カテゴリー「リズム&ブルーズ、ソウル、ファンク、R&Bなど」の166件の記事

2022/10/02

プロフェッサー・ロングヘア入門にはこれ 〜『ザ・ラスト・マルディ・グラ』

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(5 min read)

 

プロフェッサー・ロングヘア(1918-80)のほぼ最終作『ザ・ラスト・マルディ・グラ』(1978年録音82年発売)。なぜだかサブスクにないので、CDからインポートしたMusicアプリ(iTunes)のファイルで聴いていますが、ホント好きなんですよね。最高傑作じゃないのかと断言しちまいたい。

 

そこから何曲かYouTubeにもあげていて、それはもちろん権利者には無断でぼくが勝手にやっているだけのこと。だってねえ、だれでもがネットで聴けるようにしておきたい音楽だと思いますから。レコードもCDもすでに廃盤久しいんですから、これは義侠心みたいなもんですよ。

 

こないだ9月6日、そんなYouTube動画の一つにコメントがつきました。「This album was my introduction to 'Fess. He has such a distinctive piano style」っていう。これはうれしかったなあ。このかたとぼくは同世代かもしれませんね。
https://www.youtube.com/watch?v=If_Oif6b4JM&lc=UgyNyWv9YAefjEnEitF4AaABAg

 

『ザ・ラスト・マルディ・グラ』は1982年の二枚組レコードで、そのころぼくはちょうど大学三年生。ジャズにはまり関連する他方面もどんどんディグするようになっていたちょうどその時期に発売されてレコード・ショップに並びましたから、これがフェス入門だった、初めて手にとったフェスだったというのはぼくの世代には多いはず。

 

といってもぼく個人は『ニュー・オーリンズ・ピアノ』のほうを先に買ってはいて、それをいちおう一、二度聴きはしたんですけど、そのころはどこがおもしろいのか理解できませんでした。だからそのまま放り出しちゃっていて、フェスにはまった、こ〜りゃ楽しい音楽だねと皮膚感覚で納得できたといえるのは82年の『ザ・ラスト・マルディ・グラ』が初だったんです。

 

軽みがあって聴きやすくわかりやすい音楽で(そういうのバカにするひともいるみたいですけど)しかも有名代表曲だってたくさんやっているライヴ・アルバム。明快にノリよくて、まさにフェス入門にもってこいだと思うんですよね。

 

こうした音楽のベースにブルーズとカリビアン要素が濃くあるということもよくわかるし、ブギ・ウギやロックンロールと近接しているということだって示されているし。

 

歌うものが中心だけどじっくり聴かせるインスト演奏だって数個まじっていて(歌ものでもたっぷりめな楽器ソロあり)、このニュー・オーリンズ・スタイルを代表した大物ピアニストのその鍵盤をさばく腕前だってこれ以上ないほどくっきり刻印されているし。

 

いつだって楽しかったフェスの音楽が、地元のクラブ、ティピティーナでのライヴならではっていうことかここではいっそうくつろいで躍動していて、晩年ならではのまろやかな円熟味すらもあるんですから。

 

こう説明してくると、そ〜りゃフェスへの入門篇にピッタリですねって納得していただけるような気がしますが、それがなんとサブスクにないんですよね。廃盤になったレコードかCDを中古ショップでさがすしか手がないなんていう、そんなのちょっとねえ。フィジカル・リイシューが今後あるかどうか…。

 

ともあれどうしても、というかたは地道に中古盤をさがしていただきたいと思います。見つかるまでのあいだ、ぼくがファイルをつくってYouTubeに上げておいたこのアルバム(全17曲)からの七曲でもお聴きになって、楽しんでいただけたらいいんじゃないでしょうか。

 

「ジャンバラヤ」
https://www.youtube.com/watch?v=Z6u4LvWePdM

 

「メス・アラウンド」
https://www.youtube.com/watch?v=_gIKK9ot0nQ

 

「ラム&コカ・コーラ」
https://www.youtube.com/watch?v=If_Oif6b4JM

 

「シー・ウォークス・ライト・イン(シェイク、ラトル&ロール)」
https://www.youtube.com/watch?v=UNPJ1HNWlQw

 

「スタッグ・オ・リー」
https://www.youtube.com/watch?v=pN79UI1No74

 

「カーニヴァル・イン・ニュー・オーリンズ」
https://www.youtube.com/watch?v=na5sXo0Oqhw

 

これらはすべてカヴァー曲で、アルバムではもちろんフェスの有名自作ナンバーもたくさんやっています。それらはサブスクでも一般的な他作でどんどん聴ける曲ですから。そんな自他の区別なく自分の音楽として存分に楽しんでやっていたのがフェスの持ち味ですね。

 

(written 2022.9.8)

2022/09/29

デリケートな短編小説集のように 〜 ペク・イェリン

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(3 min read)

 

Yerin Baek / Every letter I sent you.
https://open.spotify.com/album/20hW2P3VSNJ1A7MwjIJ0Up?si=zkCB9ej_RyaVmESk3MMwxw

 

bunboniさんに教わりました。感謝しかありませんね〜。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-08-29

 

韓国人歌手、ペク・イェリンの『Every letter I sent you.』(2019)がきれいで繊細で遠慮がちで孤独で、ほんと、いいです。ささやかにひそやかにそっと歌うラヴ・ソングの数々がじんわり沁みてきて、韓国語だったらちょっと違ったかもですが、本作はほぼ英語なので(それも音楽のカラーを決めているでしょう)。

 

といってもぼくは歌詞の内容は気にしておらず、響きだけ受けとって、このふんわり空気のように漂うサウンドの上に軽く乗ってそっとつぶやくように控えめに歌うイェリンの声がいいなって、そう感じているんです。終盤の一曲を除き全編ずっと抑制が効いたクールなヴォーカルで、トラック・メイクもそうだし、そういったところがお気に入り。

 

基本的に近年のアンビエントR&Bを基調にしたサウンドなんですが、曲によっては80〜90年代的なアシッド・ジャズっぽいムードもただよっているようにぼくは感じます。そしてゆっくり流れゆく雲のように静かでおだやかな音楽だっていうのは、このところのぼくの急所をくすぐるもの。これですよこれ、こういうR&Bが聴きたかったんです。

 

それを韓国人歌手が実現してくれたっていう、それがうれしいですね。むろん日本にもいまこういった音楽はたくさんあって、たんにぼくがうといだけということなんですけども。ヴォーカルもサウンドも聴くたびに表情を変える多貌性みたいなものも持っていて、深みのある音楽です。

 

一つ、8曲目の「Bunny」だけはノリいいグルーヴィなクラブ系ダンス・ナンバーで、イェリンはそれでも抑えて歌っていますが、そのなかに一種の陽光がさしたような明るい雰囲気も感じられ、ある種のテンションが支配しているアルバムだけに、ここではなんだかほっと一息ついて安心できるようなリラックス・ムードがあります。

 

一曲一曲はアルバムのなかでさほど密な結合をしておらず、まるで趣向の異なる短編小説をならべたみたいになっているのも個人的にはとてもいい。この内容だったら実はこの半分の35分程度にまとめられたかもと思いますが、インディ作品だからやりたいようにやっているんでしょうね。

 

(written 2022.9.6)

2022/08/01

超カッコいいさわやかファンキー!〜 Kroi

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(2 min read)

 

Kroi / telegraph
https://open.spotify.com/album/0iA4MRC2v2WBEfgw8FSesc?si=JBuhK3SOTcS5MoWIM2KT0w

 

・ギター、ヴォーカル(内田怜央)
・ギター(長谷部悠生)
・キーボード(千葉大樹)
・ベース(関将典)
・ドラムス(田英知)

 

森保まどかがきっかけでたぐりにたぐって知ることとなったKroi。日本の五人組バンドで、ごた混ぜミクスチャー・バンドだということ(全色混ぜると黒になる)と、いずれも20代のメンバー全員ブラック・ミュージック好きだというところからこのバンド名になったようです。

 

2018年デビューで、今回聴いてみてはまった七月末リリースの最新作『telegraph』(2022)は二作目。こ〜れが!カッコいいんですよね。たしかにアメリカン・ブラック・ミュージックにしっかり根ざしたグルーヴ&サウンドが濃厚で、デビューしてまだ四年ゆえのハジける勢いみたいなもので突っ走る爽やかなみずみずしさにも好感をいだきます。

 

オープニング・トラックはアルバム題を意識してか、ただの電信ログで、それに続く2「Drippin’ Desert」、3「Funky GUNSLINGER」の二曲が完璧なキラー・チューン。あまりにもカッコいい。ノリがファンキーで、これらって完璧なファンク〜R&Bスタイルですよね。バンドの演奏もいいし、歌ったりラップしたりする内田のことばのつむぎかたや発声にビートがあって、それでもってグルーヴを産んでいます。

 

キラー・チューンといえるものはほかにいくつもあって、たとえば7「Juden」もすばらしい。ここではバンド演奏の闊達さも目立ちます。この五人組はぜんぶ人力生演奏なんですよね。達者なんだなというのがとってもくっきり伝わります。そして、やはりヴォーカリストの才覚がみごとすぎる。

 

演奏力の高さを活かしたインストルメンタル・ナンバーも二つあって(8、14)、そこではソウル・ジャズ〜ジャズ・ファンクみたいなかっちょええ演奏を聴かせてくれているのもグッド。ヴォーカル・ナンバーもすべてふくめ、グルーヴ・オリエンティッドな音楽を指向しているんだなというのがよくわかり、ちょっぴりレトロかもしれないけど、かぎりなくうれしいです。

 

年末のベストテンに入る傑作と思います。

 

(written 2022.7.31)

2022/07/11

重量級の骨太なライヴ・ファンク 〜 トロンボーン・ショーティ

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(2 min read)

 

Trombone Shorty / Lifted
https://open.spotify.com/album/4jGggj1AJxwhrVqm5oIJlh?si=XCnJcMMBRCq1owIF3hGjKA

 

最近この手の音楽はちょっと遠慮しておきたいとかやかましいぞと感じることが若干ないわけでもないトロンボーン・ショーティの最新作『リフティッド』(2022)。痛快な傑作であることは間違いありませんので、ちょこっとだけメモしておきます。

 

1曲目「カム・バック」から野太いガッツのあるファンク・グルーヴが炸裂。ホット・ワックス/インヴィクタス系みたいなぐちょぐちょ言うギター・カッティングに続きビートとオルガンとホーンズが入ってきた刹那、もうただそれだけで、のけぞりそうな快感が背筋を電流のようにほとばしります。

 

特にドラムスとホーン・セクションのノリと、それからトロンボーン・ショーティの声の迫力と、この三者に宿る強靭なライヴ・パワーに圧倒され、だから、つまり、こうした眼前で汗と唾が飛び散らんばかりの肉太フレッシュ(flesh)・ミュージックは最近ちょっと遠ざけたい気分のときもあるわけですが、トシとったんだなあ>自分、こういうのばっかり聴いてきたのに…。

 

アルバム一作全編を通しペース・ダウンしたりチェンジ・オヴ・ペースがあったりなどせず、最初から最後まで隙なくそんな極太で豪放なファンク・チューンで貫かれてあるんであれなんですけど、なかでもこれだったらいまのぼくにもちょうどいいんじゃないかと思えるのが7曲目「フォーギヴネス」。軽みがあってメロウでいいです。

 

カーティス・メイフィールド → レニー・クラヴィッツ系のさわやかニュー・ソウルっぽい一曲で、ちょっとアル・グリーンっぽい雰囲気もありますよね。それでもこのスウィート・ナンバーだって底部を下支えしているのは重量級のぶっといグルーヴにほかならないと聴けばわかり、それでもまあこれくらいならまだなんとか。

 

(written 2022.7.10)

2022/07/03

アメリカン・ポピュラー・ ミュージックの王道 〜 ファントム・ブルーズ・バンド

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(3 min read)

 

Phantom Blues Band / Still Cookin’
https://open.spotify.com/album/1snCLFN5TsQbGLzrmc0Guk?si=fQLV6jAJRgGG9WbSPoy31w

 

Astralさんに教えてもらったファントム・ブルーズ・バンド。最初タジ・マハールのバックをつとめるべくマイク・フィニガン(key)を中心に集結した面々らしいですが、自身名義のアルバム最新作『スティル・クッキン』(2020)が痛快な時代錯誤感満載で、最高に楽しい。古いスタイルのファンキー・ブルーズ・ロック、ぼくはこういうのが気持ちいい人間なんです。

 

時代錯誤とか古いとかレトロとかっていうより、こういうのはアメリカン・ポピュラー・ ミュージックの王道として永遠不滅のものなんだろうというのがはっきり言って本音ですけどね。アップデート史観や進化論にとらわれすぎることなく今後とも聴いていきたいと思っておりますよ。

 

『スティル・クッキン』もサウンドの土台になっているのはリズム&ブルーズ、ジャズ、ソウル。そこに適度なカリビアン・ビート香味もまぶされているのはべつに意識したというんじゃなく、アメリカ合衆国音楽ではあたりまえの養分になっているものだから自然に出てくるわけです。

 

ウィルスン・ピケット・ナンバーの1曲目から快調。それ以後もドクター・ジョンふうのニュー・オーリンズ・スタイルが聴けるのもいいですね。鮮明なのは三曲あって2「ウィンギン・マイ・ウェイ」、3「ジャスト・イン・ケース」、7「ベター・バット・ナット・グッド」。ゆったりしたひょうひょうとした味わいがいいんです。

 

はっきりしたラテン・ソウル・ナンバーである8「テキーラ・コン・イェルバ」も最高だし、ブルージー&メロウにただよう都会の夜のくつろぎ感満載なスロー5「ブルーズ・ハウ・ゼイ・リンガー」ではジャジーでムーディなテナー・サックス・ソロも聴きどころ。背後でややハチロクっぽいビートの刻みがあったり。

 

完璧ジャンプ・ブルーズなバディ・ジョンスンの11「アイム・ジャスト・ユア・フール」なんか、こんな時代にまったくおじけづかずストレート真っ向勝負で博物館的なシャッフル8ビート・ブルーズをフル展開していて、こういうのがねえ、生理的快感なんですよね、ぼくはね。

 

(written 2022.5.15)

2022/06/14

聴いたことのない音楽を聴きたい 〜 ウェザー・リポート「キャン・イット・ビー・ダン」

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Weather Report / Can It Be Done
https://open.spotify.com/album/0tXYdgzPsy67uuS0Ugirb7?si=ygvLy4adTY-uxy8TGF-GXA

 

このリンクはウェザー・リポート1984年のアルバム『ドミノ・セオリー』ですが、そのオープニング・ナンバー「キャン・イット・ビー・ダン」が最高にすばらしいと思うんですよね。ずっと前にも言ったことですが、このバンドのNo.1傑作曲だとぼくは信じています。

 

でもそんなことを言っているジャズ・リスナーやウェザー・リポート・ファンっていままでぜんぜん見たことないです。どこにもいないみたい。ぼくだけの感想、というか信念なんでしょう。だいたいこれヴォーカル・ナンバーだし、そもそもジャズですらない。ソウル・ナンバーに違いない真っ黒けな一曲です。

 

そこがいいと感じているんですよね。独裁者だったジョー・ザヴィヌルは1960年代のキャノンボール・アダリー・バンド時代からそういう資質の音楽家だったというのが、ここではフルに発揮されています。でも曲はザヴィヌルのものじゃなく、ワイルド・マグノリアスなどニュー・オーリンズ・ファンクのウィリー・ティーがこのアルバムのために書いた当時の新作。どういう接点があったんでしょうね。

 

ともあれこの「キャン・イット・ビー・ダン」、歌詞も強く共感できるもの。この世にまだ出ていないメロディ、まだ聴いたことのない音楽というものはどこにあるのだろう、ないみたいだけど、それをずっとさがし求めているんだ、という、メタ・ミュージック的な視点を持った一曲。

 

歌うのはカール・アンダースン。ジャズやフュージョンのファンにはなじみがない名前かもしれませんね。ぼくだって『ドミノ・セオリー』ではじめて聴きましたが、タメとノリの深いソウル・グルーヴを表現できる歌手で、84年時点で一聴、惚れちゃいました。

 

この曲、バンドはほとんど出現の機会がなく、たぶんこれ、オマー・ハキムがハイ・ハットでずっと一定の刻みを入れている(&ちょっとだけスネアも使う)以外は、多重録音されたザヴィヌルのキーボード・シンセサイザーしか入っていませんよね。だけどそれが絶品じゃないですか。リリース当時マイルズ・デイヴィスも「あのジョーのオルガンを聴いたか」と絶賛していました。

 

もう音色メイクが文句なしによだれの出るセクシーなもので、フレーズも曲のメロに寄り添いながらそれをひろげたり深めたりして、空間を埋めていくかのようでありながらふんわりとただよい、適切な間を感じさせる絶妙なもの。

 

曲がすばらしいのと歌手の声が深いのと最高なキーボード伴奏との三位一体で、もちろんウェイン・ショーターもだれも参加していませんから「ウェザー・リポートの曲」というにはやや躊躇を感じないでもありませんが、それでもこれだけのグルーヴの前にはひれふすしかありませんよ。

 

(written 2022.4.26)

2022/05/21

これもジャズから連続的に産み出されたものなのだ 〜 クーティ・ウィリアムズの40年代エンタメ・ジャンプ

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(4 min read)

 

Cootie Williams Selection
https://open.spotify.com/playlist/0avUTA6AmcGi3LpT6agNr3?si=af12bfde9da54ebf

 

きのう書いた『ホット・リップス・ペイジ・セレクション』と同時期に作成したSpotifyプレイリストがきょう話題にしたい『クーティ・ウィリアムズ・セレクション』。上でリンクしておきましたが、CDだとやはりこれも仏クラシックスの(廃盤)で、サブスクだと同じく「Complete Jazz Series」で、年代順に聴けます。

 

クーティの「Complete Jazz Series」は1941年1月録音からはじまっていますね。デューク・エリントン楽団で名をあげたこのジャズ・トランペッターは、40年にそこを辞めベニー・グッドマン楽団に移籍しています。

 

しかし一年で脱退し自分のバンドを結成して活動するようになってからは、王道ジャズというよりブラック・エンタメ系にハミ出したブルーズ由来の猥雑ジャズをキャピトルやマーキュリーなどに録音しはじめたのが、ですから41年のことです。

 

仏クラシックスのCDもサブスクの「Complete Jazz Series」も、1949年9月録音で終了していますが、Wikipediaによれば50年代のクーティの活動はどうもよくわからないらしく、人気が凋落し、そもそもバンドの規模も少人数編成にしていたそうで、なにがあったんでしょうね。

 

1962年にデューク・エリントン楽団に復帰して以後は、同楽団で王道ジャズ路線を死ぬまで続けたクーティですが(85年没)往時の輝きはもはやなく。ぼくみたいなリスナーには自身のバンドでの40年代ジャンプ系録音がいまでも最高に楽しくて忘れられませんわ。

 

すくなくともその40年代音源だけはサブスクでも漏らさずぜんぶたっぷり聴けるんで文句なしです。30年代にはデュークのところで輝かしいキャリアを誇ったクーティが、その後自分のバンドでこうしたエンタメ系へと移行したのはなぜだったんでしょう。なんにせよ彼我の区分を厳密にせよというのはどだいムリな話。

 

正直に言って、ジャズ/リズム&ブルーズ/ロックの区別をしたがるそれぞれファンのことがぼくはさっぱり理解できないです。好みはひとそれぞれあるからやむをえないにしても、もしどれかを否定する方向に走ると自分の足下もあやうくなるっていう事実を認識してほしいものです。

 

クーティみたいな音楽家のキャリアをじっくり聴くと、ますますこの感を強くしますね。自身のバンドでの1940年代音源では、ジャズを土台におきつつ大きく芸能方面に踏み出してジャンプ〜リズム&ブルーズをやっていたことは、聴けばだれでもわかるはずのこと。

 

なかには1949年の「レット・エム・ロール」「スライディン・アンド・グライディン」「マーセナリー・パパ」みたいな、こりゃもう(初期型)ロックンロールだろう、すくなくともその先駆けには違いないと断言できるものだってあるんですから。それらだってジャズから連続的に産み出されたものですよ。

 

ブラック・エンタメ系にハミ出した1940年代クーティ自己名義音源に(かつてのデュークのところでの「コンチェルト・フォー・クーティ」みたいな)ジャジーなスリルとか快感はないかもしれませんが、曲のノリと猥雑感がこの上なく楽しくてですね、これもまた別の種類の音楽美なんです。

 

(written 2022.4.12)

2022/05/05

都会の退廃 〜 ジュリア・ウー『2ession』

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(3 min read)

 

Julia Wu / 2ession
https://open.spotify.com/album/55zxCUQ3WL7Pmjps4ROlrT?si=FgGMi_p3RbeXm-d5wqgEug

 

とってもいいぞと以前ご紹介したジュリア・ウー。中国生まれのオーストラリア人でいまは台湾を拠点に活躍中の新世代R&B歌手ですが、新作というかこれはなんだろう?EP『2ession』(2022)というニュー・リリースがこないだありました。

 

たったの四曲15分しかありませんが中身がサイコーなので、短く軽く書いておくことにしました。収録曲はいずれも過去にジュリアがリリースしていた既発曲の再演ニュー・ヴァージョン。

 

これはでもぼくがこの歌手を知っているからわかることで、このアルバムについていままでなんらの発表も情報も、中文ですら、さがしてもありませんし、ジュリアの公式Instagramでもまったく触れられていません。売る気ないのか?

 

ジャケット画像すらどこにも存在せず拾ってこられなかったから、今回はSpotifyアプリで表示させたのをiPhoneでキャプチャしクロップして体裁を整えたという次第。八年で初の事態だよなあ。

 

ともあれジュリアの新作『2ession』、コンテンポラリーR&Bでありながら、自身の既存代表曲のオーガニック生演奏リメイクというところに主眼がありそうな内容。いままでこの歌手をご存知なかったみなさんも入っていきやすい入門的な一作のようにも思えます。

 

四曲ともほんとうにいいです。サウンドも聴きやすいし、ナマの質感を活かしながら随所に適切なデジタル処理がほどこされています。歌手の声もソフトでおだやか。決して声を張ったり叫んだりせず淡々と歌うスタイルなのがいかにもコンテンポラリーR&Bらしいところ。

 

そんな現代的なアンビエンスなのに、レトロ趣味なぼくの大のお気に入りになっているのは1990年代R&Bふうのフィーリングがはっきり聴きとれるところです。そして新作はオーガニックな楽器演奏での組み立てにこだわったことで、よりいっそうの嗜好品となりました。

 

なかでも4曲目「你是不是有點動心」。絶品やないですか。なんですのこのムーディなアトモスフィアわ。都会の夜におしゃれなバーみたいなところで窓外のネオンでも眺めながらゆっくりくつろいでいるような、そんな洗練された曲調と伴奏と歌。= 都会の退廃。2017年の曲で、いままでに二つのヴァージョンがありましたが、今回のが最高のもの。

 

(written 2022.5.4)

2022/05/03

ネオ・ソウルに混じるおしゃれカルカベ 〜 ゾーズ・シャンハイ

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(3 min read)

 

Zoe’s Shanghai / Lava Love
https://open.spotify.com/album/15WYJCGGKm3PiepYR2QWUT?si=A-eA7eF6RMqxUMnUfbRelw

 

ゾーズ・シャンハイはバルセロナ出身のバンドで、現在はパリが拠点。やっているのはジャジーなネオ・ソウル。最新作『Lava Love』(2021)で知りましたが、ぜんぶの曲が英語詞なんで、パッと聴き最初アメリカかイギリスのバンドかな?とぼんやり感じていました。

 

なぜ上海なのかは調べてもわからず。中心人物はヴォーカル&ギター担当のゾー・レニー(Zoé Renié)。これにベースのアレックス・モラス(Alex Molas)、キーボードのトマス・フォッシュ(Tomàs Fosch)、ドラムスのアウレリアン・ランディ(Aurélien Landy)が参加した4ピース・バンドです。

 

アルバムの音楽性にバルセロナとかパリとかヨーロッパふうな印象もほぼなくて、アメリカ発の世界で普遍的なネオ・ソウルをやっているなと思います。なんでもジャイルズ・ピータースンも注目しているバンドだそう。あるいはひょっとしてそっち方面で今後ブレイクしたりする可能性もある?ってことはやっぱり欧州発信?

 

聴いて心地よくリラックスできる音楽ですが、胸にひっかかるとか特にどうとかってこともないような漂うアンビエンスなのは、やはりコンテンポラリーな音楽らしいなめらかさ。アメリカやイギリスの現代R&Bなんかにも共通する特性で、実をいうとこの手のコンテンポラリー・ミュージックはいまいちピンとこない部分もあって、やっぱりレトロ志向なほうが好みだなあと感じます。

 

それでも一曲だけ妙に耳に残るおもしろいサウンド・メイクをしていたものがあります。4曲目「7min」。最初ふわ〜っとしたキーボード・シンセサイザーの音が幕か空気のように降りてくるんですが、数秒でなんとそこにカルカベ(鉄製カスタネット)の打音がミックスされはじめます。

 

ゾーの歌が出てしばらく経つとそのカルカベは消えるんですけども、アウトロ部分で再度挿入されて、そこにヴォーカルも重なります。やはりヴェールのようなシンセ・サウンドが垂れ込めて、カルカベを香らせながらそのままフェイド・アウトして曲が終わるっていう。

 

べつにグナーワとか北アフリカ音楽っぽさなんかなくて、たんなる軽いスパイスというかアクセント、装身具としてちょっと着けてみただけのこと。いまやこういったネオ・ソウル・ミュージックでは、カルカベのかしゃかしゃっていうあのサウンドが一種のおしゃれアクセサリーになりうるんだなあ。モロッコの儀式現場での泥くさ〜い響きとはおよそかけ離れた世界ですけど、あの音が好きなぼくは微香でもニンマリ。

 

(written 2022.5.2)

2022/04/08

昇竜の刻印 〜 MTVアンプラグドのマライア・キャリー ’92

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(6 min read)

 

Mariah Carey / MTV Unplugged EP
https://open.spotify.com/album/0jpGebANqbNNKbWHq2XhEM?si=E-HwCqjuS1-stfq15usJjg

 

きのうマライア・キャリー・ヴァージョンの「アイル・ビー・ゼア」を絶賛しましたが、そう、それが収録されているマライアのライヴ・アルバム『MTV アンプラグド EP』がぼくは超大好き。

 

もう好きで好きでたまらず、マライアでいちばん聴くのはこれですし、個人的マライア最高傑作でもあります。いままでも一度か二度強調してきたことなんですけれども、きのう「アイル・ビー・ゼア」を聴きなおしたら、ふたたびたまらない気分になってきました。

 

たくさんあるMTVアンプラグド・アルバムぜんぶのなかでも最愛好作品なんですけど、そんな音楽ファンあまりいないでしょうね。一般のマライア・ファンだってそういうこと言っているひといないみたいだし。でもぼくのアンテナというか嗜好というか、なにか琴線に触れるものがあるんです。

 

マライアの『MTVアンプラグドEP』は1992年3月16日にニュー・ヨークにおきスタジオ・ライヴ形式で収録され、同年6月に発売されました。キャリア初のライヴ・アルバムだったのはもちろん、全作品でみても大ブレイクした二作目『エモーションズ』が91年9月のリリースだったのに続くもの。勢いに乗っていた時期です。

 

そんな上げ潮ムードは、MTVアンプラグド・ライヴ1曲目の「エモーションズ」から全開です。アルバム『エモーションズ』でも1曲目のタイトル・ナンバーだったものですが、このアンプラグド・ライヴには曲を書きプロデュースした中心人物、デイヴィッド・コール(C+C ミュージック・ファクトリー)が、これだけ、ピアノで参加しています。

 

スタジオ・ヴァージョンは1990年代らしい打ち込みビートを軸に据え、エレクトロなサウンド・メイクの上でマライアが飛翔するものでした。アンプラグド・ライヴでは、それらすべてをアクースティックな生人力演奏に置きかえているんですが、そ〜れがもう絶品ですよね。

 

コールのピアノ(といってもデジタル・ピアノの音ですが)に続きゴスペル・クワイアふうのコーラスが入ってきて、本編前のテンポ・ルバート部ですでに「これはスペシャルなものだ、なにか違う」との感を強くしますね。異様な雰囲気が漂っているでしょう。マライアの声も最高に伸びています。

 

ドラマーのスティック・カウントでアップ・テンポのビートが入ってきたら、もうノリノリの夢見心地。コールのピアノ演奏がバンド全体をぐいぐい牽引しているのがよくわかりますが、コーラス隊もふくめアレンジ/プロデュースもやったはずです。合奏によるキメなど細かなリフが効いていますからね。

 

ふわっとしたさわやかで軽快なノリを持っていたスタジオ・ヴァージョンとやや趣きを異にし、このアンプラグド・ライヴの「エモーションズ」はずしりと重心が低く、ずんずん迫るヘヴィなグルーヴ感。中高域はもちろん、低域でもドスを効かせてうなるマライアのヴォーカルにも鬼気迫るものがあります。

 

個人的にはスタジオ・ヴァージョンよりはるかに好きなこのアンプラグド・ライヴの「エモーションズ」、2022年までのマライアのトータル・キャリアでみてもこれこそ最高傑作チューンだったと個人的に信じています。デビューして二年で大ヒットのまっただなかという昇竜の刻印がここにはあります。声にそれを感じることができるはず。

 

アルバム全体は、そんな「エモーションズ」に似たビートの効いたアップ・ナンバーと、堂々とした歌唱力で説得するお得意のバラード系との二種類が並んでいますが、オープニングの「エモーションズ」の圧巻に続く絶品パフォーマンスは、やはりきのう書いた6曲目「アイル・ビー・ゼア」でしょう。

 

このジャクスン5ナンバー以外はそれまでに二作あったオリジナル・アルバム収録曲で占められていますから、「アイル・ビー・ゼア」はこの日のために用意されたスペシャル・メニューだったんだとわかります。

 

冒頭のピアノ・イントロから、チェレスタを使っていたジャクスン5ヴァージョンをほぼそのまま踏襲していますが、マライアの声だってマイケルを強く意識したetherealなもの。まさにこの英単語がこの曲でのマライアの声を形容するのにピッタリだと思うんですよね。まさに天上の声。

 

オリジナルではジャーメインが担当していたパートをここではトレイ・ローレンスが歌っています。トレイによるサビが終わってAメロに戻ったときのマライアの声のハリと歌いまわしがこりゃまた降参ものの絶品さ加減で、説得力があって、とろけちゃいますね。

 

(written 2022.1.9)

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