カテゴリー「ショーロ」の37件の記事

2022/08/29

くつろぎのデュオ・ショーロ 〜 ロジェリオ・カエターノ、エドゥアルド・ネヴィス

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(3 min read)

 

Rogério Caetano, Eduardo Neves / Cosmopolita
https://open.spotify.com/album/3mikQP8Exhf7iuwy7UJMZn?si=gzf9Kr3eQaW5VjOENChQpw

 

bunboniさんのブログで知りました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-03-20

 

ブラジルの七弦ギターリスト、ロジェリオ・カエターノ2015年の『Cosmopolita』は、とにかくジャケット・デザインが好みなので、それだけでちょっと聴いてみようとSpotify検索したっていうこのルッキズム人間なんとかならんのか。

 

ともあれ本作はロジェリオのギターで管楽器奏者エドゥアルド・ネヴィスとデュオをくりひろげたショーロ・アルバム。このジャンルではよくある規模です。ひとによってはソロだってときどきやる分野ですから。

 

本作でエドゥアルドはテナー・サックスとフルートを吹いています。七弦ギターとのこじんまりしたサロン・ミュージックふうな落ち着いたデュオ・ショーロとして、前半にはややコケティッシュでユーモラスな乾いたフィールもちょっとあるっていう、そこらへんも味わいですね。

 

4曲目くらいからはしっとり濡れたような感覚のサウダージに満ちていて、たいへんすばらしい。管楽器が大きくゆったりとしたメロディ・ラインを吹くあいだギターは細かく刻んでいたりして、そうしたカウンター・パートというかせめぎあいがイキイキとしたグルーヴを生んでいるなとわかる部分も多いです。ショーロでは通常的な手法ですけどね。

 

ところでその4曲目「Rosa e Cora」がきれいなバラードで、とっても美しく、ぼくは大好き。ギター中心の演奏で、だれの曲だろうと思いクレジット欄を開けても空白。ちょっと残念です。ピシンギーニャあたりがときどき書いた名バラードのおもむきがあります。

 

美しいバラードといえば後半8曲目「Amigos」もそう。ここではテナー・サックスがしっとりとつづり、ギターはそれに伴するコントラポントを弾いています。4曲目もそうだけど、暖かな人間的情感のこもった音楽で、こういうの、マジ、いいんです。10曲目もそうか。

 

高速で明るく軽快に疾走するものだってあるし、バラエティも豊富。全体的には落ち着いた雰囲気のアダルトな楽しみに満ちた音楽といえ、部屋でいつもひとりたたずんで音楽を聴いている身にはすばらしいくつろぎタイムとなってくれます。

 

(written 2022.7.28)

2022/07/01

極上のまろみを聴かせるデュオ・ショーロ 〜 アレサンドロ・ペネッシ、ファビオ・ペロン

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(2 min read)

 

Alessandro Penezzi e Fábio Peron
https://open.spotify.com/album/0ok3dRfM5AAEQwjdlHTUSW?si=0TuvCdE8QbCMpmTeiuDrVA

 

Música Terraで知りました。
https://musica-terra.com/2022/05/31/alessandro-penezzi-e-fabio-peron/

 

ブラジルの七弦ギターリスト、アレサンドロ・ペネッシと十弦バンドリン奏者、ファビオ・ペロンのデュオによるショーロ・アルバム『Alessandro Penezzi e Fábio Peron』(2022)。まったく飾り気のないジャケットとアルバム題ですが、中身は極上です。

 

両名ともよく知られた存在ですが、デュオでやるのは初のはず。こうした極小編成でのショーロというのはそこそここの世に存在してきましたが、本作できわだつのは録音が極上で弦楽器の表情(弦や木製ボディのアクースティックなど)がとてもよくわかるということと、二名ともの音色の美しさと粒立ちのよさ。

 

個人的にはサウダージに満ちた泣きのバラード系ショーロこそ大好きなもんで、本作でもたとえば5曲目「Veranda da Saudade」とか、それから9「Valsa em Branco e Preto」にグッと胸をつかまれます。特に後者かな、これはヴァルサなんですが、ほぼテンポ・ルバートに近く、リリカルなフィーリングに満ちています。

 

一聴、すべてインプロヴィゼイションで構成されているのかな?と思いそうになってしまうほど自然発生的な演奏であるにもかかわらず、よく聴けば丹念に練り込まれたコンポジション。古典的なショーロやヴァルサの書法にのっとった、すべて二名の自作で、大半が本作のために用意されたものです。

 

特にどうってことないショーロ・アルバムに思えるかもしれませんが、どこにもトゲのないこうしたクラシカルなまるみのある落ち着きを聴かせる日常的なサロン・ミュージックこそ、ふだん飽きずに接し続けることができて、日々の癒しになるものなんです、ぼくには。

 

(written 2022.6.30)

2022/03/29

ガウーチョがモチーフのデュオ・ショーロ 〜 ヤマンドゥ・コスタ&ベベ・クラメール

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Yamandu Costa, Bebê Kramer / Simpatia
https://open.spotify.com/album/0NtYWq3YYdZ4zm56aAGW9E?si=MroIt1xaQXqF42cHm83OoA

 

10日ほど前にまたまたヤマンドゥ・コスタ(七弦ギターリスト)の新作が出ましたが、だれもなんにも言わなくなったのは、要するに出しすぎて日常になってしまったということと、フィジカルがないからでしょうね。LPやCDで出すことを考えていたらこんなにどんどんリリースできないわけですけれども。

 

そう、ヤマンドゥはコロナ時代に入ってかえって活動が活発化している音楽家の一人。おそらくかなり軽い気分でホーム・セッションを重ねてはポンポン続々とリリースしすぎなので、もうだれもついていけないっていうことになっています。

 

そんなヤマンドゥの最新作『Simpatia』(2022)は、ブラジル南部出身のアコーディオン奏者ベベ・クラメール(アレサンドロ・クラメール)とのデュオ・ショーロ。どちらかというとヤマンドゥよりベベが主役を握っているようなサウンドです。

 

それはジャケット・デザインからもわかるようにブラジル南部〜ウルグアイ〜アルゼンチンのガウーチョ(ガウーショ)がモチーフになっているからでもありますね。実際ショーロというよりフォルクローレに近いような音楽にも聴こえ、サウス・アメリカ南部の粋を器楽演奏したという感じかも。

 

もちろんいずれもショーロ楽曲ではあります。なかではラダメス・ニャターリの曲が二つ、ピシンギーニャにささげた曲も二つ(うち一つはニャターリ)あるのが目立ちます。アストール・ピアソーラも一曲あり。それら以外はベベやヤマンドゥの自作が多いかなと見受けられます。

 

都会的洗練よりもやや野趣すら感じる演奏ぶりで、素朴な田舎ふうっていうか、ぼくにとってはアコーディオンの音色がそういったフィーリングなのかもしれません。明るくダンサブルな魅力もあって、室内楽的印象の強いショーロが、実は最初ストリート・ミュージックだったというのを思い起こさせるものです。

 

(written 2022.3.28)

2022/02/06

泣きのショーロ新作 〜 ダニーロ・ブリート

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(2 min read)

 

Danilo Brito, João Luiz / Esquina de São Paulo
https://open.spotify.com/album/5JadOZCR15rLNXMaMsBnkz?si=GcZmIgzkSDaGEoehGtUjWg

 

ブラジル出身、現在はアメリカ合衆国で活動するショーロ・バンドリン奏者、ダニーロ・ブリートの新作『Esquina de São Paulo』(2021)は、やはり同国に拠点をおくクラシック・ギターリスト、ジョアン・ルイースとのデュオ作。

 

ピシンギーニャ、ジャコー・ド・バンドリン、オルランド・シルヴェイラらの曲をとりあげつつ、自作も混ぜているダニーロ。端正で典雅なのもいいけれど、個人的にはしっとりした泣きの情緒を聴かせているものがもっと好きです。

 

たとえば2曲目のアルバム・タイトル・ナンバー。ダニーロの自作ですが、これこそショーロの真骨頂といえるサウダージをなんともいえないフィーリングで表現していて、それでいてしつこくなく、さわやかな優雅さもただよっているという、ホント、いいですねえ。

 

アルバムにはそうした泣きのエレガント・ショーロがけっこうありますよ。5、6、9曲目なんかはかなりはっきりしているし、4曲目だってちょっとそうかな。メロディをつづりながら、ごく微細な音のニュアンスの変化をピッキングでつけていくダニーロの技巧がさりげなく発揮されていて、感心します。

 

ギターのジョアン・ルイースはほぼ伴奏に徹していて、ダニーロが弾く歌心たっぷりのメロディにからむ対位ラインを効果的に奏でる役目。堅実に脇を固めていますね。全九曲のうち六曲がしっとり湿った情緒の泣きのショーロで、バンドリンの硬質な音色がかえっていっそう哀感をきわだたせているようで、すばらしい。

 

(written 2022.1.5)

2021/11/11

ショーロ・クラリネット、真の名手の証 〜 パウロ・セルジオ・サントス

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Paulo Sergio Santos / Peguei a Reta
https://open.spotify.com/album/6xWnCjCJupSh2AjCN0gRua?si=gn8VLLRvQ6SHknGKqld3zg

 

ブラジルのショーロ・クラリネット奏者、パウロ・セルジオ・サントス。今年の新作『Peguei a Reta』(2021)は、自身のクラリネット+ギター(カイオ・マルシオ)+ドラムス or パーカッション(ジエゴ・ザンガード)のみという、たった三人の編成。それなのに不足ないこのサウンドとグルーヴはどうでしょう。

 

演奏されている曲は、従来どおり新旧さまざまのショーロ・ナンバーで、アナクレット・ジ・メデイロス、エルネスト・ナザレー、ピシンギーニャ、ラダメス・ニャターリ、カシンビーニョ、アベル・フェレイラ、シヴーカなど。

 

テンポよく軽快にスウィングするものも、バラード調でしっとりした情緒を聴かせるものも、いずれもなめらかですべらか、(いい意味で)ひっかかるようなところがまったくなく、もうベテランといえるパウロのクラリネットもすっかり円熟し、具合よく枯れてきているように聴こえます。

 

音色もまろやかだし、よく聴けばたいへんな難技巧を駆使しているにもかかわらず、聴いた感じがとてもスムース。なんでもないようにさりげなくあっさり吹いてしまっているもんだから、あぁ気持ちいいなとそのまま耳を通りすぎてしまうのは、真の名手の証でしょう。

 

個人的に特に強く印象に残ったのは、ゆったりしたバラード調の二曲(4、7)。いずれもテンポ・ルバートで、パウロが実に切々とした哀感をつづる様子が胸に迫ります。こういった曲想では、クラリネットという楽器の湿って丸く柔らかな音色がとても似合いますね。もうほんとうに最高です。

 

後者7曲目なんか、伴奏なしでのパウロのクラリネット独奏なんですけど、たったひとりでここまで深い表現をみせるその吹奏ぶりに心から降参。こんなの聴いたことないです。まったく過不足ない独奏ぶりで、ショーロ・クラリネット現在最高峰の境地と言ってもさしつかえないでしょうね。

 

(written 2021.11.10)

2021/11/03

バンドネオンがノスタルジーをくすぐるトリオ・ショーロ 〜 ヤマンドゥ・コスタら

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(3 min read)

 

Yamandu Costa, Martin Sued, Luis Guerreiro / Caminantes
https://open.spotify.com/album/2LWPcI3k9L4LOA4jZUQ7Fx?si=-tUQbD4HTlip1XDjq3HgWw

 

ブラジルの七弦ギターリスト、ヤマンドゥ・コスタ。いまはポルトガルのリスボンに住んでいるんでしたっけ?コロナ禍でかえって活動が活発化しているなかのひとりで、こないだ今年二作目のアルバムがリリースされ、いつものんびりのぼくなんか、あせっちゃいます。

 

その10月末リリースだった今年二作目はベーシスト、グート・ヴィルチとのデュオでやるカヴァー集。2014年にもありましたね。今回もラテン名曲など、たいへんに充実していて感心しました。が、やはり順番どおりに、六月に出ていた一作目のほうから書いておくことにします。

 

その『Caminantes』(2021)は、ヤマンドゥ(ギター)+マルティン・スエー(バンドネオン、アルゼンチン)+ルイス・ゲレイロ(ギターラ、ポルトガル)というトリオ編成。ちょっと聴きなれない三重奏ですよね。演奏は基本的にショーロが土台になっているかなと思います。リスボン録音だったそう。

 

こうしたホーム・セッションも、コロナ時代だからこそちゃちゃっとできちゃうっていう面があって、だからアルバム・リリース・ラッシュになっているんでしょうね。それで、『Caminantes』ではヤマンドゥのギターのうまさもさることながら、マルティンのバンドネオンのサウンドが目立ちます。

 

これは楽器特性ということもあるのでしょう。電気増幅しないかぎり音量の小さいギターに比べたら、バンドネオンは空気でリードを振動させる仕組みだから、そのものが持っている音量が大きいですよね。ましてやこのアルバムではもう一名がギターラなので、いっそうバンドネオンが目立つということになると思います。

 

そのマルティンのバンドネオン、アルゼンチン人奏者ということでこの楽器だと、どうしてもタンゴを連想しますが、アルバムにはたしかにタンゴ調の曲や演奏もあるものの、ヤマンドゥの音楽性にあわせた淡々とした典雅なショーロ・スタイルをとっているのが好感触。ちょっとアコーディオンっぽい印象もありますね。

 

音楽的な主役も、やはりバンドネオンかなあという気が、ぼくはしています。ちょっとノスタルジックで、独特の情緒をくすぐるこの楽器の音色こそが、ふだんのヤマンドゥのショーロ・ミュージックにはない色彩感を与えていて、聴いているだけで快感ですね。

 

ショーロも古くからある音楽ですが、ここではバンドネオンが参加することによって、20世紀初頭っぽいラテン・アメリカン/ヨーロピアンな郷愁をくすぐる独特のフィーリングをかもしだすことに成功していて、クラシカルで優雅で、洗練されていながら野性味も失っていないこの音楽は、その時代その地域のことをなにも知らないぼくだってタイム・スリップしたような気持ちよさを味わえます。

 

(written 2021.11.2)

2021/01/21

ファビオ・ペロンの2015年作、けっこう楽しい

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(4 min read)

 

Fábio Peron / Fábio Peron e a Confraria do Som

https://open.spotify.com/album/3Z7XuPFsCr4qpYTRatgkZW?si=6bRjfIb0SEG749hecVLVZA

 

ブラジルのバンドリン奏者ファビオ・ペロン。以前、2016年の『Affinidades』について記事にしたことがありますが、その前作、2015年の『Fábio Peron e a Confraria do Som』のことがけっこう好きなんですよね。だれひとり話題にしていないというか、言及していてもイマイチな作品っていう見方ですけれども、なかなかどうして、楽しいアルバムだと感じています。

 

ショーロなのかジャズなのかよくわからない、ショーロ・バンドリン奏者にしてこの2015年作ではけっこうジャジーなアプローチも聴かせているということと、曲ごとにメンバーを替えて多彩なゲスト・ミュージシャンを招きすぎているというのと、この二つで印象がぼやけてしまうというのが、そういったイマイチ評価の原因じゃないかと思うんですが、ぼくに言わせたらその二点こそこのアルバムの楽しさです。

 

特に多彩なゲストをどんどん参加させているというところ。個人的にはこういった、なんというかごちゃごちゃのおもちゃ箱をひっくりかえしたようなアルバムがむかしから大好きで、ずっと前にLP二枚組偏愛主義ということを書きましたが、つまりそういうことなんです。ビートルズの『ワイト・アルバム』、ローリング・ストーンズの『エクサイル・オン・メイン・ストリート』、レッド・ツェッペリン『フィジカル・グラフィティ』、プリンス『サイン・オ・ザ・タイムズ』などなど、どれも雑多なごった煮状態で焦点が定まりませんが、そういうのが好きなんだからしょうがないです。

 

あっちこっちとひっくり返しながら聴ける、そのたびに違ったおもしろさがあるという、そんな楽しみかたができるなって思うんですね。ファビオ・ペロンのこの2015年作も収録時間一時間越えという長さ、レコードだったら二枚組ですよね。この曲はピアニスト、ここではフルート奏者、こっちではクラリネット、あそこでは7弦ギターリスト、はたまたエレベがフィーチャーされたり、あるいはドラムスが入ってジャズ・コンボみたいになったりと、楽しさ満載で飽きさせません。

 

ジャジーな演奏スタイルだってけっこう聴けますし、一曲だけミナスふうなヴォーカルが入るMPBっぽいものがあったりして。それでもぼくはやっぱりしっとりとメロディーを歌わせるショーロな演奏が好きですね。フルートとのデュオ中心でやる2曲目、ギターリストとのデュオの6曲目なんかもバンドリンの響き、フレーズの泣きが絶妙です。

 

クラリネット奏者とのデュオの8曲目(ファビオは7弦ギターを弾く)もいいし、ヴァイオリンとギターとのトリオでユーモラス&コケッティシュにやる10曲目も楽しい。ラスト14曲目は、全 3:34 のうち2分過ぎごろからドラムスをふくむバンドが入って猛然とスウィングしはじめますが、そこまでのバンドリン独奏パートがほんとうに美しくって、聴き惚れますよね。

 

(written 2020.10.4)

2021/01/02

アキレス・モラエスとジョアン・カマレーロのデュオ・ライヴ

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(3 min read)

 

Aquiles Moraes e João Camarero / Programa Instrumental Sesc Brasil

https://www.youtube.com/watch?v=GS9DKFhdfIY&feature=emb_title

 

ブラジル音楽好き Rori さんのこのツイートで知りました。
https://twitter.com/quebon_1377/status/1336305521167540225

 

2020年12月7日にYouTubeで公開されたアキレス・モラエス(トランペット、フリューゲルホーン)とジョアン・カマレーロ(ギター)のデュオ・ライヴ動画。もちろんショーロですけど、これ、なかなか楽しいしステキなんですよね。たぶんこういうのはいまのCOVID-19情勢下、各国で次々と生産されネットで配信されていることでしょう。

 

といってもこのデュオ・ライヴでは一曲終わるごとに拍手が聴こえますので、現場に観客を入れて収録したんでしょうね。でも基本はコロナ禍でなかなかライヴ・ミュージックの実現がむずかしいなか、音楽ファンのため、そして音楽家本人たちにとっての、機会を提供しようという制作側の意図によって実現したものだと思います。

 

ギターとトランペットのデュオ・ショーロというものはぼくはこれまで聴いたことがなかったかもしれません。それが大好きなアキレス・モラエスとジョアン・カマレーロの二名だっていうんですから、文句なしでしょう。途中ジョアンとアキレスのごく短い紹介クリップをそれぞれはさみながら、トータル約53分間、演奏されるのは14曲。なかに一曲だけジョアンのソロ・ギター・ピースもあります。

 

曲目はそれぞれ演奏開始時に動画の左上にも出ますけどそれは一瞬なので。動画説明文下部にしっかりぜんぶ書かれてあります。ジョアンとアキレスの自作曲が多いみたいですし、そのなかにラダメス・ニャターリ、パウロ・モウラ、ドミンギーニョスなどのクラシックスもまじっていますよね。

 

トランペットなど管楽器の演奏についてはなにもわからないぼくで(いや、ほかのどんな楽器だってわかりませんが)、演奏シーンがアップになったところでオッと思う部分はあまりないのでは。やはりジョアンのギターですよね、右手や左手が大写しになっているショットも多いため、なかなか楽しめるんじゃないでしょうか。

 

押弦する左手の動きもなめらかですが、今回発見したのは右手で弦をはじく様子です。ジョアンは伸ばした爪で弦をはじいているんですよね。どうりでいままでCDやサブスクで聴いてきた、あのアタックのとても強い鋭いサウンドが実現するわけです。ジョアンひとりが写っている時間がかなりあるので、みなさん確認してみてください。

 

二人の息もピッタリ、細かいフレイジングでのユニゾン合奏なども折々に混ぜ込まれ、それも寸分の狂いもなくピタッと合っていますから、事前にリハーサルをしっかり積んだのでしょうねえ。全体的にとてもこなれた演奏ぶりで、ショーロの粋やリラクシングな雰囲気が横溢、聴いていてとてもくつろげる、いいライヴですね。

 

(written 2020.12.12)

2020/06/29

もしもギターが弾けたなら(その2)〜 ジョアン・カマレーロ

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(4 min read)

 

João Camarero / Vento Brando

https://open.spotify.com/album/2cdUpZDv2oaZOecRilf45A?si=w4bi13UhTBig_0_5wuj-Ow

 

どうして男性ショーロ・ミュージシャンってみんな(でもないけど)ヒゲを生やしたがるのでしょう?アキレス・モラエス(トランペット)なんかすごいんですよ、と、体毛が生えない体質のぼくなんかはうらやましく感じたりもしますが、音楽になんの関係もないどうでもいい話ですたゴメンニャサイ。

 

ブラジルの七弦ショーロ・ギターリスト、ジョアン・カマレーロの新作『Vento Brando』(2019)が今日の話題です。聴いた感じ、クラシックのソロ・ギター作品と区別つかないなあと思うんですけど、たしかにこのジョアンのソロ・アルバムにもシリアスな雰囲気が漂っています。ギター一本でのソロ作品となれば、どんなジャンルのひとがやってもクラシックに接近するのかなという気もしますね。

 

ジョアンのギターはいままでもちょこちょこと聴いてきたんですけど、どれもバンドのなかの一員として弾いているものばかりで、ソロとして全面的にフィーチャーされているのは『Vento Brando』ではじめて知りました。最大の印象は音のアタックがとても強いなということです。そのおかげで輪郭が鮮明でシャープなサウンドに聴こえます。

 

しかも速弾きっていうか、難度の高い細かいフレーズを弾きこなす技巧もあざやかで、さらにどの演奏にもなんらの揺らぎも破綻もありません。細速フレーズの弾きこなしがあまりにもなめらかでスムースであるがゆえ、聴き手の耳にひっかからず流れていってしまうかも?という印象すらあって、流麗のひとことですよね。技巧の粋を極めたナイロン弦ギター独奏と言えるでしょう。

 

高速パッセージでもゆったりしたフレージングでも、音のすみずみにまで配慮が行き届いているのがよくわかりますし、どの音にも意味がありますよね。その音の意味をよりよく聴き手に届けるためなのか、演奏の緩急というかメリハリにも気を遣っているのも聴けばわかります。メロディやフレイジングの美しさがおかげでわかりやすくなっているんじゃないでしょうか。

 

アルバムの曲のなかでは、個人的に、たとえば5曲目の「エニグマ」。ちょっとエキゾティックというかスペインふうなメロディとリズムを持った曲で、これなんかにも強く惹かれます。どんな音楽でもぼくがアンダルシア香味に弱いのはマイルズ・デイヴィス体験のせいなんでしょうか。ジョアンのこの演奏は、ロック・ギター界で言うところのトゥワンギーな感じがして、たいへんに好みですね。

 

続く6「パウリスターノ」、7「ヴェント・ブランド」と本当に聴き惚れる演奏が続きますが、静かで落ち着いた雰囲気のなかにパッションをも表現しているのが好きですね。そんなところは、続く8、9曲目でさらにわかると思います。この二曲にはジョアン・カマレーロの師匠ジョアン・リラがゲスト参加、9曲目にはカヴァキーニョ奏者も加わっています。

 

リラとのデュオ演奏である8「マカラス」にはカリブ音楽ふうなリズム・ニュアンスもあって楽しくてニンマリしますし、最後は情熱的にもりあがるところもグッド。この二人にカヴァキーニョが追加された9「カンドラジーニョ」はポップなキュート・ショーロで、全体がクラシカルな感じに寄ったこのアルバムのなかではいちばん親近感があって聴きやすいかも。明るく楽しい雰囲気で実にいいですね。


(written 2020.5.4)

2020/06/25

なんてかわいい古典ショーロ 〜 オス・マトゥトス

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(4 min read)

 

Os Matutos / De Volta Pra Casa

https://open.spotify.com/album/4oNIR1hnxTo6GtGvI11TFO?si=b2Ixuu2qS_-XNxQKH4g7CQ

 

bunboni さんに教えてもらいました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-04-05

 

1曲目、ホーンズがからみはじめ、しばらくして弦楽器も入ってきた瞬間にとってもいい気分。それはまさしくかわいい古典ショーロの趣だからですけど、こんなショーロ・アルバムって、あるようでいまやなかなかないと思うんですよね。オス・マトゥトス(Os Matutos)の2019年作『De Volta Pra Casa』のことなんですが、もうすっかり大の好物になって愛聴しています。

 

このアルバムでは出だしいきなりやわらかくふくらんだ低音管楽器が聴こえますが、それがほかならぬオフィクレイドなんですね。吹くひともいなくなったこの古典的管楽器を現代に再興したのはエヴェルソン・モラエス。オス・マトゥトスのメンバーですが、エヴェルソンとオフィクレイドといえば2016年の大傑作だったイリニウ・ジ・アルメイダ集が思い出されます。あのときいっしょだったトランペットのアキレス・モラエスもオス・マトゥトスのメンバーなんですね。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2016/09/100-a16f.html
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2017/10/2-ccb1.html

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このイリニウ曲集をやっていた管楽器編成に+トリオ・ジューリオのメンバーも参加しているということで、由緒正しき庶民派エンタメ古典ショーロをやるにはいまのブラジルでもこれ以上のメンツはないといったひとたちで結成されたバンドみたいなんです。うれしいかぎりですね。しかも今回ぜんぶメンバーの書き下ろし新曲とのこと。

 

アルバムを聴くかぎり、イリニウ曲集などで味わう100年前の古典ショーロ楽曲との差はなにもなく、まるでモラエス兄弟らみんなはこっそりと知られざる楽譜を発掘してきたのではないか?と思えるほどオールド・ファッションド。いや、オールド・ファッションドというもおろか、こういったショーロの古典的な曲は不変の美を持っていますから、いつの時代でも、現代でも、同じように輝けるエンターテイメントということなんでしょう。

 

とにかく聴けばその可愛らしいキュートなメロディに魅了されること間違いなしの曲が並んでいて、アレンジや演奏は微細な部分まで綿密な注意が払われていますけど、聴いた感じナチュラル&スムースに響くというのが彼らの熟達のあかしでしょうね。小難しいことをなにも考えず、ただただその娯楽にひたっていればいい音楽で、なんてかわいいんだと聴き惚れているうちにアルバムは終わってしまいます。

 

(written 2020.4.30)

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