Go Blind」という曲と歌手に惚れ、ぼくのなかでスペンサー・ウィギンズは永遠の名前となりました。90年代末ごろの話。

 

この曲は、愛する人物がほかの相手のところに行ってしまうのをリアルタイムで現場目撃し、激しいショックを受け落ち込んで、こんなの見るくらいだったら「いっそ目が見えなくなりたい」と強く嘆くという内容の悲痛な失恋歌です。

 

ところがウィギンズ・ヴァージョンは堂々たる声のハリとツヤでもって、そんなハート・ブレイキングな失意なんかどこにもないと思わせてしまうポジティヴな自信と風格に満ちあふれているじゃないですか。「これ以上のものはない」と確信させてしまう納得のヴォーカルです。

 

フェイムという会社もスペンサー・ウィギンズという歌手も「I’d Rather Go Blind」という曲も、あの瞬間ぼくのなかで永遠に忘れられないものとなり、サザン・ソウル、ディープ・ソウルへの格好の道案内となったのでした。

 

ウィギンズのフェイム(とXLの)音源集は、その後2010年に英ケントが『Feed The Flame: The Fame and XL Recodings』というCDにまとめてリイシューしてくれました。(ケント盤やジャスミン盤などは)もちろんサブスクにないので、ぼくもCDで楽しんでいます。

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(written 2023.2.16)

2023/02/13

ジャズとロックの交差点で 〜 ポール・キャラック

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(3 min read)

 

Paul Carrack & The SWR Big Band / Don’t Wait Too Long
https://open.spotify.com/album/0fz3FJVabxmF2wr7eIrUO4?si=FcF1ZgHJQCaCREHSCdDc6g

 

萩原健太さんのブログで知りました。
https://kenta45rpm.com/2023/01/20/dont-wait-too-long-paul-carrack/

 

ジャズとロックはだいたいおんなじような音楽だというのが前々からの持論なのに、どっちの方面からも反発されること必定で、いままで(一度を除き)そんなに真正面から強くは主張してきませんでした。が、間違いありません。

 

ともあれジャズとロックが交差するような地点というとジャンプとかリズム&ブルーズとかってことになるわけですが、あのへん1940〜50年代あたりはアメリカン・ミュージックの歴史で最も動きがあっておもしろかった時代の一つなんですよね。

 

そのへんをdigった感のあるポール・キャラック(UK)の最新作『Don’t Wait Too Long』(2023)も、だから完璧ぼく好みの音楽。今回はかなりジャズ&ブルーズ寄りの古い選曲ばかりなカヴァー集で、ジャズ系の歌手があまりやらないレパートリーもありますが、料理法はジャジーです。

 

っていうかそれがリズム&ブルーズ的だっていうか、つまりそんな世界。それぞれ曲のオリジナル演者はだれ?っていうたぐいの情報は上記リンクの健太さんブログに載っていますので、必要とあらばぜひごらんください。

 

ヴァン・モリスンとかあのへんと同じ音楽なわけで、きわめてあの世代のUKロッカーらしいともいえます。ヴァンといえばCOVID-19に対する態度をみていてすっかり嫌気がさしてしまい、もう聴く気がなくなっちまいましたけど。

 

同じ理由でエリック・クラプトンもすっかり見放しましたが、キャラックは現在クラプトン・バンドのサポート・メンバーなんですよねえ。クラプトンみたいな(いまでは)つまらないミュージシャンについていることがキャラックの評価を低めないか心配です。

 

ともあれ今作、だれがアレンジしたのかわかりませんがドイツの名門SWRビッグ・バンドによる豪華でファットなホーン・アンサンブルも快感。選曲もいいし、さらにキャラックの70歳を超えて衰えぬ甘くて渋い声もみごと。ブルーズ寄りのジャズというかロックの源流というかこのへんの音楽がお好きなみなさんは舌鼓を打てる内容に仕上がっていると思います。

 

(written 2023.1.26)

2023/02/08

なめらかスムースなルイ・ジョーダンが好き

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(4 min read)

 

Louis Jordan / Let The Good Times Roll: The Anthology 1938-1953
https://open.spotify.com/album/3IXj7J6a5kqVGdyfPbQnHK?si=FhXQWcwrTuW24jb7ywyJKw

 

ジャイヴやジャンプの話をしなくなりました。当然ですよ、もはやレトロ・ジャズ・ポップスなどあっさり淡白な薄味音楽こそ最愛好品になったんですから、濃厚なブラック・ミュージックを聴く気にあまりなりません。

 

ちょっと「ジャンプ」というワードでブログ内検索をしてみたら、2022年5月21日づけクーティ・ウィリアムズ楽団の記事が最新になっています。あれっ、わりと最近じゃん。でもずっと前はこれでもかと続々書きまくっていましたから。

 

常に最新型のものがどんどんリリースされるという世界ではなく、ジャイヴなら1930年代、ジャンプは40年代と、限られた作品点数しか存在しませんから、いったんひととおり書き終えてしまうと題材がなくなってしまうというのも理由でしょうけど。

 

そんななか、いまだくりかえし聴き続けている代表がルイ・ジョーダン。ルイの音楽もジャンプに分類されているわけですが、そのへんは、なんというかジャズでもブルーズでもなんでもいいじゃん、それらまぜこぜ一体化したあたりに真骨頂があった音楽家だというのは意見の一致するところでしょう。

 

約10年後のチャック・ベリーにダイレクトにつながっているということを考えたら、ロックンロールの先駆者でもあるわけで、ってことはビートルズもローリング・ストーンズもルイ・ジョーダンがいなかったら誕生しなかったと、ルーツをたどればそういうことになります。

 

ルイ・ジョーダンの歴史的重要性をいくら強調してもしすぎることはないゆえんですが、しかしその音楽に決してとんがった激しさはなく、奇妙奇天烈でもありません。どっちかというとむしろ丸くてなめらかで、聴きやすいスムースさがあると思いませんか。

 

この点こそぼくがルイ・ジョーダンを聴き続けている大きな理由。最高に楽しいんですけど、決してエッジが鋭くない。きょう最初に書いた「あっさり淡白な薄味音楽」とは言えないですが、それに近い質感がその音楽にはある、そういう印象というか肌心地がするっていうのがですね、いまのぼくにはちょうどいいんです。

 

これはむかしから感じていたことで、であるがゆえにかつてルイ・ジョーダンのことはイマイチに感じていました。アルト・サックスもヴォーカルも曲調もなめらかで、決してハード・ブロウしないそんなルイの音楽は、要するにガツンとこないんです。だからブラック・ミュージックとしてちょっとものたりない面があると感じていたかも。

 

1940年代にいっぱいあったジャンプ系バンドはほとんどが大人数編成でしたが、ジャズでありながら強いビート感とブルーズ・フィール、メインストリームからハミ出すキテレツさ、日常的で卑近で猥雑な表現など、どこをとってもおよそ「上品さ」からは程遠い内容を展開していました。

 

しかしルイ・ジョーダンだけはその音楽のなかに一種の育ちのよさっていうか、クラッシーさ、おだやかなまろやかさをたたえていたよなあっていうのが、だからむかしはそこがイマイチだったけど、いまとなってはちょうどいい、これぐらいが心地いいんだよと感じられるようになりました。

 

(written 2023.1.23)

2023/01/30

余裕のある歌いまわし 〜 ウィリー・クレイトン

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(1 min read)

 

Willie Clayton / Caesar Soul & Blues
https://open.spotify.com/album/5YW9sV0Kx64fM5lZLadCMd?si=LmqHpvxqRtuXEgp8c38IRQ

 

after youで知りました。

https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-12-07

 

『Caesar Soul & Blues』(2022)ってとんでもないタイトルですよねえ、サザン・ソウルのベテラン歌手、ウィリー・クレイトン。ソウルとブルーズの帝王ってことですもん、それも自称。自信の表れか、周囲の現行ソウル・シーンに歌える歌手が少なくなってきたなか一人でがんばっているという自覚なのか。

 

このタイトルでねじふせるだけのパワーと説得力がたしかにこのアルバムにはあります。生演奏サウンドを中心としたプロダクションも充実しているし(ビートがデジタルっぽいけど)、ウィリーのヴォーカルもベテランらしい堂々とした迫力に満ちています。

 

ダンサブルなビート・ナンバー二曲の快感で幕開けから圧倒。そのまま三曲目のメロウ・バラードをスウィートに決めるのもすばらしい。声も大のぼく好みですし、歌いまわしに余裕があるので安心して聴けます。

 

バラードといえば本作ではステッパーよりいっそう充実している印象が個人的にはあって、たとえば終盤の6、7曲目あたりもずいぶんいいです。やっぱりこうしたタイプの曲で、歌えるか歌えないかの差が決定的に出るでしょう。特に三連ビートの7「Don’t Make Me Beg」にぼくはグッと来ました。

 

(written 2023.1.12)

2023/01/10

UKレトロ・ソウルのライジング・スター 〜 ミカ・ミラー

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(2 min read)

 

Mica Millar / Heaven Knows
https://open.spotify.com/album/1Y9V7wuiJFJGZe5eGuMuMb?si=e3BcoXlYRR-TWn4FyFolLA

 

マンチェスターの新人レトロ・ソウル歌手、ミカ・ミラーのデビュー・アルバム『ヘヴン・ノウズ』(2022)は昨夏のリリースだったもの。これがわりといいんですよね。ハチロクの三連ビートを基調にした米南部ふうなゴスペル・ソウルもなかにはあって、ぼくなんかには最高。ミカはUKじゃ注目新人としてそこそこ話題になっている存在です。

 

特にグッと胸をつかまれたのがハート・ブレイキングで痛切なトーチ・ソングの8「Will I See You Again」。これがなにかのプレイリストから流れてきたことがぼくがミカを知ったきっかけでしたからね。この曲も三連の米サザン・ソウルふうで、泣いているような歌詞といい切ないメロディといい、ほんとに沁みます。

 

ある意味現代の名曲、名トーチ・ソングに仕上がったんじゃないかとすら思う「Will I See You Again」も、ソングライティング、アレンジ、プロデュース、演奏、ヴォーカルなどすべてだれにも頼らずミカひとりでこなしていて、それはアルバム全体がそう。

 

アルバム・タイトル曲の4「Heaven Knows」も、それから10「Stay」も、なつかしい三連サザン・ソウル・スタイル。その他すべての曲がむかしふうで、2022年の新作なのにヒップ・ホップやネオ・ソウル、現代R&Bを通過した痕跡がぜんぜんなし。全編70年代ふうのソウル・ミュージックで満たされているっていうようなレトロ具合です。

 

(written 2022.12.28)

2022/11/10

ゴスペル新世代?〜 サラ・ブラウン

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(3 min read)

 

Sarah Brown Sings Mahalia Jackson
https://open.spotify.com/album/1sBIYJA6QJMbcV8aGPHspJ?si=l9L4hnZpRs24JRld8FbXKQ

 

ロンドン出身の歌手、サラ・ブラウン。ソロ・デビュー作じゃないかと思うんですがアルバム『シングズ・マヘイリア・ジャクスン』(2022)はそこそこ充実の内容で、しかもコンテンポラリーなさっぱり感もあるっていう。

 

こうしたブルーズとかゴスペルなどの世界は、ここ10年くらいかな、だんだん敬遠されるようになってきていて、注目の新作が出てもあまり話題にならないし、ましてやレヴューなんて書かれないという現状になってしまっていますよね。

 

アルバム題どおり偉大なマヘイリア・ジャクスンのレパートリーをカヴァーした企画もので、だからスピリチュアルズやゴスペル中心の内容。世俗曲もまじっていますが、それらだって解釈は教会寄りのものです。伴奏はジャジーなピアノ・トリオが中心。

 

サラはべつにゴスペル歌手だとかその世界で活動してきたとかってわけじゃなさそうですけど、同じ歴史を背負う黒人としてその大きな先輩歌手にリスペクトを示したい、作品として残したいという思いがあったんじゃないかと想像します。それもまたBLMエラ的アティテュードでしょう。歌手としての資質はジャジーなポップさが特質なんじゃないかと。

 

本作でもわりと自由に歌っているし、それにいくつかの定番有名ナンバーで別な曲をくっつけて大胆に展開したりなど、かっちりした曲の枠組にとらわれすぎないでこなしています。1曲目だってそうですし、4「サマータイム」だってわりとすぐ「マザーレス・チャイルド」になっているし(メロは「サマータイム」のままで)。

 

バンドの演奏する内容というか特にビート感がジャズ・ミュージックのそれで、典型的なゴスペル色は感じさせませんが、サラのヴォーカルだって重さや深刻さがなく、コブシもヴィブラートもなしであっさりすっと歌っているのは、やはり新世代らしいといえるでしょうか。ラテン・ビートを使った曲もあります。

 

歴史をひもとけば、ブラインド・ウィリー・ジョンスンとかシスター・ロゼッタ・サープみたいにゴスペルを世俗的に楽しく自由にこなす存在はずっと前からいたので、サラ・ブラウンの本作もそうした流れのなかにおけば、ポジション的にはことさら新世代ということではないのかも。

 

(written 2022.10.17)

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